カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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前回の後書きでちょっとだけ愚痴というか泣き言っぽいこと書いたら、皆さんから暖かい声援をもらえて涙ちょちょ切れた作者です。
ありがてぇありがてぇ...


しないフォギア風な閑話G1

【密約】

 

 

「カズヤくん、来週末の夜に時間をもらえないか? キミと会って話をしたいという者がいる」

 

日課の訓練を終えてシャワーを浴び、服を着てコーヒー牛乳を飲んでいると、弦十郎がやってきてこんなことを尋ねてきた。

 

「俺に会いたいって、誰?」

 

飲み終わった空き瓶を自販機横にある回収ボックスに入れ、質問に質問で返す。

 

「風鳴八紘。俺の兄貴で、翼の父親だ」

「ああ、翼の腹違いの兄貴の」

 

あっけらかんと応じるカズヤに弦十郎は大きく目を見開き、大声を上げてしまう。

 

「知っていたのか!?」

「顔は知らねーが、翼本人から聞いたぜ...あれは確かルナアタックの後の、俺がバイクの免許取って初めてのツーリングで翼と二人で外泊した時だから、もう随分前だな」

 

指折りしつつ思い出しながら語るカズヤの姿に、弦十郎は何処か安心したように溜め息を吐く。

 

「...翼は、もうそこまでキミに話しているんだな」

「穢れた血とか呪われた一族とかなんとか聞いたが、知ったこっちゃねーよ。翼は翼で、おっさんはおっさんだろ。俺は特に気にしねーって」

 

ニッと笑い、ズボンのポケットからスマホを取り出し、

 

「来週末だったよな? 少し待ってくれ。スケジュール確認するから」

 

誰かに電話をし始めた。

 

(スケジュールの確認に電話? 一体誰に?)

 

弦十郎の疑問は数秒も経たず氷解する。

 

「未来、俺だ。俺の来週末って空いてたっけ? ......それが弦十郎のおっさんから時間欲しいって言われて......土曜の夜はダメだけど日曜の夜なら平気? 分かった、サンキュー...来週末、日曜の夜ならいいってさ」

「......それはありがたいが、どうして未来くんがカズヤくんのスケジュールを管理しているんだ?」

 

電話を終えて都合がつく旨を伝えてくるカズヤに、どういう顔をしたらいいのか分からないといった感じ困惑している弦十郎。

 

「つってもプライベートの予定だけだぜ」

「プライベートだから不思議なんだが...」

 

事も無げに応じる彼の態度に、逆に自分が間違っているのかと不思議な気持ちを味わう。

 

「カズヤくん」

「ん?」

「もしかして尻に敷かれてないか? 未来くんに」

「そう見えるなら、そうかもしれねーな」

 

楽しげにタハハと笑うカズヤだったが、一緒に笑っていいか悩み所だ。弦十郎は引きつった笑みしか返せない。

...内心、頭を抱えたい気持ちでいっぱいだ。

目の前の青年は、これまでの功績も、胸の内に秘めた熱い信念も、誰かの為に力を尽くせる人格も、何一つ問題がない。

唯一の欠点、いや、むしろ汚点というべき女性関係を除いて。

八名もいる装者の内、六名はカズヤの女を自称して憚らないし、先程の電話相手である未来ともそういう関係だ。

おまけに翼もカズヤの女を自称する者の一人だ。

このまま、自身の兄にして翼の父親(血縁上は兄だが)に当たる八紘に会わせていいものだろうか。

世界を救った英雄というこれ以上ない評判の裏で、彼はとんでもない爆弾を抱えていた。もしこれが世間に露見すれば大炎上待ったなしである。

本部内での不名誉な渾名も相変わらず、というか悪くなる一方だ。ちなみに最新の渾名は『殴り倒した女を自分のものにするクズの王様』。大いに語弊がある言われようだが、悲しいことに間違ってない、というより事実なので余計に(タチ)が悪い。まず間違いなくそれらの悪名は兄の耳に入っているだろう。

これからのことを思うと胃が痛くなる弦十郎だった。

 

 

 

 

 

で、当日。

緒川が運転する黒塗りの高級車に弦十郎と共に乗せられて向かったのは、いかにも高級そうで老舗っぽい料亭。

和服を着た女性店員の案内で、いかにも政治家とか金持ちとかが密談に使ってそうな個室に通される。

到着が早かったのか誰もいないので、勝手に座って胡座をかきながらスマホを弄りつつ待つ。

カズヤの隣に緒川が正座し、緒川の向かいに弦十郎が胡座をかく。

 

「...」

「...」

「...」

 

誰も一言も喋らない。

カズヤと八紘が対面してどのような会話がなされるのか、弦十郎と緒川は僅かに緊張していた。

やがて──

 

「待たせてすまない」

 

静寂を破る渋い声が待ち人の到来を告げる。

仕立ての良さそうなスーツに身を包んだ、冷徹なイメージのある眼鏡をかけた男性。

 

「カズヤくん、紹介しよう。俺の兄貴で翼の父親、風鳴八紘だ」

 

弦十郎が立ち上がり紹介するので、カズヤも立ち上がる。

 

「風鳴八紘だ。君島カズヤくん、いや、"シェルブリットのカズヤ"と呼んだ方がいいかな?」

「そっちは長いから君島でもカズヤでも呼び易い方で呼んでくれ...つーか、あんた確か俺がマリア達の身柄要求した時、政府の連中ん中にいたな」

 

差し出された手に応じて握手する。

 

「どうやら顔を覚えてもらっていたようだな」

「翼の親父さんならあん時声掛けてくれりゃぁいいのに...なるほど、俺の話がやけにスムーズにいくと思ったら、そういうことかよ。おっさんも人が悪いぜ」

 

肩を竦めてカズヤが弦十郎に視線を向けると、彼はバツの悪そうな顔をして「すまん」と一言謝った。

 

「ところでカズヤくん、キミは酒はイケるクチかね?」

「そこそこイケるぜ」

 

八紘の質問に即答する。

 

 

 

一時間後。

 

「カズヤくん、見てくれ。これが翼の七五三の時の写真だ。当時はまだ五歳でな...可愛らしいだろう」

「おお、可愛いな。翼にもこんな時期があったのか。こんな可愛い女の子が、今じゃすっかりバイクバカの歌が上手いボケ芸人だからな。時間の流れを感じる...」

 

酒を飲み、料理を食べながら、八紘のスマホが映し出す写真を見ながら笑い合う二人。

肴にしているのは主に翼の話なのだが、それで問題なく会話が弾み意気投合しているところを見るに、カズヤと八紘の相性は悪くないのかもしれない。

 

「なんか、杞憂でしたね」

「ああ。兄貴のことだから、複数の女性と付き合うカズヤくんのことを、不誠実な男として気に入らないと思っていたのだが...」

 

コソコソ話し合う緒川と弦十郎。

蓋を開けてみればすっかり仲良くなってしまった二人である。自由奔放が服を着て歩いているようなカズヤと、お堅い真面目な政府の要人である八紘。水と油みたいな関係なのではと考えていただけに、これは意外な結果だった。

 

「...そんで、俺を呼び出した本当の目的ってやつをそろそろ教えてくんねーか? 何も翼の話で盛り上がろうってだけじゃねーんだろ?」

 

お猪口に注がれた日本酒を飲み干し、目を細めカズヤが切り出せば、八紘は居住まいを正し、真剣な表情となって告げた。

 

「単刀直入に言おう。私は風鳴訃堂の命により、キミを翼の婿として風鳴家に迎え入れる為に来た」

 

突然の内容にカズヤはポカンとしていたが、やがて納得したように「あーはいはい、理解した」と何度も頷く。

弦十郎と緒川の二人も初耳の話ではあるが、風鳴訃堂ならば言いそうだと苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「翼と結婚しろって? 風鳴訃堂が? 翼の意思も確認せず?」

「そうだ。この話はまだ翼も知らない」

「へー」

 

酷く冷めた雰囲気を纏い、獲物に狙いを定めた猛禽類のような鋭い眼差しをするカズヤ。

段々空気が不穏になってきた。

 

「...風鳴訃堂、ね。どうせ俺のアルター能力が目的で、俺の血を風鳴家に入れておきたいんだろ...自分の思い通りにする為なら、身内だろうと道具扱い。話に聞いてた通り、相当イカれてやがるな」

 

表向きは翼の祖父で、実の父親。

風鳴家の忌まわしい出来事云々は翼から聞かされていたが、自分にもついにその手が回ってきたかと思うと、なんというかこう、純粋に面倒臭いという感想が出てくる。

 

「確かにこんな胸糞悪い話、酒飲んでねーとやってらんねーな」

 

皮肉気に鼻を鳴らし、顎に手を当て少し考え込んでから、ふと何か思い付いたのかカズヤは邪悪な笑みを浮かべて口を開く。

 

「もし俺が風鳴家に婿入りするとしても、そっちからお願いしてきてわざわざ婿入りしてやるんだから、風鳴家は俺のもんだよな?」

 

有無を言わさぬ口調で無茶苦茶なことを言い始めた。

 

「そしたら風鳴訃堂なんて老いぼれ要らねーから、叩き出すか。それに逆らう奴も、俺に従わねー連中や刃向かう奴も、俺が気に入らねーと思った奴ら全員纏めて」

「「っ!?」」

 

とても婿入りする人間の発言とは思えない。お家騒動を起こすという宣言に対して、弦十郎と緒川は驚愕と戦慄を覚えて声なき声を上げる。

酒が入っているので飲みの席の戯言と流せるが、カズヤなら本気でやりかねないと思ってしまう。

そして、八紘はカズヤの言葉に唇を吊り上げてニヤリと笑う。まるでその台詞をずっと待ち望んでいたとばかりに。

 

「...キミなら、そう言ってくれると思っていた。やはり私の目に狂いはなかったな」

 

 

 

「...兄貴...何処までが本気なんだ?」

「愚問だな、弦。全てだ」

 

緒川が運転する車に酔ったカズヤが乗り込み、家路に着くのを見送り、弦十郎が兄に問えば即答された。

 

「彼が元F.I.Sメンバー四人の身柄を要求した時、私は彼を初めて直接見たが、確信したよ。この男は大切なものの為なら躊躇なく全てを敵にし、自身の命を賭して必ず敵を排除する類いの人種だと」

 

酒による昂揚だけではない上機嫌な様子の八紘の姿は、弦十郎でもここ数年見たことがない。

 

「だから彼を翼の婿として風鳴家に取り込めと命令された時、天啓が下りた。彼は間違いなく、風鳴訃堂を敵と見なすはずだ、と。お前からも彼の人柄は聞いていたしな」

 

弦十郎は兄の話を黙って聞く。

 

「何より都合が良かったのは、既に翼が彼の女となっていたことと、風鳴家の闇を知っていたこと。ならば、婿入りの話があってもなくても、遅かれ早かれこうなっていただろう」

「最初からカズヤくんを風鳴家の事情に巻き込み、利用するつもりだったのか!?」

「理解が遅いな。彼が"シェルブリットのカズヤ"であり、翼と愛し合っている以上、最初から私の預かり知らぬ時点で巻き込まれていた。今日は彼の立ち位置と現状を教えただけだ...それにカズヤくんは私に協力すると言ってくれた」

 

人差し指で眼鏡の位置を直しながら、静かに、それでいて興奮を抑えられぬと呟く八紘。

眼光は鋭く、表情を厳しくした弦十郎は続けて問う。

 

「それで、今後彼を使って具体的にどうするつもりだ? 彼にシェルブリットバーストを撃たせて風鳴家そのものを物理的に消し飛ばすのか?」

「それはそれで実に面白そうだ。風鳴訃堂諸共屋敷とその周囲一帯が地上から消滅してくれたらさぞ痛快だな」

「......彼はその気になったら本当にやる男だぞ」

 

冗談なのか本気なのか判別できない八紘の態度に、弦十郎は眉を顰めた。

 

「まあ、今は特に何もさせはしないさ。風鳴訃堂の動き次第だ」

 

くつくつと笑い声を上げながら、八紘は言葉を紡ぐ。

 

「翼の幸せの為にも、『風鳴家』という存在には消えてもらう。そして風鳴訃堂が何かやらかし、それによってカズヤくんが自ら動いた時が、穢れた風鳴家の歴史に終止符が打たれる時だ...今はただ座して待てばいい」

 

焦る必要はない。

叛逆の為の最凶のカード(切り札)が手に入ったのだから。

 

 

 

 

 

もうすぐ日付が変わる、という時間になってスマホに着信があり、既に布団の中にいた翼は睡眠を邪魔され不機嫌な気分になりながらスマホを手に取る。

 

「もう、誰? こんな時間、に...!?」

 

電話を掛けてきたのは八紘。自身がお父様と呼ぶ存在だ。

不機嫌な気分も眠気も吹き飛び、慌てて出た。

思わずベッドの上で正座してしまう。

 

『すまないな翼。こんな時間に。もう休んでいたか?』

「い、いいえお父様! これから寝ようと思っていたところです! 問題ありません!」

『ふふ、そうか。なら良かった』

 

電話の向こうで八紘が笑っている。

ここで翼は疑問に思う。深夜に突然電話してきて、おまけに上機嫌な声。久しく見たことも聞いたこともない父の様子。

一体お父様に何があったのか? 何の用なのか?

 

『時間も時間なので手短に伝えておく。カズヤくんがお前の婚約者になった』

「.........は?」

『"シェルブリットのカズヤ"だ。他に誰がいる?』

「え、ちょ、ま、ままま待ってください!? いきなりどうしてそんな話が──」

『カズヤくんにも話は通してある。翼のことは任せて欲しいとも言ってくれた』

「なぁっ!!!」

 

急過ぎる話の展開に頭がついていかない。

 

『しかし翼もまだまだ歌手活動を続けたいだろうから、翼が満足するまで待ってくれるとのことだ。ただ、もし妊娠したら、私としては歌手活動は休止してもらうつもりではいる』

「ににににに妊娠!? お父様! まさか私とカズヤの関係を──」

『ではな翼、体には気を付けろ』

「お、お父様待って! 待ってください! まだ切らないでください! まだ話は終わって──」

 

ツー、ツー、ツー。

言うだけ言って、一方的に切られてしまった。

残されたのは、茹で蛸のように顔を真っ赤にし、スマホ片手にベッドの上で正座している翼。

 

「...お父様が...カズヤを私の婚約者に...カズヤもそれを了承している...」

 

親公認。その事実に彼女は歓喜で身震いした。

そのまま呆然としていると、またしてもスマホが着信を告げる。

相手は件のカズヤから。

 

「...もしもし」

 

震えた声で応対すると、心強い仲間であり友であり愛しい男の声が鼓膜を叩く。

 

『よっ、俺だ。すまねーな、いきなりこんな時間に電話して...あのよ、いきなりこんなこと聞かされて驚くと思うんだけど──』

「婚約の話か?」

 

普段と比べてあからさまに歯切れが悪いカズヤの声を強引に遮る。

 

『そうそう婚約。ってあれぇ!? なんでもう知ってんだ!?』

「今しがた、お父様から電話があった」

『...早いな親父さん』

「私も急な話で戸惑っている」

『ですよねー』

 

仲間内で無茶苦茶な奴と評される彼でも、今回の件については思うところがあるようだ。

 

「そのことについて話がしたい。今から会えないかしら?」

『今から!? お前明日学校だろ?』

「明日はサボる」

『サボるってお前...この不良娘』

「堅物で真面目過ぎるとポッキリ折れるって以前から奏に言われてたし、たまにはいいでしょう?」

『ま、そうだな...緒川、一旦車停めてくれ』

 

真面目を絵に描いたような翼が、仕事でもないのに学院をサボるという発言に驚きを隠せないカズヤであったが、今回は事が事なだけにあっさり了承した。

 

『何処で落ち合う?』

「いつものホテル」

『うおい!? ちゃんと話する気ありますかね翼さん!?』

「話はベッドで聞かせてもらう!」

 

翼が何を求めているのか悟り、カズヤは呆れたように溜め息を吐く。

 

『...了解』

「カズヤ」

『あ?』

「今夜は寝れないと思ってね」

『覚悟しとく』

 

最後にそう言って電話が切れる。

それから翼は火照り始めた体に突き動かされるように、手早く外出の為に着替え、変装用の帽子と眼鏡を装着し、玄関から飛び出しリディアンの学生寮から出る。

いやっほーい!! と叫び出したくなる衝動を抑えながら、深夜の街を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

八紘「いつか必ず風鳴訃堂にギャフンと言わせたい」

カズヤ「よし、手伝ってやる」

翼「親公認の婚約者という立場ゲット!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【散髪】

 

 

髪は女の命。この言葉の意味をカズヤは嫌というほど味わったことがある。

例えば、同居人にして家主の奏。彼女は髪の毛の量が非常に多いので、彼女より先に風呂に入らないと、自分の番が回ってくるまで一時間から二時間ほど待つ破目になったりした。

自身の周囲の見目麗しい乙女達は、やはり年相応にお洒落が好きだったりするので、シャンプーはこれでリンスはあれでトリートメントはそれでといった感じで髪に気を遣う場面を目にしたり、ドラッグストアで化粧品を前にうんうん唸っているのを知っている。

ではカズヤはどうなのかというと、やはり男なのでそこらへんは割りとどうでもいいという考え方をしており、女性のように気を遣うようなことはしない。

しかし、時が経てば草木が伸びるように、髪の毛というのは放って置くとどんどん伸びてくるもの。

なので──

それはある日のことだ。

たまたまセレナと二人きりで本部にいた時に話題が出た。

 

「カズヤさん、髪、随分伸びてきましたね」

「ん? ああ、そうだな。そろそろ切るか」

 

指摘されて、前髪を弄り長さを確認してぼやく。

そういえば、目元まで垂れてくる前髪が鬱陶しくて、髪をかき上げる仕草が最近増えたなと思う。

 

「いつも髪を切る時はどうされてるんですか?」

「駅前の千円カット。美容院なんて柄じゃねーし、髪切るだけならなるべく安いとこで済ますようにしてる」

 

大して重要視していない事柄にはなるべく金を掛けたくない男、それがカズヤだ。

 

「それに、今更髪型を変える気はしねーんだ。だってアルター発動させれば嫌でも髪型変わるしな」

「うふふ、そうですね」

 

屈託なく笑う彼につられてセレナも微笑む。

普段下ろされている髪は、アルターを発動させればヤマアラシのように逆立つ。

その変化を実は楽しんでいるらしいことをセレナは感じ取った。

その時、彼女はあることを思い付く。

 

「もしカズヤさんがよろしければ、私が髪を切りましょうか?」

「セレナが?」

 

 

 

レセプターチルドレンとして施設で暮らしていた頃は、美容院なんて行ける訳もないし、それより前の難民生活時代はなおのことだ。

その為、髪を切ったりする時はマリアがやってくれたり、自分がマリア達にやってあげていたとのこと。

 

「だから少し自信があるんです」

 

そう語りながらテキパキと椅子を姿見の前へと移動させ、床屋さんでよく見る道具──散髪ケープや鋏、ヘアブラシなどを準備するセレナ。

道具一式はほとんど近所の百円ショップなどで揃えたと言う。曰く「日本の商店街って色んなものがたくさん揃っていて凄いですね!」と。

時は話をしてから数日後。場所はマリアとセレナと切歌と調が四人で住む部屋。ちなみにカズヤと奏とクリスが暮らすマンションと同じで、同じ階数の部屋だったりする。

これは四人が名目上、カズヤの特別保護観察下に置かれていることにより、住む場所はなるべく彼の近くで、というのが反映された結果だったりした。

 

「ではどうぞお客様。こちらにお座りください」

「お、おう」

 

テンションが高い彼女に促されるまま、カズヤは姿見の前に座った。

服の上から散髪ケープを掛けられる。

 

「全体的に短めにすればよろしいでしょうか?」

「そんな感じで頼む」

 

楽しくなってきたのかセレナが鼻歌を歌い出す。

それに耳を傾けながらカズヤは目を瞑った。

霧吹きで僅かに髪を湿らせ、ヘアブラシで髪全体を梳かし、長さを確認してから鋏でチョキチョキ音を立てながら髪を切る。

意外にも迷わず大胆に鋏を動かすセレナに、自信があるのは本当なんだなと少し安堵した。

実は変な風に失敗したら、丸坊主にでもしようと悲壮な覚悟を抱いていただけあって、自信満々な鋏捌きはとてつもない安心感を与えてくれた。

 

(あ、やべー、なんか眠くなってきた...)

 

安心したら睡魔が襲ってくる。

セレナの鼻歌と鋏の音が心地良くて、カズヤはそのまま眠ってしまった。

 

 

 

「できましたよカズヤさん! どうでしょう? 以前よりちょっと短めですけど私的には百点満点で凄く格好良い......」

 

いつの間にかカズヤが寝ていることに気づき、口を閉じる。

自分の熱中具合に少し恥ずかしさや呆れを感じながらも、起こさないように静かに散髪ケープを外し、小さな箒で服に付いた髪などを落とし、床を掃除して使用した道具の後片付けを行う。

それらが終わる頃になって、僅かに身じろぎしてからカズヤが目を覚ました。

 

「......おお、短くなってる」

 

姿見で確認した自身のすっきりした髪型に満足している様子の彼に、背後から近づき鏡の中の顔を覗き込む。

 

「いかがですか?」

「良いね。これからは駅前の千円カットじゃなくてセレナに頼んでもいいか?」

「え!? いいんですか?」

「ああ。正直いつも行くとこより上手いと思うぜ。セレナが面倒じゃなけりゃ、今後はお前にお願いしたい」

 

予想だにしていなかった高評価を受け、セレナは両手で自身の頬を挟み、喜びでニヤけそうになる顔を必死に隠す。

 

「カズヤさんがそこまで仰るなら、喜んで」

 

こうしてセレナは、カズヤの髪を定期的にカットすることになった。

 

「ところで髪切ってくれたお礼になんかお返しできればと思うんだが、俺にやって欲しいこととかあるか?」

「...そうですね、じゃあ、鋏などの道具を買った時に美味しそうなランチをやってるお店を見つけたので、これから二人で行きませんか?」

 

お礼がしたいと言われて、彼女は少し前から気になっていたお店で一緒にランチをしたいと要望。

彼の答えは当然決まっている。

 

「分かった、ランチだな? 折角だし奢るぜ」

「でもそれだと千円カットよりお金掛かっちゃいますよ?」

「いいっていいって。気にすんな」

 

髪を切る程度のことにはあまり金を掛けたくないが、善意で自分の為に何かしてくれる大切な者には湯水のように金を使うことに躊躇しない。

二人はその後、とても楽しく充実した時間を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

セレナ「肉欲に溺れた翼さんとは違うんです、翼さんとは」

翼「ほう、言ってくれる...ではその後そういうことは一切なかったと断言できるな?」

セレナ「♪~♪~(唐突に『Apple』を歌い出す)」

翼「歌って誤魔化すな!!」

セレナ「人のこと言えない癖に!!」

翼「その台詞、そっくりそのままお返しする!!」

 

 

この作品のR-18版は......?

  • 書け!
  • そんなことより早くGX編を書け!
  • そんなことよりギャグ多めの閑話を書け!
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