「──────それは残念な知らせだな」
何時襲撃してくるかも分からない敵に対し、万全の態勢を整えている最中、銀が話を振ってきた。
「あそこのジェラートは絶品だった」
「カズマをも唸らせるイネスのジェラート!あーあ、話してたら無性に食べたくなってきた」
「銀」
「────────分かってるよ。今はまだダメだって事くらい」
仮面で表情は判別不可能だが、声のトーンからして、確実にテンションが下がっている。
「・・・・・全部終わったら、また皆で食べに行こう」
「それまでやってると良いんだけどなぁ」
「テンションの下がる様な事を言うなよ」
銀の笑い声が部屋中に響く。
そういえば、あのジェラート屋を最初に教えて貰ったのは、初戦闘の翌日だったな………
「えっと・・・親睦を深める為にも、これから祝勝会をしない・・・?」
そんな提案を受けたのは、バーテックスとの初戦闘後、翌日の放課後の事であった。
しかも驚くべき事に、提案者は鷲尾である。
「おお!良いね♪丁度アタシも同じ事考えてた!」
「わーい♪親睦、親睦~♪」
鷲尾からの提案に、銀と園子はノリノリである。となると────
「かずくんも一緒に行こうね~」
「ちなみに、拒否権は無いっ!」
ほら、こうなった。
これから武装の見直しをしなければならないというのに・・・・
「悪いがおれにはやるべき事が────」
「よっし!行くぞー!!」
「場所は何処にしよっか~?」
「えっと・・・・イネスはどうかしら・・・・?」
「良いね!イネスならなんでもあるからなー♪」
両腕を銀と園子にガッチリホールドされ、おれは祝勝会の会場に決定されたイネスへと連行されて行く。
体力なんて人並み以下のおれが、抵抗できるはずも無く、「やめろー!はなせー!」と口で抵抗するしか為す術は無かった。無論、それも無駄に終わってしまったが────
―――――――――――†――――――――――
「今日を無事に迎えられたことを、大変うれしく思います。えー・・・・本日は大変お日柄もよく、神世紀298年度勇者初陣の祝勝会という事で、お集りの皆様の今後ますますの繁栄と健康、そして明るい未来を─────」
「長い、それと固い」
「そうだぞー、固いぞー。かんぱーい!」
「いえ~い♪かんぱ~い♪」
イネスのフードコート。
そこの四人掛けの机を陣取ると、各々好きなドリンクを片手に着席する。
すると鷲尾が、長ったらしい前置きを始めたので、さっさと切り上げて乾杯する。
「かずくんも!かんぱ~い♪」
「ドリンクを押し付けるな!乾杯なぞ幾らでもやってやるから!!」
「いえい♪いえ~い♪」
園子の奴・・・・酔ってるのか?まさか。只のジュースだぞ?
「それよりカズマ!昨日のお前、凄かったな!!」
「・・・・・別に。あんな物、まだまだ発展途上だ」
「つまり、まだ上があるってコトか・・・・!?」
「当然だ。そうでなければ、奴等には勝てん」
「いや~~、かずくんはカッコいいこと言いますな~~」
「ですな~~」
「・・・・・・・何を呑気な事を」
「──────────」
ふと、鷲尾が先程から沈黙したままなのが、気になった。
「・・・・・遠慮する事は無いぞ、鷲尾」
「ふぇっ!?」
「そもそもがお前から提案してきたんだ。ならば遠慮なんて不要だろう」
「カズマの言うとおり!みんなで楽しもう!!」
「それより、誘ってくれてありがとうね~。私もすみすけ達を誘うぞ~誘うぞ~!って思ってたんだ~」
こいつ、珍しく放課後に寝て無いと思ったら、そんな事を・・・・
「でもなかなか言い出せなかったから、すっごく嬉しいんよ~~♪」
「えっと・・・・あの・・・・」
「ん~~?なぁに、すみすけ~?」
「さっきから呼んでる、その、"すみすけ"というのは?」
沈黙が、流れた。
「・・・・あ~~。私、いつの間にかあだ名で呼んでた~」
そのあだ名、本人不許可かよ。
「あだ名は嬉しいけど、その"すみすけ"っていうのはちょっと・・・・」
「え~?せっかく考えたのに~・・・・じゃあ、ワッシーナとか?アイドルみたいで可愛いでしょ~♪」
「い・・・嫌よ!」
即答である。そりゃそうだ。
「え~?」
「乃木さんだって、"そのりん"なんて呼ばれるの、嫌でしょう?」
いや、園子の場合は恐らく────
「わ~♪可愛い~♪じゃあ私の事はそれで」
「ごめんなさい。私が悪かったからそれはやめて」
だろうと思った。
「そっか~・・・・ん~~・・・・じゃあ、わっしー!わっしーなんてどう?」
「んー・・・・それなら、まあ・・・・」
「そういう事なら、アタシの事も"銀"で良いぞ。代わりに鷲尾さんの事、これからは"須美"って呼ぶから。ついでに、カズマの事も"カズマ"って呼ぶと良い」
「勝手に決めるな」
園子に便乗して、銀が鷲尾に名前呼びを提案する。それは良いが、おれまで巻き込むんじゃない。
「・・・・・・えっと」
「・・・・・・・好きに呼べ。上里でも一正でも。お前の呼びやすいようにしろ」
「はあ・・・・」
「ぃよっし!そんじゃ、仲良くなった記念に、アタシオススメのお店を紹介して上げようじゃないか!」
オススメの店?いったい何だ?
―――――――――――†――――――――――
案内された先は、同じフードコート内に併設してある『コッティモ』という名のアイスクリーム屋。
「アイスクリーム屋じゃなーい!ジェラート屋さんだ!!」
「・・・・違いが判らん」
「何ィ!?神樹館一のヒデサイが判らんと申すか!?」
「ヒデサイって何だ。秀才だろーが」
銀と漫才をやっている間に、園子と鷲尾がアイスク・・・・・ジェラートを買ってきた。
「えへへ~♪迷いに迷ってメロン味にしたんよ~♪」
「・・・・・・・・・・むぅ」
「鷲尾は何故そんなに眉根を寄せている?」
「・・・・・・・・・・じぇらーと等という軟派な氷菓に、和三盆と抹茶が合うとは思えないけれど」ぶつぶつ
何をぶつくさと・・・・
「さて、全員分揃ったし、いっただっきま~~す♪」
ちなみに、おれと銀は既に購入済みだ。
おれが選択したジェラートは、チョコミント。やはりアイスはチョコミントに限る。
対する銀は、『しょうゆ豆』なる味。
どんな味だよ・・・・・
まあ良い。兎も角頂くとしよう。
「はむ──────────────っ!」
こ・・・・これはっ!!!
お・・・・・思わず心の中で叫んでしまった・・・・
なんて絶品なんだ!!!このジェラート!!!!!
「ふっふっふ・・・・その顔、気に入ってくれたみたいだな!」
「──────そうだな。素直に称賛しよう。これは旨い!!」
「───────────」
「あれ?須美は気に入らなかった?」
「──────いいえ、とても合うのが衝撃的で・・・・」
「つまり旨かった、と」
おれの補足説明に頷く鷲尾だった。
「わっしー、あんまり深く考えちゃダメだよ~。おいしいものはおいしい。それで良いんよ~♪」
「・・・・・・・・・そうね!はむっ♪」
園子の一言に、考えるのをやめた鷲尾は自身のジェラートにかぶり付く。
その後も、下らない会話を繰り広げながら、おれ達の親睦会は続いた。
端から見れば、なんて事無い普通の小学生たちの交流に、改めて、この日常を護れた事を実感できた。
そんな感慨に耽りながら、おれは自分のジェラートを食べるのだった。
「ところで、ジェラート・・・・もとい、アイスクリームはチョコミントが王道だと思うのだが」
「おっと!聞き捨てならない言葉だねえ・・・・ジェラートで一番ウマイのはしょうゆ豆味に決まってる!」
「否、チョコミントだ」
「しょうゆ豆!」
「チョコミント!」
「しょうゆ豆!」
「チョコミント!!」
「しょうゆ豆ーっ!」
バチバチバチバチバチバチ
「ふ・・・・二人の間に火花が散っている・・・・!?」
「あはは~♪どっちもがんばれ~♪」
「いやいや!?そんな事を言ってないで乃木さんも止めて~~~~!!」