カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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シンフォギアが無料配信してたから一期から四期までマラソンした勢いで執筆。


無印編
"向こう側"からの来訪者


天羽奏が死を覚悟して歌おうとしたその時、突然そいつは空から降ってきた。

大地を揺るがす衝撃と轟音。

舞い上がった土煙や瓦礫が落ち着くと、着地の際に地面に叩きつけていた右の拳を引き抜きながらゆっくりと立ち上がる。

こちらに背を向けて立つその姿を見て、何とも形容し難い気分になったのを今でも思い出す。

体の左側、及び下半身は後ろから見て一般の範疇に収まるだろう。何処にもおかしいところなどない青年、もしかしたら少年かもしれない、後ろ姿のそれだ。

しかし、右の上半身、特に右腕と右肩甲骨付近が異様だ。

まず右腕は肩から指先まで橙色を基調とした装甲に覆われており、何も装着していない左腕と比べかなり大きく、酷く不釣り合いに映る。

そして右肩甲骨から円形の機械的な装置のようなものと、そこから尾のように伸びる一本の金属片。

 

「...輝け」

 

不意に紡がれた言葉の意味に疑問を感じる前に答えが現れる。

まだ若い、少年と青年の中間と考えられる声音に合わせて、その右拳が淡い光を放つ。

虹色の輝き。

 

「もっとだ...もっと!」

 

声に応じるが如く光は瞬く間に強烈な光へと成長し、この目に焼きついた。

 

「もっと輝けえええええええ!!」

 

虹色の輝きは一瞬にして黄金に変わると、そいつの全身を包み込むだけに留まらず、まるで爆発したかのように閃光を振り撒く。まるで太陽が目の前に現れたようで瞼を閉じないようにするのが難しい。

 

「シェルブリットバースト...」

 

右肩甲骨の機械的な装置のようなものが回転し始めることにより、そこから生えた金属片も合わせてヘリコプターや扇風機の羽のように高速回転を起こす。

高速回転によって生み出された暴風に吹き飛ばされないように歯を食いしばって耐える。

 

「っ!」

 

次の瞬間、そいつは右拳を地面に叩きつけ、極僅かな時間で空高く跳躍。

否、飛翔したのだ。

そして、

 

「どぅおおおおおおおおおおりゃっ!!!」

 

飛んだと思ったら急降下。

ノイズの群れ、そのど真ん中に突撃し、右の拳を振り下ろし、大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

"向こう側"からの来訪者

 

 

 

 

 

自分にとって一番古い記憶を辿ってみても、『ついさっき』というもの以外は思い当たらない。

俺が生まれたての赤ん坊ならば納得できたが、今は"それなりの肉体年齢"を有している以上、それを認める訳にはいかないだろう。

ならば記憶喪失か、その線もありだと思うが正直微妙だ。

ただ、これだけははっきりしていることがある。

 

「なんで俺の格好、アニメ"スクライド"の"カズマ"と同じなんだ? おまけに"向こう側"っぽい場所で記憶喪失状態で漂ってるとか...記憶喪失になるのは劉鳳だろ」

 

今まで自分が何処の誰で何をしていたかなんてのは分からない。気がつけば、ここにいた。ただそれだけ。だが、大好きだった? ...と思われるアニメの内容は覚えていた。

視界に広がるのは何も無い。かと言って真っ暗な訳でもない。虹色の光が輝く無重力空間、とでも呼べばいいのか。そんな場所を俺はふわふわと浮いている。

アニメ"スクライド"。

アルター能力と呼ばれる力を駆使して登場キャラクターがバトルを繰り広げる作品。

で、俺の現在の姿は主人公のカズマになっている。

そして現在いる場所はアルター能力の源である"向こう側"の世界。劇中でカズマはライバルの"劉鳳"と戦闘したことによって空間が歪んで異世界への扉が開き、二人は決着がつかないまま"向こう側"に引きずり込まれてしまう、そんな場所だ。

 

「劉鳳よりも断然カズマ派だから、この姿に不満はねぇんだけど...」

 

何も説明がないのは困るし、記憶喪失なのはもっと困る。記憶は無いが知識は多少あるみたいなのが唯一の救いか。

スクライド以外に関する記憶が無いことと、現在地が"向こう側"なのは、遺憾ではあるが一旦置いておこう。

 

「カズマのアルター能力は、使えんのか?」

 

ふと疑問を口にして、とりあえず試してみることにした。

意識を集中し強くイメージするのは、シェルブリットの第二形態。劇中で一番好きなやつだ。

 

「おおっ!?」

 

すると、まるで呼吸するのと同じような感覚でそれができてしまうことに驚愕の声を出す。

甲高い音と虹色の閃光を伴って右腕が橙色の装甲に変化する。

顔の右半分を覆う装甲、右肩甲骨部分に現れる一本の回転翼も問題ない。

 

「...............となると、次はシェルブリットバーストが」

 

使えるかどうか、と呟こうとして視界の先に変化が訪れた。

空間に穴、と表現すればいいのか。何も存在しない虹色の無重力空間にポツンと生まれた黒い穴。それに体がどんどん引き寄せられるのを感じながら、俺は大いに焦った。

 

「ぶ、ぶっつけ本番は勘弁してくれ! せめて一発、本当に使えるかどうかだけ試させろぉっ!!」

 

叫びは虚しく響くだけで俺は黒い穴に吸い込まれた。

 

 

 

出迎えてくれたのは、見たこともない化け物である。

しかも何処か分からんが建物の中らしく、更に嬉しくないことに火災現場なのか、周囲は火の海。

「グルル...」

突然現れた俺に対して化け物は嬉しそうに唸る。下手な動きをすればそのままぱっくり食われてしまいそうだ。

主観的だろうが客観的だろうがどう見てもピンチな状況。

目の前の化け物で死ぬか、火災に巻き込まれて死ぬか、もしくは別の要因で死ぬか。

どれも御免被る。

死にたくないなら足掻くしかないが、目の前の化け物から逃げようにも、周囲が火の海で何処にどう逃げたらいいか分からない。というか少しでもいいから落ち着きたい。しかし落ち着こうにも目の前の化け物が許してくれそうもない。

どうする?

 

「...あの、あなたは...?」

 

背後からの声に肩越しに振り向けば小学生くらいの女の子が震えていた。

化け物を警戒していたため、すぐに前に向き直る。

(こりゃもう腹ぁ括ってやるしかねぇな)

何故だろう。カズマの姿をしているせいか、眼前の脅威に対して逃げるという選択肢を選ぶ気が急速に萎み、ぶっ倒すという闘争心が一気に沸き上がってきた。

(ぶっつけ本番だが、やってやるよ!!)

覚悟を決めてしまえば後は早かった。

 

 

 

セレナ・カデンツァヴナ・イヴは戸惑った。

暴走状態に陥ったネフィリムを鎮めるため、絶唱を用いようとした刹那、目の前に虹色の光と共に一人の男性が突然現れたのだ。

外見は明らかに年上だが、恐らく十も離れていないだろう。こちらの声に振り向いた時に見せた横顔は、橙色の装甲に半ば覆われていたが、東洋人系の顔立ちと肌の色から、なんとなく日本人かなと思う。

改めて前を、ネフィリムに向き直る男性は、装甲に覆われた右腕を自身の顔の高さまで掲げると、

 

「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

気合いのこもった雄叫びを上げ、虹色の光を放ち始めた。

その光はあっという間に目を開けていられないほど強くなると男性の全身を覆い尽くす。

 

「グウウウ!」

 

光に反応したネフィリムが姿勢を低くする。飛びかかる直前の予備動作なのだと悟るが、男性は臆すどころか益々輝きを強くしていく。

ヒュン、ヒュンとまるでヘリコプターのローターのような音を立て男性の右肩甲骨付近に付いているものが高速回転を開始すると、男性はふわりと足を浮かせた。

そして、

 

「シェルブリットォォォバァァァストオオオッ!!!」

 

カタパルトから射出されたジェット機にも勝る勢いで、飛びかかってきたネフィリムに真っ直ぐ突っ込んでいき、その右腕で殴りつけた。

インパクトの瞬間に強烈な光と思わず耳を塞ぐ打撃音。

ネフィリムの肉体は腹の中に爆弾でも入っていたのかと勘違いするほど爆散し、辺り一面に粉微塵となった肉片を撒き散らした。

 

 

 

 

 

体が少しずつ、少しずつ虹色の光を放つ粒子となって消えていく。

それが何を示すのか、なんとなく理解する。

"向こう側"へと帰るのだ。

 

 

「アンタ、一体...?」

 

 

「あ、あなたは...?」

 

 

 

俺か? 俺は...何者なんだろうか?

スクライドのカズマと同じ姿と能力を持っていることが判明した。だが俺はカズマ本人じゃない。それだけは断言できる。誰だと尋ねられてカズマと答えるのは烏滸がましい。俺はカズマが大好きだが、カズマ本人になれるなんてこれっぽっちも思わない。

なら、なんて名乗ればいいのだろうか?

悲しいことに記憶が無いので名乗るべき名前を持っていない。

暫し考え、妙案が浮かぶ。

そうだ。カズマと名乗るのが恐れ多いのならば、

 

 

 

()()()

 シェルブリットの()()()だ」

と名乗ることにした。

 

 




やってしまった。
後悔しないようにしたい。
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