- - - - 帝国軍陸軍大学選考再審議会
「秀才特有の現象とは?」
「間違いなく現場で通用します。事実、ヴァルコフ准将と情報部が連名で二級鉄十字の申請を出していました。」
なにより、あれらを新任というには、違和感しかない。
権限を限界まで活用した結果、すでに少尉任官以前に実戦参加の疑惑すら見つかった。
わずかな手掛かりだが、総合すれば情報部の作戦に関与した疑いが濃厚。
叙勲の手続き段階でさすがに棄却されているものの、二級鉄十字が申請される時点で、何かがあったのはまちがいない。
「......現地研修中にか!?」
驚きが全体に広がり、一瞬室内にざわめきがよぎる。
いくらなんでも、信じがたい話だが短期間のうちに叩きだした経歴は、それに信憑性を付与するのだ。
現地研修中、つまり9歳程度の子供が、実戦参加した揚句に叙勲の申請を得る?
もしこれを外部で聞けば下手なジョークと一蹴するところだ。
「情報部を締め上げたところ、極秘裏になんらかの作戦に関与させた可能性を示唆しました。」
国境の紛争地域。
士官候補生の研修地としてはかなり危険度の高い部類だが、そこまではまあ、良いだろう。
だが、屈強な兵士でさえ悲鳴を上げる長距離浸透訓練を、実質敵地で行っている?
完全戦闘装備で、夜間に、匪賊徘徊地域を打通して、孤立した友軍基地まで行軍するなど、士官候補生の指揮とは思えない。
締め上げた知り合いの情報部員は、てっきり叩き上げの少尉が指揮した部隊が作戦参加したと考えていたほどだ。
それはそうだろう。そんな力量がある指揮官ならば、情報部だって頼ろうと思うはずだ。
まさか、研修中の士官候補生だとは夢にも思わなかったはず。
今では、叙勲申請が棄却されたのも、案外情報部が候補生だったと遅れて悟ったからではないかと疑っている。
「......士官候補生が、現地で、情報部から叙勲申請をだされるほどの作戦に関与した、と?」
ここまでくれば、さすがにその異常さが無視できない。
睨みつけられた情報将校らは知らないとばかりに首を振る。
だが、彼らにしても左手のしていることを右手が知らないという原則は知っているのだ。
調べれば、すぐに何かが出てくるだろうということぐらいは、予想しているに違いない。
顔色が、先ほどから急激に青ざめ始めているのだから。
「許されるならば、機密情報の開示許可を頂きたく思います。」
「そちらは調べておこう。それで?それだけならば、優秀な士官というに過ぎないはずだが。」
検証はこちらでおこなう。
そういう意味合いを込めつつも、座長はそれが事実だろうとは確信していた。
だが、それだからこそ、彼は疑問に思わざるを得ないのだ。
年齢、戦功、考課、何れも問題のない士官に、何故彼はここまで疑義を呈するのか、と。
「士官学校在籍中に、彼女達は命令違反者に魔力刀を突き付けています。」
「......跳ねっ返りを叩き潰すのも、上級生の仕事では?」
極言すれば、私的制裁は軍法で禁止されているが、明文化されていないルールもあるのだ。
例えば、訓練中のけがは事故であり、上級生と格闘訓練中にけがをすることもままあると。
言い方は悪いが、その程度で、処罰していれば、軍人の半数近くはなにがしかの悪評を得ていることになる。
「本気で頭をこじ開けかねませんでした。教官が制止しなければ、一人を廃人にしたはずです。」
だが、違うのだ、とレルゲン少佐は叫びたい衝動を抑えて説明する。
居合わせた者にしか、理解できないことはよくわかっているつもりだ。
「......少佐、教育係の発言を信じていれば、今頃軍は死体だらけだぞ?」
軍の教育係が新兵に過激な言葉を飛ばすのは、軍にとって通常のことに過ぎない。
海兵隊や航空魔導士官において訓練時の新兵に対する罵詈雑言など、殺してやるならば、まだ可愛い方だ。
貴様の頭をかち割ってやる、空っぽの頭を吹き飛ばしてやる、などいくらでも平然と教練場で響き渡っている。
「やや過激な傾向があったとしても、さすがにそれは、微妙な評価だ。」
「年齢を考慮すれば、よく自制したと評価もできる。」
その程度、はっきり言って、可愛いではないか、と多くの軍人は自らの経験則で判断してしまう。
彼らは、見ていないがためにそう判断してしまうのだ。
彼らの多くは、新兵教育時に、それこそ家畜のように怒鳴られ、まごまごするなと魔力刃で斬られかけている。
そして、今現在に至るのだ。その経験からしてみれば、不服従を繰り返す新兵に対して魔力刃を突きつける程度、驚くことでもない。
言葉にしても分からない馬鹿には、多少お灸をすえるか、素振りを見せるくらいは、許容されているのだ。
むしろ、いちいち不服従の咎で、軍法会議にぶち込まないだけ温情的だとすら判じている。
なにしろ、上官への反抗は最悪銃殺すら含めた極刑。
言い換えれば、判断能力の少ない新兵を銃殺するくらいならば、殴り飛ばす方が温情的だと彼らは信じている。
「ふむ、まあ人事課長の危惧は年齢と自制できるか、という点で見ればまあ、わからなくもない。」
そこまでくれば、彼らの結論は揺るがない。
確かに、年齢不相応のところがあるのは認めよう。
新兵をしごいているという人事課長の論説も、まあ行き過ぎはあるにしても、許容範囲。
異常な才能を持っていることに、人事課長が危惧を有するのもまあ、理解できなくはない。
だが、陸軍大学への進学はむしろ彼女達が受けいていない分野の教育を提供することで、有能かつ卓越した士官を養成できるに違いない、と。
「だが、やはりレルゲン少佐、君の意見は主観的に過ぎる。客観性を欠くと言わざるを得ないのだ。」
そして、やや動揺こそしたものの、彼らは彼女の合格を素直に承認することにする。
「もちろん、君が公平に見ようとした事実は認める。だが、君ともあろうものが、印象に囚われすぎだな。」
「まあ、よく調べている。情報部の締め上げが課題だな。」
むしろ、彼らは人事課長が本気で彼女達の問題を取り上げた、とは今やだれも認識していない。
軍内力学において、卓越した遊泳術を発揮しなければならない人事課長が表だって情報部を批判できるはずもないだろう。
だから、別の話題にかこつけて批判を展開したのだ、と多くは見ている。
言葉にこそしていないものの、人事考査の途上で、発見した情報部の不透明な動向を叩く題材としてこの審査請求だと。
情報部からの評価が、過去の秘密作戦を反映した不透明なものだ、と。
確かにこれならば、彼の失点とも言えないが、功績の方が大きく、評価されるだろう。
情報部に至っては、レルゲン少佐を追求するどころか、謝罪する側に回る。
つまり、大凡の評価は人事課長はよくやるな、という程度の認識であった。
要するに、公平性を追求しつつ、情報部の秘密主義に疑義を呈したのだろうと。
「ご苦労だった、レルゲン少佐。彼女達の審査請求は棄却するが情報部の再調査要請は受け入れよう。」
「......ありがとうございます。」
かくして、レルゲン少佐の意図とは裏腹に、だれも、だれもそれを止めようとはしないのだ。
前回の続きでした。
まだそこまで継続していませんが、感想など。
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