カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした 作:美味しいパンをクレメンス
ご指摘どうもです!!
直視すれば視力を失ってしまいそうな閃光が周囲一帯を覆い尽くし、その中心で収束されていた莫大なエネルギーが一気に炸裂、大爆発を引き起こす。
衝撃波が生まれ、有象無象の区別なく範囲内に存在するものを吹き飛ばした。
爆発の直前に危険を察知した未来は、これまでの戦闘で出来上がったクレーターに身を潜め、地面に這いつくばるように体勢を低くし、なんとか凌ぐ。
「ぐおおおおおおおおおっ!?」
その頭上にて、カズヤの悲鳴が通り過ぎていくのを耳にした。少し遅れて、ドゴンッ! という硬いものに何かがぶつかり壊れるような破砕音。
未来は爆発が収まったのを確認してから、疲労困憊の体を引き摺るようにして動かし、彼の元へと急ぐ。
「カズヤさん!」
最早元が何だったのか分からない瓦礫の山の中から、彼の右腕だけが出ていた。まるで助けを求めるかのようにこちらへ伸ばされたそれが、力なく揺れている。
橙色の装甲に覆われていたその右腕は、未来がそばに辿り着く頃には虹色の粒子となって霧散し、元の腕へと戻った。
敵を倒したかどうか分からない状況で、カズヤが能力を解除するとは思えない。恐らく、未来同様にオーバーシュートを起こしているのだ。
一度周囲を見回し、誰も襲い掛かってこないか確認する。辺りはシーンと静まり返っており、動くものは見当たらない。
カズヤが飛んできた方向とは逆方向を警戒するも、キャロルの姿は見えない。カズヤ同様に吹き飛ばされて瓦礫に埋もれているのだろう。できればそのまま気を失っていて欲しいものである。
二人が激突した中心は巨大なすり鉢状に地面が陥没しており、爆発の破壊力を物語っていた。
とにかく瓦礫を踏み越えて右腕の手首を両手で掴み、「えい!」と気合いを入れて引っこ抜く。
ガラガラと音を立て、意外にもあっさりとカズヤの体を引っ張り出すことに成功。
「ぷはっ!」
ボロボロな姿のカズヤが新鮮な空気を求めて大きく呼吸を繰り返す。
「...未来、無事か?」
「私のことより自分のこと心配しましょうよ」
「んなの後回しだ。奴は?」
「彼女なら──」
たぶんカズヤさんと同じように瓦礫の中、と言おうとしたら背後で爆音がした。
慌てて振り返れば、視界の奥で仁王立ちのキャロルが鬼気迫る表情でこちらを睨んでいる。
「...今のは流石に死ぬかと思ったぞ」
やはり瓦礫に埋もれていたらしい。爆音の正体は脱出の為に錬金術で瓦礫を内部から吹き飛ばしたものだろう。
彼女もカズヤと同じでボロボロだ。特に右腕なんて骨折したのかダラリと垂れ下がり、節々から流血している。だが痛みやダメージなど一切気にせず、爛々と光る目が言外に言っていた。次こそお前らを潰す、と。
「だが、これで終わりだ! "シェルブリットのカズヤ"!!」
右腕の傷を癒すこともせず、余計な会話など不要とばかりに残った左手を二人に向け、自身の周囲に錬成陣を展開させるキャロル。
「足下、気をつけろよ」
絶対絶命のピンチにありながら、カズヤは未来に肩を貸してもらいながら余裕の態度で不敵に笑う。
その態度が気に掛かり、キャロルは咄嗟に言われた通りに自分の足下に視線を向けてしまい、
「嘘だよバーカ」
「っ!!」
続いて聞こえた声に堪忍袋の緒が切れた。
今度こそトドメの一撃をくれてやる! と顔を上げたそこへ──
「推して参る!!」
「ぶっ潰れろ!!」
上空から、巨大な剣──しかも左右にミサイルを付属させたとんでもない代物が降ってきて、その大質量でキャロルを押し潰し爆発した。
自分達を守るべく前に立つ翼とクリスの後ろ姿。
「約束通り、なんとかしてみせただろ?」
「はい」
それに得意気になるカズヤに未来は微笑む。
「選手交代! こっからはあたしらに任せとけ!」
「強化型シンフォギアの力、とくと見よ!」
アームドギアを構え、肩越しに振り返り笑うクリスと翼。窮地に陥っていただけに、とてつもなく頼もしいと感じる。
「おう、後は任せたぜ」
「二人共、気をつけて」
声掛けに力強く頷き、装者の二人は前へと向き直る。
そしてカズヤと未来の背後に、緒川が音もなく、まるで瞬間移動でもしてきたかのように突然現れ、安堵の溜め息を吐いてから言う。
「カズヤさんはいつも無茶し過ぎです。今のだってタイミングがギリギリだったじゃないですか」
緒川は未来の反対側に回りカズヤに肩を貸して、「ここは翼さんとクリスさんに任せて離脱しますよ」と告げた。
「細けーことは気にするな!」
「「お願いだから気にしてください」」
呆れた口調の未来と緒川が見事に声を重ねつつ、カズヤを引き摺り戦線離脱を図る。
「くそっ、シンフォギア共め......! このままおめおめと逃がすか!」
先の攻撃をなんとか防いでいたキャロルが忌々しいとばかりにアルカ・ノイズを大量に召喚。
「させるかってんだ!!」
「二人には指一本触れさせん!!」
しかし、それを装者の二人が看過することもなければ許すこともない。
歌いながらアームドギアが振るわれる。クリスが放つ赤い光の矢と弾丸の嵐が、アルカ・ノイズを穿ち、穴だらけにして塵と化す。風のように疾走し突撃する翼が次々とアルカ・ノイズを斬り捨てる。
瞬く間に殲滅され数を減らすアルカ・ノイズに、キャロルの苛々は更に募っていくばかり。
「ちっ、シェルブリットと神獣鏡はここで死ね!!」
ついにキャロルが右腕に治癒を施し、撤退する三人に向けて突貫するが、まずそれをクリスの弾幕が妨げ、動きを止めた刹那に翼が大剣で斬りかかる。
「......邪魔をするな、シンフォギアァ!!」
完全に進路を阻まれ、激昂するキャロルに翼は怒濤の勢いで斬撃を繰り出していく。
翼の攻撃の合間を縫って、クリスの正確無比な銃撃が急所を狙う。
「言ったはずだ! 二人には指一本触れさせんと!!」
「往生しやがれ! クソッタレの錬金術師が!!」
障壁を展開し攻撃を防ぎつつ歯噛みするキャロルは、ここにきてある決断を下す。
既に"向こう側"の力を使い尽くした以上、想い出の焼却に手を出すしかないという、決断を。
(...シェルブリットと神獣鏡をここで始末できなかったのは痛いが、シンフォギアが出てきたなら次のプランに移行するまで)
努めて冷静になるよう気を落ち着けながらキャロルは思考する。
いくら強化型シンフォギアとはいえ、自身が消耗しているとしてもカズヤと同調していなければ恐るるに足りん。
故に彼女達は呪われた魔剣の力を使うはずだ。
そうでなくては困る。呪われた旋律を歌ってもらわなければ、カズヤと未来を排除できなかった以上、今回の襲撃が無意味と化してしまうのだから。
「...なんとか、間に合ったみたいね」
目が充血し、やつれた表情の調──ではなく、彼女の肉体を借りているフィーネがモニターを見つめながら疲れたように呟く。
一時はどうなるかと思ったが、翼とクリス、二人分の強化型シンフォギアが完成し、前線に投入することができた。
だが安心はしていられない。"向こう側"の力を使えなくなったからには、次は想い出を焼却し死に物狂いで戦いに臨むであろう。そんなキャロルに対抗するには魔剣の力を用いる必要がある。
運用テストすらしていないシステムをいきなり実戦投入することに、思うことがない訳ではないが、敵は待ってくれない。
「急ぎましょう。次は奏さんと響さんのガングニールです」
「ええ。先に完成させた二つのデータのお陰で、作業の最適化が見えてきたわ! 二つのデータをベースに最速最短でガングニールを組み上げるわよ!!」
疲労が色濃いエルフナインに促され、一時的に止めていた手を動かしフィーネは気合いを入れ直す。
カズヤによって何度も分解と再構成を経て、"向こう側"の力の影響を受けまくったシンフォギアは、フィーネが作成した頃と異なり、様々なステータス面でじゃじゃ馬のような存在──唐突に意味不明なエラーを吐いたり、おかしい所はないのに訳の分からないエラーが出たり──であったが、漸く扱いに慣れてきたところだ。
これなら奏と響のガングニールもすぐに完成させ、前線に送り出せる。
「切歌、出来上がったらさっきみたいにすぐに二人にギアを届けて!」
「了解デス!!」
最早機器を破壊しようとしているのではないかという勢いでタイピングするフィーネの言葉に、切歌がビシリッと敬礼した。
「調整用の基礎データが出来上がってノウハウさえあれば後はこっちのものよ! これならさっきの五倍、いえ、十倍の速度で完成させられる! よくも今まで散々手こずらせてくれたわねカズヤくん! でもね、できる女こと櫻井了子兼フィーネの私ならざっとこんなものよ!! アハ、ハハハ、アハハハハハハハ!!」
目を血走らせ、酷く疲労していながら、集中力を極限まで高めて作業を行うフィーネの狂気を滲ませた不気味な笑い声が研究室に響く。
クリスと翼の二人が戦い始めてから、十分という時間が経過している。
"向こう側"の力をその体に纏っていないにも関わらず、依然として高い火力を維持して激しい攻撃を仕掛けてくるキャロルに対し、二人は攻めあぐねていた。
「うるぅあああああああああ!!」
自身に迫る金の光をクリスは跳躍して回避し、空中で弩に変形させたアームドギアから赤い矢を二本、両手で合わせて四本をキャロルに向けて射出。
矢はそれぞれがクラスター弾となっているので、途中で小さくバラバラに砕け散り、豪雨のような弾幕となって降り注ぐ。
だがキャロルはそれを難なく防ぐ。手の平を前にかざし、その手前で円を描く動きで弦を高速回転させ、一発残らず弾いてみせる。
「はあああああああああ!!」
防御の態勢を取ったキャロルの側面から、翼が大剣を横薙ぎに振るう。
が、寸前で発生した障壁が阻み、甲高い音が鳴る。
(なんて堅牢な防壁だ!)
障壁ごと斬り裂くことは無理だと悟り、大人しく下がる。
次の瞬間、二人目掛けて竜巻が広範囲に吹き荒れたので、クリスと翼は更に距離を取り、仕切り直す。
(クソッタレがぁっ、なんつー火力だよ! "向こう側"の力を使ってねぇのに勢いが全然衰えてねぇ!)
(これがエルフナインが言っていた、想い出の焼却によって得られる力か......なるほど、確かに代償に値するだけの出力を有している!)
二人は互いに目配せする。このままではジリ貧だ。なんとか戦えているが、敵の高火力、及び広範囲攻撃に手を焼いていた。このままではいずれ強引に押し切られてしまう。
ここは勝負に出るべきか? チラリと脳裏に過るのは、シンフォギアに新たに搭載された決戦機能。
イグナイトモジュール。
説明を受けて、使いこなすことさえできればカズヤと同調しなくても絶大な力を得られることは理解できた。
だが、いざ使おうと思うと、どうしても二の足を踏んでしまうのだ。
呪われた魔剣の力。それは今まで散々頼ってきたカズヤの力──あの温かな光と輝きとは対極に位置するもの。
(情けねぇ...カズヤが後を任せてくれたってのに、あたしも先輩もビビってやがる)
(覚悟は決めたはずなのに躊躇ってしまう...もし制御に失敗したら、そんな考えが頭から離れない)
はっきり言えば怖かった。
デュランダルを手にして暴走状態に陥ったかつての響の姿を目の当たりにし、更にその暴走状態を止めたのもカズヤであっただけに、もし制御に失敗し暴走したら、今の状況で一体誰が自分を止めてくれるのか? という考えが頭を埋め尽くし、恐怖が心を縛る。
胸に抱えていた不安がネガティブな思考となり、その思考が躊躇を生み、躊躇は迷いに変わり、迷いが決心を鈍らせていく。
そして最終的に、カズヤとの同調だったらこんなに悩む必要などないのに、むしろ喜んで使うのに、という言い訳染みた思いを形成していく。
そんな後ろ向きな思いが、猛攻を凌ぎながら戦う二人の姿から徐々に精彩さを奪っていた。
「その程度の歌でオレを満たせるなどとっ!!」
キャロルが腕を振るい、絃が走りコンクリートを切り裂きながら二人を襲う。
左右に別れて回避するが、クリスには火炎が、翼には水流が追撃として飛来した。
それもギリギリで躱して反撃に移るものの、敵の防御は鉄壁だ。障壁を前に銃撃も斬撃も容易く弾かれる。
「最初の威勢は何処に行った? 玉を隠しているなら見せてみろ。オレはお前らの全ての希望をぶち砕いてやる」
一旦攻撃の手を止めて挑発するような口調で言ってくるキャロル。こちらの葛藤を見透かしたその視線には嘲りが含まれていた。
「...ちっ、付き合ってくれるよな? 先輩!」
「......無論、一人で行かせるものか」
舌打ちし、ついに覚悟を決めた、というよりは破れかぶれな感じの雰囲気なクリスに、数秒黙考してから翼が頷き、二人の手が己の首元に伸びる。
その時だ。
「ちょっと待ってぇぇぇぇ!!」
「よし、間に合った!」
遥か後方から、ミサイルに乗ってやって来た響と奏が二人のそばに降り立つ。
当然、ガングニールのシンフォギアをその身に纏って。
「イグナイトモジュール、まだ使わないで!」
駆け寄ってきて必死に二人を止める響にクリスと翼は戸惑った。
こんな時にイグナイトを使うなとはどういう了見だ? と。
響の言にキャロルも訝しんだのか、目を細めて成り行きを見極めようとした。
奏も響と同様に翼とクリスのそばまで近寄り口を開く。
「カズヤから二人に、ていうかアタシ達全員に伝えたいことがあるって」
「はい。ただ一言、『お前らが信じる胸の歌を俺に聞かせろ』って言ってました!」
「「っ!!」」
彼らしいそのシンプルな言葉は、二人の弱気になっていた心に活を入れる。
そうだ。どうして自分達はあんなに恐れていたのか。
カズヤが全幅の信頼を以て信じると言ってくれたならば、一体何を恐れることがある!!
「ありがとう。奏、立花」
「今ので凄ぇ気合い入った」
明らかに纏う空気が変わった二人に、奏と響は顔を見合わせて笑い合うと、四人は揃って自身の首元に手を伸ばす。
「信じよう、胸の歌を!
カズヤさんが信じてくれる私達自身を!
カズヤさんがくれたシンフォギアを!!」
響の明るい声と同時に四人は首元のペンダントを外した。
イグナイトモジュール、抜剣!!
《Dainsleif》
四人が叫ぶのに一拍遅れてそれぞれのペンダントから電子音声が響く。
放り投げられたそれぞれのペンダントが空中で静止後、光の剣を形成し、胸の中心に突き刺さる。
【闇の中でさえ、きっとあなたは輝いて】
それは想像を絶する不快感と嫌悪感をもたらしてくれた。
まるで臓物を抉り取られるような感覚と、全身の肌に大量のムカデが這い回っているかのような感覚が同時に襲う。
事実、己の肉体は内側も外側も漆黒の闇──呪いに塗り潰されており、魂すらも汚染されているようだ。
カズヤとの同調が天に昇るような極上の気分になるものだとしたら、これは地獄の責め苦、まさに拷問だった。
「ぐ、がぁっ!」
「ああああああ、ああああ!!!」
「ぎ、ぐぅぅ!!」
「うううう、うああああ!!」
誰かが苦し気に呻いているのが聞こえる。それが自分の口から漏れたものなのか、隣の誰かのものなのか、それすら分からないし気にしている余裕もない。
気持ち悪い、吐き気がする。視界が闇色に染まっていく。許されるなら今すぐにでもこの状況から逃げ出したい。
底なし沼に沈むように、爪先から頭頂部まで暗黒に覆われる。
──殺せ。
耳に、頭に、心に刻み込もうと轟き蠢く殺戮衝動。
──壊せ。
敵を、目に映るもの全てを、何もかもを滅茶苦茶にしてやれと促す破壊衝動。
──憎め。
過去に経験した嫌な思い出が甦り、急激に負の感情が膨れ上がっていく。
なんで自分がこんな目に?
どうしてこんなに辛い思いをしなければならない?
自分のせいじゃないのに、何も悪いことなどしていないのに、何故こんな理不尽を叩きつけられなくてはならないのか?
誰もが少なくとも一度は抱く感情。
脳裏に映るは過去の
深淵に封じ込めていた闇が晒け出す。
辛く苦しいリハビリを終えて退院した自分を待っていたのは、常軌を逸した壮絶なイジメだった。
いや、それはもう迫害と言っても過言ではない。
学校では無視されることから始まった。持ち物が紛失したり捨てられたりするのは序の口で、『死ね』『人殺し』『税金ドロボー』などと落書きされたり、トイレに入っていたら外から水をぶっかけられたり、突然罵詈雑言を浴びせられたり。ありとあらゆる嫌がらせを受ける日々。
家に帰っても地獄は続く。
石が投げられ窓が割れる。家に落書きや貼り紙がされる。深夜から朝まで家の前で不良のような連中が集まって騒いでいたり。
母も祖母も毎日辛そうな顔をしていて、笑顔を浮かべることがなくなった。
そして何より、大好きな父がいなくなってしまった。
あんなにリハビリを頑張ったのに、大変だったのに、元気な姿を見せれば皆喜んでくれると思ったのに!
あのライブの惨劇で自分が生き残ったせいで、家族が壊れた。
「うあ、あああ、あああああああああああ!!」
歌で世界を平和にする。そんな夢を携えた両親に連れられて訪れた国で、真の孤独を味わう。
爆弾によって物言わぬ肉の塊と化した大好きな父と母。
血溜まりに沈む二人の体が、目に焼き付いて離れない。
両親を失い悲しみに暮れる間もなく、捕虜として人権を剥奪され物として扱われる地獄の日々が始まる。
痛かった、辛かった、悔しかった、怖かった、何より寂しかった。
だけど、助けて欲しいのに誰も助けてくれない。
だから憎んだ。憎んで憎んで憎み抜いた。自分を辛い目に遭わせる大人達を、人の命を容易く奪う兵器を、戦争を、政治家を、テロリストを、戦う力を持つ者達を、そして自分を独りぼっちにした大好きな両親を。
この世はクソッタレで、大人は皆クズで、信じられるものなんて存在しない。
目に映るもの全てが嘘っぱちで、反吐が出る。
どうせ失ってしまうなら、独りぼっちの方がマシだ。
己にそう言い聞かせて、何もかもを拒否、拒絶、否定を繰り返す。
でも、本当は独りぼっちが嫌だった。
手にいれたものを失うのが怖かった。
暗闇の中で、独り膝を抱えて泣きじゃくる。
独りは悲しい、辛い、寂しい、苦しい、とても寒い。
かつて幸せに暮らしていたあったかい場所が、両親のように自分を愛してくれるあったかい人が、心の底から欲しかった。
「嫌だ、独りぼっちはもう嫌だあああああ!!」
当たり前だと思っていた日常は、実は奇跡が積み重なって生まれた尊い存在で、そして理不尽にも一瞬で瓦解するものだということを思い知る。
妹と一緒に両親の仕事を見せてもらう機会があった。
その時、ノイズが現れ、家族は自分だけを残して皆塵となって消えた。
目の前で、ボロボロと崩れ落ちる家族の肉体。その様は、まさに当たり前の日常が砂上の楼閣と同じであることを示していたと感じる。
ノイズによる被害なんて、遠い世界の不幸な出来事だと思ってたのに。
その瞬間まで、自分には関係ないとずっと思い込んでいた。
許せなかった。
憎かった。
家族を殺した存在が。
この世の不条理が。
自分にとっての当たり前の日常を奪った理不尽が。
けれど一番許せなかったのは、最も憎んだのは、あの時何もできずに見ているだけだった自分自身だ。
だからこそ望んだ。仇を討つ為の力を。奴らを皆殺しにできる力を。
そして、一人生き延びてしまった自らを地獄に落とすことを。
奴らを皆殺せるのなら自分には幸せなんて要らない。
奴らを消し去れるなら自分のことなどどうなってもいい。
奴らを蹂躙できるなら、かつての当たり前の日常なんて戻ってこなくていい。
憎しみを糧に敵を呪い、己を呪った。呪い続けた。
「殺す、皆殺しにしてやるぅぅぅぅぅ!!」
衝撃の事実を聞かされたのは、まだ幼い頃で、当時のことは今もはっきりと覚えている。
自分を最も愛してくれると思っていた父が、実は腹違いの兄であり、その人が望んで自分が生まれた訳ではないことを。
愛されていたのではなく、疎まれていた。憎まれていた。忌々しいと思われていた。
所詮、風鳴の道具。穢れた血族の末裔。護国の為の剣でしかない。
そう冷たく宣告された瞬間、信じていた現実が崩れていく。
それでも愛されたくて、認められたくて、健気に言い付けを守り、真面目に努力を重ね続けた。
頑張れば、いつか自分を愛してくれる。認めてくれる。褒めてくれる。そう信じて。
ただそれだけの為に、ひたすら自分に言い聞かせた。この身は剣なのだ、自分は防人なのだ、と。
しかし、どんなに頑張っても、どれだけ時間が経とうとも、面と向かって褒められたこともなければ認めてくれたことなどない。
自分が何か悪いことをした訳ではないのに、生まれのせいで、誰もが当たり前のように享受しているものを受け取ることができない。
ただ、一人の娘として愛されたかった。認めて欲しかった。よく頑張ったと褒めて欲しかっただけなのに!
どうしてそんなに冷たい態度なのか。どうして自分を見てくれないのか。どうしてそんなに自分に対して厳しいのか。
どうして? どうして? どうして?
自分の存在そのものが、そんなに悪いのか?
普通でいられないのなら、当たり前のように愛してくれないのなら、こんな家になど生まれてきたくなかった。
「あああ......お父様ああああああああああ!!」
司令部内にけたたましいアラートが鳴り響く。
モニターの向こうでは、その身を暗黒に染め、理性の宿らぬ瞳で、思わず耳を塞ぎたくなるような絶叫を上げ続ける装者四人の姿があった。
「システムから逆流する負荷に、四人の精神が耐えられません...!」
「このままでは装者達が!」
「...暴走」
切羽詰まった声音で朔也とあおいが報告を飛ばし、それを聞いた弦十郎は渋面を作る。
「やはり、ぶっつけ本番では......」
「そんな!!」
「なんとかならないんデスか!?」
緒川が俯き、顔面を蒼白にするセレナと切歌が訴えるが、誰も応えない。
「......そうだ! 了子さんとエルフナインちゃんに何か聞ければ......」
ハッとしたように朔也が藁にすがる思いで二人に連絡を取ろうとするが、研究室からの返事はない。
不安になって慌てて研究室の監視カメラを確認すると、
「嘘だろ! 二人共気絶してるのか!?」
嘆いた通り、これまでの無理とラストスパートが祟ったのか、白衣姿の二人は研究室の床に倒れて意識を失っていた。
「よりにもよってこんな時に!!」
マリアが頭を抱えてヒステリックに喚く。
「すぐに二人を医務室に搬送します!」
血相を変えた緒川が司令部を後にする。
「カズヤさん......響達、が...............え?」
不安げに瞳を揺らす未来が隣のカズヤに視線を向けて、あり得ないものを見てしまったとばかりに固まった。
「どうして、笑ってるんですか?」
彼は唇をニヤリと吊り上げ、嬉しそうに笑っていた。
しかもだ。先の戦闘で負傷した為に再構成で修復した右目──金色になってしまった瞳が妖しく輝き、更に右目から血涙が流れ頬を濡らしている。
明らかに様子がおかしいカズヤを、誰もがギョッとしたように見つめる中、彼はくつくつと一頻り笑いを堪えた後、漸く口を開く。
「右目を完全にアルター化させちまったせいか、シェルブリットを発動させなくても今のあいつらと繋がってる感覚があるんだよ」
......それは、言いたいことはなんとなく分かる。シンフォギアは今までに何度かカズヤによって、分解と再構成が行われている。右の眼球もつい先程同様に分解と再構成を経た。再構成されたもの同士が共鳴するのはおかしくない。右目の血涙、淡い金の光を放つ右の瞳は、現在のギアの状態から何らかの影響を受けているのだろう。
「んで、繋がってるせいか右目に見えちまうし、感情とかもダイレクトに伝わってくるんだわ。あいつらの心の闇ってやつが」
「心の、闇」
「ま、それがどんなもんかってのを言うのは憚れるから流石に言わねーけどな」
反芻する未来に肩を竦めてみせてから彼は続ける。
「......あいつらの心の闇を見て、知って、感じて、俺はこう思う訳だ。もし俺が同じ立場だったら、あいつらみたいに笑えるか? って。響みたいにいつも元気いっぱいでいられるか? クリスみたいに他人を思いやれるか? 奏みたいに前を向けるか? 翼みたいに真面目でいられるか?」
そこで一旦区切りを入れて溜め息を吐く。
「俺には無理だ。きっと何処かでひねくれる」
はっきりと断言した声は、声量は大きくないものの司令部にやけに響いた。
「あいつらは、とんでもねーほど辛い経験してるのに、俺の前で笑う時はそんなこと微塵も感じさせねーんだ。マジでスゲーよ、心の底から本気で尊敬する」
あなたの前では笑顔になれるから、あなたが私達を幸せな気持ちにしてくれるんですよ、そう喉から出かかった言葉を未来は口を噤むことで止めた。今言うべきことではないと考えたからだ。
「だからかな。あいつらのこと、これ以上ないほど好きなのに、ますます好きになっちまった。こんな時に不謹慎だけどよ、なんだかそれが妙に嬉しくて、つい笑っちまったんだ」
つぅ、とまたしても一滴の血涙が右目から零れ落ちる。
頬を伝わった赤い雫が顎に到り、滴ったそれが床を濡らす。
それから彼はおもむろに朔也のそばまで歩み寄ると、落ち着いた穏やかな声でこう言った。
「通信の音量を最大まで上げてくれ。俺の声があいつらに大音量で聞こえるように頼むわ」
「カズヤくん、な、何をするつもりだ?」
戸惑う弦十郎が皆を代表するように問えば、彼は悪戯小僧のような人懐っこい笑みで答えた。
「決まってんだろ。伝えるんだよ、俺の今の気持ちを」
次いで、すぅぅぅぅ!! と大きく息を吸う彼の姿を見て、インカムを装着していた者達は誰もが咄嗟に耳から外す。
「響、クリス、奏、翼、おい聞こえてるか!? 聞こえてんならそのまま聞け! 聞こえてなくても聞きやがれ!! 前にも言ったけどな、俺はお前らの歌も、お前ら自身のことも大好きだっ!! けどな、今は前よりももっと好きだぞっ! ったくお前らは、どんだけ俺を魅了すれば気が済むんだっつの! とっくに俺は落ちてるってのに、これ以上俺をどうしたいんだよ!? もうこうなったら許さねぇからな、俺はお前らを絶対に死んでも離さねぇ! だから、だから、俺に歌を聴かせてくれ! お前らの嘆きも、怒りも、悲しみも、苦しみも、憎しみも、寂しさも、不安も、不満も、辛い思い全部引っくるめて俺が呑み込んでみせるから、お前らの全部を、俺にくれっ!!!」
己の存在さえも見ることができない闇の中で、確かに眩い光を見た。
名前を呼ばれ、瞬時に悪夢から覚める。混濁していた意識が何事もなかったかのように、すぐにはっきりとした。
聞こえてる声に、言葉に、知らず息を止めて聞き入る。
「.........声がデケェよ、バカ野郎......あと、そういうことは二人っきりの時に言えっての」
「ああ、バカだ......通信越しに鼓膜を破裂させるつもりか、あいつは......まあ、気持ちは十二分に伝わったが」
込み上げてくるものに耐えられず、涙声で罵るクリスに翼が嗚咽を堪えながら同意した。
「でも、お陰で目が覚めたよ。カズヤのバカさ加減に感謝しなきゃ......ていうか、なんであいつっていつもシラフであんな恥ずかしいセリフ言えんの? そりゃ、すっごく嬉しいんだけどさ」
「そうですよ! 大好きとか、死んでも離さないとか、全部くれとか、その、いつもド直球なんですよ、カズヤさんって!!」
これまでの苦しむ様が嘘のように、凛とした表情でいながら若干恥ずかしそうに頬を染めた奏の声に、響が同様に顔を赤くしながら元気良く応じる。
示し合わせたように顔を見合せ、笑い合う。
不思議と四人は笑顔を浮かべるほどの余裕が生まれていた。
彼女達はこの時点で悟ったのだ。今まで自分達を苦しめていた心の闇は、呪いは、見せられていた悪夢は、あくまでも過去の自分自身を映した鏡でしかないということを。
忘れてしまいたい記憶。封印していた忌まわしい過去。二度としたくない思い。魔剣によって掘じくり返され増幅された各々の負の感情は、確かにかつての自分達で間違いない。それは認めざるを得ない。
だが、それがどうした!!
所詮過去は過去だ。今更泣いても喚いても変えることはできない。
なかったことにするなど不可能だ。
ましてや、自分自身から逃げることも、目を背けることも許されない。そんなことになど意味はない。
だけど、過去に縛られるつもりは毛頭ない。過去に囚われていても前には進めない。過去を乗り越えてこその今があり、そして未来に向かって歩んでいくことができるのだ。
──だって、今はあの時とは違うのだから。
だから俯かない。顔を上げてしっかりと前を見つめた。
今の自分には苦楽を共にする友が、一緒に戦う仲間がいる。
何よりもこんな自分達を受け入れ、あんなにも情熱的に求めてくれる男がいる。
ただそれだけの事実に胸が高鳴り、ドクンッ、と魂に火が点く。
すると同時に、全身を襲っていた不快感、嫌悪感、気持ち悪さ、吐き気などの一切合財がなくなっていく。
むしろどんどん力が漲ってくる。
精神を蝕んでいた破壊衝動も、意識を浸食していた殺戮衝動も、気づけばいつの間にか消えていた。
代わりにあるのは、胸の奥底から沸き上がる熱い想いだ。
心臓がエンジンのようにバクバクと脈打ち、血が沸騰したかのような錯覚を覚える。
全身が、心が、魂が激しい炎の如く燃え滾るのを感じた。
「「「「輝け」」」」
まるで事前に打ち合わせをしていたかのように、四人は揃って口を開き言葉を紡ぐ。
すると靄のように全身に纏わりついていた闇が、呪いの力が、
その光と輝きは、さながら凄腕の宝石職人によって丹念に、美しく磨かれたブラックダイヤモンドのようだ。
「「「「もっとだ! もっと!!」」」」
声に合わせて黒い宝石の光はより輝きを増す。大きく膨れ上がり、溢れ、周囲を満たし、埋め尽くす。
もっと輝けえええええええええええええええええええええっ!!!
そして漆黒に光輝く力を、その身に纏う。
「モジュール稼働、セーフティダウンまでのカウント、開始します!」
朔也の声に合わせてモニターの一部にカウントダウンが表記される。
「...黒く輝く、黒いギア...」
呆然とマリアが呟いた通り、歌い始めた装者四人が纏うシンフォギアは、全体的に鋭く刺々しいデザインであり、インナーやプロテクター、手にしたアームドギアなどの全てが黒を基調としているのに加えて、妖しさと禍々しさを孕んだ黒い光を放っていた。
「呪いの力なのに、眩しいくらいに光ってるデスよ!」
「闇という存在でありながら光輝く...この矛盾を内包した姿が、カズヤさんのシェルブリットと魔剣が融合した強化型シンフォギア、イグナイトモジュール...」
切歌が仰天しながらモニターを指差し、セレナが姉同様に呆然としながら訥々と語る。
「カズヤさん!」
「ああ」
未来が満面の笑みで隣に顔を向ければ、カズヤは当然の結果だと言わんばかりに頷く。
彼の右目からは既に血涙が止まっており、モニター越しに装者四人を見つめる右の瞳は、淡い金の光を優しく放っていた。
それから彼は勝利を確信して叫ぶ。
「やっちまえ!!」
キャロルはまず様子見なのか、アルカ・ノイズを大量に召喚する。
『検知されたアルカ・ノイズの反応、約七千!』
その数、総勢七千。通信越しにあおいが切迫した声を聞いている間に、アルカ・ノイズの群れは周囲一帯をあっという間に埋め尽くし、殺到してくる。
だがそんな多勢に無勢な状況を前にしながら、装者四人は全く怯むことなく前に出た。
「たかだか七千!」
「慣らし運転にはむしろ足りないくらいだ!」
まず先に響と奏のガングニール組が爆発的な速度で踏み込んで突撃。
響のガントレットが変形し、装甲がより厚くより大きく、より無骨で強固なフォルムとなり、凄まじい打撃力を正面に叩きつける。拳を突き出されたアルカ・ノイズは勿論、直線上にいたもの達も貫通力の高い衝撃波を食らい一瞬で塵と化す。
奏はアームドギアである槍を二振り──二刀流ならぬ二槍流で振り回す。穂先を高速回転させ、二振りの槍からそれぞれ黒い風が生まれ、それは瞬く間に巨大な竜巻となって敵の群れを呑み込み、高く舞い上げ磨り潰す。
「二人に続くぞ、雪音!」
「当たり前だ! 派手に暴れてやるよ!!」
刀状のアームドギアを上段に構え、渾身の力で振り下ろす翼に、大量のミサイルを大小問わず発射する砲台へとアームドギアを変形させたクリスが応じる。
放たれた斬撃は高層ビルさえ両断する規模の巨大な黒いエネルギーの塊となってノイズ達を蹂躙。
発射されたミサイル群は一度高く上昇してから、狙いを定めて雨霰と振り注ぎ、我が物顔で制空権を侵していたもの、地上に蔓延っていたものを纏めて広範囲に殲滅していく。
四人のギアの出力はカズヤとの同調時と遜色なく、繰り出される技は一つひとつが同調時のシェルブリットバーストに匹敵するほど。
エルフナインとフィーネは、見事なまでに
「臍下辺りがむず痒い......!」
召喚した先から処理されるアルカ・ノイズの様子に、やがて笑みを浮かべたキャロルが動く。
アルカ・ノイズごと巻き込むように、弦を響と奏に向けて飛ばす。
難なく回避したところに火炎と水流が迫るが、響は火炎を右拳でぶん殴ってあっさり消滅させ、奏は二振りの槍をクロスするように振り下ろし容易に斬り裂く。
「っ......!!」
あまりにも簡単に凌がれたことに眉を顰めたキャロルに、二方向から黒い斬撃と黒いエネルギー弾が飛来。翼とクリスからの攻撃だ。
一目見て障壁など張るだけ無駄と判断し、後方へ大きく跳躍して下がり躱すキャロルの姿に、奏が咆哮を上げる。
「逃がさない!!」
二振りの槍を合体させ、一振り長大な槍──牙が並ぶ肉食獣の顎の骨にも似た形状──にすると、その先端から暗黒のエネルギーが迸った。
これは躱せない、と察した彼女は自身を食らい尽くさんと迫る闇の力に、錬金術の極光を発射して全力で対抗するが、
「シェルブリットォォォォォォ──」
そこに更に襲いかかってきたのは響だ。奏の攻撃に対抗している隙を、完全に無防備となった側面から、弾丸のような速度で飛び掛かってくる。
その右腕をカズヤのシェルブリット──当然色は黒い──へと変じさせ、暗黒に染まった拳を振りかぶっていた。
手首の拘束具が弾け飛んで、それにより手首から肘まである装甲のスリットが展開し、手の甲に開いた穴に凄まじいエネルギーが──黒く光輝く呪いの力が収束していく。
「──バァァァァストォォォォォッ!!」
全身全霊の右ストレートが、キャロルの頬をぶん殴る。
瞬間、先ほどのカズヤとは真逆の、世界全体を闇に沈めるかのような暗黒が弾け、爆裂した。
仰向けに倒れたキャロルのそばまでゆっくりと歩み寄ってから、彼女の顔を覗き込めるように響は両膝を突く。
ファウストローブが解除され、幼い姿へと戻り、仰向けに倒れているキャロルの姿は、これ以上ないほど酷かった。
服はボロ雑巾みたいで、血と埃塗れの小さな少女。
こんな風になるまで戦うことをやめなかった彼女にとって、父──イザークという人物はそれほど大切だったのだ。
「キャロルちゃん、もうやめよう......世界を壊しても、きっとキャロルちゃんのお父さんは喜んでくれないよ」
「......もう父の顔すら思い出せん。想い出を焼却、戦う力に変えた時に」
この一言に響は息を呑む。
響の表情が歪んだのを見て、キャロルはせせら笑う。
「ふっ......その呪われた旋律で、誰かを救えるなどと思い上がるな」
そう言い残すと、キャロルの肉体は瞬く間に翡翠色の炎に包まれていく。
「キャロルちゃん!? ああ、ああ、あああ、ああああああああああああ!!」
自決。そんな光景を目の前にした響の慟哭が戦場跡に虚しく響いた。
やがて炎が収まり、黒い煙を上げる消し炭だけが残された光景を眺め、彼女は一人かぶりを振る。
「呪われた旋律、誰も救えない......そんなことない、そんな風にはしないよ、キャロルちゃん。呪われていようが呪われてなかろうが関係ないんだよ......だって私の手は、誰かを救う手だってカズヤさんが言ってくれた。だから私は、躊躇うことなくいつまでもこの手を差し伸べ続けるんだ」
だからいつまでも後味の悪い勝利に俯いてなどいられない。
そう考えて顔を上げた響は、キャロルだったものから立ち昇る黒煙が消えてなくなるまで空を見つめていた。
私が今回のお話を書いてる時に、アプリゲームのシンフォギアの方では、イベントにて奏、セレナ、未来の三人にイグナイトモジュールが実装されました。
この作品でもイグナイトがそろそろお披露目になるというタイミングで、なんてタイムリーなことなんだと思ってしまったり(笑)。
ということで、今回の奏(と今後のセレナ)のイグナイトはアプリ版のイラストを見てイメージしてくださいね!
ぶっちゃけ今回イグナイト使用時の奏については、アプリ版を見てから描写してますので、まんまじゃねーかと思います。
......でも、槍を二振り装備した奏を見て、岸田メル先生のダブルソードを連想した私は頭おかしいかもしんない......
次回は水着回だ!!