カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした 作:美味しいパンをクレメンス
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【休日】
街中で、本屋の雑誌コーナーの前で、二人は珍しくばったりと出くわした。
「あれ? 朔也じゃねーか、何してんの?」
「え? あ、カズヤくんこそ」
仕事の関係上、ほぼ毎日のように顔を合わせる二人であったが、プライベートでの付き合いが皆無だった為、休日に会うことなど今まで一度たりともなかったのだ。
「俺? 俺は見ての通り、テキトーにそこら辺ブラブラしてただけだ」
片や装者達と共に危険が隣り合わせの戦場や事故現場の最前線で暴れ回る戦闘要員、一時は世間を賑わせた男、"シェルブリットのカズヤ"ことカズヤは、ワンレンズタイプのサングラス──ストレイト・クーガー仕様の色違い(黒)──を外して何でもないことのように答える。
「一人で? カズヤくんが一人でいるなんて珍しいね」
片やカズヤ達の後方支援を務めるオペレーターの朔也は、カズヤが一人で街中をテキトーにブラブラしていることそのものを珍しいと、思ったことをそのまま言う。
「え? 俺が一人でいることってそんな珍しいか? 結構こんな感じで出歩いてると思うんだが」
首を捻るカズヤに朔也は苦笑。
「だってカズヤくん、いつも誰かしら一緒じゃないか」
「あ~、そうだな。考えてみれば、いや、考えなくてもそう見えるわな」
基本的には仕事中は緒川か、装者の誰かと共にいるので、カズヤ一人で行動しているというのはなかなか無い。
「で、何してんの? 今日非番だっけか?」
「お察しの通り、こっちもテキトーに街をブラブラしてただけさ」
「お互い暇人な訳だ」
ニシシッ、とカズヤが人懐っこい笑みを浮かべた。
「他の皆はどうしてるの?」
「ん? 他の皆って? 響達のことか?」
「そうそう」
「あー、響と未来は二人で遊びに行ったみたいで、クリスは学校の友達と遊びに行って、セレナは切歌と調を連れて買い物、奏と翼とマリアは次の新曲の構想について話し合ってるから部屋で缶詰め状態、って感じ。見事に俺だけ暇なんだな、これが」
「へー。珍しいもんだね」
「そうか?」
カズヤは気づいていないようだが、朔也はなんとなく察した。彼女達は、あえて彼が一人になれる時間を作っているのではないか、と。
弦十郎から聞いた話によると、カズヤのプライベートの時間というのは、未来が管理しているらしい。その時点で色々と突っ込みどころがあるのだが、これは一旦横に置いておく。
元来、カズヤという人物は自由奔放な男だ。彼がまだ二課に加わった頃は、暇を持て余せばいつの間にかフラッといなくなっていたり、あっちこっちほっつき歩いてたりと、なかなか一ヶ所に留まっていなかった。
アクティブに動きたがる、というのは、逆を言えば何かに縛り付けられたりするのを酷く嫌うのと同義。
先に述べた通り、カズヤは一人で行動していることがあまりない。仕事中は勿論、家でも同居人が二人いる。
恐らく、彼の性格を熟慮した未来が、あえて彼が一人になれる時間というのをたまに作り、適度にガス抜きをさせているのだろう、と。
ちなみにここまでの朔也の考えは、概ね合っていた。
「もしカズヤくんがよければ、一緒に昼でもどう?」
「ん? 俺は見ての通り暇してるから全然構わねーが、いいのか? オペレーターの連中って俺らより休み取れてないだろ。貴重な休日を野郎との飯に費やすなんて、物好きだな」
そんな彼が暇そうにしているのでランチを誘ってみたら、案の定、あっさりと了承してくれる。
「いや、そうでもないよ。カズヤくんとプライベートで、しかも二人で食事するの初めてだし、色々と話してみたいことあるし」
「緒川とはたまに二人で飯食うことあるけど、そういや朔也とはなかったな...オーケー、じゃあ今日は野郎二人で腹割って話そうぜ」
休日のランチタイムということで、二人が入店したファミリーレストランはそれなりの混み具合を見せていたが、タイミングが良かったのか待つこともなく案内される。
手短にメニューから食べたいものを選び注文を済ませると、先に口を開いたのはカズヤだった。
「そういや朔也って彼女とかいねーの?」
「ぶふっ!?」
お冷やを飲んでいたところへ、いきなりこんな質問がきて朔也は盛大にむせる。
「い、いきなり何!?」
「いや、そんな驚くような質問か? 枯れたジジイじゃねーんだし、お前さん見た目イケメンだし、いるのかな? って思って」
逆にカズヤの方が目を白黒させて驚いていた。
「残念ながらいないなぁ」
「やっぱ機密を取り扱う職業柄、できにくいんかね...あおいもこの前合コン失敗して、連敗記録更新したって聞いたし」
思わぬ情報──面白そうな話を耳にしてつい、少し身を乗り出してしまう。
「何それ? ちょっと詳しく聞かせて」
「おい、急に生き生きしてきたな。まあ、いいけど」
少し前に合コンが失敗し、凹んでいたあおいから愚痴を聞かされた装者達から聞かされた話によると、機密の問題から本当の職業を言うことができず、怪しまれて逃げられた。簡単に纏めるとこんな感じだった。
「前にテレビで見たが、米国のエージェントとかも家族にすら話せないから離婚率高いとかあったし、国家機密に関わってる連中の恋愛事情なんて何処も一緒なんかね」
つい数ヶ月前、今引き合いに出した米国のエージェント達を、キミは完膚なきまでにボコボコにしたけどね、とは言わない。
「そう考えると、ウチで浮いた話ってカズヤくん達だけ?」
「......俺達は浮いたっつーか爛れた...やめようぜこの話」
苦虫を噛み潰したように眉を顰め、カズヤは話題を変えようと試みる。
「ええー、聞きたい。腹を割って話すんじゃなかったの?」
「断る。ただでさえドクズだ女っ誑しだって陰口叩かれてんだ。これ以上ネタ提供してたまるか」
そうすげなく告げてカズヤがお冷やを飲むので、とりあえずジャブを打っておく。
「でも翼さんと婚約したんでしょ?」
「ゴハッ!?」
思いっ切りむせて何度も咳き込む彼をニヤニヤしつつ見ていると、ギラリと睨まれる。
「誰から聞いた!?」
「緒川さんから」
「あの忍んでない忍者め...!!」
彼の拳が固く握られ、ギシギシと明らかにヤバそうな音が発生していたが、唐突に彼は全身の力をふっと抜くと、疲れたように溜め息を吐く。
「緒川が喋ったんなら、弦十郎のおっさんから許可は出たんだろうな」
「みたいだよ。でも俺以外に知ってるのはあと一人で──」
「あおいだけ、か?」
「そういうこと。他の人達には言うなと口止めもされてる」
安堵の溜め息をもう一度吐くと、有無を言わさぬ口調とドスの利いた声で彼は言う。
「とにかくこの話題やめろ」
「......はい」
半ギレしてる、ということを悟り朔也は、調子に乗り過ぎたかと反省し大人しく従った。
それから朔也は、休日の過ごし方についてとか、趣味とか、最近はまっているものとかについて食事しながら話す。
カズヤはカズヤで、同性の友人が少ないからか、朔也の話を興味深そうに耳を傾けていた。
とにもかくにも和やかに話が進む中で、朔也は「あっ」と思い出したように口にする。
「そういえばカズヤくん、今日飲み会あるんだけど、来る?」
「飲み会? 何の?」
「飲み会って呼ぶほど人数多くないけど、俺と司令と緒川さんの三人で月一くらいの頻度でやるんだ。カズヤくんも来れば?」
「何だその楽しそうな男子会? 初耳だぜ。なんで今まで誘ってくれなかった!?」
「いや、だってカズヤくんの周りいつも女の子ばっかで誘いにくくて...俺も司令も緒川さんも、カズヤくん誘って後で装者の誰かに睨まれるの嫌だったから」
「...いくらあいつらでも流石にそれはねーって。場所がキャバクラとかじゃなけりゃな。どうせ普通の居酒屋だろ? それなら大丈夫だ。それに俺、あいつらに束縛されてるとか感じたことないしな」
彼がそう言うならば、これまで変に気を遣い過ぎただけだったのかと勿体ない気分になる。
「なら、参加ってことでいい?」
「問題なし!」
ならばと朔也は緒川に連絡を取り、今夜カズヤが参加する旨を伝え、カズヤもスマホを取り出し飲み会に参加するので帰りは遅くなる旨を伝えた。
「未来、カズヤさんから何だったの?」
「今日は藤尭さんの誘いで男子会に参加するからすまんが夕飯は俺抜きでやってくれ、だって」
「男子会...師匠達と?」
「うん。参加するのはカズヤさんと弦十郎さんと緒川さんと藤尭さんの四人だって」
「何だか楽しそうだね。参加してみたいけど、男子会じゃ無理か。ちょっと残念」
「だったら私達は、珍しくカズヤさんがいないから皆で女子会だよ」
「そういえばカズヤさん抜きで皆でご飯って実は初めて?」
「あ、そうかも。響は夕飯、何食べたい?」
「お肉!!」
「切歌ちゃんみたいな返ししないの、もう」
それから、飲み会が始まるまでテキトーに時間を潰そうということになり──
「バッティングセンター......カズヤくんはよくこういう所に来るの?」
「それなりに、なっ!!」
貸し出しされている野球用ヘルメットを被ったカズヤがバットをフルスイングし、快音と共に白球が打ち上げられ『ホームラン』と書かれた札に命中する。
「お見事」
「チョロいぜ」
彼が立つバッターボックスは、時速百六十キロと表示されており、素人では飛んでくる白球にバットを当てるどころか、かすらせることすら難しいのだが、先程から軽々とホームランをかっ飛ばしていた。
アルター能力がなくても、その長身痩躯が保有する動体視力や反射神経、筋力や素早さやその他諸々は、自他共に一般人と認める朔也からしたら、やはりカズヤも弦十郎や緒川と同じ、様々な意味で規格外な人間だ。
「朔也はやらないのか?」
「いや、運動不足だからさ...」
「んなこと言ってると、いつまで経っても運動不足なんざ解消できねーぞ。ただでさえ仕事でデスクに齧りついてんだろ」
手にしたバットを渡され、半ば強引に野球用ヘルメットを被せられ、時速八十キロのバッターボックスに押し込まれた。
仕方がない。折角バッティングセンターまで来たのだから、一回くらいはバットをフルスイングしておくか。
バッターボックスに立ち、白球が発射されるのを待ち、飛来してきた白球に狙いを定めて、全力でバットを振るい──
──ゴキリッ!
「...ぐあ、あ...腰、腰が...脇腹が!?」
「...ええぇ」
痛めた体を引き摺りバッターボックスから休憩スペースへと場所を変えて、ベンチに座ってぐったりしていると、缶コーヒーを二本手にしたカズヤが片方投げて寄越してきた。
「平気か?」
「もう大丈夫」
「なら良かった。これで仕事できなくなったら、俺が弦十郎のおっさんに怒られるからな」
苦笑しながら隣に座り、カズヤは缶のプルタブを開け中身を飲み始める。
朔也も同様に缶コーヒーを飲む。
一息ついてから朔也は自嘲するように笑う。
「いや~、情けないところを見られちゃったな」
「これを機に、暇があったら少し運動することを推奨するぜ」
「善処します」
他の客がバットで快音を鳴らすのをBGMに、手元の缶コーヒーを飲み干す。
隣のカズヤも飲み終わったのか、空き缶を片手で紙屑のように握り潰し、自販機のそばにあるゴミ箱へ投げ入れる。
空き缶はカンッ、と甲高い音を立てゴミ箱に収まった。
「平和だな~」
大きな欠伸をかきながらぼんやりとした口調で呟くカズヤ。
「そうだね。最近、カズヤくんと装者達の出動、あんまりないし」
フロンティア事変以降、ノイズの出現はない。ソロモンの杖によりバビロニアの宝物庫が閉じられた為だ。
「このまま平和な日々が続いたら、俺はお役御免かね」
「それは...」
突然の発言に、朔也は何か言おうとして、何を言えばいいのか分からず何も言えなくなってしまう。
「もしリストラされたら、どうしようかな...養ってくれ、って泣きついたらあいつら喜んで養ってくれそうだけど、それじゃあ完全にヒモのニートのクズだしな。アルターで建物の解体作業を専門に請け負う個人事業主でもやるか」
カズヤが何気なく口にした未来予想図が簡単に想像できる。
『はいカズヤ、今日のお小遣い。五万で足りる?』
『サンキュー、マリア、愛してるぜ。俺はお前みたいな美人でスタイル良くて悪いこと以外なら何でもできる嫁に養ってもらえて幸せだ!』
『えへへー♪ 私もカズヤと一緒にいられて幸せー! カズヤもっと誉めてー♪ 私が一生あなたを養うのー!!』
※特別出演 まダ夫に尽くすまダ嫁役:マリア
『シェルブリットバァァァストォォォ!!』
『カズヤさん、次は隣町の老朽化した雑居ビルをぺしゃんこにするお仕事が入ってます』
『それアタシがやっていいか?』
『いいぞやれやれ...残った瓦礫はそのまま分解すればいいし、天職だなこれ』
『ヒャッハー! ぶっ壊しまくるぞー!』
※特別出演 従業員A役:響 従業員B役:クリス
「ぶふぉっ!!」
「急にどうした!?」
妄想して吹き出す朔也にカズヤが仰天する。
「...いや、その、風鳴家に婿入りするんだったら、必然的に将来安泰だからその心配はないと思うけど?」
「......まあ、そっちはそっちで色々と問題あるからな、そんなにすんなりいくとは思ってねーんだ」
笑いを誤魔化すように先程話題に出た話を挙げれば、彼は難しそうな顔で唸った。
そんな彼の表情を見て、朔也はまさかと思い、妄想する。
『未来、俺が本当に愛してるのは翼じゃなくお前なんだ!!』
『いけません旦那様! こんなところを奥様に見つかったら──』
『既に手遅れだ』
『ゲェェ翼!?』
『奥様!?』
『小日向、貴様...就職難で困っていたから昔のよしみで風鳴家に女中として雇ってやったというのに、我が夫カズヤを誑かすとは...たかが下女如きが調子に乗って...身の程を知れ!!』
『翼、刀を仕舞え! つーか下女とか今時言わねーよ』
『奥様お許しください、私のお腹にはこの人の子が...』
『誰が許すか泥棒猫が! 本当に孕んでいるかどうか今すぐその腹をかっ捌いて確認してやる! どうせ貴様の想像妊娠で、中には誰もいないに決まっているんだからな!!』
※特別出演 不倫相手の女中:未来 奥様:翼
「...く、くく、くうぅぅぅ」
「今度は何だよ? 腹でも下したのか? 同じ店で食ったけど俺の腹は大丈夫か...?」
腹を抱えて必死に笑いを堪える朔也の態度に、カズヤが自身の腹をさすりながら心配気な声を出した。
バッティングセンターも飽きてきたので場所を移し、ダーツやビリヤードで遊んでいたら夕方になり、弦十郎と緒川の二人と合流する為、居酒屋へと向かう。
「お疲れ様です、司令、緒川さん」
「お疲れー」
程なくしてスーツ姿の弦十郎と緒川が現れる。ぺこっと頭を下げる朔也と手をヒラヒラさせるカズヤに、二人は軽く手を上げて挨拶した。
「お疲れ様だ。今日はカズヤくんも参加とは珍しいな」
「今度からは俺もハブらず誘ってくれ。あんたらが思ってるほど、俺はあいつらに束縛されてねーから」
「お疲れ様です。カズヤさんとはどういう経緯でご一緒だったんですか?」
「本屋で偶然会ったので、そのまま流れで昼食一緒にしたんですよ」
挨拶もそこそこに店へと入る。
雑多でガヤガヤとやかましい店内を想像していたら、個室のみの静かな居酒屋だった。酔って変なことを言っても聞かれないような店を選んだとのことで、そりゃそうかと納得しながら個室に案内され、席に着く。
とりあえず生ビールを中ジョッキで四つ、と先に頼んで温かい布巾で手を拭き、お通しをつつきながらメニューと睨めっこ。
酒の肴をある程度選び終わると、ビールがやってきたのでその際料理を注文してから乾杯。
喉をアルコールで潤し口の滑りが良くなってきたのを頃合いに、カズヤが切り出す。
「なんでおっさん、今日はスーツなんだ? 何かあったん?」
普段は赤いカッターシャツをラフな感じで着ていたのに、今の装いはかっちりしたスーツだ。
すると弦十郎はネクタイを外してポケットに仕舞い、ワイシャツのボタンを上から三つまで外すと、ビールを飲み干してから、少し周囲を窺い、声を潜めつつ答えた。
「...今後、我々二課は国連直轄下にて、 超常災害対策機動部タスクフォースとして再編成される予定だ」
「今日はその新組織の発足に向けた会議があったんですよ」
緒川が補足する。
「国連直轄ってことは、日本の特務機関じゃなくなるのか...」
弦十郎に倣い声のボリュームを抑えたカズヤの言葉に皆が頷く。
新組織の名称は『Squad of Nexus Guardians』。略称は『S.O.N.G』。
国連直轄下となったことで、安保理が定めた規約に従い日本国外での活動も可能になったとのこと。
だが、当然これには裏がある。
ルナアタック、フロンティア事変などといった聖遺物を発端とした未曾有の大惨事に対し、広範囲で即応する為に発足されたという扱いだが、 その実態は、 日本政府が保有する異端技術を可能な限り監視下に置きたいという、 各国政府の思惑も絡んでいる...と弦十郎は説明してくれた。
「なんか面倒臭そうだが、今までとやること大して変わんねーんだろ? だったらいいさ。それに国外でも動けるようになるってことは仕事も増えるってことで。なら、もしリストラされたらヒモになるか建物の解体作業やるかで頭悩ませる必要もなさそうだ」
「え? カズヤさんをリストラ? あり得ませんよ」
「リストラ後がどうしてその二択になったのか非常に気になるところだが、今のところ残念ながらキミをリストラする予定はない」
困惑する緒川が追加のビールを店員に注文し、弦十郎は難しい表情でカズヤを見据えた。
「実はカズヤくん、最近平和で暇だからリストラされると思ってたらしくて。もしリストラされたらどうしようって話してたんですよ」
「それでヒモか建物の解体作業なのか。極端だなキミは!」
朔也が先程の話をすると弦十郎が豪快に笑い飛ばす。
「ヒモはともかく、建物の解体作業はカズヤさんの能力ならコストをほぼゼロにして儲けることができますね」
「だろ? どんな建物でも格安ですぐに更地にします、って売り文句で建物の解体作業を専門に請け負う個人事業主、やってけそうじゃね?」
「シェルブリットバーストで建物そのものを粉々にして、瓦礫は綺麗に分解する。なるほど、理に適っているな」
「てもそれだと市場価格も一緒に解体されそう」
「何言ってやがんだ朔也。この場合、俺が市場価格を分解して、再構成してるんだよ!!」
四人はそこでどっと笑い出す。
空きっ腹にアルコールを叩き込んだので、存外酔いが回るのは早かった。
「僕はですね、一つカズヤさんに不満があるんですよ」
熱々の揚げ出し豆腐を食べていると、緒川がこんなことを告げてくる。
「んだよ緒川? 改まって」
「そう! それです!」
「?」
ビシッ、と指差されるが何のことだか思い当たらず疑問符を浮かべた。
「カズヤさんは皆さんのことを下の名前で呼ぶのに、僕だけ『緒川』って苗字呼びじゃないですか!?」
「あー、そんなことか」
「そんなこととは何ですか、そんなこととは!?」
急に大声で叫ぶ緒川。顔に出てないだけで実は相当酔っている。
「だって『緒川』って呼び易いんだもん」
「『慎次』って呼んでくださいよ!!」
「わぁーったようっせぇな、今後は『慎次』のこと『緒川』って呼びゃいいんだろ」
「逆! 早速呼べてませんよ!!」
「ぎゃはははははは!!」
「そういえばカズヤくん。次の出勤の時に話そうと思っていたことだが、北海道観光協会ととあるアニメ制作会社からキミ宛てに連絡があったぞ」
鳥串を頬張りながら弦十郎がこんなことを言ってくる。
「なんかスゲー嫌な予感するから聞きたくねーけど、一応聞いとく」
ニンニク醤油に馬刺しを沈めながら耳を傾けた。
「つい最近、月刊少女漫画誌で連載を開始した『快傑☆うたずきん!』という作品があってだな」
「それの誕生秘話知ってるからやっぱ聞きたくねー! 北海道観光協会とアニメ制作会社から俺に連絡が来たってことは、俺に似せたキャラ出したいから許可取りたいってことだろ? 絶対にダメに決まってんだろ」
「甘いな! 許可だけではない。現在コミック連載と共に進行中のアニメ化計画におけるアニメ版オリジナルキャラ『シェルブリットの熊五郎』として是非、出演して欲しいとのことだ」
「やる訳ねぇだろ! 似せるどころかまんま俺本人じゃねぇかっ!? 北海道の人達、まだグッズ展開諦めてなかったのか!!」
「翼の動画でも地声で出るようになっただろう。それとあまり変わらんと思うのだが...」
「あれはフロンティア事変で身バレしたから、編集でのんびりボイスに変換してたのをやめただけだ!」
「...まさかカズヤさんが声優デビュー...いいかもしれませんね」
「面白そうだね、やってみなよ」
緒川と朔也が他人事だからと勝手なことをほざく。
「ふざけんな! 演技経験ゼロの俺がプロの声優さんに混じって本人役を演じろって!? 恥ずかしくてやってられっか!!」
「え? カズヤくんに羞恥心ってあったの?」
余計なことを言い出す朔也にヘッドロックをかます。
「ぐえあ」
「百歩譲って許可は出してやってもいいけどな、その代わり慎次、お前が出演しろ」
「なんで僕が!?」
こうなったら道連れだ。
「お前、俺と声そっくりだろ。忍法声真似とかもできんだろ? だったら俺の真似程度、余裕余裕...芸名は
「分かった。先方にはそう伝えておく」
「えええええっ!? 司令待ってください! なんで僕が声優デビューをする破目に!?」
「うるせぇ黙れ、口答えするな。忍んでない忍者の癖しやがって!!」
「なんでキレてるんですか!?」
「朔也が運動不足なんだ。さっきバッティングセンターでバットフルスイングしたら腰から変な音して動けなくなってよ」
「なんでカズヤくんは司令と緒川さんがいる時にその話するの!? 話のオチが見えてるからやめて!!」
「運動不足なら、運動して解消するしかないな」
「よろしければお手伝いしますよ」
「さあ選べよ朔也。筋肉ムキムキの格闘家になる為の修行をするか、忍法使える忍者になる為の修行をするか」
「選択肢が圧倒的に少なぁぁぁい! ていうか今運動じゃなくて修行って言った! どっちも嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」
............
.........
......
...
「ただいまー」
飲み会自体が早めに始まったお陰で、それほど遅くならなかった。
鍵を解錠してドアを開ければ、玄関にはたくさんの靴。見たところ、まだ誰も帰ってないらしい。
「お土産にケーキ買ってきたから食う人ぉぉぉぉぉ!!」
帰宅に気づかせる為に大声で叫び、手にしたお土産を掲げて待つと、ドタドタ、バタバタと慌てて走ってくる足音が複数。
「カズヤさんお帰りなさい! ところでケーキって今言いましたか!?」
「お帰りケーキ、ケーキデス!!」
「ただいま、ほれ」
食いしん坊筆頭、響と切歌が現れたのでそれぞれにケーキが入った袋を手渡す。
「わわっ! このロゴ、最近人気が出て有名になり始めたケーキ屋さんのやつじゃないですか!? このお店、他のお店よりちょっと値段高めなのに...」
「閉店前の売れ残りだから半額にしてくれたぜ」
「半額ケーキ早く食べるデース!!」
スイーツへの期待で目をキラキラさせた二人はカズヤに礼を言うと袋を大切そうに抱えてリビングへ向かう。
二人に僅かに遅れてリビングに顔を出すと、丁度夕飯の後片付けが終わり、皆でお茶を飲んで一息ついていたようだ。
ただいま、お帰りなさい、というやり取りを皆としてから、早速話題はカズヤがお土産に買ってきたケーキに移る。
「カズヤ、ケーキを買ってきてくれるのは嬉しいが、私が夜九時以降の食事を控えているのは知っているだろう」
「喜べ切歌。翼の分食っていいって」
「デェェェス!!」
「待て待て待て待て待ってくれ! 分かった、ここは私が折れよう! カズヤが折角買ってきてくれたのだからありがたくいただくとしよう!」
「ちっ!!」
「...切ちゃんが本気で舌打ちしてる」
翼がなんか言ってきたので彼女の分を切歌に与える発言をするとあっさり手の平を返し、そのことに切歌が心底悔しそうにした。調がそれを指摘したので、あの舌打ちは本心から出たものだと判別できる。
「とりあえず開けましょう」
「はい、開けまーす」
期待で頬が緩むのを隠せていないマリアとセレナが、ウキウキしながらそれぞれ袋からケーキが入った箱を取り出し、開封。
その時、女性陣からおおおおっ、と感嘆の声が漏れる。
片方はベリー系の果物をこれでもかと使用したケーキ、もう片方はチョコケーキ。二つ共、かなりの大きさのホールタイプだ。
「うわぁ、美味しそう!」
両手の指先を口元に当てて、嬉しそうに叫ぶ未来に誰もが頷く。
「それ、店員さんからは賞味期限が今日までって言われてたから、残さず食っちゃってくれ」
「任せなよ、カズヤ」
「へへっ、たとえホールケーキ二つだろうがこの人数なら余裕だって」
大きな胸を更に強調するように張る奏とクリスに苦笑し、カズヤはうがいと手洗いの為に洗面所へと向かう。
背後では、ワーキャー騒ぎながらケーキの切り分けが始まった。
あっという間にケーキを平らげた女性陣に、「流石は腹ペッコリーナ」と口を滑らせたら全員から容赦なくド突かれまくった。
フローリングの上でうつ伏せに倒れるカズヤを文字通り尻に敷いた状態で、響と未来が「帰るの面倒臭い」「そうだね」と呟き、結局二人はそのまま泊まることになる。明日も休日なので、特に誰も咎めない。
響さんと未来さんが帰らないなら皆で一緒に寝るデス! と切歌が我が儘を言って、雑魚寝でいいならと奏が許可を出し、あれよあれよという間に全員でお泊まり会となる(切歌と調がいるのでエロいことは当然禁止だ)。
風呂はいくらなんでも一つでは時間が掛かり過ぎるので、マリア達は一度自分達の部屋に戻り風呂に入ってから、寝間着姿で枕と毛布を抱えて再登場。
日付が変わる頃になって漸く就寝、ということで皆で雑魚寝。流石に人数が人数なので、はっきり言って狭いが、何故だかそれが非常に楽しい。
「まるで南極のペンギンが、ブリザードに耐える為に押しくらまんじゅうしてる状態だなこれ」
カズヤがぼやき、皆が納得したように笑い、今度の休みに水族館行きたいとか、ペンギン可愛いとか話している内に意識が遠くなり、気がつけば誰もが夢の中へと旅立った。
そんな、平和な一日。
なお、何故か全員揃って、愛らしいペンギンの群れに囲まれて袋叩きにされるというご褒美なのか拷問なのか判断に苦しむ悪夢を見てしまい、今後、狭い部屋でぎゅうぎゅう詰めの雑魚寝はやめようという話になるのであった。
ということで、ほのぼの日常回、メインは朔也とOTONA達との絡みでした。
次回は未来さんメインの話にしたいと思ってます。
本編とR-18版の同時投稿、は流石に無理かと思うので、更新については気長にお待ちいただけると幸いです。
閑話もあと二つか三つ書いたらGX編に移行しようかなと考え中。