母さんに気絶させられて次に目覚めた時には、時刻は15時を過ぎていた。
「────まったく、なんだってこう、あの人はさ」
文句を言った処で何も変わる訳が無いのだが、それでも愚痴という物は出て来てしまうものだ。
そんな訳で愚痴りつつも保健室を出る。
「─────あ」
「・・・・・鷲尾?何をしている?」
廊下には鷲尾が立っていた。扉に手をかけようとしていたらしく、微妙な格好で固まっている。
「えっと・・・・上里くんは、身体はもう平気ですか・・・・?」
「・・・・・・ああ。76時間ぶりに充足した睡眠を取れたからな。体調は万全だ」
「そうですか──────待って、今、何時間と?」
「76時間だが?」
「ちゃんと寝なさい!!!!」
突然押し掛けて来ておいて、唐突な叱責とは此如何に・・・・
しかしその心は理解出来る。正確には76時間29分56秒ぶりの睡眠だが、本来おれ程の年齢ならば、24時間内に六時間以上の睡眠を取らなくてはならないのだから。
「御叱りは御尤もだが、おれにはやらなくてはならない事が山積みなんだ。寝てなんかいられない」
「だからと言って、ちゃんと睡眠を取らないとすぐに体調を崩してしまいますよ!!」
「───────改善できるよう、努力はする」
その一言で良しとしたのか、鷲尾はそれ以上叱責を続けなかった。
「・・・・・眠れない程、忙しいのですか?」
「そうだな」
「それは・・・・・・・・私の、せいで・・・・?」
「は?」
こいつは突然に何を言い出す?
「私が、迷惑ばかりかけるから・・・・・だから上里くんは眠る時間が取れない程に」
「自意識過剰」
「なっ・・・・!?」
「お前の暴走一つで、おれが何故眠れない程忙しくなる?その程度で崩れる作戦ならば、そもそも立案などしない。お役目の内容上、おれ達の内、誰かしらが欠ける可能性も考慮しておかねばならないのだからな」
「な・・・何のことを言っているの・・・・?」
「察しが悪いな?・・・・いや、理解したくないだけ、か。それは只の『逃げ』でしか無い」
「止めて・・・・」
「いいか?おれ達が相手をしているバーテックスという存在は、人類の常識が通用しない相手だ。一手読み違えただけで大惨事に陥る。最悪の場合は─────」
「止めてっ!」
「───────誰かが死ぬ事になる」
パンッ
鈍い痛みが、左の頬に走る。
「・・・・・・・・・・・・っ!!」
おれの頬を叩いた鷲尾は、何処かへと走り去って行ってしまった。
「あーあ。わっしーを泣ーかせたー」
「女の子泣かせるとは・・・・罪な男だなー、カズマは」
いつの間にか、おれの背後に園子と銀が居た。
「・・・・・・だが真実だ。どれだけ目を背けたくとも、いずれは直面する」
「かずくん」
「・・・・・・・・・・言い過ぎた事は、認める」
園子からの圧を感じ、己の非を認める。
が、それでも、このままであれば、いずれ誰かが犠牲となるのは避けられない。
「──────そうならない為に、あいつが居るんだ」
「どういうことだ?」
「そういえば、さっきかずくんのお母さんが言ってたけど、わっしーをお役目に選んだのって、かずくんなんだって?」
「そうだな」
「わっしー、びっくりしてたんよ~」
「・・・・だろうな」
「・・・・・なんで須美を選んだんだ?なんか理由でもあるのか?」
「─────────それはあいつに話すことで、お前達に話すことでは無いな」
「ケチ」
―――――――――――†――――――――――
「ゴリ押しにも程があるでしょう」
ミーティングの開幕一番、安芸先生からお叱りの言葉が飛び出した。
そりゃそうだろう・・・・前回の戦闘は、無茶苦茶が過ぎた。
「あなたたちに足りないもの。それは、『連携』です」
「連携───」
それはおれも考えていた。
個々の戦闘力は十分に足りている。が、おれたちはそれを活かせるだけの戦場造りが出来ていない。樹海の話ではなく、位置取りの話だ。
どんなに強い戦士であろうとも、適正距離というものが存在する。弓兵に近接戦闘をやれ、というのは『死ね』と言っているようなものだ。
そこで重要になるのが、"連携"だ。
「神託によると、しばらくは侵攻が無いので、あなたたちには明日より数日間、大赦が用意した宿泊施設にて合宿をして貰います」
「合宿?」
「わぁ~合宿だってかずくん~」
「楽しそうだな・・・・」
合宿の意味を理解しているのか?こいつは・・・・
「そして、連携の訓練をするにあたって、あなたたちの中から、隊長を決めたいと思います」
・・・・・・まぁ、確かに必要か。
おれを含めたこの四人を纏められるような奴────少なくとも、おれには無理だな。
となると───
「乃木さん。お願いできるかしら?」
「え?わたしですか~?」
だろうな・・・。
この中で選ぶとしたら、園子か、おれだろう。だが、おれにはそういうのは向いてない。従って、リーダーは園子一択しか無い。
「かずくん・・・どう思う~?」
「何故おれに聞く?」
「だって~・・・」
「おれにはそんなもの不向きだ。だがお前なら出来る。少なくとも、おれはそう考えているが?」
「うぅ~~・・・・・」
園子が他二人の様子を伺う。
「アタシはパス!リーダーなんてガラじゃないもん」
「・・・・私も、乃木さんが適任だと思うわ」
「と、言うことだ。従って、お前しかいない」
「かずくんでも充分イケると思うんよ~・・・」
「自信が無い?」
「─────────うん」
まったく・・・・
何時まで経ってもコイツは───
「大丈夫だ、園子」
「わぷっ」
ぐりぐり、と園子の頭を撫でる。
「お前になら出来る。なんならおれが副隊長として支えてやる。だから、やれ。心配するな、みんながいる」
「かずくん・・・・」
「────────うわぉ」
「────────はわわ」
何故だか銀と鷲尾が顔を赤らめてこっちを見ている。お前らが照れる要素なんぞ、いったい何処にあった?
「んん!こほん・・・では、隊長は乃木さん。副隊長は上里くんで決定します。よろしいですね?」
全員が頷く。
この日のミーティングはこれにて終了した。