契約者達への鎮魂歌 -Re.birth-   作:渚のグレイズ

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樹ちゃんとの交流回リメイク版。



K.K.の日常 -樹のココロ-

私、犬吠埼樹は讃州中学の一年生。

入学して早々、姉が部長を勤める勇者部という部活に入部させてもらい、毎日楽しく過ごしている。

ただひとつ、気がかりというか、苦手な人がいる。

 

「樹ぃ!!そっち行ったぞーー!!」

「え!?あ!?にゃふん!!」

「にゃー」タッタッタッタッタッ

「ナイス顔面レシーブ(笑)でも逃がしてちゃ、世話ねーな・・・・よ~し、ワンモワセッ!!」

「ま・・・・まだやるんですかぁぁ・・・・・・」

 

それがこの人、煌月輝夜先輩だ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

彼についての噂は、私が讃州中に入学するより前から聞いていた。

曰く、『讃州市一帯の不良たちのまとめ役』

曰く、『大人顔負けの腕っぷしを誇る』

曰く、『義手と義足は怪物と戦って生還した証』

───等々いろいろ。

そんな噂から私は、煌月先輩が怖い人だと思っていた。

だから実際に会ってみて、私はすごくびっくりした。

腰まで届く程の長さの艶やかな黒髪を、三つ編みで一纏めにした、女の子みたいな顔立ちの男の人。

服装こそ着崩していて不良っぽい感じだったけど、そのせいで余計に、子供っぽく見えてしまう。

そんな人だった。

 

「ひぃ・・・・ひぃ・・・・ひぃ・・・・ひぃ・・・・」

「お疲れちゃん樹。俺についてこれるとは中々見所あるじゃん」

 

そう言って煌月先輩は、義手ではない方の手で私の頭を撫でた。乱暴な撫で方だったけど、不思議と嫌な気分にはならなかった。

 

「さて・・・・ここまで追い込めば、後はこっちのモンだ・・・・・・っと!」

 

あれからしばらく追いかけっこを続け、気付けば猫は公園の木の上で降りられなくなっていた。

先輩は「これも全て計算の内よォ!」なんて表情で木に登っているが、本当のところは、途中で見失って散々迷った挙げ句、猫の鳴き真似をしながらここまで闊歩して来たのである。

更に「お前も猫の気持ちになるんダヨォ!!!」と、何処から出したのか、猫耳カチューシャを着けさせられた。そして写真に撮られた。

 

「────────はぁ」

 

でもその甲斐あって(なんて言いたくないけど)依頼にあった迷子の猫は見つかった。

あとは先輩がうまく捕まえてくれれば─────

 

 

 

 

 

バギッ!!

 

 

 

 

 

「・・・・え?」

 

何かが壊れるような、そんな音がしたと思ったら、煌月先輩が木から落ちそうになっていた。

 

「こ・・・・煌月先輩!!!」

「わっちゃっちゃー・・・・あぶねーあぶねー。間一髪」

 

その隙に、猫が先輩の身体をうまく伝って降りてきたので、しっかり捕獲。

 

「ナ~~イス♪よっと・・・・あん?」

私が猫を捕まえられたのを見届けると、煌月先輩は木から飛び降りて───────着地に失敗して尻餅をついていた。

おかしい。煌月先輩が尻餅をつくなんて・・・・・・もしかして?

 

「・・・・・うわっちゃー。やっちまった・・・・・」

「ひえっ!?」

 

案の定だった。煌月先輩の右足の足首から先が壊れて外れかかっていた。

義足であることを知っていても、いきなりこんな物を見せられてはびっくりする。

 

「うわぁ・・・・ひどい・・・・」

「参ったなぁ・・・・・次の休みに点検してもらう予定だったのに・・・・・こうも早く逝っちまうとは・・・・」

「─────────あの」

「樹は先に依頼主のとこ、猫連れてけ」

「ふぇ?」

 

私が言うよりも早く、煌月先輩は的確に指示を出してくれた。

 

「俺はこのまま足の修理に行ってくるから、友奈か東郷に俺の荷物を持って帰るよう頼んでくれ」

「え・・・あの・・・」

 

指示を出すだけ出して、先輩は勝手に歩き出した。

 

「ああ、それから───」

「ふぁい!?」

「これは俺の自業自得であって、お前にはなーんも非は無いから。責任とか、感じる必要ねーぞ?」

「っ!?・・・なん・・・」

「どーせ、『あのときちゃんと猫を捕まえていれば』なんて、いらん責任を感じてるんだろ?風さんと言い、樹と言い・・・・まったく、やれやれだぜ」

 

図星だった。

最初に逃したとき、私がちゃんと猫を捕まえていれば、先輩の足は壊れずに済んだかもしれない。そう、思っていた。

でも先輩は、それは違うと言う。

 

「いいか樹。『もし』とか『たら』とか『れば』なんてのは、単なる気の迷いだ。出来なくて後悔したなら、次の時までに出来るようになれ。それだけの努力をしろ。そうして努力を積み重ねた奴が、最後に笑うんだからな」

「・・・・・・・・・・・・煌月先輩」

「分かったら返事!!」

「はっ・・・・はい!!」

「よし。んじゃ、これは未来あるお前さんへの投資っつー事で」

 

そう言って投げ渡されたのは五百円玉。

 

「え?」

「帰りにジュースでも買うと良い。あ、でもちゃんと依頼はこなせよ?その猫を渡すまでが依頼だかんな?」

「は・・・はい!」

「良い返事。そんじゃ、さっさとお行きー!!」

「ぴゃあ!?」

 

ばしーん!とお尻をはたかれた。

・・・・・・ちょっと、痛い。

 

「──────樹よお、お前もうちっと肉付けた方が良いぞ?」

「よ・・・・余計なお世話ですぅ~~~!!!」

 

お姉ちゃん、やっぱり私、煌月先輩のこと、ちょっと苦手だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、猫耳カチューシャを付けたままだったことにはついぞ気付かず、部室に戻ってお姉ちゃんたちに言われて、漸く気付いたのだった。

うう・・・・・恥ずかしい・・・・・・

 

 


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