あたたかな潮風にゆられる前髪を片手でかきあげながら、マヤはおだやかな海原をぼんやりと見つめていました。
かすかに望む、切りたった岩山をてっぺんから見下ろす灯台は、内海へと通じる運河の入り口をしめしているらしく、甲板では船乗りたちがマストを見上げて、大声でなにかを話し合っていました。
船が波風にゆられて、きしみをあげながら身を大きくゆらすと、マヤはそろそろとした足取りで、船員たちの邪魔にならないよう、甲板のうしろのほうにぺたんと座りました。
「ちょっと揺れるね。ハリネズミ、きっと泳げねえもんな。海に落としたらたいへんだ」
「ああ。おぼれる前に、サメか魚に食われちまうだろうな」
「まるのみにされちゃ、ハリも意味ないよな。でも、おおきな船って、こんなかんじなんだね。兄貴もああいうの、やってたのか?」
かけ声をあわせてマストにつながるロープを引く、たくましい船員たちをマヤが指さしてそう言うと、ハリネズミはすこし渋い口調で、笑いまじりに話しました。
「いいや。オレは、掃除だの、メシの用意だの、ひたすら雑用をやらされてたよ。たいして急ぎの仕事でもねえのに、人に見つかっちゃどやされてたな」
「そーなんだ。おれ、兄貴だけ船にのせてもらえて、うらやましいと思ってたんだけど。たいへんだったんだな」
「まあ、連中の機嫌のいいときは、楽しいこともあったが。それよりも、殴られた回数のほうがずっと多いだろうな。あまり思いだしたくないな」
ハリネズミがそう言うと、マヤは両手を頭のうしろで組んで、投げやりな調子で、あーあ、と空を見上げました。
「ほんとにな。おれたちの思い出、おもいだしたくないことばっかり。こうやって、自由になってみたらさ。しあわせってよりは、いままでの苦労はなんだったんだろ、っておもっちゃうね」
「はは。他人に話したら、贅沢と言われるかもしれないが……オレもそう思うよ」
兄妹が呆れたように笑い合い、とりとめのない会話をつづけていると、ハリネズミはそばに寄ってくる人の気配を感じて、口を閉じました。
マヤが座りこんだまま人影を見上げると、セーニャがいつものほほえみをたずさえて、マヤの顔をのぞきこんでいました。
「おはようございます、マヤさま。こちらにいらしたのですね」
「お姉ちゃん、おはよ。よく眠れた?」
セーニャはマヤのとなりにゆっくりと腰をおろすと、潮風にむかって、気持ちよさそうに目を細めました。
「はい。揺れと、波の当たる音が心地よくて。もう、運河の入り口まで来てしまったのですね」
「そうみたい。こんなおおきい船で、あんなせまいとこ通るんだね。ちょっと怖いね」
「ふふ。私も、ここを初めて通るときは怖かったですわ……マヤさま、船旅ははじめてですか?」
「うん。小舟はのったことあるんだけど。オールでこぐやつね。でも、おれさ」
マヤは、セーニャの顔を見つめて、苦笑いを浮かべました。
「兄貴とお姉ちゃんが、おおきな船に乗るって話をしてるとき、どうやって乗るんだろ?っておもってさ」
「どうやって、ですか?」
「そう。おれ、船に乗せてもらえなかったんだよ。女が船にのってるとエンギが悪い、お前はダメだって、ずっと言われてて。だから、どうすんのかなって。見つかんないように、こっそり乗るのかとおもってた」
マヤがそう言うと、セーニャはすこし首をかしげて、同情するように言いました。「まあ。私は定期船に何度か乗りましたが、断られたことはありませんね……バイキングのみなさまの、しきたりのようなものなのでしょうか?」
「どうやら、そうらしいな。オレも、旅をするようになって驚いたよ。昔はどこもそうだったらしいが、ずいぶん古い時代の話なんだとさ」
「そっかあ……」
マヤはつぶやくようにそう言って、背中をまるめて足元に目を落としました。
「男ばっかりのとこでさ。おれだけ、みんな仲間ハズレで。なんでおれだけ、兄貴やみんなとちがうのかなって、ずっとイヤだったんだけどな」
「マヤさま……」
「セーニャ、ちょっといいか?」
なにかをうったえるハリネズミを、セーニャがマヤの肩からそっと手につたわせて、顔のそばにちかづけると、昔のことを思いだしていたのだと、ハリネズミはちいさな声で事情を話しました。
セーニャはちいさくあいづちを打ちながら、ハリネズミの話をひとしきり聞きおえると、そうですか、と言って空をみあげました。
「マヤさまがどうして"おれ"と言われるのか、ずっと不思議に思っていたのですが。理由がわかった気がします」
「あっ、それはちがくて」
マヤは歯を見せて笑いながら、顔の前でぱたぱたと手を振りました。
「まわりに"おれ"しかいなかっただけ。みんな"おれ"だから、そういうもんかとおもってたんだよね。ヘンかな?お姉ちゃんみたいに"わたし"のがいい?」
「いいえ。旅をご一緒した方に"アタシ"の男性がいらっしゃいまして。女性のようなことばをお使いになるので、同じように不思議に感じたのですが。すぐに慣れましたわ」
「そーなんだ。おれとは逆で、まわりが女ばっかりだったのかな?お姉ちゃんみたいに、ひらひらした服きてた?」
「よそおいは男性のものでしたわ。あまり、ご自身のことを話されない方だったのですが、なにか深い考えをお持ちのようでした。マヤさまは、こういった衣装、お好きではないですか?」
セーニャがスカートのすそを指でもちあげてたずねると、マヤはうーん、と難しそうな顔をしました。
「わかんない。おれには、にあわない気もするし。着てみたいとおもったこともないかな、あんまし。お姉ちゃんはそういう服、すき?」
「そうですね……ふふ。あまり、考えていませんでした。私は女子ですので、こういった衣装を身につけるものだと。ただ、お姉さまはすこし嫌がっているようでした」
「ベロニカさん?性格が、おれに似てるっていってたもんね」
「ええ。里で私が身につけていた衣装、覚えていらっしゃいますか?」
「あの白いやつ?きれいだよね、あの服」
「はい。里にいるうちは、私とおそろいで、あの衣装を身につけていらしたのですが。旅の衣装を仕立てていただくときに、スカートの丈をひざまで短くされて……」
セーニャはそう言って、口元をかくしておかしそうに笑いました。
「お姉さまが身につけて見せたときの両親の顔が、いまでも忘れられませんわ」
「あはは。そっか。あんなふうに、みんなでおんなじカッコしてると、ヒトとちがうことしたくなるよね。ちょっと、わかる気がする」
「そうですね。それに……」
セーニャはなにかを言いよどむと、すこし考えこんでから、口に出しづらそうに続けました。
「反発もあったのだと思います。マヤさま、私からどんな印象を受けますか?」
「うーん。どんなって?」
「たとえば、私がマヤさまとお話していて感じるものは……そうですね、とても明るくて、快活そうで……ふふ。物怖じしないと言いますか。気が強そうに見えますね」
セーニャがそう答えると、マヤはなんとなく気まずそうに、ししっと笑いました。
「目の前のひとにそんなふうに言われるの、ヘンな気持ちになるね。お姉ちゃんは、そうだね……やさしいひとだよね。あと、おれとちがって、上品っていうか。ひとのこと、わるく言ったりしないよね。それと、なんていうか、のんびりしてるよね」
マヤがそう言うと、セーニャはしばらくのあいだ両手で顔をおさえてから、照れたように言いました。
「おかしな気分になりますね、本当に。それで、ええと……両親は、私とお姉さまをよく比べていたんです……お姉さまに、セーニャのようになりなさいと、口ぐせのように言われていました」
「ああ……そーだよね。兄貴もほんとうは、おなじこと、おもってるんじゃないかな。言わないだけでさ」
マヤがそう言うと、ハリネズミはあわてて口を開きました。
「い、いや。オレは、マヤが元気ならそれでいい。まあ、セーニャを見習ってほしいところが無いワケじゃないが。お前だって、そういうこと言われるのイヤだろ」
「やっぱりそうか。まあ、言われたところで、お姉ちゃんのマネなんか、できねえけどな」
マヤがそう言って、ハリネズミの鼻を指でぐりぐりと押す姿をみて、セーニャはおかしそうに笑いました。
ひとしきりハリネズミをいじめて満足すると、マヤは肩ごしにセーニャを見つめました。
「おれたちには、親がいないから、たぶんだけど。お姉ちゃんも、そんなふうなこと、いろいろ言われたんでしょ?イヤじゃなかった?」
「いえ。言われた通りにしていれば、褒めていただけたので……私は、そんな子供でした。ですが、お姉さまにとっては……きっと、お辛かっただろうと思います。私には、それがとても心苦しくて」
「そっか……おれはさ」
マヤは話をきかれないように、ハリネズミを両手で包み隠してから言いました。
「ほんとは、知ってたんだ。船にはのせてもらえなかったけど……兄貴とちがって、殴られたりしなかったし。兄貴とちがって、へとへとになるまでこき使われたり、しなかったんだよね。おれが、女だからでしょ」
マヤは目を伏せて、つぶやくように言いました。
「でも、おれ……そういうのがイヤだったんだ。兄貴といっしょがよかったな。お姉ちゃんは、じぶんが女の子でよかったとおもう?」
マヤがそうたずねると、セーニャはにっこりとほほえんで言いました。
「はい。お姉さまといっしょですから」
「そっか。そうだよね。うらやましいな」
マヤは手をひらいてハリネズミを肩に戻すと、元気よく立ち上がって、セーニャの手を引きました。
ふたりがあたりを見まわすと、船は海原から運河へと入りこみ、赤い岩壁のあいだを、カモメたちといっしょにゆっくりと進んでいました。
「ごめんね、ヘンな話しちゃって。もう、海みえないね」
「いいえ、こちらこそ。まだ、しばらくは着きませんから、中に戻りましょうか」
「うん。あるく旅とちがって、船はけっこうヒマなんだね。兄貴はみんなと船のってるとき、いつもなにしてたの?」
「うーん、色々だな。だれかと話してることが多かった気がする。あとは、服や荷物のちょっとした修理とかな」
「私、船の上でカードの遊び方を教えていただいたこと、覚えていますわ。雨の日など、よく遊んでいましたね」
「あっ、お姉ちゃん、カードできるんだ。もってくればよかったね」
マヤたちは、いつもの調子でおしゃべりをしながら、うす暗い船倉へつづく階段をおりていきました。
ふたりと一匹をのせた定期船は、水門をくぐって内海へと抜けだすと、砂浜へつづくちいさな入り江のそばで、錨をおろしました。
ほかの乗客たちといっしょに乗りこんだ小舟を、日にやけた船員が桟橋に漕ぎよせると、マヤは軽やかに桟橋にとびうつって、砂浜へと駆けてゆきました。
ゆるやかに寄せては返す波打ちぎわで、そっと波に手をひたして、マヤは歓声をあげました。
「ぬるい、ってよりあったかいね。すごい。おれ、海ってつめたいもんだとおもってた」
「空気が暖かけりゃ、海も暖かいんだよな。当たり前なのかもしれないが、オレも不思議に思ったな」
「な。だってさ、この海、クレイモランとつながってるんだろ?あっちの海はつめたいのにな」
「ああ……マヤ、セーニャが呼んでる。みんなとはぐれないようにな」
マヤは、砂浜をふみしめながら、数人の乗客たちのそばでおおきく手をふるセーニャのそばへと駆けもどると、ソルティコの町にむけて、いっしょに歩きだしました。
色とりどりのポピーやダリアの花が、おだやかな潮風をうけて身をゆらす草原では、花々にまけないほどのりっぱな蝶たちが、優雅におどっていました。
草原のむこうから、ふたつあわせの壁が頭をのぞかせると、やがて壁に見えたものは門であることがわかり、すぐに見上げるほどの大きさになりました。
門をくぐって、町につながる水門の上をわたると、目の前にはゆるやかにくだって砂浜へとつづく、ソルティコの町並みがひろがっていました。
町はクレイモランとおなじように石畳が敷かれ、家々は雪のかわりに真白い漆喰で化粧をほどこされていましたが、深い色の青空のせいか、クレイモランとくらべて、ずいぶんと陽気な印象をたたえていました。
「なんていうか……」
マヤはマントを片手でもちあげて、顔をぱたぱたとあおぎ、息をはずませながら、あえぐように言いました。
「おれたちの町と、おなじ世界とはおもえないね。あと、あつい……」
「きれいなとこだが、オレたちにはちょっと暑いよな……とりあえず、おつかれさん。このままイシの村に向かうのは、ちょっと無理だな。今日はこの町でゆっくりするといい」
「そうですね。まずは、宿を取りましょうか。マヤさま、どこかで少し休まれますか?」
「だいじょぶ。でも、お姉ちゃん、水筒のなかみ、まだ残ってたらもらってもいい?」
セーニャが肩にかついだ荷袋から、革の水筒をとりだして手渡すと、マヤはのどを鳴らして中身を飲み干し、ふう、とため息をつきました。
「ありがと。おれ、南のほうはストーブもたき火もいらないって聞いてさ。いいなあっておもってたんだけど。陽ざしがこんなにあつくなるんだね」
「ええ。空気のにおいもまるで違いますね。おなじ海のそばでも北のほうとは違って、潮風がすこし焼けたような、生ぬるいような、そんな香りがします」
セーニャはそう言いながら、マヤの背にまわり、マントについたフードを引きだして、すっぽりと頭にかぶせました。
「陽ざしを避けると、暑さがすこし和らぎますよ。お身体がしんどければ、言ってくださいね。それでは、まいりましょうか」
「悪いな、セーニャ。この町、たしか宿が多いんだよな。あちこちから人が集まるもんで」
「ええ、よく覚えていますわ。大勢で泊まれる宿がなかなか見つからなくて、あちこち探しましたよね。今日は、私とマヤさま、それにカミュさまだけですから、きっと大丈夫でしょう」
マヤたちが人の流れにまぎれて、家々のあいだを縫って町の中にはいりこむと、見物客を相手にしたみやげ物のお店や、料理をだすお店がたちならび、おおぜいの人たちが、めいめいに町を楽しんでいました。
セーニャは路地のなかから宿屋の看板をみつけだし、両手で扉をゆっくりと押しあけると、さほど広くはないロビーに置かれたカウンターには、だれも人がいないようでした。
セーニャはあたりを見まわすと、カウンターの奥にむかって呼びかけました。
「すみません。どなたか、いらっしゃいませんか?」
セーニャの澄んだ声が部屋にひびくと、奥の部屋からがたんと物音がきこえて、愛想のいい笑顔をうかべた女将らしい女性が顔をだしました。
「やあ、いらっしゃい、旅のお方。お泊まりですか?」
「こんにちは。はい、一晩泊めていただけましたらと。この子と二人なのですが」
「その子と二人?えーと、あなたの娘さん、じゃないわよね。妹さん?」
「いえ、家族ではありませんわ。すこし、事情がありまして」
「うーん。旦那さんも、いらっしゃらない?」
「ええ、二人だけです」
セーニャがそう言うと、女将は眉をひそめ、困ったように言いました。
「ごめんなさいね。ウチは、ワケありはちょっとね。よそを当たってもらっていいかしら」
「そうですか……わかりました。お時間取らせてしまって、申し訳ありません」
セーニャはそう言っておじぎをすると、マヤの手を引いて、ふたたび通りに出ました。
マヤは、セーニャの顔をみあげて、不安げなようすで声をかけました。
「ごめんね。おれのせいだよね」
「いいえ、マヤさまは何も悪くありませんわ。私の考えが足りませんでした。すこし、工夫が必要かもしれませんね」
セーニャはそう言って、人の気配のない路地裏にはいりこみ、ハリネズミに向かって話しかけました。
「カミュさま、なにか良い考えをお持ちではありませんか?」
「そうだな……マヤを連れて、赤の他人ってのはやっぱりマズいよな。姉妹ってことにしとくか?」
「うーん。おれとお姉ちゃん、ぜんぜん似てないけど、だいじょうぶか?目の色も、髪の色もちがうしさ」
「いや、きょうだいで瞳と髪の色が違うってのは、割とあるみたいだな。そのフード、深めに被っとけば、まあ大丈夫じゃないか。ただ、女二人ってのがな……」
「女二人は、ダメなの?」
「ああ。なかなかな。女一人でもだが……どうしてもワケありに見られちまうからな」
ハリネズミが苦々しく口にすると、セーニャは目を細めて言いました。
「そうですね……お姉さまと二人で旅をしていたころも、宿には苦労していましたわ。なにか、懐かしいです」
「ああ、そうだよな。ベロニカと二人のときは、一体どうしてたんだ?」
「それが……」
セーニャはおかしそうにくすくすと笑いました。
「たいていは、お姉さまがお怒りになられて。なにしろ、口の立つ方でしたから」
セーニャが笑いながらそう言うと、ハリネズミも声をあげていっしょに笑いました。
「はは。そうだよな。セーニャのお姉さまなら、口先ひとつでなんとかできそうだ。でもな、どうするか。セーニャに同じことはできないだろ?」
「ええ、出来ません……ですが私、思いつきました。シルビアさまのお父さま、ジエーゴさまがこちらの町にお住まいですよね?」
「ああ、そうか。頼ってみるのも、良いかもしれないな」
「はい。泊めていただくのは申し訳ないですが、宿に口を利いていただくくらいは、さほどご迷惑にはならないかと思いまして」
「そうだな。だが……」
ハリネズミはちいさな瞳でセーニャを見つめて、感心したように言いました。
「そういう"工夫"、セーニャはあまり好きじゃないかと思っていたんだが。ちょっと、意外だな」
「いけませんか?」
セーニャがはっきりとそう言うと、ハリネズミはたじろいだようでした。
「い、いや。なにも悪くない。なにも。ただ、ちょっと意外だったんだ」
「そうですね……私一人のことなら、きっとしませんね。ですが、マヤさまが一緒ですから」
「そうか……悪いな、セーニャ」
セーニャが腕を伸ばして、マヤの肩にのったハリネズミの背中をそっとなでると、マヤはフードを片手でひっぱって深くかぶりながら、力なく言いました。
「おれ、やっぱり邪魔だよね。迷惑かけて、ごめんね」
「マヤさま、そういったお話ではないんです」
セーニャはマヤの頭をやさしくなでると、フードをあげて、マヤの空色の瞳をじっとのぞきこみました。
「邪魔でもなければ、迷惑でもありませんわ」
「で、でも……おれのためって」
「これは、私のためなんです」
「お姉ちゃんの?」
セーニャはほほえみを浮かべて、ちいさくうなずきました。
「おれ、よくわかんないけど……」
「大丈夫です。私にお任せください」
セーニャはしずかな口調でそう言うと、マヤの手を取って、町の入り口に向かって元来た道をたどりはじめました。
「この町にきてから、ずっと気になってたんだけど」
セーニャに手を引かれながら、マヤはふしぎそうに言いました。
「あの、ハネの人たちってなんなの?おなじカッコした人、あちこちにいるよね」
マヤの視線のさきでは、明るい色彩の衣装をまとって、鳥たちが翼をひろげるように、背中にたくさんの羽根をつけた男たちが、楽器のリズムにあわせて軽快に踊っていました。
あたりには彼らを取りこむように、道行く見物客たちが足を止めて、たのしそうに見入っていました。
おおきな身ぶりでいっしょに踊ったり、リズムにあわせて手をたたく者もいるようでした。
「オレも気になってたんだよな。なんか見覚えがあるというか。あのカッコ、シルビアさんと似てるんだよな。シルビアさんの仲間だか友達だか、そんなやつか?」
「私も同じことを考えていました。雰囲気が似ていらっしゃると言いますか。シルビアさま、この町におられるのでしょうか」
「え?ハネのひとたち、兄貴たちのしりあいなの?」
「いや、そういうワケじゃないんだが。似てる人を知ってるもんで、もしかしたらって話だな」
「へー。いっしょに踊ったり、してたのかとおもった。あれとおなじハネつけてさ」「ふふ。私たちはしていませんが、勇者さまはマヤさまのおっしゃるとおり、いっしょにハネをつけて踊っていたと話されていました。なんでも、すごく楽しかったそうで」
セーニャがくすくすと笑うと、マヤとハリネズミもおなじように笑いました。
「言ってたな。アイツ、なんかそういう事に照れがないというか。変わったヤツだったな」
「なんか、兄貴たちから話をきくたびに、ほんとはどんな人だったのか、どんどんわかんなくなっていくな。おれも、いちど会ってみたかったな」
「きっと、マヤさまも仲良くなれたと思いますよ。残念ですね……さあ、着きました」
町の入り口、水門をわたりきってすぐの場所でセーニャたちは立ち止まりました。
家々のたちならぶ街並みの反対側には、きれいに手入れのほどこされたお庭と立派なお屋敷が、空と海を背にして堂々とひろがっていました。
セーニャたちが目をこらすと、遠くにみえる海に面した広場では、剣をもった兵士のようなひとたちと、町でみかけたハネのひとたちが、せわしなく動き回っているようでした。
庭先へとつづく門はひらいたままにされていましたが、あたりに人や門番が見当たらず、セーニャがどうしたものかと悩んでいると、不意に背後から声をかけられました。
「あら、お姉さんたち、どうしたのかしら?お屋敷になにかご用?」
甲高い裏声にセーニャたちが振りむくと、黒髪をみじかく刈り込んだ男が、体をくねくねとしならせながら、満面の笑みをたたえて背中の羽根をゆらしていました。
「ご、ごきげんよう。わたくし、セーニャと申します。ジエーゴさまにお目通り願いたく、訪ねてまいりました」
「あらま。残念だけど、パパはおネエさまと一緒にお出かけ中なのよ」
「まあ……そうでしたか」
セーニャがそう言って目を落とすと、ハネの男は明るい調子で、はげますように言いました。
「でも大丈夫よ。なにか、用事があって来たんでしょ?セザールちゃんにお願いしたらどうかしら、パパに伝えてもらえると思うわよ。さあ、こっちにいらっしゃい」
ハネの男はそう言うと、セーニャの返事もまたずに、体を揺らしながらお屋敷の扉をひらいて、中へ入るよう手招きしました。
セーニャたちがおそるおそるお屋敷に足を踏みいれると、中ではハネの男が、白髪をぴっちりと後ろになでつけた、立派な口ひげを生やした男に、なにかを伝えていました。
「ええと、お名前、なんと言ったかしら?」
ハネの男がセーニャに向かってそう呼びかけると、白髪の男は、セーニャが答える前に口を開きました。
「おお、セーニャ様ではございませんか?」
「まあ、お知り合いだったのね。それなら話が速いわ」
白髪の男は品のいいほほえみをたたえて、ゆっくりとセーニャたちに歩みより、うやうやしく頭をさげました。
「ようこそおいでくださいました。私のことを、覚えておいででしょうか。セザールと申します」
「ええ、もちろんです。水門を開いていただいたときに……その節は、お世話になりました」
セーニャが頭をさげると、マヤも真似をするように、ぺこりと頭をさげました。
「お力になれたのなら、私もうれしいです。さて、お話はうかがいました。申し訳ありませんが、旦那様はお屋敷をあけておられまして。旦那様のお顔を見に来られたのでなければ、ご用件は私がうかがわせて頂きます」
「ありがとうございます。実は――」
セザールはちいさく相づちを打ちながら、セーニャの話を聞きおえると、ぴんと背筋をのばしたままわずかにうつむき、すまなそうに言いました。
「そうでしたか。町の者が、大変失礼を致しました」
「いいえ、セザールさまのせいではありませんわ。それに、慣れたことですから」
「ご苦労をされましたね。ですが、ご安心ください。少々お待ちを」
セザールがすこしはなれて様子をうかがっていたハネの男に手で合図をして、なにかをひそひそと耳打ちすると、ハネの男は真面目な顔をして、背中のハネをゆさゆさと羽ばたかせながら、外へと駆けだしてゆきました。
お屋敷にはどこか不似合いな光景に、マヤがくすりと笑うと、セザールは目を細めて言いました。
「旦那様のお屋敷にお泊まりいただいてもよろしかったのですが、きっと気を遣われるだろうと思いまして。勝手ながら、宿の手配をさせて頂きました。こちらから、門を出てまっすぐ進んだ突き当り、二階にバルコニーのある宿です。どうか、ゆっくりと休まれてください」
セザールの言葉に、セーニャはきょとんとしていましたが、はっと気が付いたようにお礼を述べました。
「あ……ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてしまって、すみません。ジエーゴさまと、シルビアさまに、お世話になりましたこと、お伝えくださいませ」
「お礼には及びません。旦那様も、坊ちゃまも、きっとセーニャ様にお会いしたかったと思います、残念ですね。訪ねてこられたこと、しっかりとお伝えしておきます。町にいらっしゃる間、なにか困った事がありましたら、どうぞ気兼ねなくお申しつけください」
セーニャはもう一度お礼を言ってお屋敷を出ると、空をあおいで、ふう、と大きなため息をつきました。
マヤはセーニャとすこしはなれたところで立ち止まって、ハリネズミにひそひそとはなしかけました。
「えーと……コトバがむずかしくて、よくわかんないけど。うまくいったのかな?」
「ああ。宿を取ってもらえたみたいだ。良かった」
「そっか」
マヤは小走りに駆けよって手を取ると、セーニャがどことなくうつろな表情をしていることに気が付いて、心配そうに声をかけました。
「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」
「ええ。少し、緊張していただけですわ。目上の方とお話することに、あまり慣れておりませんので」
「ごめんね、おれ、いつもだまってるだけで。あのコトバづかい、ぜんぜんできないから」
「いいえ。こうして旅をご一緒した甲斐があるというものです」
「かい?ってなに?」
マヤがそう言ってセーニャを見あげると、セーニャはふふっと目を細めました。
「すみません、コトバが混ざってしまいました。お役に立てたのならよかった、ということですよ。では、まいりましょうか」
マヤたちがお屋敷をあとにして、ふたたび人の流れに混じって通りを歩いていると、ひとだかりの向こうで、さきほどと同じように、ハネの人たちが踊っているようすが目に入りました。
踊っているひとたちも、あたりを取りかこむひとたちも、みな一様に楽しそうに見えました。
「ハネのひとたち、あのお屋敷のひとだったんだね。みんな、さっきのひとみたいに、女みたいなコトバでしゃべるのかな」
「はは。たぶんそうだろうな。屋敷に居たってことは、連中の親玉がそうだからな」「そーなんだ。さいしょはちょっとキモチわるいとおもったし、おもしろいとおもったんだけど……なんかさ、おれもヒトから見たら、たぶんあんなかんじなんだろうなって、いまはおもってる」
しみじみとそう言うマヤに、ハリネズミはかける言葉が見つからず、助けをもとめるようにセーニャを見つめました。
セーニャはハリネズミに目くばせすると、歩きながらすこし考えこみ、やさしく言いました。
「イヤですか?」
「うん。たぶんだけど。あのひとたちって、笑ってもらいたくて、やってるんでしょ。でも、おれ、ヒトに笑われたり、キモチわるいっておもわれるの、イヤだな」
「そうですね……」
セーニャはまじめな顔をして、もういちど考えこみました。
「二つ、考え方があると思います」
マヤがだまったままセーニャを見あげると、セーニャは諭すようにつづけました。
「ひとつは、そうですね。皆と同じよう、目立たないようにふるまえば良いのですが。それとは別に、もうひとつ。気にしなければ良いのですよ」
「そんなこと、いわれてもさ……」
マヤが不満げに口をとがらせると、セーニャは眉をつりあげて、だれかの真似をするように、声をつくって言いました。
「バカね。そんなこと気にするなんて。アンタ、他人のことを笑うような人間と、ホントに付き合いたいと思う?あたしはゴメンね。笑うヤツには、笑わせとけばいいのよ。あたしはあたし。他人がどう思うかなんて、どうだっていいわ」
おどろいて目をまるくするマヤに、セーニャが歯をむきだして笑顔を見せると、マヤはおかしそうに、ししっと笑いました。
「そーだね……それ、だれのマネ?」
「セーニャのお姉さまだな。はは。よく似てた。いかにも、アイツが言いそうなセリフだ」
「そーなんだ。おれに似てるって、いってたけどさ。おれなんかより、ずっと……なんていうか、つよいヒトだったんだね」
「私の、自慢のお姉さまですから」
セーニャが得意げにそう言うと、マヤはどことなくすまなそうに、ほほえんで見せました。
マヤたちは通りの突きあたりで、宿屋の看板をみつけると、二階へとつづく外階段のさきにバルコニーのあることをたしかめてから、扉をひらいて中へ入りました。
絵画や鉢植えでかざられた横長にひろいロビーには、いくつかのイスやテーブルが整然とならべられており、何人かの客たちが、のんびりとくつろいでいました。
カウンターには、赤毛を三つ編みにたらした、桃色の服をまとった女が、姿勢よくあたりのようすをうかがっていました。
セーニャたちがカウンターに近づいて声をかけると、女は品のいい笑顔をくずさないまま、ごきげんよう、とあいさつをしました。
「ごきげんよう……私、セーニャと申します。あの、宿のことでお話が」
「すみません、お泊まりの方はあちらのほうへ」
女が手のひらでしめした先では、カウンターの上にのった青いスライムが、笑っているかのように口をひらいて、セーニャを見つめていました。
「え……そ、そうですか。それでは」
セーニャたちが正面に立つと、スライムはぷるぷると身をゆらしながら、声をかけました。
「ごきげんよう。金色の髪に緑のヘアバンド、お話うかがっておりますわ。セーニャ様で間違いありませんか?」
「え、ええ。私がセーニャです」
「ようこそおいでくださいました。お部屋をご用意させていただきましたので、どうぞごゆっくりご滞在くださいまし」
「あ、ありがとうございます。助かりますわ」
セーニャがそういっておじぎをする横で、マヤはハリネズミにちいさな声で話しかけました。
「おれ、スライムをそばでみるの、はじめてかも。スライムって、しゃべるんだな……」
「なんだか、時々しゃべるのがいるんだよな。全部ってわけじゃないんだが。不思議だ」
「へー。なあ、さわったら怒られるかな?」
「聞いてみちゃどうだ?」
ハリネズミがそう言うと、マヤはスライムに顔を近づけて、表情を真似するように、にかっと笑いました。
「ねえ、スライムさん。ちょっと、さわらせてもらってもいい?」
「ええ、どうぞ。どうしてみなさん、わたくしの身体に触れたがるのでしょ。ふふふ」
マヤが両手で頬をなでるようにスライムに触れると、すこし湿り気をかんじる肌は思いのほか弾力があり、人肌とおなじ程度に柔らかいものの、指が入りこんだりはしないようでした。
頭や背中をなでまわして、口のはしに両手の指をさしこんでむにっと伸ばすと、マヤはおお、と感心したような声をあげて、満足そうにツノをつつきました。
「ありがと。なんていうか、もっとひんやりしてるのかとおもってたんだけど。けっこう、あったかいんだね」
「なにしろ、私たちもこうして生きているわけですから。ただ、寒いところに行きますと、身体が冷えて硬くなってしまいますわ。苦手です」
「そうだったんだ。スライムも、なかなかたいへんなんだね」
マヤとスライムのやりとりをながめていたセーニャが、自分も触ってみたそうに指を伸ばすと、スライムはおおきな瞳でセーニャをみつめて、なにかを思いだしたようにあっ、と声をあげました。
「すみません。申し忘れていましたが、ことづけをお預かりしておりまして。お代の心配は無用ですので、幾日でもゆっくりされてください、とのことです」
「まあ、それは……ありがとうございます」
セーニャはお礼を言って、スライムの頭をぷにぷにとなでました。
セーニャが受け付けのスライムを抱きかかえて階段をのぼると、スライムは二階の海側のドアのひとつに、ふたりを案内しました。
スライムは、おじぎをするように顔を伏せ、それでは、とあいさつをすると、ぽよぽよと床を跳びはねて、転がり落ちるように階段をくだっていきました。
ふたりが扉をあけると、それほどひろくはないものの、ロビーと同じようにこぎれいに飾られた部屋のなかに、寝心地のよさそうなベッドが二台ならんでいました。
マヤが部屋の奥からベランダに出ると、町のたかいところある宿からは、空に負けないくらい青い海と、真白い砂浜へとゆるやかに下る町並みが、目の前にひろがっていました。
「すごい。おれ、海なんかキライだったんだけど。ここの町の海は、きれいだね」
「ああ。オレも海なんか嫌いだった。マヤと同じで、暖かい海を見て、考え方がちょっと変わったな」
マヤは中にもどってテーブルの上の水差しをみつけると、そばに並んだガラスのコップのなみなみと注いで一気に飲み干し、ふう、と大きなため息をつきました。
「これ、なんか果物の味がついてる。ちょっとあまずっぱい」
「へえ、気が利いてるな。なあ、セーニャにも注いでやってくれるか」
マヤは自分のぶんともうひとつのコップに水を満たすと、ひとつづつを両手にもって、ベッドに座って荷ほどきをしているセーニャに片方を手渡して、となりに座りました。
マヤがコップの水をすこし手ですくって、肩のあたりにさしだすと、ハリネズミは細い舌を伸ばして、ちろちろとなめました。
セーニャは二人のようすを見ながら、受け取ったコップの中身を半分ほど口にすると、マヤがしたのとおなじように、ふう、とため息をつきました。
「すみません、気が付かず……ありがとうございます。なんだか、ずいぶん良いお部屋ですね」
「そうだな。オレたちだけじゃ、ちょっと泊まれない部屋だな」
「ええ。なんだか、悪いことをしてしまいました。お任せくださいなどと、大きなことを言ったところで、けっきょくは私、他人に頼ってばかりですね」
セーニャがうつむくと、マヤはセーニャの肩を、指でつんつんと突っつきました。
「ねえ、お姉ちゃん。おれなんか、ただくっついて歩いてるだけでさ。お姉ちゃんがそれをいうとさ、なんか、すごく……かなしいキモチになる。おれ、お姉ちゃんがついてきてくれなかったら、きっとこの町にきても、どこか外で寝てたとおもう」
マヤが眉をひそめてそう話すと、セーニャはすこし口元をゆるめました。
「すみません。私、マヤさまの気持ちを考えていませんでしたね……」
セーニャの言葉をさえぎるように、マヤはもういちどセーニャをつっついて、にかっと笑いました。
「ちがくて。宿がみつかったね、なんとかなったね、よかったねって……うまく言えないけど、おれ、そういうのがいい」
マヤの言葉に、セーニャはなにかに気が付いたように、はっと目を丸くしました。
視線をおとして、思いをめぐらせるように片時だまりこむと、やがて片手でゆっくりと目元をぬぐい、マヤの瞳をのぞきこみました。
「そうですね……そうでした。私、いろんなことを忘れていたみたいです。ありがとうございます、マヤさま」
「だ、だからさ。そうじゃなくって」
マヤが困ったように口をはさむと、セーニャは眉をつりあげて、いつもとちがう調子で口をひらきました。
「いいお部屋を用意してもらえて、よかったわね。あたしたちには、もったいないくらいだわ。いつか、ちゃんとお礼を言わないとね。ねえ、ちょっと休んだら、砂浜に遊びに行きましょうよ」
声を作ってベロニカの真似をするセーニャに、マヤはハリネズミといっしょに、声をあげてけらけらと笑いました。
「それ、おもしろいね。だけど、そう。そんなかんじがいい。ねえ、お姉ちゃん。そのマネ、ずっとやらない?ハネの人たちが、ずっと女のマネ、してるみたいにさ」
「ふふ。マヤさまが、ずっと私の真似をしてくださるのなら、そうしてもよろしいですよ」
「そりゃ面白いな。マヤ、そうしろよ」
マヤがだまっていろとばかりにハリネズミの鼻を指ではじいて、ハリネズミが甲高い声で悲鳴をあげると、セーニャは口元をおさえて、おかしそうに笑いました。
ふるさとの北国にくらべてずっと長い一日に疲れたのか、なれない南の国の暑さがよほどこたえたのか、ふかふかのベッドの上で、マヤは日のあるうちから寝息をたてていました。
ながかった今日がようやくおわりを迎えようと、世界をあざやかな朱色に染めるころ、ハリネズミはベッドの上で、困りきったようすで、すがるようにマヤに呼びかけていました。
「マヤ、なあマヤ。悪い、起きてくれないか」
ハリネズミが何度も呼びかけるうち、マヤはようやく声に気がつくと、むくりと体を起こし、夕日にうつくしく染まる窓の外をぼんやりとながめて、眠たそうに眼をこすりました。
「ああ……もう、夕方なんだ。すっかり寝ちまった。兄貴、どーしたの……」
「マヤ、起こしてすまん。セーニャが戻ってこないんだ。外を歩いてくるって言ってたんだが……何かあったならマズい。ちょっと、探しに行ってもらえるか」
マヤはあたりをきょろきょろと見まわして、セーニャがいないことをたしかめると、うーん、とうなり声をあげながら、両腕をたかくあげて体を伸ばしました。
「わかった。どこに行くっていってた?」
「いや、それが何も。ちょっとお散歩に、くらいの感じだったな」
「そーなんだ……夕焼け、きれいだな。お姉ちゃん、どっかですわって、ながめてんのかもね」
「ああ、それならいいんだが。念のためな」
マヤは立ちあがってお気に入りのマフラーをくるくると首元に巻きつけると、左肩にハリネズミをのせて、部屋を飛びだしました。
階段をリズムよく駆け下りると、レストランも兼ねたロビーでは、お肉やお魚の焼けるおいしそうなにおいに包まれて、数人の客たちが食事を楽しんでいるようでした。
ロビーからでも奥をみわたせるキッチンの中で、見たことのない食べ物にかこまれてせわしなく働くコックたちを、マヤが感心したようすで眺めていると、ハリネズミがあたりに聞こえないように、声をひそめて耳打ちしました。
「マヤ、あそこだ。海側の、いちばん奥の席」
「ん?あ、ほんとだ。なーんだ、ここにいたのか。あれ、でもだれかといっしょだな」
広いロビーの片隅のテーブルでは、セーニャが黒い髪をした背の高い男と、身ぶりをまじえながら、たのしそうになにかを話しているようでした。
「あれ、シルビアさんだな。町に戻ってきてたんだな」
「へー、さっきはなしてたヒトか。兄貴、お姉ちゃんをとられちまったな」
マヤがからかうようにそう言うと、ハリネズミは黙りこんでしまいました。
笑いを噛み殺しながら、マヤがゆっくりとセーニャたちのテーブルに近づくと、セーニャはすぐに気がついたようでした。
セーニャがマヤに声をかけようとすると、セーニャがなにかを口にするより早く、いっしょにテーブルについていたシルビアが、イスからすっと立ちあがり、マヤのそばでひざまづいて、両手を取りました。
「マヤちゃん!元気そうじゃない!良かったわあ、アタシ、ずっと心配してたのよ。ねえ、お兄ちゃんとは仲良くやってる?」
どこか涼しげな印象をうける、切れ長な目元の奥の、兄妹より灰色がかった青いひとみに見つめられると、マヤは言葉に詰まってしまいました。
「あっ、いきなりゴメンね、マヤちゃん。会えてうれしいわ。ね、座ってお話しましょ」
シルビアは立ちあがってセーニャのとなりのイスを引くと、マヤの背中にそっと触れて、席につかせました。
「アタシ、シルビアって言うの。マヤちゃん。ね、アタシたち、はじめましてじゃないんだけど。アタシのこと、覚えてないかしら?」
「う……えっと……あの……」
マヤが助けを求めるようにセーニャに視線をおくると、セーニャは心配のいらないことをしめすように、おだやかなほほえみを返しました。
「シルビアさまは、勇者さまといっしょに旅をされた方ですよ。私とカミュさまも、とてもお世話になりました」
「あ……そ、そうなんだ。でもおれ、会ったこと……」
マヤは、はっとなにかに気がつくと、かぼそい声で、おそるおそるシルビアにたずねました。
「たぶん、だけど……おれを、クレイモランで、たすけてくれたヒト?」
シルビアがええ、とうなずくと、マヤは肩をおとして、すまなそうに言いました。
「ごめんね。おれ、あんましおぼえてないんだ。すごく、ツラい夢をみてて、兄貴たちが助けにきてくれたって、そのくらいのかんじで。それで、おれ、みんなにひどいことしたんだろ」
マヤがそう言うと、シルビアは胸のまえで両手をあわせて体をしならせると、明るい調子をつくっていいました。
「そんなことないわ。悪いのはマヤちゃんじゃないって、みんなちゃあんとわかってるんだから。辛いことを思い出させちゃって、ゴメンなさいね。それじゃ、あらためて。よろしくね、マヤちゃん」
「うん……よろしくね、シルビアさん」
「シルビアでいいわよ。呼んでみてちょうだい」
さあ、とでも言うように、両手をひろげて笑顔をみせるシルビアに、マヤは照れたようにつぶやきました。
「シルビア、よろしくね……ねえ、兄貴たちが、言ってたんだけど。この町のさ、ハネの人たちって、シルビアのナカマなの?」
「ええ、そうよ。みんな、アタシのおトモダチ。楽しいでしょ?マヤちゃんも一緒に踊ってみる?」
「や、やだ。おれはいい」
マヤが両手をつきだして、あわててそう言うと、セーニャはおかしそうに笑いました。
「それで、お話しましたよう、こちらのハリネズミがカミュさまです……人目がありますので、こちらでは話すことができませんが」
「まあ。かわいそうにね、カミュちゃん。ねえ、触ってもいいかしら」
マヤがハリネズミを肩から手につたわせて、シルビアが差しだした両手にそっと乗せると、シルビアはまあ、と歓声をあげました。
「なんてカワイイの。へえ~、背中のハリってこんなカンジなのね。アタシも、触るのははじめて。お鼻がずっとひくひく動いているのはなにかしら。カミュちゃん、おいしそうなにおいがする?なにか食べるかしら?」
シルビアがテーブルの上のナッツをひとつつまんで差しだすと、ハリネズミは二つの足でたちあがって両手でうけとり、かりかりとかじってみせました。
シルビアはすっかり言葉を失ったまま、しばらくのあいだ見つめていましたが、やがて言葉にならないおおきな悲鳴をあげて、ハリネズミに頬をおしつけ、口づけをしました。
されるがままになっているハリネズミを見て、マヤは同情するようにいいました。
「あはは……兄貴、なんかかわいそ。とめてあげたほうが、いいかな……」
「ふふ。いじめられているわけでは、ありませんので……でも、遠慮がありませんね……」
シルビアの執拗な愛情表現に、ハリネズミはやがて音をあげて、うめくようにつぶやきました。
「ちょ……シルビアさん……もういい……たのむ、やめてくれ……」
「まあ、しゃべったわ!イイわね……ねえ、マヤちゃん。お兄ちゃん、アタシにもらえないかしら?大切にするわ」
「だ、だめ」
マヤがあわててシルビアの手からハリネズミを取りもどすと、シルビアは片手で口元をかくして、おほほ、と笑いました。
「ゴメンね、マヤちゃん。冗談よ、冗談。でも、そうね、ここじゃカミュちゃんがお話できないわよね。ねえ、ちょっとイイお店があるの。お食事しながら、お話しましょうか」
シルビアはすっと立ちあがると、マヤとセーニャの手を順番にとって、席を立たせました。
外はすっかり暗くなっていましたが、ソルティコの町は夜のおとずれを拒むかのように、あちこちでたいまつを燃え上がらせ、幻想的な雰囲気をかもしていました。
夜でも人の出のおおい通りを、マヤたちはシルビアに連れ添われてゆっくりと歩き、やがて一軒のお店のまえで足をとめました。
「ごめんなさいね、ちょっとここで待っていてもらえるかしら」
シルビアはふたりにそう告げて、そばのベンチに腰をおろさせると、しずかに扉をひらいて、お店の中へ消えてゆきました。
となりにすわるセーニャにちらりと目くばせをして、マヤはふしぎそうに言いました。
「なんかさ。ハネの人たちも、そうだったけど……女みたいなしゃべりかた、してるけど。うまくいえないけど、なんか、ちゃんとしてるよね。ヘンなかんじ」
「そうですね。これは、私の考えなのですが……先ほど、お屋敷でお世話になったセザールさま、覚えていますか?」
「うん。白髪の男の人だよね。すごく、むずかしいコトバでしゃべる、ちゃんとした男の人」
「ええ。マヤさま、あの方とおしゃべりができますか?たとえば、ここまでの旅のことや、この町のこと、何でもかまいませんが」
「むり。ぜったい」
マヤがくすっと笑って、すぐにそう答えると、セーニャも同じように笑いました。
「そうですよね。私も難しいです。きっと、そういった理由ではないでしょうか?マヤさまの言われるような"ちゃんとした"男性とは、なかなかお話しづらいですが。シルビアさまや、ハネのみなさまのように振る舞っておられましたら、おそらくは」
「あっ……そーだよね。カッコつけたり、ミエをはるのと、逆っていうか。そっか」
マヤたちがそんな話をしていると、シルビアはすぐにふたりの元に戻ってきて、お店の建物の裏手の、めだたないところにある扉へ案内しました。
こじんまりとした部屋のなかでは、壁にかけられたいくつかの燭台にかこまれるように、テーブルの上のランプがあたりを照らしていました。
シルビアがイスを引いてふたりを席につかせ、お店の中へつづく扉をすこし開いてなにか合図をすると、白いエプロンをかけた男が、透明なガラスでできたツボのようなものを、いくつかのグラスといっしょに、トレイの上からテーブルにならべました。
男がおじぎをしてドアの向こうへ戻っていくと、シルビアはにっこりと笑って、ハリネズミに話しかけました。
「ここなら、ゆっくり話せるわ。カミュちゃん、お久しぶり。大変だったわね」
「……シルビアさん、久しぶりです。宿のことと言い、ずいぶん世話になっちまって。すみません」
「いいのよ。水くさいこと言わないでちょうだい。お話したいことはいっぱいあるけど、まずは乾杯しましょうか。マヤちゃんは、お酒じゃないほうがいいわよね?」
「そうすね、できれば。マヤも、飲めないことはないんですけど」
ハリネズミがそう答えると、マヤはしぶい顔をして言いました。
「うん。ちょっとだけ、飲んだことはあるんだけど。なんでみんな、こんなまずいもの、飲んでるのかなっておもった」
「ふふ。お酒にも種類があってね。苦いの、辛いの、甘いのって、色々あるのよ。いつか、マヤちゃんにもお気に入りが見つかると思うわ。でも、とりあえず今日はこれね。マヤちゃんのための特別製よ」
シルビアはそういって、オレンジやレモンにベリー、それに見なれないたくさんの果物のはいったビンから、マヤの目の前においたグラスに中身をそそぐと、しゅわっと泡だって、あたりにあまい香りが広がりました。
「セーニャちゃんは、ぶどう酒好きだったわよね?」
「はい。渋みの強いものは、あまり得意ではありませんが」
「それなら、大丈夫よ。これ、とっても甘いのだから」
シルビアは、マヤに注いだものと同じように、果物たちがぶどう酒に浸かったもうひとつのビンから、セーニャのぶんと、自分のぶんをグラスに注ぐと、あっと声をあげました。
「カミュちゃんは、お酒ダメよね?」
「はは。そうすね、ハリネズミは酒が飲めるのか、自分でもワカんないんで。やめときます」
「じゃあ、マヤちゃんが代わりにやってあげてね」
シルビアはマヤの左手にもグラスを持たせると、中身を満たして、満足そうにうなずいて、席にもどりました。
「これでいいわね。それじゃ……かんぱーい!」
三人が四つのグラスをかちん、と音をたてて合わせると、マヤは自分のぶんを飲み干そうとして、げほげほとむせました。
「どうした、マヤ。大丈夫か?」
「……うん。ちょっと、びっくりしただけ。なんだろ、これ。ぱちぱちする」
「ソーダって言うのだけど、マヤちゃん、苦手だったかしら?」
シルビアが心配そうにマヤをのぞきこむと、マヤは首を横にふって、グラスを空にしました。
「うん。うまい。もっともらってもいい?」
シルビアはにっこりと目を細めて、マヤのグラスにおかわりを注ぎました。
「ねえ、シルビア。これってなに?」
「これはタコよ。タコをオリーブの油と、ニンニクで煮たお料理なの」
「タコって、あのタコ?足がいっぱいで、にょろにょろしてるやつ?」
タコの真似をするように腕をくねくねと動かすマヤに、シルビアがええ、とうなずくと、マヤはおえっ、とわざとらしく言って、眉をひそめてみせました。
思いもよらず、すぐにシルビアと打ち解けたようすのマヤを見て、ハリネズミはすっかり安心したようでした。
「オレも最初は、こんなもん食うのかと呆れたんだが。慣れたらウマいぞ。食ってみろよ」
「えー……ねえ、お姉ちゃんは食べられる?」
マヤがそう聞くと、セーニャはだまったままタコを一切れ口にして、いかにもおいしそうな表情で食べてみせました。
酔いがまわったのか、すっかり口数の少なくなったセーニャのようすを見て、マヤはおかしそうに笑いました。
「あはは。お姉ちゃん、なんでもおいしそうに食べるよね。おれも食べてみるか」
マヤもタコを口に放り込んで、もぐもぐと噛みしめると、難しそうな顔を浮かべました。
「うーん。味はウマいとおもうけど……なんかね。もとのカタチを、考えちゃって。ダメだな」
「ふふ。無理しなくていいわよ。こっちはどう?」
シルビアが黄金色に焼き上げられた丸いケーキのようなものを、切りわけてマヤの前にさしだすと、マヤはもぐもぐと口にしながら、にこっと笑顔をうかべました。
「うまい。たまごとおイモと、きのこかな。ニクもはいってるね。これ、すきだな」
「それ、ウマそうだな。オレももらって良いか?」
和やかに食事をすすめるふたりと一匹の横で、セーニャはなにも話さずに、目の前にならべられた料理を、手当たりしだいに胃に収めていました。
幸せそうに食べるすがたを、マヤたちもはじめのうちはにこにこしながら見ていましたが、あまりにも言葉をしゃべらないので、しだいに不安になり、マヤはおずおずと声をかけました。
「ねえ、お姉ちゃん?そんなに、おなかすいてたの?」
セーニャはなにかを答えるかわりに、すこし首をかしげてほほえみました。
なにも言わずに、ぶどう酒のグラスに伸ばそうとしたセーニャの手を、シルビアはあわててつかみました。
「セーニャちゃん、もうやめておきましょ。お酒は弱くないはずなんだけど、今日はよっぽど疲れていたのかしら。ちょっと、飲ませすぎちゃったわね」
シルビアは弱った顔でそう言いましたが、セーニャはゆらゆらと揺れながら、いつもと変わらないほほえみを浮かべるばかりでした。
「……ダメっぽいな」
「うん。どうしよ。宿にもどったほうが、いいよな」
「ごめんなさいね、アタシが送っていくわ。それと、お話はだいたいわかったわよ。ロウちゃんのところ、アタシも行くことにするわ」
シルビアはきっぱりとそう言って、マヤを見つめてウインクしました。
「えっ、ほんとに。でも、いいの?」
「もちろん。女の子が二人で苦労してるのに、アタシだけ見てるワケには行かないわ。カミュちゃんの事も心配だしね。でも、そのお話はまた明日にしましょ」
シルビアは席を立つと、セーニャに歩みよって、手を取りました。
「セーニャちゃん、立てるかしら?」
ふらふらと立ち上がったセーニャのまえで、シルビアは背中を向けてかがみこみ、両手を首に回させると、もものあたりを抱えて背負い、よっ、とかけ声をかけて立ちあがりました。
「マヤちゃん、悪いけど扉を開けてもらえるかしら?」
「う、うん。シルビア、チカラもちだね」
「うふふ、ありがと。マヤちゃんたちも行きましょ」
マヤが急いで立ちあがり、扉をひらくと、シルビアはしっかりとした足取りで、宿へ向かって歩き出しました。
まんまるの月と、通りでゆらゆらとゆれる松明のともしびに照らしだされた、セーニャを背負うシルビアのすがたを目にして、マヤは不意に足をとめました。
立ちどまったまま、ぼうぜんとふたりを見つめるマヤに気がついたハリネズミは、ちいさな声で呼びかけました。
「マヤ、どうした?マヤ?」
ハリネズミの声も、マヤには届いていないようでしたが、シルビアがようすをうかがうように後ろを振りかえると、マヤは、はっと気がついたように、片腕で顔をごしごしとこすって、歩きだしました。
「マヤ?だいじょうぶか?」
ハリネズミが心配そうに声をかけましたが、マヤはだまりこんだまま、すこし離れてシルビアたちのうしろをついていきました。
宿にたどりついたシルビアは、セーニャを背負ったまま、すこし重そうな足音をたてて階段をのぼりきると、ふう、と小さく息をつきました。
マヤがいそいで扉をあけると、月明かりのさしこむ部屋は、テーブルの上に置かれたランプのともしびの色に、ぼんやりと染まっていました。
シルビアはセーニャをそっとベッドに降ろし、子供のように抱きかかえて、枕に頭をのせて寝かせました。
「ごめんね、セーニャちゃん。ねえ、マヤちゃん、悪いけど、セーニャちゃんが目覚めたら、お水をたくさん飲ませてあげてもらえるかしら」
「うん。お姉ちゃん、だいじょうぶかな?」
「ええ。疲れていたのよ、きっと。明日、また様子を見に来るわ。それじゃ、ゆっくり休んでちょうだいね。それじゃ、おやすみなさい」
「ありがと、シルビア。おやすみね」
シルビアがウインクをして部屋から出ていくと、マヤはベッドで眠るセーニャに、そっと毛布をかけました。
マヤは自分のベッドの枕もとにハリネズミをおろして、ごろんと横になると、うすぐらい天井をぼんやりと見つめたまま、ハリネズミに話しかけました。
「なあ、兄貴」
「ああ」
「兄貴はさ、シルビアみたいに、なりたいって思う?」
「なりたい?あんな感じでしゃべって、ハネの連中みたいになりたいかってことか?」
「ちがくて。なんていうか……あんなふうな、ちゃんとした人に、あこがれたりする?」
マヤがそう言うと、ハリネズミは、ははっと笑いました。
「ちょっとな。憧れようにも、遠すぎるんだよ。オレは、あんな風にはなれないよ」
「へへ。そーだよね……って言うのは、さすがにヒドいよな」
「いいや。オレにだって、そのくらいはわかってるよ」
マヤは、ししっと笑ってハリネズミに背を向けると、つぶやくように言いました。
「なあ、兄貴」
「ああ」
「笑わないか?」
「ああ。笑わないよ。約束する」
マヤは片時だまりこむと、ぽつりと言いました。
「おれ、さ。なんか、見とれちまった」
「シルビアさんにか?」
「ううん。ふたりに。お姉ちゃんが、シルビアに、背負ってもらってるのみてさ。なんか、うまくいえないけど……あのふたり、きれいだなって、おもった」
「ああ、そうだな。きれいな姿だった」
「そんでさ……おれ、おもったんだ。おれ、あのふたりの、どっちにもなれねえんだなって。そうおもって、なんか……すごく、かなしかった」
「そうか……まあ、オレにもなれやしないんだが……そんな話じゃないよな」
「うん。おれ……なんだろ。うまくいえないや……」
兄妹はすっかりだまりこみ、しずけさが部屋を包みこみました。
やがて、となりのベッドから、ベッドの上でシーツのこすれる音がきこえると、マヤはそっと立ちあがり、ハリネズミをかかえて、セーニャを見つめました。
「お姉ちゃん、だいじょうぶかな」
「大丈夫、眠っているだけだよ。はは。明日の朝は、ちょっとツラいかもしれないが。マヤも寝たらどうだ」
「そっか。そーする」
マヤはセーニャの頭をそっとなでて、おやすみ、と小さく声をかけると、自分のベッドにもぐりこんで、眠りにつきました。