カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした 作:美味しいパンをクレメンス
【熊五郎を返却しに北海道に行こう】
着ぐるみのクリーニングを専門に取り扱う業者があるとネットで見つけ、愛車『クーガー号』の助手席に未だ返却できていない蝦夷野熊五郎を乗せ、その業者の住所へと向かう。
到着後、事前に電話予約をしていた君島ですと名乗り、受付を終える。
業者の方々は、熊五郎とカズヤの顔を何度も交互に見て、目を白黒させながら「え? マジ? 本物? シェルブリットのカズヤ?」と非常に驚いた様子だったので、曖昧に肩を竦めて「さあ? どっちでしょ?」とテキトーに応対して帰宅した。
それから二週間後。
預けていた熊五郎が借りた時よりもピカピカになったことにご満悦になったカズヤは、早速弦十郎と緒川に北海道観光協会に返却したいと打診。
「フロンティア事変からそれなりの時間が経過したし、今週末にでも返却する旨を先方に連絡しておこう」
あっさり了承されるが、ここでカズヤは待ったを掛けた。
「こういうのはよ、借りた本人が直接出向いて返却するのが筋ってもんじゃねーのか」
「それはカズヤくんが個人的に北海道に行きたいだけだろう?」
「美味しいものがたくさんありますからね、北海道」
魂胆もろバレだ。
「分かってんなら行かせてくれ! お土産たくさん買ってくっから!!」
懇願するカズヤの姿を見て、弦十郎は緒川と顔を見合せ腕を組んで思案に耽る。
フロンティア事変以降、ノイズの出現は皆無。幸い、カズヤの力を必要とするような大きな事件や事故の類いは現在起きていない。
「分かった。ただ、行って帰ってくるだけでは折角の北海道なのに味気ないだろう。いっそ旅行を兼ねて行ってくるといい」
「いいのか!? やった北海道だぁぁぁ!!」
弦十郎の許可を受け、思わず叫んでガッツポーズ。
持つべきものは話の分かる上司。
そこへ──
「聞いたデスか調。
「
一日に一度は必ず
その相棒にして古代の巫女フィーネの魂を宿す少女、調。
カズヤは厄介な連中に見つかったと言わんばかりに顔を顰めた。
「お土産買ってくるから大人しく勉強して待っとけ。来年度からリディアンに通うんだろお前ら。だいたい、仕事で北海道行くんだからな、俺は」
「嘘デス! 今旅行を兼ねてって言ってたデスよ!! というか、カズヤにだけは勉強に関してとやかく言われたくないデス!!」
「北海道に行けるってガッツポーズしてた。それに勉強については、学校に行く気ゼロで学歴もゼロのちゃらんぽらんに言われたくない」
どうやら言い逃れは無理らしい。というか調が地味に毒舌だ。言葉の刃が心に刺さる。
「北海道、楽しみデスねー調!」
「うん、後で美味しいものをチェックしなきゃ」
顔を見合せ笑い合う二人。どうやらついてくる気満々だ。
「早速未来さんに連絡するデス」
「カズヤのスケジュール調整してもらわなくちゃ」
「...もしもし未来さん! 今度のお休みにカズヤが皆を北海道につれてってくれるみたいデス!!」
おもむろにスマホを取り出し未来に連絡をする切歌に、最早反論の余地を失ったカズヤは「ま、いっか」と小さく呟いた。
快晴に恵まれ、不運にも飛行機がハイジャックされることもなければ爆破テロに巻き込まれて墜落することもなく、無事に一行は北海道の大地に足を踏み締めた。
「着いたぜ、北海道! 北海道は──」
「「でっかいどう!!」」
空港から出てすぐに両腕を広げて声を上げるカズヤと、それに続く響と切歌のテンションが高い。
「食いしん坊トリオは元気だねぇ。うー、寒い」
都内との寒暖差を味わい、寒さに震えながら奏が呻き、荷物の中からマフラーを取り出す。
「...微笑ましくて良いじゃない」
「...元気なのは良いことです」
「あいつら寒くねぇのか?」
寒さで体をガタガタさせながらマリアが呟き、同じく体をガタガタさせたセレナがそれに同意し、クリスが不思議な生き物を見る目で三人を眺めていた。
「寒い...スッゴい寒い」
「予報では今日から数日は晴れが続くらしい」
「天気に恵まれて本当に良かったですよ」
怯えた子犬のように身を縮こまらせる調、雲一つない青空を見上げる翼、どうやら自分達の中に雨女や雨男がいないことに安堵する未来。
「で、これからどうするデスか?」
「まずは熊五郎の返却だな。予め到着時間伝えておいたら、迎え寄越してくれるってさ。しかも人数伝えたらわざわざマイクロバス出してくれるんだと。つーことで、響隊員と切歌隊員はそれっぽいマイクロバスが何処かで待機してないか探してくれ」
「「了解であります、カズヤ隊長!!」」
切歌の質問に返答すると、ビシッ、と敬礼してから元気に二人が走り出す。それを横目に、そばに置かれた物体に目を向ける。
青い包みに覆われた大きな荷物のそれは、かつてカズヤが無断拝借した蝦夷野熊五郎の着ぐるみが中に入っているのだ。
「お前ともこれでお別れか」
これまでのことを振り返りながら感慨に耽る。ライブ会場で忘れられたこいつを見つけ、顔バレを防ぐ為に使わせてもらい、その後暫く家のインテリアとなっていた熊五郎。
熊五郎のお陰で顔バレを防げたのに、結局全世界に向けて"シェルブリットのカズヤ"を世界に知らしめてしまった。
...本当なら、もっと早く返しに来るべきだったのだろう。
短い間だったが、愛着があった。
「サンキューな」
誰にも聞き取れない声で礼を述べた頃、響と切歌が迎えの北海道観光協会の方を見つけたのか戻ってきた。
マイクロバスで出迎えてくれたのは、二十代半ばのおっとりとした女性で、なんと熊五郎の真の中の人だった。
話を聞けば、彼女も、彼女の職場の人々もあのライブを見るまで熊五郎の存在を忘れていたらしく、当時はとても混乱したのだとか。
ライブの次の日は次の日で、事務所に問い合わせの電話やメールが殺到。数週間はてんてこ舞いな日々が続いたようだ。
だが、お陰で観光客は増えたとか、熊五郎のグッズがアホみたいに売れるわで嬉しい悲鳴が止まらなかったとのこと。
だから謝る必要はないですよー、と北海道観光協会の方々は、熊五郎を返却する際に頭を下げたカズヤにのほほんとした感じでそう告げてくれた。
むしろ写真を撮らせてください、サインください、ライブの時の熊五郎(シェルブリット発動している姿)のグッズ展開を考えているので許可ください、お土産いっぱい持って帰ってください、これ食べてコメントください、いっそ観光大使になってください、と怒濤の勢いで迫ってきた。
「...こ、こんなに歓迎されるなんて正直思ってなかったぜ」
凄まじい歓迎っぷりにどう対応していいか困ってしまうカズヤだったが、冷静に考えてみれば、世界を救った英雄だなんだと世間で騒がれた存在が目の前にいれば誰でもテンション上がるか、と無理矢理自分を納得させる。
とりあえず写真撮影については、カズヤと奏と翼とマリアの四名はネットにアップをオーケーとした。サインについては歌手の三人のみ(自分は有名人であっても芸能人の類いではないので丁重にお断り)。グッズ展開は申し訳ないが恥ずかしいのでNG。お土産は緒川に指示を仰いで指定された住所に郵送するようお願いし、出された食べ物を食べてコメントして、観光大使の件はサインと同様の理由で断った。
その後、海の幸が山盛りとなった昼食をご馳走になり、腹が膨れて一休みしてからお土産屋さんを物色したところで、少し早いがマイクロバスに揺られて本日の宿へと向かう。
明日は早朝から朝市に赴くつもりなのだ。その為、早寝早起きが必要不可欠なのだから。
人数が多いので、予約している部屋は三つ。カズヤがお一人様用を一部屋、残り二部屋を女性陣で四人、五人で分かれて使う。
女性陣が『グッとパーでわかれましょ』をやっている横で、宿自慢の天然温泉に関する看板を眺めつつ、既に夕飯に何が待っているのか楽しみで仕方がないカズヤであった。
「かぁぁ~! このお酒お刺身と合うわ~!!」
浴衣姿で頬に朱が差したマリアが上機嫌に言う。
彼女と同様に顔を赤くした浴衣姿の奏が頷きながら杯を傾ける。
「いやー、ホント酒が進むわこれ」
「どうして日本のお酒ってこんなにご飯が進むんでしょう?」
やはり赤ら顔で浴衣姿のセレナがご満悦で刺身を頬張った。
ゆっくりと温泉を堪能し、宿内の遊戯コーナーやお土産屋さんを見て回ったり、部屋に戻ってグダグダしたり、マッサージを受けたりとそれぞれが思い思いにのんびりしていたら夕飯の時間となったので食事を開始。
「あんま飲み過ぎんなよ」
ジト目で注意するよう促すカズヤであったが、奏とマリアとセレナの三人は「ダイジョブダイジョブ!」と繰り返すのみで全く信用できない。
最近では、年長者のマリアが日本の法律に則り酒を堂々と購入できる年齢をいいことに、「一人酒は寂しいから晩酌付き合って♪」と週に一度か二度は必ず押し掛けてきていた。
最初はただ単純に、マリアが酒の力を借りてカズヤとイチャコラしたい、あわよくば酔った勢いで彼とそのまましっぽりする為だったのだが、フロンティア事変を経て様々な枷や束縛から解き放たれた彼女は、酒を飲むとやたら上機嫌かつ陽気な笑い上戸になり、皆で楽しく飲むお酒というのが気に入ってしまう。
なので、定期的に奏の部屋で開催される飲み会により、マリアの家ではないのにマリアの酒瓶がキッチンの収納を一部占領していた。
日本でいうお酒は二十歳になってから、とかそんなことを今更守る真面目くんではないのでカズヤは勿論飲むし、奏は夏に誕生日を迎え大人の仲間入りを果たし、セレナも同様にフロンティア事変後に二十歳になったので当然の如く飲む。
飲まない、及び飲ませないのは、まだ学生以下の年齢の面子だ。
故に、酒を飲む面子というのは現段階では四人。
しかし、まだ若いからか飲み慣れてないのか、たまにはしゃぎ過ぎてしまうのでしっかり見ておかなくてはならない。
「深酒で朝起きれねーとかなったら、容赦なく置いてくからな」
朝市を誰よりも楽しみにしているので飲む量抑えめなカズヤとしては、このくらいが落とし所だと考え釘を刺して置く。
流石に置いてかれるのは嫌なのか、目に見えて飲むペースが落ち、舐めるようにちびちび飲む三人。
分かり易い連中だなー、と苦笑しつつ他の者達の様子を窺う。
「...」
皆、幸せそうな顔で黙したまま一心不乱に食べていた。普段都内ではそう易々食べることができない豪華で新鮮な海の幸を前に、感嘆の声を上げていたのは最初だけで、それ以降は喋る間も惜しいとばかりに。
酒が入ると年長組がやかましくて、それ以外の者は美味いものを前にすると静かになる。なんか不思議な光景だなと思い、おもむろに立ち上がりスマホを取り出し撮影しておく。
「デース!」
いち早く切歌が、両手に蟹の鋏を持ちそれでピースしてくるので撮る。
「ほら、調もやるデス」
「うん」
切歌に促され調が蟹の鋏を手にした。
「北海道に蟹食べに来た記念デス!」
「蟹記念!」
「お前ら甲殻類アレルギーなくてよかったな」
パシャッと笑顔の二人を撮影。
それから、皆で写真を撮ったり撮られたりを繰り返して、楽しい食事は終わった。
明日は早いから早く寝ろ、起きれなかったらマジで置き去りにするから、カズヤのこのお告げにより皆はとっとと部屋に戻って布団の中に潜る。
ちなみに女性陣の部屋割りは、『グッとパーでわかれましょ』の結果、奏、マリア、セレナの酒を飲んでいた三人に切歌を加えた四人。残りの五人という組分けだ。
大人三人プラス切歌の部屋は、酒を飲んでいたので三人が早々に夢の中へと突入し、切歌も腹いっぱい食ってたのですぐに眠くなり即寝た。
しかし、五人部屋では──
「響、私は今日気づいたの。カズヤさんってスーツみたいなカッチリした服は全くこれっぽっちも似合わないけど、和服、しかも少し着崩した感じのって似合うと思わない?」
「未来も? 実は私もそう思ってたんだ。元々ラフな格好似合う人だし...浴衣姿のカズヤさん、本人はそんなつもりないんだろうけど、ちょっと肌蹴てて誘ってる感じしたよね」
電気を消した暗闇の中、布団の中で仰向けになり、至極真面目な口調で未来が問えば、まるで打てば響く鐘のように響が返答した。
「...あたしはチラチラ見える鎖骨に釘付けになっちまった。浴衣姿のカズヤ、初めて見たけど良いよなぁ」
「私は僅かな隙間から垣間見えた胸元だ。浴衣とは、時に裸よりも魅力的に見えてしまうのか...奥が深い」
「...先輩、たぶんそれ業が深いの間違いだぞ」
「何? そうなのか?」
少し恥ずかしそうに語るクリスと、剛然と言い放つ翼のやり取り。
「...」
そしてフェチについて熱弁を振るう四人に呆れて何も言えない調であるが、話が気にならないと言えば嘘になるので余計なことは言わずに黙って聞いておく。
「カズヤさんって、和服とかプレゼントしたら着るかな?」
「微妙だなぁ。あいつ、服とか靴とかは基本的に機能性と運動性重視だから、動きにくいもん好きじゃねぇし」
未来の質問に同居人のクリスが唸る。
「だとすれば部屋着用、か」
「夏なら甚平とか着てくれそう」
「立花、お前は天才か!」
響の何気ない一言に翼が何か閃いたのか、喜色の声が上がった。
調が発言しないので寝ていると思われているのか、段々ヒートアップしていく四人。
それから暫くの間、あれを着て欲しいだとか、いやいやこういう服も捨てがたいとか、無駄な肉が一切ない体は目に毒だとか、無自覚なのに誘ってるとしか思えないだとか、もういっそ今からあいつの部屋に突撃するかとか、そもそも普段見慣れた裸より浴衣姿の方がエロく見えてしまうのは何なのとか、頭ピンクな四人が延々と話し合う室内で、調は完全に寝るタイミングを逸してしまった。
目を瞑って寝ようとすると、耳に入ってくる言葉が頭を巡る。
調だって年頃の女の子なのだ。異性という存在に全然興味がない訳ではない。
だが、聞こえてくる話は調にとっては刺激が強い、強過ぎる。
頭の中でグルグル駆け巡る刺激的な単語の羅列に圧倒され、脳のキャパシティオーバーを迎えそうになったその時、
(調、替わりなさい...!!)
滅茶苦茶怒っているフィーネの声が聞こえて体の主導権を明け渡す。
フィーネは布団から這い出して立ち上がり、部屋の電灯を何の予告もせず点けた。
「うおっ、眩し!?」
「目が、目がぁぁぁぉ!!」
「キエエエエエエエエ!?」
「イイッタイメガァァァ!!」
暗闇に慣れていたクリス、翼、響、未来の四人は、突然の光に目を潰されて悶絶する。
「うるっさいのよあなた達! 早く寝ろって言われたでしょうが!! 童貞の男子高校生みたいにいつまで下品な話をしてるの!?」
「し、失礼なことを言わないでもらいたい櫻井女史! 私達は既に貫通済み! そこらの未経験な童貞や処女と同じと思われるのは甚だ遺憾だ!!」
「その発言が既に下品だって自覚ないの翼ちゃん!?」
怒鳴るフィーネに、頓珍漢な返しをする翼。
「...ちっ、うっせぇな。惚れた男に処女捧げられずにそのまま腐らせた奴が、あたしらに偉そうに説教垂れてんじゃねぇ...処女膜から声出てんだよ」
舌打ちし、鬱陶しそうにボソリと辛辣な言葉を吐くクリスに、フィーネの中の何かがブチりと切れた。
あっ、これはヤバい、あかんやつですわ、と他の三人は察したが、どうすることもできない。
「...言ったわねクリス。言ってはならない台詞を、ついに...」
「それがどうした? 事実を言ったまでだ」
鋭く睨むが、挑発するように見下すクリスの態度に、フィーネが飛び掛かる。
取っ組み合いが始まった。
「人が黙って聞いてれば、調子に乗ってこのクソガキ! 操を立てるって言葉知らないの!? 私はあなたをこんな下品でドスケベに育てたつもりはないわよ!!」
「僻んでんじゃねぇ! ガキはあんただろうがこの腐れ万年処女! そもそもテーブルマナーすらろくに教えてくれなかったクソッタレが育てた云々とか烏滸がましいにも程があんだよ!! 箸の使い方みたいな日常生活に必要なことを手取り足取り懇切丁寧に教えてくれたのはカズヤと奏であって、あんたが言えた義理じゃねぇっつの!!」
ドタンバタンッ! と大きな音を立て、二人は布団の上を揉みくちゃになりながらゴロゴロ転がる。
「最早完全にただの喧嘩だな」
翼が呆れたように肩を竦めて、邪魔にならないように部屋の端に寄り、体育座りした。喧嘩を止める気はなく、好きにやらせるつもりらしい。
「今のはいくらなんでもクリスちゃんの言い方が悪いよ」
「流石に擁護できないよね」
響と未来も翼に倣う。
「だいたいあなた達性欲持て余し過ぎなのよ! 旅行中くらい自重できないの!? 常日頃から発情期の雌猫じゃないの、みっともない!!!」
「うるせぇ! こちとら若いんだよ!! それに普段と違うシチュエーションだから滾るんだろうが!! あっ、こういう感覚、そういやフィーネは知る由もなかったな! 今のは失言だった、すまねぇな!!」
「きいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
涙目になった調──の体を使っているフィーネが枕を手にしてクリスに殴り掛かり、クリスもそれに応戦。枕を使った殴り合いに移行した。
長引きそうな二人を放置し、未来が隣の響越しに翼に声を掛ける。
「ところで翼さん、話が変わるんですけど」
「どうした? 小日向」
「カズヤさんと翼さんの婚約の件です」
ああ、と何の話か理解し一つ頷く。
「具体的にいつになるかは分からないが、お父様は本気のようだ。カズヤを私の婿として風鳴家に迎え入れた暁には、風鳴家はカズヤのものだ、と」
「それだと、風鳴家と言うより君島家になるんじゃ...」
首を傾げる響に翼は「そうだ」と肯定。
「...お父様の狙いは、恐らくそれだろう。風鳴家という家系を終わらせること...風鳴家そのものを嫌っている、いや、憎んでいる人だからな」
「...翼さんのお父さん、もしかしてカズヤさんみたいな人が現れるのをずっと待ってたのかな?」
「良い意味でも悪い意味でも、しっちゃかめっちゃかに引っ掻き回すからね、カズヤさん」
電灯を見つめ考え込む仕草をする未来に、響が苦笑いを浮かべた。
「婚約の件、どう転んでも裏があるとしか思えないけど、私達の旦那様にはきっと関係ないんだろうな...いざとなったらご自慢の拳でなんとかするつもりなんでしょ」
「小日向はその辺りがやはり心配か?」
「そりゃ、心配してないって言えば嘘になります。けど、私は、前だけを見て進むあの人のそばにいるって決めましたから。意見は言いますけど、カズヤさんが下した最終的な決定には従います」
目を細めて優しげに微笑む未来に翼は小さく「ありがとう」と礼を言う。
「あ痛っ、痛、いたた、やめろこの変態裸族!!」
「私だって、私だって本当はあなた達みたいに、あの御方とイチャイチャしたかったわよ! 押し倒して跨がって好き勝手に腰振りたかったわよ! そんな私の目の前で、いつもいつも見せつけるようにカズヤくんとイチャイチャしてぇぇ、羨ましいのよあなた達ぃぃぃ!! うああ、あああああ、うわあああああああああああん!!!」
うつ伏せに倒されたクリスの上に跨がり、彼女の後頭部を枕でバコバコバコバコ殴りまくるフィーネの泣き声がやかましい。
「さて、そろそろ寝るとしよう。このままだと明日は本当に置いてかれてしまう」
既に無抵抗となったクリスを泣き叫びながらひたすら枕で殴るフィーネを止めるべく、翼が立ち上がった。
こうして夜が更けていく。
この作品のR-18版は......?
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書け!
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そんなことより早くGX編を書け!
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そんなことよりギャグ多めの閑話を書け!