カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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あれ? マリアとセレナが主役の閑話は?
......また、今度な(R-18版も合わせて)。


ということでGX編突入だぜ!!


GX編
栄光の影に蠢くもの


とある任務を終えたスペースシャトルが、帰還時に発生したシステムトラブルにより、制御不能へと陥り今まさに墜落事故を起こす寸前にまで追い詰められていた。

シャトルの船体からは火が吹き、何度システムチェックを繰り返しても制御を受け付けず、悪化の一途を辿る絶望的な状況。

船内に爆音が響き、船体からまたしても新たな火が吹く。

それでもなんとか人口密集地にだけは墜落しないように足掻く操縦士に、追い打ちをかけるような情報がアラート音と共にもたらされる。

 

「ミサイル!? 俺達を撃墜する為に!?」

「......致し方なしか」

 

手元のモニターに映し出されるのは、こちらに狙いを定めて飛来する一発のミサイル。

戦慄し、死を覚悟する二人の操縦士。

その時だ。カメラが捉えたミサイルが突如として黄金の光を放ち、モニターを輝かせる。

 

「...あっ!」

「この光は!」

 

かつて、世界中の誰もが一度は目にした光。それを今この瞬間に目の当たりにして、二人の操縦士は瞠目した。

 

『輝け』

 

通信越しに聞こえてくる男の声。それに呼応するようにミサイルが放つ光が更に強くなる。

二人の操縦士の胸に、まさか、という思いと助かるかもしれないという希望が去来した。

 

『もっとだ、もっと!!』

 

力強い男の声が操縦席に響き渡る。それはまるで絶望的な気分だった二人の操縦士の魂を鼓舞するかのように。

 

『もっと輝けえええええええええええ!!!』

 

叫び声と共にミサイルを包む黄金の光が爆裂し、五つの金に光る何かが飛び出し、シャトルの船体に取り付いた。

 

「......"シェルブリットの、カズヤ"...!!」

 

操縦士の一人が思わず呟く。

そして、燃え尽きそうな空に歌が聴こえてくる。

 

 

 

 

 

【栄光の影に蠢くもの】

 

 

 

 

 

シャトルの先端に取り付いたカズヤは、シャトルを真っ正面から殴りつけるように右腕一本で受け止めた体勢になると、右肩甲骨の回転翼を高速回転させ、銀色のエネルギーを軸部分から噴射させる。

また、シャトルの側面に取り付いた奏、翼、響、クリスの四人は歌いながら、それぞれのアームドギアを用いて己の体を船体に固定させた。

更に装者の四人は、背から発生しているエネルギーで形成された翼ではばたき、各々のアームドギアからカズヤの回転翼と同じようにエネルギーを噴射し、墜落するシャトルの減速に努める。

それにより、空気抵抗による摩擦熱でシャトル全体が赤く覆われていたのが止む。

 

『装者達が取り付きました。減速を確認』

『墜落地点を再計測...依然、カラコルム山系の激突コースにあります』

 

左の耳に填めているイヤホンタイプのインカムから聞こえてくる通信──本部からのあおいと朔也の声にカズヤが問い詰めた。

 

「激突まであとどんくらいだ!?」

『五キロを切った!』

「ちょっとハードだな、おい!」

 

朔也の返答にカズヤは獰猛な笑みを浮かべる。

 

『シャトルの減速間に合いません、カラコルム山系を回避することは不可能です!!』

『なんとか船内に飛び込んで、操縦士だけでも!』

 

通信機越しに、あおいや朔也とは別のオペレーターが焦ったように叫び、緒川が人命を優先した提案をしてくるが、

 

『それじゃあマムが...』

『...帰れないじゃないデスか』

 

続いて本部で待機中の調と切歌の悲しげな声が聞こえてきてしまったので、五人は腹を括った。

口火を切ったのは、やはりカズヤだ。

 

「ハッ、冗談だろ? 勝手に決め付けてんじゃねーよ」

「ああ。そいつぁ聞けない相談だ」

 

笑い飛ばす彼に次いでクリスも応じるように不敵に笑う。

 

「人命と等しく、人の尊厳は守らなければならないもの」

 

翼が毅然と言い放つ。

 

「ナスターシャ教授が世界を守ってくれたんですよ。なのに、帰ってこれないなんておかしいです!」

 

決意を固めた響に、奏が大きく頷く。

 

「それに皆忘れてない? アタシ達の諦めの悪さってやつをさ。もし忘れてんなら改めて刻んでやるよ。なあ、カズヤ!!」

「あっったりめぇだろうが! ここまで来といて今更誰が!!」

 

五人で揃って獣のように、あらん限りの声で咆哮した。

 

 

誰が諦めるかああああああ!!!

シェェェルブリッットォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

五人から放たれる金の光が爆発的に膨れ上がり、眩い輝きは真夏の太陽すら霞むほど更に強烈なものとなって、シャトル全体を覆い尽くすどころか、青い空を一瞬にして金に染め上げる。

 

『...そうね、あなた達の諦めの悪さは世界一だったわね』

『皆さん、どうかマムをお願いします』

 

切歌と調と同じく、本部で待機中のマリアとセレナが涙ぐむ。

 

『フォニックゲイン、アルター値共に急上昇! ギアの出力も適合係数も同様です!!』

『シャトルが一気に減速していきます! 墜落地点を再計測......このまま行けば山の中腹に不時着可能です!!』

 

観測中のあおいと朔也の声に歓喜が混ざる。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

四人の装者の歌声が空を駆ける中、カズヤが雄叫びを上げた。

 

『カズヤくん、K2にはシャトルを安全に不時着させられるだけの平坦な場所はない。このままでは激突と変わらん! だから──』

「分かってるよ、なければ作る! この拳で!!」

 

弦十郎が何を言うつもりか察したカズヤが食い気味に返す。

十分な減速を果たしたシャトルの先端を足場にするように乗り移り、握った右の拳に力を込め、振りかぶり──

 

「シェルブリットォォォォォ──」

 

進行方向、真っ正面に迫った山の中腹目掛けて右の拳を振り抜いた。

 

「──ブワァァァストォォォォォッ!!!」

 

拳から放たれた黄金の衝撃波が、常軌を逸した貫通力を以て山の中腹を抉り、貫き、反対側までぶち抜き、酷く乱暴な方法でシャトルが余裕を以て通り抜けられるだけの大きさを持つ、即席のトンネルを作り出す。

その出来上がったばかりのトンネルにシャトルが突っ込む。

 

『シャトル、不時着を強行します』

 

不時着と同時に衝撃、次に激しい振動がシャトルを襲うが、装者四人の減速行為によりそれもすぐに止んだ。

そしてついに、トンネルの入り口から約三百メートル程度進んだ地点でシャトルが完全停止。

 

「任務完了...お疲れさん」

 

この時になってやっと肩の荷が下りた気分になり、ふう、とカズヤは安堵の溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

スペースシャトル墜落の救助を境に、特異災害対策機動部二課は、 正式に国連直轄下にて、 超常災害対策機動部タスクフォースとして再編成された。

新組織の名称は以前カズヤが弦十郎から聞いた通りの『Squad of Nexus Guardians』。略称は『S.O.N.G』。

その職員のメンバーは旧二課から揃えられており、当然、カズヤと装者八名も所属することになる。

以後は、主な任務を災害救助とし、多方面で目覚ましい活躍を見せることとなり、いつの間にか月日は三ヶ月が経過していた。

 

 

 

 

 

1:名無しのシェルブリットさん

このスレは文字通り光輝き何かと話題が絶えない男『シェルブリットのカズヤ』さんことKさんについて語る総合スレです。

 

次スレは>>980を踏んだ人が立てて下さい。

 

ということで、輝け!!(挨拶)

先日のニュース見たんだけどさぁ...皆はもう国連の発表見た?

 

2:名無しのシェルブリットさん

新しいスレ立て乙。またKさんが輝いておられるぞ!

 

3:名無しのシェルブリットさん

スレ立て乙 もっと輝け!(挨拶)

あの人光輝くからマジで目立つな

特定もすぐできるし

 

4:名無しのシェルブリットさん

国連が公式発表する前に誰が何やってんのか世界中が分かってて草

 

5:名無しのシェルブリットさん

国連「あれは"シェルブリットのカズヤ"が救助活動中の様子です」

世界中「見りゃ分かる」

これホント笑うwww

 

6:名無しのシェルブリットさん

国連もKさんが関わると下手な隠蔽できないって分かってるから、開き直って公表してんだろうなwww

 

7:名無しのシェルブリットさん

まあ、プロパガンタとして凄い効果あるだろうし

 

8:名無しのシェルブリットさん

本人は至って真面目に救助活動してるだけなのに、あの光のせいで勝手に広告塔になってて草

 

9:名無しのシェルブリットさん

スペースシャトルを不時着させる為に山ぶん殴ってぶち抜くとか、崩落する建物を丸ごと消し飛ばすとか、地盤とか岩盤引っ繰り返したり粉砕したりとか、やってること滅茶苦茶でスケールでか過ぎ!って思ったけど、よく思い出してみればあの人って落ちてくる月の欠片殴って粉砕してるから普通だなと思い直した

 

10:名無しのシェルブリットさん

俺達完全に感覚が麻痺してて草

Kさんがぶち抜いたK2のトンネルとか、もう既に登山家の観光名所になってるしwww

 

11:名無しのシェルブリットさん

流石Kさん

 

12:名無しのシェルブリットさん

略して、さすK

 

13:名無しのシェルブリットさん

サスケェ...

 

14:名無しのシェルブリットさん

忍んでない忍者は忍びの里へ帰って、どうぞ

 

15:名無しのシェルブリットさん

最近の↑の流れすこ

 

16:名無しのシェルブリットさん

でもこんだけ活躍してんのに相変わらずメディアへの露出一切しないよね

 

17:名無しのシェルブリットさん

そういうの苦手みたいよ

唯一出演してるのが翼ちゃんの動画。それ以外は奏ちゃん翼ちゃんマリアさんのSNSにちょろっと話題が出る程度。動画見る限り面白い人なんだけどなー

ネットラジオみたいな感じで、歌手三人に混ざって雑談とかでもいいからやらないのかな? 絶対視聴するのに

 

18:名無しのシェルブリットさん

ツヴァイウィングの公式サイトのブログも忘れてるぞ。あれ最早マネージャーさんのKさんに対する観察日記と愚痴になってるけどwwww

 

19:名無しのシェルブリットさん

愚痴はともかく観察日記っていう表現には草

アニメうたずきんの出演オファーきて、プロ声優さんに混じって演技なんて恥ずかしくてできるか! からのマネージャーさんに代役押し付ける流れに大草原ですわ

 

20:名無しのシェルブリットさん

でもマネージャーさん、Kさん本人かって思うくらい声そっくりで演技も上手いんだよな

 

21:名無しのシェルブリットさん

なお、恥ずかしいけどアテレコ収録には欠かさずマネージャーさんについてって見学している模様

 

22:名無しのシェルブリットさん

確かKさんって主演声優さんのファンなんだっけ?

 

23:名無しのシェルブリットさん

それもブログにあったなwww

声優さんもKさんのファンだから、いざ対面したらお互いに緊張でガチガチになって二人でおろおろしてたとか

 

24:名無しのシェルブリットさん

その様子想像して笑ったwww

代役立てるのはある意味正解だったのかwww

 

25:名無しのシェルブリットさん

うたずきんの公式も出演してる声優さん達も皆SNSで同じこと言ってたよ

 

26:名無しのシェルブリットさん

ところで最近の翼ちゃんの動画にさ、バイク停めて道の駅とか観光名所とか撮影してるタイミングで、マリアさんと奏ちゃんが背景に映る一般人みたいな感じで出てくるけど、あれ何なん?

 

27:名無しのシェルブリットさん

一般通過マリアさんと一般通過奏ちゃんな。マジレスすると車か何かで同伴してるんだろ

動画内では背景のみの登場なのに存在感あり過ぎてやたら目立つけどwww

 

28:名無しのシェルブリットさん

トップアーティスト二人が背景扱いで草

 

29:名無しのシェルブリットさん

仲が良いようでホッコリする

 

30:名無しのシェルブリットさん

そういや、マリアさんが最後にソロ活動したのっていつだ?

 

31:名無しのシェルブリットさん

フロンティア事変より前じゃね?

 

32:名無しのシェルブリットさん

歌手として復帰してからはマリアさん単独ライブねーよ

 

33:名無しのシェルブリットさん

ソロでCDも出さなくなったな

 

34:名無しのシェルブリットさん

いつもツヴァイウィングとコラボしてる

 

35:名無しのシェルブリットさん

むしろコラボしてない時がないぞ...これは一体どういうことだってばよ!?

 

36:名無しのシェルブリットさん

ライブも新作CDも最近はあの三人としてでしかやんないね

 

37:名無しのシェルブリットさん

もういっそ三人で新しくユニット組めばええのに

 

38:名無しのシェルブリットさん

それは俺も思った

 

39:名無しのシェルブリットさん

長いねん『ツヴァイウィング&マリア』って

今後この三人で活動する時は別名にしてくれ

 

40:名無しのシェルブリットさん

そもそもなんでマリアさんソロ活動しないん?

なんでツヴァイウィングといつも一緒なん?

 

41:名無しのシェルブリットさん

そりゃあ、恋人のKさんがツヴァイウィングのボディーガードだからだろうな

 

42:名無しのシェルブリットさん

翼ちゃんとも仲良いし

 

43:名無しのシェルブリットさん

それは確かに女としては見過ごせんか

 

44:名無しのシェルブリットさん

ん? ちょっと待ってくれ

Kさんがマリアさんと恋人で、翼ちゃんと二人でツーリング行くくらい仲良いのは分かってるが、じゃあ奏ちゃんとはどーなんだ? すっごい今更なんだけど

 

45:名無しのシェルブリットさん

そういやKさんと奏ちゃんの絡みってあんま見ないな

 

46:名無しのシェルブリットさん

でも翼ちゃんの動画で奏ちゃんのことよく話題になるじゃろ

 

47:名無しのシェルブリットさん

仲はきっと良いだろ

 

48:名無しのシェルブリットさん

ホントに~?

 

49:名無しのシェルブリットさん

少なくともボディーガードとしてそばに置くくらいは気を許してるんじゃない?

奏ちゃんって気に入らなければそういうの「要らねぇ!」って言いそうだし(勝手なイメージ)

 

50:名無しのシェルブリットさん

これは、調べる必要がありますねぇ(ねっとり)

 

 

 

 

 

リディアン音楽院の屋内プールを利用した体育の授業──水泳の時間。

学校指定の黒を基調とした水着に身を包んだ響達は、プールサイドに座って足を水に浸しながら、目前まで迫った三者面談や進路相談に関して話し合っていた。

 

「進路についての三者面談、もうすぐですわねぇ」

「憂鬱。成績についてのあれこれは、ママよりもパパに聞いてもらいたいよぉ...」

「ビッキーのところは、誰が来るの?」

 

寺島の呟きに板場がうんざりしたように項垂れ、安藤が響に話を振る。

 

「...う~ん。ウチは、お婆ちゃんかな? お父さんいないし、お母さん日曜日も働いてるし」

「そういうの、よくあるみたいだよ。何処も忙しいって」

 

僅かに顔を伏せて答えた響。その心境を察した未来が補足を入れた。

家庭のことを詳しく聞かれるのは、響にとってあまり気分の良いものではない。実はまだカズヤにも話せていないことがあり──いつか話せるようになりたいと思うが──今のところ唯一詳細を知っているのは未来のみだ。

 

「...そっか」

「優しいお婆様なのかしら」

「じゃないと、ビッキーの成績じゃ...」

 

幸い、三人は深く踏み込まない。板場は短く納得の声を上げ、寺島と安藤が響の成績が酷いことを思い出し、彼女の祖母の人柄を想像する。

 

「...成績悪くても、お嫁さんにはなれるもん」

 

少し拗ねたように口走る響に友人達の視線が集まった。

 

「確かに素敵な殿方がいれば、進学や就職ではなく結婚という選択肢もあり得ますね」

「そうね。で、何処にいんのよ? その素敵な殿方って。女子高の私達にはそもそも出会いすらないじゃん」

 

響の発言に、寺島が夢見るように瞼を閉じて頷き、その横の板場が不貞腐れたように溜め息を吐く。

しかし安藤には思い当たる節があったのか「あっ」と小さく声を漏らす。

 

「...ビッキー、もしかしなくてもそれカズヤさんのこと言ってるの?」

 

安藤の問いにぷいっとそっぽを向く響の耳が赤い。

そんなバレッバレな態度に恋バナ大好きな現役女子高生の三人が目を光らせるが、そこでハッと気づく。

 

「でも確かカズヤさんってマリアさんの恋人なんじゃ...」

「今思い出してもあの誓いとキスシーンはドキドキしますよね」

「きゃあああ! もしかして修羅場? 修羅場なの!? 三角関係なの!? アニメじゃないんだからぁぁ!!」

 

現実を見据えた安藤がぼやき、全世界生放送されたあの時のことを脳裏に描いた寺島がうっとりし、板場がやたら興奮した様子で嬉しそうに叫ぶ。

 

「べ、別に修羅場とかじゃないけど、私の方が絶対──」

「響」

 

三人に向き直った響が何か言おうとするが、未来に呼ばれて遮られる。

振り返れば未来の視線が響に注意を促していた。

これ以上、この話を続けるのはいけない。この話を続ければ、必ずボロが出る。それは絶対にダメだ、と。

 

「何よ響? 『私の方が絶対』の続きは? 『私の方が絶対マリアさんよりカズヤさんのこと好きなんだから!』って言いたいの?」

 

茶化すようなことを言ってくる板場の隣で、寺島が首を傾げて疑問を口にする。

 

「そういえば以前、立花さんとカズヤさんのお二人、デートしてましたよね?」

 

響と未来は思わず血相を変えた。話がヤバい方向に向かって突っ走っている気がする。なんとか軌道修正を図りたいが切っ掛けが思いつかない。

寺島に視線を向けた板場と安藤が同様に首を傾げて考え込む。

 

「確かにあの時デートしてた!! ......ん? でもマリアさんと恋人なんでしょ? あれ? 響の今までの態度見た感じカズヤさんに振られたって訳でもなさそうだし...え? これってまさか!!」

「もしかして、二股!? ビッキー二股かけられてるの!?」

 

当たってるけど数が足りてないから大正解にはならないが、ほぼ正解なので響と未来は頬を引きつらせ冷や汗をかく。

そんな二人のリアクションに三人は確信を得たのか、表情が険しくなった。

 

「これが本当だとしたら、私はカズヤさんを見損ないました」

「いくら世界を救った英雄だからって、ハーレムアニメの主人公じゃないんだから!!」

「私、結構カズヤさんのこと憧れてたんだけどなぁ...ビッキーに二股かけてるとか知っちゃうと幻滅しちゃうよ」

 

二股どころか七股なのだが、そんな事実は告げたところで火にガソリンをぶち撒けて大炎上させるだけなので告げる訳にもいかないし、一般的な女性として至極当然な反応や言い分に反論するのも難しい。

 

「ちょっと響! これを機にカズヤさんにガツンと言いなさいよ!!」

「そうです立花さん! マリアさんではなく自分を愛して欲しいと言うべきです!!」

「私達がビッキーの為にできることなんて少ないかもしれないけど、可能な限り力になるよ!!」

 

どんどんヒートアップしていく三人にどうしたものかと頭を抱えたい響と未来。

いつかはどんな形であれ、こういうことになるのではないか。と、未来は心の中で危惧していたことが現実になり溜め息を吐きたい気分になる。

世間の認識では、カズヤとマリアは恋人同士。そして世界を愛で救った二人の英雄と見なされていた。それは間違っていないが、あくまでもマリアは七人いるカズヤの女の一人でしかない。

しかし、真実を知る者は身内の人間だけなので、今回のような場面に出くわすと非常に面倒臭いことになる。

本当のことを伝える訳にもいかないし、上手く誤魔化せるとは思えない。かといって未来個人としては、カズヤが女誑しと罵倒や中傷されるのは許しがたい。そもそも彼は自分からは決して手を出さない、来る者拒まずな考え方なので、彼を女誑しと罵っていいのは自分達だけだと思っている。

 

(未来、どうしよう!?)

(全く...)

 

以心伝心。どう返すか困ってしまった響からのヘルプを受け、未来はしょうがないなと口を開く。

 

「まあ、響のことは置いておくとして、私は進学かな。ピアノの勉強がしたくてこの学院選んだ訳だし」

 

かなり強引で会話の流れとしては少し不自然だが、話を変える。

三人の視線が響から未来へと向いて、目論見は上手くいったと内心で安堵。

 

「ヒナはビッキーみたいに成績悪くないし、心配ないね」

「三者面談も進路相談も小日向さんは問題なさそうでナイスです!」

「成績良くて将来やりたいことがあって、未来は響とは大違いね」

 

三人の言葉を受け、ふと思う。

将来、学院を卒業後、自分はどうなるのだろうか?

勿論、今告げた進学するという内容に嘘はない。ないが、

 

 

『...成績悪くても、お嫁さんにはなれるもん』

 

 

先程響が言ったことが脳裏を過る。

今自分達が将来のことを考えているように、カズヤも将来のことを考えたりするのであろうか。

......いや、たぶん、あの男のことだから何も考えていないだろう。

でも、今と変わらず自分達のそばにいてくれるはず、という確信はある。

 

(お嫁さん...か)

 

もし進学しない場合は、そっち方面に舵取りしても良いかもしれない。

カズヤや響達が、外で誰かを助ける為に懸命に働いている間、帰りを待ちながら家を守る。

いってきます、いってらっしゃい。

ただいま、お帰りなさい、お疲れ様です。

そんな他愛のない、けれど何よりも尊いやり取りが毎日繰り返される平穏な日々。

 

(響の言う通り、このまま進学しないのもありなんだよね)

 

このまま翼の父──八紘の計画通りに風鳴家をカズヤが乗っ取り、大きな屋敷や土地、財力や権力を手にしたとしても、未来は自分の両親を説得させられるだけの自信がなかった。

その場合、最悪両親と大喧嘩の末に勘当されることを、既に覚悟している。

面倒だなとは思うが、日本の法律では一夫多妻を認めていないので、一名を除き他は内縁の妻となるしかない。

だが、それでもいいと思う。皆と幸せに暮らせるのなら、書類上及び戸籍上の関係など紙屑同然。

だって彼も、そういう細かいことを気にするような(タチ)ではないのだから。

それに──

 

(...............いつ赤ちゃんができるか分からないし)

 

未来は気がつけば右手で自身の下腹部を撫でていた。

ルナアタックの際に聞いた話を思い出す。この世界の人類──ルル・アメルはカストディアンという神に創造された存在だ。対してカズヤは別の世界からやってきた人類。両者の遺伝子構造が異なる事実をフィーネから直接聞いた未来は、カズヤとの間に子どもを授かるのは難しいという現実をこれまでのことから実感していた。

それでも希望はある。去年の春にカズヤが響と共に二課に所属する際に行われたメディカルチェックの結果、ルル・アメルと彼の間に子を残せる可能性がある旨を弦十郎がフィーネから聞いていたらしい。

たとえそれが宝くじで一等を当てるレベルの奇跡が必要だったとして、未来は諦めるつもりはない。

 

 

 

 

 

『LIVE GenesiX』。それはノイズをはじめとする超常脅威による犠牲者の鎮魂と遺族の救済を目的に企画されたチャリティライブイベント。

世界各国からアーティストが参加しており、海外進出を果たしたツヴァイウィングとマリアも本日参加する予定だ。

ロンドンで開催される為、日本にいる響達はテレビ放送での視聴をすることになっていた。

そして時刻は夜。

場所はマリア達が暮らすマンションのリビング。そこには、部屋の住人であるセレナ、切歌、調に加えて、同じマンションの別の部屋に住むクリス、響と未来、安藤と寺島と板場が集まっている。

皆でソファーや椅子に座り、早めに集まったが故にライブが始まるのを今か今かと待ちわびている状況だ。

 

「で、セレナはなんでここにいるんだよ? お前、マリアの付き人だったんじゃねぇのか」

「今回はお休みしました」

 

本来ならマリアのそばにいるはずのセレナがこの場にいることに、クリスがポテチを頬張りながら不思議そうに問えば、セレナが疲れ切った声で即答。

 

「休んだって、なんで?」

 

パチクリと何度も瞬きを繰り返すクリス。

他の者達も彼女の返答が意外だったのか、黙って続きを待つ。

 

「面倒臭くなったんです。マリア姉さんの相手が」

「......面倒臭いって、具体的には?」

 

クリスに促されたセレナが遠い目をして語り出す。

元来、マリアという女性は引っ込み思案で上がり症だった。なので、対策として豪華なケータリングをたくさん食べてテンションを上げ、アイドルとしての自分を文字通り演じさせることでなんとかボロを出さずに問題なく活動してこれた。

だが、マリアはカズヤという思う存分甘えてもいい相手を手にしたことにより、今まで年長者として振る舞っていた重圧から解放され、彼の前でなら何かを演じる必要もなく、ありのままの自分を晒け出せるようになり、面倒を見る側から見てもらう側へとなる...なってしまったのだ。

それが特に顕著となるのはライブ前の控え室。

 

「毎回毎回小さな子どもみたいに『たくさんの人の前で歌うの緊張する!』、『ステージに上がるの怖い!』、『だからお願いカズヤ、緊張解す為に膝枕と頭撫で撫でして!』とかなんとか、本番前の控え室で我が儘言い出すんですよ!? 今まで一度もそんなことなかったのに、何カズヤさんの前でだけ幼児退行してるんですか!?」

 

形の良い眉を顰めたセレナがこれまでのストレスを吐き出すように突然叫ぶ。

 

「カズヤさんもカズヤさんですよ! マリア姉さんのこと散々甘やかして、これっぽっちも注意しようとしないですし!!」

「...まあ、あいつは女を甘やかすのが趣味みてぇなとこあるからな...」

 

彼にどっぷり甘える人物の中で筆頭の立場にいるクリスは、マリアの気持ちが分からないでもない。例えば、彼から「もう俺に甘えんな」とか言われ更にスキンシップまで禁止にされたら、冗談抜きでストレスで死ねる。

 

「ということで、今回はお休みしたんです、もう疲れました。本番前に幼児退行して駄々をこねるマリア姉さんをカズヤさんから引き剥がす役目は奏さんに引き継ぎました」

「押し付けたの間違いだろ」

 

冷静なクリスの突っ込みを華麗にスルーし、セレナは手元に用意していたジュースを飲み干す。

マリアがこれまでに築き上げてきた威厳やらイメージやらをあっさり瓦解させる話を聞き、安藤、板場、寺島の三人は予想の斜め上の事実に驚きで呆然としていた。

クリス、響、未来は、その辺りをなんとなく察していたというか、マリアの気持ちが分かるのであまり驚いた様子はない。

 

「...ということはデスよ」

「...今まさに...」

 

カズヤが関わると途端にポンコツになるというか、色々な意味でまるでダメな女になる姿を何度も目にしてきた切歌と調は、呆れたようにライブ中継のテレビに視線を注ぐ。

今回もツヴァイウィングとマリアはコラボしているので、出番は一緒。で、その出番まではまだ少し時間があるということは?

 

「確実に今、控え室でカズヤさんにしがみついてるマリア姉さんを奏さんが引き剥がそうとしてますね」

 

平然と言い放つセレナの言葉に、奏は損な役回りを押し付けられたものだと誰もが同情した。

 

 

 

「お前毎度毎度いい加減にしろよ!!」

「あとちょっとぉぉ! あと三分、いえ、五分でいいからぁ! カズヤの膝枕の温もりと頭撫で撫でがもうちょっとだけ欲しいのぉぉぉ!!」

 

 

 

「ところでカズヤさんが立花さんとマリアさんの二人に二股かけているというのは本当ですか?」

「「「「ぶっ!?」」」」

 

唐突な寺島の疑問に当の本人の響、未来、クリス、セレナが吹き出した。

それぞれが偶然お菓子やジュースを口に含んでいた状態だったので、激しく咳き込んで喋ることができない間に、誰よりも空気を読むつもりのない切歌が楽しそうに笑い出す。

 

「カズヤは女っ誑しだから二股じゃ済まないデース!」

「「「っ!?」」」

 

寺島、安藤、板場の三人が目を剥き、そこに調の要らんフォローが入る。

 

「今のところ七股。ご存知マリアと響さん、それにセレナ、未来さん、クリス先輩、翼さん、奏さん...世間には広まってないけど、S.O.N.Gでこの事実を知らない人はいない。ちなみにS.O.N.Gでのカズヤの渾名は『ドクズ』、『女の敵』、『女っ誑し』などなど」

 

最早寺島達三人は唖然とするしかない。まさか世間で英雄と持て囃される知り合いの男性が、実はとんだクソ野郎だという真実を聞かされ、ショックで凍りつく。

 

「......この、余計なこと言いやがって!!」

 

いち早く復活したクリスが来客用スリッパを脱いで手にし、それで切歌と調の頭を全力で引っ叩く。

バコンッ! バコンッ! と決してスリッパから出てはいけない音がリビングに響き、二人が頭を押さえて涙目になるが、この面子の中で最も短気な性格のクリスの怒りは収まらない。

更に二人に掴みかかろうとしたところを、咄嗟に背後から響が羽交い締めにし、未来とセレナが左右から腕を取り押さえる。

当然暴れるクリス。

 

「離せこらぁっ!! この調子に乗ったガキ共に自重って言葉を教えてやるんだよあたしはぁぁ!! ここがS.O.N.Gの本部でもねぇのに事情も知らねぇ部外者にいつものノリで喋りやがってぇぇっ!!!」

「落ち着いてクリスちゃん! 気持ちは分かるけどお願い落ち着いて!!」

「クリス、ストップ! ストップだってば!!」

「クリスさん私が後で厳しく言って聞かせます! だから今は堪えてください!!」

「うがああああああああ! せめてコブラツイストかアームロックさせろぉぉぉっ!! 体に教えてやるぅぅぅっ!!!」

 

気炎を吐いてジタバタもがくクリスに、本気で怯えて抱き合う切歌と調は思い出す。彼女がカズヤのことに関してキレると、一切容赦がなくなることを。それで一度、元F.I.Sの四人は、ミサイルと弾丸の嵐をこれでもかとぶち込まれて殺されかけたのをすっかり忘れていた。

 

 

 

「カズヤさんがアルター能力っていう特殊な力を持ってて、それがシンフォギアと抜群に相性が良いのはルナアタックの時から知ってたでしょ。それで、カズヤさんと私達の間に、その、もし子どもが生まれた場合、アルター能力を持った子や、シンフォギア装者としての適性を持った子、もしかしたら両者の力と適性をかけ合わせた子が生まれるかもしれないって期待されてるの」

 

なんとかクリスを落ち着かせた後、未来は必死に頭を高速回転させつつ、三人を騙す為の嘘っぱちなカバーストーリーをペラペラと喋っていた。完全にでっち上げのでまかせなのだが、半分は本当だと思う。実際、風鳴家への婿入りの話はカズヤの血を欲しがられた結果だからだ。

 

「私達はカズヤさんのお嫁さん候補、ていうかお嫁さんなんだ。このことについては皆ちゃんと納得してるし、べ、別に、カズヤさんとの間に愛情がない訳じゃないし...カズヤさん、私達のこと凄く、た、大切にしてくれるし」

 

言ってて顔が熱くなる。友人とはいえ、完全なる部外者に彼との関係を話すのはやはり恥ずかしい。横目でチラリと響とクリスとセレナを窺えば、三人共揃って両手で赤い顔を覆っている。

 

「だから、確かにS.O.N.Gの本部では今切歌ちゃんと調ちゃんが言ったような酷い言われ方されてるけど、実際にカズヤさんから手を出してきたことは一度もないし、私達は自分の意思でお嫁さんに立候補したの。皆には、ここを勘違いしないで欲しいな」

 

そう締め括り、説明を一旦終わらせると、どっと疲労が押し寄せてくる。

今後も似たような事態が発生した時に同じような説明をしなければいけないのかと考えると、気が遠くなってきた。

続いて未来の言葉を引き継ぐ形でクリスが述べる。

 

「以前あいつの存在が国家機密として秘匿されてたのは知ってんだろ? この件はそれより更にデリケートな話だからな...もし口外したら、たとえお前らが事情を知ってても関係なく黒いスーツ姿の怖い兄ちゃん達に連れてかれるから気をつけろよ」

 

完全に脅しのかけ方が悪の組織の女幹部然としているが、三人は事がどれだけ重大なのかを勝手に想像してくれたらしく、何度も無言のままコクコクと頷く。

 

「ということで、切歌さんと調さんは今後軽々しくカズヤさんのことを、特に女性関係について面白おかしく話さないように...私達にとっては何気ないことでも、それで一般の方々を巻き込まないとは限りません」

「...ごめんなさいデス」

「ごめんなさい」

「謝る相手は私ではないですよね?」

「「すいませんでした」」

 

腰に両手を当てて立ち上がったセレナが諭すように叱ると、その前で正座させられた切歌と調が実に素直な態度で謝罪する。

謝られた三人──特に寺島は、そんなことはない、二人は悪くない、こちらこそ変なことを言って申し訳ないと謝り返す。

嘘が嘘を呼び、こちらの都合と見事な連携で自分達の関係を勝手に機密扱いにしてしまい、話が大きくなった気がするが、釘を刺しておくという意味ではこのくらいで丁度いいのかもしれない。

 

「それにしてもお嫁さん候補七人って...」

「ちょっと想像できないですよね」

「アニメじゃないんだからぁ...」

 

馬鹿げた事実に呻く三人。

と、ここでテレビから一際大きな歓声が聞こえてきて、皆の注目を集めた。

 

「いよいよ始まるデス!」

「やっとマリア達の出番が回ってきたみたい」

 

興奮してあからさまにテンションを上げた切歌と調の言葉通り、画面には筆記体の煌びやかな文字で『Zwei Wing & Maria』と表記され、続いて曲名が表記されたと同時に音楽が流れスポットライトが輝き、三人の歌姫が映し出される。

ステージ用の衣装を身に纏い、光の中で歌う三人に、誰もが固唾を呑み、視線が釘付けになり、その歌声に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん」

 

カズヤは、出番を終えステージから退場した三人に対し、軽く拍手しながら労いの言葉を掛ける。

 

「カズヤ、カズヤ、カァァズゥゥヤッ!!」

 

すると、誰よりも早く喜色満面の笑みを浮かべたマリアが何度も繰り返し名を呼びながら走り出し、そのままの勢いで跳躍しカズヤに抱きついた。

彼女を抱き留めながらその場でくるりと横に一回転して勢いを殺すと、彼女の浮いていた足を床に着ける。

 

「ねぇねぇ、どうだった?」

「今日もバッチリ決まってたぜ」

「でしょ! えへへ、カズヤのお陰よ」

 

照れつつも嬉しそうに笑うマリアの顔が至近距離にあって、少しどぎまぎした。

 

「何がカズヤのお陰だ。お前のせいでギリギリだったじゃんか!」

「ぐわっ!?」

 

そこへ、マリアの後頭部に僅かな怒りと多大な呆れと若干の嫉妬を込めたチョップを繰り出す奏。

 

「痛いわよ奏! 目玉が飛び出るかと思ったわ!」

「いい加減なんとかならない? 緊張解す為に本番始まる時間ギリギリまでカズヤにくっ付いてんの。毎回冷や冷やもんさ」

「というか、これに関してはカズヤもマリアを甘やかさないようにするべきよ」

 

涙目で文句を言いつつカズヤから離れようとしないマリアに、奏がうんざりしながら苦言を呈し、加えて翼からも便乗して注意を促され、流石にカズヤもバツが悪そうな顔をした。

 

「...あー、すまねぇ...」

「アンタがアタシ達にだだ甘なのは今に始まったことじゃないけど、そこはちゃんとメリハリつけてさ.........つーか、アタシだって我慢してんだからね! アタシだってできるんなら本番前に色々して欲しいっつの!!」

「カズヤから本番前に色々......胸が熱くなるな」

「悪かったよ。埋め合わせはちゃんとするって」

「「ヨシッ!!」」

 

なんか上手い感じに嵌められた気がするが、とりあえずマリアに告げる。

 

「ということでマリア、今後はもうちょい自重しような」

「...カズヤが言うなら仕方ないわね、善処するわ」

 

この中で最年長者でありながら、親に窘められる幼い子どものような──カズヤからは可愛いと思われ、逆に女性からはあざといと感じる──態度で不承不承返事をするマリアに、奏と翼は揃って信用できんと思ったが口にはしない。

 

「あと、そろそろ離れてそこ譲りな」

「はいはい」

 

奏に催促されたマリアがカズヤからパッと離れる。と、奏が周囲を見渡し、誰か見ていたり監視カメラが見当たらないか確認してからカズヤにギュッと抱きつく。

 

「いやぁ、思いっ切り歌った後のハグは良いね。癒されるよ」

「お疲れさん」

「そうさ、奏さんはお疲れさんなんだよ。だからもっと労って」

「わぁーってる」

 

背中と頭に手を置き撫でれば、「うっへへ」と笑い声を漏らしつつ、奏が抱き締める力を強くした。

 

「次は私ね」

 

奏が離れ、続いて翼が抱きついてくる。それはもう、ギュウギュウ力強く。

 

「......このまま押し倒したい」

「それはもうちょい我慢しろ」

 

 

 

三人の歌姫を引き連れて、カズヤを先頭にマネキンがズラリと並ぶスタッフ専用通路を歩く。

 

「それにしてもこの通路は気味ワリーよな」

 

少し薄暗いと感じる照明の中、左右をマネキン達に挟まれた長い一本道。ホラーをよく見る癖にホラーが苦手なカズヤは若干落ち着かない様子で話を振る。

 

「ちょっと不気味だよね、ここ、なんか出そうで。こう突然、ヴアアアアア!! って」

「むしろマネキンが動き出して襲い掛かってきそう。生きている人間を妬んでるのよ、その肉体を寄越せ!! っていう感じに」

「そういえば昔マリオネットというタイトルのホラー映画が──」

「おいやめろ! 俺は共感を得たいだけであって、恐怖を煽れとは言ってねぇ! 物理攻撃が効くなら対処できるが、全くこれっぽっちもビビらねー訳でも怖くねー訳でもねーからな!!」

 

奏がうんうん頷いたと思ったら絶叫し、マリアがからかうように言ってから同じように絶叫、翼が映画の話を出してきて、カズヤは自分の迂闊さを呪った。

三人が背後でクスクス笑う。

そちらに恨みがましいの視線を飛ばしてから前に向き直り、ふと違和感を覚えて立ち止まる。

 

「カズヤ?」

「...」

 

首を傾げるマリアに応えず手で制した。

突如緊張感を纏い、腰を落とし身構えた彼にただ事ではないと咄嗟に判断した三人にも緊張が走る。

 

「っ!」

 

次の瞬間、短い呼気と共に淡い虹の光を全身から放ち、周囲のマネキン達を纏めて虹の粒子に分解し、シェルブリット第二形態を発動させたカズヤが見たのは、分解されたマネキン達に紛れていた緑色の服を着た一人の女だった。

そいつに向けて迷わず跳躍し拳を振るえば、女は緑を基調とした服とグレーのロングスカートをひらりと翻し、ダンスでも踊るようにくるくると回転をしながら拳を躱し、間合いを離した。

 

「突然殴りかかるとは不躾な輩ね」

「不意打ちしようとしてた奴が何言ってやがる」

 

謎の女は薄い笑みを浮かべてこちらを値踏みするような視線を向けてくる。

無機質な白い肌にガラスのような目。まるで人形のようで、カズヤ達は先程までホラー系の話をしていただけあって、目の前の存在が余計薄気味悪く感じてしまう。

 

「何者だ!?」

「オートスコアラー。名はファラと申します、以後お見知りおきを」

 

翼の警戒を含んだ質問に素直に答え、カッ、カン! とフラメンコを踊るような動作でハイヒールで床を叩き、ロングスカートの裾を摘まんで優雅に一礼。

 

(オートスコアラー? 自動、採点者? 何を意味するんだ? それとも何かの暗喩か?)

 

名乗った言葉に疑問を抱く間に相手が口を開く。

 

「"シェルブリットのカズヤ"...気配も殺気もない私にどうやって気づいたのですか?」

「ただの勘だ」

「勘......なるほど」

「次はこっちだ。俺に、いや、俺達に何の用だ?」

 

拳を構え油断なくカズヤが睨む。

 

「強いて言えば」

「「「「っ!?」」」」

 

ファラと名乗った女はまるで手品のように、何処からともなく一振りの剣を突然出現させ、握ったそれの切っ先をこちらに向けて告げる。

 

「邪魔者の排除」

「そうかい」

 

まともに話をしても無駄と悟り、カズヤが踏み込む。

剣を装備しているが分解してしまえば無力化は容易い、そう考えたが──

 

(分解できねー!? どういうことだ!!)

 

本来なら生物以外の無機物を問答無用で分解、粒子化できるはずなのに、剣は未だに形を保っていた。

 

「ちっ」

 

舌打ちし、こちらを迎撃する為に振るわれた剣を、手の甲で下から斜め上に裏拳するように弾き、跳ね上げて、

 

「オオラァッ!!」

 

上体を反らすように体勢を崩し、隙を晒したそこへ、右ストレートを顔面に叩き込む。数秒間水平にぶっ飛んだ後、何度もバウンドしながら転がり離れていく。

 

「うわっ、容赦ねぇ」

「殺ったか?」

「いやいや待て待て待ちなさい! いくらなんでもやり過ぎでしょ!! 今ので死んでたらどうするのよ!?」

 

倒れ伏した女を見据えて奏が呟き、カズヤに手応えを確認する翼、そして顔を蒼くするマリア。

 

「マリアは心配症だな......死体や証拠品など残すものか」

「......ほら、生きてないなら死体も無機物扱いらしいから、跡形もなく分解できるし」

「...あなた達発想が怖いわよ...!? ギャングやマフィアじゃないんだから...」

 

ボケているのか本気なのかイマイチ分からない翼と奏の言葉にマリアが狼狽える。

 

「...一応加減はしたが、殺ってねーよ...つーか、そもそも殴った感触が人間じゃねー。なのに、いくら分解しようとしても分解できねーし、おまけにあの剣すら分解できねーぞ......何だこいつ、一体どうなってんだ?」

 

戦慄の声を出すカズヤの横顔を見てから、倒れ伏した女に視線を戻す三人。

視線の先でファラが立ち上がる。まるでそれは糸で操られたマリオネット──倒れた状態から宙吊りにして無理矢理立たせるような、人間では不自然かつ到底不可能な動きで。

気持ち悪い、四人は純粋にそう感じた。

その翠の眼球を何度も何度も、スロットのように下から上、下から上へと動かして、気持ち悪さは更に強くなる。

やがて眼球の動きが止まり、翠色の目がカズヤを射抜く。

 

「"シェルブリットのカズヤ"。警戒すべきはその戦闘力のみならず、どんな物質でも瞬時に分解し、己の力へと再構成する能力を持つ、ノイズとは相反する力......本来ならばその力の前で為す術もなく私は倒されていたでしょう。しかし、対策を立てておけば問題ありません」

「その口ぶり。テメー、人間どころか生き物ですらねーな」

「はい。私はオートスコアラー、ただの人形に過ぎません。だからこそ不思議でしょう? 生き物ですらない私を何故分解できないのか?」

 

正解を言い当てればあっさりそれを認め、逆に煽るような口調で質問を投げてくるので、

 

「ワリーが、お人形遊びには興味ねーからどうでもいいぜ!!」

 

踏み込んで拳を振りかぶり、殴り掛かった。

カズヤの拳と人形が持つ剣が衝突する。




冒頭のシャトル救助にて元F.I.S四人が待機している理由は、保護観察期間が終わって少し経過したけどS.O.N.Gが正式に発足する前という微妙な時期なので、今後のことや大人の事情を考えると作戦に参加させるのは微妙だったから。

原作アニメ『スクライド』でもカズマがシェルブリット第二形態の状態で衛星軌道上にある衛星兵器を破壊しに大気圏突破してるから、実はカズヤも第二形態以上なら平気。
空気? そんなもんは"向こう側"の力でなんとかしてるに違いない。

K2、トンネルは空いたけど標高世界三位に下方修正されるのを回避。
なお、開通したトンネルは観光名所というよりはインスタ映えするような場所だが、場所が場所なんでガチの登山家しか来ない、つーか来れない。

響と未来、将来について考える。そして響は嘘がつけないので態度に出る、そのせいで厄介事を持ち込む。
ちなみにカズヤは本当に何も考えてないので、その分を未来が考えることになる。

テレビでライブ見てる場所が元F.I.S四人の部屋である理由。
クリスちゃんは原作と違って一人暮らしをしておらず、奏とカズヤと三人暮らしだけど、『カズヤと同棲』がバレるともうヤバいので、元F.I.S四人の部屋でええやんってことになる。

セレナ、マリアの付き人休業中。
理由は本人が述べた通り。
なお休業中は、普段より多めかつ濃厚にカズヤとイチャイチャするチャンスを虎視眈々と狙っている。
この姉にしてこの妹であった。

マリアさん、カズヤの前だと精神年齢低下。特にライブの直前。
今まで年長者として振る舞ってきた反動。プラス、今はそんなことをする必要がなく思う存分甘えられる相手がいて、そいつが甘えた分だけ甘やかすから......仕方ないね。
しかし、恋人同士と世間からは認識されてるのをいいことに、これ幸いとイチャついている節もある。
つまり、セレナと似た者姉妹。

切歌と調、口が軽い。
でも今回の件で反省し、結構堅くなる。
ちなみにスリッパで叩かれた時は頭蓋骨に罅が入ったと本気で思ったとのこと。

奏と翼、相変わらず。
奏は皆の前だとちゃんと我慢するけど、プライベートだと凄い! 我慢? 知らないねぇ! ってなる。
翼はカズヤを押し倒して跨がれれば満足。

クリスちゃん、学校でも装者としても後輩ができて当初は張り切るが、自分の周囲の面子を見渡して「...バカばっかりじゃねぇか...」と一人嘆き、ほどほどにしておこうと思い直す。
なお、ヒロイン達の中で最もカズヤに甘えている人物なので、下手なことを言うと今日のおまいうスレはここですか状態になり、取っ組み合いが始まる。



これまでの実戦や訓練で繰り返しカズヤと同調した結果、LiNKERを必要としていた奏はフロンティア事変後に、マリア、切歌、調は最近になって適合係数が正規適合者並みに上昇し、現在装者全員がシンフォギアの運用にLiNKERを必要としなくなっている。

適合係数の高さの順位
一位 クリス
同着二位 翼、響
四位 セレナ
五位 奏
六位 マリア
同着七位 切歌と調
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