カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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輝きに魅入られた者達

強くなりたい。ずっとそう思っていた。

あのネフィリム暴走事故で初めてカズヤのことを目にして以来、ずっと。

彼のように強く。大切な存在を守れるようになる為に力が欲しい。

彼のようになりたい。ただそれだけを想ってひたすら力を、強さを求めた。

あの時に見た光と輝きをずっと追い求めていた。

カズヤは私とセレナにとって強さと力の象徴であり、憧れそのもの。

でも皮肉なことに、彼と再会を果たしたフロンティア事変にて、私も、セレナも、彼のようにはなれないと、彼のように輝けないという事実を思い知らされる。

結局、私達姉妹はカズヤとは違う。そんなこと、少し考えれば子どもでも分かることなのに。

けど同時に、それでいい、それが当たり前だということにも気づかされたのだ。

だってカズヤは、ありのままの私を、ただの一人の女として求めてくれた。私自身の本当の願いを、夢にまで見た望みを、彼はいとも容易く現実のものにした。

......嗚呼、きっと私とセレナは、一生この人には敵わない。

私もセレナも、本当に求めていたのは、カズヤみたいな強さや圧倒的な力なんかじゃない。

この人が、カズヤという男性そのものが欲しかったのだ。

厳密には、私達姉妹はカズヤのものになりたかったという真実を、彼の女になって初めて自覚する。

 

──あなたの為なら何でもする。

──そばにいさせて欲しい。

──私達姉妹の全てを捧げると誓う。

 

そんな私達の想いに彼は快く応じてくれる。

なんて幸せなのだろうか。幸せ過ぎて、たまにまるで夢でも見ているかのような錯覚を覚えてしまう。

彼を想い、想われ、愛し、愛され、それだけで世界が輝いて見える。

人生とはなんて素晴らしいものなのか。

この幸せを守る為ならば、私達は世界の全てを敵に回しても構わない。

この決意と覚悟は、フィーネを騙った時に胸に抱いていたものとは決定的に違う。

私達はカズヤのもの。

彼の意思が私達の意思。

彼と共に生き、彼と共に死ぬ。

カズヤの敵は私達の敵。

"シェルブリットのカズヤ"の女として、彼が進むべき道を邪魔する者は、たとえ相手が誰であろうと情けや躊躇などを捨て、一切の容赦なく叩き潰す!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラソルの下で寝っ転がり、買い出し班が戻ってくるのを今か今かと待つ五人。

ぐぅぅぅ!

誰もが音がした方を見つめれば、注目を集めた響が恥ずかしそうに頬を掻いて誤魔化すように笑う。

 

「いやー、買ったその場で食べられるのを考えると、私も行けば良かったかなー、なんて...」

 

タハハと笑う響にクリスが呆れる。

 

「ったく、もうすぐだから待ってろっつの」

「響さんは食いしん坊ですね」

「本当にね。切歌もそうだけど、あなたいつもお腹空かせてない?」

 

続いてセレナとマリアが苦笑すれば、響は「育ち盛りですから」と何故か胸を張った。

 

「あの、皆さん。特訓はしなくて平気なんですか?」

 

エルフナインがおずおずと装者四名に問う。

 

「真面目だなぁ、エルフナインちゃんは」

「特訓というか、模擬戦ならさっきカズヤと奏が盛大にやったがな」

「そのせいで砂浜が酷いことになってますよ」

「いくら政府保有のビーチでも、こんな所での模擬戦なんて本当はダメなんじゃないかしら」

 

大丈夫でしょとばかりに手をヒラヒラさせる響、クレーターだらけになった砂浜を半眼で睨むクリスとセレナとマリアの三人。

三人の視線につられるように砂浜を眺めてから、エルフナインは更に言い募った。

 

「......暴走のメカニズムを応用したイグナイトモジュールは、三段階のセーフティにて制御される、危険な機能でもあります。だから模擬戦ではなく、自我を保つ特訓を──」

 

するべきだ、と続けようとした彼女の言葉を遮るように、突然海面から水柱が立つ。

水飛沫を飛ばし現れたのは、オートスコアラーのガリィだ。

相変わらず嫌らしい笑みを浮かべながら、水柱の上から五人を見下ろす。

 

「ガリィ!?」

「夏の思い出作りは十分かしら?」

 

驚き目を見開くエルフナインの前に、すぐそばにいたクリスが咄嗟に立ち上がり彼女を後ろに庇う。

 

「んな訳ねぇだろ!!」

 

咆哮してからクリスが聖詠を歌いギアを纏う。

それに続いて響もギアを纏い、マリアとセレナに目配せし、二人はその意図を察して直ぐ様頷く。

 

「エルフナインは私達に任せて!」

「カズヤさん達と合流します!」

 

オートスコアラーは全機で四体。ガリィだけが現れたとは考えられない。ならばこの場は響とクリスに任せ、非戦闘員のエルフナインの安全を確保しつつカズヤ達と合流するのが得策だ。

踵を返し、エルフナインを連れて走り去るのを確認してから響はガリィに向き直り、拳を構えた。

 

「キャロルちゃんからの命令もなく動いてるの?」

「さぁね」

 

質問に対し曖昧な返答をしながらガリィは黒い石──アルカ・ノイズが封じ込めている──をバラ撒く。

次々と召喚され数を増やし、こちらを囲むアルカ・ノイズの群れを前にクリスが鼻で笑う。

 

「今更アルカ・ノイズ? "向こう側"の力はどうしたよ?」

「使って欲しけりゃ歌ってみせなよ!」

 

更に黒い石をバラ撒くガリィ。追加で召喚されるアルカ・ノイズに響が突撃し、クリスのガトリング砲が火を吹く。

 

「数が多いだけの雑魚はあたしに任せろ!」

「了解!」

 

小型ミサイルを大量に発射しながら叫ぶクリスに応え、響はガリィに狙いを定めて踏み込む。

 

「来なよ」

「やあああああああ!!」

 

爆発的な速度で間合いを詰め、余裕な態度を崩さないガリィの顔面目掛けて正拳突きをくれてやった瞬間、バシャッ、という音と共にガリィがただの水と化し、砂浜を濡らす。

 

「え? 偽物!?」

 

戸惑い首を巡らしながらガリィを探す響が次に見たのは、クリスの背後に突如出現した水柱。

 

「クリスちゃん後ろ!」

「っ!?」

 

警告の声は間に合わず、背後から突き飛ばされるようにクリスはつんのめるが、

 

「クソがぁっ!!」

 

砂の上を転がりながらも体勢を整え、アームドギアを二連装の中折れ式のショットガンに変形させ、振り向き様に引き金を引く。

腹にまで響く銃声。銃口からマズルフラッシュと散弾が飛び出す。

しかし、またしてもガリィはただの水と化し、散弾は水の塊を吹き飛ばすだけに終わった。

 

「あらあら、何処を見ているのかしら?」

「ガリィちゃんはここよ」

「こっちこっち!」

「クハハハハ!!」

「さあ、どれが本物でしょう?」

 

見る見る内にガリィの姿が一体、二体、三体、四体という風にどんどん増えていく。

いつの間にか、周囲を取り囲む敵の比率は、アルカ・ノイズとガリィが同等となっていた。

 

「緒川さんみたいな分身の術!? どれが本物なの!?」

「ちっ!」

 

泡を食う響と舌打ちするクリスが即座に背中合わせになり、互いを庇い合えるように位置取った。

 

「どれが本物かとか知ったことかよ! 全部纏めてぶっ飛ばすに決まってんだろが!!」

 

アームドギアを弩に変形させ、クリスは自分達の真上に向かって槍のように長大な矢を射出。

高く撃ち上げられた矢は空中で細かくバラバラに分解され、赤い雨となって降り注ぎ、ろくな抵抗も許さずガリィの分身体達をただの水の塊に、アルカ・ノイズを塵に変える。

 

「見た限り分身は大して強くねぇ、とっとと殲滅するぞ!!」

「うん!!」

 

クリスに促された響も攻撃を再開したその時、アルカ・ノイズが一斉に虹色の粒子となって霧散した。

今の現象はアルター能力による物質分解だ。ということは、

 

「響、クリス!」

「カズヤさん!」

「カズヤ!」

 

案の定、上空から猛スピードでカズヤが降り立つ。

 

「マリア達はどうした?」

「え!? こっち来る途中で見ませんでしたか? そっちに合流しようとしてたんですけど......」

「げ、行き違いかよ。第二形態で空飛んできたから分かんなかった」

 

やっちまった、と表情を歪めるカズヤにクリスが問う。

 

「つーか、他の連中は?」

「奏と翼は一般人の避難誘導、切歌と調は研究局に、未来は本部にそれぞれ向かった。人形共が何体来て何が目的なのか分かんねーから戻ってこれたのは俺だけだ、ぜ!!」

 

答えながら、飛びかかってきたガリィ達に向けて拳を突き出す。

拳から発生した黄金に光輝く衝撃波が何体ものガリィを纏めて打ち砕き、水の塊に変える。

 

「水でできた分身とか厄介だな......慎次の真似事しやがって!」

「私もそれ思いました」

「だったら本体も纏めて全部消し飛ばすだけだ!」

「あたしもそう考えてた」

 

アルカ・ノイズがカズヤの活躍で殲滅された今、浜辺に残るは大量のガリィのみ。

本体と分身の見た目が全く同じで見分けがつかないが、分身がただの水で構成されているなら物質分解が効く可能性が大いにあり得る。そして、結界に守られ分解されないのが本体だ。

なので──

 

「消え失せろ!」

 

全身から淡い虹色の光を放ち、視界に映るガリィ達の分解を試みれば、

 

「ええええ!? 皆消えちゃいましたよ!!」

 

響の言葉通り、ガリィ達は全て虹の粒子となって消え失せた。

驚愕に染まる響の顔を横目に見ながら、本体は分身を放った時点で既にこの場にいなかった可能性が頭を過り、カズヤとクリスは歯噛みした。

さざ波が立てる穏やかな音が鼓膜を叩く。静かで平穏な砂浜が戻ってきたのに、焦燥感だけが募る。

 

「おいクリス、まさかこいつは......」

「ああ。こっちは囮、いや、ただの時間稼ぎだったのかもしれねぇ」

「......こっちでの騒ぎが陽動の類いだとしたら本体は何処に行った? 何が狙いだ?」

「......」

 

自問自答するように呟くカズヤにクリスは答えず、黙したまま考える。

元々S.O.N.Gの面々は、この筑波の異端技術研究局に調査結果の受領をする為に来訪した。

普通に考えれば、その調査結果の受領の邪魔、研究局への襲撃だろう。だが、今のところ研究局にいるであろう緒川や朔也、そちらに向かった切歌と調からそれらの類いの連絡はない。本部に向かった未来、本部にいる弦十郎からも同様だ。

 

「......もしかして、エルフナインか?」

「可能性としちゃ十分あり得る。とにかく急いでマリア達と合流しようぜ!」

 

カズヤの提案に反論することなく二人は頷き、三人でマリア達が向かった方角へ走り出す。

 

 

 

時間を少し遡る。

エルフナインを前後で挟むようにマリアが前を、セレナが後ろに陣取り、林道のような場所を走り抜けていた。

先ほど、上空を一直線に飛ぶカズヤと思わしき飛行体が確認できたので、彼とは行き違いになってしまったが、彼が響とクリスに合流するなら浜辺での戦いに心配は要らないだろう。

そう考えた矢先、三人の進行方向には、ここにはいないはずのガリィがまるで待っていたかのように佇んでいた。

 

「「「っ!?」」」

「ご機嫌よう」

 

咄嗟に足を止める三人を見て、ガリィは唇を吊り上げる。

 

「一曲聴かせてもらえるかしら?」

 

手の平の上に載せた黒い石をバラ撒き、アルカ・ノイズを召喚。

 

「セレナ」

「はい、マリア姉さん」

 

姉の言葉に妹が応え、姉妹は聖詠を歌い、漆黒のガングニールと純白のアガートラームを身に纏う。

背後のエルフナインを庇いつつ、アルカ・ノイズに槍を突き刺し、剣を振るう二人の姿に笑みを深めたガリィは、その体から金色の光を発生させ、猛烈な速度で二人に突っ込んだ。

 

「さあ、あんたら二人が"向こう側"の力に何処まで戦えるか見せてもらうわ!」

「ぐっ!」

 

手首から先に氷を纏わせ剣のように突き出すガリィの攻撃を、マリアは辛うじて槍の刀身で受けるが、あまりの威力に後方へと弾き飛ばされた。

 

「マリアさん!」

「マリア姉さん!」

「大丈夫、問題ないわ」

 

なんとか体勢を整えつつ心配してくる二人に返事するが、マリアの心に一抹の不安が生まれる。

たった一合、そのやり取りだけで実力差をはっきりと理解した。

一撃がとてつもなく重い。それに動きが速い。"向こう側"の力で強化されている相手と戦うことがどういうことなのか、身を以て味わう。

たが、負ける訳にはいかない。だからどうしたと自分に言い聞かせる。他者から何かを奪って我が物顔で調子に乗っている連中に、思い知らせてやる。不安を噛み砕くように歯を食い縛った。

 

(セレナ)

(はい、マリア姉さん)

 

同時にアイコンタンクト。互いの意思を確認し、マリアがガリィに向かって踏み込み、セレナが自身の周囲の空間にいくつもの短剣を配置し、マリアを援護するように射出した。

ガリィ目掛けて一直線にマリアは突き進み、アルカ・ノイズと擦れ違い様に槍を振るい塵に変える。彼女の間合いの外にいるアルカ・ノイズはセレナが短剣の群れで穿つ。

瞬く間にガリィとの距離を詰めたマリアが全力で槍を突き出す。

だが、ガングニールの穂先は淡く水色に光る障壁に阻まれガリィの体を捉えることは叶わない。

 

「硬い...!」

 

敵の防御を貫けない。それが分かるとマリアは反撃を警戒し即座にその場を離れる。

マリアと入れ替わるようにセレナの蛇腹剣がガリィの足下を狙うが、ガリィは自身の周囲に氷柱を生み出し、銀の刃を弾いてみせた。

 

「「だったら!!」」

 

後ろ下がったマリアと前に踏み出したセレナが横に並び、マリアは槍の穂先を左右に展開させ、セレナは左腕の装甲を砲口に変形させ、それぞれがガリィに狙いを定めてエネルギーを放出。

二条の光が融合し一つとなり、射線上の人形を破壊せんと襲う。

 

「頭冷やせや~」

 

嘲笑しながらガリィが両手を前に翳し、自身に迫る光に対抗するように、錬成陣から冷気を伴う水流をレーザーのように高圧で放つ。

イヴ姉妹の光とガリィの水流が激突し、拮抗したのは僅か数秒。

 

「ぐあっ!」

「ううぅ!」

 

力比べで押し負けたのは姉妹の方だった。極太の冷気が二人を呑み込み、一瞬にして氷像にされてしまう。

 

「マリアさん! セレナさん!」

「てんで弱過ぎる。"向こう側"の力についてはそっちの方が詳しいはずだろ? その程度で対抗できるとか舐めてんのか?」

 

エルフナインの悲鳴を聞き流しながら、ガリィは心底侮蔑するように吐き捨てた。

ピシピシと音を立て氷が砕け散り、二人は氷漬けの状態から抜け出すものの、ダメージで足をふらつかせ、

 

「倒れません......!!」

「倒れるとしても前のめりよ、そうでしょカズヤ!!」

 

今にも倒れる、というタイミングでそれぞれがアームドギアを大地に突き立て支えとし、断固としてダウンを拒否。

 

「......確かに私達は弱いです」

「カズヤと比べたらそれこそ大人と子どもね」

 

肩で大きく呼吸しながら顔を上げ、萎えることのない闘志を瞳に宿らせ、姉妹は言葉を紡ぐ。

 

「でも、私もセレナも、生憎と諦めの悪さは彼譲りよ」

「こんなことで膝を折ってたら、カズヤさんのそばにいる資格なんて、ありませんからね!」

 

 

結局、自分達姉妹は英雄(カズヤ)になることなどできなかった。

そもそも器ではなかったし、力も強さもまるで足りていなかった。

何より、彼のような何がなんでも己の信念を、意地を貫き通す強靭な意思も持っていなかった。

きっと根本的な部分は、あの時から何一つ変わっていない。

体が成長して大人になっても、多少なりとも強くなったとしても、だ。

だけど、あの時とは違うものがある。

彼の為を思えば、たとえ自分達がどんなに弱かろうと、相手が誰であろうと一歩も退かずに戦える。

熱く燃え滾り胸を焦がすこの想いは、違えることのない真実であり、姉妹にとって生きる原動力であり、願いそのものなのだから。

 

 

故に、姉妹は揃って首元のペンダントに手を伸ばす。

 

「見せてあげます......私とマリア姉さんの!!」

「あの日、彼に全てを捧げると誓った覚悟と決意を!!」

 

二つのペンダントが宙を舞い、光の剣を形成しつつ空中に浮遊し、

 

「「イグナイトモジュール、抜剣っ!!!」」

 

胸の中心にペンダントの剣が突き刺さり、暗黒の靄のようなものが二人の全身から吹き出した。

 

 

 

 

 

たらりっ、とカズヤの右目から血涙が流れるのに合わせて、視界の奥で闇色の柱が天に昇っていく。

 

「マリア、セレナ......急ぐぜ!」

 

思わず止めてしまった足を再び動かしながら両隣の響とクリスを促し全速力で駆け抜ける。

やがて三人の視線の先に映ったのは、黒真珠やブラックダイヤモンドを彷彿とさせる美しさを内包した黒い輝きを放ち、荒々しさと禍々しさと妖しさを感じさせる漆黒のギアを纏ったイヴ姉妹の後ろ姿だ。

 

「イグナイトモジュール、成功です!」

 

カズヤ達に気づいたエルフナインが振り向き様に満面の笑みを浮かべて言う。

 

「見ていて、カズヤ」

「私とマリア姉さんの戦いを」

 

肩越しに振り返り、慈愛に満ちた聖母のような笑みで告げてから、姉妹は前に向き直り、表情をキッと引き締めアームドギアを構えて歌い出す。

 

 

 

 

 

【輝きに魅入られた者達】

 

 

 

 

 

再度、ガリィがアルカ・ノイズを召喚し、それに伴う赤い光が周囲を照らした刹那、黒い豪雨が辺り一面に降り注ぐ。

それは一つひとつが黒い短剣だった。セレナが射出した大量の短剣が文字通り嵐となってアルカ・ノイズを瞬く間に一掃する。

 

「アルカ・ノイズなんて無駄です......マリア姉さん」

「ええ。小細工なんてしない、真っ直ぐに行くわ」

 

妹の促しに応じ、槍の穂先をガリィに向けたマリアが踏み込みで大地を砕きながら突撃。

一瞬で、間合いが詰まる。

 

「っ!?」

 

その速度に瞠目したガリィが咄嗟に展開した障壁に、槍の穂先が激突し、

 

「はあああああああああああっ!!」

 

容易く砕き、貫いた。

そのまま槍はガリィの服を貫き、胴体を貫き、背中まで突き出し串刺しにすると、一度高く掲げられてから乱暴に振り回される。

遠心力で槍からすっぽ抜けたガリィは、近くの樹に背中から叩きつけられ、樹を粉砕しながら更に地面に転がった。

しかし相手は人形。ダメージはあっても痛覚はない。すぐに立ち上がり、両腕に氷の刃を纏わせ、距離的に近かったセレナに斬りかかる。

対するセレナは両の手に逆手に握った黒い短剣で応戦。

常人では捉えることが不可能な超高速で振るわれる氷の双刃と黒い双刃がぶつかり合う。

攻めるガリィと防御に徹するセレナ。二人の間で何度も何度も剣閃が煌めき明滅し、剣戟の音が響き渡り、その攻防の激しさを物語るが、セレナは眉一つ動かさず冷静な眼差しでガリィの一挙手一投足を見つめていた。

 

「私が、私が一番乗りなんだからぁぁ!!」

「何のこと言ってるのか分かるように喋ったらどうですかぁぁぁっ!!」

 

狂喜の笑みで意味不明なことを叫ぶガリィにセレナが叫び返し、攻撃と攻撃の間に見出だした僅かな隙に短剣を握ったまま左拳を顔面にぶち込む。

またしても吹き飛んでいくガリィを見据えながら、姉妹は横に並ぶと、マリアが槍の穂先を真っ直ぐガリィに向け、セレナが短剣を蛇腹剣に変形させつつ槍全体に巻き付かせる。

すると二つのアームドギアが──ガングニールの槍とアガートラームの刃が一つとなり、超巨大な槍を形成。

更にセレナの左腕が闇に包まれると、カズヤのシェルブリット──当然色は黒い──へと姿を変え、()()()()()()()()()()()()()マリアの右腕も同じように変化した。

二つのシェルブリットから手首の拘束具が外れ、装甲のスリットが展開し、手の甲に穴が開く。

 

「これで決める!」

「はい、マリア姉さん!」

 

二人の全身から、アームドギアから暗黒の光が発生し、膨大なエネルギーが台風のように渦巻き、収束していく。

 

 

「「シェルブリットォォォォ──」」

 

 

それを見てガリィは狂ったように笑いながら、残り全ての"向こう側"の力を、金の光を迸らせ二人に突っ込んできた。

 

「アハ、アハハハハハハ! 私が一番乗り、一番乗りなんだからぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

突貫してくるガリィに二人も応じるように前へと飛び出す。

 

 

「「──バァァァストォォォォォッ!!!」」

 

 

金の光に包まれたガリィと、漆黒の闇を漲らせた姉妹が正面衝突。

次の瞬間、目を灼く閃光が周囲を満たし、すぐにそれを塗り潰す暗黒が世界を埋め尽くし、耳を劈く爆音と共に真っ黒い大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

「私達二人の勝利なのに、なんだか二人だけの力で勝った気がしないわ」

「マリア姉さんもですか? 私も同じですよ」

 

ギアを解除し、水着姿に戻った二人はそう言って互いに微笑んだ。

勝利の余韻に浸りながら瞼を閉じれば、様々な顔が浮かび上がってくる。イグナイトの完成に尽力したエルフナインとフィーネは勿論、影で支えてくれたオペレーター陣、共に訓練を積んだ装者の仲間達。

そして何より──

 

「ハハッ! やったな二人共、お手柄じゃねぇか!!」

 

そんな二人にカズヤ達が駆け寄ってくる。

目の前に来るや否や、カズヤは両腕を大きく広げ、二人纏めてギューーッと抱き締めてきた。

 

「ちょ、ちょっとカズヤ、テンション高過ぎない!?」

「......そんなに強く抱き締められたら、私、変な気分になっちゃいますよぉ......」

 

不意打ちのような突然のハグに顔を赤くするマリア、既に思考が蕩け始めるセレナ。

 

「何言ってんだお前ら! 二人が初のオートスコアラー完全撃破だぜ!? お前らこそもっと喜べっての!!」

「そういやそうだな。確かにお手柄だ」

「マリアさん、セレナさん、凄いですよ!」

「やりましたね、お二人共」

 

カズヤ、クリス、響、エルフナインの賞賛の声に二人はハッとなる。

確かにこれまで撃退はできていたが、今回のような撃破は彼の言う通り初だ。快挙と言っても過言ではないかもしれない。

 

「......カズヤのお陰よ」

「そうですね。カズヤさんがいてくれたから、勝てたんです」

「? なんでここで俺が? お前らの実力なのは明らかじゃねーか」

 

疑問符を頭上に浮かべるカズヤの様子に、姉妹は揃って苦笑する。

 

「まあ、あまり気にしなくてもいいわ。そんなもんなんだ、くらいに思っておいて」

「要するに、カズヤさんがそばにいてくれるだけで私達は頑張れる、ということですよ」

「よく分かんねーけど、分かった。とりあえずそれで納得しておく」

 

深く考えることをやめた彼は腕の力をより強くし、密着度が更に上がった。

その様子を響とクリスは微笑ましそうに、それでいて若干羨ましそうに見つめている。

姉妹は思う。

きっと自分達だけでは弱いままだけど、皆から力をもらうことで強くなれる。

ありがとう、と。心の中で感謝を述べた。

 

 

 

 

 

「お疲れ様、ガリィ」

 

遠くからガリィにトドメを差した暗黒の爆裂を眺めていたファラは、使命を果たした同胞を労う。

と、その背後から悠然とした足取りで近づいてくる複数の存在に気づき、振り返る。

 

「これで仕事は終わりだ。約束のものを渡してもらおうか」

 

こちらに向かって投げ渡されたSDカードを受け取ってから、スカートのポケットに仕舞っていた砂時計を投げ渡す。

それは罅が入った"吸収(アブソープション)"。一部破損しておりエネルギーの吸収行為は最早できないが、満たされている中身は未使用。ガラスのような透明な容器越しに、見る者全てを魅了する金の光を放っていた。

 

「......ついに......!!」

 

砂時計を手にし歓喜に震えるサンジェルマンを一瞥してから、ファラはテレポートジェムを取り出し自身の足下に叩きつけた。

 

「それでは失礼します」

 

転移する際に挨拶を述べるものの、既に彼女の意識は砂時計に注がれており、こちらに見向きもしない。

その様子を冷めた眼差しで眺めつつ、この場からファラは消えた。

残されたのはサンジェルマンと、彼女に付き従うカリオストロとプレラーティ。

 

「...ふふ、ふふふ、ふははははは! 手に入れた、ついに手に入れたわカリオストロ、プレラーティ! 彼の、カズヤの力を、神に反逆する悪魔の力を、"向こう側"の力を!!」

 

暫くの間、サンジェルマンの高笑いが辺りに響いた。

 

 

 

 

 

「さっきのトンデモは邪神でも降臨したのかと思ったデース」

 

そう朗らかに笑いながら、切歌は放物線を描いて自身に飛来するビーチボールを優しくトスする。

 

「凄い力を感じる黒い光の爆発。研究局からでもビリビリ感じた」

 

切歌から飛んできたボールを、調は未来に向かってレシーブ。

それをトスで受けると同時に奏へ飛ばす未来。

 

「私も感じました。さっきのあれ、二人分のシェルブリットバーストだったんですね」

「同調なしで同調ありと同レベルの出力が出るなんて凄いと思うけど、ちょっと怖いよ、アタシは」

 

奏はボールをレシーブで高く上げ、少し疲れたように溜め息を吐く。

 

「私も奏と同じ。イグナイトは、過信しない方がいいかもしれない!!」

 

翼が落ちてくるボールにタイミングを合わせて跳躍し、全力でスパイクを打つ。

豪速球と化したビーチボールは、真っ正面にいたカズヤが顔を顰めつつレシーブする。

高く高く舞い上がるボールに皆が注視した。

 

「おい翼、これ、試合じゃねーから。どんだけトスとレシーブで長く続けられるかっていう主旨の遊びだから」

「知ってるよ」

「じゃあなんでさっきから俺にだけ全力スパイクなんだよ!?」

「なんでかな? カズヤは分かる?」

「知るかぁっ! 自分の行動に責任持てぇぇ!」

「嘘。実はわざとカズヤにだけスパイク打ってるの。カズヤのリアクションが楽しくて、つい」

「次俺にボール飛んできたらネ◯・タイガーショットお見舞いしてやる!!」

 

翼といつもの漫才みたいなやり取りするカズヤの横で、響がクリスに向かってトス。

 

「でも、私もイグナイトが少し怖い気持ち、分かります。マリアさんとセレナさん、あの後疲れて寝ちゃったじゃないですか。私も前に使った時、凄く疲れました」

「疲労の原因はシェルブリットバーストを使ったことだろうな。同調ありってのはつまりカズヤから"向こう側"の力が供給されてるってことで、それがないなら相応の体力を使うってことだ。あたしもそうだった」

 

響からのトスを、クリスもトスでエルフナインにボールを渡す。

 

「あうぅぅ~。改良の余地ありということですね、すみません」

 

ぎこちない動きでレシーブしながら、エルフナインは申し訳なさそうに謝罪した。

 

「いや、なんでエルフナインが謝るんだよ、お前と了子さんはよくやってくれてるって...ネ◯・タイガーショットだおらああああああ!!」

「ぐふぉっ!?」

「翼さん吹っ飛ばされたぁぁっ!」

 

カズヤの怒号と共に放たれたシュートが、響の叫び声の通り翼をぶっ飛ばし、そのまま海面にどっぱぁぁぁん、と盛大な水飛沫が立つ。

マジでやりやがったぞこの男、と皆が若干引く中、カズヤは水没した翼の心配など微塵もせず、イヴ姉妹のことを心配する。

二人は現在、疲労の為研究局で休んでいる。というか寝ている。先ほどの戦闘の後、水分補給の為に買ってきた麦茶をガブ飲みした瞬間に電池が切れたオモチャのように寝てしまったので、ついさっき研究局の涼しい部屋まで運んであげたのだ。

やはり、同調なしの状態でシェルブリットバーストを撃つのはかなり体力の消耗が激しいらしい。ここぞ、という時以外の使用は控えた方が賢明だ。イグナイトを発動しているなら、それはなおのこと。

イヴ姉妹が起きたら皆に改めて言い含めよう、というカズヤの思考を遮るように、

 

「Imyuteus Amenohabakiri tron」

 

濡れた長い髪で顔を覆い隠した翼が、まるで夜の海に出没する亡霊のように海面から頭だけを出した状態で聖詠を歌う。

ホラー映画のワンシーンみたいなその光景は、今は昼だから全く怖くない──というか間抜けに見えるが、もし夜に見たらトラウマ必至だ。

そして、この時点でカズヤ以外の全員がその場から我先にと逃げ出す。

シンフォギアを纏い、海面から飛び出した翼は、アームドギアである刀をカズヤに向かって投擲。

斜め上空から真っ直ぐに飛来するそれは、途中で巨大な剣へと姿を変えると、翼はその柄を踵で蹴り押しながら更に加速して突っ込む。

 

「防人シュート!!」

「シュートがしてぇならせめてボールを使えや!!」

 

シェルブリット第二形態を発動させ、カズヤは迫る剣の切っ先に右拳を突き出した。

剣と拳が激突し、轟音を生む。同時に発生した衝撃波の余波が砂地を滅茶苦茶に蹂躙する。エネルギーのぶつかり合いは白い稲妻のようなものを生み、二人を中心に激しく明滅する。

そのまま剣と拳は互いに力任せに押し合う。

 

「いきなりおっ始めるな!!」

 

遠くからクリスが文句を言うが、二人は全く聞いてない。

 

「さっきから変なちょっかい掛けてくると思ったら、翼お前、構って欲しいなら最初(ハナ)っからそう言えっ!」

「そこは男の子なんだからカズヤが察して! 婚約者の、私の夫となるべき人の役目でしょ!」

「無茶言うなアンポンタン! お前のアピールはたまに消える魔球なんだよ、せめて響並みの火の玉ストレート投げてこいってんだ!」

「立花はカズヤに遠慮がないだけじゃない!」

「今日のおまいうスレはここですかぁっ!?」

 

やがて均衡が崩れ、巨大な剣の切っ先から徐々に罅が入り、全体にまで及ぶと砕け散る。

砂の上に着地した翼が刀を一振り手にしてカズヤに斬りかかり、それにカズヤが応じるように右肩甲骨の回転翼を高速回転させ前に出た。

 

「カァァァズゥゥゥヤァァァッ!!」

「つぅぅぅばぁぁぁさぁぁぁっ!!」

 

ドッカンバッカンとぶつかり合う二人を遠くから眺めつつ、エルフナインはハイライトが消えた目で何かを悟ったように呟く。

 

「皆さんは、定期的にカズヤさんと殴り合わないと禁断症状が出るようですね」

「......否定しようと思ったけど、否定できる要素が一つもねぇ」

 

額に手を当て俯き、クリスが苦悩するように嘆いた。

 

「いやー、カズヤとの模擬戦って頭空っぽにして暴れられるから、つい楽しくて。ま、じゃれ合いみたいなもんだよ。あいつ一発殴るとすぐに殴り返してくるから誘い易いし...ね!!」

「ええ、まあ」

 

カラカラと笑う奏から同意を求められ、未来が困ったような笑みで首肯する。

なんて血の気が多くてバイオレンスな信頼と絆とコミュニケーションなんだ、とエルフナインが白目になる。

そのそばで響が、あ! と何か思い付いたのか口を開いた。

 

「マリアさんとセレナさんがオートスコアラーを倒したから、翼さんきっと次は自分も、って気合い入っちゃってじっとしてられないのかも」

 

あ~、それはあり得るな~、とエルフナイン以外の誰もが納得する中、切歌がビシッと挙手し、注目を集める。

 

「あの、イグナイトを使いこなすコツがあるなら今の内に聞いておきたいデス!!」

「マリアとセレナが発動に成功した現状、残っているのは私と切ちゃんだけ。ここは先輩方の意見を聞かせてください」

 

調も続けてそう言うので、未来とエルフナインは真剣に考え込む奏と響とクリスの顔を覗き込む。

 

「おらあああああっ!!」

「せいやああああっ!!」

 

遠くから聞こえてくる雄叫びが非常に喧しい。

 

「アタシから言えることってそんな多くないんだけどさ」

 

楽しそうに衝突している二人にチラリと視線を送ってから、切歌と調に向き直り奏は語る。

 

「やっぱ、大切な人達のことを考える、だね」

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「最初は心の闇が増幅されるから、嫌なこととか辛いこととか色々思い出すんだけど」

「はあああああああああああああっ!!」

「そういうのを否定せず──」

「どおおおおおおおおりゃっ!!」

「過去の自分や負の感情を受け──」

「くっ、イグナイトモジュール、抜剣っ!!」

「入れて、その上で大切な──」

「そうだよ、そう来なくっちゃなぁ!!」

「行くわよ、カズヤァァァァァッ!!」

「おっしゃ来い!!」

「人達と一緒に前へ進もうと──」

「「おおおおおおおっ!!!」」

「...って、喧しいぃぃぃぃ! 今アタシ良いこと言ってんの! 大事なところでうるっさいよさっきから! もっと向こうでやれアホンダラ!!」

 

が、奏の語りは最後まで言い終わることができず、途中で遮ることとなってしまった。怒髪天になり地団駄を踏む彼女は、こめかみに青筋を立てて戦っている二人に怒鳴りまくる。

なお、ついさっき彼女が模擬戦していた時は今の翼と全く同じ感じだったが、当の本人はすっかり忘れているのであった。

 

「あっ、もういいです。言いたいことはだいたい分かったので。ありがとうございます」

「奏さん、ありがとデス」

「......今ので本当に伝わったの? 変な気遣いされてる感じがするんだけど」

 

とても申し訳なさそうに礼を述べる調と切歌に、奏は微妙な表情になって呻く。

 

「締まらねぇなぁ」

 

思わず出てきたクリスの一人言は、遠くから轟く雄叫びにかき消された。

 

 

 

 

 

目を覚ましたイヴ姉妹が、通信機越しに腹減ったと宣うので、合流して食事を摂る。

その後、遊んだり模擬戦したり遊んだり模擬戦したりを繰り返していたら、いつの間にか夕方となった。

楽しい時間とはあっという間に過ぎてしまうもの。

なので、シャワーで汗を流し着替え終わると夕飯──緒川がバーベキューを用意して待っていた──に移行。

 

「実は俺が頼んどいた」

「夕飯は美味しいものを、と頼まれてましたので。食事が終わったら、花火もありますよ」

 

やったぁ! バーベキューと花火だぁ! とはしゃぐ女性陣を前にカズヤが緒川に礼を述べれば、浜辺での模擬戦で砂浜が見るも無惨な状態になってしまったことについて文句を言われ、たじたじになりながら「シェルブリットバーストは使ってない、厳密に言えば地面に向かって撃ってない」と震え声で苦しい言い訳をしたら、「でも地面殴ってジャンプしてますよね」と返されて二の句を継げることができなくなり、素直に謝罪した。緒川も緒川で文句が言いたかっただけなのでそれ以上は追及しない。

で。

一応、任務中という扱いなのでアルコールの類いはなしだが、ノンアルコールでもバカ騒ぎができるのは良いことなのか悪いことなのか。

誰もが満足するまで腹を膨らませた後、先の告知の通り花火が始まった。

 

「海で遊んでバーベキュー食って花火、いかにも夏って感じだなー」

 

誰もがそれぞれ手にした花火に夢中になる光景。鮮やかな光が暗闇を彩る様子に目を細め、カズヤは感慨深げに呟き腕を組む。

敵の襲来はあったものの、問題なく迎撃できた。

なんだかんだあったが、皆が楽しめたなら良かった。

そう考えるカズヤを、響と未来が呼ぶ。

 

「カズヤさん、線香花火で誰が一番長持ちするか勝負しましょう!」

「敗者には勿論罰ゲームで。どうです?」

 

その提案に彼はニヤリと唇を吊り上げ笑う。

 

「なら全員でやろうぜ! そんでもって俺の選んだ線香花火が誰よりも長持ちするってとこを見せてやるよ!」

 

なお、勝負しようと言い出したり、罰ゲームを提案したり、勝負事で啖呵を切る奴に限って最初に脱落する模様。

 

 

 

 

 

罰ゲームの内容は、一番線香花火が長持ちした切歌から「途中で溶けるからという理由で昼間は買えなかったアイスを買ってくるのデス、勿論全員分!!」というものだった。

ついでに他の面子からも、あれもこれも買ってきてくれと頼まれてしまう。

カズヤ、響、未来の三人はほぼ同じタイミングで最初に線香花火の火球が落ちてしまい、見事に負け犬になったので、ルールに従い大人しくコンビニまで歩いていく。

 

「......こうなったらコンビニの前の自販機で売ってた地域限定キノコのジュースを、アイス食い終わった後にあいつら全員に飲ませてやる」

「カズヤさん、地味に恐ろしい計画を立てないでください」

「何々!? キノコのジュース!? そんなの見つけたんですか! 面白そう!!」

「ほらー、響が興味持っちゃった」

「しかもな、更にネギ塩納豆味とかいう訳分かんねーのもあったぞ」

「凄い、全然美味しくなさそう! クリスちゃんあたりに飲ませたら『ターゲット層が分かんねぇよ!』ってキレそう!」

「二人共、買うんだったら自分の分だけにしなさいね。皆の分は要らないから」

「「えー」」

「罰ゲームやらされてるからって新たな罰ゲーム考える必要ないでしょ、返事は!」

「「はーい」」

「全くもう...面白そうなの見つけるとすぐこれなんだから」

 

やいのやいの騒ぎながら三人で夜道を歩いていると、やがて視界の端にコンビニの灯りが見えてきた。

コンビニの自動ドアの前まで三人はやって来たが、カズヤと響が店内に入らず、真っ先に店の前の自販機に張り付き、早速ジュースを購入して笑い合う。

 

「未来、カズヤさんが買ったよキノコのジュース! 見て見て!」

「で、どっち先飲む?」

「じゃあ、その、カズヤさんから...」

「お前、後でやっぱ飲まねーとか言ったら無理矢理口移ししてでも飲ませるからな」

「口移しされるならもっとロマンチックなシチュエーションが欲しいです」

「ロマンチックなシチュエーションでも中身キノコのジュースだぞ」

「アハハ! いくらカズヤさんからの口移しでも吐いちゃうかも!」

「...どうして飲んだら吐くかもしれない代物を嬉々として買うのこの二人...」

 

完全に呆れ果てた未来が、バカなことをしようとしているバカ二人を半眼で睨んでいたら、目の前の自動ドアが店外に出ようとしている他の客に反応し、開く。

 

「あれ......? キミは、確か未来ちゃん、じゃなかったっけ?」

「?」

 

コンビニから出てきた客──突然知らない男性に話しかけられ、しかも下の名前を呼ばれ、頭の上に疑問符を浮かべる未来に、男性は更に言い募る。

 

「ほら、昔ウチの子と遊んでくれていた......」

「ねぇ未来見てよカズヤさんの顔! ジュース口に含んだ瞬間凄い顔芸になって──」

 

そして、二人はついに再会した......してしまった。

 

 

 

「......響......!?」

「お父、さん......!!」

 

 

 

大きく目を見開き、信じられないとばかりに驚愕する二人。

そこにいた男性は、間違いなくかつて蒸発した響の実の父親──洸だった。

予想だにしていなかった再会に三人の時間が止まり、コンビニの出入り口にて固まったその時、

 

「ぶううっふぇ! がはっ、ごほっ、げはっ!」

 

カズヤが盛大にキノコのジュースを吹き出し、激しく咳き込みながら前屈みになる。

 

 

 

 

 

未来がコンビニから出てきた男性に話しかけられたのを見て、まず最初にカズヤが思ったことは、何だあの男? ナンパか? 俺の未来に手ぇ出したら大気圏外までぶっ飛ばすぞ! である。

しかし、様子を見ているとどうやら違うらしい。まるで古い知人に偶然出くわしたかのような反応や態度、雰囲気、言葉に知り合いの可能性に思い至った。

それにしてもこの男性、なんか見覚えあるな、と記憶を探れば男性の服装──ガソリンスタンドの従業員の制服を見て思い出す。

ああ、昼間に子ども達の避難誘導を翼が要請したら、子ども達や他の人々を置いて真っ先に自分一人で逃げ出したクソ野郎じゃねーか、と。

 

(んん? でも今日とは別に最近見た気がするのはなんでだ?)

 

男性に対して妙な錯覚を覚えて観察していると、響の「お父さん」発言を耳にしてフラッシュバックを起こす。

イグナイトモジュールを初めて発動させた時に、シンフォギアと繋がった右目で垣間見てしまった響の過去と心の闇。

その際に登場した響の父親が目の前の人物と重なる。

昼間は切迫した状況だったので、気づけなかった。

どういうことだ? どうして蒸発した響の父親がこんな所に? というより口の中のキノコのジュースが不味くはないが美味くもないのに、ネチャネチャした触感がクッソ気持ち悪い。

 

(あ)

 

飲み下そうとしたら、突然の出来事に動揺したせいかジュースが気管に入った。

よって、カズヤは無様にジュースを吹き出し咳き込むという醜態を晒す。

 

「カズヤさん!?」

「ちょっ、大丈夫ですか!?」

 

固まっていた響と未来の時間が動き出す。咳を何度も繰り返すカズヤに対して、二人は弾かれたように反応し、直ぐ様そばに寄り、背中を擦ってあげる。

 

「未来、ポケットティッシュとか持ってる?」

「ちょっと待って......はいこれ」

「ありがと。口回り拭きますからちょっとじっとしててくださいね」

「もう、いきなり吹き出すなんて一体どうしたんですか?」

 

甲斐甲斐しく世話を焼く二人の少女と、世話を焼かれる一人の男。

 

「キミは、昼間の!!」

 

ここで漸くカズヤが誰なのか洸が気がつき、更に驚く。

洸にとって見れば、眼前の光景は奇妙なものでしかなかった。

実の娘とその友達がこの筑波の地にいることは横に置いておくとして、その二人が()()英雄である"シェルブリットのカズヤ"と親しげにしている姿に酷い違和感を覚える。

事情を知らない為、洸がそう感じるのは仕方がないことだ。彼の中での娘とその友達はあくまで一般人。世界を救った英雄と一緒に、しかも親しげにしている今の様子は現実感を伴わないものだった。

 

「......気管にジュースが入っちまっただけだから、大丈夫だ。サンキューな、響、未来」

「もう、気をつけてくださいよぉ」

「大丈夫ならいいんですけど、ネタに走って変なもの試そうとするからそんなことになるんですよ」

 

未来によって手にしていた缶──キノコのジュースを取り上げられる。

とりあえずなんとか体裁を整えて前を向き直り、カズヤは洸と相対した。

 

「......」

「......」

 

互いに何と声を掛けていいのか分からず、見つめ合う。

それは未来も同様なのか、困惑したような表情で響と洸の間で視線を行ったり来たりさせている。

響は父の視界から逃げるようにカズヤの背後に回り、背中にしがみついて顔を俯かせた。

何を言えばいいのか分からないままだが、最低限の挨拶はしておこうと、カズヤは若干緊張した面持ちで口を開く。

 

「えっと、響の親父さんでいいんだよな。あー、えー、初めまして、君島カズヤです」

「あ、ああ。立花洸です、響の...父親です」

 

僅かな間があったのは、返答内容への躊躇だろうか。

ぎこちないながらも一応の自己紹介を互いに終えて、次に何を話すのか模索していると、洸の方から質問が飛ぶ。

 

「...キミは、昼間に神社の前にいた、"シェルブリットのカズヤ"だよね? 何度か報道されてたのを見たことあるよ。キミみたいな有名人が、どうして響や未来ちゃんと一緒に? 娘とは一体どんな関係なんだい?」

 

腐っても父親であり、放棄したとはいえかつて保護者という立場だった者。捨てたとはいえ、娘のそばにいる男という存在はどうしても気になるのだろう。そうでなくとも誰もが至極当然に抱くであろう疑問。簡単に予想できる代物であったが、この時のカズヤは響の態度が気掛かりで返答に窮した。

助け船が欲しくて未来に視線を送る。

 

(ここは普通に友達と答えるべきか?)

(色々突っ込まれそうですけど、それが一番無難かと)

(了解!)

 

アイコンタクト後に答えようとした瞬間、

 

 

「お父さんには関係ないよ」

 

 

これまで一度も聞いたことがない、背筋が凍るほどに冷たい響の声が、その場を支配した。




この作品のイヴ姉妹は、旧二課組と比べて心の闇はそこまで深くない、と思っています。
そもそもセレナ生存してますし、難民生活経験やレセプターチルドレン時代などの辛い過去があっても、死別した家族やナスターシャ教授から愛されていたという自覚がありますし、劇中でもありますがカズヤに全てを捧げるという誓いを立てていることで覚悟ガン決まりですから。

前にも似たようなこと書きましたが、翼さん、カズヤに甘える時は口調が女の子になります。だけど、カズヤはそれになかなか気づきません。

ちなみに、ダインスレイフの欠片って失われた後で判明したように、様々な面でサポート機能が付いてましたので、当然この作品のものも色々とプラス補正が入るアイテムとなっています。
例えば、今回のお話で元々適合係数が高いセレナがシェルブリットを発動させることで、それにつられる形で適合係数の低かったマリアがシェルブリットを発動させたように、とかね。

ついでですが、地味にサンジェルマン達のラピス超強化フラグが立ちました。

そして、問題の響パパン登場。もう少し書いてから投稿しようと思いましたが、切りがいいので続きはまた次回に!
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