スーツ越しの背中に、温もりを感じる。銀が抱き付いているのだ。正直作業の邪魔なのだが、邪険にあしらうような真似はせず逆に、腰に回された手に自身の手を重ねる。
「───────実際、一度死んだから・・・・な」
「大赦がお前の葬式を執り行った時とか、アスカが大暴れして大変だったしさ」
「───────苦労をかけた」
おれは、この温もりに答える事は出来ない。否・・・・許されないのだ。
あの日、この身は息絶えた。
だがそれは、ある者達との出会いによって保留となった。
以来おれは、彼に協力する形で己の目的を果たす為に、このロスタイムを使っているのだから………
「なあ、どうやって助かったんだ?」
「ああ・・・・それはな」
と、その時。部屋の扉が急に開かれた。入って来たのは、白髪で褐色肌の男だ。
「居るか?アヌビス・・・・・・っと、悪ィ。出直すわ」
「─────はっ!?いやいやいや!?別に大丈夫ッス!ご用件はなんでしょーか団長どの!!」
銀がおれから素早く離れる。
・・・・・・今更、そんなに照れるような事も無かろうに。
「団長って呼ぶンじゃねェよ・・・・まあ良い」
彼こそ、おれを助けてくれた人の一人。
名を"赤嶺
彼は大赦から独立した組織、"鏑矢"を纏める長で、銀なんかは"団長"なんて呼んでいる。本人は嫌っているようだが………
「例の連中がとうとう動きを見せた。イチャ付くのも結構だが、6に接触しようとしてくるやも知れん。早々に対処してくれ」
「っ!────とうとう、この日が・・・・!」
「出来る準備はギリギリまで行う。鉛、先行していてくれ」
「了解・・・・・!」
"鉛"の仮面を着け、銀が部屋から出ていく。
その背中を見送りつつ、おれは逸華団長と出会った時の事を思い返す。
『─────ここ、は?』
現在、得体の知れぬ薬液に漬け込まれ、呼吸器で繋がれた状態だという事は、どうにか理解した。問題なのは、
肉体の方の運搬は簡単だろう。しかし、魂はそうはいかない。
あの時おれの魂は、力を使い過ぎた反動で樹海の一部となった筈………
「うん。だから、俺の能力で生命力を吹き込んでやったんだ」
『・・・・・!?』
いつの間にか目の前に、おれと同い年位の少年が立っていた。
軍用コートを羽織りポケットに両手を突っ込んだ状態で、少年はじっ・・・と此方を見ている。まるで、品定めでもするかの如く………
と、そこへ、少年の背後の扉が開かれ何者かが入って来る。白髪で褐色肌の男だ。
「おいミカ、急にどうし・・・・・・・・なるほど、そういう事かい」
『────貴方が、おれを?』
「身体の方は、な。オレは赤嶺逸華。"鏑矢"のリーダーをやっている者だ」
鏑矢。その名は聞いたことがある。
神世紀初頭に起きた集団自殺テロ事件を解決した組織の名が、それだった筈。
『だが鏑矢は、もう既に解体されていた筈だが・・・』
「そいつァ、大赦ン中の話だ。大赦から独立したオレ等は今も尚、活動してるのさ」
『そうだったのか・・・・』
しかしそうなると、おれを救ったという少年の能力もだが、それ以上に彼等がおれを助けた理由が気になる。
『・・・・・では、本題を聞きたい。おれを助けた理由は、なんだ?』
「あんたが、あいつと接触したから」
『あいつ?』
「オレ等が着けなきゃなんねェケジメ・・・・・その一つだ」
『それは・・・・どういう・・・・?』
おれの質問に答えるよりも先に、誰かが入室してきた。
「逸華、奴が動いた。瀬戸大橋に向かっているぞ!」
「何だと・・・・!?」
『・・・・大橋、だって!?』
入って来たのは筋骨隆々の大男。その腕には飾り気の無い真鍮製の腕輪があった。
「・・・・・む?そいつ、目を覚ましたのか」
「自己紹介くらいしなよ?」
「むぅ・・・・・・・分かっている」
少年に言われて大男は、こほん、と咳払いを一つしてから名乗った。
「安芸
『・・・・・・・安芸?うちの担任と同じ名字だが・・・・』
「・・・・・多分、姉貴だ。他に、安芸って名字が居なけりゃな」
安芸家は大赦所属の巫女の家系ではあるが、上里家と違い分家は無いそうだ。従って、この政弘さんが安芸先生の弟という事が証明された・・・・・って、マジか。
『─────先生、弟居たんだ』
「・・・・・・あまり、自分の事を語りたがらないからな、姉貴は。ボロが出るから」
『・・・・・確かに』
記憶に新しい遠足での事。昼食のバーベキューにて焼きピーマンに苦戦する先生の姿を思い返し、政弘さんの言葉に同意した。
「よし・・・・マサはこいつ連れて大橋に向かえ。ミカ!」
「分かった」
「・・・・・・良いのか?」
逸華さんの指示で、カプセルから出される。
外に出た瞬間、呼吸困難となって身体が動かせなくなった。
「──────!?」
「おちつけ」
少年が、おれに触れる。
その瞬間、身体に活力が戻り、呼吸も出来るようになった。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・なに・・・・が・・・・・?」
「俺の能力を使った。しばらくは持つと思う」
「・・・・・・・・そう、か」
どうやら今のおれは、この少年の能力とやらで生かされている状態のようだな。
「・・・・・自立、出来るように・・・・しなければ・・・・・」
スーツに生命維持装置を増設するべきだな・・・・これでは動く事すら儘ならない。
「・・・・・何を考えているかは知らんが、行くぞ」
「・・・・・・大橋へ?何故?」
「連中が動いたからだ」
おれの質問に答えたのは逸華さん。
「奴等─────キューロノイド共がな・・・・」
─赤嶺逸華─
鉄華d────鏑矢を纏める現代の長(団長じゃないよほんとだよ)。
政弘以外の構成員は各地に散らばっているので、基本的にはメールで指示を出している。
団長と呼ばれるのを嫌がる。