契約者達への鎮魂歌 -Re.birth-   作:渚のグレイズ

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鏡がある。何の変哲も無い、普通の姿見。その前に立つ。

「────────」

全身を、自身で改造した強化スーツに包んだ、己の姿がそこに映る。
犬のような形状をしたヘルメットから、エジプト神話に出てくる冥府の審判"アヌビス"を連想させる。

故に、おれは自身の名を、『アヌビス』と名乗る。

「──────木乃伊が、冥府の審判とは・・・・皮肉だな」

おれは、このスーツを脱ぐ事が出来ない。生命維持装置も兼ねている為に、脱いだ瞬間、おれは絶命してしまうのだ。

「───────────」

何度となく頭を過る言葉、"何故、こんな事になってしまった"

その疑問に回答を得るべく、おれは、今日までに起きた出来事を思い返してゆく………




第二章 上里一正は天才児である
はじまりのひ


上里一正(カズマ)

 

それが、おれの名前であり、そして、おれに与えられた役割を示すものでもある。

 

 

上里家は代々、この閉ざされた四国の内政を司る者として、今日まで大赦を率いてきた家柄。

 

 

─────と、言うのは表向きの話。

 

 

実際の処は、『御社』と呼ばれる大赦の裏組織が、政を担当しており、上里家は『御社』の決定を民衆に伝える為の伝令役に過ぎない。

 

 

"一正"と言う名は、『己の正義を一心に貫く』という意味で与えられた。

こんな、操り人形の家系に、正義なんぞ在るものか。

己の名の意味を知った日から、おれはずっと、その想いを抱えて生きていた。

 

 

彼女に出会う、その日まで………

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

その日、両親に連れられて訪れたのは、上里家と同じく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()である『乃木家』。

 

「あなたと同い年の子もいるそうだし、仲良くしてあげるのよ?」

「──────────はい」

 

母の言葉に渋々頷いてみせるが、正直、仲良くするつもりなど、微塵も無かった。

使用人に屋敷の客間に通されてしばらく、暇をもて余したおれは単身、屋敷内の散策に向かうことにした。

両親と使用人の許可を取ったおれは、無駄に広いこの屋敷中を巡り、間取りを記憶しようと試みた。

 

半周程した所で、突然、少女の悲鳴が聞こえてきた。

 

直ぐ様駆けつけて見れば、和室にて、二人の男女が倒れており、少女が泣きながら二人に声をかけていた。

 

「どうした!?」

「え?だれ~?」

「後にしろ!容態は?脈は?呼吸は?」

 

おれからの質問に、涙と鼻水で顔中ぐしゃぐしゃになっている少女は的確に答えていった。

 

「救急車は?」

「もう呼んだよ~~。お母さ~~ん・・・・お父さ~~ん・・・・」

「──────安心しろ、もうすぐ来る」

「・・・・・・・・うん」

「呼び掛け続けろ。息があるなら、絶対に助かる」

「うん!!お父さん!お母さん!しっかりして!!」

 

 

これが少女────乃木園子とのファーストコンタクト。

結論からいうと、二人は無事助かった。というよりも、二人は只の仮病だった。

話を聞く限り、どうやら園子の将来を案じて、一芝居打って出たらしい。

 

「傍迷惑な話だ・・・・・・」

「えへへ~~♪」

「───────────なんだ?」

「さっきはありがとう~~、わたし、乃木園子って言うんだ~~」

「・・・・・そうか、お前が。おれは上里一正。礼は必要無い。当然の事をした迄だ」

「でも、あなたが居たから、お母さんもお父さんも、助かったんよ~~」

「・・・・・たかだかおれ一人居ても居なくても、結果は変わらなかっただろう」

「ううん。そんな事ないんよ」

 

そう言って、園子がおれの手を掴む。

 

「止せ。おれはそんな風に言って貰えるような人間じゃない」

 

だがおれは、園子のその手を振りほどいた。

沈黙と、気まずい空気が流れる。

居たたまれなくなったおれは、足早にその場を立ち去ろうとした。

 

「う~~~~ん・・・・・・かずくん!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「"かずま"だから、かずくん!どうかな~?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

 

我ながら、すっとんきょうな声が出たと思う。よもや、おれの渾名を思案していたとは・・・・

 

「だめ・・・?」

「────────────好きに呼べ。おれはお前と仲良くするつもりは無い」

「わ~~い、やった~~♪これからよろしくね、かずくん!!」

「・・・・・だから、宜しくするつもりは無い!!」

「まぁまぁ、そう照れなさんなって~~」

「誰の真似だそれは!!!」

「おお~!ナイスツッコミ~~♪」

「────はっ!?しまった!?」

「ふっふっふっ~。お主はもう、ワシの手中よ~~」

「何ぃ・・・?馬鹿を言うな!」

「次にかずくんは、『誰がお前の手の平で踊るか!?』と言うんよ~~!!」

「誰がお前の手の平で踊るか!?───────はっ!?」

「イエーイ!!バッチリ命中~~♪」

「ぐぐぐ・・・・・こ、このおれが・・・こうも手玉に取られているとは・・・・!」

「あはは~♪かずくん、すごい顔~♪」

 

 

そんな、無意味な会話を、おれと園子は繰り広げた。

普段のおれなら、「興味無い」と言って即座に切り捨てていただろう。しかし、園子との会話は(何故かは理解出来ないが)、母に呼ばれる迄、続けていた。

中身等無い無用な会話。だがそれが、とても心地好かった。

帰宅時、おれの心には、以前ネットで見つけた相対性理論に関する論文を読破した時以上の充実感と、一抹の寂寥感があった。

 

「・・・・・乃木園子。興味深い、な」

 

その日の就寝時、珍しくおれは、明日を待ち焦がれながら、眠りについた。

 

 

 

 

 

これが、おれにとっての総てのはじまり。

 

 

恐怖に怯えながらも懸命に立ち向かっていた、彼女の友になれたあの日があるからこそ、おれは今………

 

 

 




─上里一正─

上里家の一人息子。
五歳で自作OS搭載PCをジャンクパーツだけで組み上げられる程の天才児。
天才故に他人から気味悪がられ続けていたので、若干の人間不信に陥っている。


―――――――――――†――――――――――

イメージ元は『仮面ライダーフォーゼ』の歌星賢吾。別に虚弱体質では無い。

神世紀300年では、パワードスーツを纏い『アヌビス』と名乗る彼が、どのような経緯でそうなったのかを追っていく第二章。
次回もお楽しみに!!


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