契約者達への鎮魂歌 -Re.birth-   作:渚のグレイズ

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書いてて夏凜ちゃんめっちゃ動かしやすかった!!
流石完成型勇者だぜ!!!


Kの襲来、Hの真実 -夏凜と輝夜 その②-

私には兄がいた。

 

何でもこなせる天才で、両親はそんな兄貴にいつもべったりだった。

 

そう、兄貴にべったりだった。

 

父も母も私には何の反応も示さなかった。

兄貴の描いた絵は飾るけど、私のは飾らなかった。

私が努力して百点を取ったとしても、二人は何も言わなかった。

家は兄貴が中心だった。

 

 

 

 

 

──────そう、中心"だった"。

 

 

 

 

 

五年程前のこと、突然兄貴が蒸発した。何の素振りも見せずに消えたのだ。

書き置き等も無し、当然、両親は血眼になって探した。

でも結局、見つかることは無く、以来、二人は日々を生きるだけの無気力人間になってしまった。

 

こんな状況になっても、私のことは見てくれなかった。

 

そんなある日、大赦から連絡が来た。

なんでも、『私に神樹様からのとある重大なお役目を受けて欲しい』とのこと。

 

チャンスだと思った。

 

両親を、そして、消えた兄貴を見返せる。そう思った。

だから、勇者システムが選抜式と知っても文句も言わず、血反吐を吐くような訓練の日々にも耐え抜いた。

他の候補生の中には、私より凄い奴が何人も居た。

激しい訓練に耐えきれなくて倒れた子や、逃げ出した子、怪我が原因で辞退した子も居れば、最後まで諦めようとしない子も居た。

 

私は、そんな彼女達の中から選ばれたんだ。

 

今日のプールの授業中、結城友奈が私に言った。

『夏凜ちゃんは凄いね!』と。

当然だ。そうでなくては勇者になんて成れなかったのだから。

 

(私は、勇者として選ばれた。だから、選ばれなかった子達の分も、私が頑張らなくてはいけないんだ・・・・・それが、選ばれた者の持つべき責任)

 

それを・・・・こいつは・・・・・!!

 

 

 

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・!!」

「ぜはー・・・・・・ぜはー・・・・・・」

 

気が付けば、私達は浜辺に仰向けで倒れていた。

倒れたのはほぼ同時。これでは決着が着かない。

・・・・いや、なんかもう、疲れたし、いいや。

 

「───────なかなか、やるじゃん」

 

そう言って煌月輝夜は右腕を上げた。

 

「───────あんたこそ」

 

その右腕に、私の右腕をこつんと当てる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・悪かったな、挑発するような事言って」

「・・・・・なによ、急に素直になって」

「こういうの、煩い人に育てられたからねー・・・・聞いてもいいか?」

「勇者に拘る理由?」

「話したくないなら、別にいい」

 

少し迷って、私は、話すことにした。

 

「私は───────」

 

輝夜は、黙って聞いてくれた。

何も言わずに、ひたすら黙って。

私がひとしきり喋ると、輝夜は起き上がって口を開いた。

 

「昔話をしよう。バカなクソガキの、ひどい失敗話さ」

 

そう言って、輝夜は話始めた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

そいつは、所謂"拾われっ子"でね、両親とは血の繋がりも無し、ましてや拾ってくれたのはばっちゃ───祖母と来た。

だから最初の頃、そのガキは両親に対して遠慮ばかりしていてな・・・・・そのせいで、ある事件に巻き込まれちまうんだ。

 

六年ぐらい前に起きた誘拐事件なんだが・・・・覚えてっか?それに巻き込まれたのさ。

 

ガキは足りねェ頭で必死に考えて、誘拐犯と正面切ってやり合う事にした。

『拾ってくれたばっちゃや、両親に迷惑をかけたくない』

その一心でな。

 

結論から言えば、ガキは額を少し縫う程度の怪我で済んで、犯人グループは全員御用。これにて一件落着・・・・・とはまぁ、行くワケもなくて・・・・

当然ながら、ガキは両親に無茶苦茶叱られた。『どうしてそんな無茶をしたんだ』ってな。

けどな、無茶苦茶叱ったそのあとで、こう言ってくれたんだ。

 

 

 

 

 

「良くやった。流石、家の子だ」

 

 

 

 

 

あのときは泣いたよ、嬉しくてさ。

そんでもって、気付いた。

 

結局俺は、認めて欲しかっただけなんだ・・・・ってな。

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

「夏凜、今のあんたはあのときの俺と同じだ。親にも兄貴にも自分を、自分の努力を認めて欲しいんだ。違うか?」

「────────そう、なのかしら」

「多分な。でなけりゃ、そんなに頑張れるかよ」

「──────────────よく、分からない」

「いいんじゃねーか?それで。無理に答え見つける必要も無いだろ」

 

そう言うと、輝夜は立ち上がり、こちらに手を差し出してきた。

私がその手を握ると、手を引っ張り起こしてくれた。

 

「夏凜、今から時間あるか?」

「え?」

「少し付き合え」

「えぇ!?つ・・・つつつ付き合う!?」

「おう、バイト先の喫茶店、そこのコーヒー奢ってやるからさ」

「─────あ、なんだそういう」

「よっしゃ、んじゃ行くぞ~~!!」

 

有無を言わせず、輝夜は私の手を引いて走り出す。

しばらく走った先は、私が借りているマンションの近くだった。

 

「・・・・ここ、軽食屋だと思ってた」

「ん?なんだ見たことあったのか」

「あそこのマンション、私ん家」

「マジで?」

「正しくは、私が借りている部屋があるって話なんだけど・・・・」

「なんだよ、近所だったのかぁ・・・・ま、コーヒー奢ってやると言った手前、無かった事にはしねェけど」

「律儀ね・・・・両親の影響?」

「どっちかってーと、ばっちゃの影響」

「ふぅん・・・・会ってみたいわね、その人」

「もう死んだ」

「・・・・・・・・・・・・ごめん」

「気にするな。さ、入ろうぜ?」

 

促されるまま、私は喫茶店"嵐ヶ丘"へと入店していった。

 


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