カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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やっと、やっと投稿できた......!


壁を突破する為に

時刻は夕暮れ時。頑張り過ぎなくらいに熱と光を地表に向けて注いでいた太陽が、漸くお休みに入る時間帯。

しかしながら都会というのは何処もかしくもアスファルトとコンクリートで舗装されている為、夕方になって日差しが若干弱くなっても、夏は常にヒートアイランド現象が発生し、昼間のうだるような蒸し暑さはなかなか収まらない。

そんな中を、学生服の切歌と調は暑さにひいひい言いながらえっちらおっちら歩く。

 

「暑い」

「暑いデ~ス」

 

調がハンカチで額を拭いながら呟き、切歌がヘロヘロになりながら反応を示す。

 

「調、コンビニ、コンビニ寄るデスよ」

「そうだね、切ちゃん」

 

提案に反対する理由もない。二人はやや駆け足で近くのコンビニへ飛び込み、クーラーという文明の利器の恩恵に感謝しつつ飲み物を求めて店内を回る。

 

「水分と塩分を補給しないと」

「小腹も空いたデース」

「そういえば、麦茶と梅干しを摂れば脱水症状は防げるってテレビで言ってたっけ?」

「じゃあ麦茶と一緒に梅干しのおにぎり買うデスよ」

 

麦茶には体を冷やす効果があると同時に、ミネラルと水分補給ができる。梅干しは塩分補給だ。

目的の物をそれぞれ手に取りレジへ。

手早く会計を済ませてイートインコーナーを使わせてもらう。

暫し無言で喉を潤し小腹を満たす。

やがて十分な補給を終え、一息をついてから調がポツリと零す。

 

「......オートスコアラー、出てこないね」

「昨日の今日デスからねー......」

 

椅子の背もたれに体重を預けて調は脱力し、切歌はテーブルに突っ伏した。

昨日、カズヤから発破を掛けられ意気込んだはいいが、肝心のオートスコアラーが現れない。

放課後になり学院を飛び出し、本部にも行かず制服姿のままこれまで数時間、闇雲に街を練り歩いたが、成果は全くと言っていいほど芳しくない。

街の地下で何か怪しい動きをしていたのだから、恐らく次も街の何処かで傍迷惑なことをやらかすはず。ならば海中や港付近に停泊することになる潜水艦のS.O.N.G本部にいるよりも、街中ですぐに急行できるように待ち構える。そして誰よりも早くオートスコアラーを捕捉し撃破。そう考えていたのだが、当てが外れたのだろうか。

 

「そういえば他の皆はどうしてるデスか?」

「昨日と一緒でカズヤと学生組以外は本部待機のはずだよ」

「じゃあカズヤと響さん達は?」

「聞いてみようか」

 

調は通信機を取り出し、まずカズヤにコール。

 

『調か? どうした?』

 

のんびりとした口調でカズヤが応対した。

 

「今、何処で何してるの? 私と切ちゃんはコンビニで休んでるんだけど」

『俺か? 駅から歩いて十分くらいのとこにある、最近できたスイーツの店にいる。ちなみに響達三人も一緒だ。ついでに言えばスイーツ食べ放題を開始してからもうすぐ二時間経つ』

「......何それズルい」

「スイーツ食べ放題デスか!? あたし達はついさっきまで街の中を歩き回って探索してたのに、コンビニで麦茶と梅干し味のおにぎりなのに、そっちはスイーツ食べ放題!? しかも二時間近くも!? 何なんデスかこの格差は!!」

 

返答を聞いて柳眉を逆立てる調と、通信機に噛みつかんばかりの勢いで怒鳴る切歌。

 

『何だ? お前らこのクソ暑い中人形求めてさ迷ってたのか? バカだなー』

『ご苦労なこったな』

『元気だねー』

『大丈夫? 熱中症には気をつけてね』

 

呆れたようなカズヤとクリスの声、暢気な響の声、若干気遣う感じの未来の声が通信越しに聞こえてくる。

はっきり言ってこんなに怒りが沸いたのは初めてかもしれない。

炎天下の中、涼しい店内でスイーツ食べ放題に舌鼓を打ちつつ待機する。賢い、なんて賢いんだあの四人は!!

しかしだからこそ解せない。何故、自分達を誘わなかったのか、と。

乙女にとってスイーツとは切っても切り離せない関係だというのに!!

 

「切ちゃん、今なら模擬戦でこの四人相手でも勝てる気がする」

「あたしも同感デース......!!」

 

不穏な雰囲気を纏い始めた二人。そこにカズヤの笑い声が鼓膜を叩く。

 

『ま、そっちはそっちで好きに動いとけ。とりあえず俺は三人を共犯者に仕立てあげたからよ』

 

共犯者という内容から察するに、響達三人はカズヤの話に乗ったようだ。もしかしたら、スイーツ食べ放題がその代価なのかもしれない。

調の体に宿るフィーネの魂が溜め息混じりに言う。

 

『普段はテキトーがモットーで面倒臭がりなチャランポランの癖に、そういう根回しはしっかりするのよね、彼って......カ・ディンギルをパーにされた時もそうだったみたいだし』

 

フィーネの述懐については、後で詳しく聞いておこうと調は心のメモに書き留める。

 

「あたし達もスイーツ食べ放題行きたいデース!」

『人形共を倒したら、スイーツでも回らない寿司でも、いくらでも奢ってやるって』

「言ったねカズヤ、約束だから」

「嘘ついたらイガリマの刃を呑ませるデス!」

「シュルシャガナの鋸も追加で」

『ハハッ、お前らの活躍に期待してる』

 

こうして通信が切れると、二人はおもむろに立ち上がりコンビニ内のスイーツコーナーに足を向け、

 

「とにかく糖分、甘いものを摂取して英気を養うのデス!!」

「絶対に負けられない戦いが、私達を待ってる!!」

 

両手いっぱいにプリンやケーキを抱えてレジへと急いだ。

 

 

 

 

 

【壁を突破する為に】

 

 

 

 

 

「共犯者ねぇ......」

 

意味深な流し目を隣の席のカズヤに送りつつニヤニヤと笑うクリスに、彼はアイスコーヒーを飲み干してから問う。

 

「何だよ?」

「いや~、なかなかお前らしいことを考えるなと思って」

 

甘いものを奢ってもらったことを除いても上機嫌なクリス。

 

「話聞いて、なんかお前と一対一(サシ)でやり合った時のこと思い出してよ」

 

懐かしそうに目を細め、

 

「当時はカズヤをあたしのもんにする、ってのを抜きにしても、フィーネに捨てられたくない、自分の価値を証明したい、あたしはフィーネの役に立つんだ、って思って戦ってた。だから、皆の為に強くなりたいっていうあいつらの気持ち、分からんでもねぇんだ」

 

柔らかい笑みを浮かべ、隣に座るカズヤにもたれかかった。

クリスの向かいで両手を頬に当て、頬杖を突く未来が同意するようにウンウン頷く。

 

「分かるなぁ。私は今まで皆の帰りを待つばっかりだったから、待つこと以外にも何かできることはないかなとか、私にも力があれば隣で一緒に戦えるのに、って考えたことは一度や二度じゃないし。二人の気持ちは凄い分かるよ」

「......未来」

 

実感の込められたその言葉に、響は隣の未来を見つめてから切なげに名を呼ぶ。

それから響は首から下げた待機中のギア──ペンダントを優しく握り、瞼を閉じる。

 

「この力は、困ってる誰かを助ける為の力。だけど、その力が足りなかったら、強くなりたいって思うのは当然で......だから私はあの時師匠に弟子入りして、戦い方を教えてもらって、少しでもカズヤさんの力になりたかった」

 

瞼をゆっくり開き、照れ臭そうに微笑んだ。

 

「...お前ら...」

 

そんな三人の言葉を耳にして、ふっ、と全身から力を抜き、カズヤは口にした。

 

「シリアスな空気醸し出してるつもりなんだろうが、テーブルの上の大量の皿が全部台無しにしてんだよ!!」

 

カズヤの叫びは、幸いなことに店内が騒がしいので特に誰も気に留めない。店内は響達と同年代の女子高生や大学生、近所の奥様方などがほとんどを占め、誰もがワーキャーと楽しそうにスイーツとお喋りに興じていた。

男性客はカズヤ一人という状況。女性専用のスイーツ店ではないのだが、男性であれば二の足を踏むような空気や客層の店であることには違いない。

で、指摘した通り、四人の眼前のテーブルにはチョモランマの如く聳え立つ、幾十にも重なった皿の山が存在している。

全て女子三人があれも食べたいこれも食べたいと片っ端から集めてきて、猛烈な勢いで平らげた跡だった。

なお、大食漢のカズヤは意外と思われるかもしれないがケーキなどを数個食べた程度でギブアップだ。流石にいくら甘いものが好きな男性でも、女子のように際限なく食べられる訳ではない。これ以上甘いものを食べたら胸焼けしそうな予感がある。

 

「おかしいぜ、何だこれ? 毎度のことだがスイーツならお前らは普段の響よりも食えるのか? それとも俺の奢りだからか? 食べ放題だからか? 向かいの席の未来と響の顔、俺からは全く見えてねぇんだけど!」

「夢中で食べてたらお皿なんて下げる暇ありませんよ。ていうか、私と響もお皿があるせいでカズヤさんの顔が見えないのは嫌なので早く下げてください」

「いやいやいやいや、食ったら下げろや自分の皿くらい!!」

 

なんて言い草だこの女......!

皿のチョモランマの向こうから聞こえる未来の自分勝手な物言いにカズヤは思わず声を荒げた。

その時、

 

「アップルパイ、焼き上がりました~」

 

店内にマイクを用いた店員さんのアナウンスが響いた瞬間、ガバッと立ち上がる響と未来とクリスの三人に、カズヤはまたかと呆れる。

 

「この瞬間を待っていたんだ! 未来、クリスちゃん、行こ!」

「ヒャッハー、アップルパイだぁぁ!」

「楽しみ~」

 

そう言い残すと、三人はウッキウキとスキップしながらアップルパイを求めて席を離れていく。

 

「......畜生、分かってたけど甘いもんの大食いで勝てた試しがねーな。ラーメンとかなら響より俺の方がたくさん食えるのに......クソ、アップルパイ食ってる様子を撮りまくって暫くスマホの壁紙にしてやる!」

 

悔しい......!! でも、響達が幸せそうに甘いものを頬張ってる姿を見るのが好きだから、なんでも奢っちゃうし体が勝手に皿の後片付けもしちゃう!!

謎の敗北感に打ちひしがれながら、よく分からない負け惜しみ染みたことを吐き捨てつつ、彼は楽しそうにテーブルの上の皿の山を片付け始めた。

 

 

 

 

 

英気を養い、体力的にも精神的にも充実した状態で切歌と調はコンビニを出る。

蒸し暑さは相変わらずだが、日差しはかなり弱まったというか、もうすぐ完全に日が沈むようだ。

 

「大分暗くなってきたデース」

「うん。今日はもう帰ろうか?」

 

街灯が点き始めた道を歩きつつ切歌が空を見上げれば、調がスマホの時間を確認してから問い掛けた。

 

「くっ、このままオートスコアラーが出なかったら何の為にさっきコンビニで散財したデスか!?」

「お小遣い、たくさん使っちゃった」

 

ガッデム! と拳を握って嘆く切歌と、少なくなった電子マネーの残高に眉根を寄せる調。

ちなみに二人はお小遣い制。S.O.N.Gのシンフォギア装者として、そんじょそこらのサラリーマンなど束になっても太刀打ちできない額の給料を振り込まれているが、大金を手にしたことで金銭感覚がぶっ壊れるのを恐れた保護者──当然ながらマリアとセレナの二人──が必要最低限の金額しか使えないようにしているのだ。

 

「うぅ~、響さん達ズルいデスよ。スイーツ食べ放題ぃ~」

「カズヤに奢ってもらってばっかりだとマリアとセレナが怒るから、私達はあんまり頼れないのに......」

 

ぶつぶつ文句を垂らしながらちんたら歩き、神社のそばを通り過ぎたところで、

 

 

「きゃあああああああ!?」

 

 

絹を裂くような女性の悲鳴と共に、爆音が轟いた。

何事かと振り返れば、神社にて紅蓮の炎が荒れ狂っているのが映る。

空から降り注ぐ赤い水晶のようなものが、地面や境内の木に着弾し、閃光を伴う爆発が生まれ、辺り一面を火の海に変えていく。

たまたま運悪くこの場に居合わせていた一般人達が蜘蛛の子散らすように逃げ惑うその様子を、爆炎と黒煙に蹂躙された境内の鳥居の上で、人の形をした人ならざるものが嘲笑い、佇んでいた。

オートスコアラーのミカ。

 

「切ちゃん、カモネギ」

「飛び入る火を自ら用意するとは殊勝な虫デス!」

 

まるで戦う直前のカズヤの如く、唇を吊り上げ漸く獲物を見つけた獣のような獰猛な笑みを見せながら、二人はギアペンダントを手にして聖詠を歌う。

 

「Zeios Igalima raizen tron」

「Various Shul Shagana tron」

 

それぞれ翠と桃の光を放ち、シンフォギアを纏いアームドギアを振りかざし、戦闘態勢に移行。

まず調が大量の丸鋸を射出するが、対するミカは鳥居の上から動かず、手にした赤く長大な水晶を手首ごと高速回転させ全て弾き飛ばす。

続いて切歌が飛び掛かり真っ二つにせんと鎌を振り下ろす。

 

「斬り裂いてやるデスよ!!」

「たったこれっぽっちで生意気だゾ!!」

 

迫りくる鎌を見据え、ミカは野球のバッターのように構えて両手で握った水晶をぶん回した。

翠刃の鎌と赤い棒状の水晶がぶつかり合い、甲高い音を響かせて、

 

「うああああああっ!!」

 

力負けした切歌が吹き飛ばされる。地面に叩き落とされるものの、顎を引いて受け身を取り、一度背中でバウンドしてから勢いを利用して後方宙返りするように体勢を整え、ズザザザーッと踵でブレーキを掛けしっかり二本の足で立つ。

 

「平気? 切ちゃん」

 

ギラギラした眼光を放ちながら視線をミカから離さず、調がヨーヨーの形をしたアームドギアを構えて切歌の隣に並ぶ。

 

「まだまだデス」

 

頭上で高く掲げた鎌を数回ほど回転させてから改めて構え直し、刃よりも鋭い目でミカを睨む切歌が調に応える。

 

「昨日は任務があったけど、今日のミカはやる気満々だゾ!」

 

叫ぶや否や、ミカは全身から金の光を迸らせた。"向こう側"の力を使うつもりだ。

 

「上等デス...!」

「今、私達の前には絶対に突破しなきゃいけない壁がある...!」

 

二人は最大限警戒しながら覚悟を決める。

このオートスコアラーを二人だけで倒す。

証明してやるのだ。

自分達は足手まといのお子様ではないということを。

皆の役に立つということを。

皆と一緒に、隣で戦うに値する力があるということを。

必ず!!

 

「やるデスよ、調!!」

「うん、やろう切ちゃん!!」

 

そして二人は同時にミカへと飛び掛かった。

 

 

 

 

 

『敵襲ぅぅぅぅぅぅぅっ!!』

 

突然、本部の面々の鼓膜をぶち破らんばかりの大声が轟く。

カズヤから緊急回線を用いた通信だ。

その際、タイミング悪くあおいが「冷たいもの、どうぞ」とアイスコーヒーを皆に振る舞っており、たまたまそれをゴクゴクと飲んでいた奏、翼、マリア、セレナ、弦十郎、朔也といった面々は、通信越しのカズヤの大声を突然耳にして盛大に吹き出した。

 

『人形共が"向こう側"の力を使ってやがる! 残り三体のどれだか知らねぇが、とりあえず感じ取れたのは一体分! そいつ相手に切歌と調が戦闘中だ!!』

 

続いて、本部内のアラートがけたたましく鳴り響き、オペレーターのあおいと朔也が、眉を顰めながら己の仕事を全うするべく素早く動く。

 

「カズヤくんの言う通り高レベルのアルター値とアウフヴァッヘン波形を、イガリマとシュルシャガナを検知しました!」

「位置特定します......反応は三つ共に同じポイントです!」

 

敵側が利用している"向こう側"の力は、元々カズヤから奪い取ったもの。そして現存のギアは全て彼の右目と繋がっている。"向こう側"の力とアウフヴァッヘン波形に関しては生きた感知機と化しているカズヤの感覚は、本部の機器よりも精度が高いようだ。

やがて街に設置された監視カメラに接続され、メインモニターに戦闘中の切歌と調の姿が映し出される。

 

「切歌、調!」

「っ!」

 

マリアが思わず悲鳴染みた声を上げ、セレナが身を乗り出す。

激しく攻め立てる二人と、それを余裕であしらうミカ。

 

「カズヤ、すぐに二人の所へ!」

『悪いがすぐってのは無理だな。こっちはアルカ・ノイズ......だけじゃねぇ、ファラとレイアまで出やがった。こっちも戦闘開始だ!』

「何ですって!?」

 

切羽詰まった表情のマリアに対し事態は甘くなかった。

彼の言葉を裏付けするように、再度アラートが鳴る。アルカ・ノイズの反応を捉えた証だ。

 

「なら私達が!」

「行きましょう、マリア姉さ──」

 

 

ドンッ!!

 

 

弦十郎の指示を待たず駆け出そうとする姉妹を阻害するように、潜水艦を襲う衝撃。

本部は大きく揺れて、誰もが咄嗟に近くのものにしがみつく。

 

「......一体何が、ってあれは!?」

「海底に巨大な人影、だと......!」

「あの巨大人形は、カズヤと小日向が倒したのではなかったのか?」

 

顔を上げた奏がモニターを目にして瞠目し、弦十郎が渋面を作り、翼が歯噛みする。

両腕を失った巨大な人形。それが潜水艦に体当たりをしてきたのだ。

再び潜水艦に衝撃が走る。

更にアラートが鳴り、朔也が血相を変えた。

 

「装者用ミサイルの射出口に故障発生! 浸水しています!」

「ダメージコントロールだ、急げ! それからこの場を緊急離脱! 死ぬ気で振り切れ!」

 

いくら弦十郎や装者でも海中では分が悪いどころか戦いにすらならない。敵の巨大人形から逃げる、せめて迎撃が可能となる海上まで振り切る必要があった。

 

「風鳴司令、二人への応援は!?」

「お願いします、行かせてください!」

「マリアくんとセレナくんの気持ちは分かるが今は無理だ!」

「「そんな!!」」

 

焦りに焦って絶叫するイヴ姉妹。

奏と翼も姉妹同様に今すぐ皆の下に駆けつけたいが、現状がそれを許さないことを冷静に理解している為、ただただ悔しそうな顔で黙するのみ。

そこへ──

 

『落ち着けよ......マリア、セレナ』

 

聞こえてくるのはカズヤの声だ。声自体はそれほど大きくないのに、やけに響いて耳に残る。そんな印象を与える静かな声だった。

 

『こっちを片付けたら俺が行く。それまであの二人なら余裕で持つさ。もしかしたら、俺が着く頃には人形を倒してるかもしんねー』

 

何を根拠に? 悠長なことを! そう考えてしまうが、それを口にする前に彼がこう言った。

 

『あいつらは、お前らから見たらまだまだ子どもだよ。可愛い妹分で、何かと心配でしょうがねー、ってのは分かるさ。けどな、あいつらにはあいつらなりの意地ってのがあって、現実をちゃんと真っ正面から受け止めながら前に進んでる。だから、あいつらの力を信じてやろうぜ』

 

そこで一旦区切り、

 

『それにな、確かにあいつらは大人じゃねーけど、俺達が思ってるほど子どもでもねーぞ』

 

そう告げた彼の口調には、絶大なる信頼が込められていた。

 

 

 

 

 

二対一、という数的な有利を得ていても、両者の間に圧倒的な差が存在していたら、そんな有利など有利にはなり得ない。

鎌と鋸の刃は赤い水晶にことごとく弾かれてしまう。

力任せに叩きつけても押し切れず、逆に力負けして吹き飛ばされた。

連携を駆使して隙を見つけ、そこを狙っても容易く防がれる。

火炎放射が吹き荒れ、赤い水晶が雨霰と降り注ごうと怯むことなく前に出た。

そして反撃を食らい、何度も倒される。倒される度に立ち上がった。

もし仮に敵が"向こう側"の力を使っていなかったとしたら、もっと善戦できていたのだろうか。

そんな if が頭を過るのは一瞬だけ。今は意味のない『もしも』に縋りつくのをやめ、勝つことだけを考える。

ひたすらに敵を斬り刻むことだけを考え、突っ込む。

しかし、現時点では力の差が埋まることもなければ覆ることもない。

 

「あう!」

「切ちゃん!」

 

赤い水晶で横薙ぎに殴り飛ばされた切歌の体を、調がなんとか受け止めて、鳥居に叩きつけられるのを阻止。

二人は既にボロボロで、肩で大きく息をしていた。

 

「二人掛かりでこれっぽっち? ジャリん子共には失望したゾ」

 

肩に赤い水晶を担ぎ、心底うんざりしたかのようなミカの態度。

 

「だってさ、切ちゃん」

「まー、そうデスよね」

 

対する二人はその態度に怒ることもなければ悔しがる素振りもない。何処か余裕を漂わせる雰囲気を纏い、不敵に笑うのみ。

 

「ン~?」

 

訝しむミカを捨て置いて、二人は諦めたように溜め息を吐く。

 

「流石に無理だったね。()()()()()()()()()

「二人のユニゾンならワンチャン、って考えがやっぱり甘かったデス。勝ったら後でマリア達にドヤ顔してやろうと思ってたのに......」

 

この発言にミカは顔を歪め、怒りを滲ませる。

 

「まさか、オートスコアラー最強のミカに、"向こう側"の力で強化されたミカに、イグナイトを使わずに勝つつもりだったとか、舐め過ぎにもほどがあるゾ!!」

「だから、ここからは私達の全てを懸ける」

「刮目して見るがいいのデス!」

 

調が差し伸べた右手を切歌が左手で握る。

 

「怖くないデスか? 調」

「切ちゃんがいてくれるから大丈夫」

「あたしもデス。むしろ燃えてきたデスよ!」

「ふふ、私も」

 

互いに顔を見合わせて微笑んでから前へと向き直り、繋いでいない手で己の首元──ペンダントを掴み取り、イグナイトを起動させた。

 

「「イグナイトモジュール、抜剣(デス)!」」

 

《Dainsleif》

 

電子音声と同時に空中へ放り投げられたペンダントが光の剣を形成し、それぞれが二人の胸の中心に突き刺さる。

一瞬、苦悶の表情を浮かべる二人ではあるが、すぐに歯を食い縛り、自分達を鼓舞するように言葉を紡ぐ。

 

「......カズヤが私達ならできるって、自信を持って言ってくれた」

「だから、できるはずなんデス!」

 

全身を覆い尽くす闇──魔剣の呪いが体だけに留まらず心を蝕んでいく。

筆舌し難い不快感が襲ってくる。あらゆる負の感情が増幅され、胸の中で爆発した。

未熟な自分達への自己嫌悪、自分達よりも実力が上である他の装者への嫉妬、子ども扱いされてしまうことへの悔しさと無力感。

しかしそれに負けるものかと、負の感情も自分の一部だから受け入れるんだと腹に力を込める。奏がビーチで言ってくれたことを思い出す。

大切な人達を、大好きな人達の顔を思い出せ。

家族同然のマリアとセレナ、カズヤ、響、未来、奏、翼、クリス、S.O.N.Gの皆......そして、ナスターシャ。

 

 

──ドクンッ。

 

 

心臓が跳ねる。

鼓動が高鳴り、体が熱くなる。胸の奥から言葉では表せない衝動が沸き上がった。

その衝動に突き動かされるままに、二人は歌う。

 

 

「「Gatrandis babel ziggurat edenal」」

 

 

イグナイトモジュールが未だに完全稼働していない段階で、二人は何ら躊躇うことなく絶唱を口にする。

二人がやり始めたことは前代未聞だ。制御できなければ暴走の危険を孕んでいるイグナイト。それを制御下に置く前段階で絶唱を歌うなど正気の沙汰ではない。

 

 

「「Emustolronzen fine el baral zizzl」」

 

 

だが二人は成功すると信じて疑わなかった。

今自分達が身に纏っている力は、シンフォギアにしてカズヤのシェルブリット。

"魔剣ダインスレイフ"の欠片すら、彼が分解と再構成を経た代物。

全て、自分達に対して思う存分やってみろと言ってくれた男の力の一部。

だったら思う存分やってやる!!

彼の、この力は、必ず自分達の期待に応えてくれるはず。

心からそう信じている。

 

 

「「Gatrandis babel ziggurat edenal」」

 

 

(......マムが命を懸けて救った世界を......)

(絶対に、絶対に守ってみせるデス......!!)

 

皆の役に立ちたい。その為にも強くなりたい。その想いの根源は、『世界を壊す』と宣言したキャロルの望みを必ず阻止すること。

いなくなってしまった(ナスターシャ)の想いを無駄にしない為にも......!!

 

 

「「Emustolronzen fine el zizzl」」

 

 

(だからお願いデス!!)

(力を貸して!!)

 

 

「「シェルブリットォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」」

 

 

 

 

 

現れたファラとレイアは、こちらと戦う素振りを見せたかと思えば二手に別れて遁走を開始。

しかも逃げながらアルカ・ノイズをバラ撒くという傍迷惑かつ(タチ)の悪い逃げ方だった。

それだけではない。二体が召喚するアルカ・ノイズとは別に、街の様々な場所でアルカ・ノイズが発生しているらしく、さっきから余裕のない朔也とあおいの声が通信機から聞こえてくる。

故に街は大混乱であり、逃げ惑う人々が阿鼻叫喚となる地獄絵図と化す。

カズヤ達四人はアルカ・ノイズの対処の為、それぞれがバラバラに動かざるを得ない。

とにかくアルカ・ノイズをバラ撒き続ける人形二体を早急に叩くべく、ファラをカズヤが、レイアを未来が追いかけながら召喚された瞬間にアルカ・ノイズを殲滅し、クリスと響が他の場所での殲滅を担当とした。

 

『ったく、帰宅ラッシュの街中でなんてことしやがる!!』

 

クリスが咆哮を上げ手にしたボウガン型のアームドギアから赤い矢を次々と放ち、アルカ・ノイズを片っ端から穿ち塵へと変えていく。

 

『明らかに陽動ですよこれ! 私達を切歌ちゃんと調ちゃんの所に行かせない為の!』

『未来の言う通りだと思うけど、アルカ・ノイズを放っておけないよ!』

 

レイアを追いかける未来と、クリスとは反対側で戦う響の声には不安が滲んでいた。

 

「あいつらなら大丈夫だ。だから今は目の前の敵に集中しろ!」

 

だがカズヤは焦らない。ギアと繋がった右目から二人は健在であるということが分かる。

人形は、ファラは相変わらず逃げながらアルカ・ノイズをバラ撒くだけ。最早陽動であることを隠そうともしない。ただただカズヤ達を足止めしておきたいだけ、戦うつもりなど毛頭ないというのが態度から見て取れた。

いい加減イライラしてきたカズヤはアスファルトを殴って高く跳び上がり、ファラ目掛けて上空から急降下を敢行。

右肩甲骨の回転翼が高速回転し、軸部分から銀色のエネルギーを噴出させ、凄まじい速度と勢いで突っ込む。

手首の拘束具が甲高い音と共に外れ、右腕の装甲が展開、手の甲に開いた穴に光が収束し、全身から金色の光を迸らせて拳を振りかぶる。

最後に狙いを定めたその周囲にファラ以外の存在がタイミングよくいないことを確認して、

 

「シェルブリット、ブワァァストォォォッ!!」

「っ!」

 

粉々に砕け散れ! そんな念が込められた拳は惜しくも寸前で躱されてしまうが、地面に拳が着弾した際、収束していた莫大なエネルギーが爆裂し、発生した衝撃波が至近距離のファラを巻き込み吹き飛ばす。

大きめの街路樹に激突するファラ。激突された街路樹は勢いに耐えられずへし折れて倒れ、ファラはそのまま何度もバウンドしながらアスファルトの上を転がり、一時停止していたバスに正面からぶつかって止まった。

音と衝撃に車内で運転手や乗客が何事かと騒ぎ始める。

 

(クソ、場所と時間帯のせいで車が多いし人も多い! こんな状況じゃこれ以上シェルブリットバーストは使えねぇ!)

「ぐっ......流石にもう限界ですね」

 

一般人を巻き込まないように追撃を加えようとカズヤが駆け出そうとして、

 

「う!」

 

その右目から、たらりと血涙が零れ、頬を伝って滴り落ちた。切歌と調がイグナイトを発動させたようだ。

カズヤが一瞬動きを止めた隙にファラは急いで立ち上がり、テレポートジェムを手にする。

このままではまた逃げられる。そう悟ったカズヤはそれでも諦めず、意識を集中していつでも殴りかかれるように拳を握り直す。

 

「......テメェら、マジで何が目的だ」

「私達はシンフォギア装者の歌を聴きたいだけです。その為だけにマスターによって作られたのですから」

「何?」

 

意外な返答、というか意味が分からない内容に驚く。

 

「ですから、私達オートスコアラーはアルター能力者に用はないのです。最初に言いましたよね? 目的は邪魔者の排除、と」

「ハッ! 散々俺の"向こう側"の力を使っておいて、よく言うぜ!」

「こちらとしては"吸収(アブソープション)"であなたを無力化できればそれでよかったのですが、色々と想定外なことになったのは否めません」

 

言って、ファラは背後をチラリと見やる。そこには一般人を乗せたバス。人質を取られたようで迂闊に手が出せない。

 

「イガリマとシュルシャガナにミカは敗北するでしょう。ですが、私達はマスターの命令に従い計画を遂行するのみ」

 

手の中のテレポートジェムを足下に叩きつけ、空間転移が始まる。

 

「待ちやがれ!」

「それでは失礼します。次は私が歌を聴かせてもらうと、あなたの愛しい歌女達にお伝えください」

 

そんな捨て台詞を残し、ファラは消えた。

ちっ、とカズヤは舌打ちしてから踵を返し地面を殴って跳び上がり、他のフォローに回るべく──特に切歌と調が気掛かりだ──移動を開始した。

 

 

 

 

 

まず変化が現れたのは二人で手を繋いでいた腕そのもの。

切歌の左腕は翠色の光を、調の右腕は桃色の光をそれぞれ放ち、カラーリングは異なるがカズヤのシェルブリットへと姿を変える。

続いて二つのシェルブリットは、同時に手首の拘束具が勝手に外れ、装甲が展開し、手の甲に穴が開く。

そして、全身を覆い尽くしていた闇──魔剣の呪いが手の甲の穴に吸収されていく。

やがて全ての暗黒を吸い尽くすと、シェルブリットはその装甲を漆黒へと染め上げ、()()()()()()()()()()()

腕全体を包んでいた黒い光は瞬く間に全身を侵食し、更に腕以外の部位──インナーやプロテクターを同じ黒へと彩る。

次はギアに変化が現れた。より刺々しく、より禍々しいデザインへの変貌。

仕上げとばかりに体から放たれる黒い光は大きくなり、それに比例するかの如く全身に力が漲ってきた。

 

「成功デス......!」

「うん!」

 

花咲くような切歌の笑顔に調は同様の笑みで頷き返す。

 

「ぶっつけ本番だけど、上手くいったね」

「調は時々ぶっ飛んだこと言い出すから最初はビックリしたデスよ」

 

Project IGNITE(プロジェクトイグナイト)発足当初、"ダインスレイフの欠片"をギアに組み込むと、通常のギアさえ纏えない事態について、調は魔剣とシェルブリットの相性を抜きにしてもカズヤの意思が働いていることを早々に理解していた。

呪いを拒絶し、装者を守ろうとしているのをその身に感じ取れたのは、装者で唯一Project IGNITE(プロジェクトイグナイト)に直接携わった調のみ。

また、クリスが単独でシェルブリットを発動させたことから、装者の感情に呼応している節があることは分かっていた。

更には、イグナイトを発動させた際に、発生したフォニックゲインを用いて響やセレナ、マリアが黒いシェルブリットを発動させたことから、フォニックゲインとも密接な関係があることも知っている。

恐らく鍵となるのは装者の爆発的な感情、及びイグナイトを制御下に置く強靭な意思と、高密度のフォニックゲイン。

クリスはカズヤに似て感情的な性格で、適合係数もトップ。単体のフォニックゲインの発生量も一、二を争う。彼女が仲間内で最も早くシェルブリットを発動させたのは、今になって分析してみれば当然の帰結と言えた。

そして調は考えた。仲間達と肩を並べるには、イグナイトを制御下に置いた上でシェルブリットを発動できるようになるべきだ、と。

その為の感情や意思についてはカズヤに発破をかけられたことでやる気に満ちているが、フォニックゲインは足りない可能性があった。

ならばどうするか?

二人でユニゾンしながら戦い、フォニックゲインを高めてから更に絶唱を歌えば行けるに違いない。少なくとも二人で絶唱を使えばあの時のクリスよりはフォニックゲインを獲得できるはずだと目論んだ。

では、絶唱のバックファイアをどうするかという問題が浮上してくる。

そこで有効活用できないかと閃いたのが、シェルブリットに宿ったカズヤの、装者を守らんとする意思。

呪いを拒絶していたが故に当初はギアさえ纏えなかったのが、呪いを受け入れた現状で絶唱のバックファイアという負荷が装者に降りかかった場合、どうなるのか?

そもそもバックファイアとは、ギアから解放されたエネルギーが装者の肉体を蝕むこと。フォニックゲイン由来のエネルギーであることには変わらない。ならば、同調による装者への負荷軽減は、バックファイアそのものをフォニックゲインと共にシェルブリットが吸収しているから、と考えられた。

自分達の揺るがない想いを胸にユニゾンして歌い、不足分を絶唱で補い、それらにより発生した多量のフォニックゲインを用いてシェルブリットを発動させバックファイアを吸収、同時にイグナイトを成功させる。

この思いつきには、シンフォギアの生みの親でありProject IGNITE(プロジェクトイグナイト)の技術者でもあるフィーネは当たり前の権利のように大反対。

そんなリスクが高くて危険極まりない博打みたいなことさせられる訳ないでしょ! と。

しかし調は強引に押し切った。

先ほどコンビニを出る直前、二人きりの精神世界の中で、互いに精神体という同じ条件下でボディーブローを叩き込んで気絶させるという、どういう理屈なのかよく分からない上に酷く乱暴かつ強引な方法で。

 

『......おのれ"シェルブリットのカズヤ"......とうとう調まで物事を拳で解決するようになってきたじゃない......ぐふっ』

 

最後にカズヤに対して恨み言を呪詛のように唱えながら、ちーん、という仏壇のお鈴の音が聞こえてきそうな感じでフィーネの魂は休眠状態へと移行した。

その後の顛末は知っての通りだ。

 

「イグナイトとシェルブリットの同時発動には成功したけど、エネルギーの消費が激しいこの状態はきっと一分も持たない。だから切ちゃん!」

「百も承知デスよ調! 三十秒で決着(ケリ)をつけてやるデス!!」

 

繋いでいた手を離し、二人でユニゾンしながらそれぞれ漆黒のアームドギアを構えてミカへと突貫。

 

「......いいゾ、期待以上だゾ! ミカも全てを懸けてお前達の歌を聴かせてもらうゾ!!」

 

対するミカは歓喜の笑みと共に全身を燃え上がらせ、決戦機能であるバーニングハート・メカニクスを発動。衣服が焼失し、金に輝く"向こう側"の力を纏い前へと踏み込む。

調より放たれた人よりも大きなヨーヨー。鋸が高速回転するそれをミカが正面から両腕で受け止めようとした。

しかし、

 

「お? おおお? おおおおお!?」

 

あまりの威力に押されていく。踏ん張って堪えるが受け止め切れない。巨大なヨーヨーを抱きかかえたような状態で背中から神社の賽銭箱に突っ込んで粉砕し、そのまま御社殿の中に叩き込まれ、本殿の仏様も纏めて打ち砕き、外までぶち抜いてから弾き飛ばされた。

御社殿の裏に仰向けの状態で空中に投げ出されたミカの真上から、死神の鎌が迫る。

鎌を大きく振りかぶり急降下してくる切歌に掌を向け、掌の穴から火炎を放射。

 

「っ! しゃらくせぇ、デス!!」

 

視界を埋め尽くしこちらを呑み込もうとする紅蓮の炎に怯まず咆哮し、振り下ろそうとしていた鎌を引っ込めて、代わりにシェルブリットの左腕を突き出す。

拳から発生した黒く輝く衝撃波が、天を焦がさんと昇る炎と激突。

大音量の破裂音と共に爆風が生まれ、黒い衝撃波と紅蓮の炎は互いを相殺し合う。

爆風を利用し切歌はその身を舞い上がらせ、綺麗に後方宙返りを決めて御社殿の屋根の上に危なげなく着地。

ミカは猫のような身のこなしでくるりと体勢を整え、地面に降り立つ。

先ほどとは比べ物にならない出力を見せた二人に、ミカが更に笑みを深めた瞬間、調が一気に間合いを詰めてきた。

脚部のローラーを用いてスケートのように疾走してくる。その状態で腰を低くし右の拳を構えた姿は何処となくカズヤを彷彿させた。

右の拳を使ったシェルブリットバーストが来る、そう確信して身構えるミカ。

しかし、調は右の拳を振り抜くことはなく、ある程度距離を詰めるや否や、左手に持っていたヨーヨー型のアームドギアを投擲した。

 

「なっ!?」

 

一瞬にして掌サイズのヨーヨーが巨大化し、完全に虚を突かれた形となったミカにぶち当たり殴り倒す。

右腕のシェルブリットを警戒していたことで、それ以外のことに注意が疎かになったのだ。

境内の地面を転がるミカに、上空からイガリマの鎌が振り下ろされるものの、そう簡単にやられて堪るかと自ら転がり続けて必死に回避。

切歌の追撃を凌ぎ跳ねるように立ち上がり、顔を上げたそこへ、今後こそ調の右の拳が待っていた。

咄嗟に防御の障壁を展開。

構わず振り抜かれた右の拳が障壁に叩きつけられる。

 

「......壁を、突破する!!」

 

調の右腕全体が一際強く光輝けば、威力が激増して障壁が粉砕され、ミカの顔面に拳がめり込み、一拍遅れて拳に収束していたエネルギーが爆裂した。

黒い光を伴う爆発。

またしても吹き飛ばされたミカに、続いて切歌が鎌を肩に担ぐように構えて踏み込む。

ミカは右掌の穴から火炎弾を、左の掌の穴から赤い水晶を連続で発射して切歌の接近を阻もうとするが、彼女の進撃の速度はまるで緩まない。

黒い光を纏わせた死神の鎌を振り回し、火炎弾だろうが赤い水晶だろうが関係ないとばかりに真っ二つに斬り裂きながら突っ込んでくる。

ついに鎌を振るえば届く距離まで近づかれ、手にした赤い水晶で鎌に対抗しようとしたが、

 

「とお!」

 

赤い水晶ごと袈裟懸けに左の肩から右の脇腹まで斬り裂かれ、

 

「ついでにこいつも食らいやがれデス!!」

 

更に無防備となった胸部の中心に、黒い光を宿した左の拳が真っ直ぐ突き刺さり、爆裂。

吹き飛び、御神木に衝突して木っ端微塵にしてから漸く動きが止まったミカを見据えたまま、切歌と調は横に並ぶと、

 

「これで!」

「トドメ!」

 

大きく振りかぶり体ごと横に一回転させながらアームドギアである鎌を、ヨーヨーをそれぞれが全力で投げつける。

鎌とヨーヨーは回転しながら空中で目映い光を放ち、一つに溶け合い、融合を果たし形を変えていく。

そして顕となるのはまさに獣の顎だった。上顎は鎌のような牙、下顎はチェーンソーのような牙。それらを備えた獰猛かつ巨大な肉食獣が、ミカという獲物に喰らいつこうと大きく顎を開き、猛烈な速度で肉薄する。

 

「......アハッ!!」

 

何故か嬉しそうに笑ったミカを、巨大な獣の顎が噛み砕いたと同時に、

 

 

「「シェルブリットバースト」」

 

 

静かに紡がれた言葉に合わせて獸の顎は閃光を生み、大爆発が引き起こされ、暗黒の光が夜空を穿つ。

 

 

 

 

 

とてつもない虚脱感と疲労に襲われ、立っていることができず調はその場でペタンと座り込み、隣で切歌がドサリと尻餅を着く。

二人のシェルブリットが僅かに瞬き元の腕に戻り、それからすぐにギアまで解除された。

 

「か、勝ったよね?」

「......勝った! 勝ったデスよ調! 文句なしにあたし達の勝利デス! オートスコアラーを二人で撃破したんデスよ!」

 

制服姿で顔を見合わせてから、地べたに座り込んだままどちらともなく抱き締め合う。

嬉しい、という感情が胸の内に膨れ上がる。壁を突破できたのだと、力を示せたのだという実感が沸いてきて涙が溢れてきた。

 

「......う゛、ぐす、や゛っだよ゛ぎり゛ぢゃん゛~」

「や゛っだデズよ゛じら゛べ~」

 

感極まって涙だけでなく鼻水まで出てきた。顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしつつ嗚咽を漏らし鼻を啜る。

そんな二人から五メートルほど離れた場所に、シェルブリット第二形態で飛んできたカズヤが降り立つ。

 

「二人共、無事か?」

「「ガズヤ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」」

「うおああああ!?」

 

二人は疲労など忘れて直ぐ様立ち上がり、アルターを解除したカズヤの胸に飛び込み、彼は彼で抱きついてきた二人の泣き顔があんまりにも汚くて酷かったのでビビって情けない悲鳴を上げた。

 

「お前らなんで泣いてんだ!? そんなにヤバかったのか!?」

「違うよ!」

「だったらなんで泣いてんだよ?」

「これは嬉し泣きデス!」

「カズヤのお陰で勝てたのが、凄く嬉しいんだ!」

「だからさっきから涙が止まらないんデス!」

「......そうか」

 

顔を上げて訴えてくる二人の声に納得し、彼は安堵の溜め息を零して微笑むと、

 

「よくやったな、切歌、調......上出来だぜ。これでもう、誰もお前らのことを子ども扱いできねーな」

 

両手をそれぞれの頭の上に置くようにして抱き締めた。

すると二人は幼子のように更に大声で泣き喚く。

褒められたことが、認めてくれる発言がただただ嬉しくて、胸に顔を埋めて感情のままに泣き続ける。

カズヤはそんな二人を父性溢れる笑みで見下ろしながらよしよしと落ち着くまで撫でることに。

 

「あ、でもこの状態で鼻かむなよ」

「「ヂーン゛」」

「言ったそばから......」

 

それでも今は怒る気にはなれず、何もかも諦めたように天を仰ぐカズヤの耳に、遠くからヘリコプターのローター音が聞こえてきた。

どうやらS.O.N.G本部からの迎えが来たらしい。

 

「おい、そろそろ離れてハンカチで顔拭け......あ」

 

声を掛けてから気づく。二人は疲れて眠ってしまったのか、既に意識がなく、ぐったりと脱力し全体重をこちらに預けてきたのだ。

 

「今は休め......今日はよく頑張った」

 

そう告げる彼の顔と声は、優しくて慈愛に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カズヤ、今からヘリをあなたがいる場所に着陸させるわ。誘導してもらえる?』

「ヘリ操縦してんのマリアか。オーケー、場所は位置情報そのままで、神社の境内に......つっても鳥居とか御神木とか御社殿とか軒並みぶっ飛ばされてるから更地とあんま変わんねーけど」

『切歌さんと調さんは無事ですか?』

「セレナも一緒か? 二人なら無事だ。疲れて寝ちまったけど、問題はねーよ。ただまあ、この様子だと明日の朝になっても目を覚まさないかもな」

『そう、なら一先ず安心ね............セレナ、いいわよね?』

『そうですね。カズヤさんには後で私とマリア姉さんとの三人でじっっっくり、それはもうじーーーーっっっっくりと話したいことがあるので覚悟してくださいね』

「......あー、えー、その、二人共、怒ってる?」

『『怒ってないとでも?』』

「......ふっ、どうやら次は俺が二人以上に頑張らなきゃいけねーらしいな」

 

その夜、イヴ姉妹にこってりじっくり朝まで()られた。




カズヤは戦闘以外はかなりテキトーなダメ人間なので、基本的に戦ってたり訓練してたりする時以外はヒロイン達の尻に敷かれてます。というか、尻に敷かれることをヨシとしてる、むしろ尻に敷かれることを望んでる節が見え隠れしてます。

ま、カズマもカナミの尻に敷かれてたしね、仕方ないね!

次回投稿はいつになるのか分かりません。
もっとたくさん執筆時間を取って早め早めに投稿したいのですが、それがなかなか許されないのが私の現状です。

スマヌ、スマヌ......!
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