『やあキキョウ。どうだ調子は』
「普通です。張さんもお元気そうで何よりです」
『あれから客はついたのか』
「少しだけですけど来てますよ。そのたびに報酬について考えるのが大変です」
『それは結構なことだ』
あれから四か月。噂を聞きつけてかお客が来るようになった。
──子供に青いバラの刺繍を渡してから一週間後のこと。
その子供の知り合いだという娼婦がやってきた。
娼婦からは『上品なドレスを』という依頼だった。
「何をくれるのか」と尋ねると、娼婦は札束と化粧道具一式を差し出してきた。
「これが私に出せるもの」、そう言って。
流石に娼婦にとって命である化粧道具全ては受け取れないので、金だけ貰い依頼を受けた。
まさかこれで依頼を受けてもらえるとは思ってなかったらしく、娼婦は「本当にいいのか」と聞いてきた。
娼婦は元々自分で作った金だけでなく、商売道具すべてを渡そうとしてまで依頼してきた。
しばらく客が取れなくなるかもしれない、というリスクを覚悟してのことだと思った。
断る理由がない。
そう伝えると、娼婦はどこか照れ臭そうにしていた。
依頼を受けて一週間後、服が出来上がったので予め聞いていた娼婦の家に届けに行った。
私が作った青色のひざ丈までのパーティードレスを見て、娼婦は嬉しそうに『ありがとう』と言ってくれた。
それからは何人か来たが、たまに冷やかし目的で来た人もいた。
そういう人は入る前の第一声で茶化すような声を出すのですぐ分かる。
だからドアを開けず、居留守を使っていた。
勿論、ちゃんと依頼に来る人もいる。
今はそんな数少ない依頼をこなしながら過ごしている。
『な、俺の言ったとおりだろ。“すぐに客はつく”ってな』
「まさか、ここまで早いとは思いませんでしたよ。よく目立ちますね張さん」
『そう褒めるな』
「褒めたつもりはなかったんですが……」
『相変わらず冷たいな。ま、そこがお前の可愛いところでもある』
「貴方も相変わらず笑えない冗談を仰いますね。ホントに元気そうで何よりですよ」
『冗談ではないんだが。──とまあ、世間話は置いといて本題といこう』
「はい」
世間話に区切りがついたところで、張さんから本題が切り出される。
『近々、壮大な“パーティー”が行われる。それは、俺の今後の仕事に関わるほどの一大イベントだ』
「それは、大変そうですね」
『だが、俺はその“パーティー”に着ていく服がない。折角のパーティーだというのに、いつもの格好じゃ決まらない。──そこでだ。キキョウ、俺にパーティにふさわしい服を作ってもらいたい』
約四か月振りの張さんからの依頼。
しかも、今度は宣伝のためではない。
正式な依頼だ。
パーティにふさわしい、となるとタキシードになる。
だが、これは切り詰めても最低二か月以上ないと作れない。
しかも他の依頼もあるので更に遅れてしまう。
「いつまでに仕上げれば?」
『日取りはまだ決まっていない。だが、急に決まる可能性もある。だから、できるだけ早めに頼む』
……割と無茶な内容だ。
時間が不確定なうえに、スーツよりも繊細なタキシードの製作。
普通なら断るだろう。
だが、相手がこの人だ。私から断る理由がない。
「努力はしますが、フォーマルスーツとなると最低二か月はかかってしまいます。なので、年が明けてからのお渡しになるかと思われますがそれでもいいなら」
そう、早いものであと二か月で年が明ける。
この街の住民はそこまで気にしないのかもしれないが。
『……分かった、それで構わん』
「ありがとうございます。今回は他に希望はありますか?」
『特にない。お前に全て任せる』
「分かりました。では、できるだけ早めに完成させますので」
『すまないな、やっと客がつきはじめた時に』
「貴方の頼みですから。こっちから断れませんよ」
『嬉しいことを言ってくれる。では、キキョウ。頼んだぞ』
向こうが電話を切ったのを確認して、通話を終了する。
これは、のんびりはしていられない。
今依頼があるのは張さん以外で女性二人。
先の依頼を優先させながら張さんの依頼にも手を付けないと間に合わない。
──これは、大仕事になりそうだ。