カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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前回の飛行機内でのシーンで、描写がおかしい部分があったので修正しました。
ご指摘いただき、ありがとうございます!


覚醒 (エゴ)を映す鏡

その時、誰よりもその反応にいち早く察知したのは、やはりカズヤだ。

 

「っ!? 奴らが動いた...!」

 

すぐそばでカズヤと共に本部で待機していた奏達が顔色を変える。

次の瞬間、司令部にてアラートが鳴り響く。

 

「高レベルのアルター値を検知! ほぼ同時にアウフヴァッヘン波形を確認、ガングニールです!」

「アルター値の数は二つ、恐らくオートスコアラーと思われます!」

「位置特定急げ、付近の監視カメラの映像を回せ! 近隣住民の避難誘導準備も怠るな!」

 

急に司令部は慌ただしくなり、朔也とあおいが矢継ぎ早に報告し、弦十郎が大声で指示を出す。

 

「位置特定完了!」

「映像、出ます!」

 

メインモニターに映し出されたのは、下校中の響と未来、クラスメートの安藤、板場、寺島。そして彼女達の前に立ち塞がる二体の人形。

更に二体の人形からは、金色の光──"向こう側"の力が迸っている。

その光景を見た瞬間、カズヤは何も言わず一目散に駆け出し司令部から出ていく。

 

「カズヤ、アタシ達も行くよ!」

 

奏がカズヤに続いて走り出し、それに翼、マリア、セレナがついていく。

指示を出す前に勝手に動いたことを誰も咎めることはせず、弦十郎は厳しい表情でモニター内の戦闘を見つめる。

 

「"向こう側"の力を手に入れて、すぐに戦闘特化のミカを投入してくるなんて...」

 

そこへ白衣姿のエルフナインと、同じ白衣姿の調──の肉体を借りているフィーネが現れた。

 

「響ちゃん、無理しないでって言っても誰かを守る為にしちゃうのよね......だから急ぎなさいよ、カズヤくん」

『...響さん...』

 

フィーネが一人言のように呟き、調が声なき声で名を呼び仲間達の無事を祈る。

 

 

 

 

 

右ストレートの一撃を、細長く赤い水晶のようなもので容易く受け止められ、響は瞠目する。

 

「お前のパンチ、強くないゾ。それともミカ達が強くなり過ぎたか?」

 

首を傾げる人形のリアクションに構わず一度拳を引き、今度は左拳を繰り出す。

またしても防がれるが、単発では終わらない。攻撃力が足りないのなら手数。拳に加えて蹴りも混ぜ合わせた連撃、嵐のようなラッシュを叩きつける。

 

「よっ、ほっ、それ」

 

軽い口調と余裕の態度で捌くミカだったが、響から見れば武術の師匠である弦十郎と比べ、その防御はおざなりだ。だからこそ、一瞬の隙を突くようにして顎に右アッパーをぶち込んだ。

浮き上がったミカへと追撃する為に跳躍。そのまま前方宙返りをする勢いで踵落としをお見舞いする。

頭頂部に踵を食らい、レンガ造りの路面にクレーターを作りながらうつ伏せの状態で叩きつけられるミカ。

 

「おおおおおりゃあああああ!!」

 

重力、全体重、腰部分のスラスターからの噴射、そして渾身の力を込めて、ゴツいガントレットを更にゴツく変形させミカの背中に右の拳を振り下ろす。

腹まで響く重低音と共に、衝撃で周囲の路面のレンガが粉々に粉砕され、舞い上がり、地面にクモの巣状の罅が入って大きく陥没した。

これまでと比べ遥かに高い威力に、流石のミカも一時的に動かなくなる。

 

「ちっ、やっぱそれなりに戦い慣れてるな」

 

舌打ちし、忌々しいと言わんばかりの視線を送りつつ、そんな評価を下すガリィを次の標的とし、ミカをそのままに響は走り出す。

ガリィは両手に水を纏わせ、そこから銃弾のように小さな水球を飛ばすが、響には当たらない。高速でジグザグに動き的を絞らせないようにしながら、確実に間合いを詰める。

 

「この、調子に乗んな!」

 

一気に手が届く距離まで迫った響を迎撃しようと、右手に纏わせていた水を鋭い氷の刃に変え、その喉元目掛けて刺突を繰り出してきた。

対する響は、踏み込みながら前傾姿勢になって刺突を掻い潜って回避しつつ、ガリィの右腕に左拳をかぶせるように振り回す。

一瞬、ガリィの右腕と響の左腕が十字に交差する。

プロボクサーや格闘技に詳しい者が見たら、誰もが惚れ惚れしてしまうほどに美しい、クロスカウンターが綺麗に決まり、ガリィが吹き飛んだ。

 

「アハハ、ガリィみっともないゾ」

「......うるっせぇ! 人のこと言えねぇだろが!!」

 

しかし、人形達は痛みがないのか、平然と立ち上がってきて、響は歯噛みした。

 

(やっぱり普段私達が同調する時みたいに、異様にタフになってる?)

 

たぶん痛みがないだけで、多少は効いてると思いたい。

額に流れる汗を拭う余裕もない。響にとって先の攻防はギリギリだった。敵の一挙手一投足に全神経を注ぎ、隙を見つけて、叩き込んでやった攻撃なのに。

 

「今度はミカの番だゾ」

「お返ししてやるよ」

 

ミカとガリィが同時に動く。

 

(速いっ!)

 

爆発的な速度で突っ込んでくる二体の動きに神経を研ぎ澄ます。

先程のタフさ、この速度からして、攻撃力もかなり高くなっていると予想されるので、攻撃は受けたり防ぐのではなく、全て躱すことを心掛ける。

弦十郎との訓練を思い出しながら響は回避に徹する。体捌きは風のように、流れる水のように、それを強く意識した。

振り回される氷の刃を屈んで躱す、薙ぎ払われる赤い水晶の間合いから僅かに距離を置く、突き出された鉤爪を半身になって避ける。

柔よく剛を制す。その言葉を体現した動きで、二体のオートスコアラーから生まれる暴力の渦を紙一重でひらすらやり過ごす。

 

「全然当たらないのはつまらないゾ!」

「チョコマカと!」

 

苛立ったような声の後に、二体同時に大振りかつ雑な攻撃──上段からの振り下ろしが来たのでバク転で躱し、両足が地に着いた瞬間前へと踏み込み、

 

「せいっ!!」

 

裂帛の気合と共に両の拳をそれぞれの胸部に突き出した。

 

「...っ!?」

 

だが、拳に返ってきたのは先程とは異なる感触。硬い壁を殴ったような感覚に戸惑う前に見たのは、拳は障壁に阻まれ胸部に達していない事実。

 

「ったく、手間の掛かる」

「やっと捕まえたゾ」

 

左腕をガリィが両手で、右腕をミカが右手で掴まれる。

 

(しまっ──)

「そーれっ!」

 

ミカが響の腕を掴んだまま、もう片方の手で握った赤い水晶を無造作に振るい、それが右脇腹に打ち込まれ、

 

「がぁっ!」

 

苦痛の声を上げ、響の体はバットで打たれたボールのように吹き飛び、街路樹にぶち当たり、そのまま街路樹をへし折って近くの建物──近所のマンションの外壁に激突し、穴を空けて姿が見えなくなる。

 

「響ぃぃぃぃ!!」

 

未来が叫びながら、壁をぶち抜かれたマンションに駆けつけ、穴を潜り抜けマンションのエントランスに進入した。

 

「響、大丈夫!? しっかりして!」

「...へ、へいき、へっちゃら」

 

瓦礫に埋もれていた響がよろよろと立ち上がる。

 

「響逃げよう! 一人じゃいくらなんでも無理だよ! "向こう側"の力に気づいてきっとカズヤさん達が応援に来てくれるはずだから、それまで逃げ──」

「ダメ」

 

泣きそうな顔と声で訴える未来を遮り、彼女ははっきり告げた。

 

「オートスコアラーは、あと二体いる。もし別の場所で既に戦ってたら、応援は期待できない」

「そんな...!?」

「だから私が戦ってる間に、未来は皆を連れて逃げて」

 

愕然とする未来をやんわり押し退け、響はダメージを受けた右脇腹に顔を顰めながら、穴を潜り抜け外に出る。

 

「...響...」

 

震える声で名前を呼ぶが、彼女は振り返らない。

 

「待って、行っちゃダメ、ダメだよ響ぃ...」

 

追いかけるが、オートスコアラーに向かって走り出した彼女に追いつける訳がなく、それが己の無力を示しているようで、途中で立ち止まってしまう。

力の差は素人目にも明らかだ。

響がどんなに奮戦しても、疲労するしダメージも溜まる。なのにオートスコアラーには疲労どころか痛覚すらない可能性が高い。そんな相手に──しかも"向こう側"の力で強化されているのに──彼女一人でいつまでも持つ訳がない。

更に相手の攻撃は強力だ。たった一撃が致命的なものだというのは、今ので証明されてしまった。

これでは勝負にならない。しかし敗色濃厚なのに、彼女は決して逃げようとしない。

何故なら彼女には負けられない理由があるから。

自分がいくら傷ついても、守りたいものがあるから。

だから響は止まらない。退かない、諦めない。

 

「響...」

 

視界の奥にて、響はオートスコアラーとの戦いを再開した。だが、先のダメージのせいか、彼女の動きが鈍い。そして鈍った彼女に容赦するほど、敵は甘くなければ慈悲深くもなかった。

 

「アハッ、アハハハハハ! さっきの勢いはどうしたよ!?」

「キャハハハハハハ! その程度だとすぐに壊れちゃうゾ! まだ試したいことがあるから簡単に壊れないで欲しいゾ!!」

 

耳障りな人形達の嗤い声が鼓膜を叩き、人形達が嗤い声を上げる度に響が傷ついていく。

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

未来が絶叫を上げても人形達は聞こえないのか、無視しているのか、響への攻撃は止まるどころか激しくなる。

 

 

やめて。

誰か響を助けて。

私の大切な親友を傷つけないで。

 

 

涙が溢れて頬を濡らし、視界を滲んで歪む。

刹那──

 

 

「やめさせたいなら、自分でやめさせればいい」

 

何処からか声が聞こえてくる。

 

「助けたいなら、自分で助ければいい」

 

視界はいつの間にか、虹色の極彩色の世界へと変わっていた。

 

「私の大切な親友を傷つけられたくなければ──」

 

目の前に突然、光を伴い大きな鏡が現れ、そこに映る自分が言う。

 

「「私が響を守る為に戦えばいい」」

 

二人の未来の声が重なる。

続けて未来は口を開く。

 

「力が欲しい」

 

響を助ける為の、響が守りたいものを守る為の、力が欲しい。

鏡の中の未来は応える。

 

(あなた)は既に力を持ってるよ」

 

かつてカズヤが言ってくれた言葉を思い出す。

 

 

『お前は自分自身がなりたいと思う自分を思い描くんだ』

 

 

教えてくれた通り、自分がなりたい自分を思い描く。

 

 

『そう。そうすればきっと、いざって時にお前のアルターはお前の助けになる...必ずだ...!!』

 

 

(あなた)はどんな(あなた)になりたいの?」

 

鏡の向こうから投げ掛けられた質問に、未来は即答した。

 

「私は、私は!」

 

思うがままに、胸の奥で膨れ上がる熱い衝動のままに、魂が望むがままに咆哮する。

 

「私は響を、カズヤさんを、皆を守りたい! 私が愛する人達全てを、その人達が守ろうとしているもの全てを、全部、全部守れるようになりたい!!!」

「だったらなろう。理想の(あなた)に」

 

目覚めた力が全身を駆け巡っていく。

歌おう。この胸に宿る熱い想いを歌にして。

そしてこの世界に私の(エゴ)を具現化しよう。

 

 

 

 

 

「Rei Shen shou jing rei zizzl」

 

 

 

 

 

本部にて再びアラートが鳴る。

 

「新たに高レベルのアルター値を検知!」

「何だと!? カズヤくん達はまだ到着していないのにか!? まさか新手のオートスコアラーか!?」

 

朔也の報告を受け、弦十郎がどういうことだと疑問を声にした時、更にけたたましいアラートが重なった。

 

「今度は何だ!!」

「空間の位相変化を確認、かなり小規模ですが、"向こう側の世界"への扉が開いています!」

「何故"向こう側"への扉がここで開く!?」

 

戸惑うあおいの声に司令部は混乱に陥った次の瞬間──

 

「アウフヴァッヘン波形を確認...これは、嘘だろ!?」

「どうした!?」

「神獣鏡です!!」

「何!?」

「神獣鏡のアウフヴァッヘン波形なんですよ!!」

「神獣鏡...だと...?」

 

信じられない、何故失われたシンフォギアが、と誰もが狼狽えた。

そして、モニターから発せられた目映い虹色の光が司令部を満たす。

 

 

 

 

 

翼がかなり乱暴にバイクの車体を傾けつつ、耳を劈く甲高い音を立て急停止する。

車を運転するマリアも翼同様、車のタイヤに悲鳴を上げさせアスファルトにタイヤ痕を残し、強引に停めた。

 

「あの光は...」

 

翼が運転するバイクの後ろにノーヘルで乗っていたカズヤは、バイクから降りると固まってしまう。

隣でバイクから降りた翼も同じように固まる。

車からも皆降りてきて、やはり固まった。

皆で呆然と見つめるのは、光の柱だ。

響が戦っているであろう場所から、天を貫かんばかりに虹色の光が柱となって昇っていく。

 

「...未来」

 

全てを察して名を呟くカズヤの右腕全体に、電撃を食らったかのような痺れが走る。

 

「これが、"向こう側"を見た未来の力か」

 

それは、あの場所──光の柱から発せられる力に共鳴するような、まるで同胞の誕生を歓喜するかのような、甘い痺れだった。

 

 

 

 

 

【覚醒 (エゴ)を映す鏡】

 

 

 

 

 

「がっ...あ、あっ...!」

 

ガリィに片手で首を絞められ、宙吊りにされた状態で藻掻き苦しんでいた響の視界の端で、目を灼くほどの閃光が生まれる。

何事かと思い、ガリィが視線をチラリとそちらへ向けたその時、紫の光が響とガリィの間を通過した。

 

「は?」

 

間抜けな声を漏らすガリィの右腕──響の首を絞め上げていたそれの肘関節部が破壊され、弾けて、吹き飛ぶ。

 

「な、な、何が...」

「ゴホッ、ゲホ、ゲホッ」

 

乾いた音を立て、己の右腕が路面に転がる光景を視界に捉え、肘から先がなくなって呆然とするガリィ。

首を絞められ宙吊り状態だった響が解放され、地面に崩れ落ち四つん這いになって激しく咳き込む。

 

「お前がそんな力を持ってるなんて、聞いてないゾ」

 

ガリィの近くにいたミカがやや警戒するように低い声を出す。

咳き込みながらも響が顔を上げたそこには、未来が立っていた。

しかしその姿は、先程までの学院指定の夏服ではない。

その姿はシンフォギアだった。

神獣鏡のシンフォギアにしか見えなかった。

かつてフロンティア事変の時に見た、神獣鏡のシンフォギアを纏った姿と全く同じ。以前と唯一異なるのはバイザーが存在しておらず、その素顔が晒されている程度。

 

「シンフォギア...?」

「違うよ響」

 

小さく首を横に振ると、真っ直ぐ伸ばした右腕──ガリィの腕を破壊した光を放ったと思われる右手の人差し指──を下ろし、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 

「カズヤさんと一緒だよ。これはアルター。"向こう側"を見た私自身の力。響を、カズヤさんを、皆を守る為の力」

「...あ、アルター?」

 

こくりと頷くと、未来の全身から淡い虹色の光が放たれ、足下の路面の一部が消滅し虹の粒子となる。更に虹の粒子は集まると、未来の周囲に円形の鏡として形成され浮遊した。その数は十枚。

虹の粒子は右手にも集まり、アームドギアのような扇子となる。

 

「アルター能力...ホントに、カズヤさんと同じだ...」

 

驚愕で目を見開きポツリと言葉を紡ぐ響から、視線をオートスコアラーに移し、射殺すように鋭く睨む。

響に向けていた笑顔が、秒で敵意に満ちた表情へと変わった。

未来から放たれるプレッシャーに気圧され、ガリィとミカは思わず怯み、後退る。

 

「許さないから」

 

無機質、無感情な声でそう告げると、周囲に浮かんでいた十枚の鏡から紫色の閃光が放射された。

咄嗟に二体は障壁を張り光を防ぐが、

 

「無駄だよ、そんなもの」

 

熱したナイフをバターに突き刺すように、光は障壁を容易く貫き、人形の体を貫通し、風穴を開ける。

たとえ響の拳を難なく防ぐ錬金術由来の防壁であったとしても、神獣鏡の"魔を祓う力"の前では無力。そこらのコンクリートの壁の方がまだマシというレベルだった。

 

「ガリィ、ヤバいゾこいつ。超強いゾ」

「クソッ、こんな化け物がいるなんて聞いてねぇ!」

「化け物はそっちでしょ」

 

ホバークラフトのように浮き上がってから、一瞬で間合いを詰めた未来は、体を時計回りに一回転させつつ扇子を畳んだ状態で横薙ぎに振り払う。

あまりの速度に反応できないミカの右脇腹──響が最初にミカから食らった場所──に扇子がめり込んで、吹き飛んだミカがガリィを巻き込み、二体纏めて無様にレンガ造りの路面に転がっていく。

その様を一瞥してから、未来は座り込んだまま呆然としている響に向き直ると、視線の高さを合わせる為に屈み愛しげに抱き締めた。

 

「ごめんね響。こんなにボロボロになるまで待たせちゃって。でも、もう大丈夫。これからは私も戦うから、響やカズヤさんが私達を守る為に戦うように、私も皆を守る為に戦うから。痛いのも、苦しいのも、悲しいのも、傷つくのも、もう絶対に響達だけに背負わせない」

「未来...」

 

吐息のかかる至近距離で見つめ合う二人の幼馴染み。

 

「誰が何と言おうと私は戦うよ。だって私は、この世界に己のエゴを具現化するアルター使い、神獣鏡を持つ小日向未来なんだから」

 

その真剣な表情と、言葉に込められた決意、そして覚悟を決めた眼差しに、響は何も言えなくなってしまう。

だけど、彼女の燃えるような熱い想いはしっかりと胸の奥まで響いてきて、響は妙に納得する。

 

「その言い回し、なんだかちょっとカズヤさんみたい」

「当然でしょ。どれだけ影響されてると思ってるの? ていうか、そんなこと言ったら響だってカズヤさんみたいな時があるんだからね」

「アハッ、そうだね」

「そうだよ、ふふ」

 

未来はコツンと響の額に自分の額を当てた。

どちらともなく笑い出す無防備な二人に向かって、いくつもの氷の槍と赤い結晶が飛来する。

 

「未来!」

「平気」

 

焦る響に短く応える未来の周囲に浮遊していた十の鏡達が、光を発しながら融合し一つの大きな鏡になると、飛来する攻撃を全て受け止め、

 

「返すよ」

 

反射──宣言通り跳ね返す。自らが発射した攻撃に打ちのめされ、二体の人形は再び転倒した。

 

「クソッ!」

 

残された左腕を使い起き上がると、アルカ・ノイズが封じ込められた黒い宝石をガリィが大量にばら撒く。

赤い光と共にアルカ・ノイズの群れが召喚され、響と未来に殺到するが、

 

「それも無駄」

 

響から離れガリィ達に向き直った未来は、指一本も動かすことなく、全てのアルカ・ノイズを睨み付けただけで虹の粒子と化し霧散させる。

 

「なぁっ!?」

「聞いてなかった? 私はカズヤさんと同じアルター使い。ノイズなんて効かないよ」

「く、撤退だ!!」

「マスターにこいつのこと報告だゾ」

 

オートスコアラー達が状況不利と判断した時、

 

「誰が逃がすか! 衝撃の、ファーストブリットォォォォッ!!」

 

突如上空から突撃することしか知らない(バカ)が降ってきて、ミカを叩き潰し、巨大なクレーターを作った。

 

 

 

 

「ミカッ!?」

「次はテメェだギザッ()ァ! 仲良く潰してやるからそこを動くんじゃねぇぞ!!」

 

クレーターの中心でうつ伏せに倒れたミカを踏み越え、助走をつけてから拳を地面に打ち付け、その反動で跳躍。

右肩甲骨に発生している赤い羽根。残り二枚の内一枚が砕け散る。

 

「撃滅のセカンドブリット!!」

 

翡翠色のエネルギーが噴射し、それを推進力に利用してガリィ目掛けて一直線に突っ込む。

 

「おおおおおらあああああ!!!」

 

空中で反時計回りに一回転し、遠心力を加えた拳を振り回す。

しかし──

 

「させません。"シェルブリットのカズヤ"」

 

そこへ立ちはだかるのは剣を構え防御の姿勢を取るファラ。ガリィを庇うように障壁を展開し、拳を受け止める。

以前粉々にしてやった顔面はすっかり元通りだった。

 

「テメェも纏めて粉々にしてやらぁっ!!」

 

何故か"向こう側"の力で強化されていない為、障壁に少しずつ罅が入り、やがて砕け散るが、今度は剣の腹で拳を受け止められてしまう。

そしてファラは、あえて拳の威力に逆らわず、レンガ造りの路面をヒールで抉りながら後ろに下がることで凌ぐ。

 

「レイア!」

 

続いてファラが姿を見せないレイアに合図を送れば、ファラ、ガリィ、ミカのそばに何かが投げつけられ、それが地面にぶつかると光を発して三人が消えた。

 

「...ちっ、空間転移か...」

 

逃がした、という事実にカズヤは眉を顰めたが、今はそんなことよりも大切なことがあると思い直し、響と未来の二人に振り返れば、シンフォギアを纏った奏達が二人に駆け寄ってきたところだった。

 

「響、未来、大丈夫かい?」

「未来が助けてくれたのでへいき、へっちゃらです!」

「と、響は言ってますが、念の為後でお医者さんに診せてください」

 

先頭の奏がまず問い掛け、二人の無事を確認し、元気な姿に安堵の溜め息を吐く。

翼、マリア、セレナも安心したのか、緊張感が解れて誰もがアームドギアを仕舞う。

なお、奏達がカズヤより到着が若干遅れたのは、安藤、板場、寺島の三人や他の一般人を避難誘導をしていた為だ。

皆の所へカズヤが歩み寄り、まず響のそばで片膝を着き、彼女の頭に右手を載せた。

 

「大丈夫か?」

「はい、私、元気です!」

「そんなボロボロの姿(ナリ)で何言ってやがる、ったく」

 

呆れた口調ではあるが、響の無事を喜ぶカズヤはそのまま彼女を頭を撫でる。

シェルブリットの硬い装甲に覆われた手でありながら、それはとても温かくて心地良くて、響は目を細めた。

やがてカズヤは響の頭から手を離し立ち上がると、隣に立つ未来に目を向ける。

 

「...それが未来の理想を実現する為の姿か」

「はい。どうですか?」

「なかなか似合ってるぜ...良いと思う」

 

ニヤリと唇を吊り上げ返答すれば、彼女は少し照れ臭そうに頬を染めつつ、花が咲くような笑みを見せて......不覚にもカズヤは見惚れてしまった。

 

 

 

 

 

その後、現場の事後処理を緒川の部下達に任せ、皆を引き連れ本部に移動し、早々に響を医療班に押し付けた。

ちなみに安藤、板場、寺島の三人は()()()()()()()()()()()に関して誓約書等を書かされることになり、緒川が付きっきりで対応することに。

オートスコアラーの撃退に成功したのか、それとも逃がしてしまったのか、どちらとも言えない結果で終わった戦闘で得たものといえば、ガリィの右腕だけ。とりあえず解析する為に専門の部署に回されるらしい。

医療班から響が解放されるまでの間、カズヤと未来の二人は、合流を果たしたクリスと切歌を含めた装者達と、弦十郎率いるオペレーター陣、フィーネとエルフナインから質問攻めに遭いそうになったが、響が戻ってくるまで待ってくれとお願いし、時間をもらうことにした。

やがて入院着の格好をした響がやって来て、大事には至らないと判明し胸を撫で下ろすと、未来が皆に語り出す。

 

 

 

「皆さんもご存知の通り、私はフロンティア事変の時にカズヤさんと"向こう側の世界"に行きました。もうお察しか思いますが、それがアルター能力に目覚めた原因です」

 

静かな口調で切り出す未来から目配せされる。補足があったら口出ししてくれということだろう。

 

「実はフロンティア事変以降に前兆はありました。たまに、"向こう側の世界"を垣間見る夢を見て、最初はあまり気にしてなかったけど、何度も何度も同じ夢を見るから、不安になってカズヤさんに相談して......ごめんなさい、今まで皆さんに秘密にしてました」

 

真摯に謝罪の言葉を述べ、頭を下げた。

 

「秘密っつっても、能力を発動させたのは今日が初だ。秘密にしてた理由も、本当にアルターに目覚めたか確証がなかったからなんだ。ホントは能力なんてなくて、単に夢を見てたって可能性が捨て切れなかったし、もしそうだとしたらただの赤っ恥だ。だから秘密にしてたんだよ」

 

付け加えると、未来は凄い勢いで首を縦に振る。

そんな彼女の様子を見て、腕を組んで話を聞いていた弦十郎は豪快に笑い飛ばした。

 

「なるほど! 未来くんの事情はよく分かった。確かに、あるのかないのか分からない状態で安易にあるとは言えんしな......しかし」

 

一旦区切ると、口調が厳かなものへと変わる。

 

「今日の襲撃で未来くんにはアルターがあると判明した。しかも、装者やカズヤくんに匹敵するほど強力な能力だということも。このことについて、今後はどうするつもりかな?」

「私も皆と一緒に戦います」

 

迷うことなく未来は即答した。

 

「響にも言いましたけど、私は誰が何と言おうと戦います。私が大切だと思う人達を守る為に。私のアルターは、その為に存在するんですから」

「...」

 

誰にも文句を言わせるつもりはない、とばかりに強い口調で断言する未来。

強靭な意志を宿した眼差しを正面から見据え、弦十郎は数秒ほど黙考した後、優しく微笑んでから鷹揚に頷いた。

 

「どうやら決意は固いようだ。分かった、ならば本日付けで、未来くんは民間協力者からS.O.N.Gの正式なメンバーだ。扱いは装者やカズヤくんと同等とする。新しい仲間として歓迎しよう!!」

「ありがとうございます!」

 

ペコリと頭を下げた未来に拍手の雨が降り注ぐ。

改めてこれからよろしく、と皆が声を掛け、未来がよろしくと返す。

心強い仲間が加わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

「じゃあ、早速未来さんの二つ名を考えるデース!」

 

急に何言ってんだこいつ? という訝しむ視線が切歌に集まったが、彼女はフッフッフッ、不敵に笑うとこう続けた。

 

「カズヤにはアルター使いとしての二つ名、"シェルブリットのカズヤ"というのがあるデス! だから未来さんにもそんな感じのカッチョいいのを皆で考えるデスよ! 折角アルター使えるようになったのに何にもないのは寂しいデスからね!」

 

いかにも『私凄いこと言ったデス! 名案デス!』とふんぞり返る切歌の態度に、当の本人である未来は「は? は?」と困惑しているだけ。

 

「はいはい! ならさっき未来が自分で『神獣鏡を持つ小日向未来』って言ってました!!」

「響っ!?」

 

テンション高めの響が元気良く挙手しながら告げれば、自分の発言を思い出し羞恥で顔を赤くした未来が悲鳴を上げる。

 

「なんと!? 既に自分で考えてたデスか! 流石未来さんデス!」

「やめたれ」

 

侮れないデースとぶつぶつ言ってる切歌にクリスが注意するが、半笑いの彼女には説得力が全くない。

こうなると皆が悪ノリし始めるのは、最早いつものことだった。

誰もがニヤニヤしながら勝手なことを言い出す。

 

「二つ名としてはちょっとそれ長い気がするね」

「フルネームではなく、苗字か名前だけにすればいいのでは?」

 

奏の意見に翼が頷きつつ短くするよう提案。

 

「"を持つ"ではなく、カズヤみたいに"の"にしたら?」

「接続詞を変えるのもいいかもしれませんね」

 

至極真っ当なことを言ってるようだが、顔が笑ってるマリアとセレナ。

 

「ちなみにアルター使いに二つ名って多いの?」

 

純粋に疑問に思った調。

 

「二つ名っつーより、名乗りだな。"エタニティ・エイトの橘あすか"とか、"絶影を持つ劉鳳"とか、自分から名乗るやつには、基本的にアルター名プラス能力者の名前、『何々の誰それ』が多かった。その方が分かり易いし覚え易い。勿論例外はあるぜ。"崖っぷちのマクスフェル"とか、"常夏の真実『バーニングサマー』"とか」

「カズヤさん、そこら辺で止まってもらっていいですか?」

 

トマトみたいになった未来がプルプル震えながら懇願したが、カズヤはイタズラが思いついた悪ガキのような笑みを浮かべて無視。

 

「俺としては"神獣鏡を持つ未来"に一票──」

「黙ってください!!」

 

思わず未来は自分の学生鞄をカズヤの顔に向かってぶん投げる。

なお、二つ名についてはこの後に本人が激しい抵抗を見せたことで有耶無耶となったが、弦十郎や緒川、朔也などの男性陣からは「心踊るな」「わくわくします」「二つ名とかってやっぱ格好良いよね」という風に二つ名を付けること自体は概ね好感触だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ その2

 

翌日。

放課後、本部のトレーニングルームにて、カズヤは神獣鏡を発動させた未来を上から下まで、しげしげと観察してから言った。

 

「しかし、いきなり融合装着型と具現化型の複合型とは思ってなかった」

「? どうしてですか? シンフォギアをアルターで再現するなら、身に纏うインナーとプロテクターが融合装着型、アームドギアが具現化型に相当すると思うんですけど」

 

首を傾げる未来に、彼はそうじゃなくて、と説明する。

 

「もうちょい段階踏むと思ってたんだよ。第一形態は具現化型でアームドギアだけ。融合装着型はその次の形態、って感じで」

「ああ、そういう意味ですか」

「だが、考えてみればそもそもシンフォギアの見た目が融合装着型の最終形態とあんま変わらんから、それが第一形態で間違ってないのか」

「う~ん、でもたぶん使い分けできますよ? 全身をアルター化させなくても扇子と鏡出せそうな気がしますし」

「マジか? やってみ」

 

一度完全に能力を解除してから、扇子と鏡──アームドギアに相当する部分のみ発動できるかやらせてみせると、

 

「......意外と簡単にできますね」

 

制服姿で扇子を片手に、周囲に鏡を浮遊させる未来。

 

「その状態が本来なら第一形態に当たるのか?」

「たぶん、そうだと思います。だって全身をアルター化させるより楽ですよ、これ」

「やっぱりな」

 

自身の考えが当たらずとも遠からず、という結果に満足気なカズヤに、未来はおずおずと尋ねる。

 

「ところで、今日は主に私の力を計る、ってさっき言ってましたけど、何するんですか?」

「模擬戦」

「模擬戦、ですか。私と誰が?」

「暫く見学しかできない響以外なら誰とでもいいぜ」

 

カズヤが指で差し示すそこでは、響を除いたシンフォギア装者全員が、既にギアを纏いアームドギアを携えて闘志を漲らせていた。

響は昨日の今日なので見学。部屋の外から窓越しに手を振っている。

 

「ちなみにこん中で一番強いのはカズヤ第二形態を抜きにすりゃぁ、あたし様だ。最近のリーグ戦じゃ、カズヤ以外には負けなしだからな!」

 

自慢気に胸を張るクリス。その際、ぶるんっ! と大きな胸が揺れたのを見て、未来は少しイラッとする。

だが、イラッとしたのは彼女だけではなかった。

 

「調子に乗るなよ雪音! 結果は確かにそうだが、あれは辛勝、紙一重だったではないか!」

 

翼がクリスに噛みつく。よほど悔しかったのか、目付きがヤバいくらいに鋭い。今にも再戦を申し込みそうだ。

 

「負け惜しみ言うなよ。結果が全てだって、先輩」

「ならばもう一度私と勝負しろ......今こそ前回の雪辱を果たす」

「連敗して泣く前にやめといた方がいいって」

「何だ? 勝ち逃げか? 勝った相手に次は負けるのがそんなに怖いか?」

「っんだと!?」

 

互いに頭突きするかのように額を擦り付けて睨み合うクリスと翼に、未来を除いた誰もが『また始まった』と呆れる。

 

「あいつらいつもあんな感じなんだよ」

「なんでですか?」

「さあ? 張り合いがあるんじゃね?」

 

ちなみに他の組み合わせとして、奏とマリア、奏と翼、奏とクリス、翼とマリア、マリアとクリス、マリアとセレナ、というのがよくあったりする。割りと皆負けず嫌いだ。

肩を竦めてみせてから、カズヤは首に垂らしていたホイッスルを咥えて吹く。

ピィィィィィッ、という音が響き渡り、クリスと翼がカズヤの方に向く。

 

「今日の主役を忘れるなって。戦うのも選ぶのも未来だ。お前ら二人はやりたいんだったら後にしろ」

「...命拾いしたな、雪音」

「その言葉、弾丸に熨斗付けて送り返してやる」

「...」

「...」

 

同時にバッと離れて、ジャキッとアームドギアを構え切っ先と銃口を向け合う二人。

 

「人の話聞いてんのか!?」

 

誰よりも人の話を聞かない奴に言われてしまった二人は渋々アームドギアを下ろす。

 

「で、どうする? 誰とやる?」

「じゃあ私、クリスと戦います」

 

カズヤが振り返り質問すると、未来は淡々と答えた。

 

「よく言った小日向。私と月読の怨み、そして自分の分も含めて晴らすがいい」

「...」

「なんでそこで私の名前も......あ! まさか翼さん、ちょっと!」

 

去り際、ジト目になりながら改めて全身をアルター化させた未来の肩に手を置き、調の追及をスルーして翼はトレーニングルームを出ていった。

 

「じゃ、やるか」

「お手柔らかに」

 

向かい合うクリスと未来の二人は、僅かに腰を落とし、臨戦態勢に。

 

「制限時間は十五分。基本的にルールは特になしだが、絶唱は禁止。あ、未来だけは"魔を祓う力"もなしだから。降参する、気絶する、もしくは審判の俺が勝負ありと判断したら即試合終了な。ホイッスル吹いたら試合開始だ。ということで、レディー」

 

ピィィィィィ!!

 

 

 

 

 

五分後。

 

ピィィィィィ!!

 

「......手も足も出ねぇ」

 

そこには、仰向けに大の字で倒れた状態で、天狗の鼻っ柱をへし折られたクリスの姿が。

 

「まー、イチイバルは神獣鏡に対して相性最悪だろ。飛び道具全部跳ね返されりゃ、な」

 

クリスの主な攻撃手段である銃火器──拳銃、散弾銃、ガトリング砲、ミサイルの類いなどは、一切通用しなかった。全部鏡に反射(リフレクト)されてしまうのだ。

対して、未来はビームなのかレーザーなのか知らないがバンバン撃ってきて、攻撃を跳ね返されてしまうクリスは見事完封負け。

 

「反則だろ...」

「その意見には同意する」

 

ガックリと肩を落としてすごすご退室するクリス。

入れ替わるように嬉しそうな翼がやって来た。

 

「ここで私が小日向に勝てば、雪音を超えたということになるな!」

「...」

 

即フラグを立てる翼にカズヤは何も言うことができない。声には出さないが、内心『天然の芸人気質だな』と思った。

部屋の外から「相性が悪いだけだ! じゃんけんで負けてるだけだあたしはぁぁぁぁ!!」という叫びが聞こえてくる。

 

「次、翼さんですか?」

「翼がやる気になってるんだが、少し休憩挟むか?」

「いえ、大丈夫です」

「知っての通り、遠距離戦に特化した雪音と違い、私は近距離戦に特化している。先のような飛び道具を反射する攻防一体の鏡は通じないと思ってもらおうか」

 

刀を構える翼と、構えずに自然体で佇む未来。二人の準備が整っていることを確認して、ホイッスルを吹いた。

 

 

 

 

 

七分後。

 

「ぐはっ!!」

 

背中から壁に叩きつけられた翼が、そのまま前のめりに倒れ、ピィィィィィ!! というホイッスルが鳴り響く。

 

「フラグ回収お疲れ」

「...やかましい...」

 

うつ伏せのまま恨みがましい低い声が返ってきた。

 

「ま、クリスよりはマシ、って感じだったな」

「接近したと思ったら、予備動作なしで小日向を中心に円形状の光が広範囲に......あんなもの、どう対処すればいいんだ」

「ダメージ覚悟で構わず突っ込む」

「吹き飛ばされずにそれができるのはお前だけだ」

 

遠距離攻撃が効かないどころか仇となる、ならば接近戦。翼の選択は間違ってないが、未来は間合いを詰められると、自身の周囲に光を広範囲に放射して相手を吹き飛ばす技を持っていた。カズヤも過去に散々苦しめられたものである。翼は何度もトライしたが、結局これの攻略ができず、最終的には極太ビームを食らって敗北を喫することになったのだ。

うつ伏せから正座となり一旦姿勢を正すと、翼はそのまま未来に頭を下げた。

 

「御見逸れしました」

「翼さんの動き速いから、何度か危なかったです」

 

疲れたように未来は溜め息を吐く。高い機動力を利用し、接近戦における俊敏さと小回りの良さを持つ翼の相手はそれなりに疲れるらしい。ここで一旦彼女を休憩に入らせる。

その後、奏とマリアが勝手にガチの勝負を始めたり、くじ引きで誰と誰が戦うか決めたり、そんなこんなでその日の訓練を終えた。

 

 

 

「とりあえず今日一日使って、未来が響を除いた全員と軽く模擬戦した結果がこれだ」

 

手渡されたA4サイズの紙を受け取り、記載された内容に弦十郎は驚き目を細めた。

 

 

未来 ○ ─ × クリス

未来 ○ ─ × 翼

未来 ○ ─ × セレナ

未来 ○ ─ × 切歌&調

未来 ○ ─ × 奏

未来 ○ ─ × マリア

未来 ○ ─ × カズヤ

 

 

誰 も 勝 て て な い !

 

 

「カズヤくん、これは──」

「言いたいことは分かる。だから皆まで言うな。俺達全員、ぽっと出の新人に先輩風吹かせてやろうとしたら見事に返り討ち、フルボッコだ。笑えるだろ?」

 

先輩の面目丸潰れである。

まあ装者で一、二を争う戦闘力のクリスと翼が負けた時点で結果は見えていたのだが。

 

「未来くんの力はそれほどか」

「正面から正攻法で勝つのはかなりムズいな。そもそも遠距離攻撃が効かねー、それどころか跳ね返してくる、接近戦仕掛けると吹き飛ばす技を使ってくる、この時点でだいたい察せるだろ?」

「...うむ」

 

遠距離攻撃が効かない、跳ね返してくるというのは確かに驚異だが、実は跳ね返されないようにする方法があったりするのをカズヤは気づいていた。しかもそれを実行できる可能性が高いのは、相性最悪と思われるクリスだったりするのだが、彼女が自分で気づくまで黙っていようと思っている。

 

「俺達の中で未来にあっさり勝てるとしたら、慎二だな。気配消して一瞬で間合い詰めて背後から気づかれる前に...完全に暗殺者のやり方だけど」

 

何故ここで緒川の名前が挙がるのか? と司令部で話を聞く誰もが疑問に思わない辺り、S.O.N.Gも大概な組織である。

 

「それに模擬戦は実戦とは別もんだ。あくまで訓練の域を出ねーし、俺も皆も本気ではやってるが全力じゃねー」

「それでも、やはりアルター能力者として未来くんの能力は高い、か?」

「当然だろ。アルターの強さは能力者の精神の強さ、もっと厳密に言えば抱えてるエゴの強さに直結してる。それだけあいつのエゴは、太くて硬くて暴れっぱなし、間違えた、強くてデカくて重いんだよ」

「エゴか...とても未来くんがそんなエゴイストには見えんのだがな」

「人は見掛けによらないってやつさ」

 

手をヒラヒラさせながら、報告はこれで終わりだとカズヤは踵を返す。

 

「ま、今回は未来さん大勝利で終わったが、次はこうはいかねーと思う。あいつら負けず嫌いだし、今日の模擬戦で未来の戦い方分かっただろうし......今頃リベンジマッチに向けて燃えてんだろ」

 

振り向き様に楽しそうに言って笑うと、カズヤは司令部を後にした。

 

 

 

 

 

なお、響と未来が聖遺物"魔剣ダインスレイフ"をアルター能力で分解、再構成すればギアに組み込めるんじゃないか? ということを思い出すのは模擬戦の二日後だったりする。




未来さんが放つフリーザ様のデスビーム的な攻撃でガリィの腕が!


アルター『神獣鏡』

・未来とカズヤが"向こう側"に取り込まれる寸前に分解された『神獣鏡のシンフォギア』が、粒子状になった未来と共に"向こう側"に取り込まれ、"向こう側"で未来の肉体が再構成される際に彼女の一部として内在したことで目覚めた力。もし、"向こう側"に取り込まれた際の状況が違えば、彼女は全く別のアルター能力に目覚めていたかもしれない。
・精神力の強さ、及びエゴ(未来の愛)の強さが能力の強さに直結している為、非常に強い。
・"向こう側の世界"を垣間見た為、そもそも能力者として非常に強力になっている。
・シンフォギアとしての機能を有しているので、歌唱によるバトルポテンシャルの向上が可能。映画を見ることでも強化や変化が可能。
・響とのユニゾンが可能(切歌と調のザババコンビのようなことが可能)。
・カズヤの"向こう側"の力と共鳴する。
・能力使用による代償は、本来なら使えば使うほど浸食に蝕まれアルター痕が全身に発生するものだが、定期的にカズヤの肉体の一部を取り込み進化し続けてきたことで、肉体そのものが"向こう側の世界"に適応し、浸食を問題としないレベルに達している。しかし、この段階で彼女はもう既にルル・アメルではなくなりつつある。





現時点での模擬戦ランキング

一位 未来
二位 カズヤ
三位 クリス
四位 翼
同着五位 響、奏
同着七位 マリア、セレナ
同着九位 切歌、調

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