カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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これにてG編完結!


Curtain Call

『いやー、まさかあの"シェルブリットのカズヤ"が実は顔見知りとはね。彼とはあんまり話したことないんだけどさ、何度か会ったことはあるんだよ。ツヴァイウィングのマネージャーの助手を兼ねたボディーガードだからさ、テレビ番組で二人と共演する時に、収録前に二人の控え室に挨拶に行った時が彼との初邂逅だったかな? 番組の収録中はマネージャーさんと一緒に他のスタッフに紛れてスタジオ入りしてるしね。だから彼のこと知ってる人って、テレビとか音楽業界だと結構たくさんいると思うよ? ツヴァイウィングがいる所にはいたからね。あとほら、風鳴さんがネットで公開してるバイクの動画。あの動画の撮影係でマネージャー補佐兼ボディーガードのKさんって、どう考えても彼でしょ? だとしたらネット上でも彼って有名人なんじゃないの?』

 

テレビのリモコンを操作してチャンネルを変える。

 

『私はあなたのもの。あなたの意思が私の意思。私はあなたと共に生き、あなたと共に死ぬ!! あなたに何処までもついて行く!!!』

 

慌ててテレビのリモコンを操作して電源を切り、手元のスマホを弄る。

テキトーな単語を入力してネット検索してみた。

 

 

謎の人物『シェルブリットのカズヤ』について語るスレ改め、翼ちゃんのバイク沼の犠牲者兼世界を救った英雄のKさんについて語るスレ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

新しいスレ立て乙

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

乙、つーかスレ名www

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

乙乙、ていうか世界を救ってもバイク沼からは抜けられないのかwww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

えぇ......

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

バイク沼からは逃げられない!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

俺はマリアさんとチューしたこと絶対に許さん、絶対にだ!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

それは世界を二回ほど救ってから言おう

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

マリアさんからチューしたんだよなぁ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

現在Kさんについて分かってること

・約六年ほど前から人知れずノイズと戦い、世界中でたくさんの人の命を救っていた

・マリアさんは救われたその内の一人

・奏ちゃん翼ちゃんのマネージャー補佐兼ボディーガードをしていることから、二年前のライブのノイズ事件にも関係していたらしい

・マリアさん曰く、ルナアタックの際、世界を救ったらしい

・QUEENS of MUSICにてノイズを用いたテロ?に対し、ノイズを一瞬で殲滅し観客に一人の死者も出さず避難させる

・マリアさんとチューする→落下する月軌道修正して世界を救う(NEW)

 

らしいばっかですまぬ

漏れがあったらすまぬ

 

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

こうして並べると壮絶だな

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

まずノイズ倒せる時点でスゲー

ノイズって今の兵器の類いが効かないのに

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

昨日の放送とQUEENS of MUSICの動画何度見てもよく分からんのだが、どういう理屈で飛んでるの?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

背中にプロペラみたいに回るの付いてただろ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

プロペラみたいに回ることは回るけど、あの金属片回すだけでどうして飛べるんだよ、そもそもヘリのプロペラだってちゃんとした形で地面に平行な状態で回って揚力得てんだぞ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

きっと謎の技術...回るやつから銀色のなんか、ロケットブースターみたいなものも噴射してたし

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

たぶん国家機密レベルの技術なんだろうな

ノイズ倒せるし

Kさんもマリアさんが暴露するまで存在そのものが秘匿されてたしな

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

しかも何故か光る

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

Kさんご本人が仰ってただろ! 輝けって!! 光輝くと月の欠片すら粉砕できるパンチ打てるようになるんだよ!! きっと!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

ライブ会場も光輝きながらパンチで吹っ飛ばしたな

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

あれの被害総額億いったみたいよ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

人の命よりは安い...ヤスイ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

熊五郎パンチ!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

シェルブリットバーストだ! 二度と間違えるな!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

右腕をシェルブリットって呼んでて、必殺技のパンチがシェルブリットバーストで、だから通称が"シェルブリットのカズヤ"か...厨二病ここに極まれり、って感じだが嫌いじゃないわ!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

今海外のスレとかSNSとか日本と同じでお祭り騒ぎだぞww

『SHELL BULLET BURST!!』とか『KAZUYA』がトレンド入りしてるしwww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

私は一向に構わん!! Kさん、もっと輝いていいのよ!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

だからどうやって輝いてんのよKさんは

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

テンション上がると輝くんだよ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

謎の技術何処行ったww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

埴輪陰陽陣!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

誰だ今の?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

何だ今の?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

自分達だけ逃げようとしてた政治家とか特権階級の連中、死ねばいいのに

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

Kさんとマリアさんの発言から察するに、マリアさんが世界中からテロリスト扱いを受けてでも実行したそもそもの原因って、正規のやり方、つまり特権階級の金持ちとか国家や政府(特に米国)とかから協力を得られない、むしろ命を狙われる状況だったみたいね

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

やっぱ特権階級の人間は信用ならねー、自分達のことしか考えてねーじゃん

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

あのライブの後、マリアさんはどうやってKさんの協力を得られたんだ? 確か殴られてただろ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

肘打ちと裏拳食らってたw

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

あの絵面シュールだったわwww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

詳しくは知らんけどテロリストだとか敵だとか認識されてたのが、なんやかんやあってチューする仲になったんだよ! 言わせんな恥ずかしい!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

マリアさんも本当はKさんに会う為だけに世界を救う計画に乗ったって言ってたし

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

六年前から恋焦がれてたとかマリアさん乙女やな

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

あんなん俺でも掘れるわ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

おい、それは誤字か、それともホモか

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

悪いがのんけ以外は帰ってくれないか

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

愛で世界を救った女

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

冗談でもなんでもなくマジなんだよな、愛で世界を救ったって

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

まるで映画みたいだったけど、現実は映画を遥かに超えてるっていう

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

二人がチューしてるの見て感動したの俺だけ?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

安心して、私泣いてた

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

僕も

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

自分も

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

拙者も

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

わいも

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

某も

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

わしも

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

わたくしも

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

朕も

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

やっぱ皆そうだよなー

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

鼻から水が止まらなかった

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

それただの花粉症

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

もしかしたら俺だけかもしれんが、マリアさんが歌ってる時、不思議な感じがしたんだが、あの感覚は一体何だったんだろう?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

まさかお前もか? 俺も不思議な気分だった

歌詞知らないのに歌ってたし

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

そうそう! 歌詞知らないのに歌ってたんだよな!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

俺も歌ってたぞ!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

え、まさかあれって皆も? うちの家族だけかと思ってた

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

渋谷のスクランブル交差点にいたけど、あん時皆歌ってたぞ!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

マジかよ!?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

マリアさんのKさんに捧げる愛の歌スゲー!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

そういえばマリアさんが歌ってる最中Kさんめっちゃ光ってたな、光強過ぎて二人共見えなくなるし

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

光が消えるとそこにはウェディングドレス姿のマリアさんがいて訳分かんなくなったぞ...

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

あれホント意味不明

でも花嫁衣装のマリアさんが綺麗だったので許す

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

俺も許す

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

あの二人ならもうなんでも許せるぞおい!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

ん?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

ん?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

今、なんでもって言ったよね?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

許せるっ!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

イチャコラしてる二人を見てあまりの尊さに死んだんだが

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

仰げば尊死ニキは成仏してクレメンス

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

クレメンス

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

マリアさんの恥ずかしそうにしつつもKさんに誉められて嬉しそうに笑うの見て俺も死んだぞ、どうしてくれる

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

だから早く成仏しろください

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

まさにお似合いカップル

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

早く結婚して末長く爆発しろ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

いや、あれもう結婚したも同然だろ

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

マリアさんとKさんのツーショットわい好き...好きじゃない?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

しゅき

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

そんなKさんが、一ヶ月前の車載動画で翼ちゃんとツーリング中に大雨降ってきて雨宿りするしないで揉めてんのホント草

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

やめたれwww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

なぜこのタイミングでその話をするwww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

唐突にギャグぶっこむのやめれww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

翼「雨のツーリングも悪くない! このまま目的地までノンストップで行くわよ!」

K「今アホみたいに雨も風も強いから勘弁しろ!」

翼「目的地に着けば凌げるから、大丈夫!」

K「...違う...そうじゃない...俺は今、凌ぎたい...」

翼「♪~♪~♪(ご機嫌な感じで歌い始める)」

K「...どうして...どうして...」

 

なお二十分後に雨宿りした瞬間に晴れる天気

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

相変わらずの犠牲者っぷりww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

Kさんの声だけのんびりボイスだから、そこがまた哀愁を誘って笑える

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

都内から佐世保まで片道千二百キロ超えの丸一日ぶっ続けで走りっぱのツーリングも笑えたな

K「尻が痛い」

翼「バイクと一体となれば痛くない!」

K「は?」

翼「つまりバイクと合体するの!」

K「できねぇよ! できてたまるかボケ!!」

翼「なんでできないの!?」

K「なんでできると思ってんだ!? 言え!!」

翼「♪~♪~♪(唐突に歌い出す)」

K「歌って誤魔化すんじゃねぇ!!」

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

草しか生えない

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

こ れ は 酷 い

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

草草の草で最早森

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

そんなんだから歌の上手いボケ芸人って言われるんだよ翼ちゃん......

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

マリアさんと比べた時のこの落差よww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

どうして同じ人気歌手なのに、マリアさんといる時と翼ちゃんといる時とでこんなにキャラと扱い変わるんだよKさんはwww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

そらプライベートと緊急時やし...

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

ギャップ凄すぎwww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

世界を救った英雄をフリーダムにバイクで振り回す翼ちゃん...あれ? そういえばこの二人付き合ってないの?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

付き合ってないはず...あれ? ホントに付き合ってないのか?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

動画内の会話の気安さからして、明らかに仲良いよな

翼ちゃんも明らかに声のトーンとテンションがテレビに出てる時とかライブ中とかと違うし

仲良く夫婦漫才みたいなことしてるし

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

でもマリアさんとチューしてたやん!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

ってことは自分のボディーガード連れ回してるだけっぽい...

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

まさかのNTR?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

それだと翼ちゃんが可哀想

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

翼ちゃんしくしく

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

なんだかんだ文句言いつつ自分の趣味に付き合ってくれるぐう聖なボディーガード盗られる翼ちゃん可哀想しくしく...

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

ん? これもしかしてマリアさんのお陰でKさんバイク沼から抜け出せるんじゃね?

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

お前は天才か! スレ名変えなきゃ!!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

むしろ新しいの立て直せ!

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

【悲報】Kさんバイク沼から卒業

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

少なくとも悲報じゃねーよwww

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

翼ちゃんにとっては悲報

 

:名無しの蝦夷野熊五郎

 

 

「...あーあ、すっかり有名人になっちまった...鬱陶しいことこの上ねー」

「それは心中察するけど、どうして私が可哀想な女扱いされてるの?」

 

ソファーに座りゲンナリしているカズヤの後ろから、彼の肩の上に顎を載せ、手元のスマホを覗き込むやたらと肌艶の良い翼が唇を尖らせた。

 

「ネットで不特定多数が勝手に言ってるだけだろ」

「分かってるけど、納得いかない...」

 

スマホをテーブルに置き、手を伸ばし彼女の頭を撫でると、猫のように目を細めて機嫌が直る。

 

「ネットもテレビも昨日のカズヤとマリアのことしかやってねぇ...しかも、世界を救った云々よりも、二人がカップルみたいな関係になったってことが圧倒的に多いな」

 

カズヤの膝を枕にし、仰向けの体勢でスマホを弄りながらソファーに寝っ転がるやたらと肌艶の良いクリスは、苦笑しながらカズヤの顔を窺う。

その時、キッチンからやたらと肌艶の良い響がひょこっと現れた。

 

「ご飯できたよー!」

「「「はーい」」」

 

三人揃って返事をし、ダイニングテーブルに向かい皿や箸の準備を行う為に動き出す。

 

「冷蔵庫にあるものを適当に炒めただけだから、あんまり期待しないで欲しいんだけど」

「いやー、簡単で申し訳ない」

 

おかずを山盛りに載せた皿を手にしたやたらと肌艶の良い未来と、お椀を人数分載せたお盆を手にしたやたらと肌艶の良い奏がダイニングテーブルにそれらを置く。

 

「仕方ねーよ、昨日の今日だし、贅沢言わねー。とりあえず食おうぜ。いただきます」

 

箸を手にしたカズヤが言えば、他の面子も唱和した。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

炊いたご飯に味噌汁、野菜と豚肉の炒め物にたくあん。朝飯というより、既に昼近い時刻なのでブランチだったがあまり気にはならない。

食べながら、先程カズヤが消したテレビを奏が点ける。

映し出されたのはカズヤとマリアのキスしている場面。

チャンネルを変える。

ウェディングドレス姿のマリアが映った。

再度チャンネルを変える。

ネフィリムがカズヤからシェルブリットバーストを食らって粉微塵になるシーン。

またしてもチャンネルを変える。

カズヤがマリアを抱き締めながら歌うように促すシーン。

チャンネルを変える。

ニュースキャスターの質問に対し、芸能関係者やツヴァイウィングと共演したことのある芸能人がカズヤについて答えている。

チャンネルを変える。

専門家か有識者か不明だが、月軌道について何やら難しい内容を説明している番組が映った。

それから何度か繰り返しチャンネルを変えるが、どの局も昨日のことしか放送していない。

 

「何処も同じだねぇ」

 

肩を竦めて奏はテレビの電源を切る。

 

「カズヤ、そういえばこの後出掛けるんだっけ?」

「ああ。弦十郎のおっさんからの呼び出し。日本政府とか国連のお偉いさんが俺に会いたいんだとよ」

「会う、つってもお前もお偉いさんに用があんだろ? お前の望みを叶えられる権力者によ」

 

味噌汁を啜りながら奏が問えば、炒め物を口の中に放り込みながらカズヤが答えて、クリスが口の中でたくあんをポリポリ音を立てつつニヤリと笑う。

 

「でも凄いこと考えるよね、カズヤさん」

「そう? 私は、自身のエゴを具現化するアルター使い、"シェルブリットのカズヤ"らしくて良いと思うけど」

「ある意味、やられたら必ずやり返すカズヤの性分を表したとも言える」

 

響が炒め物を自分の小皿に盛りながら隣の未来に視線を送れば、未来はお茶を一口飲んでから当然とばかりに返し、翼が炒め物をご飯の上に載せて不敵に笑う。

 

 

 

 

 

【Curtain Call】

 

 

 

 

 

マリア達が拘束されてから二週間後。

本日マリアとの面会に来訪したのは、ほぼ毎日のように訪れてくれたカズヤ達ではなく、日本政府と国連の人間という組み合わせだった。

 

「...ご用件は何かしら?」

 

警戒するように硬い表情となるマリアに、面会者達は苦笑を浮かべ、単刀直入に告げる。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、それからキミの妹のセレナ・カデンツァヴナ・イヴ、仲間の暁切歌、月読調の四名は、明日からここを出てとある人物の特別保護観察下に置かれる」

「とある人物の、特別保護観察下? 一体誰の? 明日から? いきなり?」

 

随分と急な話だと戸惑うマリアに、国連の人間が突然大笑いし始める。

 

「な、何よ」

「いや、すまない、他意はないんだ。ただ、彼のことを思い出してしまって...」

「...?」

「"シェルブリットのカズヤ"だ」

 

首を傾げたマリアの疑問に日本政府の人間が答えて、その返答に彼女の目が大きく見開く。

 

「キミ達は明日から半年間、"シェルブリットのカズヤ"の特別保護観察下に置かれる。これは日本政府と国連にて決定されたことだ。覆ることはない」

「どういう、こと!?」

「簡単な話だ。彼が、"シェルブリットのカズヤ"がキミ達の身柄を要求したんだよ」

「...」

 

彫像のように固まったマリアに政府の人間は更に言い募る。

 

「『世界を救う為にマリア達が世界を敵に回したなら、俺はマリア達を救う為に世界を敵に回す覚悟がある』」

「まさか!?」

「彼が我々日本政府と国連に対して言った言葉だ」

「まあ、流石に無罪放免とまではいかない。ならば、特別保護観察下という体で彼にキミ達を預けることとなった。世界を救い国際世論を味方にした彼は今、この世界で最も発言力のある人物だよ」

 

呆然としていたマリアは、やがて目に涙を溜めて、一筋の雫を零す。

 

「カズヤが...カズヤが...!!」

 

詳しい事情はこうだ。

まず今回の事件について、米国の裏事情を知っていたフィーネからの情報、カズヤを捕らえようとして返り討ちに遭った米国エージェントから吐き出させた情報を得た二課及び日本政府は、米国を激しく糾弾。

また、生放送配信された内容──月落下に関する情報隠蔽やその為の動き、何よりカズヤの『米国の特殊部隊やらエージェントやらから殺されそうになったり』という発言により、米国政府は国内外問わず全世界から激しい糾弾を受けることとなる。

これには、世界各地に点在しているかつてカズヤに命を救われた人々──中には政治家や財政界に大きな影響力を持つ者達がおり、彼らがこぞって声を上げたことが少なくない影響を与えていた。

更に言えば、生放送配信されたカズヤとマリアの仲睦まじい姿は、この二人を英雄、救世主として讃えるべきだという風潮が全世界で流れており、追い風となった。

世界正義を標榜していた米国の権威は失墜。米国政府は各国政府から槍玉に上げられ、四面楚歌の中、情報開示と捜査介入を許す破目になり、後ろ暗い真実が明るみになりマリア達への干渉が一切できなくなった。

そして日本政府と国連に突き付けられたカズヤの要求。これが意外にもあっさり通った。要求したカズヤ本人が困惑するほどに。

 

 

 

 

 

だが、これには誰も知り得ることのない事実が隠されている。

マリアがカズヤの為に、カズヤへの想いを込めて歌った『Apple』。

それが世界中の人々を繋ぎ、心を一つにし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして人々は──ルル・アメル達はその状態で見てしまう。いや、魅せられてしまったのだ。カズヤの光と輝き──"向こう側の世界"の力を。

故に、一部の自我が強い者達や特殊な力を持つ者達を除き、カズヤに対して否定的かつ悪感情を抱く存在が()()()()現れにくくなったのだ。

 

 

 

 

 

お好み焼き屋、"ふらわー"。

出入り口の扉には『本日貸し切り』と書かれた張り紙がされていた。

店内では、オレンジジュースが入ったグラスを片手にカズヤが立ち上がり、乾杯の音頭を取ろうとしている。

 

「えーっと、長ったらしい挨拶すんのも面倒なんで、とりあえず乾杯!」

 

かんぱーい!! と皆の明るい声が重なった。

グラスとグラスを合わせる音が次々店内に響く。

フロンティア事変と呼称された一連の事件のゴタゴタがある程度片付き、マリア達も無事豚箱から出ることができたので、お疲れ様会及び新たに仲間となる四人の為に親睦会をしようという響の提案により、"ふらわー"を貸し切らせてもらったのだ。

勿論面子はカズヤ、奏、翼、響、クリス、未来のいつもの六人にマリア、セレナ、切歌、調の四人を加えた十名。流石に人数が多いのでいきなり店に行くと迷惑が掛かると思い、前々から電話で貸し切りの予約をした上で。

 

「まさかあんたみたいな女っ誑しの女の敵が、世界を救った英雄様とはね」

「おばちゃん、今まで通り女っ誑しでも女の敵でもいいから英雄呼びだけはやめてくれ。俺はそんなもんになりたくて戦った訳じゃねーし、何より嫌な野郎の面思い出す」

「英雄様、お好み焼きのお代わりいかが?」

「お好み焼きのお代わりはいただくけど精神攻撃は絶対にNO!」

「女っ誑しの女の敵、何食べる?」

「海鮮お好み焼きにトッピングのチーズとお餅でお願いします!」

「はいよー英雄様」

「だからやめてくれその呼び方ぁっ!!」

 

そんなやり取りをカズヤとおばちゃんが繰り広げると、皆がお好み焼きを食べる手を一旦止め、声に出して笑う。

まさにそれは、カズヤが心の底から求めていた皆の笑顔だった。

その光景にカズヤは唇を吊り上げ、笑みを浮かべつつ感慨に耽る。

この瞬間の為に、自分は戦ってきたのだと。

 

 

 

ちなみに、おばちゃんからの英雄呼びという地味な精神攻撃は数ヶ月続いた。

あと、未来との関係が変わったことについてバレた時は、包丁片手に怒鳴られて、カズヤはその時本気で殺されると死を覚悟したのはまた別の話。

 

 

 

 

 

日本政府と国連、マスメディアや世界中の人々などの、様々な思惑を経て救世の英雄として有名になってしまったカズヤであったが、普段の生活に何か特別変化がある訳ではなかった。

精々、外出する時は服装を変え、特注で作ってもらったストレイト・クーガー仕様のワンレンズタイプのサングラス──ピンク色は逆に悪目立ちするので色は黒──を掛ける程度だ。

有名になるのも、英雄と呼ばれるのも何一つ嬉しくない。富も名声も興味がない。カズヤは根が小市民なのだから。自分が知らない人間に自分のことを一方的に知られているというのは、気持ちのいいものではない。歌手やってる三人への尊敬度がここ最近で爆上がりだ。

やることもあまり変わらない。相変わらず緒川と共に行動している。

懸念していたパパラッチの類いは、国から圧力を掛けているのに加えて、諜報部の黒服を着た怖いお兄さん達が頑張ってくれているらしいので、未だに被害に遭っていない。

ただ、ツヴァイウィングのボディーガードとして行動する際に、話し掛けられる頻度が増えた。テレビ局のプロデューサーやディレクターなどからだ。彼らはどうしてもカズヤ本人を出演させた特番を組みたいらしい。

最初は丁寧に断っていたが、あまりの頻度の多さに辟易し、ムカついたので──

 

『うぜーからテレビ局に行くのもうやめるわ』

 

これにツヴァイウィングの二人が腹を立て、テレビへの露出をやめてしまう。そもそもカズヤについて根掘り葉掘り質問されることは、二人にとっても悩みの種だったとか。

更にこの腹いせに緒川がツヴァイウィングの公式サイトでことの経緯を拡散(ファンや視聴者に対しテレビ出演をしなくなった事情説明を兼ねた謝罪と本人は言い張る)すると、テレビ局に苦情が殺到。

苦情はスポンサーに飛び火し、スポンサー契約を打ち切られてテレビ局は青息吐息という事態にまで発展。

自分の行為一つが、ここまで大事になるとは流石に思っていなかったカズヤであったが、どいつもこいつもそんな子ども染みた怒り方すんなよと思いつつ、でもやっぱどうでもいいやとすぐに忘れた。

ツヴァイウィングが所属する事務所の小滝興産株式会社(当然二課が用意した実在しない企業)にマリアが移籍することになったのだ。

切っ掛けはカズヤが一言「そういや歌手続けないのか? 俺、マリアの歌好きなんだけど」と何気なく口にしたら、マリアが「歌手続ける!!」と叫んで即復帰が決まった。

 

 

 

二ヶ月後。

マリアの復帰ライブを兼ねた、ツヴァイウィングとマリアのコラボライブのやり直しが開催。

なお、以前のライブを潰してしまったことへのお詫びとしてのチャリティーライブという側面もある。

そのライブ開始前のマリアの控え室にて。

 

「カ~ズ~ヤ~♪ カ~ズ~ヤ~♪」

 

カズヤに膝枕をしてもらいつつ頭を撫られながら、マリアが上機嫌に猫なで声を上げて甘えていた。

 

「...マリア姉さん、そろそろ準備してください!」

 

セレナがこめかみに青筋を立てて苦言を呈するが、マリアは聞く耳持たない。

 

「あ~と~ご~ふ~ん~」

「五分前と十分前に同じこと言ったじゃないですか! ほら、お客さん満員なんですから早く準備してください!!」

「やーだー! もうちょっとカズヤにくっついてたーいー!!」

「何我が儘言ってるんですか! カズヤさんもマリア姉さんを甘やかさないでください!!」

 

セレナが怒声を上げてマリアに掴み掛かり、カズヤから引き剥がそうとするが、マリアは駄々っ子のようにカズヤの腰にしがみついて離れようとしない。

その時、控え室のドアが外から乱暴に開け放たれた。

 

「いつまでちんたらしてんだ! 早く準備しろや!」

 

ライブ用の衣装姿で奏と翼が乱入。奏が怒りで顔を真っ赤にしながらセレナを手伝い、マリアを引き剥がす。

 

「やーだー! カズヤから離れたくなーいー!! たくさんの人の前で歌うとか緊張するのー!! カズヤがもっと撫で撫でしてくれないと緊張解れないー!!」

 

奏とセレナに取り押さえられたマリアが、幼児退行しつつジタバタもがいている隙に、翼がカズヤの隣に座ると勝手に膝枕してもらう。

随分前から膝枕兼頭撫で撫でマスィ~ンと化していたカズヤは、無言のまま膝の上の翼の頭を撫でる。

 

「分かってたけど、これ、良いよね...今にも寝れそう」

「...いや、寝るなよ。もうすぐ出番だろ」

 

瞼を閉じて本当に寝ようとする翼に、呆れたようにやっと口を開いたカズヤの声に視線が集まった。

翼を起こし、立ち上がる。

 

「ほら、お前らそろそろ気合い入れろ。そんでバシッと決めてこい。ライブ楽しみにしてんのは客だけじゃなく俺もなんだからよ」

 

この言葉にあからさまな反応を見せる三人を控え室に置いて、カズヤは自分の為に用意されたVIP席へと足を向け歩き出す。

背後から気合いの入った「えいえいおー!!」という掛け声が響いてきて、これでライブは大成功間違いなしだなと確信したカズヤだった。

 

 

 

「カズヤ、どうしてマリアに歌手活動を再開するように促したデスか?」

 

もう間もなく始まるというタイミングで席に着くと、既に右隣に座っていた切歌が尋ねてきた。

 

「前のライブん時、少なくとも俺には、歌ってる時のマリアが楽しそうに見えた。だったら、楽しむべきだと思ったんだよ。歌手引退なんて、それこそいつでもできるしな」

「...カズヤ、もしかして前のライブで、マリアのこと凄い見てた?」

 

左隣の調が首を傾げるので、カズヤは以前のことを思い出すように言う。

 

「そこは観察してたって言って欲しいぜ。控え室で歌を捧げるだ、終わったらディナーに誘うだとか言われたし、マリアが"シェルブリットのカズヤ"のことを知ってた可能性があったし...それに、ライブそのものは結構楽しみにしてたからな」

 

彼の言い分に切歌と調は互いに顔を見合わせてから、顔を綻ばせた。

音楽が流れ、曲が始まり、会場全体は歓声に包まれる。

ステージの上に三人の歌姫が登場し、歌い出す。

それに誰もが耳を傾ける。

心の底から楽しそうに歌う三人を見て、カズヤも心の底からライブを楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから季節は移ろい──

場所はロンドン。時刻は夜。

 

吸収(アブソープション)、起動」

 

そんな言葉と共に人の形をしたそれは、()()()()()()()()()()()を掲げた。

カズヤの全身から放たれていた金の光が、奏と翼とマリアを包んでいた輝きが、中身が空な砂時計に吸われていく。

 

「...吸収(アブソープション)だと!? まさかテメー!? 俺の、"向こう側"の力を...」

「向こう側の力? あなたの力の名称でしょうか? それはよいことを聞きました」

 

砂時計はカズヤ達から奪った光で中身が満たされ、それを見た敵は「おおっ...!!」と感嘆の声を漏らす。

 

「まさかマスターに用意してもらったこれが、たった一度の起動で満たされるなんて...これなら今後は想い出を集める必要もなさそうですね」

 

全身から力が抜けてしまい、思わず片膝を突きそうになって、咄嗟に右拳を路面に突き立てて体を支える。

そんなカズヤを見下ろしながら、敵は懐に砂時計を仕舞い、剣を構えた。

 

「..."シェルブリットのカズヤ"...あなたはやはりマスターが仰る通り危険な存在です。マスターの為にも、ここで死んでもらいます」

 

言うや否や、人間離れした速度で踏み込み剣を振り下ろしてきた。

 

「「「カズヤッ!!」」」

 

背後で三人の悲鳴が上がる。

ロンドンの夜に、剣閃が鈍く瞬く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

──北海道観光協会公式アカウントのSNSより。

 

『帰ってきた熊五郎!』

 

QUEENS of MUSIC以来行方不明になっていた我らがマスコット、蝦夷野熊五郎が北海道に帰ってきました!

しかもしかも、世界を救った英雄として皆さんご存知"シェルブリットのカズヤ"さんこと君島カズヤさん、その相棒のマリア・カデンツァヴナ・イヴさん、日本が誇る歌姫ツヴァイウィングの天羽奏さんと風鳴翼さん、という超豪華有名人の四名を引き連れて!!

その際、カズヤさんより以下のメッセージをいただきました。

『熊五郎にはホントにお世話になりました。勝手に借りて、おまけになかなか返すことができず本当に申し訳ない。でもいざ返すとなると、部屋の一角を占領してた熊五郎が家からいなくなるのはちょっと寂しい...北海道には、いずれプライベートで熊五郎に会いに来たいと思います。あと、ついでだけど来週末にマリアとツヴァイウィングのコラボライブをやり直しするんで、暇な人は是非どうぞ』

 

アップされた写真には、シェルブリット第二形態を発動させて熊五郎と肩を組み右手でピースサインをするカズヤと、その手前で中腰で同じようにピースサインをする奏と翼とマリアの三人が映っていた。

 




これまで読んでくれた方、ありがとうございました。
今回のお話でG編は終了とさせていただきます。
また、ヒロイン達がG編で漸く全員出揃ったことに、謎の安堵をしておりますw
いやー、G編は実は難産でした。ここをこうしたらああなる、けどこちらをこうしなければこうならない、という感じでどんな形に話を持っていこうか日々悩んでおりました。
今回のお話も、はっきり言って悩みました。どんなエピローグにしようかと。
で、主人公はついに全世界に身バレをしてしまうので、ならばあえて一般の人達の反応とかを主に書こうと思ってましたが、蓋を開けてみれば某匿名掲示板みたいなのをつらつら書いてるだけという...自分の未熟さ加減が嫌になりましたね。

皆様からいただく感想や評価も大変励みになりました。
ただまあ、投稿すればするほどこの作品の平均評価が下がり続けた時は心臓に悪かったですねwww
何が悪かったんだろ? やっぱりハーレムものは嫌われやすいのか? 話の大筋が原作アニメとあんま変わらないのはやっぱりつまらないのかな? 主人公を活躍&マンセーし過ぎか? 描写くどいのはカットすれば良かったか? と一時期はモチベーションに関わるくらい悩んだりもしました(ノミの心臓かよwww)。
でも今は大丈夫です。書きたいもんを書くのが二次創作、自己満足できたやつが勝ちなんです。他人の評価なんて気にしたらダメなんですよ......いつも気にしてるけど。

次は閑話をいくつか挟もうと思っております。
ヒロインが一気に増えたから書くのが大変だなぁ(白眼)


最後に、GX編で無常さんが出てくる訳じゃないんで、予告で期待した人ごめんなさいね(汗)

この作品のR-18版は......?

  • 書け!
  • そんなことより早くGX編を書け!
  • そんなことよりギャグ多めの閑話を書け!

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