声のない基地   作:pilot

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目覚まし

AM4.00

 

 

戦術人形たちの活動開始時間は早い。

 

しかしここでも、この基地は静かだった。

寝坊助人形を起こすことなどできないし、そしてする必要もない。

 

ここでは無能は消されるのみ。

この時代において、無条件に多様性が受け入れてもらえるのは人間だけで、そしてユーザーは人形を取捨選択する権利がある。

 

もし仮に残酷な手口で破壊されても、何も気にやむことはないのだ。

 

早朝、誰も喋らぬこの基地で、様々な訓練に打ち込む人形がいた。

様々な銃の種類と、体格、性格。

それらの共通点は、ただ向上心が高いということでしかなく、とくに仲がいいだとか、同じ部隊所属だとか、そういうのは関係ない。

 

HK416は、欠陥という言葉と、存在自体が嫌いだ。

そして今、声というものが自らには欠落している。

完璧へ憧れるそれにとっては、この基地の風習は些事ではすまないことであった。

 

だからこそ他で補う。

強くなり、活躍して、そして指揮官に認められれば、この欠陥もいつか補ってくれるはず、と。

そう信じ込むのは、やはり人間に都合のいいように作られた人形故か。

何かについて自らの努力に結びつけるタイプであることから、そこそこここの基地でも重用されてはいたが、それでも指揮官からの評価は良く言えば日用品、悪く言えば消耗品程度のものだ。

 

別に差別されてるわけではない。

あなたは割り箸に命を感じるだろうか?

スポンジは?フライパンは?

ある一定の境目から人間は命のない物に命を感じる。

それはとても情緒的かついいことだ。

しかし情緒で飯が喰えるか?

この世界では道具や命を節約することはあっても、そこに感情は一切介在しない。

ただただそうした方がよかったからそうしただけ、ということである。

 

そしてここの指揮官は、それが顕著なだけであった。

別に何も、他の人間と変わりがない。

 

どこかの指揮官が日々使い捨てているメインではないダミー人形ですら、また別の指揮官は大事にしているかもしれない。

 

仲間の死を延々見せつけられながら、長距離砲撃施設に特攻させられた人形の話は有名だ。

 

だがそれは悪いことではない。

 

 

 

 

 

416のまた隣の施設で訓練を繰り返すのはAmKSGと呼ばれるショットガン人形。

 

最新鋭の技術を詰め込んだ高級な消耗品だ。

貴重だが、それまでだ。

だからそれも声はない。

 

生きているとは言えないようなそれの、特殊な技能は一般には生存本能と呼ばれる。

それの効率を上昇させるために延々訓練を続けているのだ。

 

きっと努力家なのだろう。

努力して、そしてそれが実ったとしても何も得られないと言うのに。

 

 

 

AM7.00

 

食事は人間でも人形でも大事なものだろう。

 

ここにいるほぼ全ての有機生命体、そしてそれに準ずる人形は、大体この時間に食事をとる。

 

清潔感、そして機能性両方に配慮された美しい空間つまり食堂に、規則的な食器の音のみが響く。

 

無論会話など聞こえない。

 

人形も喋らないが、人間も喋らないのだ。

 

そしてここに常駐している人間の内、喋る余裕のある仕事は指揮官と後方幕僚のみ。

そしてこの二人は非常に仲が悪かった。

いや、悪くならざるをえなかった。

後方幕僚は人形人権論者で、一方の指揮官はそういったものを逆撫でするような人種なので仕方ないのだ。

意見の違いによる歪みは大きい。

 

それはいつの時代も、誰が悪いとか誰が良いとかでもなく、どうしようもないことだった。

 

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