輝夜と共に喫茶店"嵐ヶ丘"へと入店した途端、輝夜の顔面に向かって何かが飛んできた。
「んごォ!?」
「うわぁ!?いきなり何!?」
「くぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!遅いぞ!輝夜ァ!!!」
店内から叫び声が聞こえてきたので見てみれば、そこには私と同じか少し高いくらいの身長のウェイター服の女性?(男性にも見える)が、仁王立ちしていた。
「痛って~~なぁ!!!物を投げるンじゃねーよ!!マルさん!!!」
「るっせい!!!お前が遅刻なんかするからだろーが!!!」
「メールで連絡したろーが!!!『用事でちょっと遅れる』って!!!」
「ンなもん知るくわぁァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
マルさんと呼ばれた女性(たぶん)が、追撃の飛び蹴りを輝夜に食らわせる。
「理不尽っ!!!!!!」
そんな断末魔を残して、輝夜は店の外へと弾き飛ばされてしまった。なんなの、この店・・・・・(汗)
「あはは・・・・ごめんなさいね?いきなりこんな歓迎方法で」
後ろからかけられた突然の声に振り向けば、そこ居たのは、背の高いモデル体型の女性。
「輝夜くんが連れてきたってことは、新しいお友達だよね?私は伊予島杏子。で、あっちのカッコカワイイのが、土居円吒」
「あ、はじめまして。私は三好夏凜で──────え?伊予島?土居?もしかして、
「あはは・・・・うん、その"伊予島"と"土居"だよ」
目の前の女性が、苦笑いして頬をかく。
まさか、あの『六花』の内の二家の人が居るなんて・・・・
「なんだか騒がしいね、輝夜くん、来たのかい?」
その時、カウンターの奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「─────────────え?」
「あ・・・・・夏凜」
なんで・・・・・こんなところに・・・・・?
「兄・・・貴・・・・・?」
そこには、六年間も音信不通だった兄貴、三好春信が居た。
―――――――――――†――――――――――
「・・・・・・えっと、久しぶり。元気にしてたかい?」
「────────────」
「・・・・・・・・・・・・・ええっと、父さんと母さんは、どうしてる?」
「────────────」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・んーと・・・・・えーと・・・・・・・・うぅ・・・・」
「────────────」
奥のテーブル席に案内された私は、黙ってコーヒーを飲んでいる。あ、ここのコーヒーすごく美味しい・・・
「夏凜よォ~~、いい加減で春さん無視すんのやめたらどうだ?」
「あんたは口を挟むな」
というかこいつ、知ってて案内したんじゃ・・・・?
でも、まぁ、しょうがないか・・・・・
「・・・・・なんで家を出ていったの」
「───────────すまん、言えない」
「っ!」
兄貴のその一言に、私が掴みかかろうとしたら・・・・・
「あだぁ!?」
「んな・・・・!?」
カウンターの方から"足"が飛んできて、兄貴の頭に当たった。見れば、輝夜が自分の右足を外して投げた様子。なんつー事を・・・・・というか義足だったんだ・・・・
「おいおい春さんよ・・・・そりゃあんまりじゃねーのか?夏凜は、あんた達に認めてもらう為に頑張ってきたんだぜ?」
「ちょ・・・!?」
「──────────流石だね、夏凜」
「え?」
兄貴は、寂しそうに笑っていた。
「僕はね、夏凜。頑張る事が苦しくなってしまったんだよ・・・・・」
「兄貴・・・・・・」
「周りからの期待を、重荷に感じたってワケじゃない。ただ・・・・・・」
「ただ・・・・・・なによ」
兄貴は、片足でここまでやって来た輝夜に右足を渡しつつ、昔話を始めた。
「─────僕には、好きな人が居たんだ」
「へぇ・・・・・・・え?"居た"?」
「名前は藤森優芽、ここにいる杏子ちゃんとマルと僕の四人で昔、チームを組んでいたんだ。輝夜くんのおばあさんをリーダーにしてね」
「・・・・・・その話ならばっちゃから聞いたことあるな。たしかチーム名は─────」
「"ワザリングハイツ"。この喫茶店の名前は、そこから取ったんだ」
チーム"ワザリングハイツ"は、旧暦時代の技術を復活させて、後世に伝えるべく発足した部隊だと、兄貴は語ってくれた。
なるほど、さっき輝夜が『誘拐された』とか言ってたけど、こいつ、良いとこのぼんぼんだったのね・・・・本人、それらしい部分全く無いけど。
「六年前、僕達はある施設の調査をしていた。そこで見つけたのが────────輝夜くん、君だ」
「・・・・・・・こりゃまた、以外な関係が浮上したモンだ」
兄貴の暴露に苦笑いする輝夜。
「でも、その数日後─────優芽が死んだ」
「「────────え?」」
あまりにも、あまりにも衝撃的な告白に、私も輝夜も言葉を失う。
「僕には、何もできなかった。知らない間に好きだった人が死んで────────だから僕は、全てを投げ出した」
「────────────」
そんな・・・・・そんな事があったなんて・・・・
「───────でも、春さんは俺を助けてくれたな」
「・・・・・・・・・・あれは、たまたまだよ。それに、目の前で知り合いが死にかけてたら、助けない訳にもいかないよ」
兄貴らしい持論。腐っても兄貴は兄貴だったってワケね・・・・
「───────兄貴が、家を出ていった理由は、わかった。ここにいる理由も」
「・・・・・・・」
「だから、次からは私に話しなさい!私が助けてあげるから!!」
「・・・・・・・え?」
兄貴はきょとんとしている。
「昔の私ならいざ知らず、今なら・・・・この完成型勇者たる私なら!!きっと兄貴を─────」
「勇・・・者・・・・・?"勇者"、だって・・・・!?」
突如として、兄貴の顔が険しくなる。
「ええ、そう!私、勇者になったの!!兄貴も大赦にいたから知ってるでしょ?私、頑張ったんだから」
「───────────なんてことだ」
「兄貴・・・・?」
「・・・・・・今日は、もう帰ってくれ」
「え?兄貴!?」
そのまま兄貴は、店の奥へと去っていった。
なんなのよ・・・・・・・
「なんでよ・・・・・・兄貴・・・・・」