カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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シェルブリット

こんなはずでは! フィーネの胸中を埋め尽くす思いはそれだった。

陽動として、ソロモンの杖を用いてノイズの群れを街に、地上のリディアンに放った。それによりこちらの狙い通り装者達と"シェルブリットのカズヤ"に相対することもなく、二課本部まで潜入することに成功。

あとはカ・ディンギルを起動させるだけ。

眼前に立ちはだかる風鳴弦十郎など所詮人の身に過ぎない。完全聖遺物と融合を果たしたこの身に障害になど成り得ない。

全ては思い通りにいっていた。今度こそ上手くいくはずだったのに。

 

「はあああっ!!」

 

気合いの籠った声と共に顔面に打ち込まれた拳により、大きく仰け反る。

次にきたのは腹部に衝撃。仰け反っていた上体が無理矢理折れて視界が動き、腹に踵が突き刺さっていたのが一瞬見えた後、吹き飛ばされた。

これで何度目だろうか。十を超えた辺りから数えるのを止めている。殴られたり蹴られたりは三桁を余裕で過ぎていた。

普通の人間ならとっくに何度も死んでいる攻撃を受けて無事なのは、身に纏ったネフシュタンの鎧の恩恵だろうが、そもそも弦十郎ならば普通の人間相手なら一撃で怪我をさせずに気絶させるくらい容易だったろう。

誤算だった。

まさか完全聖遺物を凌駕する力を持つ生身の人間が存在していたとは。

 

「...それでも私は、諦める訳にはいかない、いかんのだ!」

 

無様に転がっていた状態から立ち上がる。

人間相手ならノイズが最も有効だが、ソロモンの杖は使おうとした段階で、弦十郎が踏み込んだ際に砕けてできた床の破片を石礫のように蹴飛ばしてきたことにより手から弾き飛ばされ通路の天井に先端が刺さっている。

当然弦十郎はノイズを警戒し、ソロモンの杖を回収できないよう立ち回っていた。

 

「了子...いや、了子くん、一体何がキミをそこまでさせているんだ?」

 

何度叩きのめされても立ち上がってくるフィーネのただならぬ気迫と覚悟に、弦十郎は思わず問い掛ける。

 

「お前らの"男の意地"というものが女に理解できないように、女心というものが一生分からない男には理解できんだろうな」

 

問いに対し答えるのを拒否し、フィーネは弦十郎の接近を拒むように眼前に幾重もの障壁を展開した。

その障壁は通路を塞ぎ、何重にも張られたことで視界すら塞ぎ、一瞬だけ弦十郎からはフィーネの姿を捉えることができなくなる。

 

「今更こんなもの!」

 

一歩踏み込み、右の正拳突きを障壁に打ち込む。

障壁はさながらガラスのような音と共に粉々に砕け散り、

 

「きゃああああああああ!!」

 

突然()()()()未来の絹を裂くような悲鳴が鼓膜を叩く。

直ぐ様振り返れば、棘だらけの鎖のようなものが未来の体に絡み付いている。しかもその元を辿れば壁から生えており──

 

(やられた!)

 

視線をフィーネに戻せば、彼女が身に纏うネフシュタンの鎧、その武装である棘のついた鞭か鎖のどちらにも見えるようなそれが、二本ある内の片方が壁に突き刺さっていた。

弦十郎の視界を塞いだあの一瞬の隙に、壁の中を潜行させ、未来を拘束し人質としたのである。

 

「動くな。動けばその小娘の肉を削ぐ」

「そこまで堕ちたか、了子!」

「黙れっ! この小娘の命が惜しくば言う通りにしろ」

 

せめて緒川が気絶さえしていなければ、未来を安全な場所まで連れて行かせていたというのに!

歯噛みしながらも弦十郎は構えを解く。抵抗する意思がないことを示す。

それを見たフィーネは邪悪な笑みで顔を歪めると、もう片方の鞭を伸ばしてまずソロモンの杖を回収する。

そして、

 

「つくづく男とは女に甘い生き物だ」

 

ソロモンの杖を回収するのに使用したその鞭を一直線に伸ばし、弦十郎の右脇腹を貫いた。

 

 

 

「いやあああああああっ!」

 

気絶していた緒川が目を覚まして最初に聞いたのは未来の悲鳴。

最初に見たのは、ネフシュタンの鎧の武装によって体を貫かれた弦十郎の姿。

 

「司令っ!?」

 

口と右脇腹から血を吹き出しながらも、弦十郎は表情を一つ変えず、仁王立ちしたまま静かに言う。

 

「言われた通り、動いていないぞ。早く未来くんを解放しろ」

「...ふん」

 

言われたフィーネはつまらなそうに二本の鞭を手元に引き寄せる。その際、未来には傷つかないように優しく離し、弦十郎からは力ずくで強引に引き抜き苦悶の声を上げさせた。

 

「司令!」

「弦十郎さん!」

 

まだ痛む体に顔を顰めつつ慌てて駆け寄る。

未来は顔面を蒼白にしながら今にも泣きそうだ。

 

「小娘一人の命と引き換えに私を止められるというのに...その甘さには反吐が出る」

 

肝心な場面で気を失っていた自分が不甲斐なくて、気が狂いそうになるが、奥歯が砕けんばかりに噛み締めなんとか耐えると崩れ落ちそうになる弦十郎に肩を貸す。未来も黙って見るだけはせず、緒川の反対側に回る。

 

「殺しはしない。その甘さが招いた結末を、その死に体を引き摺りながら見ているがいい」

 

冷酷にそう告げると、興味が失せたのかフィーネはこちらに背を向け歩き出す。

 

 

 

その後、致命傷を負った弦十郎を未来と二人でなんとか司令部まで運ぶ。

 

「応急処置をお願いします!」

 

血塗れの弦十郎の姿に誰もが驚愕しつつ、あおいが素早く処置に取り掛かる。

 

「侵入者です。敵は、櫻井了子は、やはりデュランダルとここの施設を使って何かをするつもりのようです...」

 

まだ街にいるであろうカズヤ達に連絡できないかコンソールを弄りつつ、皆に伝える為に口を開けば、未来が補足するように教えてくれた。

 

「あの人、今宵の月を破壊する、って言ってました。それで人類にかけられた"バラルの呪詛"を解くとも」

「バラルの、呪詛?」

「はい。この世界の人類は皆その呪いをかけられていて、だから人間同士の意志疎通と相互理解が阻まれているのだ、と。唯一無二の例外は異世界からやって来たからこそ、この世界の人間と見なされていないカズヤさんだけだっていうのを聞きました」

 

呪いは意志疎通と相互理解を阻む?

しかしカズヤだけが、唯一無二の例外?

 

「...まさか、その呪いの有無がカズヤくんと装者達の同調現象に何か関係あるのか?」

 

朔也が考え込むように呟いている間に、外部との通信が確立したので未来に向き直る。

 

「カズヤさんに繋ぎます!」

『もしもし!!』

「カズヤさん!? 学校が! リディアンがノイズに襲われてるの!! 響が頑張ってくれてるけど一人じゃいくらなんでも──」

 

そこまで未来が叫んだところで無情にも通信が切れる。

同時に主電源が切れたのか、メインモニターには何も映らなくなり、司令部全体が闇に包まれる。

 

「クソッ、内部からシステムがハッキングされててこっちの操作を受け付けなくされてる! こんなことできるの了子さんくらいしか...」

 

焦った口調の朔也の言葉を聞き、二課本部内に安全な場所はないと判断し、皆に脱出を促す。

 

「全員脱出を! 最低でもシェルターまでは避難してください! あと誰か数名、男性で司令を運ぶのを手伝ってください!!」

 

緒川のこの言葉に異を唱える者などいなかった。

 

 

 

時刻は夕暮れ時。夕日で世界が朱に染まる景色の中、響は握った拳に力を込める。

 

「これでラストォォォッ!」

 

振りかぶった拳を打ち抜き、最後の一体となったノイズを塵へと変える。

念の為、他にノイズが見当たらないか周囲の様子を窺うが、見つけることはできなかった。

 

「...学校が...」

 

その際に目にしてしまったリディアンの惨状を改めて認識し、悔しさと悲しさが込み上げてきて涙が出そうになるのを必死に堪える。

夕日に照らされる廃墟。つい先程までは何の変哲もない日常の一部だった学舎が、僅か数時間で理不尽の猛威に曝された跡地。

 

「まだ戦いは終わってない、だからまだダメ。未来達の無事を確認して、カズヤさん達と合流して、それから──」

 

自分に言い聞かせるように口にした時、上空からヘリの音と強い風が吹き荒れ、

 

「響!!」

 

カズヤが名を呼びながら飛び降りてきた。

 

「...カズヤさん!!」

 

それだけで響は先程泣かないと決めていた決意があっさり折れてしまい、ポロポロ涙を溢れさせながら彼の着地点に走り寄る。

気が抜けたのか、シンフォギアも解除され制服姿となってしまう。

右拳──シェルブリットで地面に着地することで衝撃を緩和し、拳を地面から引き抜き立ち上がると、飛びついてきた響を受け止める。

 

「私、頑張ったんです、でも、でもリディアンが、ひぐっ、ごめんなさい、こんな──」

「俺達こそ遅れて悪かった。響一人に負担押し付けちまってすまねぇ」

 

頭に右手を、背中に左手を回し優しく撫でながら泣きべそをかく響を慰めていると、少し離れた場所に着地したヘリから普段着の奏とクリス、制服姿の翼が降りてきた。

 

「こいつは、酷いな」

「...フィーネの奴...!!」

「この惨状は、本当に櫻井女史が引き起こしたことなのか」

 

蹂躙されたリディアンの校舎を見て奏があからさまに顔を顰め、クリスが怒りに震え、翼が信じたくないとばかりに嘆く。

送迎してくれたヘリがここから飛び立ち離れていくのを感じながら、カズヤは響の両肩を掴んで確認する。

 

「未来はどうした?」

「私が戦ってる間に避難誘導してくれて、それに緒川さんが後からをついてったんですけど、それっきりで...通信が繋がらなくて」

「よし、緒川がついてるなら未来は一先ず安心だ。敵は、ノイズ以外は見てないのか?」

 

首を横に振る響に嫌な予感を覚えてしまうが表情には出さず、三人に向き直り二課のメンバーへ連絡、もしくは安否確認するのに何かいい手がないか意見を聞こうとして、

 

「っ!」

 

敵意と殺意を感じてそちらを睨み付けた。

カズヤの反応に皆が気づき、彼の視線の先を注視すれば、一人の女がいた。

ネフシュタンの鎧を身に纏った金髪金眼。

外見的特徴は異なるが、顔立ちは櫻井了子と同じ造形。

 

「櫻井了子...いや、フィーネだったか。ま、この際クソ(アマ)の名前なんてどうでもいいがな」

 

低い声音で殺気を振り撒くカズヤのことなど気にも留めず、フィーネは狂ったように哄笑した。

この態度がカズヤの癇に障る。今すぐぶん殴りたい衝動に駆られるがぐっと抑える。

 

「一体何が目的なんだよ、了子さん!!」

「答えてもらおうか、櫻井女史!!」

 

奏と翼が問い詰める。この中ではきっと一番長い付き合いで、色々と世話になったし信頼もしていたのだろう。心の何処かで彼女が敵だということを何かの間違いだと思いたかったのかもしれない。

 

「今宵の月を破壊する。それにより人類にかけられた呪いを、意志疎通と相互理解を阻む"バラルの呪詛"を解き、世界を一つに束ねる」

 

対してカズヤはフィーネのことを完全に頭おかしい人と捉えつつ、胡散臭い詐欺師を見る眼差しで見ながら鼻で笑う。

 

「ワリーけど何言ってっか分かんねーんだよ。だいたい月破壊してなくなったら珊瑚が産卵できなくなったり、狼男が変身できなくなったり、月に代わってお仕置きできなくなったりすんだろが」

「...アンタなんでそんな古いネタ知ってるの」

「暇な時にネットで面白いもんねーか探してたら予測で出た」

「あ、そ」

 

カズヤと奏の緊張感のないやり取りにフィーネは不快だと言わんばかりに眉を顰めたが、彼は全く気にせず続けた。

 

「もうだいたいそっちのネタは上がってんだよ。デュランダルと二課本部施設使ってロクでもねーこと企んでんのは予想してた。んで、月を破壊っつったか? 破壊ってことはこっからなんかミサイルとか飛ばすんじゃねーの? デュランダルのエネルギーでも使って、クリスがイチイバルでミサイル射つみたいな感じで」

「...ふっ、相変わらず舐めた態度だが勘だけは良いな、"シェルブリットのカズヤ"。だが残念ながらミサイルではない。荷電粒子砲"カ・ディンギル"。これで私は月を穿ち、破壊するのだ!!」

 

地鳴りと共に大地が大きく揺れる。地震に似ているが少し違う。地下深くで途方もなく大きなものが蠢き、地上に這い出ようとしているのを感じる。

やがて、既に瓦礫の山と化していたリディアン校舎を、下から突き上げ粉々に吹き飛ばしながら現れたのは巨大な塔。

 

「...なるほどね。リディアンと二課本部を繋ぐエレベーターシャフトそのものが砲台ってことか」

 

聳え立つ巨大な塔、否、超巨大な兵器を見上げてこれまで知り得なかった謎の一つに回答が出たことに納得したカズヤのすぐそばで、クリスがバカにするように笑う。

 

「こんなもんで月を破壊して、呪いを解いて、それでバラバラになった世界が一つになるって? 今のお前を見る限り信じられねぇなそんなこと!! それはお前が世界を支配するってことと何が違う!? 安い! 安さが爆発し過ぎてるっ!」

「どんなに安くてもそんな産業廃棄物要らねーよ。『ご自由にお持ち帰りください』ってあっても無視するわ」

「指定の曜日に行政か業者が回収してくれる資源ゴミの方がまだ役に立つね」

 

クリスに便乗するカズヤと奏の辛辣な物言いにフィーネのこめかみに青筋が発生する。

怒りに肩を震わせ、憎悪で濁った金の瞳がこちらを射抜く。

 

「...私の、私のあの御方への想いを、よりにもよって産業廃棄物? 資源ゴミ以下だと!? 何も知らんガキ共が、言いたい放題言ってくれる!!」

「こっちだってなぁ、テメーが今までやらかしてくれたことに腸煮えくり返ってんだよっ! 覚悟しろよこの年増の行き遅れっ! あの御方ってのが何処の誰だか知らねーが、そいつがテメーの顔見たら『遠慮させてください』って言うほどボコボコに殴ってやらぁ!!」

 

口汚く罵りながら右拳を地面に叩きつけ、その反動で跳躍。

右肩甲骨の回転翼が高速回転し銀のエネルギーを噴出させ、右腕を大きく振りかぶってフィーネに向かって突っ込む。

 

「シェルブリット、バァァァストッ!!」

 

咄嗟にフィーネは幾重もの障壁を張り攻撃を防ごうとするが、

 

「そんなのはなぁ、効かねぇんだよ!!」

 

障壁など最初からなかったとばかりに容易くぶち抜き、その顔面に拳を叩き込み、振り切る。

錐揉み回転しながら物凄い勢いで瓦礫の山へとぶっ飛んでいくフィーネに向かって言い放つ。

 

「立てこのクソッタレ! この程度で済むと思ったら大間違いだ! どうせネフシュタンの鎧の力ですぐ回復すんだろ? そいつを装備して俺の前に出たことを後悔させてやるよ!!」

 

瓦礫を弾き飛ばしながら姿を現すフィーネは、やはりネフシュタンの特性によりダメージをあり得ない速度で回復させながら、狂気を孕んだ笑みを見せた。

 

「...くくく、お前は似ているな、風鳴弦十郎に...性格は全く異なるのに、その本質はとてもよく似ている」

 

唐突な発言に訝しみながらも戦闘態勢を崩さず構え直すカズヤに対し、フィーネは何処からともなく爆弾の起爆スイッチのようなものを取り出す。

 

「似ているからこそ最大の弱点も共通している! これを前にしても私を殴れるかどうか見ものだな、"シェルブリットのカズヤ"!!」

 

カチッ、と押されたスイッチの音は、

 

「きゃっ!?」

「ギアが!」

「何!?」

「なん...だと...!」

 

背後で四人の装者達の悲鳴と戸惑いの声に変わる。

振り返れば、そこには、粉々になった待機状態のギア──ペンダントを前に呆然としている四人の姿があった。

 

「そしてここでノイズが出たら、いくらお前でも足手まといを四人も抱えて戦えまい?」

 

四人を囲むようにソロモンの杖から緑色の光が放たれ、ノイズが出現する。

 

「クソッ!」

「動くな、"シェルブリットのカズヤ"。動けば四人を殺す。アルター能力を駆使してギアを再構成しようとしても殺す。ノイズを分解しようとしても殺す。以前のように能力を暴走させ地震の類いを起こせば、カ・ディンギルが起動した後ではシェルターに避難した者達は全員生き埋めになるだろうな」

 

その言葉で四人に駆けつけようとしたカズヤの動きが止まる。

シンフォギアを使えなくなり、ノイズに対抗する力を失った四人の表情を見て、カズヤは止まってしまう。

恐怖に歪んでいる顔ではない。

自分達の無力に、カズヤの足手まといでしかなくなった自分達の不甲斐なさに泣きそうな顔だ。

 

「くくく、はははは、アーハッハッハッ!!」

 

薬物を使用したかのように高笑いを始めるフィーネ。

 

「お前も所詮は女に甘い男だったということだ」

 

夕暮れの太陽が沈み、夜の闇が訪れる。

そんな彼らを、妖しい光を放つ月が見下ろしていた。

 

 

 

脆く崩れそうなシェルターの壁を二課のメンバー全員が力ずくでぶち破ると、そこには怯え震える三人の少女──リディアンの生徒がいた。

 

「小日向さん!?」

「皆無事? 良かった!」

 

未来と響のクラスメートにして友人の安藤、板場、寺島の三人だ。未来は避難誘導の際に別れた三人の無事な姿に安堵する。

そんな少女達を置いて、二課の面子はぞろぞろ中に入ると、ここの電源は生きてるとか、モニターの再接続を試すとか、他を調べてくるとか勝手に動き出す。

 

「ヒナ、この人達は?」

「うん、あのね、この人達は...」

 

安藤の質問に未来は何処からどのように説明しようか困っていると、椅子に座らされた弦十郎が答えた。

 

「我々は特異災害対策機動部。一連の事態の終息に当たっている。未来くんは民間の協力者だ」

「それって政府の...っていうか未来が民間の協力者!?」

 

驚きの声を上げる板場と、開いた口が閉じない安藤と寺島に未来は「機密だから教えられなくてごめんね」と謝る。

 

「モニターの再接続完了、こちらから操作できそうです」

 

朔也が報告しながらテーブルの上の情報端末を操作すれば、モニターに外の様子が映し出された。

まず最初に映るのは超巨大な塔。

ノイズに囲まれた奏、翼、響、クリス。

無抵抗のまま鞭のようなもので何度も何度も繰り返し打ち倒され、それでも立ち上がるカズヤ。

そして鞭のようなものを操ってカズヤを痛めつけるフィーネだ。

 

「装者達は何故シンフォギアを纏っていない!? 何故あのカズヤくんが反撃どころかその場から動こうともしない!?」

 

これらの光景を目撃して、弦十郎が体の痛みも忘れて叫ぶ。

二課のメンバーと未来なら誰もが疑問に思い、朔也が原因を調べる為に端末を操作して顔を蒼くする。

 

「装者四人のシンフォギアが、破壊されています!!」

「何だと!?」

 

モニターがズームされ、装者の一人、響の首に下げたペンダントが砕かれているのが映り、続いて奏、翼、クリスの順にペンダントをズームして確認するが、四人共にギアが壊れてしまっていた。

 

「...ギアは全て了子くんの手によってメンテナンスを受けていた。全て彼女の手の平の上だったのか...!!」

「じゃあ響達は今、ノイズに攻撃されたら...」

「...炭素分解されてしまう。だからカズヤくんは無抵抗なのか...彼女達を人質に取られ、動かないのではなく動けないのか」

「そんな!」

 

カズヤを除き、知る限りで響達が唯一ノイズに対抗する力を持っていた。その力を失ったということは、ノイズに抵抗できず、ただの一般人と同じように触れただけで死んでしまう。

 

「音声、入れられるようになりました」

 

端末を操作し続けていた朔也の声に従い、外の音がシェルター内に響く。

 

『フハハハハッ! そんなに小娘達が大切か? そんなにシェルターに避難した者達を守りたいのか? 弱者の為、他者の為に戦うこと、ご立派な戦う理由だがな、それがお前の最大の弱点だ! "シェルブリットのカズヤ"!!』

 

完全に勝ち誇ったフィーネの嗜虐に満ちた声に誰もが不快な気分を味わう。

 

「...シェルブリットの、カズヤ?」

 

安藤がモニター内で嬲られるカズヤの姿をチラリと見てから、痛ましくて見てられないと視線の未来に移す。

これに答えたのは弦十郎だ。自然と視線が彼に集まる。

 

「カズヤくんの通称のようなものだ。彼は自身の右腕を、シェルブリットと呼んでいる」

「鎧の一部のような腕、ですね」

「どうして右腕だけ...」

 

寺島と安藤がそれぞれ口にする中、弦十郎の説明が続く。

 

「アルター能力、という一種の超能力のようなもので、細かい説明は省かせてもらうが、発動させることによりノイズを倒すことができるカズヤくんだけが持つ力だ」

「何よそれ!? まるでアニメじゃない!!」

 

板場が自身にとって非現実的な事実を前に驚愕するが誰も取り合わない。

 

「じゃあ、カズヤさんがいつもビッキーを連れ出したり、翼さんや奏さんと仕事仲間だっていうのは...」

「ノイズ対策の為、戦ってもらっていたんだ。カズヤくんは自身の超能力のようなものを用いて、響くんを含めた他の者達はシンフォギアという特殊な武装を用いてな」

「ヒナはこのこと、知ってたんだ」

「つい少し前にだけどね。カズヤさんの存在と響達の装備って国家機密だから、教えたくても教えられなくて」

「...しかし司令、現状ではギアを破壊され装者達は戦えません。唯一戦えるカズヤくんもこのままでは...」

 

モニター内で一方的に攻撃され続けているカズヤから視線を逸らさず、それでいて何もできない自分に憤りを覚えたように朔也が悔し気に呟く。

どうすればいい? 誰もが絶望的な状況を前にして打開策が浮かばない。

板場などは「...このままじゃカズヤさん死んじゃうよ...」と泣き出す始末。

そんな時だ。先程、他に何か使えるものや設備が残っていないか調べに行った緒川がいつの間に戻ってきたのか、言った。

 

「僕が時間を稼ぎます」

「緒川...何をするつもりだ!?」

「要は、カズヤさんが装者達のギアを再構成する時間があればいいんです。その為の時間稼ぎをするだけです」

「...死ぬ気か?」

 

弦十郎の問いに緒川はゆっくりと首を振る。

 

「死ぬ気はありませんが、死ぬかもしれません。でも、元々カズヤさんをこの戦いに巻き込んだのは僕達です。あなたは皆の希望だから戦ってくださいとお願いしたのも僕達です。だったら僕は、彼の為にできることをしたい」

 

そこには覚悟を決めた男の顔が。

 

「それに今更退けませんよ。カズヤさんの言葉を借りるなら、意地があるんですよ、僕達男の子には」

 

外からの音声には、フィーネの笑い声と、装者達四人の泣き叫ぶ声が聞こえていた。

 

 

 

 

 

【シェルブリット】

 

 

 

 

 

「お前のアルター能力、確か融合装着型だったか? 発動時に身体機能の上昇というのが肉体の頑強さにも現れるとは...アルター能力か、使うことができればさぞ便利なんだろうな」

 

俺の腹や胸を貫こうとして、何度試してもできないことについに諦めたのか、フィーネが呆れたように溜め息を吐く。

減らず口の一つでも叩いてやりたかったが、下手なことを言って装者達四人にノイズをけしかけられたら終わるので、黙ったまま奴の拷問染みた執拗な攻撃に歯を食い縛って耐えるしかない。

全身めちゃくちゃ痛いし、あっちこっち出血して血塗れだし、正直立ってるのも辛いので今すぐ意識を手放すことができたらどんなに楽かと思ってしまうが、そういう訳にもいかない。

こいつは絶対にぶっ飛ばす!

こいつのせいで無関係な人がたくさん死んだ。

ノイズを操って街の人達を恐怖のどん底に陥れた。

クリスを使い捨ての道具みたいに扱った。

響が破壊された校舎の前で泣いてた。

奏と翼、おっさんや緒川、他の二課の連中からの信頼を裏切り、騙していた。

そして何より、今、俺がいいようにされてるのを見て、自分達が足手まといとなってしまったことを嘆いて、もうやめてくれと泣き叫ぶ四人の姿があった。

 

「もうやめろ、やめてくれフィーネ! カズヤが死んじまう!!」

「畜生、畜生! アタシ達はなんて無力なんだ! ギアが無ければノイズ相手に何もできねぇ! アタシはカズヤに助けてもらったのに、アタシはカズヤを助けられねぇのかよ!!」

「嫌、嫌! もうカズヤさんをこれ以上傷つけないで!!」

「もう意地を張るなカズヤ! これ以上は本当に死んでしまう! 頼むからもう立たないでくれ!! カズヤにもしものことがあったら、私は...」

 

許さない。絶対に許さない。

胸の中で燻る怒りがマグマとなって噴き出しそうになるのを必死に抑えつつ、反撃の糸口を探す。

ネフシュタンの武装──鞭だか鎖だかどっちか分からん一撃が腹に来る。

 

「ぐはっ」

 

ハンマーで殴られたような衝撃の後、往復ビンタのように右に左にと鞭か鎖──もう鞭でいい──で引っ叩かれた。

脳が揺らされて膝が折れる。顔面から地面に倒れ込む。

口の中が血と砂利で混ざり合って最低に気持ち悪い。

 

「...ぺっ」

 

顔を上げ、血の塊と一緒に砂利を吐き捨て、ズタボロの体に気合いを入れて震えながらもなんとか立ち上がる。

 

「...まだ立つか? 異常なまでの頑強さだな。普通の人間なら十数回は死んでいるだろうに。アルター能力者というのは皆こうなのか?」

「さあな。ご存知の通り、俺はアルター能力以外のことは記憶がねーから、他の連中のタフさ云々について答えようがねーよ」

 

頭の片隅では、恐らく肉体が"向こう側"で生まれたアルター結晶体と同じか似たようなもので構成されたものだからじゃないかと考えているのだが、確証はないし調べようがないし、そもそもこいつにわざわざ教えてやるようなことでもない。

 

「まあいい。お前を嬲るのにも少し飽きと疲れが出てきたところだ。そろそろ私本来の目的に移らせてもらおう」

 

フィーネはカ・ディンギルに向き直ると、狂気が混じった恍惚な表情を浮かべて呪文を唱えるように言葉を紡ぐ。

 

「さあ、カ・ディンギルよ。デュランダルの力を用いて月を穿て。そしてあの忌々しい"バラルの呪詛"から人類を解き放ち、世界を一つに束ねよ! その暁に私は今一度統一言語を手にし、あの御方にこの胸の想いを伝えるのだ!!」

 

相変わらず何言ってんのかさっぱり分からん。

好きな人に好きと伝えたい、ということは辛うじて分かるのだが。

やがてカ・ディンギルがエネルギーをチャージ開始したのか、機械の駆動音に合わせて塔全体から白い稲光が発生。

月を破壊するほどの威力を持つ荷電粒子砲ならば、それに必要なエネルギーが相当なものだろう。

また、粒子砲自体には緻密に設計された背景があるはずだ。

ならば、あれは放置してていいかもしんないな。

とりあえず、ふぅ、と一息つく。

現に、チャージ開始から一分以上経つが、なかなかエネルギー充填が完了しない。

 

「.........?」

 

さすがに長いと思ったのか、フィーネが疑念を持ったようだ。

しかしできることがないので、もう暫く待って様子を見るらしい。

やがて、ボンッという小さな音が聞こえた。カ・ディンギルの真ん中部分から、まさかの火災の発生である。

 

「な、な、何が?」

 

動揺を隠せないフィーネの後ろ姿に口元が思わずにやついた。

ここで意趣返しも含めてネタばらしをしてやりたい気持ちになるが、我慢して口を閉ざす。

すいません、それ。俺が以前地震起こした時、強化した防衛システムに致命的な破損が出たんすよ。

で、それをおっさんと緒川に頼んで直した振り、要するに報告書とか二課本部のシステムデータを改竄して『修復完了』の扱いにしただけ。

つい数日前までやってたのはあくまで地震の類いが過ぎ去った後の復旧工事や今後の災害対策。強化した防衛システムなんてノータッチ、壊れたままだ。

いや、嘘だわ。そういえば防衛システム強化の際に増設されたスパコンみたいなのがいくつも並んでる部屋で、地震の後にそのスパコンの一つに、おっさんと緒川と俺だけの秘密としてこっそり一発ぶちかましたのも忘れてた。

眼前のカ・ディンギルは火災が発生してもエネルギーのチャージを止めようとしない。

もし撃てても精々一発、しかも本来の性能をろくに発揮できずに、一発撃てば爆発炎上しそうな雰囲気が出てきている。

 

「そんな、まさか、カ・ディンギルが...」

 

見る見る内に火災はあちこちへと広がり、その度に連鎖的に小さな爆発音が聞こえ、ついには塔全体から火を吹いた状態で、塔の先端から翡翠色のビームが放たれた。

次の瞬間には思った通り、大爆発して半ばから折れて、ただ無駄にでかいだけの巨大な松明へと化す。

ビーム自体はどうなったのかというと、月には命中したが、フィーネの目的である月の破壊には到底及ばず、一部が欠けたくらいだった。一部と言っても月全体と比べあまり大きく見えないが、実際は超巨大な質量を持つ岩の塊だろうが。

 

「...私の想いは、またも...」

 

カ・ディンギルだったもの──燃え盛る中折れ松明を前に打ちひしがれたように嘆くフィーネは、これまでで最大の隙を晒している。

そしてそう思っているのは俺だけではなかった。

突如響く銃声。同時にフィーネの手から弾け飛ぶソロモンの杖。

更に銃声は二発、三発と続き、フィーネの影に撃ち込まれた。それにより見えない拘束具を嵌められたかのように動きを止める。

この忍法を俺は知ってる。翼もよく使う。けど本当の使い手は──

 

「な、これは!?」

「長くは持ちません、カズヤさん早く!」

「ナイスだ緒川ぁぁぁぁっ!」

 

姿が見えない忍者に感謝を込めて叫びながら装者達に、装者達を囲むノイズに向かって駆け出す。

右の拳に力を込めて、

 

「おおおおおお、らぁぁぁぁぁっ!!!」

 

棒立ちのノイズに振り抜く。そのまま勢いを失わないように体を横回転させ、一番近い順に次々とノイズをぶん殴って塵にした。

だが、最後の一体を倒したところで、

 

「っ!?」

 

シェルブリット全体にピシリと罅が入り、次の瞬間には砕け散って虹の粒子となって空気に溶けていく。

アルター能力が、解除された!?

次に現れた異常は体に力が入らなくなったこと。足がもつれ、前のめりに倒れ、今日何度目になるか分からない地面にキスをする。

 

「カズヤさん!!」

「「「カズヤ!!」」」

 

四人が駆け寄ってきて俺をうつ伏せから仰向けに変え、立ち上がらせようとしてくれるが、足に力が入らない。

 

「クソッ、もうちょっとだってのによぉ...」

 

悪態を吐くが体が言うことを聞いてくれない。

出血し過ぎたのか少し寒い。

早く動け、このポンコツ! 根性見せろ! 今こそ意地の張り時だろうがぁぁぁ!!

 

「どうやらついにアルター能力を維持できないほど消耗したようだな?」

 

嫌味ったらしい笑みを浮かべ、緒川の忍法による拘束から抜け出たフィーネがこちらに向き直り、ネフシュタンの鞭を伸ばし、ソロモンの杖を回収した。

アルター能力を解除するよう要求しなかったのは、完全に使えなくなるのを確認する為か。

 

「...お前だろう、お前がカ・ディンギルに何か細工を施したんだろう!? そうでなければカ・ディンギルは完璧だったはずだ!」

 

笑みをすぐに憤怒に変え、般若のような形相となり問い詰めてくる狂人。

万事休す。

だが生憎と俺は諦めが悪い。

フィーネの言葉を無視して、俺は四人に要求する。

 

「ぶっ壊れててもいい、ギア寄越せ」

「でも──」

「いいから」

 

何か言おうとした響を遮り静かに告げた。すると四人はそれぞれ首からペンダントを外す。

右の手の平に置かれる四つのペンダント。どれもこれも真っ二つに砕けて酷い有り様だったが、俺は気にせず握り締める。

 

「今更何をするつもりだ。アルター能力を使えない状態で、壊れた玩具を手にして私を相手にするとでも?」

 

俺はひたすらフィーネを無視して、今度は四人に問い掛ける。

 

「...お前ら、歌えるか?」

 

この問いに四人は揃って戸惑う。それはそうだろう。歌ったとしてもギアは破壊されている。シンフォギアは纏えない。現状を打開することはできないからだ。

しかし、こんな絶望的な状況にも関わらず、俺は──本能的に──歌が聴きたかった。

 

「じゃあ、言い方変えるぜ。お前らは、俺の為に歌ってくれるか?」

 

息を呑む声がする。

 

「俺は、お前らの歌が好きなんだ。大好きなんだよ...だから歌ってくれ、頼む」

 

必死に懇願すると、響が涙を拭って意を決したように言ってくれた。

 

「私、歌います。カズヤさんの為に」

 

するとクリスが、

 

「カズヤが聴かせろって言うならあたしも歌う。カズヤの言うことなら何でも聞くって約束したしな」

 

続いて奏も、

 

「アンタに救ってもらった命だ。アンタの為に燃やし尽くしても構わないさ」

 

そして翼が、

 

「これが最期になるかもしれないなら、私もカズヤの為に喜んで歌う」

 

四人は俺の後ろで、立った状態で横一列になり、クリスは響と、響は奏と、奏は翼とそれぞれ手を繋ぎ、せーので歌い出す。

曲調と歌詞からして歌っているのは絶唱のものだ。

 

「本当に何のつもりだ?」

 

まだ他に何か手はあったのかと警戒し始めるフィーネに、俺は内心でほくそ笑む。

今になってやっと分かった。こんな追い詰められた状況下でやっと理解できたのだ。

この世界に俺が来た意味を。俺の存在意義を。

それだけじゃない。何故シェルブリットがフォニックゲインを吸収するのかも。

何故、装者達と同調なんていう現象が起きるのかも。

答えが分かると簡単な話だ。

そもそも、"向こう側"とこの世界を行き来してた俺の肉体が、シンフォギアを纏った響に手を握ってもらったことでこの世界に留まれるようになった理由は何だ?

それは、俺の肉体がフォニックゲインを求めていたからだ。

俺の能力が彼女達にとって都合が良いのも当然だ。

"スクライド"の"カズマ"の能力に似て非なるこの力は、この世界で振るう為のもの。

つまり()()()()()()()()()は、この世界に特化しているってことだ!

 

 

 

だから俺の力は、

麗しくて愛しいこの歌姫達を、

もっと美しく輝かせる為にあるんだっ!!

 

 

 

そう強く自覚すると、俺の中でカチッとスイッチが入る感覚がした。

まるで今までOFFだった電源がONになるかのように。

歌声が鼓膜を叩く度に力が漲る。

疲労やダメージが嘘みたいに吹っ飛んでいく。

直ぐ様立ち上がり、握り締めた四つの壊れたペンダントを上空に放り投げる。

 

「さあ、行こうぜお前らっ!!」

 

その瞬間、ペンダントが輝かしい虹色の光を放ち、分解されていく。

 

「何だ!?」

 

あまりに眩い輝きにフィーネが怯む。

俺はそれに構わず、ペンダントを放り投げた体勢のまま、右手の指を人差し指から中指、薬指、小指、最後に親指と順に折り曲げて拳を作り、力一杯握り締め、四人の歌声に耳を傾けながら叫ぶ。

 

「こいつは、この光は、

 俺とお前らの輝きだああああああああっ!!」

 

そして俺達五人の声が重なった。

 

 

 

シェルブリットォォォォォォォッ!!!

 

 

 

五本の光の柱が天に向かって伸びていく。

光の柱は徐々に太く大きくなっていき、やがて一本の大きな光となり、地球を飛び出し、宇宙空間にまで到達した。

 

 

モニターに映る光がシェルターの室内を眩い光で満たす。

 

「やりました! 二つのガングニール、天羽々斬、イチイバルそれぞれよりアウフヴァッヘン波形を確認! フォニックゲインとアルター値が急激に上昇していきます!!」

 

喜色満面の朔也が思わずガッツポーズをする。彼だけではなく、他の二課の面子も大興奮だ。

 

「やったな、カズヤくん」

 

弦十郎が万感の想いを込めて溜め息を吐いたその刹那、朔也が持ち運んできた情報端末から甲高い電子音が鳴る。

 

「何だこれ!?」

 

大喜びしていた彼が一転、その顔を驚愕に染めるので何が起こったのかと思うと、彼は慌てた様子で「これを見てください!」と端末の画面をこちらに向ける。

そこには本来であれば、

『GUNGNIR-01』

『GUNGNIR-02』

『AMENOHABAKIRI』

『ICHAIVAL』

『SHELL BULLET』

と表示されるべきものが、

『SHELL BULLET』

『SHELL BULLET』

『SHELL BULLET』

『SHELL BULLET』

『SHELL BULLET』

というように五つ全て同じ表示がされているという異常事態。

 

「これが、カズヤくんの真の能力なのか? シンフォギアを再構成するだけでなく、彼の力そのものがシンフォギアとなって装者達に纏わせることが...」

 

弦十郎は若者達が示した可能性に興奮で震えが止まらなかった。

 

「...綺麗」

 

寺島が光に魅せられ呟く。

 

「凄い! アニメみたい!」

 

板場が盛大にはしゃぐ。

 

「一体何が起きてるの?」

 

安藤が眩しさに目を細めながら問う。

 

「分からない...でも」

 

未来が優しく微笑んだ。

 

「でもきっと、素敵なことが起きてるよ」

 

 

 

「信じていましたよ、カズヤさん。あなたなら、皆さんを輝かせる希望の光になることを」

 

物陰から光の柱を見つめる緒川が、自分の目に狂いはなかったと満足気に頷く。

 

 

 

 

 

光の柱の中から、金の獅子と表現すべき姿の男──カズヤがゆっくり歩み出てきて、フィーネは知らず後ずさりする。

 

「これが俺の、いや、俺達の最終形態」

 

カズヤに続き、白を基調とした姿の歌姫達が姿を現す。

 

「この姿は、アタシ達の歌にカズヤが応えてくれた証」

 

奏が槍を構え、

 

「更に言えば、あたしらの歌がカズヤの力になる証」

 

クリスが両手にボウガンを持ち、

 

「カズヤがくれた、新しく生まれ変わった私達のシンフォギア」

 

翼が刀を抜き、

 

「シェルブリットだああああああああっ!!!」

 

響が天まで届けと空を仰ぎ大声で叫んだ。


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