俺ガイル色々ごちゃごちゃ   作:根王

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 胸糞悪い描写があります。嫌な人はブラウザバックです



彼は少女に同じ道を辿させない為に勇気を少し与える 前編

「蝉が煩い季節だな」

 

 夏休みに突入した今日この頃です。小町は中学三年生、つまり受験シーズンだ。少しでも楽にしてやりたいが受かるどうか本人次第だ。この夏休みはかなり追い込みだ。冬が楽になるからなこういう重要な時期なのに暑いとは…なんかムカつくな。使えそうな書籍を探すため、アウトレットモールの中へ書店に入る前に戸塚と材木座に見かけた。戸塚は部活帰りなのか、同じジャージの生徒がいたのであえて声を掛けないでおいた。ちなみに材木座は無視した関わるだけめんどいからな。書店に入った瞬間、とある人物と目が合ってしまった。

 

 

 

 雪ノ下雪乃

 

 

 

あの日から由比ヶ浜は奉仕部に来ていない。俺があいつの優しさを否定していた以上に状況は悪い。長らく一人であったであろう雪ノ下は自分にとって数少ない友人である由比ヶ浜を来なくなって以来、以前のような雪ノ下ではなくなっていた。ただどこかを見つめ呼び掛けても返事をしなかったり曖昧な返事をするだけ…そんな雪ノ下を見て業を煮やして檄を入れるが…大して効果はなかった。だが、そんな雪ノ下の一面を見てこいつも一人の人間だと考えさせられる

 

 今、書店でこいつに会っているが…林間学校のボランティアをこいつに振ってみた。その時は返答を得られなかったがそれの返答を今聞くべきだろう

 

「よお」

 

「…こんにちは」

 

 俺を見ず本を見つめてままの雪ノ下だが、あの時からは多少声に張りがあった。少しは元気を取り戻せたか?なら聞くだけだな

 

「林間学校の返事を聞きたい」

 

「…」

 

「その程度か?お前にとって由比ヶ浜は薄っぺらい関係なのか?」

 

「私は…」

 

「なんだそんなことか、俺にあれだけ言っていたが…お前が嫌う虚言は…お前自身じゃないのか?遊戯部の連中の時、お前は正しさからあいつらを打ち負かそうとしたが」

 

「由比ヶ浜はお前に賛同しなかったな。あの時正しい判断をしたのは言うまでもなく由比ヶ浜だ…お前はさ…どっちが大切なんだ?自己が称賛される栄光か?それとも友との絆か?いや栄光か…だってあの時のお前勝負を選んだもんな」

 

「黙りなさい!」

 

 本を閉じ、雪ノ下は顔を上げた。その眼には力強さがあった

 

「彼女と…由比ヶ浜さんと…もう一度…!」

 

「それだけ聞ければ十分だ。荷造りしてけよ。じゃあな」

 

 踵を返して、その場を後にした。あいつの明確な意思を確認できたそれだけでも十分な収穫だ。お目当ての書籍も買えたのであとは帰るだけ、家に帰ったらアイスでも食べるか。…と思ったら

 

「あ、ヒッキー」

 

「おう」 

 

 夏仕様のファッションを身に纏う由比ヶ浜に声を掛けられ足を止める。序にだが三浦もいた。

 

「んだ。ヒキオじゃん」

 

 由比ヶ浜の背後から現れたのはカースト上位の女子、三浦優美子だ。俺を見ては興味無そうな言葉を掛ける。安心しろ俺もお前に興味はない

 

「ちょっと由比ヶ浜を借りていいか?」

 

「んじゃあそこで電話してくるから終わったら言ってね~」

 

 日陰に場所を移し携帯を取り出し誰かに電話を掛けたようだ。それに気にせず俺は由比ヶ浜に雪ノ下のことについて尋ねる

 

「雪ノ下とは…まあ言わなくても分かるか…」

 

「うん」

 

「…林間学校来るかもしれないぞ。ただ、あいつは真剣な目をしていたぞ。多分、お前のことを」

 

「分かってるよ。あたしもゆきのんのことを大切だよ…でもね」

 

「雪ノ下はプライドと正義感が強すぎるからな…成績といい容姿といいどちらかというと尊敬されやすいからなあいつ…でもな、あいつ。お前が来なくなって威厳もクソもなかったぞ?」

 

「えっそうだったの?」

 

「ああ、だから。すぐに許せとは言わない…でも、もう一度あいつと向き合ってくれないか?俺もお前と向き合ったようにな」

 

 由比ヶ浜の目には迷いがあった。もう一度雪ノ下を信じたいという迷いが、それを晴らすにはどうすればいいのか?それは雪ノ下の意思を伝えればいい 

 

「あたしも行く…やっぱりゆきのんとは仲良くなりたいから!」

 

「分かったお前の意思も確認した…当日遅れるなよ、じゃあな」

 

 やっぱり仲良しじゃんこの二人。さて、林間学校当日が楽しみだ

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

数日後

 

 林間学校初日、千葉駅に集合している。今回は小町もいるのだ。まあ、勉強頑張っていたからなそれのご褒美という形で急遽参加している。何故か水着を持っていく小町から進言された…おいおい泳ぐなんていつ頃だよ。中学以来だぞ…あと平塚先生、メールめっちゃしつこいっす。確認のメールには多すぎです。土壇場で焦る人ですかあんたは、千葉駅には俺、小町、川崎、戸塚に雪ノ下と由比ヶ浜が集まる予定だ。この二人は千葉村に向かう平塚先生の車の中でお互い話し合おうということになった。これってリスクあるよな、だって拗れたらそれはそれで雰囲気最悪だからな。修復できれば良いんだがな…

 

「そろそろだな」

 

 携帯を取り出して時間を確認する。

 

「戸塚さんやっはろー!」

 

「うん、やっはろー」

 

「あれ?そんな挨拶を教えたことあったけ?」

 

 何?流行ってんの?俺がやったら十中八九引かれるから駄目だな

 

「沙希さんやっはろー!」

 

「おはよう」

 

「来ても大丈夫だったのか?」

 

「うん、親が行って来い、てさ」

 

 スカラシップを取ってもアルバイトをしている川崎。勉強といい予備校といい…本当に大変忙しい奴だ。それでも奉仕部に来てくれる。雪ノ下と由比ヶ浜も無理をして来なくても大丈夫と伝えるがほぼ毎日来てくれる大切な仲間だ

 

 戸塚と川崎が来てあとは二人だけだ。噂をすればなんとやら…

 

「やっはろー!みんな…」

 

「こんにちは、みん…な…」

 

 うっわ…うわ、うわ。なんというタイミングだ。あれだろう、ちょっと遅れて良い感じに合流しようとしたら偶然顔を合っちゃった奴。なんという奇跡、なんという悪運…お互いに顔を見たままどれぐらい経ったのだろう

 

「いつまで見ているんだ。早く乗りたまえ」 

 

 平塚先生の催促がなければどんぐらい見つめ合っていたんだろうな…百合のような展開はお求めになっておりませんので至急乗車してください

 

 せっせと荷物を荷台スペースに置いて、先生の7人乗りのワンボックスカーに乗っていく俺は助手席へと座る

 

「全員乗ったな。では出発だ」

 

 ワンボックスカーを千葉駅から走らせ高速に入る。これから向かうのは県外にある千葉村だ。そこでは地元の小学校が林間学校を開いているそうだ。そこで俺たちがボランティアとして参加する

 

「ねえ、お菓子食べない?買って来たんだ」

 

 由比ヶ浜がバッグからキャンディーやらチョコを取り出し見せる。俺はマーチを貰い開封してそれを口へと放り込みペットボトルのマッカンで流す。小町もキャンディーを舐めている

 

「ゆきのんも…どう?」

 

「え、えぇ…頂くわ」 

 

 由比ヶ浜は「あ、そうだ!」といい菓子類を取り出したバッグを更に漁るとパンさんの顔をあしらったクッキー缶を取り出した。ディスティニーランドかそれ関連の店で買ったのか、それとも意図しない形なのだろうか。その選択に俺と川崎は目を合わせ心の中で「でかしたぞ!ガハマぁ!」と叫んだ

 

「これは…」

 

「ちょっと奮発しまして…えへへ」

 

「ふっ…ありがとう由比ヶ浜さん。美味しく頂くわ」

 

 雪ノ下の硬かった表情が幾分かマシになった様子だ。蓋を外し一袋を取り出しクッキーを一口…こいつ、すげえ満足そうな顔してるぜ…手で口を覆うあたり上品な食い方だな。飲み物を取り出しそれを一飲みして口を開くと同時に由比ヶ浜も口を開いた

 

「「あのこの前は!」」

 

「あ、あら?」

 

「あ、え、えっとゆきのんから先にいいよ…」

 

「えぇ…ごほん。由比ヶ浜さん、この前はごめんなさい。彼らを打ち負かすことを考えすぎたばかりに…あなたも気持ちを考えてあげられなかったわ、この前の比企谷くんに言っていたつもりなのに人のこと言えないわね…何をしていたのかしら…私は」

 

「ううん、もう大丈夫だよ。あたしはもう大丈夫だから。あたしこそごめん…奉仕部に行かなくて、もっと早く行ってゆきのんと仲直りしたかったんだけど…あんなこと言っちゃって不安で…ごめんなさい」

 

「気にしないで、これも比企谷くんのお陰ね」

 

「うんヒッキーのお陰だね」

 

「そうでもねえよ仲直りできてよかったな」

 

「うわ…出たお兄ちゃんの捻デレ…」

 

「まあでもよかったよ。これで林間学校も楽しめるじゃん」

 

「そうだね、八幡は凄いよ」

 

「…だからそうでもねえって」

 

 褒められるのは慣れないな…それはともかく、千葉村に着く前に仲直りできてよかった。着いてからも色々と考えたが杞憂になったようだな。二人の友情が元に戻りこれで奉仕部の活動も…それにしても大分時間も余ったな…なら

 

 俺の話でもするか、丁度良いメンバーもいることだし言っても良いだろうな

 

 

 

 

 

 

 

 俺の過去を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「丁度和解したところで悪いが俺から話がある」

 

「どうしたのヒッキー?」

 

「…ここにいる人間に俺の過去を教えようと思う」

 

「そう…決心がついたのね」

 

「やっと教えてくれるんだ」

 

「ああ、そうだ。小町は勿論、雪ノ下、由比ヶ浜、川崎、戸塚、平塚先生に教えてもいいと思ったからだ。。長くなるが聞いてくれ」

 

 

 

 

 そうだな。俺が比企谷菌といじられていた小学生の頃だ。5年生のときにクラスに一人の女子が転校してきた。容姿はとんでもなく綺麗で可憐だったよ、クラス中の男子が鼻を伸ばしたぐらいだ。仕草の一つ一つに気品さを感じたんだよ、そのお陰で学年で一番の人気者さ

 

 だが、一番面白くないのは誰だと思う?そう、今まで地位の高かった女子たちだ…色々とあの手この手で考えていたが態度も成績も優秀で運動神経抜群の彼女だ。もはや無双だよ無双、誰もが憧れる…そんな人だった。だけど、彼女にはもう一つの顔があったんだ。

 

 それは子役、つまり役者だ。彼女は芸能人だったのさ…当時、人気が出てきた新人の子役。お袋が朝ドラ見てすぐに気付いたんだ。おもわず腰を抜かしそうなったよ。親父は飲んでいたコーヒーを吹き出して母ちゃんにすんげー怒られたけど

 

 それが同じクラスの生徒の親が知られて広まった。彼女もそれを認めた形だった。それからの彼女に対する見方はうなぎ上りになった。だが、そこからだった…彼女の地獄が始まったのは

 

 ある日、同学年でも有名で一番のイケメン男子が彼女に告白したんだ。誰もがお似合いのカップルが誕生すると思った…だけど、彼女は断ってしまったんだ。勿論大騒動だった、大ニュースさ…本人に聞いたんだが事務所側が恋愛禁止と演技に集中したいという意志があったから断ったんだ。だけど、これによりあらぬ誤解が生まれ始めた…というか良くない噂だな。それが瞬く間に広まり次第に彼女の立場は無くなっていったんだ…それにあまり誰とも関わろうともしなかったことも悪く思われていた

 

 始まりは彼女がドラマの撮影が終わり登校を再会した日だ。机には落書きだらけだ…とても口で言えない言葉だった。彼女は何とも言えない様子でその日を過ごした…翌日、俺がこっそり机を取り換えて置いた。放課後こっそりと落書きを消したり朝早くから消したりしてた。それの繰り返す中、今度は一つの噂が広まった。それが

 

 ロリコンのプロデューサーに体を売っている、という噂が広まったんだ。主犯格はカースト上位の女子と振られた男子生徒だったんだ。小学生の割には随分と考えて行動してたよ…奴らは、女子たちは彼女の容姿と能力に尊敬を通り越して憎悪に、男子は恥をかいた代償として彼女を言葉による暴力を始めたんだ。

 

 次第にそれがエスカレートしていった。ひそひそと陰口を言われ、彼女は独りになっていった。それでも、彼女は強かった。最初は驚きはしたけど平然としていた。彼女が独りになってから決まって屋上に忍び込んで空を見上げていたんだ。俺は彼女がまだ何かされて落ち込んでるじゃないのかと思って様子を見に行ったら…案の定バレたよ。色々と

 

『君だよね…あの日の机と私が取られたキーホルダーを取り返してくれたのは』

 

 彼女への嫌がらせの一つとして、大切にしていたドリームキャッチャーを女子たちは取ってどこかに隠そうとしたんだ。偶々聞いていた俺が隙見て奪い返したんだけどな。他の物とかも、それをこっそりと下駄箱や机の中、置手紙で指示して返していたんだ

 

『な、何を言ってるのかわかりまひぇん』

 

『動揺しすぎだよ、比企谷くん?』

 

『驚いたな。俺の名前を間違わずに言えるとは…』

 

『ふふ、不思議な人…あなたも何か言いに来たの?』

 

『別に…俺独りだし』

 

『私もだね』

 

『お、おいそれは…』

 

『ううん、私はずっと独りだよ…前からずっと』  

 

 彼女はみんなが思っているような人物じゃなかった。ただ、亡き母に憧れて役者を目指す健気な少女だったんだ。彼女は教えてくれた。亡き母が出演していた映画、ドラマを見て…役者を目指す切っ掛けになったんだ。役者を目指すことに集中し過ぎて人付き合いの方を疎かにしてしまったんだ。だから、誤解されやすかったんだ。それから俺は屋上でこっそり落ち合って色々話した。そして、俺は誓ったんだ彼女の少しでも力になろうと…恋を抱いたじゃない。ただ、力になりたかっただけだったんだ。

 

 そこから色々やった。彼女の嫌がらせの証拠を掴むため、家からこっそり持ち込んだカメラとボイスレコーダーで証拠を取った。言い逃れできないようにな、それを彼女に伝えたんだが

 

『必要無いよ』

 

『えっ?でも、これがあればあいつらはもうお前に』

 

『比企谷くん。大丈夫…わたしは大丈夫だから、私にはこれがあるから』

 

『それは?』

 

『お母さんが遺してくれた。これ…お守りがあるんだ』

 

 彼女を見せてくれたのは何より大事にしていたハートの形をしたロケットペンダントだった。中には生前の母親と彼女の写真が入っていたんだ

 

『もういないけど…これがあればお母さんは見守ってくれる気がするんだ』

 

 そう教えてくれた彼女の笑顔は忘れていない。彼女の母は娘を愛するように彼女自身も母を愛していたんだ。それから家に上げてゲームしたり、小町と遊んだりしてた。父親はいるけど仕事で忙しいらしいから仕事の無い日は俺ん家で遊んでいた。少しでも居場所を増やしてやりたくてな、学校では辛い時間だが終われば関係無い。こんな時間が長くは

 

 

 

 

 

 続かなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 等々、奴らに俺たちが屋上で会って話していたり、小町の誕生日プレゼントを買いに一緒に行ったところを目撃されたんだ。そこからイジメが更に加速した。まず、俺にも被害が来た。ドッジボールで執拗に顔面狙われたり物隠されたりした。俺に向く分なら構わなかったし彼女の被害が減ればそれでよかった。そんなことがあっても俺は彼女の前で強がっていた。平気だと、体がボロボロになってもな

 

 だが、彼女は俺を心配していたんだ。ボロボロになっていく俺を見て耐えられず。次第に学校に来なくなって遊ぶこともなくなって…

 

 あの日を迎えたんだ

 

『もういいよ…疲れたから…もう…』 

 

『何言ってんだよ。俺なら大丈夫』

 

『私を助けなくていいから…構わないで…あなたまでも巻き込んでしまうから…』

 

『だから俺は…大丈夫。大丈夫なんだよ。今度、一緒に』

 

『ごめんなさいそれはできないの。これ以上あなたを傷付けてしまったら…私は…私は…!』

 

 

 

 

 

 

 

『私自身を許せなくなってしまうの!だから…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さようなら、八幡』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は涙を浮かべながら暫く抱きしめて、彼女は去っていったんだ。それから、彼女は来ることはなかった。ただ独りで沈む夕日を見続けていた…

 

 放課後、教室でボーとしてると主犯格の男子が来たんだ

 

『やあヒキタニ。見事にふられたね』

 

『お前もな。俺がふられるよりもお前の方が有名だったもんな』

 

『黙れよヒキタニ。お前如きが彼女に近寄ってるんじゃない…彼女は僕がお似合いさ』

 

『…お前まだ狙ってんのか』

 

『当たり前さ。あの娘たちに協力して貰ってるけど…いずれはね』

 

『お前、同じ小学生かよ…あいつらまで利用するのかよ』

 

『そうさ、僕はイジメから救ったヒーロー…それでふられた時のことをチャラにしてやるさ』

 

 そいつは彼女のことを諦めてなかったんだ。とんだ愛だよ。しかも、そいつの母親、保護者会の中でも一番の権利を持って息子を溺愛し過ぎた馬鹿親…モンスターペアレント…前々から演劇や運動会で息子が目立つ配置じゃないと気が済まなくて教師たちを困らせていたんだとさ。それもあって教師たちも動けなかったんだ

 

 俺も俺で彼女が来なくなって虚無感に囚われていたんだ。何もする気もない…ただ時を過ごすだけ

 

 

 

 

 

 運命の日が来たんだ。彼女が珍しく登校して帰り道のことだったんだ。おつかいの帰りに偶々橋を渡ったときだった

 

『お願いそれだけは!』

 

『なんかさ、ムカつくんだよねー前々からこんなもん身に着けてさ』

 

『そうそう、元々目立つのに更に目立っちゃってさ』

 

『腹立つんだよね…あんたさ…舐めてるでしょ?』

 

『お願い!それだけは!そのロケットペンダントだけは!返して!』

 

『だったら取ってみなよ!それ!』

 

『あっ!』

 

『こっちこっち!』

 

『パスパス~!』

 

 女子組が彼女に絡んであろうことか、大切なロケットペンダントを奪ってからかっていたんだ。彼女は必死に取り返そうとしたんだが

 

『行くよ~!』

 

『わっ!ちょっとどこ投げて…あっ』

 

 手元が狂ったのか…ロケットペンダントは川に落ちたんだ。かなりの深さで注意書きもあるぐらいの危険な川だ。けど彼女は

 

『お母さん!』

 

 ランドセルを置いて飛び込み台のように川へ…流されるロケットペンダントを目掛けて泳いでいたんだ

 

『う、嘘…違う…違う!そ、そんなつもりは!』

 

『あんなが変なところ投げるから!』

 

『元々はあなたが言い出したことじゃん!どうすんのこれ!』 

 

『○○!待ってろ!』

 

 買い物袋を放り投げて、河川敷を走った。彼女は泳ぎ続けロケットペンダントを

 

『と、取れた!』

 

『早く上がれ!』

 

 すぐに上がるように大声で叫んだ…でも、様子が可笑しかったんだ。

 

『どうしたんだ!』

 

『あ、足がもつれて…うぅ』

 

 彼女の頭が沈みかけていたんだ。

 

『誰か!人が溺れている!誰か!誰か!』

 

 俺は大声で叫んだ。するとその時間帯にランニングしていたおっさんが気付いてすぐに携帯で消防を呼んでくれたんだ。でも、彼女の体力限界だった

 

『今行くぞ!』

 

 俺も川に飛び込んで彼女を助けようとしたんだ…でも、さほど運動してない俺ができたのは彼女の体を水面に出させるぐらいしかできなかったし、俺も溺れかけていたんだ…それでも彼女はロケットペンダントを手放すことはしなかった。それを見て…意識がなくなった

 

 目が覚めたら病院のベッドの上だった。起き上がったら両親と小町が大号泣しながら俺に抱きついて無事を喜んでいたんだ。彼女も無事に助かったんだが…精神的にやられたんだ。ロケットペンダントをあんな風にされて

 

 あと、女子どもは怖くなってその場から逃げたんだ。何食わぬ顔で学校に来てな…この事件は有名になったんだ。しかも、現役の子役だ。世間からも注目される。主犯の男子もまさかの事態に焦っていたんだ。女子に指示を出していたのもそいつだからな

 

 それから彼女の父親が見舞いに来たんだ。顔面蒼白だった。彼女との面会が終わったあと俺はその父親に食って掛かった

 

『あんたは…あんたは仕事の方が大切なのか!彼女はあんな目にあっていたのに!なんで…なんで!』

 

『…すまない』

 

『あんたは…ろくでなしだ!あいつらが人でなしなら…あんたは…!あんたは…!』

 

 親父に止められるまで何度もその人に容赦ない言葉を浴びせたんだ。何度も何度も…

 

 その事件から彼女は父親以外の人間と接触を拒んだ。俺も小町ですら…学校は事件で持ち切り、そこで俺はあることを実行に移したんだ。以前録画した完全な証拠。それを保護者会で流そうと

 

 当日、彼女の父親は学校に来て娘の状況について説明しイジメはあったかどうか質問した。特に主犯の男子に

 

『あなたの息子さんは娘に何かしましたか?教えてください!』

 

『私の息子がそんな下賤な真似は致しません!言い掛かりはよしてください!』

 

 俺は父親に主犯格の男子について教えた。しかし、あの母親だ。真実を知ることはしないし息子も教えないだろう。だからあの映像と音声を流したんだ。多目的室に乱入して映像と音声を流した

  

 それからどうなったか知らない。イジメてた奴がどうなったのかを

 

 ただ主犯格の男子は中学校で一緒だったのは覚えてる。爽やかイケメンだったあいつは根暗な陰キャになっていて俺よりも扱いは酷かったな。よくパシられていたのを見かけた。そんで俺を見ては怯えて逃げるように去る

 

 彼女もそれ以降、出演することはなかったし家も引っ越していた。そんな俺に残ったのは助けてあげられなかった罪悪感だ。あの屋上の日で無理矢理でも手を引いていれば…あんなことは起きなかった。夢でも川で溺れる彼女を何回も見て…やがて自傷行為に走ったんだ。それが俺にできる罪滅ぼしだと 

 

 

 

 

 

「それがこの傷だ」

 

 包帯を外し左腕を差し出した。皆が息を吞んだ…左腕に刻まれた刺し傷、切り傷…酷い光景だ

 

「これが俺の過去だ。随分と長くなったな」

 

「そうだったのね…そんな過去をあなたは」

 

「そんなあんまり過ぎるよ…そんなの!ヒッキーは良いことしてたのに!」

 

「アンタがいう贖罪はそういう意味だったんだね」

 

「八幡…よく耐えられたんだね。辛い経験をしたのに」 

 

「…そろそろ到着するぞ。荷物を下ろす準備をしたまえ…」

 

「先生、分かりました…」 

 

 由比ヶ浜は涙を浮かべ、雪ノ下と川崎はやるせない表情をして、戸塚はズボンを握りしめていた。小町は俯いたままだ。平塚先生は…

 

「…っ」

 

 この人も涙を流していた。そうだこれは誰も報われない話だ。俺も彼女も報われることはなかった。でも、この人たちに話してよかったと思っている。この人たちだったから俺は変われることができた。

 

 車から降りて荷物を下ろす中、一台の車が止まった

 

「やあ君達も来ていたんだな」

 

「葉山か…それはこっちの台詞だ」

 

 お前も来る予定だったんかい葉山ぁ。しかもお前のグループメンバーもいるじゃねえか…

 

 ええ…なんか起きそうなんだけど…俺も人のこと言えないけどさ

 




 急ピッチで書いております根王です。入隊したら暫く書けなくなるので急いで書いております。今回はオリ展開が多いですね。ストーリーの進展は遅いですけど、重要な話です

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