「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」
今ごろ黒ウサギの頭の中はパニックで一杯だろう。その証拠に冗談めかした十六夜の声は黒ウサギに届いていない。
と、思ったら今度は何やら興奮を抑えきれない、といった様子の黒ウサギ。
「おい、どうした?ボーッとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」
「え、きゃあ!」
背後に移動した十六夜は黒ウサギの腋下から豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から脚の内股に絡むように手を伸ばしていた。
「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷つけるつもりですか!?」
「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」
「お馬鹿様!?いいえ、お馬鹿様!!」
「ま、今はいいや。後々の楽しみにとっとこう」
「さ、左様デスか」
ヤハハと笑う十六夜は黒ウサギにとっての天敵かもしれない。
「と、ところで十六夜さん。その蛇神様はどうされます?というか生きています?」
「命まで取ってねえよ。戦うのは楽しかったけど、殺すのは別段面白くもないしな。“世界の果て”にある滝を拝んだら箱庭に戻るさ」
「ならギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから」
「あん?」
十六夜が怪訝な顔で黒ウサギを見つめ返す。黒ウサギは思い出したように補足した。
「神仏とギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが“力”と“知恵”と“勇気”ですね。力比べのゲームをする際は相応の相手が用意されるものなんですけど………十六夜さんはご本人を倒されましたから。きっと凄いものを戴けますよー。これで黒ウサギ達のコミュニティも今より力を付ける事が出来ます♪」
黒ウサギが小躍りをしそうな足取りで大蛇に近寄る。
三人はそれを遮る。
「……黒ウサギ、お前何か決定的な事をずっと俺たちに隠してるよな?……お前はどうして俺達を呼び出す必要があったんだ?」
「そ、それは……言った通りです。十六夜さんたちにオモシロオカシク過ごして頂こうと……」
「ああ、そうだな。俺も初めは純粋な好意か誰かの遊び心で呼び出されたんだと思っていたんだよ。俺は大絶賛“暇”の大安売りしていたわけだし、他の三人も異論が上がらなかったってことは、箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ。だからオマエの事情なんて特に気にかからなかったんだが―――なんだかな、俺には、黒ウサギが必死すぎに見える」
何も答えずに黙ってしまう黒ウサギ。
十六夜はその姿を見て、更に話を進める。
「これは俺の勘だが、今、確信に変わった。黒ウサギのコミュニティは弱小のチーム、もしくは訳あって衰退したコミュニティなんじゃねぇか?」
「…………」
「沈黙は是なりだぜ、黒ウサギ」
泣きそうな顔になった黒ウサギ。
返答を待つ十六夜。
そしてそれを眺め、話に耳を傾ける俺。
何とも奇妙な空気が流れ始めた。