...ああ、私だ、ターニャ・フォン・デグレチャフだ。
ルーシー連邦が我らが帝国へ宣戦、同時に同盟国である協商連合国へも宣戦。
どれだけの戦力を蓄えているのか、と私も参謀本部も震えていたのだが...。
蓋を開けてみれば、数は多いものの共和国軍よりも弱いではないか。
航空機は一世代前のもの、魔導師の姿は確認できず。
...一部を捕虜として捕らえたところ、「助かった!俺はこのまま捕虜でもなんでもいい、知っている限り話す!」だと。
...どれだけ酷い内政をすればこうなるのだ。
捕虜によれば、帝国時代から国へ仕える政治家、将軍など有能な人物を次々に処刑。
指導者...ヨセフのお気に入りばかりが国のトップへ。
魔導師は、大昔の魔女だとかなんだとか、とにかく古い遺物だとして迫害しているらしい。
粛清に忙しかったからか、軍の装備などの全てが、帝国から見れば旧式もいいところだ。
...これでは、さっさとモスコーを攻め落としてもいいくらいだが...合衆国の参戦が懸念される以上、油断は禁物か?
「...はぁ。」
「おや、今日は一人かい。小さな軍人さん。」
考え事に耽っていると、喫茶店の女将さんが話しかけてきた。
「ああ...女将さん。先日の連合王国の件でね...妹が怪我をしてしまってな。」
「なんだって!?そりゃあ大変だ。軍人さん、妹さんにこれを飲ませてやりな。」
...そう言って、お店の自慢のコーヒー豆を一袋、手渡してくれたが...。
「...いけませんよ女将さん。最近はコーヒー豆も安くはないのですから...。」
「いいんだよ!...軍人さんのおかげで、私らは安心して、こうして店をやってられるんだ。」
「...では、有難く貰っておきます。」
「その代わり、また妹さんとうちに来ておくれよ!」
「大佐殿!こちらにいらしたのですか!」
喫茶店を丁度出たところで、メアリーに呼び止められる。
「...どうした?現在は連邦軍に対し防衛に努め、膠着させているはずだが...。」
「...ゼートゥーア閣下より、呼び出しであります!至急、ゼートゥーア閣下の執務室へ来るように、とのことです!」
...連邦と帝国の戦線では、まるでこれ以上の進撃はできないと言わんばかりに膠着させ、じりじりと後退している。
もっとも、後退した後に連邦軍が踏み入るであろう場所はすべて地雷原だが。
...帝国-連邦戦線の全体の指揮をしているのは、南方でお世話になったロメール閣下だそうだ。
これらの作戦の効果と、連邦も有能な将校が少ないことも相まって、、連邦軍の士気も下がっているようだ。
残りの帝国軍は予備として控えているものと、協商連合国へ遠征に行っているものに分かれている。
今のところ、特に問題は無いはずだが...何故私が呼ばれるのだろう。
「...考えても仕方がないか。行くとしよう。」
...ゼートゥーア閣下は数少ない、アレクシアと私と、話の合う素晴らしい方だ。
私達は気に入られているのだろう。嬉しい限りだが...一抹の不安はある。
参謀本部として呼ばれなかったということは、あまり公にはできないことだろうか?
「...ターニャ・フォン・デグレチャフ魔導大佐であります。入室致します。」
...さて、どんな無理難題...もとい、どんな素晴らしい任務を与えられるのだろうか。
「『白銀』。...貴官の妹...アレクシア大佐については、我々も痛ましく思っている。」
「ありがとうございます、閣下。...して、御用件をお伺いしても?」
「...大佐。貴官には連邦の都市...具体的には、ヨセフグラード侵攻を行ってもらいたい。」
「...市街戦、でありますか...。」
アレーヌとは違い、一般市民の避難は連邦が行っているだろう、倫理観などの問題はないが...。
前世の世界でいえば...スターリングラード攻防戦か。
だがそこに至るまでに、枢軸軍はナチスドイツ主導でソビエト連邦首都攻略作戦...通称、タイフーン作戦を実施。
作戦は失敗に終わり、これを過大評価したソ連が全戦線で攻勢に出るが、兵站限界を超えており多数の死者を出す。
ぼろぼろの赤軍に枢軸軍が襲い掛かった。
言うのは簡単だが、連邦が過大評価するというのは不確定要素だ。
ならば...情報戦しかあるまい。
「...閣下。現状で、ヨセフグラードへの侵攻は困難を極めるかと。...そこで、連邦軍をある程度弱らせる必要があると愚考致します。」
「ふむ...貴官の言いたい事は分かるぞ。共和国戦のように...我々の領内へ誘引し、撃滅を図る...だろう?」
「しかし、連邦との戦線は非常に長く、我が軍も包囲される危険性があります。連邦側へ突出する戦線はかなり...厳しい状況になるでありましょう。」
敵をこちらへ誘引し、包囲殲滅。だがこれは、帝国軍も半包囲されてしまうということでもある。
「ふむ...。」
「故に...全戦線で撤退...敵を誘引するべきかと。3段階に分けて現在の戦線後方に塹壕などを掘り、少しずつ撤退するべきであるかと。塹壕から塹壕までの区間に、地雷などを埋めればかなり効果が期待できるかと。」
...砂漠の狐が、ロンメル将軍が行った作戦を参考に考案してみたが...。
いかんせん、アレクシアほど細部まで詰めることができない。問題点はかなりあるだろう。
「ふむ...貴様も、ロメール将軍と似たような事を言うのだな。」
...こちらの狐も、同じ事を考えていたか。ならば、東部戦線は大丈夫だろう。
「よろしい、消耗抑制ドクトリン同様...。敵に、出血を強要するとしようか。さて...デグレチャフ大佐?貴官にはロメール将軍と共に東部戦線で戦ってもらいたい。」
...参謀として使われたいのだが、どうしても前線へ行かねばならないらしい。
「...貴官が妹想いであることは、私もよく知っている。できれば貴官のその想いの通りにさせてやりたいが...我々は軍人だ。」
「承知しております。個人的な事情で、戦場から逃げるなどあってはならぬことであります。」
...仮に私が拒否したとしても、アレクシアのことだ、仕事を優先しろと言うに決まっている。
...チッ、連邦がこの時期に宣戦してこなければよかったものを...。
この鬱憤は戦場で晴らすとしようか...。
- - - - side ハンス・フォン・ゼートゥーア
ああ、嫌な大人にはなるまいと思っていたが...。
彼女、『白銀』ことターニャ・フォン・デグレチャフ大佐はその銀翼突撃章を身に着けるに相応しい能力を有している軍人だ。
だがそんな彼女も、まだ齢12の子供だ。
...まして、共和国戦において双子の妹...『白百合』アレクシア・フォン・デグレチャフが怪我を負わされた際、独断で敵魔導師部隊を文字通り、「消滅」させた程だ。
どれだけ彼女が、妹を大切に想っているかが分かる事例だろう。
...そんな彼女を、療養中故に仕方ないとはいえ、妹と引き離し戦場へ送る?
帝国軍人ゆえ、仕方がないことだが...。
...勘か、本能か。
今までの長い人生で経験したことのない...胸中がざわつくこの感じは何だ?
...何事も無ければいいが。
まだそこまで継続していませんが、感想など。
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良い
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まあまあ
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イマイチ