カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした 作:美味しいパンをクレメンス
前回、愚痴を綴った活動報告について書いたら予想以上にご心配させてしまったり応援の声をいただき、ありがたく思います。
活動報告に書いたこととは完全に別件で、私事で忙しくなりつつあり、更新ペースが落ち気味で楽しみにしていただいてる皆様には本当に申し訳ないのですが、気長に待っていただければ幸いです。
戦場となったそこには、歌声が響き渡り、獣の咆哮に似た雄叫びが轟く。
それは思わず聴き惚れてしまうほどに美しく透明な歌声であり、それは聞いた者の魂を熱く鼓舞するような雄叫びだった。
各々が歌い、叫び、戦う二人の姿はさながら
「おおおおおらぁぁぁっ!!」
カズヤが右拳を振り抜き、金の光を身に纏ったファラが突き出す剣の刺突と正面からぶつかり合う。
拳と剣の切っ先から稲妻のような閃光が迸り、周囲を明滅させた。
だが次の瞬間、均衡が崩れる。剣の切っ先に小さな罅が入り、乾いた音を立て切っ先が僅かに砕け、欠けてしまったのだ。
「っ!?」
シェルブリット第二形態の攻撃を受け止めても刃こぼれすらしなかったソードブレイカーが、第一形態のただのパンチに砕かれるという驚愕の事実。明らかに単純な攻撃力の問題ではなく、腕に宿った神獣鏡の力によるものだった。
瞠目している暇などファラにはなく、慌てて後ろに退くが、それは目の前にいる男を調子付かせるだけでしかない。
「テメェの面もそろそろ見飽きたぜ!!」
力強く踏み込み、一気に間合いを詰めて振るわれた拳がファラの顔面に叩き込まれる。
そのまま吹き飛び転がっていくファラに追撃を掛けようとすると、金の光を全身から放つレイアが横からファラを庇うように立ち塞がりカズヤの行方を妨げるが──
「邪魔しないの!」
声に出しつつ、レイアの側頭部目掛けて横から未来がドロップキックをかます。
視界を横切るその光景に気にも留めず通り過ぎれば、焦ったような表情のガリィが、やはり金の光を身に纏いつつファラを庇いながらこちらに手の平を向けた。
眼前の地面が突如罅割れ、幾本もの水柱が立つ。
水柱は全て鎌首をもたげた蛇のようにカズヤに襲い掛かるが、構わず突っ込む。
横合いから、薙ぎ払うかのような紫の光が一閃。
それは鋭利な刃となって、今まさにカズヤに食らいつこうとした水の蛇達を両断し、ただの何の力も持たない水と化す。
内心で未来のフォローに感謝しつつ前へ。
大量のバケツを引っ繰り返したようにバシャバシャと音を立て地に落ちる水を踏み越え、カズヤは右拳を腰溜めに構えた。
装甲の前腕から肘までが左右に展開し、幅広くなった前腕部の両端から鋭い棘が突き出す。
「衝撃の──」
脳裏に過るはセレナと響。目の前のガリィによって傷つけられた大切な存在。
彼女達がこいつにやられた分を、まずは返す!
「──ファーストブリットォォ......!!」
右肩甲骨に発生している三枚の羽根──普段であれば赤いそれらは、未来の力によって紫色に染まっていた──その内の上から三番目が先端から砕け散り、完全に消えると同時に凄まじいエネルギーがそこから噴出する。
エネルギーの色はやはり普段の翡翠色ではなく、神獣鏡の力と同じ紫の光。その光は推進力として噴出されるだけに留まらず、まるでカズヤの全身を守るかのように"魔を祓う力"で覆い尽くす。
この段階で彼は走るのではなく、推進力を得たことで滑るようにしながら靴底で地を擦りつつ、ガリィに迫った。
対するガリィは両手に水の塊を纏わせ、そこから高圧の水を射出することで弾幕を張るが、機関銃の一斉掃射染みたそれは虚しくもカズヤに触れる前に紫の光に阻まれ無効化される。
「どぅおおおおおおおおりゃっ!!」
猛スピードで突っ込みながら反時計回りに体を横に一回転させ、遠心力も追加した右の拳でガリィの顔面を全力で殴りつけた。
「ぐっ!」
くぐもった悲鳴を上げ、錐揉み回転しながら吹き飛んだガリィは、立ち上がったばかりのファラのすぐそばを通り過ぎ、コンクリートの壁に叩きつけられ、壁を粉砕しながらめり込み、そのまま動かなくなる。
ガリィから迸っていた金の光──"向こう側の力"が止む。
「「ガリィ!!」」
ファラとレイアが案じるようにその名を呼ぶが、ガリィは応えない。一時的な機能停止状態に陥っていた。
「まずは一体!」
よし! と右腕でガッツポーズを取るカズヤに、未来が寄り添う。ぴったり背中合わせの状態で半身となり、二人は残る二体を睨み付ける。
「......派手に強い」
「こちらも"向こう側"の力を使っているというのに、こうも一方的とは......!」
歯噛みする二体であるが、それぞれ構え直すだけで撤退する素振りは見せない。動かなくなったガリィを見捨てられないのだろうか。
「この調子でゴリゴリ押しまくってやるから覚悟しやがれ」
「私達に喧嘩を売ったこと、後悔しながら粉々になってね」
さながら長年連れ添った夫婦のように、二人揃って似たような表情──獲物を前にした肉食獣の獰猛な笑み──を浮かべ、戦いは再開された。
【犠牲】
「シェルブリット、神獣鏡、オートスコアラーを圧倒しています」
モニターを見れば、朔也の報告など聞かなくても状況は分かる。
「つ、強ぇ」
「カズヤと小日向のコンビネーションが、これほど強力だったとは......」
息を呑む奏と、感嘆の溜め息を吐く翼。
ひたすら突撃するカズヤと、それを援護する未来の動きは絶妙で、ついこの前から共に戦い始めたとは思えないほど息が合っていた。
「やっちゃえやっちゃえ!」
「そこだカズヤ、ぶん殴れ!!」
モニターを前に響がピョンピョン飛び跳ねて、クリスが拳を振りかざす。二人共、かなり興奮気味だった。まるで大好きなスポーツの試合に熱狂するサポーターのようである。
その隣では冷静な眼差しで見ていたマリアとセレナが、少し安心したように呟く。
「最初はどうなるかと思ったけど、杞憂だったみたいね」
「ですね。前衛のカズヤさんに後衛の未来さん、お互いの性格と戦い方が見事に噛み合ってます」
それぞれの反応を見せる装者達を置いといて、弦十郎は二人のオペレーターに質問を投げ掛けた。
「周囲に何か反応はあるか?」
「今のところ、それらしい反応はありません」
「熱反応、エネルギー反応、動体反応、共に周囲からは検出されません」
あおい、朔也が順に応答。
「そうか。だが、相手は錬金術師だ。何処から何をしてくるのか分からん、警戒は怠るな」
「「了解」」
司令の油断のない指示にオペレーターが頷く。
『うおおおおおおおおおおお!!』
戦闘が始まってから何度目になるか分からない雄叫びが司令部に響き、モニター内のカズヤがレイアに向かって突進していく。
レイアは近づかれまいと錬金術にて生成したコインを銃弾の如く指で弾き飛ばすが、カズヤの周囲に浮かんでいるいくつもの鏡が盾となり、足止めにならない。
ついに己の間合いに踏み込んだカズヤがレイアに向かって右拳を振るい、咄嗟に張られた障壁を容易く打ち砕きレイアの顔を殴り飛ばす光景が映し出される。
映像内のカズヤは止まらない。吹き飛び転がり仰向けに倒れたレイアに追いつき、襟首を左手で掴み無理矢理引き起こし、顔に一発、二発、三発と右拳を連続でぶち込む。
殴られる度にレイアの顔面に罅が入り、皮膚が砕け、破片が飛散する。
そして、トドメとばかりに思いっ切り振りかぶったアッパーを顎に打ち込んで上空に舞い上げた。
大きな放物線を描いてから、ドシャッ、という音を立て受け身すら取れず地面に落ち力なく倒れ伏すレイア。その全身を覆っていた"向こう側"の力が失われていく。
指一本動かさなくなったレイアを捨て置き、カズヤはファラを追い詰めている未来の元へと急ぐ。
「よし! よしよし!」
「残り一体!」
「あと一息です!」
クリスと奏、響は大喜び。
他の装者も声には出さないが、無傷の勝利が近いことに喜んでいるのが表情から察することができた。
「それにしても凄いですね」
「ああ。聞いてはいたが、未来くんの力がこれほどとは......」
少し興奮した口調の緒川の声に、弦十郎が唸る。
シェルブリットに宿った神獣鏡の力による攻撃力及びその他身体能力の向上、錬金術の無効化、そしてカズヤへの攻撃を全て防ぐ完璧なフォロー。今の攻勢は、未来の力があって初めて成せるものであった。
性格的に、彼女は誰かのフォローやサポートに入ることそのものが上手いのだろう。能力もそういう面に向いている。
先ほどセレナも口にしたが、何より互いの能力と性格、戦い方がこれ以上ないほどに噛み合っていた。フロンティア事変で彼女が自身は誰よりもカズヤと相性が良い、と言っていたのは紛れもない事実だと証明された瞬間である。
残るファラが二人に倒されるのは最早時間の問題、と誰もが思ったその時、アラートが鳴り響いてあおいが血相を変えた。
「沖合いからこちらに向かって高速で接近する巨大な動体反応を検知しました!」
「何だこの大きさは!? 下手なビルより大きいぞ!!」
驚愕の声を上げる朔也の言葉に誰もが驚き、動揺する。
「新手か」
「そのようです」
弦十郎が鋭く目を細め渋面を作り、緒川が眉を顰めて頷く。
幾筋もの紫の光が魔力を孕んだ翡翠色の竜巻を穿ち、ただのそよ風へと変える。
攻守の要であった風の力を無力化されたファラに向かって、カズヤが飛び込む。
迎撃の為、それに合わせて袈裟斬りにファラが剣を振るうが、
「おっと」
「な!?」
拳を振りかぶっていたカズヤは、剣の間合いのギリギリ手前で何故か急停止。
そして既にガリィとレイアが倒されてしまった焦燥感に駆られていたファラには、それに反応できない。振るわれた剣は空振りし、虚しく空を斬るだけに終わった。
(この男がまさかのフェイント!?)
「二対一だぜ、こっちは」
カズヤの後ろから頭上を飛び越すように現れた鏡が、隙を晒したファラを狙って光を放つ。
光に体を貫かれ、怯んだところを、
「くたばれぇぇ!!」
「がはっ!」
待ってましたとばかりに右ストレートが打ち込まれる。
顔面をボロボロにされたファラが倒れ、先の二体同様に機能停止状態となり、その体から"向こう側"の力が溢れ出ていたのが止まった。
動かなくなった三体の人形を見下ろし、他の敵が現れないか警戒していると、通信越しに弦十郎の声が鼓膜を叩く。
『まだだ二人共! 海中に巨大な何かがいる!』
「何かって何だよ!?」
『分からんが気をつけろ!』
「カズヤさん! あれ!!」
未来に促され海の方を見れば、とてつもなく大きな水柱が海面に立つ。弦十郎が言っていた『何か』が今まさに海中から現れようとしていた。
やがて水飛沫を上げてその姿を見せたのは、文字通り大きな人の形。
あまりにも巨大で、海上には上半身のみ露出している状態だ。
髪型はなんとなくそこで倒れてるレイアを連想させるが、その巨大な体躯は普通の人間サイズのオートスコアラー達と比較するのもバカらしい。
顔と腕が包帯でぐるぐる巻きにされており(下半身は海の中なので確認できない)、隠された部分がどうなっているのか不明だが、包帯の隙間から覗く一対の爛々と光る目には敵意が満ちている。
対峙するカズヤと未来、S.O.N.Gの者達は知る由もないが、目の前の巨大な存在はレイアの妹だ。ただ、同じ人形でもオートスコアラーではない為、個体識別の名称を与えられておらず、キャロルやガリィ達は単に『レイアの妹』と称している。と言っても、二人にとってはそんなことなど知ったことでもなければ関係もない。
敵か、そうでないか、ただそれだけ。
大波を立てて目の前まで迫った巨大人形に視線を注ぎつつ、未来が首を傾げた。
「これも、オートスコアラーなんですか?」
「さあ? でも、そうじゃなかったら何なんだろうな?」
「とりあえず敵ってことでいいですよね?」
「この状況で出てきたってことは、敵ってことでいいだろ」
「じゃあやっちゃいましょう!」
「そうだな、やっちゃうか!」
緊張感など欠片もない軽快な会話が終わるのとほぼ同時に、巨大な人形の腕が二人に振り下ろされる。
二人は素早く左右に別れて回避。
巨腕から繰り出された手刀が、腹に響く破砕音を立てて路面を粉砕し、震動を起こしつつクレーターを生み出す。
「こっちだウスノロ」
右手の人差し指をちょいちょいと手招きするように動かして挑発するカズヤ。
その行為に怒ったのか、巨大な人形は再度その両腕を振り上げてからカズヤに向けて振り下ろした。
しかし彼は笑いながら余裕綽々で躱す。
「ウスノロがぁぁっ!!」
自分よりも遥かに小さい存在を叩き潰せないことに業を煮やしたのか、巨大な人形は両腕を滅茶苦茶に振り回し始めたが、当たらない。掠りもしない。いくら威力があっても単調な攻撃では、素早く動き回るカズヤを捉えられない。
「何だ、見た目通りの木偶の坊かよ」
彼が人形の気を引いている間に、未来は少し離れた場所から大技を使う為の準備に入っていた。
彼女の周囲に浮かぶ十枚の鏡が円状に展開し、その中央、未来の正面に眩い光が集まっていく。
扇子の形状をしたアームドギアを両手で構え、先端を前に突き出す。
「......!?」
凄まじいエネルギーの収束に目を見開く巨大人形。
「へっ、今更気がついても遅ぇんだよ」
地面を殴りその反動で高く跳び上がったカズヤは、巨大人形を上空から見下ろす。
「...穿て!!」
ついに、未来から極太のレーザービームのような光が放射される。
着弾の寸前で巨大人形は身をよじって躱そうとするが、紫の光は右の肩口を容赦なく貫き、右腕を吹き飛ばしてその巨体の体勢を大きく崩す。
更にそこへ──
「撃滅の──」
二枚目の羽根が砕け散り、紫の光を全身から放出しながら急降下を敢行。
「──セカンドブリットォォォォォッ!!」
振り下ろされた拳は、咄嗟に残った左腕で防がれるものの、ガードに用いた腕を粉々にしながらぶち抜き、その包帯に覆われた顔を殴りつけた。
盛大に水飛沫を上げて倒れた巨大人形は、海中へと沈んでいく。
「あ」
手応えあり、とニヤついた表情になるのは一瞬。その直後に間抜けな声が漏れる。
眼下に迫る海面。引力に従う己の体。残念ながら第一形態は第二形態のような飛行能力はない。
このままでは海に沈む、と思ったが、海面スレスレのところで後ろから未来に抱きかかえられ、濡れネズミになることを避けられた。
「サンキュー、助かった」
「後でご褒美、期待してますね」
「...ちゃっかりしてんのな」
ホバーのように海面を疾走する未来により、元のコンクリートの地面へと無事に下ろされる。
いくら未来の力でシェルブリットが強化されていても、所詮第一形態である以上、地面を殴ってその反動で跳躍するのが関の山。もしまた海に落ちたら自力で泳ぐか、今みたいに助けてもらう必要があった。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
「未来、疲れたか?」
「......少し」
「無理はすんなよ」
「いえ、まだ行けます」
若干呼吸が荒く、額に汗を浮かべ、額や頬に張り付いた髪を手で払いながらも彼女は気丈に振る舞う。
......無理もない。まだ慣れない実戦に加え、土壇場でいきなり神獣鏡の力を貸し与えつつ、カズヤのサポートだ。おまけにさっきは大技を使った。消耗していない方がおかしい。
そもそも、神獣鏡はシェルブリット第一形態と違い、消耗が激しい。基本的な攻撃は打撃のみで、技を使う場合であっても再構成済みの羽根を消費する第一形態と異なり、神獣鏡は攻撃すればするほど──光を放てば放つほどエネルギーを失っていく。
恐らく未来は、光の放出を繰り返す戦い方の関係上、長期戦に向いていない。終始全力で突撃するカズヤのペースに合わせて戦うなら、スタミナが持たないのはなおのことだ。
純粋な戦闘力と継戦能力は全くの別物。
アルターが目覚めてから訓練は積んでいるが、それでもまだ二週間も経ってない。むしろたったそれだけで、ここまで戦える彼女の異様に高いポテンシャルに驚嘆してしまう。
しかし、今のペースで戦い続ければ、いずれオーバーシュート──能力使用不可状態となりアルターの強制解除──を起こすのは間違いない。
フロンティア事変で神獣鏡のシンフォギアを纏っていた際の、カズヤとの同調で"向こう側"の力の供給があった当時とは違うのだから。
「なあ未来、お前は──」
一旦退け、そう言おうとする前に察知した殺気に体が勝手に反応する。
考える前に未来に飛びつき、左腕でその華奢な体を抱き締め、押し倒すようにしながら右の拳で地面を殴って跳ぶ。
次の瞬間、今まで彼女が立っていた場所に赤い結晶がいくつも突き刺さり、一拍置いて爆発した。
「何が!?」
腕の中で驚く未来に構わず、空中で向きを変え攻撃が飛んできた方角を確認し、そして見つけた。
「ちぃっ、直前までこちらの存在を隠蔽していたのに今のを躱すだと!? 野生の獣より勘が鋭いなあの男は!!」
「一息入れて気が緩んだところを狙ったのに躱されるなんて信じられないゾ。マスター、やっぱりあいつら、ガリィが言う通り人間とは思えないゾ」
舌打ちしながら憤慨するキャロルと、両の手の平をこちらに向けたミカだ。
「野郎...!」
着地したカズヤは未来を優しく下ろすと怒りを露にする。
今のは、明らかに彼女だけを狙っていた。それだけ未来の力が、神獣鏡が恐ろしいのだろう。
最大の障害を排除する為には不意討ちも辞さない。なかなか見上げた覚悟だが、彼としては大切な存在の命が狙われたということで、怒り心頭だった。
今すぐにでもその綺麗な顔をタコ殴りにしてやりたいが、未来の体力を少しでも回復させたいので、少しでも時間を稼ぐことに決め、問答無用で飛び掛かりたい衝動をぐっと堪える。
「テメーがキャロルとかいう、世界を壊そうと企む頭のイカれたクソガキ錬金術師か?」
いきなりの罵倒にキャロルのこめかみに青筋が立つ。ミカも不機嫌を隠そうとしない。隣の未来なんて唖然としながら「い、言い過ぎなんじゃ...」と小声で唸っていた。
「..."シェルブリットのカズヤ"、エルフナインから聞いているはずだ。オレが世界を壊すのは父から託された命題を──」
「ああ、父親の遺言を自分の都合のいいように曲解して、まさに親の心子知らずを体現してる勘違い野郎ってのは聞いてるぜ」
嘲笑しながら言葉を遮ったカズヤに、キャロルは激怒。
「黙れ! 貴様にパパの何が分かる!!」
当然の如く激昂する彼女にカズヤは叫び返す。
「エルフナインに複写されたテメェの記憶が偽物じゃねーってんなら、こんなこと誰でも分かるってんだよ! ただテメェは、父親の命題ってやつを口実に、世界に復讐してぇだけだろが! 常に誰かの為に錬金術を駆使して人々を救った父親を否定し、拒絶した世界を壊したい! そうだろ!?」
キャロルの世界を壊す動機を知る為にエルフナインから聞かせてもらった話。キャロルの父親、イザークという人物のこと。
それを聞かされた時、なんて聖人君子なのだろうかと思った。
と同時にこうも思った。簡単に迫害を受け入れ、あっさり己の死を受け入れ、降りかかる火の粉を払おうともせず、生き延びる為に逃げることも戦うこともせず、娘を一人残して勝手に満足して逝ってしまったクソ親父だ、とも。
カズヤからしてみれば、キャロルが親の心子知らずだとしたら、イザークは子の心親知らずのまま死んだ間抜けだ。
自分の聖人君子ぶりを娘にも期待するな、と言ってやりたい気分になったのが印象深い。
「奇跡の殺戮者とか名乗ったらしいが、ハッ、そんなの真っ赤な大嘘だ。テメェはただの復讐者、父親の仇を討つのに、わざわざ父親から託された命題を言い訳に使ってんじゃねーよ。だからクソガキっつったんだ」
きっぱり言い切って右の拳を真っ直ぐ前に突き出すと、キャロルは俯き、肩を震わせる。
「くっ、くく...オレが、パパの命題を、くく、くはは」
次いでキャロルは天を仰ぎ大きな声で狂ったように笑い出す。
「はは! ははははは! あはははははははははは!! そこまではっきりとオレに指摘したのは、これまで何百年も生きてきてお前が初めてだ! "シェルブリットのカズヤ"!!」
左腕を真横に掲げて魔法陣──否、錬金術を行使する為の錬成陣を展開し、そこから何かを取り出した。
それは一見すると楽器だ。まるで竪琴のような物でありながら、内包された力を肌で感じたカズヤと未来の顔が警戒で歪む。
「くくくく、そうだ、お前の言う通りだ。『世界を識れ』と言ったパパの命題はただの切っ掛けで、口実に過ぎん。オレは復讐したいんだ! パパを否定し、拒絶した世界に! 万象黙示録を完成させ、オレの怒りと悲しみ、憎しみを叩きつけて世界をバラバラに分解、解剖する! それがオレの目的だ!!」
竪琴は手にして弦を弾き音を奏でつつ、キャロルは血を吐くように宣言する。
「"シェルブリットのカズヤ"、やはりお前はオレが手ずから殺す! オレの復讐を邪魔するお前の存在は、世界を照らすお前の光と輝きは、酷く不愉快で目障りだ!!」
鬼のような形相で全身から放出される金の光──カズヤから奪った"向こう側"の力。
「刮目せよ...!」
竪琴が変形し、そこから弦が飛び出し光に包まれたキャロルの肉体を縛り付ける。
すると見る見る内に彼女の肉体が幼い子どもから成熟した大人の女性へと変化し、身に纏う服装は濃い紫を基調とした服装へと変貌した。
「...大人になった。しかもあの力、シンフォギアに似てる」
「さっきの竪琴みてーのと一体化したところから、システムもシンフォギアと大して違ってないだろうな」
戸惑ったように口にする未来の声に、視線をキャロルから外さないまま応答すれば、キャロル本人が首肯してみせた。
「そうだ。これはダウルダブラのファウストローブ。聖遺物の欠片から錬金術によって生み出した、シンフォギアと似て非なるもの、つまり──」
腕を大きく振り回し、指の先から伸びた弦が地面を切り裂き、そのままカズヤと未来に迫る。
「業腹にも、お前の"向こう側"の力がよく馴染む!!」
モニター内でキャロルとミカに応戦するカズヤと未来。
ファウストローブを身に纏い、"向こう側"の力を利用して攻めるキャロルの攻撃は激しいの一言。
金属など触れただけで一瞬で溶解させる炎の渦。どんなに頑強な建造物でも薙ぎ倒す水流。八つ裂きにせんと吹き荒れる竜巻。着弾すると大爆発を起こす金の閃光。広範囲かつ縦横無尽に振り回される弦。それらを惜しみなく行使し、二人に攻撃を繰り返す。
だが、
『させない!』
十枚の鏡を融合させ、一枚の大きな鏡とし、未来は暴虐の嵐を悉く
攻撃を跳ね返した刹那、盾にしていた鏡の後ろからカズヤが飛び出し、キャロルに狙いを定めて拳を振るう。
『マスターはやらせないゾ』
『邪魔だガラクタがぁっ!!』
キャロルを守るミカが全身から金の光を迸らせ、カズヤを阻み、ミカの刃物のような形状をした指による手刀とカズヤの拳が正面衝突し、僅かな間の拮抗の後、互いが弾かれるように後方へと退く。
『光よ!!』
『死ねぇっ!!』
そこへすかさずそれぞれの後衛から援護射撃が入る。
紫の光と紅蓮の炎が激突し、前者が後者を押し潰す。
『クソッ、神獣鏡め!!』
『カズヤさん、今!!』
『おおおおおおおおおおっ!!』
『お前の相手はミカだゾ!!』
力負けしたキャロルが忌々しいとばかりに毒づいて下がり、未来の合図でカズヤが突っ込み、ミカがカズヤの進路を塞ぐように前に出る。
一進一退の攻防が続く光景に、本部の誰もが手に汗を握り、血沸き肉踊っていた。
「これは、行けるんじゃないかしら...?」
「行けますよ、絶対!」
「あの二人なら行けるに決まってんだろ!」
「このまま押し切っちまえば倒せるさ!」
昂揚と期待を覚えながら握り拳を作るマリアの呟きに、響、クリス、奏が当たり前だと言わんばかりに応じる。
「だが敵もなかなか手強い。小日向の神獣鏡のお陰で有利に立ち回っているが、あと一手、僅かに足らない」
「はい。それはきっと戦場に立つ誰もが実感しているはずです」
厳しい表情でモニターを睨む翼に、セレナがコクコクと頷きながら同意を示し、緒川と弦十郎が厳かに言う。
「局面を一気に変える、いえ、盤面を引っ繰り返すくらいの何かが必要、ですか」
「だとしたら、やはりそれはカズヤくんの残された一撃だな」
抹殺のラストブリット。
文字通り、第一形態における最後の一発。
本来は第二形態のシェルブリットバーストに劣るが、今の神獣鏡の力を宿した状態なら、あるいは......!!
しかし懸念がある。それを使ってしまったら、後がない。外す訳にはいかないので使い時は慎重にならざる得ないものの、出し惜しみしている局面ではない。
一体いつ使うのか? 固唾を飲んで見守る皆が疑問に思った瞬間を計ったように、カズヤが地面を殴って高く跳ぶ。
舞い上がったカズヤを竜巻が狙い、その竜巻を紫の光が蹂躙して無力化し、ミカがロール髪の先端からバーニアを吹かせカズヤ目掛けて飛んでいく。
『テメェのガラクタ人形ごと砕いてやる!!』
『バラバラになるのはお前の方だゾ!!』
ミカの全身が燃え上がる。比喩ではない。蓄積された想い出と"向こう側"の力を今この瞬間全て燃やし尽くしたのだ。ロール髪が全て下ろされ、身に付けていた服が蒸発するように燃えてなくなり、煌々と光を放ちながらミサイルのように突進した。
それは『バーニングハート・メカニクス』と呼ばれ、四分間戦闘能力を増大させる、オートスコアラー内で戦闘特化型のミカが唯一持つ決戦機能を発動させた姿。
己の全てを引き換えに、相手の命を断ちにきたのだ。
いくら神獣鏡の力を宿したシェルブリットでも、生半可な打撃では逆にこちらが潰されると本能で悟る。
ならば──
『しゃらくせぇぇっ! 抹殺の──』
右肩甲骨の三枚の羽根、残り最後の一枚が先端から砕け散る。
紫色のエネルギーが噴出し、推進力となってカズヤの背を押し、更に全身を守るバリアのように光を纏い、突撃する為の力とした。
『──ラストブリットォォォォォォッ!!!』
猛スピードでカズヤは斜め上から、ミカは斜め下から、それぞれの角度で急降下と急上昇を行い、真っ正面からカズヤの右拳とミカの手刀が激突。
目を灼く閃光が視界を埋め尽くし、耳を劈き腹に響く轟音が轟き、大気を震わせる。
『何事をも砕く!!』
『お前は絶対バラバラにしてやるゾ!!』
拳と手刀が相手を破壊せんとせめぎ合う。
そんな光景に、
「行けカズヤ!!」
奏が、
「ここで決めろっ!!」
翼が、
「ぶち抜け!!」
クリスが、
「打ち砕くのよ!!」
マリアが、
「カズヤさん!!」
響が、
「負けないで!!」
セレナが、あらん限りの声で叫ぶ。
そして、まるで彼女達の声援に応えるかのように、
『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
雄叫びを上げたカズヤの拳が、ミカの手刀──指と手を粉砕し、手首を粉砕し、前腕を粉砕し、肘を粉砕し、二の腕を粉砕しながら前へと進み、
『そんなっ!?』
悲痛に歪むミカの顔をぶん殴り、拳を振り切り、ぶっ飛ばす。
『ミカァッ!!』
進路を邪魔したミカを吹き飛ばした勢いをそのまま殺さないように、彼は前方宙返り──体を縦に一回転させ、再度拳を振りかぶり、人形の名を叫ぶキャロルに迫る。
『次はテメェだぁぁぁ!!』
『そうはいくかぁぁぁ!!』
迫るカズヤに両の手の平を向け、四つの錬成陣──四大元素の力を顕現し、一つと束ねて放出した。
視界を覆い尽くす極光。それは突撃しているカズヤにとって、避けることもできなければ防ぐこともできない代物だ。
だが、そんなことなど関係ない!
構わず突っ込めと拳を突き出し、拳と極光が激突。
雷鳴のような爆音と共に周囲に衝撃波を生む。
紫色に輝く"魔を祓う力"を宿した拳と、異端技術において最高峰レベルの錬金術によって錬成された光が、互いを滅殺し合う。
『ク、ソ、ガ、キ、がぁぁぁぁ!!』
『舐ぁぁめぇぇるぅぅなぁぁぁ!!』
力と力のぶつかり合いは、なんと属性的に有利であるはずのカズヤ側が徐々に押し戻されていく。ここに来て、ミカに削られた分のエネルギー消費が響いていた。
『私がいるのを忘れないで!』
そこに未来が咆哮を上げ、カズヤの背後にピタリと張り付き、その大きな背中に両手を当てると、
『渾身の、神獣鏡でぇぇぇぇぇ!!!』
全身全霊の力を彼の背に叩き込む。
すると、カズヤの全身を覆っていた紫の光が輝きを増し、勢いが倍増し、拳がキャロルの極光を一方的に食い破り始めた。
『何だとっ!?』
『食らいやがれ...!!』
紫の光を放つ拳が、錬金術の光を押し潰す。
『うおおおおらあああああああ!!!』
『ぎっ!?』
ついにキャロルの左頬をカズヤの右拳が捉え、力任せに振り抜いた。
この瞬間、司令部は喝采で沸く。
着地すると同時に膝から崩れ落ち、四つん這いの体勢になるとアルターが──神獣鏡が虹の粒子となって解除され、リディアンの夏用の学生服に戻るのを気にする余裕もないまま、未来は肩で大きく呼吸を繰り返す。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
全身の汗腺から汗が吹き出し、極度の疲労により意識が朦朧とした。まるで全力ダッシュを何十回も繰り返し酸欠になっているようで、体に思うように力が入らない。
体力の限界。肉体的にも精神的にもこれ以上は戦えない。もうアルター能力は使えない。未来は完全にオーバーシュートを引き起こしていた。
「でも......勝った......!」
重たい体に鞭打って、なんとか立ち上がり顔を上げる。
数メートル離れた視線の先には、カズヤの後ろ姿が見えた。その右腕は神獣鏡の力を使い尽くしたことで、紫から元の金の装甲へと戻っているが、それだけだ。
振り返った彼の何処か安堵したような表情を見て、自然と頬が緩むのを自覚し、駆け寄ろうとすれば、
「...?」
彼は一瞬にして必死の形相になると、突然こちらに向けて走り出す。
まさかと思い背後を振り返れば──
「う...そ...」
幽鬼のような佇まいで切っ先が欠けた剣を掲げ、今にも振り下ろそうとしているガラクタ寸前の人形がいた。
鈍く光を反射する白刃を見て思考が止まる。
「させるかぁぁぁぁぁ!!」
走るだけでは間に合わないと判断したカズヤが走りながら路面に転がっていた瓦礫を拾い、ファラを狙って投擲した。
常軌を逸した威力で弾丸のように飛ぶコンクリートの塊は、見事にファラの額に命中し、よろめかせることに成功。
その間にカズヤは未来を後ろに庇える位置まで到達する。それでも振り下ろされた剣をなんとか右の手首で受け止めた。
インパクトの刹那、甲高い音が鳴って、ファラの剣は刀身の半ばまで砕け散り、バラバラになる。
だが、
「うぐぁっ!?」
砕けて散った剣の欠片、その中でも小指の爪ほどもない大きさのものが、不幸にもカズヤの右目に──
「カズヤさん!!」
仰け反り右目を庇うように顔を右手で覆いながら、大きくよろめき後ろに下がるカズヤを、未来が後ろから抱き締めるように支えた。
「テメェ、まだ生きてやがったのか...!」
「再...起動に、時間は、掛かり、ま、し、たが...」
左目で睨むカズヤの声に、ファラがつっかえつっかえ応じる。
「私、達は、元々、あなた方を、あ、る、程度、消耗させ、てか、ら一時、撤退し、マ、スター、と、ミ、カ相手に戦った、後に、不意、を突く、つ、もり、で、した」
まだ体を上手く動かせないのか、ギクシャクとした動きで折れた剣を構え直す。
視界の端ではレイアがゆっくりと立ち上がり、おぼつない足取りで壁にめり込んでいるガリィを起こそうとしていた。
「ガリィ、地味に、辛いだろう、が、起き、ろ。残っ、て、る"向こう側"、の、ちか、らをくれ...そう、すれば、派手、に、う、ごけ、る」
仲間の訴えに反応するかのように、瞼を閉じていたガリィが目を見開き、再起動を果たす。
そして、全身から再び金の光を放出すると、そのままレイアにキスをする。
「......馳走になった。ファラにも頼む」
「はいは~い」
キスで想い出と"向こう側"の力の受け渡しをしているらしく、レイアが急にハキハキと喋り出す。動きもさっきとは比べものにならないくらいしっかりしている。
ガリィは氷上を優雅に滑るフィギュアスケーターのような動作でファラに近寄りキス。
レイアは、意識を失い元の幼い姿に戻りファウストローブが解除された姿のキャロルに向かって駆け出すと、肩を優しく揺すり起こそうとした。
「未来、お前だけでも今すぐ逃げろ。俺が殿になる」
「片目が見えない状態で何言ってるんですか!?」
じりじり後退りながらそう言ったカズヤに、未来が泣きそうな声で反論。
カズヤの右目は、咄嗟に瞼を閉じたが、瞼ごと眼球を貫くように剣の欠片が刺さっている。出血自体は大したことないが、右目の瞼から流れる血と溢れる涙が混ざり合った雫が、頬を濡らす様が痛々しい。
「アルターが使えなくなったお前に何ができる。いいから行けっての」
「だからってあなたを置いて私だけ逃げるなんて死んでも嫌! 絶対、絶対に嫌!!」
横から右腕に未来はすがりつく。
「......ハァ~、ま、お前ならそう言うだろうな。なら、俺のそばにいろ」
「え?」
これ見よがしに大きな溜め息を吐いてあっさりと意見を覆す発言に呆然としたら、彼は前を向いたまま顔をこちらに向けることなく優しく微笑んだ。
「なんとかしてみせる」
「......はい、信じてます...!」
力強く言い切るカズヤの邪魔にならないよう、未来は瞳を潤ませながら名残惜しげに離れた。
やがてレイアに支えられたキャロルがガリィとファラのそばに辿り着く。
「予想外のこともあったが、概ね計画通りか。タイミングとしてはギリギリだったようだが」
「はい。小日向未来は疲労困憊で能力使用不可能です」
「こちらも派手にやられましたが、形成は逆転。ですが......」
「ミカちゃんを再起動させるだけの"向こう側"の力はもう残ってません、スッカラカンですよ~。今後はまた想い出の集め直しですかね」
キャロルの声にオートスコアラーの三体がそれぞれ応じる。
カズヤ達も、キャロル達も、互いに限界が近い。しかしキャロル側の方がまだ余力を残していた。
「獲物の前で舌舐めずり、三流のやることだなぁ!」
左目だけで睨みながらカズヤが叫ぶ。
「未来が戦えなくなって、もう勝った気分か? 俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
「そんな状態でよく吠える。今のお前に何ができる? 羽根を使い尽くし、"向こう側"の力も"
心折れない彼に苛ついた様子のキャロルをカズヤは鼻で笑う。
「へっ、分かってねーな」
一歩、二歩と前に進み、不敵な笑みを浮かべて彼は続けた。
「こっちはな、この程度で退いてらんねーんだ。戦えると思ってるのかだって? アホかテメー、そんなの当然のパー璧よ」
右手の指を人差し指、中指、薬指、小指、親指と順に折り曲げて拳を作る。
「俺が諦めることは許されねー。もし俺が諦めちまったら、傷ついちまうんだよ」
下ろしていた右腕をゆっくりと持ち上げ、
「俺の命よりも大切な
そして右腕を高く掲げた。
「だから見せてやる! 俺が進むこの道を! 俺の決意を!!」
全身から淡い虹色の光が放たれる。
「俺が"シェルブリットのカズヤ"であり続ける為の、覚悟ってやつを!!!」
周囲の地面や瓦礫が虹の粒子となって消滅していく。
右目から流れていた血と涙も、刺さっていた剣の欠片も、虹の粒子に分解された。
やがて虹の粒子は右目に集束し、その閉じられていた瞼がカッと見開き、瞳から金色の光を放ち輝いた。
「瞼と眼球そのものを、再構成した......!?」
キャロルが何か言っていたがカズヤには聞こえない。
「輝け!」
右腕が肩から先が消失し、橙色の装甲に覆われた腕へと再構成され、言葉の通り腕全体が虹色の光を放ち輝き出す。
「もっとだ! もっと!!」
右目の周囲に腕と同色の装甲が現れる。
腕全体から放たれていた光は、大きく膨れ上がり全身を覆い尽くした。
「もっと!! もっと!!」
右肩甲骨に金色の回転翼も現れ、シェルブリット第二形態の発動が完了する。
放たれる光はその輝きを虹色から金色へと変えていく。
「もっと輝けええええええええええ!!!」
目の前に太陽が生まれたと勘違いするほどに、輝きが強くなる。
頭上に高々と掲げていた拳を顔の高さまで下ろす。
「シェルブリットォォォォォォォォォ!!!」
手首の拘束具が外れ、装甲のスリットが展開し、手の甲に穴が開き、そこに光が収束した。
「バカが、学習能力がないのか」
懐から"
「"
「ちなみにガリィちゃんが二つ持ってるのはミカちゃんの分も含まれてるの」
絶望的な表情で嘆く未来に、ガリィがケタケタと嫌らしく笑いながら応える。
「その力、吸い尽くしてやる! "
「「「起動!!」」」
カズヤから放たれる金の光が、"向こう側"の力が五つの
「面白れぇ、吸い尽くせるもんなら吸い尽くしてみやがれぇ!!」
負けてたまるかと咆哮するカズヤは、放つ光をますます強くし、更に輝きを大きくした。
「バカな!?」
あっという間に五つの"
むしろ吸えば吸うだけ強くなる。
「これは、派手過ぎる...!」
「底が知れない...私の時は一体何だったと言うの!?」
「...化け物だ...」
オートスコアラー達が戦慄したその時、
「もうこれ以上は吸い切れない! "
堪らずキャロルが"
──ピシリッ!
ほぼ同じタイミングで五つの"
容量オーバーで器が耐え切れなくなった証だ。
"向こう側"の力を吸われなくなったことで、この時点になってやっと、ヒュンヒュンとヘリコプターのローターのような音を立てて回転翼が高速で回り始める。
ふわりとカズヤの体が浮き上がり、足が地面から離れた。
「くっ、お前達はミカを回収して撤退しろ!」
「「「マスター!?」」」
「計画の遂行が最優先だ! つべこべ言わずに行け!!」
有無を言わせぬ口調の命令に従い、オートスコアラー達は沈黙して倒れ伏す隻腕のミカまで急ぎ駆け寄り、テレポートジェムを用いて空間転移でこの場から即座にいなくなる。
「つくづく忌々しい男だ、お前は」
再度、ダウルダブラのファウストローブを身に纏い、その肉体を幼いものから大人のものへと変貌させ、手にしていた"
ガラスが砕ける音と共に、内包されていた"向こう側"の力を取り込む。
「お前を見ているとイライラする!」
何故かは分からない。初めて見た時から気に食わなかった。
世界中から英雄と持て囃されているから?
それに比べて大好きな父は、救った人々に謂われなき迫害を受けた末に殺されたから?
ただ一つ分かるのは、この男の存在そのものが、大好きな父を否定しているような気がして、許せなかった。
簡単に言えば目障りだ。
まるで高く聳え立つ壁として進むべき道を塞いでいるように思えて、とてつもなく邪魔で、排除しなければならないと感じた。
──だからこの男は、なんとしてもこの手で!
弦が幾重にも右腕に絡み付き、円錐形の
「...シェルブリットバースト...!!」
低く唸る肉食獣を連想させる声が響くと、カズヤが一直線に突撃してくる。
応じるようにキャロルもカズヤに向かって突っ込んだ。
「"シェルブリットのカズヤ"!! オレの前に立ちはだかるなぁぁぁっ!!!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
二人同時に右腕を相手に向かって突き出す。
黄金に光輝く拳と、絃を束ねて作られた
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はああああああああああああああ!!!」
魂を剥き出しにしたかのように雄叫びを上げる両者を中心に、眩い光を伴って大爆発が発生し、世界は金の輝きを溢れさせた。
"向こう側の世界の扉"くん
「あ、そろそろ自分、出番っスか?」
サンジェルマン
「ウェルカム!」
全員
「すっ込んでろ!!」
ということで、今回のお話からカズヤはアニメ『スクライド』の『カズマ』と同じように、右目の瞳が金色のオッドアイとなります。
なお、カズマとの違いは、シェルブリット第二形態以上を使用しなくても右目の瞼の開閉が通常通り可能なこと。
これは、カズマが戦いの負傷が原因で瞼が閉じたままになってしまった──視力は失ってなくて、第二形態を発動させると瞼が開く──のに対し、カズヤは完全に視力を失ってから眼球と瞼そのものを再構成したからです。
アルター結晶体? のような存在だからできる芸当。なお、"向こう側"の影響を受けているので、瞳の色は二度と戻りません。
Q:フィーネさんや、強化型ギアの完成はまだかのう~?
A:「うるっさいわね! 今のシンフォギアって私が作ったものと全く別物なのよ! 暴れ馬よ暴れ馬! カズヤくんがモニターの向こうで何かする度にチカチカチカチカ点滅して、鬱陶しいのよ! 集中できないし目に優しくないの!!」