二人の銀翼   作:アレクシア少佐

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ヨセフグラード攻防戦。


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「...さて、皆も知っての通り...ヨセフグラードにて包囲されてしまった我々の朋友を救い出す日だ。敵は我々ほど強い訳ではない...が、その圧倒的な数は侮ることはできない。...諸君。我らが祖国に、勝利を、土産としようではないか!」

 

 

統一歴1926年2月2日。

 

奇しくも、西暦世界のスターリングラード攻防戦と、同じ日に、状況は違えどヨセフグラード攻略なんて。

 

...先日此処に来たばかりで突然ですが、先程ロメール閣下が演説されたように、ヨセフグラードに包囲された友軍を救い、占領を目的とした作戦決行の日です。

 

...もしも成功しなければ、私達は。

 

いえ、やめておきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロメール閣下、私達に話したい事とは、なんでありましょうか?」

 

方面軍全体への激励の後、ロメール閣下に個人的に話があると、私とターニャが呼び出されましたが。

 

「ああ、明朝に参謀本部よりの通達があってな。」

 

...。

 

「...それは、良いニュースで?」

 

協商連合国戦線が突破された、合衆国が参戦した、などのニュースじゃなければいいのですが。

 

 

「なに、今回は良いニュースだ。...まず、極東の皇国と、合衆国についてはどうにかなりそうだということだ。」

 

「...それは非常に喜ばしいことですね。特に、合衆国については...。」

 

参戦は無い、と考えていいのでしょうか。

連邦以外の各国と早期決着できたことが、良かったのでしょうか?

 

「次に、今日の作戦に合わせて、協商連合国戦線では陽動として攻勢し、あわよくばかつてのサンクトペテルブルクまで占領するつもりらしい。この作戦は、未明より既に始まっているらしいがな。」

 

「成程、陽動作戦...協商連合国戦線ならば、浸透突破できずとも、大きな被害を受けることはなさそうですね。」

 

今では友好国となった、協商連合国。

戦後復興の際に、帝国から協商連合国首都まで鉄道を引き、復興に役立てた、と聞いた覚えがあります。

 

現在ではそれが、補給を担っているのでしょう。

 

「さらに、南東の帝国――オスマーン帝国――が、我々と同盟を締結したらしい。彼らは既に、衰退したかつての大国だが...コーカサス地方を含む、ダキア以外の黒海沿岸諸地域の割譲で再興を目指すらしい。」

 

「あの帝国が、でありますか?それは非常に良いニュースでありますが...。」

 

「...では、コーカサス地方からも、援軍が来る、ということでしょうか。」

 

「察しがいいな、その通りだ。連邦は、同時に3方向から攻撃されることになる。いかに兵士の数が莫大とはいえ、これには耐えられまい。」

 

コーカサス地方は、山岳が多く、守る側に非常に有利な地形です。

ですが、航空機はともかく、魔導師に力を入れていなかった連邦では、衰退したオスマーン帝国軍でもかなり優勢に戦えるのではないでしょうか。

 

しかし、帝国からは特にアプローチしてはいないはずのオスマーン帝国が、何故?

 

「...アレクシア殿の疑問は、我々も、参謀本部も抱いたらしい。」

 

顔に出てしまいましたか。将校として、まだまだですね。

 

「どうやら彼の帝国は、我々と戦っても勝ち目がないことは理解しているようだ。その上で、かつての栄華を取り戻す為...なのかは知らんが、得をする側につくことにしたらしい。」

 

「成程。彼らの首都は、国境からすぐですから、裏切ることもなさそうでありますね。」

 

...協商連合国戦線、帝国東方戦線、そしてコーカサス戦線の三正面ですか。

いかに連邦といえど、これなら戦争も終わりそうでしょうか。

 

そういえば、連邦軍には督戦隊が組織されていて、前線に立つ兵士たちの士気はかなり低い、筈。

 

「...ロメール閣下、作戦開始直前で申し訳ないですが...一度、連邦最前線に立つ兵士たちに、投降すれば助けてやる、等と勧告するのはどうでしょうか?」

 

「...成程。ロメール閣下、捕虜の話では...後方に、督戦隊が組織されているらしいであります。故に、投降勧告をすれば...敵軍は迷い、投降すれば僥倖、あわよくば同士討ちを始めるでありましょう。」

 

...ターニャは私の考える事をすべて理解してくれます。

やっぱり、ターニャと一緒に何かを成すというのは、私にとってとても、幸せなことです。

 

「帝国参謀本部を唸らせる二人が言うのだ、間違いないのだろう。やって損は無いだろうしな。」

 

「「有難うございます。」」

 

...前線指揮官の中で、ロメール閣下が一番仕事がしやすいです。

 

「だが実際に投降してきたとして、連邦の督戦隊に撃たれるのだろうが...。」

 

「それは、私達魔導師が守ります...。督戦隊を潰すことができれば...。」

 

最前線の多くの連邦兵士が、投降するのでしょう。

一部の民衆の意思で共産革命をし、一部の人間の意思で戦争を起こしたとはいえ。

 

誰だって、死にたくはないでしょうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ヨセフグラード侵攻作戦が開始。

 

予定通り、降伏勧告、投降勧告をしたところですが。

 

「...これは、予想以上だったな...。」

 

勧告からしばらくは、迷っているのか、様子見をしていたのですが。

最前線の塹壕に籠っていたのであろう、連邦兵士達が次々に投降してきました。

 

投降してきた彼らを撃つ意味もなく、受け入れていますが。

 

「助かった!本当は皆、戦いたくなんてないんだ...。」

「祖国を守りたい気持ちはあるが、あんな身勝手な政府のためになど、死ねん!」

「俺は...これ以上、後ろから味方を撃つなんて仕事、耐えられなかった。」

 

どうやら急造で組織された督戦隊の人間でさえ、裏切ってきたらしいです。

 

...これによって、ヨセフグラードに配備されていた連邦兵の半数以上が投降。

残りの連邦軍も、最初こそ抗戦していましたが、南方限定ですがドニエプル川を越え、ヨセフグラードを包囲した数時間後に降伏しました。

 

結局、この作戦での帝国軍の損害は軽微で済みました。

 

あ、ちなみに勧告については、ターニャにやらせようとしたのですが...。

 

ものすごく怖い顔で嫌がったので、私が代わりに行いました...。

 

 




将校を粛清しても、末端の兵士までは...。

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