契約者達への鎮魂歌 -Re.birth-   作:渚のグレイズ

45 / 85
「たっだいま~っす」

陽気な声を上げて入室してきたのは、仮面の女、鉛。

「んー?鏡なんか見て、なぁに黄昏てんだよ」
「・・・・・・・・首尾は?」
せめて一言くらいツッコミ入れてくれたって・・・・・問題無いよ、資金援助はこれからも続けてくれるってさ」
「ならば良い。しかし、お前が勝手に対象と接触した際は、流石に肝を冷やしたが・・・・何はともあれ、アレの起動は確認できた」
「結果オーライってね♪」
「振り回される此方の身にもなれ」

にゃはは~、と笑う鉛に近付き、彼女の面を取る。

「・・・・・・・・どした?」
「──────────────────いや」

そこにあったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──────────────済まない。おれがもっと早く、駆けつけていれば・・・・」
「気にすんなって・・・・もう痛みだって無いんだし。まあ、左側が見えないのは、ちょっと不便だけど」

そう言って、鉛───否、銀は少し哀愁の漂う表情で笑った。

「───────銀、おれは」
「はいストップ」
「む」

口元に指を押し付けられた。尤も、ヘルメット越し故に、その行動にあまり意味は無いのだが・・・

「アタシのことを思って、償ってくれようとしてるのは分かってる。でも、それは今じゃない。ここに、園子と須美を加えて、いつもの四人になった時に、まとめて返してくれ。な?」
「──────────お前は、そうやっておれの行動をいつも・・・」
「へへっ♪だって、これじゃフェアじゃないからな」
「・・・・・・・そうか」
「そーだよ」

銀は、いつもの笑みを浮かべて言う。

「そういや、初めて会ったときも、こんな感じの会話をしたよな?」
「ああ、そうだな………」



みのわ ぎん

園子と知り合った翌日。

下らない学校の授業を全て終了し、帰宅する為に教室を出ようとした、その時だった。

 

「・・・・・・・・なんだあれ?」

 

窓の外に見えたのは、木に登る一人の少女の姿。

良く良く観察してみれば、どうやらボールが枝に引っ掛かり、取れなくなった様子。

 

「よっし、取れた!落とすぞー?」

「わっ!・・・とと、ありがとー!!」

 

少女がボールを下に落とすと、下にいた低学年の男子達が手を振ってお礼を言い、去って行った。

 

「さて、アタシも・・・・・うわっ!?」

「っ!?」

 

少女が降りようとしたところで、手を滑らせて木から落ちてしまう。が、なんとか枝に掴まり、滑落は免れた。

このまま放置するのは寝目覚めが悪い。窓を開けて少女に向かって手を伸ばす。

 

「おい、こっちだ。手を伸ばせるか?」

「え?だれ?」

「良いから早くしろ。枝が持たないぞ」

「・・・・・えいっ」

 

振り子運動による助走を付けて、少女はおれの手を掴んだ。

・・・・・今日ほど、自分の筋力の無さを恨んだ日は無い。人一人引き上げようとしただけで右腕が悲鳴を上げている。

 

「ぬっ!ぐぅぅぅぅぅぅ・・・・・」

「だ・・・・大丈夫か?」

「しん・・・・ぱい・・・・は・・・・・必要・・・・無いっ!!!」

 

死力を尽くして、少女を引き上げる。

 

「うお・・・らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

テコの原理を利用して、どうにか少女を引き上げる事に成功できた。

が、少々勢いが強すぎたようで、少女が空を舞い、おれの上に落ちてきた。

 

「ぐぇ」

「あいたたた・・・・あ、大丈夫か!?」

「──────平気だ」

 

直ぐに少女はおれの上から退いて、此方に手を差し出してきた。

少女の手を借り、立ち上がる。

 

「・・・・・っ」

「どうした?」

「・・・・・・・・何でも、ない」

 

嘘だ。

どうやら少女に手を掴まれた時に、右腕をやってしまったらしい。引っ張られる際に、痛みを感じた。

しかし、この程度ならば湿布でも貼って安静にしていれば、平気だろう。

 

「・・・・・怪我は無いな」

「え?ああ・・・アタシは平気」

「そうか。なら、おれはもう帰る」

 

少女の無事を確認したおれは、帰宅するべく踵を反す。

 

「あ、ちょっと待って!」

「痛っ!?」

 

急に右腕を掴まれたので、声を我慢出来ずに少々悲鳴を上げてしまった。

 

「・・・・・・やっぱり、怪我してんじゃん!」

「・・・・・・・・・・この程度、湿布貼っておけば平」

「保健室へ行こう!!!」

「だが・・・・」

「悪化したらどうするんだよ!!!いいから行くぞ!!!」

「お・・・・おぅ・・・・」

 

あまりにも圧しが強すぎた為に、おれは気圧されそのまま保健室へと連行された。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「捻挫で済んで良かった~~」

「・・・・・だから、平気だと言ったのだ」

 

養護教諭に処置して貰った後、おれは保健室のベッドに座り、ため息をつく。

 

「だって、アタシを助けたせいで怪我したんだろ?」

「この程度、怪我の内にもならん」

「そう言って放置してたら悪化したーって話、良く聞くんだよなー・・・・」

「放置等しない。帰宅したら適切に処置する予定だった」

「こういうのは早い方が良いんだよ」

「・・・・・むぅ。ああ言えばこう言う」

「どっちがだよ」

 

半眼で睨まれ、二度目のため息をつく。

 

「・・・・・この借りは必ず返す」

「いーよ別に。こんなの、全然フツーのことじゃん」

「だが、それではおれの───」

「んー、だったら、さっき助けてくれたお礼ってことで・・・・それなら良いだろ?」

「────────何故」

「ん?」

「何故、お前は礼を求めない?それだけの事をしたんだぞ?求めたって、別におかしくないのに・・・・」

「そんな事言われてもなぁ・・・・」

 

少女は困ったように笑うと、少し考えてから語った。

 

「別に、お礼とか、そんなのの為に頑張ってる訳じゃないからね。単に困ってる人をほっとけないだけ・・・・まぁ、そのせいで遅刻とか、結構しちゃうんだけど・・・・・」

「───────お前、は」

「ん?」

 

初めてだった。

そんな風に考えると事の出来る者に、おれは初めて出会った。

おれの近くには居なかったタイプの人間に、おれは正直、心惹かれつつあった。

 

「あ、そうだ!」

「なんだ?」

「そんなにお礼がしたいって言うならさ、あんたの名前、教えてよ♪」

「名前?そんな程度で良いのか?」

「ダメか?」

「──────────────上里一正だ」

「上里・・・・?え!?あの上里!?」

「他に何がある?」

「ま・・・・マジかぁ・・・・えぇと・・・・・なんか、その・・・・あのー・・・・・」

 

急に萎縮してしまった。まあ、そうだろうな・・・・なんたっておれは────

 

「上里家の子、怪我させたって聞いたら、母さんも父さんも怒るだろうなぁ・・・・ヤベーよ・・・・どうしよう・・・・・」

「そっちかよ」

「へ?何が?」

「・・・・・・・まあ、良い」

 

家柄の差を気にしての事だったようだ。

 

「別に気にする事では無いだろう。少なくとも、おれは気にしない」

「そりゃそうだろ。上里家よりも上なんていないもんな・・・」

「・・・・・・そうかお前、市位の出か」

「は?なんて?」

「何でもない」

 

此所、神樹館小学校は大赦が経営している。故に、通う学生の殆どが大赦内でも高い地位の職員の子供たちだ。

しかし、一般市民が通えない訳では無い。学費こそ掛かるが、そうした子供たちもこの学校には複数人在学している。

彼女も、その中の一人なのだろう。

それならば、先程の反応も多少は納得できる。

 

「おっとそうだ、忘れるところだった。アタシは三ノ輪銀。気軽に銀って呼んでくれよな!」

「───────覚えておこう」

 

左手で握手を交わす最中、おれは、彼女の名を心に刻んだのだった。

他者の名前を記憶したのはこれで、園子に次いで、二人目だった。

 




うひみ最終話、とても良かった・・・・(感涙)

外史はあと二編。

誰の話になるのやら・・・・・先が怖いような、楽しみのような・・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。