ロアナプラにてドレスコードを決めましょう   作:華原

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26 重なる花びら

 

 

「――キキョウさん! お待ちしておりました!」

 

「お待たせしました。本日もお元気そうで何よりです桜綾さん」

 

三合会龍頭の娘である彼女がロアナプラにやってきてから早4日。

香港の方は落ち着いておらず未だ帰れないようで、今もこの広い隠れ家に滞在されている。

 

「昨日また張兄さんが新しいお茶を持ってきてくださったんです。よろしければご一緒しませんか?」

 

「あの桜綾さん。そんな毎回お茶を出してもてなさなくても」

 

「お茶は誰かと一緒に飲む方が美味しいですから。……お気に召しませんでしたでしょうか?」

 

「いえ、そういう訳では。いつも美味しくいただいております」

 

「よかった。ではぜひ今日もお茶召し上がってください。私の話に付き合っていただいているのですから、それくらいはさせてください」

 

「……分かりました。なら、お言葉に甘えさせていただきますね」

 

「どうぞおかけになってお待ちくださいっ」

 

そう言って桜綾さんは嬉々としてお茶を淹れる準備を始めた。

今にも鼻歌を歌いだしそうな雰囲気だ。彼女のこんな姿を目に映すのもこの数日で慣れてきた。

 

 

 

――本来私は服を届ける以外にお邪魔してはいけない立場なのだが、ほぼ毎日彼女の元へ訪れている。

 

何故こんな事になったのか、正直私もよく分かっていない。

 

ただ一つ言えるのは、採寸している時から妙に懐かれていることだ。

私はただ話を聞き相槌を打ってを繰り返しただけで、親しまれるようなことはしていないはず。

 

 

だというのに、リンさんと私とでは話している時の表情が明らかに違う。

笑顔を向けられるのは別に嫌ではないが、なぜそこまで態度が異なるのか謎過ぎて戸惑っている。

 

その話を聞いて何を思ったのか、張さんが「彼女が帰るまでなるべく話し相手になってほしい」とお願いをしてきた。

彼曰く「遠い場所から一人やってきた心細い女性を気遣うのは当然だろ」と言う事らしい。

 

面白い話ができない私にそんなことを頼むなんて何を考えているのかと思ったが、桜綾さんにももっと話がしたいと言われたのもあり“入ってきた依頼を優先する”ことを条件に承諾した。

 

その時ついでに様付けを外してほしいことも伝えた。

彼女は中々首を縦に振ってはくれなかったが、“様付けを外す代わりに名前で呼んでほしい”という交換条件を出された。私と彼女の立場的にその呼び方はいい事なのか不安ではあったが、様付けされるよりましだと思い、今は『キキョウさん』『桜綾さん』と呼び合っている。

 

 

 

 

そこからは彼女の話し相手になった後、少し急ぎでサイズにピッタリな服を仕立てるという日々を過ごしていた。

 

 

「どうぞ、冷めないうちに」

 

「ありがとうございます」

 

 

桜綾さんは笑顔を浮かべながらお茶の入った白い容器をこちらに差し出してきた。

お礼を言いながら受け取り、緑茶らしい色をしたいい香りが漂うそれに口をつける。

この街に来てからはお茶らしいものは紅茶くらいしか飲んでいなかった。

 

口に含み、懐かしい味を堪能する。

 

「……お茶は淹れ方ひとつで不味くなると聞きますが、貴女が淹れたものは全部美味しいですね」

 

「お気に召していただけたようでなによりです。どんな客人が来ても美味しいお茶でもてなすのが私の役目でもありますから、たくさん勉強したんです」

 

可愛らしい微笑みを浮かべ嬉しそうに話している。

この言い草だと、こうなるまで誰かのために努力したのだろう。

その“誰か”というのは言うまでもない。

 

「努力家なんですね」

 

「よく言われます。――だけど、あの人の為ならこれくらい当然です」

 

そう言って、今度は先程とは少し違う笑みを浮かべた。

何かを愛しく思うようなその笑みを見せるときは、決まって“ある人”の事を考えている。

 

「本当に、婚約者の方が好きなんですね」

 

「ええ、とっても。だから早く会いたいのですが、さっき電話で“もう少し待ってくれ”って……」

 

桜綾さんは眉を下げ、寂し気な声音を出す。

しまった。わざわざ思い出させる必要はないのに、つい話を振ってしまった。

 

「すみません、思い出させてしまいましたね」

 

「いえ、大丈夫です。必ず迎えに来るって約束してくれたので、我慢できます。劉帆さんは私との約束破ったことありませんから」

 

「……随分、信じていらっしゃるんですね」

 

「もうすぐ夫婦になるんですもの。それくらい当然です」

 

夫婦になるからと言って、そんなに信じられるものなのだろうか?

血が繋がっていても信用できないこともある。それが他人なら尚更だ。

まあ彼女と香主は昔馴染みらしいので、それも関係しているのかもしれないが。

 

 

 

「――幼い頃、劉帆さんと“一週間毎日遊ぶ”という約束を交わしたことがあるんです」

 

 

 

そんな疑問を浮かべていると、彼女はお茶を片手に静かに話し始めた。

 

 

 

「最初は何事もなかったんですが、3日目くらいに彼が何者かに襲われて大怪我を負ってしまって。立っているのもやっとなはずなのに、その後一日も欠かさず遊んでくれたんです。しかも私に気づかれないように平気なフリしてまで」

 

「……」

 

「結局、最終日に家で倒れて病院に運ばれた時に私にばれてしまったんですけどね。彼が寝ているベッドの横で泣きながら“ごめんなさい”って謝る私に、“また一緒に遊びましょう”って言ってくれたんです」

 

その時の事を思い出しているのか、クスっと笑みをこぼす。

柔らかな雰囲気に、私は何も言えずただ静かに聞くことしかできない。

 

桜綾さんは懐かしむような表情を浮かべたまま話を続ける。

 

 

「そんな不器用だけど優しくて、律儀な人は今まで一度も約束を破ったことないんです。だから疑う余地はありません」

 

 

この四日間、彼女の口から“劉帆さん”の話が出ない日はなかった。

 

 

自分の前でだけ見せる笑顔が好きなこと。

婚約してからずっと煙草を控えてくれていること。

小さい頃に木登りして降りられなくなった時助けてくれたこと。

その時から彼に恋をしていたこと。

 

 

彼にどんな風に愛され、彼をどう愛しているのかを話してくれる。

彼女が語るのは、私が知らない夫婦の在り様。

まるでお伽話を延々と聞かされている感覚だ。

 

 

その話をしてくれる彼女の瞳は澄みきっていて、心の底から思っていることなのだと思わせられる。

 

 

「そうですか。……先程は失礼なことを言いました。申し訳ありません」

 

「謝る事ありませんよ。人を信用できない気持ちは私にも分かりますから」

 

私の発言に思うことがあったから今の話を聞かせてくれたのだろう。

余計な事を言った非礼を詫びたが、彼女はそんなこと気にしていないとでも言うように柔らかい表情を崩さなかった。

 

本当に思っているかは分からないが、ひとまず不機嫌になった様子がないことに安堵する。

 

「あ、そういえばキキョウさんの事を話したら“ぜひ挨拶したい”と言ってました! その時、ちゃんと劉帆さんの事紹介しますね」

 

「……え?」

 

「世話になった御仁にみ……未来の夫、から挨拶しないのは失礼だ、とのことらしいです」

 

恐らく“未来の夫”という単語のせいか、桜綾さんは頬を赤らめて照れている。

 

一方私は聞かされた話に一瞬思考が停止し、その様を気にする余裕などなかった。

 

 

 

 

 

――この人今、三合会のナンバーツーが私に挨拶したいと言ったか?

 

 

 

 

 

「あ、あの流石にそこまで気を使わなくても。貴女を世話したなんてつもり全くありませんし」

 

「私は十分お世話になったと思っていますよ」

 

「いや、でも香主はお忙しいのでしょう? なら私なんかに構わず……」

 

「貴女は私たちの恩人です。そんな方に何も挨拶しないなんて無礼を彼はよしとしません」

 

だからって……。

張さんよりも偉く、尚且つ大組織のいずれトップになる人にわざわざ挨拶されるような立場ではない。

そんな人間が今の話をすんなり受け入れられる訳がないだろう。

 

「……やっぱりマフィアの偉い立場にいる人と話したくない、ですか?」

 

「マフィアだからじゃありません。そうじゃなくて、ただの洋裁屋へわざわざ挨拶に来る必要ないでしょう」

 

何か勘違いをしているようなので、これだけははっきり言わせてもらう。

何年もこの街のマフィア達と関わってきたのだ。

今更『話したくない』『関わりたくない』なんて感情が出るわけない。

 

「私は仕事を捗らせるためだけに貴女を保護しただけです。そんな人間相手に無礼も何も」

 

「キキョウさん、どうか自分をそんなに卑下しないでください」

 

 

 

自分の気持ちを正直に話していると、桜綾さんが急に真剣な表情と声音で私の話を遮った。

彼女がそんな事をしたのは初めてなのもあり、驚きで何も言えなくなる。

 

 

 

「貴女はいつもご自分の事を“こんな人間”とか“ただの洋裁屋”だと言います。貴女に仕立ててもらったこの服や張兄さんが気に入っているロングコートとスーツも素晴らしい逸品です。それを作り上げる貴女はただの洋裁屋なんかじゃありません。それに依頼が来ていないからとはいえ毎日話し相手になってくれて、おかげで私はここに来てから心細くないんです」

 

「……」

 

「ただ拾ってくれただけなら彼も挨拶がしたいなんて言いません。普通なら張兄さんに貴女への応対を任せればそれでいいんです。――そうしないのは貴女が私の我儘を聞き、ずっと優しい対応をしてくれているからです。そんな何から何までお世話になっている人から礼もなにもいらないと言われてしまったら、せめて挨拶したいと思うのは当然です」

 

「……買い被りすぎですよ」

 

「買い被ってなんかいません。この4日間、ちゃんと話してみた上で思ったことです。……自分を下に見た方が何かと気楽なのも分かります。ですがキキョウさんはもっと自分を大切になさるべきです」

 

 

 

ここ最近、優しいと言われることが多くなった気がする。

どこをどう見て“優しい”というのか全く理解できない。

 

 

私の事は私が一番理解しているし、正当な評価をしているつもりだ。

だが、何故かいつも周りの私への評価と差がある。

 

 

 

数年前からそれはずっと変わらない。

いつからか、“私をよく知らないからそんなことを言うだけだ”と勝手にそう思うようになった。

 

彼女もたったの4日間で私の全てを知ったわけではないのだから、我儘を聞いてくれたから優しいという結論に至っただけ。

 

私の事をよく知っていれば、優しいなんて言葉出てくるはずがないのだ。

その証拠に、この街で一番付き合いの長い張さんが私を優しいと評価したことはない。

 

 

 

 

――だというのに、彼女の言葉に戸惑っている自分がいる。

 

 

 

いつものことなのに、どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『“  ”、あなたはとっても優しい子よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、懐かしい言葉と声音が頭によぎる。

 

 

 

 

 

 

『あの人はあなたにとても酷い言葉を言うけれど、そんなことない』

 

 

 

 

 

この街に来る遥か前に、言い聞かせるように言われ続けた言葉。

 

 

 

 

 

『私の為にいっぱい我慢して、一緒にいてくれる。こんな優しい子に育ってくれて、私は本当に嬉しいわ』

 

 

 

 

自分の方が辛いはずなのに、励ます様に言ってくれた言葉。

 

 

 

『“  ”、だからお願い――』

「キキョウさん、お願いですから」

 

 

 

 

桜綾さんの言葉と、脳裏に浮かぶ言葉が重なる。

 

 

 

 

 

 

『自分の事を、“こんな人間”なんて言わないで』

「ご自身の事を“こんな人間”だなんて言わないでください」

 

 

 

 

 

 

桜綾さんの真っすぐこちらを見つめるその姿が酷く“とある人”と重なった。

 

 

 

 

 

 

……ああ、そっか。似てるんだ。

 

 

 

 

喋る言葉も生きた場所も時間も違うのにそう感じるのは、柔らかいあの微笑みと話し方のせいだ。考えてみればあの人と似ている部分が多い。

だから、他の人の言葉よりも揺らぐのか。

 

 

 

“桜”と名が入っていることも、ちょっとした因果かもしれないな。

 

 

 

心の中でそう呟いて、目を瞑り小さく息を吐き言葉を返す。

 

 

 

 

「……善処、します」

 

 

 

 

私の返事を聞いて、桜綾さんはにっこりとまた微笑んだ。

 

 

 

その顔を見て、背中の痕が少し痛んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

桜綾とキキョウがそんな話をしている最中、別室では携帯を片手に話をしている張の姿があった。

電話の相手はこの数日何回も連絡を取り合っている鄭劉帆。

今日は珍しく彼からかかってきたが、いつもの口調を崩すことなく言葉を交わす。

 

最初はちょっとした緊張感を帯びただけだったが、鄭から聞かされた言葉によって部屋が一気に重々しい空気へと変わる。

 

「まさか、アイツがそんな事の為に行動したとは」

 

(ソン)は昔から馬鹿だったからな。自分よりも頭のいいお前を陥れる方法がこれしか思いつかなかったんだろ。馬鹿は馬鹿でも桜綾に手を出せばどうなるかくらい考えられる脳みそはあっただろうに』

 

「所詮虫けらの親玉はただの虫だったという事でしょう。いい迷惑です」

 

鄭から聞かされたのは、張よりも長く組織にいる“(ソン)  宇辰(ユーチェン)”という幹部が事を起こしたという知らせだった。

なんでも、桜綾を攫いその罪を張に着せちょっとした恨みを晴らそうとしたらしい。

 

そのちょっとした恨みというのは、自分より遅く入ってきた若造が先に出世したことというつまらないもの。

前々から反りが合わなかったが、そんなことで事を起こされるのははっきり言って大迷惑である。

 

 

 

舌打ちしそうになるのをこらえ、再び頭を回転させる。

 

 

孫は決して頭がいい方ではなかった。

目先の利益に目が眩んで行動するような男。

 

そんな男が、三合会の包囲網を潜り抜け香港からこの街に桜綾を運び込めるとは到底思えない。

 

 

 

「香主、その馬鹿が一体どこの誰に上手い事乗せられたのかは」

 

『そう、問題はそこだ。――奴から聞いた話では、“() (ハオ)”という男に計画を提案されそれに乗った。桜綾をお前の街まで運んだのもそいつの仕業らしい』

 

「身元は」

 

『最近こっちで把握してない麻薬が出回ってな。それを売り捌いていた張本人。ようするにただの売人だ。そいつの顔写真もいつ香港に入ったかの入国記録も手に入っている。探し出せるのは容易だと思ったんだが……』

 

「まさか、まだ」

 

『ああ、未だ見つかっていない。それどころか桜綾が保護したと分かった時からそいつの目撃情報がぱたりと途絶えた。警察の助力を得て香港中の監視カメラを漁ったがどこにも見当たらない。まるで透明人間になったかのようにな。出国した形跡はないがもういないのか、はたまたうまく隠れているのか。……何にせよ厄介な相手だ。ただの売人風情が俺達相手にここまで上手く立ち回れるわけがない』

 

今こうしている間にも、彼らは本気で動いているはずだ。

龍頭や香主はこんなことをしでかした愚か者を許すほど寛容な人ではない。

 

『そういや確か孫はこうも言っていた、“李とは張に恨みがある者同士だから手を組んだ”とな。張、お前麻薬密売人の恨みを買った覚えは?』

 

「ありすぎてどれか分かりませんね。その名前を聞いたのも初めてです」

 

『だろうな』

 

この稼業で人の恨みを買わないことの方が珍しい。

鄭もそれを分かった上で聞いたのだろう。張の返しにすんなりと納得した様子を見せた。

 

『そんなやり手の売人なら自然と俺達の耳にも入る。入っていないということは完全に偽名だ。引きずり出せるのはもう少し先になるだろう』

 

「では、令爱は」

 

『もう少し待ってもらうことになる。さっきそれを伝えたら“我慢します”って言われちまった。……そうは言っていても、もう限界だろうな』

 

「なんとか耐えていらっしゃいますがあの様子は相当我慢されています。このままだと近いうちに話も聞かず何が何でもそちらに帰ろうとしますよ」

 

『分かってるよ。だからこっちであと数日動きがなければ迎えに行く。いつまでもそっちに置いておくわけにもいかんからな』

 

彼女が一人になった時、鼻をすすっているところをよく見かける。

人前では気丈に振舞っているが、ああ見えて寂しがり屋であることを張はよく知っている。

 

 

それでも何とか耐えていられるのは、キキョウと話をして気を紛らわせているおかげでもある。

 

 

 

『そういえば、桜綾からキキョウとやらに世話になっていると聞いた。迎えに行くときにでもちょっとした挨拶をしたい』

 

「貴方が直々に、ですか?」

 

『知らないか? 彼女は毎回“キキョウさん”のことを楽しそうに話すんだよ。友人らしい友人も敢えて作らなかったあの桜綾がだぞ。さらに、お前が“信頼に足る”と評したとあっては気にならないわけがないだろう。なら桜綾だけでなく、お前も世話になっていることの礼を言わねばな』

 

「……そう言うことなら事前に話を通しておきましょう。俺の分もしっかり挨拶してくださいね“鄭大哥”」

 

『は、お前にそう呼ばれたのは久々だな。懐かしいな。――ひとまずまた連絡する。彼女の事、もうしばらくの間頼んだぞ』

 

お互い軽い冗談を言い合った後、鄭はそう締めの言葉を残し電話を切った。

彼は、今の言葉は幼い彼女を世話した者と旦那となる者の両者として発した。

たまに親心のようなものを見せることがあるのは、昔の名残だろう。

 

 

 

だが、かつて彼が“大哥”と呼ばれていた頃の兄貴分としての性分も残っていたのは意外だった。

 

 

不思議なことに、彼に兄貴心を見せられたことに対して嫌な気は全く起きない。

張は「俺もまだまだってことか」と口端を上げ、笑みを浮かべた。

 

 

 

そしてその面持ちのまま、恐らく香主が挨拶に来ることを快く思わないであろう洋裁屋になんと言おうか考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「――李さん、外はまだ三合会の連中がウロウロしてる。どこもヤクザ者だらけだ」

 

「必死だな。やっぱ今動くのは得策じゃないか。しばらく商いはおあずけだな」

 

「てことは、まだこっちに残るんで?」

 

「ああ、この状態で無理に出て行こうとする方がボロが出る。それに、近くにいた方が気づかれないこともある。灯台下暗しってやつだ」

 

三合会の龍頭 荘戴龍と香主 鄭劉帆の指示の元、組織が血眼で探している当の本人は前の拠点よりもいくらかマシなアパートの一室でベッドに横たわり本を読んでいた。

そんな彼に近づき親し気に話しかけるのは、腕に“フードを被った髑髏の刺青”を入れた男。

 

「しばらく退屈させちまうが、お前も俺が言うまで絶対動くなよ」

 

「仕方ないですよ。俺だってアンタと世界中を飛び回りたいんだ。そのためなら喜んで待てもする」

 

「犬も見習うほどの忠犬っぷりだな。頭でも撫でてやろうか?」

 

「冗談きついですよ」

 

李は本から目を離し苦笑を浮かべる若い男を一瞥する。

そのまま体を起こし、Camelの煙草を取り出し火を点ける。

 

「でも、いつまでも動かないわけにはいかないですよね? 動くとしていつくらいになるんで?」

 

「そうだな。このままいけば、二か月後にはこの国を出れるんじゃないか」

 

「なんで二か月後?」

 

「……お前忘れたのか。二か月後は三合会の“ビッグイベント”があるだろうが」

 

少し呆れたような声音と共に煙を吐き出す。

その言葉に若い男は「あ」と何かを思い出したかのような反応を示す。

 

「でも、その時の方が警戒されるんじゃ」

 

「このままいけばって言ったろ。何も動かず、尻尾を見せさえしなければあっちは俺達なんかよりイベントの方に集中するはずだ。いつまでも掴めない亡霊の存在を追いかけ続ける真似を大組織がするわけがない。手を出してこない大人しい亡霊が相手なら尚更な」

 

ずれた眼鏡を指で押しながら、自身の考えをすらすらと口にする。

その様に若い男は憧憬の念を抱き、「すげえ」と言葉を洩らす。

 

「やっぱアンタすげえよ。孫なんかよりよっぽど」

 

「あのお馬鹿さんと比べられるのは御免だが、その誉め言葉は素直に受け取っておくよ」

 

李は男の賞賛を軽く受け流し、吸い殻を灰皿に押し付ける。

 

 

 

 

「――お前もやればできるんだ。俺と一緒にいればそれを証明させてやるよ」

 

 

 

 

眼鏡の奥で怪しく光る眼光に気づかず、その言葉に男は歓喜に打ち震えた。

言葉一つで喜ぶ無様な男の姿に、李は心の中でほくそ笑んだ。










桜綾は、父親がマフィアのトップということもあり中々友人に恵まれない幼少期を過ごしています。
そんな中で、初めて“マフィア? 別に気にしませんけど”って言ってくれたのがキキョウさん。

男所帯で信頼できる“お姉さん”がいなかった分、キキョウさんに懐いている・・・という感じです。

可愛いですね。



=(久々の!)質問コーナー=
Q.はじめましてキキョウさん。質問ですが、シェンホアとソーヤー、この二人に仕立てるとしたらどんな服を仕立てますか?


A.(すでに二人と出会っている、という前提で)

キキョウ「はじめまして。シェンホアさんにはチャイナ服以外ならテーパードスカートとかタイトスカートみたいなすっきりしたものにカシュクールとか似合いそうです。
ソーヤーはヴィジュアルバンドとかがよく着ているダメージジーンズとか、ダーク系の色が基調でフリルをふんだんに使ったファッションだと喜びますね」
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