兄貴に突っぱねられてから、数日経った。
今日は幼稚園でお遊戯会をやる日。
私はいつも通り勇者部の部室に来ていた。
こんなこと、勇者のやることじゃない。
でも、今は、そんなことでも良いから、とにかく何かをしていたかった。
兄貴のことを、なるべく、考えないように・・・
「来てやったわよ」
部室の扉を開ける。中には誰もいない。
ちょっと早く来すぎた?
仕方ないから待つことにした。
三十分後──
「遅い・・・・」
十時集合だったんじゃなかったの・・・・?
全く、弛んでる・・・・
更に三十分後──
いくらなんでも遅すぎる。
「まさか・・・」
渡された用紙を確認する。そこには──
「『現地集合』・・・・しまった。私が間違えた・・・・」
こういう時は、ちゃんと謝らなきゃ。
ああ、でも、なんて言おうか?
正直に話す?
どうしよう・・・・どうしたら・・・・
と、その時、手にしたスマホが鳴動する。
「うわぁ!?この番号・・・・結城友奈!?」
向こうからかけてきた!
どうしよう!?とりあえず、出て・・・・
ピ
「あ・・・」
間違えた。出ようと思っていたのに、切っちゃった。
どうしよう。
かけ直す?なんて言って?
こういう時、兄貴なら─────
そこまで考えて、ふと、まるで冷や水でも浴びたみたいに、頭が冷静になった。
「・・・・・なにやってんだろ・・・・私」
そうだ。私は勇者として、バーテックスと戦うためにここにいるんだ。
幼稚園でお遊戯会をやるためでも、兄貴のことに悩まされたりするためでもない!
だから・・・・・良いんだ。
「・・・・・・・・・帰ろ」
部室を出て、階段を駆け降りる。
今はなんとなく、ここに居たくない。直ぐにでも帰って、訓練したい気分だった。
だから────
「ぐえっ」
「あっ!?ご・・・・ごめんなさ────────あ」
踊場で誰かとぶつかってしまった。しかも、その相手が────
「痛って~~・・・・・む!夏凜じゃん!!ンだよ、やっぱ部室に居たのか」
「───────輝夜」
―――――――――――†――――――――――
「ったく・・・・なァにやってンだよ、集合場所間違えるとか」
「────────ごめん」
「・・・・・・・・・はぁ、とにかく行くぞ。もうすぐ時間だが、急げば間に合うだろ」
「え・・・・あ・・・・ちょ」
輝夜が私の手を取って走り出す。
階段を降り、下駄箱の前まで走ったところで、私は無意識の内に輝夜の手を振り払っていた。
「?どーした?」
「あ、いや・・・・・えっと・・・・・」
正直、自分でもなんでこんな事をしたのか、分からない。
私は、私が何をしたいのか、分からない・・・・
「───────────ふぅ、やれやれ」
思い悩む私を余所に、輝夜は端末を取り出して何処かへ電話をかけていた。
「──────────────あ、風さん。俺。煌月」
相手はどうやら犬吠埼風のようだ。そりゃ当然か・・・一応アイツがこの勇者部の部長だし・・・・
「・・・・・・うん。夏凜だろ?実はさぁ───」
きっとこいつは全部しゃべる。私が間違えたことも、結城友奈からの電話を間違えて切ってしまったことも。
「
え・・・・・?
「うん。そっちはこれから。その場合はもう俺ら合流できないと思うから、そん時はよろしく。んじゃ!」
ピ
「・・・・・・・・なんで?」
「なにが?」
「なにが・・・・・って・・・・・」
輝夜の、黒い瞳に見つめられ、私は何も言えなくなる。
どうしてだろう・・・・。こいつに見つめられると、なんだか、心の中まで、見透かされているような気分になる。
しかもそれが、嫌じゃないだなんて・・・・・本当、どうかしている・・・・・・
「行くぞ。風さんに、お前ン家行くって言っちまったからな」
「・・・・・・・・うん」
反抗する気力も無くなって、私は大人しく、輝夜と共に帰宅した。