契約者達への鎮魂歌 -Re.birth-   作:渚のグレイズ

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Kの心象、Yの心境 -春信と輝夜-

春さんに呼ばれ、工房に来ると、見慣れないモンが置いてあった。

 

「なんだコレ?ロボか?」

「強化外骨格───所謂、パワードスーツって奴だよ」

「へー」

 

コレがパワードスーツ、ねぇ・・・・

見るからにロボなんだが・・・・

 

鋭角的なシルエットの白いボディ。装飾なのか、装甲の継ぎ目なのか、駆体各所に黒い溝が彫られている。

顔部分にはバイザーがあり、恐らくは彼処にモニター宜しくいろんな情報が表示されるのだろう。そのバイザー横には、斜め上後方に向かって伸びる一対のアンテナが、ファンタジーによく出るエルフって種族の耳の如く、尖っている。

胴体部と腕部分はかなり細い造りになっている様で、デブには無論着れないし、胸部もそれほど遊びが無さそうだから、東郷辺りも難しいだろう。勇者部連中の中だと、友奈と樹ぐらいしか装着できないんじゃなかろうか?俺はどうだろう?腹周りが少し怪しいかんじ・・・・かな?腹筋割れてるし。

そんな事を考えながら視線を下へ向けると、奇妙な物を見つけた。

このスーツの脚だ。

どういう訳か、人間の脚とは形状が違い、足部分が無い。シューズとして分割されている様子も無い。

腕部とは違って太めに設計されている事から、中で爪先立ちの様な感じで着るのだろうが・・・・それ、疲れないか?ま、逆関節じゃないだけマシか・・・・・?つーか逆関節とか、どーやって着るん?足畳むん?

 

「輝夜くん?そろそろ良いかい?」

「うぃッス」

 

春さんに呼ばれたので、ひとまずコレの事は後にしよう。今は俺のおニューの義手義足が先だ。

 

―――――――――――†――――――――――

 

さて、そんなワケで装着したんだが・・・・

 

「・・・・なんか、前より重くね?」

「お、流石に気付いたね?」

 

ウキウキ笑顔で春さんは、俺の前に的を設置。

 

「ちょっと左腕で殴ってみて。あ、当てる直前くらいに親指付け根のボタンを押してね?」

「?」

 

よく見てみると、確かに親指の付け根辺りにボタンらしき物がある。なんだコレ?

よくわからないがとりあえず、言われるままに的を殴る。

 

 

 

 

 

ガッ!!ガァ・・・ン!!!

 

 

 

 

 

「────────は?」

 

炸裂音が二回して、目の前の的が粉々に砕けた。

 

「うん!ちゃんと機能しているね!じゃ、次」

「おい待てよ」

「お次は足の試験だよ」

「待てって」

「ここに改造ルームランナーを用意したから、ちょっと走っ「待てっつってんやろがい!!!」

 

三度目のツッコミを受けて、春さんも漸く止まった。

 

「なんだい?何か問題でも?」

「問題大アリだボケ。なんだよ今の、俺の左腕に何仕込んだ?」

「よくぞ聞いてくれました!!」

 

俺が問うと、嬉々として春さんは解説を始める。どっから出した、そのホワイトボード。

 

「今回、輝夜くんの左腕に搭載したのは『アームパンチ機能』!火薬の爆発による衝撃を利用して打撃力を引き上げる機能だ。簡単に言えばパイルバンカーの簡易版・・・・かな?ちなみに、ただのパイルバンカーじゃつまらないから一撃に二度、火薬が炸裂するように設計してみたよ!」

「そうか・・・・・・一つ、良いか?」

「なんだい?」

 

笑顔で語る春さん。そんな彼に、俺は一言告げる。

 

「バカかお前!?バッカじゃねえの!?もしくはアホか!?」

「三つだねえ」

「喧しいわ!!!」

 

まったく・・・・なんだってこの人は・・・・

 

「んなもん俺に積んで、どうしろっつーのさ!?」

「使えば良いじゃないか」

「パイルバンカーが必要になる様な日常には生きてねぇから!」

「えー?ホントでござるかぁ~~?」

「ンだよ。急にござる口調になって・・・」

「僕、知ってるんだよ」

「何を?」

 

 

 

 

 

「君が、白鳥先生の()()を、勝手に秘密裏に受け継いだこと」

 

 

 

 

 

「・・・・・っ!?」

 

いつも通りの笑顔で、春さんは言った。

そりゃあ、何時かはバレると思ってはいたが・・・・

よりにもよって春さんにバレるとは・・・・ほとほと運が無い。

 

「別に告げ口はしないよ。安心して良い。君が選んだ君の道だ。それを否定するつもりは毛頭無いよ」

「───────そうか」

「結城ちゃん辺りが知ったら、全力で止めるだろうしね」

「────────アイツには、知らないままでいて欲しい。そう思っている」

「でも、何時かはきちんと話さないとだよ?君がそんな身体になった原因でもあるんだ」

「─────────────」

 

春さんの忠告に対し、俺は、頷くことは、しなかった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

春さんと出会ったのは、五年程前。

俺が事故に逢い生死の行方をさ迷った挙げ句、両足を失ったあの日、()()()()近くを通った春さんに助けられたのがきっかけだ。

 

聞けば、ばっちゃが昔、教員をしていた時の生徒だったらしい。

昔は、大赦で旧暦時代の技術を復活させる部署に就いていたそうだ。ちなみにその部署は、経費削減と署長の失踪を理由に、二年前に解体されたらしい。

そうして職を失った春さんは今、こうして喫茶店のマスター兼この工房の主を務めている。

 

春さんには、ばっちゃが死んだ時にも世話になった。

色々と面倒な手続きを手伝ってくれたのだ。

その結果、俺は今もこうして讃州に居られるってワケなのだから、春さんには下げた頭が上がらない。

 

の、だが─────

 

「だからといって実験台はゴメンだっつーの!」

「メンテナンス無料でやってあげてるんだからいいだろう?」

「それとこれとは話が別!」

 

工房から上がりつつ、左腕の話を進める。

進んでんのか?平行線な気がする・・・・

 

「かぐやちゃんは春信さんに感謝すべきじゃないかな?」

「ほらみろぉ!」

「友奈までそう言う・・・・」

 

いや、友奈が春さんの味方するのも理解できンだがなぁ・・・・・

正直、左腕(コレ)は要らない。重いし、邪魔。

 

「僕の渾身の力作なんだ。無下にしないで欲しいなあ」

「そーだよ、かぐやちゃん。もったいないおばけが出てきちゃうよ」

「・・・・チッ。二人してそういう事を言う・・・・」

 

こうなると弱いって、分かっててやってるんだもんなぁ、こいつら。

 

「あーもう!わーったよ!分ーかーりーまーしーた!!とりあえず今日は大人しくコレで我慢しとくから。次来る時までに普通のを用意しといてくれよ?」

「はいよ~」

 

軽く手を振る春さんに見送られ、俺は友奈と共に"嵐ヶ丘"を後にする。

 

「左腕、そんなに重い?」

「前のヤツに比べると」

「かぐやちゃん、道具の扱い乱暴だし、壊れにくいようにしてくれたからじゃないの?」

「────────それだけだったら良かったンだがなぁ・・・・・」

「ふぇ?なんか言った?」

「別にー」

 

友奈と並んで家へと歩く帰り道。

 

この時の俺は、知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、よもやこの左腕が、陽の目を浴びる日が訪れることになろうとは………

 




-輝夜と友奈が去った後の"嵐ヶ丘"-



「・・・・・・」

「なあ、ハル。アイツに武器持たせたって事はさ────」

「ああ、近々来るらしい。『シルヴァリオ』からの情報だ」

「───────また、戦いが始まるんだね」

「・・・・・・・・・」

「大丈夫だって!杏子が教えた術と、先生の教えた技がアイツにはある!!ハルが渡した武器だってあるんだ。アイツなら、やれるさ!」

「────────そう信じるしか、今の僕たちには出来ない、か・・・・・」

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