ロアナプラにてドレスコードを決めましょう   作:華原

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36 哀れな囮

 

――綺麗に整えられた広い部屋にあるベッド。

そこには人前では整えている髪を乱し、上半身をさらけ出し腰かけている張の姿があった。

 

隣では、一糸纏わぬ姿でキキョウが寝息を立てている。

 

無防備に寝ているキキョウにそっとシーツをかけ、傍に置いていた煙草を手に取り火を点ける。

 

煙を吐き出し、再びちらと隣の女を一瞥し先程までの行為を思い返す。

 

普段どんな相手でも凛とした姿勢を崩さない女が、子供のように感情を露にし、嫌だ、怖いと滅多に吐かない言葉を口にしながら自身の下で乱れていた。

 

何度も無理矢理にでも己の物にしたいと思ってきた。

乱れる姿を想像した数は数えきれない。

今でもこの女の全てを欲している。

 

それでもこれまで抱かなかったのは、自身に身も心も委ねていいとキキョウの口から言わせた上で完全に落とすつもりだったからだ。

異常とも言えるほど女としての魅力を自覚していないせいか、口説き文句を冗談だと流され、どんな言葉を口にしようと決して揺らいではくれなかった。

 

 

――だが、ここ最近その反応が変わっていた。

 

冗談だと受け流しながらも、あの真っすぐな瞳が戸惑ったようにほんの一瞬揺らぐようになった。

それだけでなく、癖のように頬に触れれば何も言わず受け入れ、時折少しだけ口の端を上げ微笑むのだ。

 

そして、数日前のあの反応。

体を抱き寄せ手を掴んではいたが、全く逃げ場を作らなかったわけではない。なら激しく抵抗することもできたはずだった。

だが、そうしなかった。

良くも悪くも素直な彼女がそうしなかったということは、少なからず己に心を許しているのだと確信した。

 

 

ここまで来るのに、本当に長い時を要した。

 

 

 

――だからこそ、どうしようもない苛立ちが湧き上がる。

 

 

 

下卑た鼠が綺麗な女に欲情するのはムカつくがまあ理解できる。

クソに塗れた手で触れただけであれば、まだ殺すだけでよかった。

 

だが、媚薬を盛り無理矢理欲情させ、すべてを狂わせたのは我慢ならない。

長い時間をかけてここまで来たというのに、こんなクソみたいなきっかけで抱くことになるとは。

彼女を抱いたことに一切後悔はないし、かつてない程の満足感を味わった。

だがそれとこれとは話は別であり、控えめに言って反吐が出るほど不愉快である。

 

舌打ちし、灰皿へ乱暴に煙草を押し付ける。

新たな煙草を取り出し口に咥えたその時、すぐそばで携帯の着信音が鳴り響いた。

 

 

コール音を聞きながら火を点け、煙を肺に入れ携帯を手に取る。

 

 

『もしかして、まだお取込み中でしたか?』

 

「……いや、俺も丁度お前にかけようと思っていたところだ」

 

『それはよかった。……ひとまず、あの鼠は例の場所へ郭達が移送させました。今はあの悪趣味野郎の玩具になっています。得た情報については後程彪から説明が。貴方の参上を、皆今か今かと待っていますよ』

 

「そうか。アイツには俺が来るまで壊すなと伝えておけ」

 

『かしこまりました。……大哥、あの子は』

 

「今は寝ている。とうとう限界が来たんだろう」

 

煙を吐き、淡々と言葉を交わす。

この数日、体に鞭を打ち続けた上に更に体力を削る行為をしたとあっては無理もない。

 

「リン、後は頼まれてくれるな」

 

『勿論。貴方は鼠の処理を心ゆくまでお楽しみください』

 

「そいつはちっとも心が躍らねえな」

 

『言ってみただけですよ。……すぐそちらに向かいます。また後程』

 

「ああ」

 

信頼に足る医者の軽口を聞いた後、通話を終わらせる。

ツーツーと機械音が流れる中、再びキキョウの方へ目を向けた。

張は安らかに眠るその寝顔をしばらく眺めると、徐に手を伸ばし今は熱が引いた頬に触れる。

最早数えきれないほど触れてきたその頬を、いつものように指で撫でる。

それでも深い眠りについているキキョウは起きることはない。

数回指を滑らせた後腰を上げる。

乱暴に投げ捨てられたワイシャツを手に取り、一度も振り返ることなく部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――外の光が完全に遮断されたとある部屋。その部屋を照らすのは、中央にぶら下がっている一つの小さな電球のみ。

冷たく、固いコンクリートの壁には、黒く変色した液体が染みついている。

 

「ああああああああああッ!!」

 

錆びた鉄の匂いが充満するその空間で、悲鳴が響き渡っていた。

悲鳴の主は、椅子に両手足を括りつけられ血を流している男。

髪の毛は毟り取られ、足と手の爪は剥がされ、至る所に釘を刺され、皮膚は所々削がれている。

 

そんな様と成り果てた、腕に“フードを被っている髑髏マーク”を刺れている男を見下ろすのは、黒いスーツに身を包んだ男達。

 

そして、目の前では唯一ワイシャツにスラックスというラフな格好をした男が立っている。白いシャツに数々の返り血をつけ、ニヤニヤと愉しそうな表情を浮かべている。

 

「いてえ……いてえよお……」

 

「痛いかあ。なら早く全部吐いちまった方がいいと思うぞ? お前まだ懐に何か“餌を隠し持ってやがる”だろ」

 

「もう、全部しゃべった……たのむよ……たす」

 

「ん? 何か変な言葉が聞こえた気がするぞ。もう一回はっきり言ってくれるかなあ?」

 

「た、たすけて」

 

「ぷっ……ぎゃははははは! おいおい、聞いたか郭! こいつ今はっきり“助けて”って言ったぞ! マジでこいつおもしれえ! はははははっ」

 

(フー)、お前な……」

 

胡と呼ばれた男は、郭に話しかけながら笑い声をあげた。

郭はそんな胡に呆れながら口を開く。

 

「あまり楽しむんじゃねえぞ。あの方が来る前に殺しちまったら今度はお前がこういう目に合う」

 

「んなこと分かってるよ。あの人にはただ皿の上の料理を平らげていただくだけが一番いい。仕込みを少しでも客に任せる料理人なんざどこにもいねえだろ? ましてや、料理を客に出す前に平らげるなんてご法度中のご法度ってな」

 

「にしてはやりすぎだ。お前のそのテンションじゃ確実に殺しちまうぞ。代われ、後は俺がやる」

 

「やだね、お前に任せた方が絶対死ぬ。――力加減できずに殺しちまって、何回大哥にお叱りを受けた?」

 

「……14回だ」

 

「覚えてんのかよ。なら大人しく引っ込んでろ。動きたい気持ちも分かるけどよ、忠犬は忠犬らしく飼い主を待つべきだぜ」

 

「……」

 

郭は内心舌打ちをしながらも、ため息を吐き渋々と口を閉ざす。

胡はそんな郭を一瞥した後、再び愉しそうな表情で血を流し続けている男に向かい合う。

 

「えーと、なんだったっけ? ……ああ、そうそう。お前が全部喋ってくれれば俺もこれ以上手は出さねえよ。どうせ結果は変わらねえんだ。なら早く吐いて、せめてあの人が来るまでは痛めつけられない方を選ぶべきだと思わねえか?」

 

「……本当に、俺は全部」

 

「はい、また嘘ついたな。じゃ、もう一本刺そうか」

 

「ま、まてっ……がああッ!!」

 

胡は問答無用で、右手に思いきり釘を打ち込む。

何回も何回も打ち付け、肉に埋もれていくのと同時に再び悲痛な叫びが響く。

 

「――臭えんだよお前は。ゴミみたいな臭いがその口から漂ってる。無駄な意地張ってんじゃねえよ」

 

「う……っ」

 

「もう一度聞くぞ。李について他に何を知ってる」

 

「だから、さっき話したので全部、だ……本当に、他は何も知らねえ」

 

「どう思う、郭」

 

「……釘三本の時点でべらべら喋った男だ。ここまで言っても喋らないってことは、本当に知らないんじゃないか」

 

「だとしたらこいつ相当なお馬鹿さんだぞ」

 

男を見下ろす胡は口の端は上がっていたが、目は一切笑っていない冷徹なもの。

やがて近くの椅子を取り、男の目の前で腰かける。

 

腕を組み、表情を一切変えずに再び静かに話しかけた。

 

「大哥にこのままぶち殺されるなんて少し可哀想に思えてきたよ。そんな哀れなお前に同情して、俺達が今知ってる情報を教えてやる」

 

「おい」

 

「別にいいだろ。どうせ死ぬんだ。最後くらい真実を教えたって罰は当たらないさ」

 

余計なことを言うなと言わんばかりに郭がすかさず口を挟んだが、胡は淡々と言葉を返し男に向かって話を続ける。

 

「お前が心底憧れている李豪という男はこの国どころかこの地球上に存在しない。……お前が言っていたイタリアで危険視されてたなんとかって麻薬を世に放ったのはイタリア人のグループ。そのグループは今や壊滅し、唯一生き残ったメンバーは消息不明。で、アメリカで警察と手を組み大量の麻薬を仕入れたのはオランダ人。こいつも絶賛逃亡中。あとはイギリスとかスウェーデンとかヨーロッパらへんで活動していたとお前は聞かされていたようだが、全員違う顔と名前だった」

 

「え……」

 

「その男に関して共通しているのは180㎝超の長身。名前も経歴も顔もすべて偽物であること。取引が済むと姿を完全に眩ませること。そして、行方を眩ます際は決まって誰かを生贄にしていること。その生贄共は全員口を揃えて“あの人はすごい”“あの人は生きる理由をくれた”と心酔していたようだ。――今のお前と同じだなあ?」

 

「で、でも……一緒に、国を出ようって」

 

「俺は違うってか? 本当に可哀そうだなお前。……ここまで世界中を敵に回して生き永らえてきた男が、今更馬鹿な足手まといを連れて行くと思うか?」

 

戸惑ったような表情を見せる男を憐れむような眼で見据えながらも口を休ませない。

 

「連れ回すよりも自分が確実に逃げるために使った方が便利だと判断し、喜ぶ言葉を与え人心を掌握し、いいようにこき使うことを選んだ。――結局、お前も可哀想な生贄にされたってことだよ」

 

途端、絶望した顔へと変わったのを胡は見逃さなかった。

更に口の端を上げ、痛めつけた時と同じように心底愉しそうに笑う。

 

「よかったじゃないか、最後に生きる目的とやらを貰えて。そのおかげでこんな目に合っているわけだが、別に何とも思わないだろ。スラム街で生きてきたドブネズミにしては勿体なさすぎるご褒美だと思うぜ」

 

「……」

 

「尚且つ最期の最期で一目惚れした女の体に触れたんだ。いやあ羨ましいね。俺も最期には惚れた女に触れてから死にた」

 

「そいつは俺も同感だ。――だが、人が折角育てた獲物に横から手を出すのは関心しねえがな」

 

ニヤニヤしながら話を続けていると、唐突に後ろから聞こえてきた声に遮られた。

胡は表情を一切変えることなく腰を上げ、声がした方へ振り向く。

そこには、黒いロングコートに身を包んだ張維新が悠然と立っていた。

 

「こいつは目先のことしか頭になかった大馬鹿野郎ですよ大哥。大方、獲物の後ろに立っていた虎に気づかなかったんじゃないですか? ま、今回は虎だけじゃなく龍もテリトリーにいたわけですが」

 

「相手を知らないただの馬鹿ならまだマシだったんだがな。こいつらは()()()()()()()()()()()()

 

「そんな恐ろしい事すんのは余程の間抜けか向こう見ずの勇者と相場は決まってる。こいつはどっちでしょうね」

 

「はっ。これはまた腐った勇者様だなあ、おい」

 

革靴の音が部屋中に反響する中二人は軽く言葉を交わす。

だがお互いの声音は淡々としたもので、どこか冷たさを帯びていた。

 

胡は椅子を手に取り、郭の隣へと移動する。

張は入れ替わるように男の目の前まで歩みを進め、サングラスの奥から鋭い視線を向けた。

 

「よおドブネズミ君、随分アイツに遊んでもらったようだが気分はいかがかな?」

 

「……あんたが、張維新か」

 

「悪いが自己紹介する気は更々ない。こっちはお前のことを既に知っている上に、礼儀を正すべき間柄でもないだろ。――あと、その汚ねえ口で気安く呼ぶな。不愉快だ」

 

「……」

 

「お前には散々世話になった。いや、どちらかというとお前の御主人にか。……まあ何であれ、お前にも返さなきゃならん礼がある」

 

張は淡々とした口調のまま、己を見上げるその男を見据え続ける。

動揺からか、または恐怖からなのか男の瞳は微かに揺れていた。

 

「楊一诺という殺し屋の話は以前から聞いていた。若くして殺しの才能を開花させ、名を上げていったとな。だが、今回は手を出す相手を見誤ったな。どれほど馬鹿であろうとこの国の人間、ましてや裏家業の人間なら三合会に手を出せばどうなるかくらい簡単に分かるはずだ」

 

「……」

 

「お前達は()()()()()()()()()一番手を出すべきではなかった龍の子に触れた。それも、不快極まりない理由でな」

 

「……」

 

あの街でかつての仲間と見知らぬ密売人のつまらない理由で自分が巻き込まれたことを思い返しながら、腰に差していた自前の銃を一つ手に取った。

 

その銀色の銃のグリップには、天帝の二文字と一匹の龍が刻印されている。

二挺拳銃の使い手である張維新の愛銃として名高い天帝双竜の片割れが姿を現した。

 

周りの人間は「ださい」だの「変えないんだろうか」と思っているのだが、郭だけは滅多に見れないその光景に喜びに打ち震えたい心情を抱えていた。

三者三様に思う事はあっても、部屋中に満たされている緊張感のおかげで誰一人自身の感情を表に出すことはない。

 

張はクルクルと銃を回しながら淡々と言葉を続ける。

 

「更にそれだけでは飽き足らず、彼女の恩人であり俺が長い時をかけて育てた花にも手を出した。――この事には流石の大姐もご立腹だったよ。温厚な彼女が“一切の慈悲は無用”とまで仰った。まあ、それは彼女に言われるまでもないが」

 

張は先程電話での桜綾との会話を思い出していた。

キキョウが“少し痛い目に合わされた”と知った時の彼女の声音は、電話越しでもわかるほど冷たく怒気が含まれたもの。

彼女からそんな声音が聞けるとは思わず一瞬驚いたが、すぐさま気を取り直しあるべきことを約束した。

 

 

――それは、自分たちに歯向かった哀れな子羊に制裁を下すこと。

 

 

暗黒社会の中心で生きてきた人間がもたらすは、血に塗れた鉛と断末魔。

今回も例外なく、愚かな羽虫に制裁を下すだけだ。

 

 

やがて銃を回すのを止め、誰にも感情を気取られない顔で再び話を続ける。

 

「そう、彼女に言われるまでもなくお前に慈悲なんざ与えるつもりはない。……はっ、お前には分からんだろうな。すぐにはすべてを手に入れられないと分かった時から長い時間をかけてきたというのに、あと一歩というところで鼠に味見された気色悪さも、犬の小便にも劣る汚物を与えられた後処理を任された不愉快さも、分かるはずがない」

 

冷めた視線と一層低い声音が男の上から降り注ぐ。

隠しきれない殺気に直立の姿勢を崩せない周りの人間は、ただ静かに見守っている。

 

「罵詈雑言を浴びせ、原形を留めない程殴り気分を晴らすのもよかったが、よく考えればこれ以上お前如きに時間を割くのは時間と労力の無駄でしかない。――だから、とっとと終わらせよう」

 

冷徹に言い放った途端、銃の安全装置を外す音を鳴らす。

 

そして男の額に銃口を押し当てた。

 

「ああ、忘れるところだった。ついさっき入った情報だが、お前たちが落ち合うはずだった場所に一つの便箋があったそうだ」

 

「……え?」

 

「その便箋には、たった一言こう書いてあったらしい」

 

グリップを強く握りしめ、軋む音を鳴らす。

 

「“人の言葉一つに踊らされる色ボケとやっていく趣味はない”。これがお前のご主人様からの最期の言伝だ」

 

「なッ……!」

 

「では御機嫌よう、ドブネズミ君」

 

ただ一言告げ、やがて一つの銃声が鳴り響く。

 

 

 

張が放った弾丸は、男の体にもう一つ穴を空けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――だが空いた場所は頭ではなく、太い右腕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああッ!」

 

 

悲鳴が響く中、張は表情を一切変えることなく目の前で痛みで藻搔いている男を見据える。

 

 

「そう、俺がお前の為に割く時間は無駄でしかない。だが、死ぬには“まだ足りない”。なあ、お前らもそう思うだろ?」

 

「全く持ってその通りですね。こいつには何もかもが足りなさすぎる。だが、貴方の相手には役者不足だ。――そこで、俺から一つ大哥に提案が」

 

「ほう?」

 

部下からの言葉に、張はここで初めて口の端を上げた。胡もつられてニヤニヤした表情で話を続ける。

 

「そいつを預けていただければ、俺が貴方の代わりに愚かな鼠に制裁を与えますよ。勿論、残虐の限りを尽くし、文字通り身も心も全て壊すまで」

 

「そりゃ妙案だ。なら、こいつはお前に任せよう。――久々の玩具だ。たっぷり可愛がってやれ」

 

「喜んで」

 

愉しそうに笑う胡へ一言言い残し、ロングコートの裾を翻す。

その後ろを、郭が何も言わず着いて行く。

 

一切振り返ることなく、出入り口の方へまっすぐ進む。

 

後ろでは、「何して遊ぼうかなあ」と楽しそうな声が上がっていた。

 

 

 

 

 

「――お疲れ様です」

 

「ああ」

 

「これからはどのように」

 

「まずは龍頭に報告して、そのまま指示を仰ぐ」

 

「は」

 

部屋の外で壁に背中をつけながら淡々と言葉を交わした後、彪は携帯を取り出し張へ手渡す。

煙をため息とともに吐き出し、部屋の中からまたもや響いている男の叫びを聞きながら静かに自分たちのボスの番号へとかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

高層マンションの中にある我が上司の自宅。

その客室のベッドの上にはキキョウちゃんが寝息を立てている。

汗ばんだ体を拭き、着替えさせている間も起きる気配は全くなかった。

今は休息をとるように深い眠りについている。

元々相当疲労がたまっていた体に薬を盛られ、その状態で大哥と性行為したのであれば当然と言える。目覚めるのは数日後になるだろう。

 

先程急いで訪れたアタシに「後は頼んだ」と口早に告げ颯爽と出て行ったのであまり言葉を交わしてはいないが、相当苛立っていると分かるのは容易だった。

 

傍から見て、何度も口説き様々なアプローチをかける大哥とそれを本気にしないキキョウちゃんの様子ははっきり言ってとても興味深かった。

普段、性欲処理の為に女を抱きはするがそれ以上の関係を築こうとは全くせず、それどころかめんどくさい女は全部切り捨ててきた。

そんなクズ野郎と評されても納得しかできないあの大哥が、一人の女相手に必死に手を出すことを我慢し口説き続けてきたのは異常事態といっても過言じゃない。

部屋に招いた後本当に酒を飲んで帰らせていた事実を知った時は、アタシだけでなく周りの人間も驚いていたものだ。

 

はじめて大哥の部下になった人間がキキョウちゃんのことを「大哥の女」と勘違いするのは恒例になりつつあり、そんな二人がどうなるのか部下たちの間で話が盛り上がったのは数えきれない。

 

 

 

――それが、まさかこんな結果になるとは誰も予想していなかった。

 

 

そして、きっと一番この結果を望んでいなかったのは他でもない大哥のはずだ。

強引にでも抱かなかった女に薬を盛られ、その後処理をするように抱いたのだから。

望まないことではあったが、口説いてきた女が目の前で欲情していれば抱かないという選択肢はなかったのだろう。

 

 

彼はこれからどうするのか。

そしてこの子はどうなるのか。

 

二人の関係にアタシたちは口出しできない。

なら、これまで通り二人の行く末を黙って見守るだけだ。

 

 

 

――だが、心のどこかで『今後少しでもこの子にとっていい結果があればいいのに』とらしくないことを思っている自分がいた。

 

 

 









張さんが「お前には分からんだろう」と言っているあたりの心情。

胡「(うわ、マジでキレてんじゃん。久々に見たなあ。おっかね)」
彪「(まさかここまで入れ込んじまうとはな)」
郭「(声音だけでここまで相手を委縮させるとは、流石大哥)」


胡は拷問をよく担当してます。
キキョウさんと面識はありますが、彪や郭ほど親しいわけではないです。
だけど顔を合わせたら挨拶はする仲。

また出せたらいいなあ。







R18用のお題投稿しました。
詳細な内容は活動報告にて。
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