とある五つ子のSS   作:いぶりーす

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三玖の日。

「ねえ、フータロー」

「なんだ?」

「今日は何の日だと思う?」

 

 今日は特に予定がなかった。大学も春休み真っ只中で可能な限りぶち込んだバイトのシフトも今日に限っては空白だったのは我ながら珍しいと思う。

 高校時代と違いそこまで勉学に重きを置かなくて済む今はの俺は休日を持て余していた。

 ソファに腰を沈めながら期待の新人女優と持て囃されている見知った顔が出演しているバラエティ番組を何となしに眺めていると、三玖が隣にちょこんと腰掛けながら俺にそんな事を尋ねてきた。

 

「なんだクイズか?」

「フータロー、暇そうだったから」

「否定はしないが」

「それにせっかくの休日なんだしフータローともっとお話したいな」

「なら何処か出かけるか?」

「ううん。そうじゃなくて……今日はフータローと家でのんびりしたい」

「……そう、か。三玖がそう言うなら」

 

 前髪を弄りながらつい視線を逸らしてしまう変わらない自分が情けない。俺のいつもの反応をくすりと微笑んで三玖はそっと頭を俺の肩に預けてきた。

 世間で言うところの同棲状態の生活に少しは慣れてきたと思っていた。最初は必要性を感じず買うを渋っていたソファやテレビも今はこうして当たり前のように使っている。それはつまり俺がこの生活を三玖と過ごす空間を受け入れたという事だ。

 しかし妙な話ではあるのだが生活スタイルは統合され恋人同士の間柄で行われる行為も一通り経験したというのに、彼女が日常で向ける真っ直ぐな愛情表現に対しては未だに慣れていないのだ。

 俺の傍にいて、俺に愛情を向けてくれる。三玖にとってのその『当たり前』をちゃんと受けれて初めて同棲に慣れたと言えるのだろうか。

 なら、俺は当分は慣れる事はできそうにない。

 

「しかし何の日、か」

「当ててみて」

「そうだな」

 

 二人でいる時の話題は互いの学生生活だったりあいつ姉妹の事だったりで近状報告が主だがこうした問題形式は三玖にしては珍しい話題だ。

 勉強に関する事ならともかく正直この手の雑学にはあまり明るくはない。特に歴史で重要視されていない記念日などはさっぱりだ。

 しかしここで分からない、と答えたらきっと三玖は頬を膨らませてもう少し考えてと可愛らしく拗ねるだろう。ならば少しは真面目に考えねば。

 今日。三月九日。三玖からのクイズ。三玖と言えば戦国武将。或いは日本史関係か。

 

「確か坂本龍馬が襲撃された日だったか?」

「そうなの?」

「……違ったか」

「ううん、私が知らなかっただけ」

「ってことは三玖的には正解ではない、か」

「うん。そんなに難しい問題じゃないよ」

 

 そんなに難しい問題ではない。となるとこの手の歴史的な記念日ではなさそうだ。

 ……なら俺たちに関する事だろうか。そう思い至った途端に冷や汗が流れた。付き合った当時はよくこの手の記念日関係で俺は地雷を踏んでしまったのだ。

 付き合って三ヶ月だの、初めてのデートから半年だの、初めての出会った日から一年だの、俺が些細な事と感じる日が三玖にとっては大事な日でそれを忘れていてよく雷を落とされたものだ。

 主に三玖ではなくその姉妹達に。

 ならば今日も何かの俺たちの付き合いに関する記念日だろうか。必死になって記憶の糸を手繰り寄せる。が、該当する項目は一つも出てこない。

 ここは潔く負けを認めてまたあいつらに雷を落とされてよう。俺は三玖に降参して必死に他の記念日は覚えてる旨をアピールした。

 しかしそんな俺の様子を最初は目を丸くして聞いていた三玖が次第にクスクスと笑いを堪えられなくて喉を鳴らした。

 

「何が可笑しい」

「ごめんね。フータローが私との記念日をたくさん覚えていてくれたのが嬉しくて」

「そ、それはいいから答えを教えてくれ。これからは何の日か忘れねえようにする」

「簡単だよ」

 

 三月九日。みくの日。そう言って子どものように笑う彼女に俺も釣られて思わず笑った。こんな小学生が出すようななぞなぞクイズに必死になって頭を悩ませていた自分がどうしようもなく馬鹿らしい。

 けれどこの馬鹿馬鹿しさがどうしようもなく愛おしい。

 それから毎年三月九日は俺たちにとって互いに家で一緒に過ごす『何でもない』記念日になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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