・・・ってワケでも無いけど、今回は、リメイク前にもあった輝夜の帰郷回です。
俺の両親、煌月夫妻の家は玉藻市にあり、そこで果樹園を営んでいる。
白鳥家の分家ということもあって、そこそこの農地を持っており、シーズンになると、地元民向けに『収穫体験』を行っていたりする。
「兄ちゃーん!このぶどう、どこにしまうのー?」
「あー?さっき貰ったかごはどうしたー?」
「わかんなーい!」
「何ィ?かごは人数分しか用意してねーンだぞォ!?」
「まぁまぁ、かぐやちゃん。はい、私ので良ければどーぞ♪」
「わーい♪ありがとーおねーちゃん!!」
「おい友奈・・・・・・チッ、しゃー無ェな・・・・あのガキんちょが無くしたかご、探してくらァ」
「あ、私がやるよ!」
「なら手分けしよう。お前向こうな。俺はあっち」
「うん!」
現在、俺と友奈は、俺の実家である『キラ☆ヅキ果樹園 』にて行われている子供達向けのイベント"収穫体験会"の手伝いをしている。ちなみに、勇者部への正式な依頼として受けている。
「態々依頼として出さんでも、言ってくれりゃアやるってんだよ・・・・・ったく」
「なァに言ってんだい。アタシはね、『勇者部のかわい娘チャン達に手伝って欲しかったから』依頼したのさ!誰が好き好んで野郎の仏頂面なんざ拝みたいと思うのさね?」
「・・・・・相変わらず、随分とハッキリ物を言うなあ、母さんは」
この、風さんと俺を足して2で割ったような人物が俺の義母親。
昔、不良をやっていたらしく、俺の口調とかは、この人の物を参考にさせてもらった。
「HEYハニー♪きゃわい~女の子にゲットアイズされるのは分かるけど、ボクのことは、どう想っているんだい?」
「・・・・・・・・・言わせンなよ、恥ずかしい////」
「ハニィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!」
「ダーリィィィィィィィィィィィィン!!!!!!」
ひしっ!
「───────────あー、相変わらずですねー・・・・」
そして、後から来て母さんと抱き合っているこの男が、俺の義父親。ちなみに口調で理解できると思うが、こっちがばっちゃの子供である。噂に聞いた話だが、ばっちゃには子供が三人いて、その内の末っ子が親父なのだとか。
「あ、そういえば輝夜。楠チャン、戻って来てるわよ?」
「・・・・・・・・・・ふぅん」
「こっちはもうオールオッケーだから、会って来たらどうだい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ふう!かご見つけて来たよー!・・・・って、あれ?どうかしたのかぐやちゃん?」
「──────別に」
よりによってこのタイミングで戻って来るなよ・・・・
「やあ結城チャン。そのかごをボクにプリーズ!片付けて来るよ」
「はーい!お願いしまーす」
「・・・・・・友奈、ちィとばかし出掛けてくる」
「え?どこ行くの?」
「んーと・・・・・・・昔馴染みの家!」
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家を出て十分ほど。
細い路地の入り組んだ住宅街。その一角に目的地はある。
幼い頃、ばっちゃに「指先のトレーニングだ!」と言って連れて来られた、老舗のプラモ屋。
アイツの事だし、多分来ている筈・・・・居た。
記憶にある背中よりも、少し大きくなった少女の背中。
棚の上にあるプラモを取ろうとしているらしく、爪先立ちで手を伸ばしている。
その手が箱を取るよりも先に、俺がそれを掠め取る。
「あっ!?」
「早い者勝ちだ。悪く思うなよ?」
かつての、初邂逅の時と同じ言葉を、こちらを振り向いた少女に投げ掛けた。
二つ結びにした髪を前に垂らした少女。纏う制服は、近辺の中学校の物で、あの誘拐事件さえ無ければ、俺もこの学校の制服を着ていたかもしれないと思うと、少し感慨深くなる。
「・・・・・・・・・・・」
「んー?どうした?まさか俺の事、忘れちまったんじゃ・・・・」
「それは無いわよ!?・・・・・・・・・・・久しぶり、輝夜」
「ン。久しぶりだな、芽吹」
楠芽吹。
それが、俺の幼馴染であるこの少女の名前だ。
―――――――――――†――――――――――
「二年ぶり・・・・になるのかしら?」
プラモを買った俺は、芽吹と共にそのまま彼女の家に向かっている。
芽吹の父親は宮大工をしており、職人気質で少々気難しいところがある。そんなだから、奥さん───つまりは芽吹の母親と離婚してしまったのだとか。
それでも芽吹は、父親の背中を見て育ち、「いつか自分も父親のような立派な人になるのだ」と、俺に夢を聞かせてくれた。
「えっと・・・・・・・・小六の時、お前が大赦にお呼ばれして以来だから・・・・・・だいたいそんくらいかな」
「・・・・・随分と、印象が変わった」
「そうかぁ?」
「ええ、前より・・・・・明るくなった」
「・・・・・反対にお前は、暗くなったな」
「────────────」
俺のその一言に、芽吹は押し黙る。
やっぱりな・・・・なんか様子がおかしいと思ったんだ。
「原因は何だ?やっぱ、大赦にお呼ばれした時のか?どんな要件だったんだよ?」
「───────────ごめんなさい、言えないの」
"言えない"か・・・・・大赦お得意の『守秘義務』ってヤツかい。やれやれ・・・・なんか違う気がする。
「・・・・そうか。なら、聞かなかったことにすらァ」
なんて会話していた、その時だった。
「あ・・・・あの、もしかして、勇者部の方ですか?」
「んー?」
「・・・・・っ!?」
突然現れた二人の少女に呼び止められた。着ている制服は芽吹の物と同じ・・・・って事ァ近所の連中か。
それよりも、今芽吹のヤツ、"勇者"って単語に反応しなかったか?・・・・・・・・・・まさか、な?
「・・・・・あれ?楠さん?なんでこの人と・・・・まさか、知り合いとか!?」
「え・・・・えぇ・・・・」
「なぁ~~んだ~。それなら早く言って欲しかったよ~~。あのあの!私、ちょっと勇者部に憧れてて!」
「あ!ずるーい!私も!私もなんですー!!」
・・・・・・・・さっきから、芽吹の顔色が悪い。
固く口を噛み締めて、両手からは血が滲み出るほど強く握り締めている。
やれやれ・・・・しゃーないな。
俺は咄嗟に、少女二人に見えない位置で、芽吹の左手をほどき、そこへ俺の右手を滑り込ませた。
「あー、盛り上がってるとこ悪いんだけど・・・・ごめんよー。俺、讃州中に在籍してはいるけど、勇者部とは何の関係無い、ただの一般生徒なんだー」
「ええ~~?」
「そ・・・そうなんですか?」
「この辺に、俺の祖母が暮らしていてね。その祖母が危篤だーって連絡が来たから、学校休んでこっちに来てただけなんだよ。あ、でも芽吹とは昔からの親友なのは本当さ。じゃ、俺達はこれで・・・・・」
適当にまくし立てて、俺は芽吹を連れてその場から立ち去ったのだった。