二人の銀翼   作:アレクシア少佐

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いつもありがとうございます。

拙い作品ではありますが、よろしくお願いします。


11 驚くべき軍人

 

- - - - 帝国軍陸軍大学選考再審議会

 

 

「では、次に東部方面軍より、軍功枠推薦者をご覧ください。」

 

議事進行を務めるのは、陸軍大学の教官。

居並ぶ列席者は文字通り、陸軍の中枢を担うにたる人材。

そして、彼らが扱うのは、次代を担う人材の選抜。

 

通常、再審議とは合格に届かなかった存在を再審査し、場合によっては合格とするために開かれる。

もちろん、逆に合格に不適格と見なされた人物を弾くこともあるものの、通常はありえない。

軍の未来を担う人材の選抜に際して、帝国軍は一切手抜かりがないように最善の注意を払っている。

 

だが、信じがたいことに、今回は合格者に対する疑義が提示されているのだ。

 

「今回の審議対象は、公平性追及の観点より、匿名審議の時点で最優が出されております。」

 

出願者の個人情報は一切省かれた書類を、複数の審査員が考査。

与えられるのは、実績・情報部・教育担当者による数値評価。

それによる講評は情実を一切排除し、比較的的確な審査を可能としてきた。

 

そののち、個人情報が開示され、最終的に陸軍のエリートコースに上る士官が決定されるのだ。

 

この人事は厳正かつ公平なものでなければならないものとされている。

 

「ですが、陸軍大学人事課長よりの異議によって、再審査請求が出されました。

本審査は、その要請によるものであります。」

 

故に、議事進行役を務める教官の口ぶりも訝しむという口調にならざるを得ない。

匿名審議で優が出る士官ですら、数少ないのに最優、つまり首席合格者に疑義が出されているのだ。

これが、軍に有力な影響力を及ぼす将校の子弟や貴族関係者であれば、公平性に疑義ありとも言えるかもしれにない。

 

だが、身上は軍人の遺族。

有力な身内はなし。

推薦者は何れも、赤の他人。

派閥や貴族との縁故も皆無。

推薦者は何れも、軍内において堅物と有名な現場上がり。

 

問題行動すら記録されていない士官だ。

 

これほど見事な経歴を実力で昇り詰めてきた士官に門戸を閉ざすように主張するなど、陸軍の伝統では大凡考えられない。

 

「レルゲン人事課長、貴官は何故、異議を申し立てられた?」

 

「現地部隊の推薦、士官学校席次、軍情報部による身辺調査、憲兵隊による調査報告書、軍功、何れも卓越した士官だ。何処に問題が?」

 

「さよう、全て最優か、それに準じるものであるのは事実であります。

ですが、小官は断じて受け入れがたいと認識します。」

 

だが、レルゲン少佐はその何れも認めたうえで、再審査を請求した、と明言する。

言い換えれば、それらのいずれも受け入れがたい、と。

 

「席次が2位と3位、憲兵との揉め事なし、情報部は愛国心特優、機密保持能力保証ときた。現地部隊からは勲章の申請まで出ている士官だぞ?」

 

「これを跳ねるならば、今季は入学者ゼロとせねばならない程だ。」

 

「今回は、特例で匿名審議が解除されております。こちらをご覧ください。」

 

さすがに、見かねたのだろう。

同席した人事局総務課長が関係書類を配布する。

本来であれば、匿名審議の内容を再審査する際も匿名が原則ではある。

だが、状況次第では彼の権限によって解除する事もできた。

 

曲がりなりにもレルゲン少佐を知っている彼は、少なくともレルゲン少佐に助力しようと思っている。

ただ、それはどちらかと言えば彼の意見を支持するからではなく、彼のキャリアを守ろうという善意からだが。

 

なにしろ、この戦果をあげたのが齢11の幼子だ。

まともな士官ならば、誰だって戦場に出すことを躊躇するべき子供。

レルゲン課長が、彼女達の軍大学進学に反対する理由もその年齢を危ぶんでだろう。

そのくらいの認識だが、ともかく彼はこの案件については機密保持を解除することに同意したのだ。

 

「.........このような子供が、本当にこのような戦果をあげたとでも、いうのかね?」

 

さすがに、事態の異常さが認識されたためか、室内も静まり返る。

 

一人目は弱冠11にして、魔導中尉任官。

士官学校次席卒、銀翼突撃章保持、野戦航空戦技章推薦保持。

撃墜スコア62、(協同22)のエースオブエース。二つ名は『白銀』。

 

二人目も同じく弱冠11にして、魔導中尉任官。

士官学校参席卒、銀翼突撃章保持、野戦航空戦技章推薦保持。

撃墜スコア55、(協同17)のエースオブエース。二つ名は『白百合』。

 

そして、そのどちらも教導隊所属の経歴あり?

 

「魔導士官の養成は急務でありますが、さすがに年齢が引っ掛かるか。」

 

「さよう、魔導士官としての能力がいくら優秀でも、将校として使えるかは別の問題だ。」

 

「能力に問題はありません。

なにより、軍功、現地の推薦と形式は完全に満たしております。否定する要素ではありません。」

 

「短期促成教育の士官達だ。戦術知識に偏りがあろう。

将校教育の方が、適切ではないのか。」

 

だが、一部の将官はそれでも疑義を呈する。

なにしろ短期促成の教育だ。実戦である程度は通用するにしても、知識に穴がある可能性は常に付きまとう。

単純な戦術レベルの指揮ならばともかく、複合的な要素を勘案せねばならない部隊長以上の指揮には適切な能力を有するだろうか?

 

その疑問を彼らは常識的に抱く。

 

「彼女達の卒業論文は、『戦域機動における兵站』『武器製造における工程及び使用部品の統一・並列化による兵站負担削減』です。以前、陸軍鉄道部、兵站管理部門が大絶賛した代物ですよ?」

 

しかし、匿名審議の時点で特優を付けた考課担当者らは譲らない。

なにしろ、戦略レベルで議論ができる、という実証を彼女達は卒業時点で出していた。

 

通常、勇ましいことを好む士官学校生とは思えない程地味な題材を用いた論文だ。

彼女達の戦果を考えれば、意外と思われるほどに。

だからこそ、匿名審議の時点で彼女達が11歳などと誰も想像し得なかった。

 

概要は、単純明晰だ。

物資集積の重要性と、デポの配備と規格化による円滑な物流による兵站線の確保。

極めて、効率化を重視し物資の緊急備蓄を除き、死蔵を排除する事を目的にしている。

後方で死蔵される物資への批判から、前線で正常な戦闘行動を継続するために不可欠な物資管理の提案。

一読した陸軍鉄道部長が絶賛し、鉄道部への配属をほとんど懇願したというのは兵站関係者では有名な話らしい。

 

また、武器製造に関しても現在の帝国の弱点を克服するのに最も適していると言っても過言ではない。

現在の帝国が使用する武器は、ある程度規格が決められてはいるものの、弾が0.2㍉違うだとか、銃の口径と入っている弾が合わないだとか、様々な問題が発生している。

これを根本的に、武器製造に使用するネジの一本まで、全てを規格化し統一するといった内容であった。

全く同じ部品、武器ならば、弾が合うかどうかなどで悩む必要もなくなる。

わざわざ一つの火砲のために合う弾を探す必要がなくなるのだ。運搬においても効率が上がるだろう。

 

事実、査読した幾人かの熟練した野戦将校も軒並みこの二つの論文を絶賛している。

曰く、前線で攻勢に出て、物資が不足した経験を持つ人間ならば、この論文が理解できないわけがない、と。

その多くが、陸軍大学の卒業論文であると誤解していたことも付記しよう。

 

兵站・製造レベルの議論ができる時点で、もはや近視眼的と形容するのは困難だ。

 

「士官学校時代の現地研修で、すでに陸軍大学への推薦がヴァルコフ准将名義で出ています。現場は高く評価しているようです。」

 

それどころか、一部の将校らは彼女達の資質を極めて高く評価していた。

紛争地域における活躍を賞賛して、ヴァルコフ准将などその時点で陸軍大学へ推薦しているほどだ。

能力が評価されることこそあれども、疑問が提示される事は一度たりとも彼女達にはない。

 

「それこそ、何故その時点で審議されていない。」

 

「......小官が、年齢・戦功不足を理由に棄却いたしました。」

 

そして、レルゲン少佐の解答に対し、やはりかとばかりに頷くと、厳しい目線を向けた。

 

「レルゲン少佐」

 

「はっ、なんでありましょうか、大佐殿。」

 

「貴官の公平性に疑義をはさみたくないが、一度目はともかく、今回の審議要求はどのような理由によるものか。」

 

レルゲン少佐にとってその答えとは、ターニャ・デグレチャフ中尉、アレクシア・デグレチャフ中尉二人の人格へのぬぐい難い不信感を有するからであった。

 

「精神鑑定・情報部の機密保持能力検査、何れも極めて高い数値が出ていることを踏まえての発言か。」

 

「はい。」

 

「貴官は、この検査に疑義を呈するのか?」

 

「はい、いいえ。何れも適切な検査結果であったと認められます。」

 

それらの調査は、いずれも適切な数値を出すことだろう。

なにしろ、彼女達の異常性はそこにはないのだ。

まあ、無理もない。

 

「レルゲン少佐、私は貴官の発言が記録に残されていると明言した上で確認したい。」

 

「はっ。」

 

「何故、貴官はこの二人の中尉に対し、人格上の疑義を抱くのか?」

 

「小官は、3度彼女達を見かける機会がありました。」

 

一度目は、卓越した士官候補生だと思った。

二度目は、恐るべき士官候補生だと思った。

三度目は、狂った士官候補生だと確信した。

 

「公的にか、私的にか?」

 

「何れも陸軍大学の公務によるものです。士官学校査察時に彼女達を3度見ました。」

 

「彼女達が問題行動をおこした、そう主張するのかね?或いは、言動に問題が?」

 

「当時の教官らの所見をご覧ください。一言、『異常』と書きなぐられております。」

 

一番、二人に接する機会が多かった指導教官が面白い記録を残している。

全てにおいて卓越した、などと評価しつつも『異常』と私的に書きなぐったのだ。

彼の抱いた違和感こそが、彼女達の本質ではないのか。

 

通常、欠点を指摘する事はあろうとも、『異常』と指導教官が記すのはありえない。

 

「・・・ふむ、故なしとも言えないか。説明を。」

 

「異常なのです。

すでに、完成した人格と視野を有し、人間を物と認識している士官候補生など初めて見ました。」

 

まるで、完成した機械の様であった。

姉のほうは命令を完全に順守し、達成する。まさに、理想的な士官だ。

それでいて、現実を理解し、空論なぞ一度も耳にしなかった。

到底、常人とは思えん。

 

妹のほうは姉に忠実に従い、姉が手を下すまでもないとばかりに行動する。

言葉で会話せずとも、姉の意図をほぼ完璧に読み取り、姉にとっての理想的状況を作り出していく。

姉妹とはいえ、これほど他人に忠実な人間がいるだろうか?

 

 

 




長くなってしまったので一旦ここで

まだそこまで継続していませんが、感想など。

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