前線に比べて、後方勤務とは快適ですが、刺激が足りませんね。
食べられる食事は前線とは比べ物にならないくらい美味しいのは、最高ですが。
ああ、さっさと大学など卒業し、前線へ赴き、ターニャの勇姿を見たいものです...。
おっと、大変失礼しました。先に挨拶をせねばなりませんでした。
こんにちは、アレクシア・デグレチャフ中尉、11歳です。
今年から、大学生になれました。
帝国陸軍大学ですが。
大学生になれたからには、知っている知識の復習などよりも、論文を大量に書き、ターニャの気苦労を減らさねばなりません。
兵站、航空機の運用、前時代的なドクトリンの撤廃など、やることは膨大です。
そのうちの数パーセントでもいいのです、改善せねばなりません。
士官学校卒業の際に私とターニャの書いた論文が高く評価され、現実に反映されつつある...らしいです。
嬉しいですね。
しかし大学生活というのも悪くはありませんが、いかんせん砲弾は飛んでこないですし、航空魔導士のスクランブルもありません。
戦争中なのに、なんと平和なのでしょうか。
「おはよう。ラーケン衛兵司令。」
「おはようございます。ラーケン衛兵司令。」
かけられた声で、ようやく接近に気がつく。
本当に、気配すら感じられなかった。
曲がりなりにも、実戦を経験してきたとはいえ、やはり戦地帰還組からすればなまっているのだろう。
それとも、彼女達が卓越した兵士だからだろうか?
「おはようございます、中尉殿。失礼ながら、今日もライフルをお持ちで?」
下士官として、幾人もの将校を見てきたが、彼女達ほど前途が明るい士官も少ないだろう。
聞けば、わずか10代で陸軍大学に入るなど前代未聞という。
それ以前に、10代で中尉任官という経歴もありえないのだが。
もしも、何も知らずにそのことを聞けば、一笑して笑い飛ばすに違いない。
頭でっかちの秀才参謀だって30代に行くか行かないかだ。
そんな限られた枠を10代前半の餓鬼がとれるものか、という笑い声を自分が出していても不思議ではない程に。
だが、世界は広いらしい。
まさか、戦場で一度も後れをとったことのない自分の背後を、あっさり取ってしまう士官がいるものだ。
明らかに、二人のデグレチャフ中尉殿は、外見で侮ってはいけない部類の士官だろう。
聞けば、毎日のようにライフルと演算宝珠を持参し、当直の衛兵司令に預けているらしい。
武器を手放さないのは、戦場での経験だろう。
たまに、戦場帰りで武器を精神的に手放せなくなる奴もいるがこれとも違うようだ。
別段、武器を手放すと不安に駆られるという様子もない。
要するに、習慣として、武器をもつことを自らに課しているということだ。
常在戦場の心得というが、ここまで貫徹していれば、繰り返しになるが、この年で野戦航空戦技章を授与されるだけのことはある。
叩きこまれた戦訓と、下士官兵への適切な態度。
次に戦場立つ時は、年齢で敵兵を区別することなく、撃たなければ死ぬかもしれない。
一つ学んだと思っておこう。
「ああ、恥ずかしながら、なかなか習慣という物は直らないらしい。」
「後方とはいえ、いつ敵魔導士が浸透してくるやもしれませんから。」
その気持ちはとてもよくわかる。
自分も、月明かりのある寝台で寝られるようになるまで、常に遮蔽物を無意識のうちに探していたものだ。
別段、安全と分かっていても、戦場において命がけで身に付けた習慣は簡単には変わらない。
「いえ、御立派なものです。」
むしろ、しっかりと戦場の要点を理解しているということに他ならないのだ。
正気を保ったまま、戦場で何が重要かを理解することが、青い新任少尉にとっての試練である。
戦場とは彼らの信じる建前が激しく現実に蹂躙される世界なのだ。
勇ましさ、栄光、名誉なぞ泥まみれになって、殺し合い、その中で少数の例外的な士官が名声を手にする。
その少数だけが知っている秘密は、実は難しいことではない。
下士官兵の言葉に耳を傾けて、彼らを心服させる意見を出せればいいのだ。
だが、これができる士官は本当に、本当に少ない。
「ありがとうございます。」
「ああ、叩き上げに保証されるほど嬉しいことはない。」
だから、目の前の少女達の外見ではなく、内実に敬意を払い、真摯に対応する必要があった。
叩き上げを評価できる士官は、伸びる。
そう思いながらも、衛兵司令は自分の職務を忠実に果たすことで、小さくも恐れ多い二人の中尉殿への敬意を示す。
「しかし、失礼ながら、本日の御用向きは?」
世間一般で言うところの安息日。
つまりは、日曜日だ。敬虔な信徒ならば大半は教会に行くし、人によっては懺悔もする。
このお二方も午前中はよく教会でひたすら真摯に祈っていると聞く。
なにより、実際ひたすら聖像を見つめる彼女の姿を目にしたのは、一度ではない。
時間帯からして、昼食をすませたところだろうし、陸軍大学とて日曜は任意だ。
まあ、月曜から土曜は過酷極まるらしいが。
「なに?どういうことか。」
「ご存じのように、本日は休日であり、講義はありませんが。」
講義があるならば、学生が登校するのは当然だが、休日に陸軍大学へ用件もなく足を踏み入れさせるほど軍はぬるくない。
もちろん、相応の理由がある限りにおいてその限りではないのだが。
「ああ、簡単だ。図書室を使いたい。寮の資料室では事足りん。」
「現在の戦争の常識を学ぶことで、敵諸国への対策ができるというものです。」
そして、誠に単純なことながら、お二方は実に、実に勤勉であられる。
気難しい司書長ですら、その知識と好奇心、向学心を賞賛しているというのだから、軍人の鑑というべきかもしれないだろう。
何より、古い戦訓の分析と概念の再分析は参謀本部の作戦課をして驚嘆させるほどだと、古い上官から耳にした。
この小さな頭に、何が詰まっているのだろうかと、本気で感嘆したことを覚えている。
「失礼いたしました。毎度のことで、恐れ入りますが、武器をお預けになってご利用ください。」
普通ならば、将校の私物を預かるのは、余計な手間がかかり気も乗らないものだが、このお二方は別格だ。
戦場で、ライフルほど信頼できる戦友は皆無である。
そして、魔導師にとって、それと同じくらいにかけがえのないものが演算宝珠だ。
これを預かるのは、名誉でこそあれ、手間と感じることではない。
「そうさせてもらおう。では、失礼する。」
「いつもいつも、ありがとうございます。ではまた。」
手早く所定の位置で申告書を書き上げ、慣れた手つきで、保管証明書を受け取り、お二方は校内へと進まれる。
さりげなく見たが、背後から見ても、その足取りは一切躊躇が無い。
戦友を預けることに躊躇が無いほどに信頼された、と思えば我もなく嬉しくなるものだ。
「......准尉殿、随分と、態度のでかい餓鬼ですね。」
だが、その下士官冥利につきる感情を理解できない馬鹿が水を差してくる。
軍隊生活に慣れてきた上等兵は得てして士官学校出の士官を馬鹿にする傾向があるが、これは修正が必要な水準だ。
その程度の頭だから、未だに曹への道が無いのだとすら思えてきて、頭が痛い。
あの程度の年齢の方が、士官で、この馬鹿は年齢以外なにも取り柄が無いとは。
「馬鹿か貴様?ション便臭い餓鬼どころか、戦地で浴びた返り血の匂いをまだ漂わせている硝煙臭い餓鬼だぞ?」
さすがに、実戦経験のある軍曹がたしなめるものの、まだ認識が甘い。
あそこまで徹底した軍人になるには、古参兵の中でも才能と戦争への愛情が必要だ。
言い換えれば、人間として戦争を嫌い抜きながらも、どこかで戦火に恋焦がれる人間でなければ、彼女を理解できないのだろう。
「軍曹、貴様の認識はその程度か?」
「はっ?いえ、もちろん良い上官になられるとは思いますが。」
もちろん、よい上官になられるだろう。
自分であれば、彼女達が大隊長、上官であれば、喜び勇んで従うはず。
突撃だろうと、突破粉砕だろうが、遅滞防御だろうが、いや殿軍だろうと従事するに決まっている。
彼女達は戦争に愛されているのだ。
軍人として、名を残し、あるいは無上の栄光が約束された部隊となるだろう。
その誉れが確実に約束されたと確信できる。
幾人もの将校を見てきたからこそわかる。
あれが、所謂英雄なのだ。
「気が付け、間抜け。中尉殿お二人は二個演算宝珠をお持ちだが、御預けになられたのは一個だぞ。」
だが、理解できない間抜けには口にしても仕方がないだろう。
中尉殿お二人が、こちらの職責に譲歩し、ライフルと予備の演算宝珠をお預けになったのだ。
最後に一つ、一番使い込んだ演算宝珠を手元に残すのは、権利に等しい。
最も、それを理解して持ち込みを黙認したのではなく、気がつかなかっただけの馬鹿にはいう気にもならないが。
「無意識なのだろうが、本当に気を抜かれないお方だ。」
「......週番士官殿にばれたらことですな。」
......ああ、貴様らはまだその程度の認識か。
まだそこまで継続していませんが、感想など。
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良い
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まあまあ
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イマイチ