ロアナプラにてドレスコードを決めましょう   作:華原

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お待たせしました。久々の投稿です。


64 盤上に集いし駒

──ルカが小さなメイドさんを道案内した翌日。

時計が午前九時を指し示す時間。とっくに朝食を済ませスローピー・スウィングへのプレゼントを用意するため、道具の手入れをしている。

 

ルカはというと、娼婦たちが希望する服を自分で選び持ってくるよう“課題”を与えたため、今は収納部屋にいる。

 

服の種類も少しずつ教えているため、覚えの早いルカにとってこの課題は特段難しいものではない。

それに、どこまでできるのか時折確認したほうがいいだろうと考え、昨日に引き続き一人でこなすべきことを与えてみた。

 

まあ、できなくてもまた教えればいいだけの話。

 

──そうしてルカの帰りを待つこと二十分。そろそろ帰ってきてもいい頃だがまだドアは開かない。

 

恐らく服選びに困っているのだろう。

あと十分戻ってこなければ迎えに行こうか。

 

時計を見ながら考えていると、途端作業台の上で携帯が振動する。

着信音が流れる中、すぐさま手に取り「はい、キキョウです」と口を開く。

 

 

『ガキにはきちんと説教したか? お師匠さん』

 

 

聞こえてきたその一言と声で、相手が誰なのか考えることなく理解する。

 

 

「ええ、ちゃんと話をしましたよ」

 

『そりゃよかった。流石のお前もメイドには警戒してるようだな』

 

「目の前であんなに暴れられたら嫌でもしますよ。……それで、どうされましたか張さん」

 

ちょっとした世間話が終わったところで、我がパトロンへ本題を聞き出す。

息を吐き出した音が聞こえた後、一つの間を空け彼が話を切り出した。

 

『お前の耳に入れておくべきだと思ってな。例のメイド絡みの件だ』

 

「……昨日お話した通り、私とルカにそこまで深い関わりは」

 

『おチビちゃんの方じゃない。今度は“猟犬”の話だ』

 

 

猟犬。

 

 

それは前にこの街へ来た、私が道案内しイエロー・フラッグを全焼させたあのメイドさんの呼び名。

以前の彼女の容姿や暴れっぷりなどは張さんに既に話しており、今回も何も知らないので私にはもう関係ない。

……はずなのだが、張さんがわざわざ電話をかけてくるということは何かしらの事情があるのだろう。

 

 

一呼吸間を空け、煙草を吸っているであろう彼へ素直に疑問をぶつける。

 

 

「彼女が何か?」

 

『どうも猟犬がお前に興味を持ってるみたいでな。詳しい経緯は省くが、バオがメイドにお前の話をしたようだ』

 

「え……」

 

『バオの話だと“洋裁屋は今もこの街にいるのか”、それを聞かれただけだと。──キキョウ、ここ数日で何か妙な依頼はないか?』

 

なぜメイドさんが私のことをバオさんに聞いたのか。

というか本当にまたこの街へ来ていたとは。

 

色々思うことはあるが、彼の問いを無視するわけにはいかない。

嘘偽りない回答をしようと言葉を返す。

 

「今私がこなすべき依頼はスローピー・スウィングのものだけです。それはバオさんを介して受けたものなのでメイドさんとは関係ないです。蛇足かもしれませんが、ここ一週間来客もありません」

 

『そうか、ならいい』

 

彼も私から情報が出てくるとは思ってなかったようで、私の言葉に素直に納得してくれた。

しつこく聞かれるかもしれないと懸念していたが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 

「もしメイドさんから依頼されたらすぐ報告します」

 

『そうしてくれ。ああ、それともう一つ』

 

思い出したような声と言葉を発した後、再び煙を吐く音が聞こえる。

 

『ラグーン……ロックがメイドの件でそっちに向かうかもしれん。その時はアイツにも話してやってくれ』

 

「え……?」

 

『メイドのご主人様がメイド探しの助っ人にロックをご指名された。今頃、バオから話を聞いてる最中かもな』

 

「……なぜ彼を」

 

『ご主人がロックに大層世話になったみたいでな。アイツはこの街では珍しい、人畜無害の皮を上手く被ってる。まあ、妥当な人選だろう』

 

久々に聞いた名前に思わず眉根を寄せる。

 

私がイエロー・フラッグで痴態を晒した日から岡島を避けているのがバレているのか、張さんも含め、周りが私の前で彼の名前を出すことが少なくなった……と思う。

 

岡島と最後に話した日から一か月以上経つが、未だにあの時のことは許せないでいる。

 

『お前がロックを毛嫌いしてるのは分かってる。が、今回はアイツに協力してやれ。下手すりゃこの街が吹っ飛びかねん事柄だ、俺としても有利に事を進めたい』

 

「……」

 

『キキョウ、俺のためにちと我慢してくれねえか?』

 

その言い方に思わず苦笑する。

彼なりの気遣いなのか、はたまた冗談を言いたかっただけなのか分からないが、少しだけ不快感が取れたような気がした。

 

「そんなこと言わなくてもちゃんと協力しますよ。この街が吹っ飛ばされるのはごめんですから」

 

私が岡島を避けているのは個人的なことであり、張さんには何も関係ない。

なら、ここは彼の“協力してやれ”という言葉に素直に従うべきだろう。

 

『少しは機嫌がよくなったようだな』

 

「ええ、貴方の冗談に救われてしまいましたね」

 

『そりゃ何よりだ。お前に男の相手をさせるのはちと気が引けるが、今度いい酒と甘いモノやるからそれで許してくれよ?』

 

「今のでまた不機嫌になりそうなんですが」

 

『おっと、じゃあここらでやめておこう。──近々また連絡する。ではキキョウ、また』

 

最後にそう言って通話が切れる。

一つ息を吐き、作業台の上へ携帯を置く。

 

岡島がここへ来ることは少し……いや、大分気が引けるが他ならぬ彼の頼みなので仕方ない。

 

再び息を吐き、椅子に腰かけたのと同時に飛んできたドアを叩く音と「先生ごめん! 遅くなっちゃった!」と元気のいい声に、思わず笑みを零し腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──張さんから来客があるかもしれないと告げられてから数時間。

 

刺繍に集中しているルカを横目に、スローピー・スウィングへのプレゼントに手をつけながら彼の訪問を待っている。

いつ来るのかほんの少しだけ気になっているせいか時折時計を見ては作業を再開し、しばらくして再び時計を見やり……と、いつもより大分集中力が途切れてしまっている。

 

ここまで彼と話すのを嫌悪しているとは、我ながら驚きだ。

いや、一度本気で殺そうとした相手なのだから嫌悪するのは当然か。

 

針をピンクッションへ刺し、一つため息を吐く。

すると、静かに動かしていた手を止め、ルカは私へ「先生」と呼びかけた。

 

「どうしたの? 今日ずっとソワソワしてるけど」

 

「……ごめんね、なんでもないの」

 

流石に私の様子がおかしいと感じていたのか、訝し気に聞いてきた。

手を止めさせてしまったことに申し訳なさを感じ、少し眉を下げ答える。

 

「今日のお客さん、そんなに気になるの?」

 

「……まあ……少しだけ、ね」

 

“なんでもない”という私の言葉を信じていないようで、遠慮なくいきなり核心をついてきた。

あまり詳しくは言えないので言葉を濁す。

 

「そっか。ま、もしなんかあったら僕が追い返してあげるよ」

 

「相手は大人だよ、できるの?」

 

「できるだけ頑張る。で、いざとなったら二人で逃げよ。そしたら張さんに匿ってもらお」

 

「それ、結局他人任せじゃ……」

 

「大丈夫だよ。逆に先生からやってきてくれるの嬉しんじゃないかな、張さん」

 

ルカなりに元気づけようとしてくれているのだろう。

その気遣いが妙に嬉しく、彼の言葉に思わず笑みが浮かぶ。

 

「じゃあ、もし何かあったら頼もうかな」

 

「任せなさいっ」

 

にっこりと笑みを浮かべそういう弟子に、胸につかえていた何かが軽くなった。

子供にこれ以上気を使わせてしまうのはよくないので、気を取り直し目の前の依頼に集中しようと針に手を伸ばす。

 

 

──瞬間、外から何やら声が飛んできた。

 

 

「……何躊躇ってるんですか! 早くノックしてください!」

 

「そう急かしなさんな。色々あるのさ、彼にも」

 

「こっちだってぐずぐずしてる暇はないんですよ!」

 

「ファビオラ、そんなに怒らないで……」

 

聞こえてきたのはラグーン商会のベニーと女の子、男の子の声。

ファビオラ、という女の子の名前を聞いた途端、ルカが「げっ!」と声を上げた。

顔を見やると、何やら引き攣った表情を浮かべていた。

すると、ルカは勢いよくこちらへ顔を向け、何故か小声で話し始めた。

 

「先生! 客人ってメイドさんだったの……!?」

 

「うん」

 

「言ってよ!」

 

「別に普通に接すれば問題ないでしょ? ルカだって後ろめたいことないんだし、そこまで気にしなくても」

 

「気にするよ! だって僕あの子に……」

 

不自然に言葉が止まったことに首を傾げる。

だがそれも束の間、すぐに「とにかく!」と言葉を続ける。

 

「あの子は一人でイエロー・フラッグを滅茶苦茶にしたんだよ! 何されるか分かったもんじゃ……」

 

再び不自然なところで言葉が止まる。

原因はドアから響いたノック音と「キキョウさん」と呼びかける岡島の声。

 

「ロックです。……用件は張さんから聞いてるかと思います」

 

久々に聞いた声に思わず眉根が寄ってしまう。

すぐさま顔を振り、気を取り直し椅子から腰を上げドアの方へと向かう。

 

一つ息を吐き、意を決してドアノブに手をかける。

 

「……いらっしゃい」

 

「……」

 

ドアを開ければ、目の前には岡島。その後ろにベニーと金髪の男の子と小さいメイドさんが立っていた。

自分でも思った以上に低く固い声音を出してしまい、空気が重くなる。

そのせいか岡島は気まずそうに目線を逸らした。

 

それが妙に癪に障り、また眉間に皺が寄ってしまう。

 

重々しい空気が流れる中、後ろの子供たちは戸惑ったような表情を浮かべている。

 

「や、やあキキョウ久しぶり。もしかして、仕事中だったかい?」

 

「……久しぶりベニー。大丈夫だよ」

 

ベニーが空気を察してくれたのか、戸惑いながらもいつもの調子で話しかけてくれた。

いけない、と心の中で呟き、今度こそ気を取り直しできるだけ冷静に話す。

 

「張さんから話は聞いてる。……その子たちが例の?」

 

「ああ、例のメイドを一緒に探してる」

 

「ガルシア・フェルナンド・ラブレスと申します」

 

「ラブレス家、雑役女中を務めております。ファビオラと申します」

 

「初めまして。洋裁屋、キキョウです」

 

礼儀正しい言葉遣いで自己紹介する二人に自身も名を告げる。

金髪の男の子──ガルシア君と握手を交わし、「中へどうぞ」と促す。

 

中へ戻ると、何故か顔を引きつらせているルカが立って待っていた。

 

「あ、もしかしてその子が例の弟子かい?」

 

「そっか、ベニーは初めましてだったね。―—ルカ、この二人はラグーン商会のベニーと岡島。後ろの二人は」

 

「あ、貴方は確か昨日の……」

 

小さいメイドさんがルカの顔を見た瞬間、思い出したかのように言葉を投げかける。

その瞬間、ルカは困ったように頭を掻いて「……はあ」と小さく息を吐くと、半ば諦めたかのような表情で口を開く。

 

「昨日ぶりだねファビちゃん。生きて若様のところに戻れたんだ」

 

「その呼び方やめてください」

 

「いいじゃん、別に減るもんじゃないし。―—初めましてベニーさん、オカジマさん。ルカです。先生がいつもお世話になってます」

 

小さいメイドさんの言葉を流し、ラグーンの二人に挨拶する。

張さん達に挨拶する時に教えた言葉を丁寧に発する弟子を見て、成長を垣間見た気がして少し頬が上がった。

 

「それで、今日は何の用で?」

 

軽い挨拶を済ませたところで、早速本題を切り出す。

こちらもこなすべき依頼があるので、なるべく早めに用を済ませておきたい。

……彼といつまでも顔を合わせたくない、というのが本音かもしれないが。

 

「例のメイドのことでお話を聞かせてもらいに来ました」

 

少しの気まずさが混じりつつも、岡島が固い声音で言葉を発する。

早々に本題を口にしたところを見ると、彼もいつまでも私と顔を合わせたくはないのだろう。

できるだけ冷静に言葉を返そうと口を開く。

 

「……で、メイドさんの何を聞きに?」

 

「バオからメイドに貴女を紹介したと聞きました。今妙な依頼はありますか」

 

「ない。今引き受けてる依頼はマダム・フローラからのものだけ」

 

「では、メイドはまだこちらに来てないと」

 

「そうだよ」

 

「他に来客は」

 

「ない」

 

「メイドを見たことは」

 

「全くない」

 

ただ淡々と岡島からの質問に答えていく。

お互い目を合わせることはなく、事務的に会話が進んでいく。

 

どうやらそのことが空気を重くさせてしまっているらしく、ベニーの顔が若干引き攣っている。

 

岡島も聞きたいことは聞けたようで、取り出した手帳に何かメモを書くとすぐさま口を開く。

 

「ありがとうございます。俺からの話は以上です」

 

「そう」

 

無表情に話す彼の様子にほんの少しの違和感を覚える。

 

 

……よく考えれば、何もかも違和感だらけだ。

 

なぜ彼は今回の件に手を出そうとしているのか。

 

以前メイドさんの武力を間近で見ていたというのに、懲りていないのだろうか。

 

 

張さんも今回のことは「街が吹っ飛ぶかもしれない」と言っていた。

そんな大事な件に普通なら自ら巻き込まれに行くことはない。

 

 

 

そう、普通なら。

 

 

 

 

──だが彼は人の過去を勝手に漁り、勝手に正義感を押し付けてきた人間だ。

子供に頼られたから何かしてやろうと。何かできるはずだと思っているのだろうか。

 

 

 

これはあくまでも私の勝手な憶測。

だが、彼が何かやろうとしている現状に、何故か妙に苛立ってしょうがない。

 

 

 

「じゃあ、俺たちはこれで」

 

「待って岡島」

 

去ろうとする彼の背中へ咄嗟に声をかける。

 

「どうして、この子たちの手助けを?」

 

「……」

 

「まだ自分にも何かできると思ってるの?」

 

「…………」

 

「もしかして、また正義のヒーロー気取り?」

 

私の問いかけに一向に答える気配がない。

図星なのだろうか。

 

思わず「はっ」と嘲笑してしまう。

 

 

 

「子供に期待させるような真似、やめた方がいいと思うけど」

 

 

 

自分でも驚くほどの嫌味を言ってしまう。

普段ならこんなこと絶対言わないのに。

 

彼を前にするとどうも調子が狂う。

 

「ちょっとなにを……!」

 

キキョウさん

 

小さなメイドさんが何か言いかけるが、岡島がそれを制するように私の名を日本語で発し、顔をこちらへ向ける。

 

貴女の言う通り、俺は一人じゃ何もできない無力な男だ。……貴女に、今すぐこの街を出るべきだと言ったのはあまりにも無責任だった。俺に貴女をこの街から出せる、この街から出ていった方がいいと思わせる力がなかった。そんな無責任だった俺が取っている今の行動を貴女は理解も許容もできないでしょう──だけどね、俺は気づいたんですよ

 

「……」

 

この街には……いくつもの弾丸が転がっている。その弾丸を拾い、どう使うのかは俺次第だってね

 

「……どういう意味? 

 

彼の言葉の意味が分からず聞き返す。

訝し気な表情を浮かべる私に、岡島は引き続き真っすぐ言葉を放つ。

 

 

 

俺一人じゃどうにもならないなら、何でも利用してやりますよ。……将棋と一緒だ。相手の駒も全部利用して、ゲームに勝つ。それが唯一、この街で俺にできることだ

 

 

 

そう言う彼は私をまっすぐ見つめ、一つの迷いもない。

 

 

──あの時。私が彼に裁ち鋏を向けた時の表情と同じ。

 

 

 

今回はゲームに勝つための駒も作戦もある。あとは俺の運次第だ

 

「…………ゲームじゃないんだよ

 

そうですね。だけど、ゲームだと思えば俺の気も少しは楽になる

 

 

あの時と同じ表情。

 

だけど、どこか。何かが違う。

 

 

 

得体の知れない彼の何かに、思わず言葉が詰まった。

 

 

 

今思うのは、メイドさんを追いかけるためにこの街まで来た二人に私たちの言葉が分からなくてよかった、ということだけ。

 

 

「じゃあキキョウさん、もしメイドが来たら連絡をください。俺じゃなくてもラグーンに伝えてくれればいいので」

 

 

日本語から英語に切り替え、彼は再び淡々と話す。

 

「…………分かった」

 

「じゃあ、また。行こうガルシア君」

 

「は、はい。Ms.キキョウ、お邪魔しました」

 

最後に一言そう言うと、颯爽と去る岡島の後を三人は着いて行った。

客人がいなくなった後も何故かその場から動けずにいると、ルカから「大丈夫、先生?」と恐る恐る声がかかる。

 

「……大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ」

 

いつもの調子で言葉を返すと、ルカも安心したのか少し微笑んでいる。

 

「先生、あのオカジマさんって人嫌いなんだね。何されたのさ」

 

「ちょっと色々ね」

 

「でも意外だったよ、先生も人に対してあんなに嫌悪感出すんだね」

 

「私にも嫌いな人の一人や二人いるんだよ」

 

「ふーん。そんな人、張さんが消しそうだけどね。オカジマさんなんで生きてんだろ」

 

「私が嫌いってだけでわざわざ殺さないでしょ。彼は暇じゃないんだから」

 

物騒なことをさらりと言うルカに思わず苦笑する。

冗談か分からないが、なんとかいつもの調子を取りもどす。

 

また気を使わせてしまったか、とありがとうの意味も込めルカの頭を撫でると、彼は「え、なあに」と照れくさそうに笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──途端、ドアから再びノックの音が響く。

 

岡島たちが戻ってきたのかと思い顔が強張る。

 

「洋裁屋、あんたに頼みたいもんがあって来た。急ぎの依頼だ」

 

飛んできた声に岡島ではないことを確信する。すぐさまルカの頭から手を放し、二度目の来客を迎えようと足を動かす。

ドアを開けると、そこにはアロハシャツを着た男性が一人。

 

「初めましてMs.キキョウ。俺はリッチー・リロイ、早速だがあんたに頼みたいもんがある」

 

口の端を上げ、彼は口早にそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

「──セニョール・ロック、一つ聞いてもいいでしょうか?」

 

「なんだい?」

 

「丸一日歩き回ってお話にあった4軒中3軒に居留守を使われました。これは一体どういうことでしょう」

 

洋裁屋キキョウの家を後にし、ロック一行は少し遅めの昼食をとろうと近くにあった店へと入り、頼んだ料理を各々口に運んでいた。

そんな中、ファビオラは不満をぶつけるように眉間に皺を寄せながらロックへと詰め寄る。

 

口の中に残っていたものを飲み込み、持っていた箸を止めることなく口を開く。

 

「そんな不機嫌な顔してるとごはんがまずくなっちゃうぞ」

 

「なぜこんなに居留守を使われるんでしょうか!? これじゃ一向に先へ進めません!」

 

ロベルタ捜索にあたり、ロック達はまず最初の接触者であろうバオへと話を聞きにいった。

バオがロベルタに紹介した医者やら武器整備の職人などの名を聞き、一軒一軒直接聞き込みに行ったのである。

だが、キキョウ以外の人間は彼らに取り合うどころか姿さえ見せなかった。

 

唯一応じてくれたキキョウからも大した情報を得られることなく、今日の行動は空振りに終わったも久しい事実がファビオラを苛立たせている要因だった。

 

「そう怒りなさんな、当然さ。ただでさえ誤解を招きやすそうなメイド姿の子供と、この街じゃ見ることがない育ちのよさそうな子供を引き連れてるんだ。そんなややこしそうな連中にまともに取り合う人間はいないよ」

 

「じゃあなぜ洋裁屋の彼女は」

 

「Mr.張から直接話が行ってたからだと思うよ。まあ、なかったとしても彼女は応じたかもしれないけどね」

 

「は?」

 

「変わり者なんだよ、彼女は」

 

ファビオラを宥めるように、ベニーは淡々と告げる。

 

「とにかく、取り合ってもらうにはそれなりの人間が必要ってことさ。レヴィやダッチとかね」

 

「だとしても空振りでは済まされません。明日は私一人でも探索を」

 

「ファビオラ、ロックさんですらこうなんだ。残念だけど僕らだけじゃ難しいよ」

 

「ですが……」

 

「焦ってもしょうがないさ。とりあえず、レヴィには俺から頼んでみるよ」

 

そう言って、ロックは皿に残ったご飯の残りを一気にかき込む。

箸を置き、コップに入っている水を飲み干す。

 

「今日はもうお開きにしよう。張さんが用意したヨット・ハウスまで送る。食べ終わったら来てくれ」

 

そう言い残し腰を上げる。

店の出入口へ向かうロックの後ろを、ベニーも黙って着いて行く。

二人は店を後にし、車までの道中を同じ歩幅で歩く。

 

 

 

しばらく歩いた後、ベニーは徐に「ロック」と呼びかけた。

 

 

 

「僕は、僕らが彼らにできることはメイド探しのちょっとした手助けしかないと思ってる。

あのメイドは並大抵のことじゃ止まらない。皆が満足するような結果を得るのは難しいだろう」

 

「……」

 

「これ以上彼らに深入りするのは危険だ。あのメイド絡みなら尚更ね」

 

 

固い声音で発せられる言葉を、ロックはただ黙って耳を傾ける。

話を聞いているその顔には何の表情も浮かんでいないように見える。

 

 

「僕らができるのはここらが限界だよ」

 

「やってみなくちゃ分からない。まだ何も始まっちゃいない」

 

「……君、随分頑なだね。さっきのキキョウの時といい、最近ちょっと様子おかしいよ」

 

ベニーは最近のロックの様子を思い返す。

思えば、キキョウと険悪な仲になってから、何かと挑戦的な態度が増えたような印象があった。

今回の事も、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──。

数少ない同僚がこのまま消えてしまうのは惜しい。

 

ベニーはほんの少し眉根を寄せ、黙っているロックへ再び声をかける。

 

「ロック。何が君をそうさせるのか知らないけど、どんなに鋼鉄の魂を持っていても、他人の死を乗り越える度に魂はすり減っていく。この街じゃそれが常さ。だから僕はこの街で自分を試すようなことはしない」

 

「…………」

 

「ロック、今君は()()()()()()()()()()()()()()?」

 

その問いの答えをロックは口には出さなかった。

 

 

 

ただ心の中で「どこまで彼に食い下がれるのか。それを知りたいだけだ」と呟いたことなど、目の前のベニーは知る由もない。

 





頑張れロック
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