精霊たちが異世界から来るようですよ?   作:夜桜紅

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王女~後編~

「・・・・・・・・・。すいません。やっぱり黒ウサギ一人で向かった方が良さそうです」

 

『むぅ・・・・・・・・・乙女を一人で危地にやるのは気が進まないが・・・・・・・・・私では不足かい?』

 

「はい。もしもの場合に貴方を守れないかもしれない。それに失礼ですけど、駆け足も黒ウサギの方が速いですから」

 

ユニコーンは苦笑いしながら数歩下がる。

 

『気を付けて。君の問題児君にもよろしく』

 

黒ウサギは頷くと、緊張した表情のままトリトニス大河を目指して走り出す。

彼女の姿は瞬く間に遠くなる。風を追い抜き、木々を撓らせ、光の如く森を抜けていく。

眼前が開け、僅か数瞬間後には森を抜けて大河の岸辺に出た。

 

「この辺りのはず・・・・・・・・・」

「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

 

背後からあの忌々しい問題児の声が聞こえる。どうやら十六夜は無事だったらしい。

黒ウサギの胸中に湧き上がる安堵、は全くない。散々振り回された黒ウサギの胸中はもう限界だった。怒髪天を衝くような怒りを込めて勢いよく振り返る。

 

「もう、一体何処まで来ているんですか!?それにその方は一体何方ですか!?」

「“世界の果て”まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」

「私か?私は夜刀神十香だ」

 

十六夜の小たらしい笑顔も健在だ。心配は不要だったらしく、何処にも傷はない。あえて半刻前と違うところを挙げるのであれば、落下した時よりびしょ濡れだったぐらいだろう。

 

「しかしいい脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺に追いつけるとは思わなかった」

「むっ、当然です。黒ウサギは“箱庭の貴族”と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

 

アレ?と黒ウサギは首を傾げる。

 

(黒ウサギが・・・・・・・・・半刻以上もの時間、追いつけなかった・・・・・・・・・?)

 

「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

「水神?―――ああ、アレのことか?」

 

え?と黒ウサギは硬直する。十六夜が指さしたのは川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノだ。黒ウサギが理解する前にその巨体が鎌首を起こし、

 

『まだ・・・・・・・・・まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』

 

十六夜が指したそれは―――身の丈三〇尺強はある巨躯の大蛇だった。それが何者か問う必要はないだろう。間違いなくこの一帯を仕切る水神の眷属だ。

 

「蛇神・・・・・・・・・!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」

 

ケラケラと笑う十六夜は事の顚末を話す。

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。俺を試せるのかどうか試させてもらったのさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

 

『貴様………付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。

黒ウサギが周囲を見れば、戦いの傷跡とみてとれる捻じ切れた木々が散乱していた。あの水流に巻き込まれたが最後、人間の胴体など容赦なく千切れ飛ぶのは間違いない。

 

「十六夜さん、下がって!」

 

黒ウサギは庇おうとするが、十六夜の鋭い視線はそれを阻む。

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

本気の殺気が籠った声音だった。黒ウサギも始まってしまったゲームには手出しできないと気づいて歯噛みする。十六夜の言葉に蛇神は息を荒くして応える。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやる』

 

「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ。」

 

求めるまでも無く、勝者は既に決まっている。

その傲慢極まりない台詞に黒ウサギも蛇神も呆れて閉口した。

 

『フン―――その戯言が貴様の最後だ!』

 

蛇神の雄叫びに応えて嵐のように川の水が巻き上がる。がその瞬間“空間が震えた”まるで何かを恐れているかのように

だが何百トンもの水を吸い上げ蛇神の丈よりも遥かに高く舞い上がる渦を巻いた水柱はもう止められない。

竜巻く水柱は計五本。それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲いかかる。

この力こそ時に嵐を呼び、時に生態系さえ崩す、“神格”のギフトを持つ者の力だった。

 

「十六夜さん!」

 

黒ウサギが叫ぶ。しかしもう遅い。

竜巻く水柱は川辺を抉り、木々を捻じ切り、十六夜の体を激流に呑み込む―――!

 

「―――ハッ―――しゃらくせえ!!」

 

突如発生した、嵐を超える暴風の渦。

十六夜は竜巻く激流の中、ただ腕の一振りで嵐をなぎ払ったのだ。それと同時に空間の震えが収まりそこに人影が現れる

其れは咲夜であった。だがさっきの十六夜の一振りで消せなかったのか二つの水柱が襲いかかる

 

「咲夜さん!」

「咲夜!!」

 

今度は二人が叫ぶ。

咲夜は避けるような動作すらせずに言葉を紡ぐ

黎明熾天《ルシフェル》”と

そして純白の長刀が現れる

咲夜はその純白の長刀を“二振り”持ち、構える

水柱が咲夜を引き裂こうと触れたように見えた瞬間、水柱が四つに分かれた。

勿論、これに黒ウサギは驚く

だが、本当に驚いたのは、咲夜が“神格持ち”ということだったのだ。

 

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