流石完成型勇者だぜ!!!
私には兄がいた。
何でもこなせる天才で、両親はそんな兄貴にいつもべったりだった。
そう、兄貴にべったりだった。
父も母も私には何の反応も示さなかった。
兄貴の描いた絵は飾るけど、私のは飾らなかった。
私が努力して百点を取ったとしても、二人は何も言わなかった。
家は兄貴が中心だった。
──────そう、中心"だった"。
五年程前のこと、突然兄貴が蒸発した。何の素振りも見せずに消えたのだ。
書き置き等も無し、当然、両親は血眼になって探した。
でも結局、見つかることは無く、以来、二人は日々を生きるだけの無気力人間になってしまった。
こんな状況になっても、私のことは見てくれなかった。
そんなある日、大赦から連絡が来た。
なんでも、『私に神樹様からのとある重大なお役目を受けて欲しい』とのこと。
チャンスだと思った。
両親を、そして、消えた兄貴を見返せる。そう思った。
だから、勇者システムが選抜式と知っても文句も言わず、血反吐を吐くような訓練の日々にも耐え抜いた。
他の候補生の中には、私より凄い奴が何人も居た。
激しい訓練に耐えきれなくて倒れた子や、逃げ出した子、怪我が原因で辞退した子も居れば、最後まで諦めようとしない子も居た。
私は、そんな彼女達の中から選ばれたんだ。
今日のプールの授業中、結城友奈が私に言った。
『夏凜ちゃんは凄いね!』と。
当然だ。そうでなくては勇者になんて成れなかったのだから。
(私は、勇者として選ばれた。だから、選ばれなかった子達の分も、私が頑張らなくてはいけないんだ・・・・・それが、選ばれた者の持つべき責任)
それを・・・・こいつは・・・・・!!
―――――――――――†――――――――――
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・!!」
「ぜはー・・・・・・ぜはー・・・・・・」
気が付けば、私達は浜辺に仰向けで倒れていた。
倒れたのはほぼ同時。これでは決着が着かない。
・・・・いや、なんかもう、疲れたし、いいや。
「───────なかなか、やるじゃん」
そう言って煌月輝夜は右腕を上げた。
「───────あんたこそ」
その右腕に、私の右腕をこつんと当てる。
「・・・・・・・・・・・・・・・悪かったな、挑発するような事言って」
「・・・・・なによ、急に素直になって」
「こういうの、煩い人に育てられたからねー・・・・聞いてもいいか?」
「勇者に拘る理由?」
「話したくないなら、別にいい」
少し迷って、私は、話すことにした。
「私は───────」
輝夜は、黙って聞いてくれた。
何も言わずに、ひたすら黙って。
私がひとしきり喋ると、輝夜は起き上がって口を開いた。
「昔話をしよう。バカなクソガキの、ひどい失敗話さ」
そう言って、輝夜は話始めた。
―――――――――――†――――――――――
そいつは、所謂"拾われっ子"でね、両親とは血の繋がりも無し、ましてや拾ってくれたのはばっちゃ───祖母と来た。
だから最初の頃、そのガキは両親に対して遠慮ばかりしていてな・・・・・そのせいで、ある事件に巻き込まれちまうんだ。
六年ぐらい前に起きた誘拐事件なんだが・・・・覚えてっか?それに巻き込まれたのさ。
ガキは足りねェ頭で必死に考えて、誘拐犯と正面切ってやり合う事にした。
『拾ってくれたばっちゃや、両親に迷惑をかけたくない』
その一心でな。
結論から言えば、ガキは額を少し縫う程度の怪我で済んで、犯人グループは全員御用。これにて一件落着・・・・・とはまぁ、行くワケもなくて・・・・
当然ながら、ガキは両親に無茶苦茶叱られた。『どうしてそんな無茶をしたんだ』ってな。
けどな、無茶苦茶叱ったそのあとで、こう言ってくれたんだ。
「良くやった。流石、家の子だ」
あのときは泣いたよ、嬉しくてさ。
そんでもって、気付いた。
結局俺は、認めて欲しかっただけなんだ・・・・ってな。
―――――――――――†――――――――――
「夏凜、今のあんたはあのときの俺と同じだ。親にも兄貴にも自分を、自分の努力を認めて欲しいんだ。違うか?」
「────────そう、なのかしら」
「多分な。でなけりゃ、そんなに頑張れるかよ」
「──────────────よく、分からない」
「いいんじゃねーか?それで。無理に答え見つける必要も無いだろ」
そう言うと、輝夜は立ち上がり、こちらに手を差し出してきた。
私がその手を握ると、手を引っ張り起こしてくれた。
「夏凜、今から時間あるか?」
「え?」
「少し付き合え」
「えぇ!?つ・・・つつつ付き合う!?」
「おう、バイト先の喫茶店、そこのコーヒー奢ってやるからさ」
「─────あ、なんだそういう」
「よっしゃ、んじゃ行くぞ~~!!」
有無を言わせず、輝夜は私の手を引いて走り出す。
しばらく走った先は、私が借りているマンションの近くだった。
「・・・・ここ、軽食屋だと思ってた」
「ん?なんだ見たことあったのか」
「あそこのマンション、私ん家」
「マジで?」
「正しくは、私が借りている部屋があるって話なんだけど・・・・」
「なんだよ、近所だったのかぁ・・・・ま、コーヒー奢ってやると言った手前、無かった事にはしねェけど」
「律儀ね・・・・両親の影響?」
「どっちかってーと、ばっちゃの影響」
「ふぅん・・・・会ってみたいわね、その人」
「もう死んだ」
「・・・・・・・・・・・・ごめん」
「気にするな。さ、入ろうぜ?」
促されるまま、私は喫茶店"嵐ヶ丘"へと入店していった。