契約者達への鎮魂歌 -Re.birth-   作:渚のグレイズ

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歪んだL、正すはW -鏑矢-

バーテックス撃退後、俺たちはそのまま帰宅して良い事になった。なんか、大赦が話を通してくれたらしい。

そんなワケで、俺は今、徒歩で帰路についているのだが───

 

「はぁ・・・・・」

 

その足取りは、正直言って、重かった。

理由は明白。先程の屋上での一幕だ。

 

(久しぶりに、叩いちまった─────)

 

いつだって俺はそうだ。言うべき言葉が思い付かないからといって、直ぐに手を出す。

それが原因で何度も要らぬ誤解を受けた。その度に、友奈やばっちゃに迷惑をかけた。

 

「はぁぁ──────」

 

二度目のため息を吐き出す。あー、めっちゃ憂鬱だ・・・・

ん?暗いって?

元来そういう性格なんだよ、俺は。

本来の俺は、口数は少ない。細かい事を気にし過ぎる。逆に気に入らない事はとことん嫌う。短気。オマケにすぐ手を出す。そんな奴なんだ。

 

─────友奈の奴は、よくこんなロクでなしとつるんで居られるな・・・

 

普段は無理にテンションを上げているから、こうやって一人きりになると反動が出る。

大概、友奈かマッキー辺りが一緒に居るので、すぐに立ち直れるが、今は居ない。

陰鬱な気分が更に加速したその時だった。

俺の端末が震えだし、着信を報せる。

開いて見れば、差出人不明のメール。内容は数字の羅列のみ。

はいはい、仕事の時間ね・・・・・まったく・・・・

 

「この鬱憤は、連中相手に晴らすとするか・・・」

 

愚痴りながらも、数字の羅列が意味する場所へと向かう。

 

―――――――――――†――――――――――

 

西暦の時代。

突如として蔓延した致死性の高いウイルスによって、人類は滅亡寸前まで追いやられたそうだ。

それを見かねた土地神たちは、四国に集まり一つとなった。それが"神樹"だ。

ちなみに、四国以外の土地にも、結界を張った神々がいたそうだが、内乱だったりパワー不足で結界を維持出来ずにダウンしたりで、ほとんどが滅んでしまったそうな。

 

話を戻そう。

 

神樹は、人類を護る為に二つの根を四国中に張り巡らせた。

一つは、四国をぐるっと囲む神樹の"壁"。

神樹の神力によって形成されているらしく、高く分厚いその壁は、ちょっとやそっとじゃ破壊することも登坂するとこも出来そうに無い。

なんでそんな事知っているかって?

────────────察しろ。

 

で、もう一つは、"気脈"。

"レイライン"とか、"竜脈"なんて呼ばれ方もする、エネルギーの流れのことだ。

神樹はそれを、自らを中心に据えるように張り直し、四国全体に"恵み"を与えた。結果、本来なら気候等の関係で四国では育てられない農作物を育てられるようになった。

まさに神樹様々である。

しかし、『因果応報』とでも言うのか、神樹が気脈を張り直した影響が、思いもよらぬ形で表れた。

 

それこそが、神世紀初頭に起きた"集団自殺テロ事件"だという。

 

歴史の授業において、ちらりと名前だけ聞かされるだけのこの事件は、気脈の歪みから生じた邪気が原因なのだそうな。詳しい事は知らない。

 

さて、そろそろ本題に入ろう。

 

俺たち"鏑矢の魔術師"こと、"蟇目鏑"の役目は、気脈の歪みから生じた邪気を祓うことである。

邪気はそのままにしておくと、人や物に宿り、"妖忌"という化け物となって悪さをしだす。

その規模は溜め込んだ邪気の量に比例し、小さいものはガキんちょのイタズラ程度のものから、大きいものならば前述のテロ事件レベルのものまで。

基本的に放っておいて良い事はまったく無いので、感知したらさっさと祓う事にしている。

 

「オオゥラァ!!」

 

 

纏炎拳イ ン パ ク ト

 

 

炎を纏った左腕による正拳突きで、妖忌の邪気は祓われた。後に残るのは、邪気を溜め込んでいた物のみ。

今回は・・・・・・・フライパン?

そこそこ新品のフライパンだ。恐らくだが、このフライパンは、『試しに買ってみたけど、使い辛いから捨てた物』なのだろう。そういう物は、意外と邪気が溜まりやすい。

逆に邪気が溜まり難いのは、『使い古された物』だ。

物には使っている人物の"想い"が込もっていく。それが邪気をある程度寄せ付けないでいるのだ。尤も、溜まり難いってだけで、使い古しの道具でも邪気は溜まるし、妖忌にもなるが………

 

「さて─────」

 

とりあえず、仕事は終わったのでクライアントに連絡メールを送り帰宅することにした。

 

―――――――――――†――――――――――

 

俺が魔術師になったきっかけは、ばっちゃが死んで数日後に届いた、ばっちゃ宛てのとある一通の手紙。

そこには、驚きの真実が記載されていた。

 

曰く、『魔術師としての適性があった母さんの代わりに、ばっちゃは老体に鞭打って妖忌と戦っていた』事。

 

そして、『その適性は俺にも有り、それもかなり高い数値を出している』という事。

 

これを知った俺は、魔術師になる決意をした。

玉藻市に住む両親とは滅多に会うことは無いが、ばっちゃが死んだ後でもこの家に住む事を許してくれたし、何より、()()()()()()()()()()()()()()()俺を、実の息子同然に接してくれた。

 

だからこれは、ちょっとした恩返しのつもりだった。

 

「─────二人が知ったら、怒るだろうけどな」

「どうかしましたか?坊っちゃん」

「なんも」

 

マッキーがキッチンから顔を覗かせて聞いて来たので、なんでも無いと答えておく。

マッキーも、俺が魔術師をやっている事を知らない──────ハズ。

というのも、マッキーはどういうワケか、俺の隠し事を的確に見抜いてしまう。

今日にしたって、帰宅早々に「勇者のお役目、お疲れ様でした」等と言って出迎えてくれたので、かなりビビった。

友奈辺りが言う事には、俺は「かなり分かりやすい」らしいが・・・・・それにしたって・・・・

 

マッキーと言えば、コイツの来歴も不可思議な点が多い。

マッキーと俺が知り合ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()の事だった。

ばっちゃの知り合いであるらしいマッキーを、最初の頃は警戒していたが、なんだかんだで今では公私に渡って世話になりっぱなしである。

 

「──────────」

 

まあ、コイツに関しては深く考えるだけ無駄だろう。

ばっちゃも言っていたが、"来歴とかよりも、今、マッキーが俺にとってどうなのか"が重要なのだから。

 

「さて、できましたよー。今日のうどんはだんびろチックです!」

「─────だんびろ?」

 

不安はまだまだ多いが、マッキーは俺にとって、信頼できる大人達の一人なんだ。

それはきっと、マッキーの正体を知ったとしても、変わらないだろう。

 

幅のめちゃくちゃ広いうどんを、四苦八苦して食べながら、とりあえず俺は、そう結論付けることにした。

 


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