カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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私の夏休みは、ないです(泣)


夏! 海! そして──

チフォージュ・シャトーに再び訪れた招かれざる客、パヴァリア光明結社の三幹部──サンジェルマンとカリオストロとプレラーティ──に対応せねばならない事態に、ミカを除いたオートスコアラーの三体は頭を抱えたい気持ちを必死に堪えていた。

 

「...ご用件は?」

 

主不在のこの状況下で、下手な対応をすれば全てがご破算になると思考を巡らせながら、ファラが慎重に問う。

こちらはついさっきまでS.O.N.Gの連中とやり合っていたのだ。それをサンジェルマン達が知らないはずがないだろう。むしろ高みの見物を決め込んでいたはずだ。

だとするなら、三人の目的は自ずと分かる。

 

「"吸収(アブソープション)"を回収させてもらう」

 

やはりそう来たか!

淡々とした口調のサンジェルマンの言葉に、ファラとレイアはなんとか無表情を貫いたが、ガリィはあからさまに顔を顰めてみせた。

 

「安心しろ。別にただで全て寄越せとは言わない。回収するのは残り四つの内の一つで構わない。それに見合うだけの労働力も提供する」

 

思わず顔を見合せてしまうファラ達三体。

サンジェルマン達がその気になれば、キャロル不在の今、ファラ達三体を力ずくで倒し、強引に"吸収(アブソープション)"を全て回収することなど造作もない。

何故、そうしない? 

不審に思いながらもファラは口を開く。

 

「労働力とは?」

「前回とあまり変わりはない。お前達オートスコアラーの修復や、破損していなければ行われていたであろう仕事の肩代わりなどだ」

「その報酬として、"吸収(アブソープション)"を一つ回収させろと......」

「言っておくが、回収するのはあくまでも"向こう側"の力が溜め込まれている"吸収(アブソープション)"だ。中身が空では意味がない」

「変なトンチ利かせてお茶を濁そうとしたら、ただじゃおかないわよ」

「その時は相応の覚悟をしてもらうワケダ」

 

鋭い目付きで釘を刺してくるサンジェルマンに続き、カリオストロとプレラーティが冷笑を浮かべて警告してくる。

悪くない条件、いや、むしろこれは破格だと思われた。

ファラ達としては、サンジェルマン達がこの場に現れた時点で全てが終わってしまったと考えていただけに、彼女達の気が変わる前にこの契約を結びたい気持ちでいっぱいだ。

何せ、問答無用で襲われることを想定していたのだから。

 

「これ、もしかしてかなり良いんじゃないの!?」

「地味に好条件。マスターが不在でミカが動けない現状、"吸収(アブソープション)"一つで納得してくれるなら逃す手はない」

 

ガリィとレイアの意見はもっともだ。ファラも反対理由が見当たらない。

勝手に決めてしまってキャロルには申し訳ないが、これを蹴ったら実力行使に出られるかもしれないので、相手の提示する条件を呑まない訳にはいかない。

 

「...分かりました。ですが、報酬を渡すのは仕事が終わってからで構いませんね?」

「ああ、勿論だ」

 

漸くファラが頷くと、サンジェルマンが満足気に微笑む。

そんなサンジェルマンの横顔を左右から見ながら、内心ウキウキで堪らないんだろうな、と思うカリオストロとプレラーティであった。

 

 

 

 

 

【夏! 海! そして──】

 

 

 

 

 

眩しく輝く太陽、夏らしい入道雲と青が広がる快晴、潮の匂いを含んだ風、太陽に照らされて熱くなった砂浜、水が綺麗で今すぐ飛び込みたくなる海。

それらを前に、カズヤは自然と笑みを作り、海に向かって一人言を呟く。

 

「台風一過とはよく言ったもんだな。昨日の台風が嘘みてーだ」

 

上は白い薄手のパーカーだけ、下は膝が隠れない程度の丈の長さを持つ、迷彩柄のサーフパンツの水着。鼻の上にはストレイト・クーガー仕様の色違いの黒いサングラスを引っ掛け、足にはビーチサンダル。

そんな出で立ちのカズヤは、装者達と共に政府保有のプライベートビーチへとやって来ていたのだ。

こういう経緯となったのは数日前のこと。

司令である弦十郎が言った。

 

『新たな力の投入に伴い、ここらで一つ特訓だな』

 

特訓? と各々が様々な表情を浮かべる中、一人本気で嫌そうにしていたクリスが印象深い。

弦十郎曰く、

 

『オートスコアラーとの再戦に向け、強化型シンフォギアとイグナイトモジュールを使いこなすことは急務である。近く、筑波の異端技術研究局にて調査結果の受領に向かう。諸君らはそこで、心身の鍛練に励むといいだろう』

 

とのこと。

それを聞いて張り切り出したのは響で。

 

『特訓と言えばこの私! 任せてください!!』

 

という訳で響主催の特訓が課せられたのであったが。

 

「完全に持ち物が海水浴しに来ただけって感じなんだよなー」

 

男故か誰よりも早く着替え終わったカズヤは、ぶつぶつ言いながら、砂浜のテキトーな場所にパラソルを幾つもおっ立てて、そのすぐそばに折り畳み式のプールサイドチェアを設置する。

 

「ま、ここ最近は戦ってばっかだったし、あいつらには良いリラックスになるかね」

 

自分としては戦ってばっかでも全く支障はないのだが、年頃の乙女達である他の面子はそういう訳にもいかない。

浮き輪やビーチボールの類いを膨らませる作業が終わると、後は女性陣がやって来るのを待つだけとなる。

設営、と呼ぶには簡単過ぎる仕事を成し遂げ、パラソルの下で椅子に寝っ転がってると、

 

「カズヤさぁぁぁん!」

 

大きな声で元気に名を呼びながら駆け寄ってくるのは、黄色いビキニ姿の響。

 

「よっ。お前が一番乗りか」

 

椅子から立ち上がり、サングラスを外してその姿を上から下までしげしげ眺める。

年頃の少女らしさの中に、上から下まで程良く肉が付いた健康的なセクシーさと色気が含まれていて、とても可愛らしくて綺麗だ。

 

「はい! その、早く水着姿を見て欲しくて......あの、どうですか?」

 

目の前で立ち止まるや否や、急にしおらしい態度になり、モジモジしながら頬を朱に染め、上目遣いで尋ねてきたので、率直に感想を伝えることに。

 

「良いな、スゲー似合ってる。響らしくて可愛いし、綺麗だ」

「えへへ...ありがとうございます......それじゃあ、行きましょうか」

 

花咲くような笑みを浮かべ、響はカズヤの手を取るとグイグイとかなり強い力で引っ張ってきた。

 

「行くって、何処に?」

「あっちの岩影の方です。あそこならここから死角になってて見つからないでしょうし」

「? 皆のこと待たなくていいのか?」

「むしろ待ってたらダメなんです! 皆が来る前に早く二人っきりで逃げぐふぅぅぅっ!?」

 

響は最後まで言い切ることができず、悲鳴を上げながら砂浜にズザザーッとぶっ倒れた。というか、ぶっ倒された。

背後から飛び蹴りをかましてきた水着姿のクリスによって。

その後ろには未来もいた。

全力ダッシュでもしてきたのか、二人は肩で大きく息をしている。

 

「ほら、私の言った通りだったでしょ。一人だけやたら急いで着替えてると思ったら、やっぱりこれなんだから」

 

白と紫のシンプルなデザインのワンピースという水着姿の未来が呆れたように吐き捨てた。

露出を抑えた水着、かと思えば背中はえぐいくらいに開き丸出しで、それが妙に色っぽい。

 

「全く、油断も隙もねぇなお前は!!」

 

フリフリの赤いビキニに加えて腰回りに短めのフリルスカートが付属した水着のクリスが怒鳴った。

小柄かつ華奢な体躯でありながら、その胸元ははち切れんばかりで、太ももなんて実にむっちりしており、腰もキュッとしていて魅惑的だ。

 

「ううぅ、間に合わなかった......私の『皆に内緒で二人っきりのちょっとエッチなイチャラブ大特訓』がぁぁぁ~」

「一体何の特訓するつもりなの!? っていうか、響の場合『ちょっと』で済まないでしょ!!」

「お前、最初からこのつもりだったのか! ああ!?」

 

砂浜にうつ伏せに倒れてシクシク泣き出す響に、未来とクリスは怒髪天となる。

響の奴、一昔前の企画ものAVのタイトルみたいなこと考えてたのか、と思ったがカズヤは黙っておくことにした......なんでそんなこと知ってるんですか? と詰問されたら色々と困るので。

 

「こいつ埋めちまおう」

「じゃあ、アルター使って」

 

クリスの提案に未来が即頷く。

淡い虹色の光を全身から放ち、未来がアルターの分解能力で響の真下の砂を深く大きな穴を開けるように粒子化させ、響が落ちると同時に粒子化させていた砂を元に戻す。

それだけで、僅か二秒で首から下が砂に埋まった生首響の出来上がりだった。

 

「え! あ、ちょっ、何これ!? アルター能力ってこんな使い方できるの!? っていうかこれ全然動けないんだけど!!」

「響の体積が加わったから、その分砂の中の圧力が強くなってるんだよ」

「へへへっ、いい気味だな」

「抜け駆けしようとしたことは謝るからここから出してよ未来、クリスちゃん!!」

「クリス、何か聞こえた?」

「何も聞こえねぇな」

「嘘つきぃぃぃぃ!!」

 

無慈悲な対応の未来とクリスにそろそろ声を掛けようとカズヤは二人に近寄る。

 

「二人共、似合ってるな」

「そうですか!?」

「ホントか!?」

 

生首響を捨て置き、がばっと凄い勢いで振り返る二人に首肯。

 

「ああ、良いと思う。色もデザインもそれぞれのイメージに合ってて、可愛いぜ」

 

思ったことをそのまま伝えると二人は恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうな笑顔を見せた。

 

「...............ところで、日差しが強いんであっちの岩影の方で休みませんか? ね? 先っぽ、じゃなかった『ちょっと』だけ、『ちょっと』だけだから」

「そうだな! ほら、このままだと日焼けしちまうから、な? いいだろ? ついでにそこで特訓もしよう、そうしよう!」

 

次いで未来とクリスはそれぞれカズヤの左右に回り、その腕を掴むと全力で何処かに連れて行こうとする。

しかし──

 

「「チェスト!!」」

 

いきなり背後から、同時に飛び蹴りを食らって、二人は砂の上にすっ転ぶ。

 

「何が、日差しが~だ! 魂胆見え見えなんだよ!」

「小日向も雪音も、勿論立花も少しは自重しろ!」

 

鼻息荒い奏と翼が仁王立ちで、砂の上に倒れた二人と、砂の中から首だけ出ている響を睥睨した。

今のやり取り、既視感が凄い。

 

「着替え終わって早々何やってるのよ」

「皆さん、サンオイルはもう塗りました?」

「生首デース!!」

「響さんはともかく、未来さんとクリス先輩さんまでもが既に砂塗れになってる」

「もう遊んでるんですか!? 早いですね!」

 

呆れた様子のマリアを筆頭に、苦笑するセレナ、はしゃぐ切歌、微妙に響をどういう目で見てるか窺える調、驚嘆したエルフナインが水着姿で集まってくる。

その中で、最も幼い外見のエルフナインがタタタと走り寄りペコリと頭を下げた。

 

「すみません、水着というものを着るのは初めてなので、お待たせしてしまいました」

 

完全に見た目が小学生低学年な感じのエルフナイン。上と下がそれぞれ別れたデザインの水着の為、臍出しルックとなっている。それを見て、ホムンクルスで性別はないのに臍はあるのか、だとしたらSF映画などでよくある人工子宮器的なものが胎児だったエルフナインを育んだのか、つまり錬金術は高度な科学技術とあまり変わらんのでは? とカズヤは場違いなことを考えてしまう。

 

「女に待たされるなんざ慣れっこだから気にするな」

 

頭に浮かんだしょうもないことを追い出し、手をヒラヒラさせて気にしてないアピールをしてから、奏達に目を向け、ヒュー♪ と口笛を吹く。

モデルやグラビアアイドルとしても通じそうな奏の姿は、その抜群のプロポーションを惜しげもなく晒すような黒とオレンジで彩られたビキニスタイル。

まるでアスリートのように鍛え上げられ無駄な肉付きが少ない、スレンダーかつ流麗な翼が身に纏うのは、青いビキニ。

奏同様に女性なら誰もが羨むスタイルの持ち主であるマリアは、胸元の布面積がかなり挑発的なデザインの黒と赤の水着を身に付け、プラスしてロングのパレオを腰に巻いてその美脚を隠している。

姉と同様に豊満な肢体のセレナは、姉とは対称的に肌を可能な限り隠すような白一色のワンピース。だが体のラインはしっかり出ているので、むしろよりセクシーさを浮き彫りにさせた。

切歌は黒と緑を基調とするビキニで、幼さやあどけなさを残しながらも、出ている所はしっかり出ていて引っ込む所は引っ込んでいて、そこはかとなく色気を醸し出している。

桃色のワンピースにその細い体を包んだ調は、痩せているせいか、どうしても肉付きが乏しいと言わざる得ないが、本人が纏う空気もあってか、そのなだらかな肢体からはなんとも表現し難い危険な香りを漂わせていた。

 

「何か言うことあるでしょ」

「これほど自分の語彙力のなさを実感したこたぁねーな。真夏の女神達にはビューティホーと言わざるを得ない。お前ら皆似合ってて、可愛さ百点満点だ」

 

期待の眼差しの奏に促され、先日の戦い以来、金の瞳となり二度と元に戻らない右目でウィンクしながら、おどけたようにカズヤは肩を竦める。

そんな彼の言い回しと態度が嬉しいやらおかしいやらで、皆は一斉に笑い出す。

 

「さて、全員揃ったところでまずは記念撮影でもしようぜ。それと未来、そろそろ響掘り出してやれって」

 

言って、いそいそとS.O.N.Gの備品庫から拝借した三脚とカメラを準備し始めるのであった。

 

 

 

 

 

「日本の夏ってジメジメしててホント暑いわね~」

 

海岸を一望できる喫茶店のテラス席に座り、ハート型のレンズのサングラスをかけ、アイスコーヒーをストローで啜りつつカリオストロがうんざりした口調で言う。

 

「エジプト人やインド人ですら日本の夏には耐えられんという噂は、事実だったワケダ」

 

応じるのは、カリオストロの隣に座り、麦わら帽子を頭に載せメロン味のかき氷に舌鼓を打つプレラーティ。

 

「この湿気がどうにかなれば、もっと過ごし易いのだが」

 

そして、そんな二人と同席するのは、この暑さでも男装を貫く麗人、サンジェルマン。

パヴァリア光明結社の幹部という立場にある三人の錬金術師でも──欧州育ちというのもあってか──流石に日本の高温多湿には辟易しており、錬金術を用いて体感温度の調整をしなければ日中に外出する気にはならないほどであった。

 

「それにしても昨日は大変だったワケダ」

「台風に乗じてオートスコアラー達が破壊予定だった施設各所をあーし達がそれとな~く破壊する......仕事自体は台風のお陰で楽勝だったけど、あの雨と風の中での作業には結構辛いものがあったわね~。数もそれなりに多かったし」

 

プレラーティの述懐にカリオストロがうんうん頷く。

 

「お人形さん達の修復も昨日の夜にサンジェルマンが終わらせてくれたから、残りはこの後S.O.N.Gの施設に盗みに入って」

「盗んだものを人形共に渡して見事に仕事は完遂、"向こう側"の力を溜め込んだ"吸収(アブソープション)"が報酬として支払われる、というワケダ」

 

楽な仕事だ、と二人はほくそ笑んでから、隣のサンジェルマンを見る。

 

「......何?」

「いや、こんなに期待に胸を膨らませたサンジェルマンを見るのは久しぶりな気がして」

「楽しみで堪らない、そう顔が言ってるワケダ」

「そ、そうかしら?」

 

戸惑うサンジェルマンに二人はニヤニヤと笑みを浮かべ、二人は生温かい視線を送った。

その視線が自分をからかっているような気がして、眉を顰める。

 

「カリオストロもプレラーティも"向こう側"の力には興味があるでしょう?」

 

質問を投げれば、そりゃ勿論と言わんばかりに二人は頷き、それからカリオストロが頬杖を突いてから口を開いた。

 

「でも、回収する"吸収(アブソープション)"は本当に一つでよかったの? ぶっちゃけ勿体なくない? キャロルがいない隙にお人形さん達から簡単に強奪できたでしょ? どうしてしなかったの?」

「それに関してはカリオストロと同じことを思ってたワケダ。それに、あの男がキャロルに殺されそうになったら介入するとサンジェルマンは言っていたが、先日はそんな素振りすら見せなかった。この辺りの真意もよければ聞きたいワケダ」

「......」

 

責めている訳ではなく、純粋に疑問に思ったことを口にする二人の同士に、サンジェルマンは少し困ったような笑みを見せてから語り出す。

 

「"吸収(アブソープション)"に関しては、筋が通らないと思ったから」

 

二人は黙って耳を傾ける。

 

「我々の立場はあくまでキャロルを支援している外部協力者。私欲に走って支援先を裏切るなど、いくら"向こう側"の力を手に入れる為とはいえ、そんな唾棄すべきことはできない」

「まあ、サンジェルマンならそうよね~」

「相変わらず生真面目なワケダ」

 

納得する二人を置いて続けた。

 

「......プレラーティの疑問に関しては......その、忘れていたんだ」

「「は?」」

 

予想だにしない発言に二人はポカンとする。

 

「なんというか、追い詰められた彼を見て助けなければとは思わず、むしろ楽しみになった。あの状況をどうやって覆すのか期待してしまった。必ずあの光を見せてくれると信じていた。そして期待通り、いや、期待以上の輝きを見せてもらった......このような心境だったのだけれど、おかしい?」

 

最後の方で、おずおずといった感じで問い掛けてくるサンジェルマンの姿に、二人は盛大に笑い出す。

 

「なっ......!?」

「ぷ、ぷはっ、くははははは!」

「ちょっ、ちょっとサンジェルマン、アハハ、もう、笑わせないでよぉっ!!」

 

二人のリアクションを前に瞠目するサンジェルマン、腹を抱えて大爆笑し続ける二人。

喫茶店のテラス席に笑い声が響き、店員さんが店内からチラリとこちらを一瞥してから微笑ましそうな笑顔となって元の作業に戻っていくのが視界の端に映る。

 

「そんなに笑うことないでしょう...」

「メンゴメンゴ! でもその気持ち分かるわぁ~。あの子見てるとこう、血沸き肉踊るというか、つい手に力が入っちゃうのよねぇ~」

「というか、サンジェルマンは自分で気づいてないワケダ! 今まで『あの男』か『"シェルブリットのカズヤ"』だったのが、いつの間にか呼び方が『彼』になっているワケダが!?」

「え............あ!?」

 

プレラーティの指摘にハッとなるサンジェルマンを見て、更に二人は大声で笑った。

明確に呼び方が変わったのは、キャロルとの戦闘の際、シェルブリット第二形態を発動させた姿を見てからだというのを思い出す。

 

「もうすっかりお気に入りね...ぷくく」

「茶化すなカリオストロ」

「だが気持ちも分かるワケダ。ああいう意地の張り方をする男というのは、元男から見ても好ましく映るワケダ」

「プレラーティ?」

「そうそう。サンジェルマンに出会うまで悪逆非道を繰り返してきたあーし達からしたら特にね。考えなしの小細工なし、おまけに正面から全力で前へ進む男って、バカで不器用だけど、そういう真っ直ぐな生き方は羨ましいと思うの」

「興味深い研究対象としか見てなかったのが、気がつけば奴の観察が楽しくなってきたのはサンジェルマンと同じなワケダ」

「...二人共...」

 

笑うのをやめ、遠い過去を思い出すかのように目を細めるカリオストロとプレラーティに、サンジェルマンは何を言えばいいか分からず口を閉ざしてしまう。

二人の眼差しには、僅かだが疑いようのない羨望があった。元男として、これまでのカズヤの言動に思うところがあるのだろう。むしろ男性としての視点を持ったことのないサンジェルマンよりもカズヤの気質を深く理解している節がある。

 

「あ~あ、ホント勿体ないわ~。なんでS.O.N.Gになんかにいるのかしら」

「何処の組織にも所属してなければ、すぐにでもスカウトしたいワケダ。勿論、幹部待遇として」

「......」

 

冗談めかした口調で言いながら再び笑い合う二人の言葉に、サンジェルマンは暫く黙ったままだった。

 

 

 

 

 

波の音をBGMに、楽しげに笑い合ういくつもの声がプライベートビーチに響く。

波打ち際で海水をかけ合ったり、浮き輪に乗ってのんびりと波に身を任せたり、砂で城を作ったり、誰が速く泳げるか勝負をしたり、パラソルの下で寝っ転がったり、という感じでカズヤ達は思い思いに夏の海を満喫していた。

完全に海に遊びに来た若者達という様相。

特訓とは一体何だったのか。ということすら最早誰も気にしていないし、突っ込む者もいない。

やがて、それぞれが好き勝手やっていたところに、カズヤがビーチボールでリフティングを始めたことを発端に、皆でビーチバレーをしようという話になった。

 

『そちらの特訓は進んでいますか?』

「残念だが特訓らしいことは何一つやってねーから期待するな」

『ええぇ......』

「だって今ビーチバレーしてるし」

 

通信機越しに戸惑う緒川の声に、カズヤはきっぱりと言い切る。

現在彼は審判という役目を担っていた為、その視線はコート内を行ったり来たりするビーチボールを追っていた。

ついでに、飛んだり跳ねたりすることで艶かしく揺れる女性陣の魅力的なボールや太ももなども必死になって見つめていたし、チャンスとあらば写真も撮る。真顔で。

 

『遊んでるだけじゃないですか、それ』

 

通信機の向こうで緒川の苦笑している姿が手に取るように分かる。

 

「俺はともかく、他の連中にはこういう時間が多目にあった方がいいから構いやしねーだろ?」

『まあ、その意見には全面的に同意します。何かあればいの一番に出動しなければならないのは、皆さんですから』

「つっても、本当に何もしない訳にもいかねーから、後で軽く模擬戦でもするさ」

『.........ビーチを地図から消し飛ばさない程度でお願いしますね。カズヤさんは特にそうですが、装者の皆さんもヒートアップするとすぐに大技使うんですから』

「悪いがそいつは保証できねー。響以外、以前未来にボロッカスにされたこと根に持ってるからな。密かにリベンジマッチに燃えてるぜ?」

『燃えるのはいいですけど、そのプライベートビーチを燃やし尽くすのはダメですからね!』

「ハハハッ! 善処する」

『その言葉、この世で一番信用しちゃいけないやつですよ!!』

 

切実な声を返す緒川に、カズヤはもう一度大笑いしてから通信を切った。

丁度その時、マリア&エルフナインのチームがサーブ権を得る。ビーチボールを高く投げ上げて、サーブを打とうと跳躍したエルフナインが見事に空振ってしまう。

サーブの打ち方を知っているのに、何故上手くいかないのか不思議そうにしているエルフナインに、マリアが優しくレクチャー。実際にやって見せている。

 

「背伸びをして誰かの真似をしなくても大丈夫。下からこう、こんな感じに...」

「はうぅ~、ずみ゛ま゛ぜん゛」

「弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしく打つことだから」

「はい! 頑張ります!」

 

エルフナインの返答にマリアは微笑むが、

 

「さっきカズヤさんがサーブもスパイクもオーバーヘッドキックで格好良く打っていたので、せめて僕もバレー選手みたいに打てればと思ったのですが...」

「......あれはダメよエルフナイン。カズヤは、カズヤという人種の人類なの! 常に私達の認識や一般常識の斜め上をすっ飛んでくの! 参考なんかにしたら大怪我するわよ、気をつけて、命に関わるから!!」

 

その微笑みを凍りつかせ、ガッとエルフナインの小さな両肩を掴んで力強く諭す。

まるで我が子に対して「不良のあの子とは遊んじゃいけません!」と言い聞かせようとする教育ママみたいな言い草だ。

迫力に気圧され、とりあえずコクコク頷くしかないエルフナイン。

 

「奏母ちゃん、ママリアが微妙に俺のことディスるんだが」

「マリアの言う通りだよ、エルフナイン。こいつの真似なんてしてたらいつか頭プリンになるから気をつけな」

「お前もか奏ぇぇぇっ!! つーか頭プリンって何だおい!? お前、俺の脳みそがプリンみてぇに蕩けて甘いって言いてぇのかゴルァァッ!? こん中で一、二を争うプリンプリンな体してる癖しやがって!!」

「ちょ、何す、あああああああああ!?」

 

ぷんすか怒ったカズヤがセクハラ発言と思えるような台詞と共に、全身から淡い虹色の光を放ち、先ほど未来が響にしたのと同じようにアルターを用いて奏の首から下を砂に埋める。

 

「さっきの響はこれかぁぁっ!! 今全ての謎が解けたけど、謎のままでよかったぞこの状況!!」

「よしっ、今から活きのいいナマコを捕まえてくるから覚悟しやがれ!」

「ナマコって、何するつもりだい!?」

「知ってるか? ナマコって生命の危機を感じると、身を守る為に自分の内臓を吐き出すんだぜ?」

「おい、まさか......」

「"ツヴァイウィング"の天羽奏、ビーチで生首、ナマコの内臓塗れってハッシュタグでネットに写真を匿名投稿してやる!!」

「なんて恐ろしいこと思い付くんだ! そういうところが頭プリンだっつうの!!」

「カズヤ! 私もナマコ捕まえるの手伝うデス!」

「切ちゃんがナマコなら私はヒトデを......」

「おいぃぃぃ! 要らん手伝いすんな! やめろ、待って、冗談だろっ!? ホントにナマコとヒトデを探しに行くなぁぁ! 戻ってこいバァァァロォォォ!!!」

「ねぇねぇ未来、こうして見ると、翼さんがボケ芸人なら奏さんはリアクション芸人だよね」

「確かに響の言う通り、ツヴァイウィングって二人揃ってバラエティー向きだね」

「「ねー」」

「『ねー』、じゃないよ、助けてくれよぉ......アタシ、このままだと愛する男の手で頭にナマコ載せられた後に、そのナマコが内臓吐き出して内臓塗れにされた姿をネットにアップされるとか、どんな羞恥プレイだよ、酷過ぎる......」

「炎上商法ってやつだな、ぶふー」

「クリス! 後で覚えときな!!」

「......奏、その写真、今度の動画のネタに使っていい? アイキャッチとかに」

「よりにもよってそんな絵面をアイキャッチに使おうとすんな! もしやったらツヴァイウィングは解散だからね翼っ!!」

「流石にこれはちょっと可哀想です、皆さん悪乗りし過ぎですよ」

「セレナ? 助けて!! あの頭プリン三人が戻ってくるまでにアタシを掘り出してくれ!!」

「そうしてあげたいのは山々ですが、残念ながら無理なんです」

「うぇ!? なんで?」

「既に私はマリア姉さんと共にカズヤさんに全て捧げた身、カズヤさんの意思には逆らえません......ぷークスクス」

「ああああああどいつもこいつも、頭プリンじゃねぇぇぇかぁぁぁぁぁ!!!」

 

ギャーギャー騒ぐ様子を極力無視し、マリア&エルフナインは翼&クリスチームから飛んでくるサーブをひたすら待った。

 

 

 

ちなみにナマコは、カズヤと切歌が捕まえた時点で内臓を吐き出してしまった。なので、運良く奏はナマコの内臓塗れは回避できた。

その代わり、調が「ヘアッ!!」と鳴くヒトデをたくさん見つけたので、ヒトデ塗れにはなったが。

 

 

 

更に言えばその後、カズヤはガングニールを纏いイグナイトまで発動させた奏にこれでもかというほどド突き回され、なし崩し的にそのまま模擬戦へと移行し、互いがボコボコになるまで殴り合うことに。

そして結果的に、ビーチには大小様々なクレーターが大量に生まれてしまった。

後にこのことについて「シェルブリットバーストは使ってない」と言い訳染みたことを宣うが、緒川からはしっかり文句を言われた。

 

 

 

全力で遊んでいたせいか──二名ガチで殴り合っていたが──流石に誰もが疲れを感じ、体をパラソルの下で休め始めた頃。

 

「晴れて良かったですねぇ...」

 

視界の端に映るたくさんのクレーターから視線を反らし、青空を見上げながらエルフナインが感慨深げに呟く。

 

「日頃の行いデース」

 

それに切歌がドヤ顔で応じる。

 

「でも昨日の台風、凄かったよね。都内のほとんどで停電だって」

 

未来が昨日の台風について言及すると、翼が引き継ぐように喋り出す。

 

「今朝のニュースでやっていたあれか。台風の影響で都内に電気を供給していた発電所のいくつかが、深夜の内に破損したという。復旧には早くとも数日かかると聞いたな」

「この暑さでエアコン使えねぇとか、都民は熱中症で倒れるぞ」

「そう考えると、アタシら全員、いざって時の為に本部で待機、そのままこっちに来たから助かったね」

 

ぐったりといった感じでうつ伏せになっているクリスがうんざりしたように言えば、鼻にティッシュを詰めた奏──カズヤとの模擬戦で鼻血が吹き出たので──が椅子から上体を起こして苦笑。

 

「でも、台風の被害による出動要請は結局なかったんですよね?」

「風鳴司令曰く、私達が出張るほどのものはなかったみたいよ」

 

心配そうにしているセレナに、マリアが大丈夫だから心配するなとばかりに告げる。

 

「ところで皆さん、お腹が空きませんか?」

 

響が皆に目配せしながら問う。

 

「確かに、はしゃぎまくったから腹減ったな。なんか買ってくるか」

 

誰よりも早くそう口にしたカズヤが立ち上がり、パーカーを羽織り、自身の財布やスマホなどが入ったワンショルダーのバッグを手に取る。

 

「買い出し行くけど、なんか欲しいのあるかー?」

「あ、私、さっきの会話のせいでプリン食べたくなりました」

「いくら響のお願いでも俺の脳ミソはやらんぞ!」

「食べませんよそんなもの! っていうか、カズヤさん自分が頭プリンの自覚あるじゃないですかぁ...」

「頭プリン一人で買い出し行かせると何買ってくるか分かったもんじゃないので、ジャンケンでもして買い出し班を決めましょうか」

「「「「「「「「「賛成」」」」」」」」」

「......信用ねー」

 

未来の鶴の一声と、誰からも異論がないことにカズヤは正直凹んだ。

が、密かに大量のプリンでも買ってきて困らせてやろうかと企んでいただけに、未来の判断は何一つ間違っていなかったのである。

 

 

 

ジャンケンの結果。

まず翼が変なチョキ(本人曰く格好良いチョキ)を出し、これが『全ての手に勝てる無敵の手』に見えるというカズヤの独断と偏見で強引に反則負け扱いに。

続いて、翼を抜いて何度かジャンケンが行われ、未来、奏、切歌、調が敗者となり買い出し班に決定。

出発間際、マリアからちゃんと塩分と水分を補給できるものを購入すること、カズヤと翼と奏は有名人なんだからちゃんとサングラスをかけることを念押しされる。

 

「母親の顔になっているぞ、マリア」

 

マリアの手でサングラスをかけさせられた翼がポツリと零す。

 

「何言ってんだ翼、実際マリアはママリアだろ。な? 奏母ちゃん」

「アンタはいつまで経っても手の掛かる子どもだけどね」

「本当にね」

 

意気投合する奏とマリアの返答にグーの音も出ないでいると、背後から近づいてきた未来が耳元で囁く。

 

「さあ、行きますよ()()()()()。好きなもの買ってあげますからねぇ」

 

その凄まじく艶かしい声は、背後からというのもありカズヤにとっては不意打ちに等しく、正直ゾクゾクした。

 

 

 

五人で炎天下の中、コンビニを目指し海岸線沿いを歩く。

 

「景色良いな...こういう道をバイクで走ったら気持ち良さそうだなー」

「では、今度のツーリングは海沿いだな!」

 

何気なく零した言葉に翼が嬉しそうに反応を返す。

そんなバイクバカな二人に奏が呆れた。

 

「うへぇ...こんな暑いのによくバイクに乗ろうなんて思えるね」

「しかもフル装備なんですよね。私はちょっと無理かなぁ」

「ふっ、私とカズヤはバイクガチ勢だから!」

 

眉を顰める奏と未来に対して翼がフンスと胸を張る。

隣を歩く調が「でも」と会話に入ってきた。

 

「私はバイク、少し興味あります。何かの機械に乗ったり操縦するの、楽しそうだから」

「およ? 調、もしかしてバイクデビューデスか!? そう言えば調もアームドギアで似たようなことしてたデスね!」

「あー、あの殺意増し増し轢殺アタック」

「非常Σ式・禁月輪...カズヤのその言い方、なんか嫌」

「月読、一緒にバカになるか? 沼に浸かるのは楽しいぞ!」

「翼さん、他に言い方ないんですか? あ、もしかしてバイク乗りって皆こんな風になるの? それはちょっとヤダなぁ......」

 

そんなこんなでコンビニに到着。

 

「スイカ! スイカ売ってるデス! スイカ割りしたいデス!」

「目隠しして、ゴシャッと砕けて飛び散る果汁と果肉、楽しそうだし美味しそう」

 

店内に入って暫く、スイカの前で騒ぐ切歌と調。

 

「カズヤか未来さんが再構成すれば何度でもスイカ割りできるデス」

「無限スイカ割り、つまり何度でも叩き潰せる」

「いや、一回割ったらスイカ食わせろよ。なんで能力使ってまでやり直すんだよ。それともスイカをそんなに何度も叩き割りたいのか? スイカにカツアゲでもされたのか?」

 

妙なことを言い出す二人に妙な突っ込みをしつつ、スイカを買い物カゴに入れる。

スイカとアルター能力と言えば瓜核だよなー、と懐かしむカズヤが持つ買い物カゴに、切歌がドカドカと自分が好きなものを詰め込んでいく。それを見て調が「切ちゃん、自分の好きなものばっかり」と苦言を呈するが、「これは役得と言うのデス! 財布はカズヤ持ちデスしねー!」と全く悪びれない。

 

「結局飲み物だけでもいっぱい買っちゃいましたね」

「人数多いし運動もしたからいいんじゃない」

 

両手に買い物袋を下げた未来に、同じく買い物袋を両手に下げた奏が頷く。

結局、麦茶やらジュースやらスポーツドリンクやら、お弁当やらお菓子やら、スイカやらプリンやらを買い込んだら大荷物になってしまった。

なお、途中で溶けてしまうのでアイスはダメ、と奏に告げられた時の切歌の絶望顔は面白かったので暫くは忘れられそうもない。

買い物袋をぶら下げて、五人でえっちらおっちら歩いていると──

 

「昨日の台風かなー?」

「お社も壊れたってさ」

 

聞こえた声に視線を向ければ、人だかりができた場所がある。

十中八九地元に住む人々や学生達で、神社の入り口──正確には崩壊した鳥居の前に集まっていた。

 

「何だあの神社、鳥居が滅茶苦茶じゃねーか。昨日の台風で倒壊したのか?」

「昨日の台風の被害がこんな所にまで...」

「うわ、酷いね。災害保険入ってるのかな」

 

目を細めるカズヤ、沈痛そうな表情になる翼、気の毒にと呻く奏。

と、そんな時である。

 

「ぐっ!」

 

何の脈絡もなく、突然カズヤが手にしていた買い物袋をその場に落とし、両手で右目を覆う。

 

「カズヤさん!?」

「「「「カズヤ!!」」」」

「......心配すんな。なんか知らんが響とクリスがギア使ってるみてーだ。それに右目が反応して、突然だったから少し驚いただけだ」

 

覆っていた手をどければ、彼の右の瞳はサングラス越しに淡い金の光を放っている。

待ってるだけでは退屈で、模擬戦でも始めたのだろう、と誰もがホッと溜め息を吐いた刹那、ビーチがある方角の上空で、爆音を伴って紅蓮の花が大量に咲き誇った。

 

「あれは!?」

「模擬戦じゃない! 戦闘だ!!」

 

翼、奏がサングラスを外しながら、それぞれ見聞きしたものに対して叫ぶ。

 

「アルカ・ノイズ...っということは!」

「もしかして、もしかするデスか!?」

「行かなきゃ!」

 

未来、切歌、調の表情が一瞬で引き締まる。

 

「ちっ、そういうことかよ、折角の夏の海だってのに!」

 

忌々しいとばかりに舌打ちしてカズヤもサングラスを外す。

 

「敵の狙いは分からないけど人数いるから手分けして行くよ! アタシと翼とカズヤは響達の援護! 未来は港に停泊してる本部の護衛! 切歌と調は緒川さん達がいる研究局の護衛!」

 

迅速に指示を出す奏に誰もが黙って頷く。

未来と切歌と調がそれぞれの方向へ走り出すのを尻目に、翼は呆然としている一般人の中で適当な男性に駆け寄り、避難誘導を促す。

 

「ここは危険です! 子ども達を誘導して、安全な所にまで!」

「っ!? 冗談じゃない、どうして俺がそんなことを!!」

「「「!?」」」

 

そう吐き捨てて我先にと逃げ出す男性の態度に、奏と翼とカズヤの三人は呆気に取られる。が、すぐに立ち直った奏が苦虫を噛み潰したような表情になり怒鳴った。

 

「クソッ、なんて野郎だ! 避難誘導はアタシと翼がやる! カズヤは先に行って!!」

「任せろ!!」

「大丈夫、慌てなければ危険はない!」

 

子ども達に声を掛ける翼と奏に背を向け、カズヤは右の拳を強く握り締め、高く掲げた。

 

「シェルブリットォォォォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立花洸は、背後から聞こえた大声と共に眩い光が背中に当たるのを感じて、思わず必死に動かしていた足を止め、振り返る。

そこには、太陽があった。

否、正確には太陽のように光輝く一人の青年がいた。

 

「あれは......」

 

かつて"フロンティア事変"という大事件が世界中を賑わせ、連日のようにテレビや新聞、ネットで報道されていたから知っている。

"シェルブリットのカズヤ"。

世界を救った英雄。ノイズに唯一対抗できる存在。世間に露見するまではその存在を日本政府に秘匿されていたが、現在は国連の下で、日夜世界中の人々の為に働いていると聞く。

そんな雲の上の人物が、今、目の前にいる。

数秒の間、その光の力強さと眩しさに圧倒され呆けていたが、彼が飛び去ると同時に我に返り、踵を返して再び足を動かした。

 

(俺には関係ない...!)

 

英雄様がいるんなら、むしろ逃げるのに好都合だ。彼に任せて自分は逃げる、それが最善で問題ない。

ただただ逃げた。巻き込まれるのはごめんだ、と。危険なものには関わらないのが一番だ、と。

仕事を失い、家族を捨て、自分一人逃げ出し、うだつの上がらない生活を何年も繰り返す一般人の自分が、英雄様やノイズに関わっていいことなんて一つもない。

もし一度でも関わってしまえば何かのケチが付きそうだ。むしろそれが怖くて、一刻も早くこの場を離れたくて仕方ない。

そう。これでいい、これが正解だ、俺は間違ってない、自分に言い聞かせながら洸は走り続けた。

しかし、運命の歯車は既に回っており、因果という鎖はまだ断ち切れておらず、彼に絡み付いたままだということに、現時点で当事者達は誰も気づかない。

それが意外な形で叩きつけられるのは、もう間もなくのことである。




調
「ヒトデ、たくさん見つけた」

ヒトデ?「ヘアッ!」

切歌
「おお! でかしたデス調! 私の知ってるヒトデとはなんか違うデスけど、凄くカッチョイイフォルムしてるデスよ! 手裏剣みたいデス!」

カズヤ
「これヒトデ、か? 宇宙人じゃなくて? そもそもヒトデって、鳴くっけ?」

ヒトデ?「ヘアッ!」

カズヤ
「しかもどっかで見たことあるよーな、ないよーな、変な気分にさせられるな、うーん...思い出せねー」

ヒトデ?「ヘアッ!」

調
「...可愛い」

ヒトデ?「ヘアッ!」









響パパと未来さん、原作アニメよりも早く遭遇してますが、まだ互いに気づいてません。間が悪かったし、そんな余裕ないです。
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