ロアナプラにてドレスコードを決めましょう   作:華原

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61 小さな蕾 Ⅲ

「――え、今日行くの? 急だね」

 

「できるだけ早めに、と思ってね。丁度依頼もないし」

 

「僕も着いて行っていい?」

 

「もちろん。……と言いたいところだけど、ルカは留守番」

 

「ええ、なんで?」

 

「相手と色々話したいこともあるから、いい子で待ってて」

 

「僕も行きたい」

 

「ダメ」

 

ルカが作ってくれた朝食を食べ終え皿の片づけをしている中今日の予定を伝える。

着いていけるものだと思っていたのか、一言「ダメ」と言えば不満げな顔を見せた。

少し外に出ていくだけなのだが、何故か着いていきたいらしい。

 

 

――だが、ルカには何としても留守番をしてもらわねばならない。

 

 

その理由を彼には伝えることはできないので、何とか納得してもらうしかない。

 

「帰りに何か買ってくるから、それで許して」

 

「でも」

 

「ルカ、お願い」

 

「……分かったよ」

 

言葉を遮りそう伝えると、ルカは渋々ながらも頷いてくれた。

不貞腐れた顔に思わず苦笑する。

 

「じゃあ先生が出かけてる間、刺繍やってていい?」

 

「いいよ。道具はわかるよね?」

 

「うん!」

 

本当は怪我しないよう見守っていたいのだが、少しは慣れてきたし大丈夫だろう。

今までは私がいる時のみ道具を持つことを許していないからか、一人で刺繍できるのが嬉しいようだ。

 

先ほどとは打って変わって笑みを浮かべているルカに釣られほんの少し口端が上がった。

 

 

 

――瞬間、作業部屋から携帯の着信音が響く。

 

 

 

ルカに「あとはよろしくね」と残りの後片付けを任せ、音の方へと向かう。

 

すぐさま携帯を手に取り、いつも通りの言葉を出す。

 

 

「はい、キキョウです……珍しいですね、貴方がこんな時間にかけてくるなんて」

 

 

電話から聞こえてきた声に一瞬驚きながら、そのまま相手の話に耳を傾ける。

片付けが終わったのか、ルカが作業場の入り口からこちらを見ていた。

 

 

ルカの視線を気にしつつ、電話の向こうへ話しかける。

 

 

 

「――わかりました。では今夜そちらに……はい、また後程」

 

 

 

最後に一言告げ、相手が通話を切ったのを確認し携帯を作業台に置く。

電話が終わったのを見計らい、とたとたと駆け寄ってきたルカへ言葉を投げる。

 

「ルカ、急で悪いんだけど夜も用事ができた。だから明日の朝まで留守番お願いできる?」

 

「え……また急だね」

 

「ごめんね。でもあの人の呼び出しに応じないわけにはいかないの」

 

「明日じゃダメなの?」

 

「相手は忙しいから難しいと思う」

 

「……」

 

「そんな顔しないで。明日の朝にはちゃんと帰ってくるから」

 

「…………」

 

「ルカ、留守番お願いできる?」

 

不貞腐れてしまったルカへ苦笑しながら言葉をかける。

あの人から「話したいことがある」と呼び出されたのであればこちらとしては応じるしかない。

 

 

少し心苦しいが、ここはルカに我慢してもらうしかない。

 

 

 

「……分かったよ」

 

「ありがとう」

 

渋々ではあるが、了承してくれたことに安堵しながらルカの頭を撫でる。

私の手を跳ねのけるわけでもなく、ただ受け入れるルカに少し口角が上がったのを感じた。

 

「あ、そうだ。念のため言っておくけど、クローゼットの奥にある箱には触らないでね」

 

外へ行く準備をしている中、いそいそと刺繍道具を出しているルカへ声をかける。

私の言葉に手を止めて不思議そうな顔を浮かべた。

 

「なんで?」

 

「大事なものが入ってるから。開けたら許さないからね」

 

「……分かった」

 

「いい子」

 

まっすぐ目を見てそう告げると、少しの間を空けて頷いた。

再び彼の頭を撫で、玄関の方へ向かう。

 

「じゃあルカ、お留守番よろしくね」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

短く言葉を交わし、軽く手を振って家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キキョウが家を出てから数時間、ルカは一人黙々と刺繍を続けていた。

半ば強引に押しかけ、仮の弟子として生活し始めてから初の留守番である。

 

彼はこれまでの短い人生で一人で過ごすことに慣れているが、この一か月ずっとキキョウが傍にいたおかげか、しん、と静まっている空間に心が落ち着かないでいた。

 

その証拠に、刺繍をする手は何度も止まり、一人で食べる昼食がいつもより味気ないと感じている。

 

 

死なないため必死に金を稼ぎ、大人に媚びながらの生活を送っていた子供に、この家での生活――キキョウと過ごした時間がルカにそれほどの影響を及ぼしていたのだ。

 

 

心なしか寂しげな表情が浮かべ、ただひたすら無言で刺繍を続ける中、夜ごはん何食べようかな、と考え事をしながら針を進めると指先に痛みを感じ顔を歪める。

 

 

「いった」

 

 

痛みを感じた指を見れば、ぷっくりと血が出ている。すぐさま指を口に含み、布に針を刺した状態で台の上に置く。

 

 

指を咥えたままキキョウの自室に救急箱があることを思い出し足を動かす。

 

 

ベッドの横にある棚にしまわれていた救急箱を取り出すと、ふとキキョウの言葉が脳裏によぎる。

 

 

 

 

『クローゼットの奥にある箱には触らないでね』

 

 

 

 

 

指に絆創膏を貼りながら、ちらとクローゼットの方へ何度か視線を向ける。

絆創膏を貼り終え、救急箱を戻した後もルカはクローゼットの箱に何が入っているのか気になってしまい、中々作業場へ戻ることができない。

 

 

 

好奇心のままに箱を見てしまおうか。

 

 

 

だがキキョウの言いつけを破れば弟子にしてもらえないかもしれない。

 

 

 

――そうしてしばらく立ち止まったまま考えた後、ついに足を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――早かったな。もう少しかかると思ったが」

 

「ご迷惑でしたか?」

 

「いいや? 寧ろお前と二人で入れる時間が長くなったのは好都合だ」

 

「相変わらず冗談がお好きですね」

 

「冗談じゃねえさ」

 

日が沈みかけ、ネオンの光が街を包み始める頃。

高層ビルの最上階から街を見下ろし、酒の入ったグラスを揺らしながらソファに腰かけている彼から軽い冗談を飛ばされる。

 

いつも通りのことだと流しつつ、彼の傍へと歩みを進めた。

彼は口端を上げ、隣に座れと言わんばかりにサングラスを外し露になっている目をこちらへ向けてくる。

 

 

 

促されるまま、「失礼します」と断りを入れ隣に座る。

 

 

 

「張さん、それでお話というのは?」

 

「そう急ぐなよ。こうして顔を合わすのは一か月振りなんだ。まずは一杯飲んでからゆっくり話そう」

 

「でも、お忙しいのでは?」

 

「お前と飲むためなら何が何でも時間を作るさ」

 

 

 

 

張さんは空いたグラスに酒を注ぎ、目の前に差し出してきた。

これは彼から切り出すまで話せなさそうだと潔く諦め、グラスを受け取る。

 

 

そのまま「乾杯」とお互いのグラスをぶつけ、酒に口をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そういや、最近ちょっとした噂を聞いてな」

 

乾杯してからやがてお互いのグラスが空こうかという時、張さんが徐に口を開く。

 

途端、表情は一つも変えていないはずなのに、心なしか彼の声音にほんの少し固さが帯びたのを感じた。

 

 

張さんはグラスを揺らし、カラカラと氷がぶつかる音を奏でながら話を続ける。

 

「なんでも、“どっかの誰かさん”がガキを一人家に住まわせてるらしい」

 

「……」

 

「噂じゃ、弟子を取ったとかなんとか」

 

「……」

 

「だがその“誰かさん”からパトロンである男は何一つ知らされてない。――おかしな話だ。弟子をとったのならパトロン様に挨拶に行く、それが礼儀だというのに」

 

 

そこで言葉を区切り、張さんはグラスをテーブルへ置くと、すぐさまこちらへ隙間がないほどすぐ隣へと寄ってきた。そのまま私の後ろへ手をまわし、肩を抱かれる。

 

 

肩に置かれている無骨な手の力が強まっているのを感じながら、すぐそばにある彼の顔を見やる。

 

 

 

「なあ洋裁屋キキョウ――お前はこうやって呼び出さなきゃパトロンである俺に話もできねえのか?」

 

 

 

 

逃がさないと言わんばかりに視線を真っすぐ向けられる。

張さんの言葉に一瞬目を見開き、一つ間を空けた後口を開く。

 

 

 

「――まず、貴方から時間を割いていただいてしまったことをお詫びします。申し訳ありません」

 

「……」

 

「仰る通り、今私は子供を一人家に住まわせています。ですがその子はまだ弟子ではありません。正式な弟子となってから貴方にご挨拶に伺おうと思っていました」

 

「まだ?」

 

「ええ。本当は取るつもりはなかったんですが、押しに負けてしまい……今はお試しで住まわせてるだけです」

 

「相変わらず子供に甘い。相手が子供とはいえあまりにも不用心じゃないか?」

 

「……何回か顔を合わせた上で住まわせてます。それに何かあったとしても全部私の責任なので」

 

「ほう、お前がガキの責任を負うと? 自分の身も守れない、ガキ一人殺せないお前が」

 

 

 

口端を下げることなく、嘲るような口調で言い放たれた。

どこか重苦しい空気に気圧されまいと、彼の瞳を見据え言葉を続ける。

 

 

 

 

「例えばですが、弟子にした後万が一にでも貴方の不利益になることをあの子がしでかしたその時は、私が殺します。……ほかの誰でもない、私の手で」

 

 

 

 

自身の不利益な存在を彼が許すわけもない。その時は師である私があの子の命を彼に捧げる。それがマフィアである彼も納得できる責任の取り方だろう。

 

 

 

 

 

……だが、これはあくまでもどうしようもない、最悪の場合にとる行動だ。そうならないよう面倒を見るのが師の役割でもあることは分かっているので、まずはその役目を全うすることに力を入れなければ。

 

 

 

まあ、まだ弟子にするかは決まっていないが。

 

 

 

 

私の言葉に口端を下げ「ふむ」と考えるような仕草を見せ、やがて徐に再び口を開く。

 

 

 

「そこまで言うなら好きにしろ。お前の強い悪運に賭けてみるのも悪くない」

 

 

さっきまでとは違い、声音に固さがなくなったのを感じ内心安堵する。

 

 

「一つ忠告しとくが、ガキは想像以上に狡猾だ。この街で育ったなら尚更。帰ったら物の一つや二つなくなってるかもな」

 

「その時はしょうがないので追い出します。盗られた物は今まで退屈しなかったお礼としてあげますよ。ただ、今後は二度と弟子をとるような真似はしないでしょうね」

 

「盗ってなかったら?」

 

「信用に値すると判断し正式な弟子に迎えます。その時はちゃんとご挨拶に伺います」

 

「期待せずに待ってるさ。――まあ俺としちゃ」

 

 

 

そこで言葉を区切ると肩を抱いていた手がゆっくりと離れ、代わりに指先が私の頬に触れる。

 

 

 

「弟子を取らないでいてくれた方がありがたいがな」

 

「……理由を聞いても?」

 

指先で頬を撫でられ、少しこそばゆく感じながらもいつも通り受け入れる。

目を逸らした後、一つ間を空けて問いかけてみる。

 

「弟子をとっちまったら、お前とこうして過ごす時間が減っちまうかもしれないだろ」

 

「それはまあ、なくはないかと……今まで通り好きな時に家を空けれないでしょうし」

 

「そいつは困った。お前に誘いを断られた時にはショックで寝込んじまうかもしれん」

 

「…………」

 

「そんな顔するなよ。さすがの俺も傷つく」

 

冗談でも絶対にありえないことを言われてしまい、呆れて言葉が出なかった。

その呆れが無意識に表情に出ていたのだろう。

張さんはその言葉とは裏腹に全く傷ついたようなそぶり一つも見せていない。

 

 

 

ふと、頬を撫でていた指が止まる。そのまま顎に手を添えられ、顔を上げさせられた。

 

 

おかげで彼の黒い瞳と再び視線が交差する。

 

 

 

 

 

――そしてすぐさま顔が近づき、唇に柔らかい感触が落ちる。

 

 

 

 

唐突なことで目を見開いたが、すぐに唇が離れる。

 

 

咄嗟に唇を手で覆い、思い切り顔を逸らし距離を取ろうと動く。

だが、許さないと言わんばかりに武骨な手が再び私の肩をつかみ、さっきよりも更に体が密着する。

 

「あの……張、さん」

 

「お前はこういう時堪らなく可愛い反応を見せる。――そんなお前を拝めるのは俺だけの特権だ。その権利を使える機会が減るのはちと我慢ならん」

 

「え……?」

 

そう言うと、彼は空いた手を私の右手に伸ばしてきた。

 

 

やがて手の上に被せてきたかと思うと、一つ一つの指をゆっくりと絡められていく。

 

 

「不器用なお前のことだ。俺よりも弟子のことを優先することが多くなるだろう」

 

「……」

 

「これ以上、お前を我慢するのは俺にとって拷問に近い」

 

逃がさないと言わんばかりに、重なっている武骨な手にほんの少し力が入った。

 

啊、我可爱的花(なあ、俺の可愛い花)。お前の棘に……蜜に触れる機会を、俺から奪ってくれるなよ」

 

彼の言葉の真意がわからない。

さっきの口ぶりから察するに「ちゃんと呼び出しに応じろ」ということだろうか。

 

首を傾げながらも、言葉を返そうと口を開く。

 

「よく分からないですが、できるだけ貴方の呼び出しを優先しますよ。例え弟子を取ったとしても、そこを疎かにするつもりはありません」

 

「ならいい」

 

一言告げると張さんはなぜか上機嫌な声音を出した。

一体どうしたのか分からないが、彼が満足げに頬を上げているので「まあいいか」と

考えるのをやめた。

 

 

あの後張さんと朝まで二人で過ごし、ルカを一人待たせているのもあり、まだ眠そうな彼に挨拶を告げ先ほど早々にビルを出た。

朝日で照らされている道をまっすぐ歩き、帰路に就く。

 

 

職場でもある我が家のドアを開け、あの子を起こさないよう静かに部屋へと入る。

 

 

 

『――帰ったら物の一つや二つなくなってるかもな』

 

 

 

彼から言われた言葉が脳裏によぎり、足を止め作業場を見渡す。

見慣れた部屋に違和感はなく、物一つ動いてる訳でもない。

 

やがて自室へ向かえば、ルカが寝息を立てている様が目に入る。

安らかなその寝顔を一瞥した後、ゆっくりとクローゼットの方へと向かう。

戸を開け、箱を手に取り中を確認する。

 

 

 

錆びた裁ちばさみと師からもらったハンカチ。そして張さんからもらった小銃もそこにあり、触られた形跡もない。

 

 

出かける前に伝えた「箱には触らない」という言いつけをちゃんと守ったようだ。

 

 

 

「……ん……せんせえ……? 帰ってたんだ」

 

「あ、ごめんね起こして。まだ寝てていいよ」

 

「ううん……起きる」

 

 

ルカは眠そうな声音を出し起き上がり、大きな欠伸をしながら背伸びする。

目を擦り、いつものように寝具を片すとそのまま顔を洗いに行った。

 

洗面所から響く水音を聞きながら、ベッドに腰かけ彼が戻ってくるのを待つ。

しばらくすると水音が止み、こちらに足音が近づいてくる。

 

「おはようルカ、昨日は留守番ありがと。何もなかった?」

 

「うん。ちょっと指に針刺しちゃったくらい」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫」

 

まだ少し眠そうな顔でそう答えるルカに、僅かに口端が上がる。

 

 

一つ間を空け、気を取り直し彼の顔を見据えた。

 

 

「ルカ、私がいない間この箱に触った?」

 

「え、触ってないよ」

 

「本当に?」

 

「う、うん……」

 

ルカは唐突の質問に戸惑ったような表情を浮かべた。

真っすぐ目を見つめたまま、その戸惑いに構うことなく言葉を続ける。

 

「嘘ついてない?」

 

「先生、急にどうし」

 

「答えなさい、ルカ」

 

「……ついてないよ」

 

真剣な表情と声音で問いかければ、一つ間を空けて真っすぐ答えが返ってきた。

こういう時、後ろめたいことがある場合は目が揺らぐ。

 

 

だが、ルカの瞳は揺らぐどころかこちらを見据えたまま。

 

 

 

 

――もし私の言いつけを破っていれば、何が何でも追い出すつもりだった。

 

 

 

 

物を盗んでいなくても、私との約束を破る人間を傍に置くことはできない。

 

ルカを本当の弟子に迎えるに値するか見極めるため。

そして、私も覚悟を決めるため出かける前に「箱に触らない」という約束をさせた。

 

 

 

本当のところはわからない。

 

 

 

だが、子供ながらに真っすぐ目を向けてくる姿は、とてもじゃないが嘘をついてるようには見えなかった。

 

 

 

「――ルカ、大事な話がある。こっちにおいで」

 

「え」

 

「近くで話したいの。おいで」

 

私の呼びかけに再び戸惑いながらも、ゆっくりと近づいてくる。

 

箱をベッドの上に置き、彼の茶色の瞳を見据え口を開く。

 

「ルカ、私は後悔するなら死んだ方がマシだと思ってる。君を弟子に取ったとしても、それは変わらない」

 

「……」

 

「私のパトロン……後ろ盾はマフィア。だからこそ、いつ死んでもおかしくない。もしかしたら君まで巻き込まれることがあるかもしれない」

 

「……」

 

「きっと私は、何があっても君のことより自分のことを優先する。自分が後悔すると思えば君を残して先に死ぬ。そして逆に、君が私やパトロンに不利益なことをしたら私が君を殺す」

 

「…………」

 

「そんな人間の弟子になるのは、きっと“よくないこと”」

 

「…………」

 

「弟子になったら――いつ取り残されても、何かに巻き込まれても……私に殺されようと文句は言えない」

 

一つ息を吐き、徐に両手を伸ばす。

 

 

彼の小さな手を包み、問いかける。

 

 

 

「それでもいいの?」

 

 

 

ここまで言っても私の弟子になりたいなら、もう何も言うまい。

 

 

 

私の問いかけに、ルカはしばらく間を空けた後真剣な顔で話し始めた。

 

 

 

「僕の家族や友達の何人かはとっくに死んだ。中には三合会とホテル・モスクワの抗争に巻き込まれて死んだのもいる」

 

「…………その三合会の人が、私のパトロンなんだよ」

 

「知ってるよ。知ってて先生のところに来たんだよ」

 

 

 

ルカの言葉に思わず目を見開く。

 

 

 

「僕、取り残されるのも巻き込まれるのも慣れてるんだ。もし先生が先に死んでも、一人で生きていける。巻き込まれても、殺されても別にいつものことだって割り切れる自信あるよ」

 

 

淡々と告げるその様に、ほんの少し胸が締め付けられるのを感じた。

 

 

 

 

 

「だから、さ。今更だよ、先生」

 

 

 

 

 

困ったような笑みを浮かべ、言い放った。

 

 

再び目を見開き、一呼吸間を空けた後ぎゅ、と彼の両手を強く握る。

 

 

「そっか」

 

 

息を吐くように呟き、ほんの少し笑みを浮かべる。

 

 

 

「じゃあ、改めてよろしくね。ルカ」

 

「こちらこそ、キキョウ先生」

 

 

 

私がそういうと、今度は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

――これが、私が最初で最後に弟子を取る瞬間だった。

 





要約すると「弟子ばかり構うのは寂しい。だけどそれはしょうがないからせめて誘いは断らないでほしい」。
彪に報告受けてから「連絡来るかも」とちょっと期待してたのに結局来なくて、こっちから連絡してやっと会えたと思ったら「責任もって殺す」っていうキキョウにしては珍しく割と思い入れがあるのだと知り、ちょっとイラついた大哥でした。

こういうちょっとした(?)独占欲があってもいいと思うのです。



さて、次からロベルタ再来編に入ります。
ここでロックとキキョウの関係をどうにかしたいなあ……と考えております。(考えてるだけ)
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