結局、そのまま小走りで芽吹家の前まで来てしまった。
「ふぅ・・・・・お前ん家に着いちまったか・・・・・大丈夫か?」
「誰に言ってるのよ?」
「それもそうだな・・・・・上がらせてもらうぞ」
「ええ、いらっしゃい」
久しぶりに上がった芽吹の部屋は、相変わらずプラモでいっぱいだった。
「・・・・・前見た時よりも増えてね?」
「当たり前でしょう。作っているのだから」
「だな。よし!んじゃ、コイツも組もうゼ~~♪」
「ええ!」
―――――――――――†――――――――――
パチ・・・パチ・・・とニッパーでランナーからパーツを切り取る音だけが響く。
芽吹と共同で先程購入したプラモ、『スーパー安土城ロボ・パーフェクトアーマー』を作成している。
「にしても、相変わらず女っ気の無い部屋だこと」
「なによ、ぬいぐるみでも置いておけっての?」
「ほう、ぬいぐるみかい?」
「・・・・・そうね、私なんかには、似合わないわよね」
自虐的に、そんな事を言う芽吹。だが───
「んー、案外そうでも無いと思うなぁ」
「・・・・・・・慰めかしら?」
「なんでさ。確かに、意外に思われるかも知れねぇけど、似合わないなんて事ァねーよ」
「・・・・・・・なんでそう言い切れるのよ」
「んー。根拠は無い!」
「自信たっぷりに言うな」
「はっはっはー」
よっし、右腕完成。
「素組だけ?塗装は?」
「持って来るの忘れた」
「戸棚の上から二番目奥」
「ん、遠慮なく」
がさがさと戸棚の中を漁る。
「─────────勇者」
「っ!?」
「って単語、嫌いか?」
「・・・・・・・・・・別に」
一瞬、芽吹の顔が強張ったのを、俺は見逃さなかった。
大赦に呼ばれた芽吹がどんな目に合ってきたのか、俺は知らない。が、なんとなく、察する事はできる。
判断材料は三つ。
一つ目、芽吹の「言えない」という言葉。
二つ目、夏凜が大赦で訓練を受けた期間。
そして三つ目、これも夏凜からの情報だが、"勇者候補生は複数いた"という事実。
このことから、多分、芽吹は夏凜との競争に負けたのだろう・・・・
負けず嫌いの芽吹のこと、今日までそれを引き摺っているとか、そんなところだろうな・・・・
「・・・・昔さ、『どっちが上手にプラモ組めるか』ーっつって、勝負した事あったよな」
「・・・・・・・・・・そんな事も、あったわね」
「最初はお前に敵わなかったけど、俺も練習して、ついにお前に勝てるようになった時は、嬉しかったなァ」
「・・・・・・・・・・・・・・・そう」
「今のお前、あのとき、俺に初めて負けた時と同じ顔してるぜ・・・?」
「───────────────────」
ふい・・・と顔を背けられる。
その顔を、無理矢理此方に向ける。
「でも、あのときとは違って・・・・今のお前の瞳は、腐り切っちまってる・・・・情けない顔だな」
「ッ!!」
その一言に、芽吹の顔を掴む手が払い除けられた。
「あんたにッ!何が分かるって言うの!?パパの様になりたいと思ってッ!!必死に努力してッ!!!でも結局、全部無駄になった・・・・・・」
襟首を掴まれ、押し倒された俺は、芽吹の心の叫びを一身に受ける。
「何もかも棄てて、血反吐を吐いて、痛みに耐えて努力した結果がこれよ!!!何も残らない・・・・私には、もう・・・・何も無い・・・・・・」
両目に涙を溜め、心中を吐露する芽吹の目元には、隈が浮かんでいた。
眠れていないのか・・・・・相当追い込まれているな・・・・・
「・・・・ねえ、私はどうすれば良かったの?どうすれば私が選ばれた?私に、いったい何が足りなかったって言うの・・・・?教えてよ・・・・もう、私には、何も分からないよ・・・・・・」
あの日、芽吹が大赦にお呼ばれした日。
見送る誰かが言っていた。
『車輪の下敷きにならないように』と
「──────お前は、下敷きになんか、なっちゃいねーよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
車輪の下敷きとはつまり、『落ちぶれる』という意味らしい。
芽吹が、落ちぶれる?ふざけんじゃねえよ。
「お前はただ、ちょっちズッコケただけさ。そこまで腐るような事じゃ無ェよ」
「────────あなたは、知らないから」
「そうだな。俺は確かに、お前が何をしてきたのか知らない。けどな、お前がどういう奴かは知ってる」
「は?」
きょとんとする芽吹の頭を撫で、俺は芽吹に告げる。
「俺ね、お前のその真っ直ぐさに、憧れていたんだよ」
「・・・・・・え?」
「『いつか、パパみたいな人になる』そう言って、努力するお前の姿はさ・・・・正直言って、格好良かった」
「・・・・・・・・・そう」
「でもよ芽吹。おじさんみたいになりてェってンなら、お前には捨てちゃいけねェモンがあったんだよ」
「捨てちゃ、いけない・・・?」
「なあ、芽吹よォ。人一人で、家が建てられると思ってンのか?」
「はあ?できる訳無い─────────あ」
「お前はさっき、"何もかも捨てた"って言ってたが、まさか、
芽吹は、呆然としていた。
どうやら、図星だったらしい。
芽吹は時折、その生真面目さ故に、周囲の人間を蔑ろにしてしまう事がある。それが原因でケンカしたこともあった。
・・・・・・というか、今思い出したけど、俺が誘拐される直前にも、そのことでケンカ別れしてなかったっけ・・・・?誘拐された後の事がインパクト有りすぎて忘れてたけど。
俺、なんでこんなハードな人生歩んでんの?
「・・・・・・・・私」
「芽吹、手ェ出せ」
有無を言わさず芽吹の右腕を引き寄せ、ずっと、渡しそびれたままだった物を着けた。
「これ・・・・ブレスレット・・・?」
渡した物は、ゼラニウムの花を模したブレスレット。桃色の糸を使って作ったので、ブレスレットというよりミサンガに近いかもしれない。
「本当は、お前が大赦にお呼ばれした日に、渡す予定だったんだがな・・・・・お前、口も聞いてくれなかったし・・・・・」
「─────────そう」
「お前はもう、気付く事ができたんだ。失敗は、明日の糧にすれば良い。前を向けよ。立って歩け。お前さんにゃ、立派な足があるじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ばっちゃが昔言っていた。『努力を積み重ねるのも、そいつを台無しにするのも、全部自分自身だ』ってさ」
「自分自身・・・・・」
「これを見る度、俺の言葉を思い出せ。そうすりゃ、万事上手くいくさ!」
「・・・・・・・・・気休めじゃない?」
「病は気から、とも言う」
「その喩えは違うと思う」
「気にしたら負けってことで一つ」
芽吹はため息を吐いて、ブレスレットに触れる。
「ありがとう輝夜。まあ、ちょっとくらいは、頑張ってみるわ」
「おう、そうしろ」
もう、芽吹は大丈夫そうだな。戸棚の物色に戻るとしようか。
「────なぁ、ホントにここにあるのか?お前のパンツしかねーぞ?」
「───────────────右じゃなくて、左の戸棚よ(怒)」
赤いゼラニウムの花言葉はゆゆゆ民にはお馴染みの、『君ありて幸福』ですが、
ピンクのゼラニウムは、『決意』なんだとか。
ちなみに、ゼラニウム全般だと、『尊敬』って花言葉があるそうな