シャミ子が悪いんだよ   作:PRD2

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シャミ子の誕生日記念。滑り込みセーフ。
原作五巻の別ルート。ネタバレ注意。

ある意味これが書きたいがために今作を投稿した感はある。

※柏ノ木さん、みすちゃさん。
 誤字報告ありがとうございました。



特別編 シャミ子の誕生日~別ルート~

 ──私こと千代田桃は基本的に迷うことがない。

 自分で言うのもなんだが、私は淡白な人間だ。面倒なことを嫌い、自分の好きなことを優先したがる性格は既に適当な食生活や、夏休みの宿題への姿勢で既に証明されている。それはきっと自他共に認める事実であり──だからこそ緊急時を除いて、私は迷うことが面倒という理由で様々な事を即決する癖があると実感している。

 けれど。

 その私が──その結論を出せないでいた。

「くっ……………」

 苦悶によってひきつる頬に、冷や汗が垂れる。

 視線はずっと目の前に──ベッドに向けられたまま、動かない。

 かれこれ数十分と悩み続け、されども結論は下せない。刻々と時間は流れ、カチカチという時計の秒針の音と、疲れたように身じろぎする私の服の音だけが自室の中には響いていた。

 かつてないほどの緊張と、双肩にかかる漠然とした不安。『本当にこれで良いのか』という心の声が頭の中で抗議し、そしてそれに対する解答は未だに出ない。

 けれど時間がない。

 もう悩む猶予はない。

 考える時間はあった。それこそ本来ならば数日をかけてすら余りあるほどに。それが出来なかったのは……多くの要因はあれど、私の努力不足に違いなく。

「やるしか……ない……!!」

 その声と共に私は手を伸ばす。

 震える手を前に伸ばして掴みとったそれを、勢いよく引っ張る。翻されたその漆黒の布は空気を打って音をたてる。

 ──やってやる。

 既に待ち合わせの時間は過ぎている。自室で悩んでいられたのは一重に友人達の厚意でしかない。

 なら──いいだろう、乗ってやると。

 売られた喧嘩は買うのが魔法少女──どうせなら全力を貫く。不安も恥も捨て去って、胸を張って買い叩く。

 淀みなく、流れるような手つきでそれを身に付ける。衣服の変更はステッキで可能だが、今回はしない。それはある意味において戒め──私の決意の重さに他ならない。

「──よし」

 シュッ、という小気味良いシルクの音を鳴らして、ネクタイを締める。ブラウンのウェストコートのボタンを締めて羽織るのは──漆黒のタキシード。礼装用の白手袋を着けながら、前髪を彼女から貰った黒い十字の髪留めを留め、髪の毛を整えシルクハットを被る。

 両手に抱えたのは──百輪のバラ。

 私の決意を表すかのような燃えるような赤いそれを持ちながら、玄関のドアを開ける。カツカツと革靴の音を鳴らしながら階段を降りていく。

 向かうは──桜ヶ丘高校。

 私たちが通う学校にして、吉田優子改めシャドウミストレス優子の誕生日を祝う場所へ。

 

 

「それでは不肖、この佐田杏里が代表しまして──誕生日おめでとう! シャミ子!」

『おめでとうシャミ子(ちゃん)(はん)!』

「はい! みなさん、ありがとうございます!」

 掛け声と共に、掲げたコップがカチンと音を鳴らす。

 並々入ったオレンジジュースが溢れそうになったのを、あたふた慌てて啜ると、周りの皆から笑いの声があがって、私は照れて同じように笑った。

 放課後の学校──担任の先生のご厚意で、空いてる教室をお借りして、皆で机をかためて作ったテーブルを囲んでいました。

 9月28日。

 今日この日を以て、16才になった私に皆さんから拍手が送られました。

「いやーこれでシャミ子も16かー……なんか去年とあんまし変わんないね。身長とか伸びてないし」

「そ、そんなことありません! 見てくださいこの角っ、あとしっぽ! 去年から劇的ビフォーアフターを果たしてます!」

「身長は伸びてないのね……私は可愛くて良いと思うけど」

「ミカンさんは私より大きいからそんなこと言えるんです! 欲を言えば、あと十センチくらい欲しいです」

「ん~、身長伸びる薬欲しいなら作ろうか?」

「そ、そんなのあるんですか!?」

「副作用で背骨とかスカスカになるけど」

「そんなコーラの飲みすぎみたいにぃ!?」

 炭酸のんで骨溶けたりしないけどねー、なんていう小倉さんの声を聞きながら話をしていて……ちらり、と前の席に視線を向けると、そこには空席がありました。

 そわそわと落ち着かない心持ちになりながら、

「……桃、遅いですね。本当に来てくれるんでしょうか……」

 そうポツリと呟くと、安里ちゃんとミカンさんが携帯を見ながら、

「一応遅れるって連絡はあったけど……」

「中々来ないわね。桃なら心配はないでしょうけど……ちょっと心配ね」

「そういえば桃は、今日の昼休みにお腹が痛いって早退したんですよね? ま、まさか拾い食いとか……」

「そんな犬猫じゃないんだから……」

「だ、だって最近の桃のご飯って全部私が作ってるのに、私はこんな元気ですよ?」

「……なんか友人のやみやみな食生活を覗いちゃった気がするけど、そこんところどうなのミカン? てか魔法少女って病気になんの?」

「ならないと思うけど……そもそも私も一緒に食べてるから、少なくともシャミ子ご飯は原因じゃないのは確かね」

(……やっぱちよもも、まだ悩んでんのかなぁ)

(悩んでるんじゃないかしら……)

 最後の方はちょっと聞こえなかったけど、私は正直な所気が気じゃなかった。

 私も本気で桃が拾い食いをしたとは思っていない。桃はものぐさなと所はあるけど、筋トレ好きなところ以外はそこそこ常識的な魔法少女です。

 だからこそ──不安だった。

 もし来れないのではなく、来ないのだとしたら?

 実は私の誕生日なんてどうでも良くて、放課後来るのが面倒だから早退したのでは?

 ……それがあり得ないって分かってる。

 桃はそんなことしないし、思ってないって信じてる。

 けれどもしそれが本当だとしたら──そう考えるだけで泣きそうになる。

(……そういえば、桃はグルチャでもよく既読するだけで返信しないし、もしかして誕生日のこと知らないとか……でもさっき行くって連絡きたから、誕生日のこと覚えてくれてる筈だし……)

 勿論桃のことは信じてる。

 でも万が一、億が一──『来たくない』なんて思ってるかもなんて。そんな酷いことを考えては気持ちが沈んでいく。

「だいじょうぶやって、桃はんもそのうち来る~言うたんやろ?」

「リコさん……」

 今日が私の誕生日会だと聞いて、駆けつけてくれたリコさんがそう慰めてくれる。いつものようにニコニコしたリコさんが広げたポテチを自分の机に独占しながら、

「あ、クッキー焼いてきたから、食べる? いくつか光っとるけど」

「ひ、光ってないのをお願いします……」

「じゃあ光ってるの貰える? 実験の触媒に使えそうなんだけど……」

「食べないならあげないでー?」

「そんなぁー」

 リコさんから貰ったクッキーそのまま頬張っていると──コンコン、と教室の扉を叩く音がしました。

「はーい……誰だろ、先生かな? にしては入ってこないけど」

「はえー誰やろなーシャミ子はん見に行ってくれへん?」

「? は、はい。分かりました」

 カタリ、と音をたてて椅子を立つと、私は音の鳴った扉の方まで歩きました。ちょっぴり立て付けの悪い教室のドアを、ガタガタ鳴らして開けます。

 ──桃がいました。

「……………………………………ほえ?」

 確かにそこにいたのは桃でした。

 けれどいつもの桃ではありませんでした。

 かっこいいタキシードを着て、ネクタイを締めた桃がいました。いつものピンク色の髪の上には背の高い黒い帽子が乗っかっていて、びっしりと決まった服はスッゴいかっこ良くて。

 ゆっくりと、右手を差し出されました。

 そこには、一輪のバラがありました。まるで王子さまが持ってるみたいに、キレイなバラが。

「──ハッピーバースデイ。

    マイシャドウミストレス」

 そう桃が言うと──ポンっ、という音と共に1輪のバラが、沢山のバラの花束に変わりました。白い包みに入れられた花束を、呆気に取られながら受けとると、思ってたよりも重くて──それこそ100本はあるんじゃないかってくらい大きくて。

 真剣な表情の桃がこっちを見てて、驚いて中途半端な高さにあった私のしっぽを、白い手袋を着けた右手で優しく手に取ると。

 

 ──チュッ、って。

 キスを、して。

 

「………………きゅう」

 そんな声を口から出しながら、私は意識を失いました。

 

 

 

「まさか気絶するとは……やっぱ騙されたか」

「いやー……これはちよももが悪いっすわー」

「えぇ……?」

「桃……さすがにそれは桃が悪いわ、色々と」

「桃はんったら罪な女やわー」

「でもシャミ子ちゃんすっげぇ笑顔だから、まあ結果オーライなんじゃない?」

 

 

 副題

『ディア マイシャドウミストレス』

 

 




千代田桃
リコに騙された場合の桃。
一応財布も買ったけど、結局リコのアドバイスも捨てきれず『じゃあどっちもやれば良いのでは?』という思考に至っちゃって悩みまくった結果、色々とバグって本気だした。
この選択により『友達ルート』『宿敵ルート』を外れて『奥さんルート』にフラグが立った(ただし攻略するのはシャミ子)。


シャミ子
チョロかわまぞく。
驚き系のサプライズに慣れたけど、トキメキ系のサプライズにはめっぽう弱い。ロマンとかカッコいい物に弱く、実はラブロマンスとか手で顔隠して、でも指の隙間から見ちゃう女の子という作者の偏見。
この選択によりシャミ子から桃への好意の中に恋愛感情が紛れ出す。場合によってはヤンデレと化して、リコさん並みにヤバい魔族が爆誕するのは別のはなし。
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