契約者達への鎮魂歌 -Re.birth-   作:渚のグレイズ

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わしお すみ

それから、一年が過ぎた。

 

あれ以来、園子と銀とは仲の良い友人として接している。

中でも銀の『巻き込まれ体質』には舌を巻いたものだ。

犬も歩けば~とは言うが、よもやそれを連日連夜体験しているとは・・・・

流石に心配になったので「全部に構っていたら、体が持たないぞ?」と言ってみたところ、「目の前で困ってる人をほっとけないでしょ」と以前にも言われた言葉を返された。仕方がないので、今後何か巻き込まれた場合はおれに一報入れるように厳命しておいた。

 

 

そうして過ぎた一年は、これまでの数年よりも、時間の流れがあっと言う間に感じた。

 

きっと、今後もこんな風に、園子に振り回され、銀を手伝いながら、日々を過ごして行くのだろうと、柄にもなく、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神託が下った、あの日迄は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――†――――――――――

 

その日、父と共に訪れたのは、大赦本庁の一室。別名"謁見の間"。

神樹様からの託せんを受けた"筆頭巫女"が、その内容を上里家代表に伝える為の場だ。

 

現在の"筆頭巫女"は、上里の血筋ではなく、別の家柄の巫女だ。上里家には()()()()()()()()()()()()、代々上里家が継いでいた"筆頭巫女"の座は別の者に委ねられたのだ。

 

だからと言って、上里家の役割は変わらない。

神の代理として、大赦を、そして民を導くこと。

それを為す為に、こうして父とおれは"筆頭巫女"に謁見しているのである。

 

「本日、神託がありました」

 

おれと、然程変わらない年であろう"筆頭巫女"が、緊張した様子で厳かに神託の内容を語る。

 

 

 

「近く、バーテックスの侵攻が再開されるであろう・・・と」

 

 

 

その内容に、後ろに控えていた神官達がざわめく。

皆口々に「どうしたら・・・」等「もうおしまいだ」等「とうとうこの日が」等、喧しいったらありゃしない。

 

「お静かに。この神託を受け、神子様が直々に次代の勇者様方をお選びくださりました」

 

 

神樹の神子

 

旧暦の時代から今日まで、ずっと生き続けているという神の子供。

旧暦最期の戦いである『終末戦争』において、乃木や白鳥等、現在"六華"として語られる家々の先祖と共に、バーテックスを退けたのだとか。

 

「これより、勇者様の名を読み上げます」

 

高々と読み上げられたその二人の名前に、おれは驚愕と動揺を隠せなかった。

 

 

 

 

 

乃木 園子

 

 

 

三ノ輪 銀

 

 

 

 

 

「───以上が、神子様の選ばれた勇者様です」

「お・・・・お待ちください!たった二名・・・ですか!?」

 

神官の誰か(もしかしたら父だったかも知れない)が、"筆頭巫女"に向かって声を上げる。

 

「これは、大赦内部の者で執り行うべき神事。大赦に連なる家柄の中では、この両名のみが、適性を持つのだと、神子様が────」

「しかし、これではあまりにも心許ない!」

「それに・・・・両名はまだ中学生にも満たない幼子!!いくらなんでもこのような・・・・」

「ではこのままバーテックスに滅ぼされるのがお望みか!?」

「私は人道の話をして───」

「連中に人道など通じぬ!!それが分からぬ訳ではあるまい!!」

「しかし────!」

 

一人の叫びを皮切りに、神官達が喚き出す。"筆頭巫女"はそれを黙って見ているだけ。

 

(────下らない。人道だ何だと言っている暇があるならば、自分達がバーテックスと戦えるように出来るシステムでも造れば良いのに)

 

等と考えてもみたが、あの無能共には無理な話。

仕方ない。この日の為に密かに造っていた"アレ"を使うとしよう・・・

 

 

Hello Under Forester

 

 

耳元に装着した、マイク型インターフェースに暗号音声を入力。

数秒と待たずに無機質な音声が返ってきた。

 

『ヨウコソ マスター 御用件ヲ ドウゾ』

 

ジュカイネット接続。勇者適性リスト上位五名迄を呼び出せ

 

『検索シマス』

 

しばらくして、返ってきた答えを聞いたおれは、それを踏まえて思考する。

 

どうすれば、園子と銀を守れるのかを………

 

 

「一つ、宜しいですか?」

 

 

プランが纏まったので、挙手して名乗り出る。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

"筆頭巫女"からの許可も出たので、編み出したプランを提案する。

 

「神子様が見出だされた勇者の候補。大赦外にもまだ数名いるそうですね?」

「─────はい。ですが」

 

「では、その内の一名を『鷲尾家』に養子として迎えるのは如何でしょう。かの家ならば家柄としても申し分は無いですし、なによりあの家には子供が居ない」

 

おれの提示したプランに、その場に居る全員がざわめいた。

 

「な・・・何を言うか!!そんな言い訳じみたこと、通用するわけが」

「ならば何か?たった二人だけの勇者に、人類の命運を背負わせるお積もりか?」

「う・・・・それは・・・・・」

 

一睨みしただけで、その内神官は沈黙。

 

「であれば、もう一名追加しては如何か?養子として迎えられる家が無ければ、鷲尾家に二人でも───」

「その必要はありません。私に策が御座います」

「で・・・ですが」

「分かりました」

 

渋る神官の言葉を遮るように"筆頭巫女"がおれのプランを採用した。

 

「上里一正。貴方の案を採用し、勇者候補の者を鷲尾家に養子として迎え入れるよう手配します」

「ありがとうございます」

「して、誰を迎えるのですか?」

「失礼」

 

一言謝罪を述べ、端末を操作。

 

「・・・・この者を」

「────────成る程。承りました。すぐに手配を」

「御意に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

おれのクラスに、"鷲尾須美"と名乗る少女が、転校してきた。

 

 

 


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