陽気な声を上げて入室してきたのは、仮面の女、鉛。
「んー?鏡なんか見て、なぁに黄昏てんだよ」
「・・・・・・・・首尾は?」
「せめて一言くらいツッコミ入れてくれたって・・・・・問題無いよ、資金援助はこれからも続けてくれるってさ」
「ならば良い。しかし、お前が勝手に対象と接触した際は、流石に肝を冷やしたが・・・・何はともあれ、アレの起動は確認できた」
「結果オーライってね♪」
「振り回される此方の身にもなれ」
にゃはは~、と笑う鉛に近付き、彼女の面を取る。
「・・・・・・・・どした?」
「──────────────────いや」
そこにあったのは、
「──────────────済まない。おれがもっと早く、駆けつけていれば・・・・」
「気にすんなって・・・・もう痛みだって無いんだし。まあ、左側が見えないのは、ちょっと不便だけど」
そう言って、鉛───否、銀は少し哀愁の漂う表情で笑った。
「───────銀、おれは」
「はいストップ」
「む」
口元に指を押し付けられた。尤も、ヘルメット越し故に、その行動にあまり意味は無いのだが・・・
「アタシのことを思って、償ってくれようとしてるのは分かってる。でも、それは今じゃない。ここに、園子と須美を加えて、いつもの四人になった時に、まとめて返してくれ。な?」
「──────────お前は、そうやっておれの行動をいつも・・・」
「へへっ♪だって、これじゃフェアじゃないからな」
「・・・・・・・そうか」
「そーだよ」
銀は、いつもの笑みを浮かべて言う。
「そういや、初めて会ったときも、こんな感じの会話をしたよな?」
「ああ、そうだな………」
園子と知り合った翌日。
下らない学校の授業を全て終了し、帰宅する為に教室を出ようとした、その時だった。
「・・・・・・・・なんだあれ?」
窓の外に見えたのは、木に登る一人の少女の姿。
良く良く観察してみれば、どうやらボールが枝に引っ掛かり、取れなくなった様子。
「よっし、取れた!落とすぞー?」
「わっ!・・・とと、ありがとー!!」
少女がボールを下に落とすと、下にいた低学年の男子達が手を振ってお礼を言い、去って行った。
「さて、アタシも・・・・・うわっ!?」
「っ!?」
少女が降りようとしたところで、手を滑らせて木から落ちてしまう。が、なんとか枝に掴まり、滑落は免れた。
このまま放置するのは寝目覚めが悪い。窓を開けて少女に向かって手を伸ばす。
「おい、こっちだ。手を伸ばせるか?」
「え?だれ?」
「良いから早くしろ。枝が持たないぞ」
「・・・・・えいっ」
振り子運動による助走を付けて、少女はおれの手を掴んだ。
・・・・・今日ほど、自分の筋力の無さを恨んだ日は無い。人一人引き上げようとしただけで右腕が悲鳴を上げている。
「ぬっ!ぐぅぅぅぅぅぅ・・・・・」
「だ・・・・大丈夫か?」
「しん・・・・ぱい・・・・は・・・・・必要・・・・無いっ!!!」
死力を尽くして、少女を引き上げる。
「うお・・・らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「うわぁぁぁぁぁ!?」
テコの原理を利用して、どうにか少女を引き上げる事に成功できた。
が、少々勢いが強すぎたようで、少女が空を舞い、おれの上に落ちてきた。
「ぐぇ」
「あいたたた・・・・あ、大丈夫か!?」
「──────平気だ」
直ぐに少女はおれの上から退いて、此方に手を差し出してきた。
少女の手を借り、立ち上がる。
「・・・・・っ」
「どうした?」
「・・・・・・・・何でも、ない」
嘘だ。
どうやら少女に手を掴まれた時に、右腕をやってしまったらしい。引っ張られる際に、痛みを感じた。
しかし、この程度ならば湿布でも貼って安静にしていれば、平気だろう。
「・・・・・怪我は無いな」
「え?ああ・・・アタシは平気」
「そうか。なら、おれはもう帰る」
少女の無事を確認したおれは、帰宅するべく踵を反す。
「あ、ちょっと待って!」
「痛っ!?」
急に右腕を掴まれたので、声を我慢出来ずに少々悲鳴を上げてしまった。
「・・・・・・やっぱり、怪我してんじゃん!」
「・・・・・・・・・・この程度、湿布貼っておけば平」
「保健室へ行こう!!!」
「だが・・・・」
「悪化したらどうするんだよ!!!いいから行くぞ!!!」
「お・・・・おぅ・・・・」
あまりにも圧しが強すぎた為に、おれは気圧されそのまま保健室へと連行された。
―――――――――――†――――――――――
「捻挫で済んで良かった~~」
「・・・・・だから、平気だと言ったのだ」
養護教諭に処置して貰った後、おれは保健室のベッドに座り、ため息をつく。
「だって、アタシを助けたせいで怪我したんだろ?」
「この程度、怪我の内にもならん」
「そう言って放置してたら悪化したーって話、良く聞くんだよなー・・・・」
「放置等しない。帰宅したら適切に処置する予定だった」
「こういうのは早い方が良いんだよ」
「・・・・・むぅ。ああ言えばこう言う」
「どっちがだよ」
半眼で睨まれ、二度目のため息をつく。
「・・・・・この借りは必ず返す」
「いーよ別に。こんなの、全然フツーのことじゃん」
「だが、それではおれの───」
「んー、だったら、さっき助けてくれたお礼ってことで・・・・それなら良いだろ?」
「────────何故」
「ん?」
「何故、お前は礼を求めない?それだけの事をしたんだぞ?求めたって、別におかしくないのに・・・・」
「そんな事言われてもなぁ・・・・」
少女は困ったように笑うと、少し考えてから語った。
「別に、お礼とか、そんなのの為に頑張ってる訳じゃないからね。単に困ってる人をほっとけないだけ・・・・まぁ、そのせいで遅刻とか、結構しちゃうんだけど・・・・・」
「───────お前、は」
「ん?」
初めてだった。
そんな風に考えると事の出来る者に、おれは初めて出会った。
おれの近くには居なかったタイプの人間に、おれは正直、心惹かれつつあった。
「あ、そうだ!」
「なんだ?」
「そんなにお礼がしたいって言うならさ、あんたの名前、教えてよ♪」
「名前?そんな程度で良いのか?」
「ダメか?」
「──────────────上里一正だ」
「上里・・・・?え!?あの上里!?」
「他に何がある?」
「ま・・・・マジかぁ・・・・えぇと・・・・・なんか、その・・・・あのー・・・・・」
急に萎縮してしまった。まあ、そうだろうな・・・・なんたっておれは────
「上里家の子、怪我させたって聞いたら、母さんも父さんも怒るだろうなぁ・・・・ヤベーよ・・・・どうしよう・・・・・」
「そっちかよ」
「へ?何が?」
「・・・・・・・まあ、良い」
家柄の差を気にしての事だったようだ。
「別に気にする事では無いだろう。少なくとも、おれは気にしない」
「そりゃそうだろ。上里家よりも上なんていないもんな・・・」
「・・・・・・そうかお前、市位の出か」
「は?なんて?」
「何でもない」
此所、神樹館小学校は大赦が経営している。故に、通う学生の殆どが大赦内でも高い地位の職員の子供たちだ。
しかし、一般市民が通えない訳では無い。学費こそ掛かるが、そうした子供たちもこの学校には複数人在学している。
彼女も、その中の一人なのだろう。
それならば、先程の反応も多少は納得できる。
「おっとそうだ、忘れるところだった。アタシは三ノ輪銀。気軽に銀って呼んでくれよな!」
「───────覚えておこう」
左手で握手を交わす最中、おれは、彼女の名を心に刻んだのだった。
他者の名前を記憶したのはこれで、園子に次いで、二人目だった。
うひみ最終話、とても良かった・・・・(感涙)
外史はあと二編。
誰の話になるのやら・・・・・先が怖いような、楽しみのような・・・・