声のない基地   作:pilot

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産声の曙

AM.3.00

 

 

指揮官は眠らなくてもいいのだろうか。

 

後方幕僚らはもう帰ったのだろうか?

謎ばかりだ。

 

だいたい指揮官も後方幕僚も、そして副官のZasm21も気にしすぎだ。

結局声が無いことなど私たちには大した問題でもない。

人形同士なら様々な通信チャンネルを使い分けることで会話なんかよりももっと高度な意見の交換ができる。

 

むしろ人間の方がそういったことは不便なのではないのか。

 

正直もう朝の訓練へと行きたい。

 

手持ち無沙汰なので、腕の中の半身をさらりと撫でる。

プルバップ方式の珍しいショットガンの私は、人形的な価値としても中々のレア物だと自負している。

 

私は、案外こちらにひょっこりMP5は帰ってくるのではないのかと、楽観視している。

あれは、見た目からは想像しづらいが努力家だし、そうそうやられるような奴でもないと、私は知っているからだ。

 

 

 

AM7.00

 

まずい。まずい。まずいまずいまずい。

 

小柄な体を活かして、野道を高速で駆ける。

あれからもう二日もたってしまった。

 

実はわたしは現在戦闘後の損傷により通信が上手くいってなかっただけで死んだどころか鉄血に捕まってすらなかった。

 

それなのに、わたしは置いていかれた。

まあ仕方ない。信号もなく、また私以外のほとんどの人形は声を出すことができない状態で、捜索などできるわけがないし、そもそも人形一つくらいどうってことないのが現実だ。。

後方幕僚の温情で、わたしのみがこの基地で声を出せる唯一の人形となっていた。

 

だがまずい。

 

シチュエーション的に絶対に迷惑をかけている気がする。

 

「あれっ!?MP5じゃないですか!?生きていたのですか!」

 

慣れ親しんだ声が聞こえる。

 

「幕僚さん!?どうしてこんなところにいるんですか!?」

 

驚いたのは、後方幕僚さんのみならず、ヘリコプターのおじさん、食堂のおばちゃん、その他もろもろの人間が旅団のように連なる車に乗って移動させられているところだった。

 

「いや、あんたが声を得たことを指揮官さん知らなかったんだ、そんでお前が居なくなったときにそこの幕僚がお前に声を与えたとばらして、んで指揮官は声があるのに行方不明になってほっといたことで情報漏洩が起きたと勘違いして俺らをあの基地から逃がしたんだ、多分今すごい顔で来るはずのない鉄血を待ち構えてるよ」

 

そうこぼすのは、指揮官と付き合いの長いヘリコプターの運転手さんだった。

 

「見つかったんなら戻るか、別に鉄血に変なことされたわけじゃあないんだろう?大丈夫さ、俺が話つけといてやる。

声の使い方ってのはこうするってことをお前らに見せてやるよ」

 

その背中は、いつにもまして頼り強く見えた。

 

 

 

 

 

PM5.00

 

「ほら、指揮官が寝落ちしてるぞ、今まで寝坊助起こすことなんかこの基地では無かったんだ、ほら、起こしてみろよ。あ、揺するのはなしな、声で起こせ、声で。」

 

正直緊張する。

元から指揮官とはお話ししてみたかったけれど、こんな大変な状況で話すことになるとは思わなかった。

怒られるかな。

でも。覚悟を決める。

 

「お、おはようございます!指揮官様!きょ、今日も頑張りましょう!まあもう五時だいなんですけども......」

 

喋り慣れない定型区を一気に吐き出す。

よし、なんとかなったかな?

 

指揮官はわたしを見ると目を白黒させ、そして恐る恐る尋ねてきた。

 

「......鉄血に変なものをインストールされたのか......?それともお前はMP5の振りをした鉄血か?

それとも私はまだ生きていれるのか?」

 

「わわっ、えーと、えーとそうじゃなくて、私は普通にその......」

 

指揮官様の怪訝な眼差しに耐えられない。

恥ずかしいけども、でも自らの口で指揮官様と話せたのは嬉しかった。

 

「もういい。今回の件は君は全く悪くない。

一重に我々の情報交換不足だ。君たちには責任はない。」

 

ほっ...と、胸を撫で下ろす。

 

「指揮官よぉ、お前少しは優しくしたらどうだ、お前が俺たち人間を一番に考えて、人形を使う俺たちの罪悪感の軽減のために声を敢えて与えないのとか、俺は長い付き合いだからわかるが、ほとんどの人間には性格が悪いようにしか写らないぞ。」

 

 

「......無駄じゃないのか」

 

「無駄じゃねえよ、俺たちだってかわいい女の子と話してえぜ、なあ、幕僚さんもそうおもうだろ?」

 

咄嗟に話を振られた幕僚も、さっきのわたしと一緒であたふたしている。

 

「いや、私はただ彼女たちがかわいそうに思っただけで......」

 

「ははっ、恥ずかしがんなって、ほら、皆にも声与えてみろよ、案外いいものかもよ?」

 

「......お前たちはこれ以上人間に寄せたものを使って罪悪感を感じないのか」

 

「死なせなきゃいいだろ?お前の言葉を借りりゃ、そっちの方が効率的だぜ。」

 

「そうか......わかった、いいだろう、人間に精神的にいい影響を及ぼすなら、この基地にも『声』を実装する。」

 

え?やったぁ!これで皆さんの本当の声が聞けるんですね!嬉しい!

 

「......その、なんだ。お前には少し言い過ぎたかもしれない。ただ私は、人形に忖度しすぎて、お前のような優しい人間が苦しむ姿をみたくなかったのだ。

......すまない、逆効果だったようだな。」

 

指揮官の謝る声もはじめて聞いた。

 

「いえ......こちらこそ、Zasm21にもひっぱたかれましてね......彼女たち、案外声なんかに拘ってないのかも知れませんね.....私も、すこし押し付けがましかったかもしれない。」

 

すごい、すごい!

声があるって、すごい!

文字だけじゃ伝わらない事を、気持ちを乗せて相手に伝えられるんだ!

今わたしはすごいいいものを聞いた気分だ。

今まで喧嘩ばかりだった彼らがら、仲直りしている。

純粋に嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、あーあー、ふん......」

鏡の前でひとしきり口を動かす人形が一人。

 

青い髪の、すこし、冷めたような顔をしている彼女は、しかし内心浮かれていた。

 

「よく聞いたら......私の声って......結構かわいい......?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、声を得て浮かれた人形たちによる騒音被害により、またしばらくの間声のない基地に逆戻りしたのは、あとになっては笑い話だ。

 

まるで赤ん坊の産声のような喧騒だったらしい。

 




終わり!平和!終了!
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