「魔王!もう悪いことは、やめるんだ!」
友奈の声に、微睡みの中を揺蕩っていた意識が浮上する。
今、俺達勇者部は幼稚園で人形劇を行っている。
容姿のせいで悪者扱いを受けていた魔王が村人に嫌がらせを始め、それを知った勇者が魔王の下へと赴き対話による相互理解を図り、見事、魔王を改心させることに成功する。
そんな感じの内容だ。
「私を怖がって悪者扱いを始めたのは村人たちの方ではないか!」
「だからって嫌がらせはよくない。話し合えば分かるよ!」
「話し合えば、また悪者にされる!」
「君を悪者になんかしない!あ・・・」
今、ドンって音したな。・・・て、事は。
先の展開を予想した俺は、咄嗟に周囲を確認する。よし、誰も見ていない。今がチャンス!
テンションの上がった友奈が叩いた劇用の舞台が、園児達の方向に向かって倒れゆく。
完全に倒れきるよりも早く、俺は右目を閉じ意識を左目に集中させる。
その瞬間、
俺はその線に向かって、左手を差し出し────
バキン!と音を立てて、舞台が上下真っ二つに割れた。
そのまま舞台は崩壊。園児達に当たる事は無く、誰にもケガは無い。良かった良かった。
しかし良くないのは劇の方だ。
「な・・・なんか良くわからないけど、園児達に当たんなくてよかった~~・・・・でもこれ、どうしよう・・・・」
「え・・・えぇと・・・・え~~と~~・・・・・」
お、友奈がテンパり始めた。さて、どう動く───
「勇者キーーーーック!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「ブッフォォ!!」
キックと言う名のパペットパンチが風さんの魔王パペット(左手)に炸裂!!
これには風さんも困惑。そして俺は大爆笑。
「おま!?それキックじゃないし!て言うか、話し合おうって言ったばかりでしょ!?」
「だ・・・・・だって~~・・・・」
「こうなったら喰らえ!魔王ヘッドバット!!」
唐突に始まるブンドド。あーもう滅茶苦茶だよ。
「樹!ミュージック!!」
「ええ!?」
そうそう、樹は音楽担当で、東郷はナレーションを担当している。
んで、突然の指示に困惑する樹。よし、助け船を出してやろう(笑)
「樹!流すなら13番!」
「13番・・・・これですね!」
PCから流れて来たのは、荘厳な曲。
「ちょ・・・!?ここで魔王のテーマ!?」
そう、俺が樹に指示したのは『魔王のテーマ』。
これにより、風さんのテンションが上がり───
「フハハハハハハハハハハ!!!ここがキサマの墓場となるのだァーーーー!!!」
「うぉぉ!?魔王がやる気に!?」
「おのれ~~」と懸命に立ち向かう勇者!ハイパーモードへと移行した魔王とどう戦う!?
「みんな~!勇者を応援して~~!一緒にグーでパワーを送ろう!!」
その時、東郷の煽動により園児達が勇者を応援し始める!
「ぬぅぅおぉぉぉぉぉぉ・・・・みんなの声援が私を弱らせるぅぅ~~・・・・」
「お姉ちゃん、ナイスアドリブ!」
樹の言う通り、風さんのナイスなアドリブで魔王が弱まった。
その瞬間を待っていたと言わんばかりに、勇者が渾身の一撃を放つ!
「今だっ!!勇者パーーーーンチ!!!!」
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
あ、友奈のヤツ今の割りと本気で殴ったな。
ともかくこれにて魔王は沈黙。
倒れゆく魔王を、そっと勇者が抱き止める。
「これで分かってくれたよね?もう友達だよっ!」
「〆て!〆て!」
小声で出される風さんからの指示を受け、東郷が〆のナレーションを入れる。
「こうして、魔王は改心し、美しき國は守られたのでした」
「みんなのおかげだよっ♪」
沸き上がる歓声と万歳。
トラブルはあったものの、どうにか劇は成功させることができたようだ。
めでたしめでたし………
―――――――――――†――――――――――
「ゴリ押しにも程があるでしょう」
翌日、勇者部顧問のマッキーより、そんな評価を貰った。
その上俺と友奈だけ、正座させられている。何故だ。
「舞台を倒してしまったのは、まあ事故ですからね。仕方ないでしょう。問題はそのあとです。なんですか、勇者キックって。対話による解決目指していたのではなかったのですか?魔王が釣られてヘッドバット咬ましてきちゃってるじゃないですか」
言葉の刃が友奈にぐさくざと突き刺さる。
「こふっ」
「マッキーったら容赦無ぇなあ・・・・」
「しかし今回における一番の戦犯は、なんと言っても煌月くんですね」
おっと、こっちに飛び火してきたぞぉ。
「場の雰囲気を盛り上げるなら『魔王のテーマ』よりも『勇者のテーマ』にすべきでしょう?なんでよりにもよって『魔王のテーマ』を?」
「その方が面白いじゃん」
「どうせそんな事だろうと思ってましたよ」
えー・・・・じゃ、なんで聞いてきたんさ。
「えー、あの、先生。そろそろ・・・・」
「・・・・そうですね。煌月くんはともかく、結城さんは辛くなってくるころですしね。そろそろ今日の活動を始めましょうか」
そう言ってマッキーは、届いた依頼を纏めたファイルを風さんに渡す。
「うぅ・・・足が痺れて・・・・」
「なんならマッサージしてやろうか?うりうり」
「み゛ゃ゛っ゛!!ちょっ・・・・止めっ・・・・!!」
正座を崩し、痺れる足でなんとか立とうとする友奈の足を突っつく。
涙目の友奈に、割りと本気の力で殴られた。
「か~ぐ~や~ちゃ~ん~!!!」
「ははは、ほれ、座りな」
友奈の腕を引き上げ、その下に椅子を滑り込ませて座らせる。
「後で覚えてろよー」とでも言いたげに、こちらを一睨みすると、友奈は風さんの話を聞く体制になる。
「さて、今日も今日とて張り切って行くわよー!」
今日も今日とて、人助け。まあ、張り切らせてもらうさ。
―――――――――――†――――――――――
そういえば、マッキーが何故勇者部の顧問をやっているのかを説明してなかった。
それもこれも、今年になって追加された校則のせいだ。
『校外へ赴く活動のある部活には、必ず、顧問を一人着けること』
去年の暮れに、交流試合の為に校外に出たとある運動部の連中が、通り魔に襲われた事件があった。
幸い、怪我人は出ておらず、犯人もその場で御用となったのだが、このことを重く見た讃州中の理事会は、上記の校則を追加する事にしたのだ。
んで、"校外へ赴く活動のある部活"というのは、運動部だけとは限らない。
われらが勇者部もまた、依頼があれば校外へ赴くことがあるのだ。当然、対象となる。
そこで俺は、マッキーに勇者部の顧問となってくれる様に打診した。こういう時、身内が先生であるのは強みなんだなぁ、と改めて思ったものだ。
マッキーは快く承諾してくれた。
そして、今────
「おかわり!」
「風さん、もう三杯目だぞ」
部活終わりに俺達は『かめや』といううどん屋に来ている。
かけうどんが一杯百円と学生諸君にはとっても
おかげで我ら勇者部一同、すっかりここの常連客である。
「風さんよ・・・食うのは結構だが、あまり食い過ぎると肥るぜ?」
「んぐっ!!げほっげほっ・・・・・・だ、だだだ大丈夫よ。アタシの場合、栄養は全部女子力に変換されるんだから!」
なんじゃそりゃ。
「アタシのことは良いの!それより、本題に入るわよ」
「そういえば、話があるからって理由でここに来てたんだっけ」
「そうよ!今度の文化祭の話をするために来たのよ!」
「文化祭ぃ?」
「もうですか?」
讃州中の文化祭は十月に行われる。現在五月の頭。流石に早すぎやしないか?
「去年は色々ゴタゴタしてて、何も出来ませんでしたから・・・」
「あー、そういやそうだったな」
東郷に言われて去年の事を思いだしつつ、俺は鞄から梅干しのビンを取り出して、一粒口に放り込む。
うん、旨い。
「あ♪かぐやちゃんの梅干し、いっこもーらい♪」
ひょい、ぱく。
「あっ。・・・たくもう。ちゃんと味わえよ?」
「ひゃーい」
酸っぱそうに口をすぼめながらも、元気よく返事をする。
「あ、私にもちょうだい?」
「いいぞー。ほれ」
「ん、ありがとう」
東郷はどうやら酸っぱいのは平気らしく、なんとも美味しそうに食べてくれた。
やはり手間隙かけて作った物を喜んでくれる人がいるというのは、とても良いものだ。
死んだばっちゃも言っていた。「
「あ・・・・あのー」
「ん?どーした樹。お前も欲しいのか?」
「えっと・・・・・はい。いっこ、ください」
「いいぞ。何事にも挑戦してこその人生だからな」
ばっちゃの言葉を樹に投げ掛けつつ、梅干しを一粒取り出して小皿に載せて渡す。
しばらく梅干しを見つめていた樹だったが、意を決し一口で食べたのだった。
「ん゛ん゛っ!?酸っぱ・・・・!」
「それが良いんだよ」
「そろそろいい?」
そういえば、風さんが話の途中だったな。
「今年は猫の手も入ったし、顧問の先生も居るからね♪」
「んえ?
「夏休みに入る前に、決めておきたいのよねえ」
「確かに、常に先手で有事に備えることは大切ですね」
「うーん・・・・文化祭の出し物かぁ・・・・」
「どーせならハデなヤツ、やりたいよな!」
「おー♪良いねー!みんなが笑顔になれる様な、素敵な出し物にしたいねー♪」
俺の提案に友奈が同意する。そこへ東郷が質問してくる。
「それで?具体的にはどんな出し物にするつもりなの?」
「特に、決まって、無い」
「かぐやちゃん・・・・」
友奈に呆れられた。そういうお前だって、何も思い付いちゃいねーだろ。
「はいはい、とりあえず、全員で各々考えておくこと!これ、宿題ね」
『はーい』
「あ、すいませーん。もう一杯!」
「えぇ!?」
「四杯目・・・・」
「・・・・俺、知ーらね」
今日のところはこれでお開きとなった。
しかし、文化祭か・・・・どうすっかなぁ────
―――――――――――†――――――――――
翌日───
結局あの後、出し物の案は出てこず、いつの間にか日を跨いでしまっていた。
出し物、どうすっかなぁ・・・・・
「あぁ、なんでもないよ!」
「こら、結城さん。なんでもなく無いですよ!」
あーあ、友奈のヤツ、怒られてやんの。
「では丁度良いので続きのページを、結城さんに読んで───」
先生に言われ、友奈が慌てて教科書のページを開こうとした。
まさに、その瞬間だった────
♪~~♪~~
「ぅおわっ!?なんだぁ?」
「え?私のも!?」
俺と友奈の端末から、これまで聞いた事の無いアラームが鳴り響く。
「こら、授業中は携帯の電源は切っておくこと!」
「す・・・すみませーん」
「っかしーな・・・・切っといたハズなんだがなぁ・・・・」
画面には『樹海化警報発令』という、見馴れない表示がされている。そして、此方の操作を受け付けない!?
「・・・・・・うそ、
「──────何?」
東郷の呟きの真偽を問おうとしたところで、アラームは鳴りやんだ。
「ほっ、すみません。アラーム止まりまし、た・・・・?」
同時に、クラスメイト達の動きも止まった。
「─────え?」
「全員・・・・止まって・・・・?」
良く良く確認してみれば、クラスメイトだけでは無い。外を飛ぶ鳥や、揺れる木々、そしてなにより時計の針すらも止まっていた。
「友奈ちゃん。輝夜くん。落ち着いて聞いて」
「と・・・・東郷さん?」
神妙な面持ちの東郷が、俺たちを見て話す。
「私達が・・・・・"当たり"だった・・・・!」
その言葉の真偽を問うよりも先に、光が辺りを包み始め────
気付けば、見知らぬ場所に立っていた。
こうして、俺達の日常は、一度終わりを告げたのだった………