雪化粧が施された街並みは今朝天気予報で見た気温よりも体感的に寒さを感じさせられた。出掛ける前に手袋を忘れてしまった自分の迂闊さを恨みながら悴む手に白い吐息を吐きかけるけれど、気休めにもならない。
「ほら」
そんな私に、ぶっきらぼうな言葉と共に突如手が現れた。
一瞬だけ呆けてしまったけど、直ぐに彼の意図を理解してこちらも手を指し伸ばした。すると氷のように冷え切った私の手を溶かすように、彼は一本一本指を搦めながら繋いでくれた。
固くて、大きくて、暖かい。凍えた手を優しく包み込んでくれる彼の手。人は幸せを嚙み締める時に暖かさを感じると以前、本で読んだ事を思い出した。
幸せが暖かさなら、この暖かさはきっと私にとって間違いなく幸福で。
「ふふっ」
思わず零れた私の笑みに彼も釣られて口元に弧を描いた。
ありがとうございます上杉君、と自然と出かけたお礼の言葉を寸前で飲み込む。前までならこれで良かったけれど、今は違う。もっと正しい言い方があるから。
「──ありがとう、風太郎君」
白い吐息と共に飾らない自分自身の想いを綴る。まだあまり慣れなくて、時々言葉に詰まりそうになる中野五月としての言葉。埋もれてしまっていた『私』を少しずつだけど、曝け出して行こうと決心したのは風太郎君と想いが通じ合った関係になったから。
「……っ」
私自身がまだ慣れないのだから当然、言われる側の風太郎君はもっと慣れていない。
目を丸くして慌てて空いたもう片方の手で前髪を弄りながら顔を逸らした彼の反応は私の想像通り。
慣れ親しんだ風太郎君の癖。それがどういう意味を示すのかは勿論知っている。
だからそんな彼が可愛くて、愛おしくて、繋いだ手に力を入れて握りしめる。離さないように、無くさないように、途切れないように、ぎゅっと。
そうすると同じように握り返してくれる彼に安堵を覚える。風太郎君ならこうしてくれると、風太郎君なら判ってくれると、信じて疑わない自分がいて。
いけない事だと判っているのに。お母さんの影を追うのを止めて、自分自身の夢を目指すのだと胸を張って宣言したのに、今度は彼に多くを求めてしまっている。
線引きをしなきゃいけない。我慢しなきゃいけない。そう思っているのに、彼に募る想いは日に日に増すばかりで。彼への想いを自覚するまで、自分自身にこんなにも貪欲な感情が眠っていたなんて思いもしなかった。
お父さんの代わりになると言ってくれた風太郎君だけど、今は『お父さん』だけじゃ足りないの。それだけじゃお腹がいっぱいにならないの。
「風太郎君」
「なんだ?……うおっ!?」
繋いだ手を離して今度は腕を組んで抱き寄せた。手を繋ぐだけじゃ、足りないから。
「お前なあ」
「……えへへ」
彼は驚いて見せるも、嫌がる素振りは見せなかった。やっぱり彼は受け入れてくれる。
……でも、まだ足りない。満たされない。
「───風太郎君」
掴んで、繋いで、繋いでも、彼への想いはまだまだ満たされない。
「……好き」
だから求めて、触れて、抱きしめる。これが本当の私だから。
「大好き」
だから与えて、触れて、抱きしめて。風太郎君。