カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした 作:美味しいパンをクレメンス
「来たよカズヤ。で、響が胴上げってどういう状況?」
翼を連れてやって来た奏に、無言のまま顎で教室の中心を見るよう促す。
視界の先では相変わらずワッショイ、ワッショイと響が胴上げされている。
数分前と違う点といえば、あれだけ抵抗していた響が完全に無抵抗かつ黙したままぐったりした様子で胴上げされていること。どうやら考えることをやめたらしい。
ついでに、四つん這いの少女が涙で濡らす床の面積が広がったくらいか。
「ああっ!? 『ツヴァイウィング』の天羽奏さんと風鳴翼さん!!」
胴上げしていた女生徒の一人が奏と翼に気づく。そして一人気づけば全員が気づくのは自然なこと。胴上げが終わり解放される響。
フラフラした足取りで俺の隣まで近づいてきた響がぼやく。
「...私、人生でこんなに胴上げされたの初めて...」
「良かったな響。貴重な経験ができて」
「カズヤさんは少しの間黙っててもらえます?」
よしよしと響の頭を撫でてあげたら恨みがましい視線が飛んできた。
「あ、でも暫くそのまま頭撫で続けてくれたら許してあげます」
が、一転してえへへと嬉しそうに微笑む姿が年相応で可愛らしい。しかもどうやら許してくれるとか。
「響が私の目の前で男とイチャついてる...やっぱり二人は付き合ってるんだ!!」
立ち上がりギリッと歯軋りしながら親の仇のように俺を睨む少女に慌てる響。
「違うの未来、今のは違うの!? 何もかも全部スキンシップし易い雰囲気を醸し出してるカズヤさんのせいなの!!」
「ついでに言うとカズヤと響は付き合ってないから安心しな」
全てを俺に擦り付けて弁明する響と、補足するようなことを言いながら俺の肩を組む奏に女生徒達は一瞬動きを止める。
その時、翼が額に手を当て頭痛を堪えるように呟いた。
「...奏。そんなことをしながらそれを言うと、まるで自分がカズヤと付き合ってると暗に示しているように見える」
そして再度教室には黄色い悲鳴が轟いた。
「ああ、緒川か。奏は戻ってきたんだな」
「はい司令。途中でカズヤさんを見つけたので一緒に」
「翼と響くんは?」
「奏さんとカズヤさんが二人の教室まで迎えに行きましたが、四人はまだこちらに到着していませんか?」
「いや、四人共まだ見ていない」
「えぇ...あれから結構時間が経ってると思うのですが」
「何をしているんだあの若者達は?」
「...き、きっと青春ですよ」
「青春か。なら仕方ないな、若い内は青春するものだ」
「つまり! カズヤさんは『ツヴァイウィング』のお二方の護衛兼雑用で、響はその助手だと?」
少女──小日向未来という名の響の幼馴染みらしい──は腰に手を当て、泣き腫らした目でこちらを最大限威嚇しながら言う。
「もうそれでいいや、そんな感じで頼む」
「カズヤさん返答がふわっとし過ぎです!」
今度は奏と俺が付き合ってるんじゃないかという話になって大騒ぎとなったが、響が俺と付き合ってないという事実に復活を果たした未来が、混沌の坩堝と化した教室をまとめ始めた。
それに便乗する形で翼が辿々しい口調で必死に嘘っぱちのカバーストーリーを語り出して今に至る。
「ねぇ響? いつからそんなバイト始めたの? 私初耳なんだけど?」
「俺と一緒に昨日から」
「私は響に聞いてるんです!!」
響の代わりにしれっと答えると未来が激昂した。怒髪天を突くとばかりに髪を振り乱す。
俺の背後では奏が「アンタちょっと黙ってな」と後頭部をチョップしてくる。
響は響で本当に申し訳なさそうに未来の手を取り頭を下げて謝った。
「ゴメンね未来。ちゃんとした説明ができれば良かったんだけど、なんか私のこと置いてけぼりで事態が進んじゃって、あれよあれよという間にこんなことになっちゃったんだ」
「いいの。響は何も悪くないの。なんとなくだけどそこのカズヤさんとかいう男の人が全部悪いってことだけは分かったから」
女の友情が完全に修復されたのを確認し、俺は待ってましたとばかりに口を開く。
「つーことで、度々こいつのことは俺が拐いに来るが、そういうもんだと思って諦めろ」
「キャーッ!? だからなんでカズヤさんはいちいち人のことをお姫様抱っこするんですかぁぁぁ!!」
未来から奪い取るように響を横抱きにすると、奏と翼に「行くぜお前ら!」と一声掛けて走り出し、教室を出て廊下をダッシュ。
「あー! 響ばっかズルい! 後でアタシも!」
トップアーティストでありながらトップアスリートもできそうな俊足で追いかけてくる奏。
「任せろ、次は奏だな!」
「あ、皆待って! お、お騒がせしました!」
一人取り残された翼が教室の女生徒達に深く頭を下げてから駆け出す。
少し出遅れたので一つ告げておく。
「早く来い翼、お前だけお姫様抱っこ無しにすんぞ!」
「どういう脅し!? べべべ別に私はお姫様抱っこなんて...そんな...」
なんかゴニョゴニョ言ってるが最後まで聞き取れん。
場を引っ掻き回せるだけ引っ掻き回したことに満足した俺は、響達を連れて教室を後にする。
ちなみに、翼は奏の後にちゃんとお姫様抱っこした。
「...やっぱりあのカズヤって人許せない...待ってて響。私がいつか絶対助けてあげるからね」
二課本部に向かう為のやたら長いエレベーターを降りている最中、響は納得いかんとばかりに質問してきた。
「カズヤさん、どうしてあんな態度取ったんですか? あれじゃカズヤさんが未来に嫌われちゃいます」
「だろうな。でもいいんだよそれで」
「?」
疑問符を浮かべる響の頭に手を置いてポンポンしながら教えてやる。
「響がシンフォギア装者としてノイズと戦う以上、今後急な呼び出しで友達と一緒にいられることも減るだろ?」
「それは、そうですけど」
「その際、二課の仕事だからちゃんとした説明もできねー。これだと人間関係に溝を作る結果になる」
「...」
「そこで『カズヤに無理矢理呼び出された』ってことにしとけば、悪いのは俺であってお前じゃない」
「でも、そんな、カズヤさんが悪者になっちゃいますよう」
悲しそうな表情をする響の頭をわしゃわしゃにしてやる。
「ぎゃああああ髪の毛ぐっしゃぐしゃあああっ!?」
「大して変わってねーから気にするな癖っ毛」
「...言い草が酷すぎる」
「アンタいくらなんでも言っていいことと悪いことあんでしょ...」
喚く響を優しく諭すと翼、奏の順に非難の視線と言葉が飛んでくるが無視。
「別にいいんだよ。ダチどころか知り合いもろくにいねー俺より、現役女子高生の響の方が色々な面で優先されるべきだ」
「...カズヤさん」
「っていうのを今思いついた」
「は?」
「ま、さっきはその場のノリと勢いで喋ってたけど結果オーライなんじゃねーの?」
響だけでなく奏と翼もなんか感動してたっぽいが、すぐに三人は顔を顰めて半眼になり、疲れたように溜め息を吐く。
「...私の感動返してください」
「右に同じく」
「アンタ、一言余計だって」
女性陣の冷たい視線は、二課の本部に着いても続いた。
【繋いだ手が胸に秘めたもの】
昨日のメディカルチェックの結果、俺については特筆すべきことはなかった。強いて挙げれば遺伝子情報に未知のもんがあったらしいが、それが何か問題を起こす訳でもなく。
問題は響だ。
彼女は二年前の事件で体内に奏のガングニールの破片が除去されずに残っていたことが、昨日シンフォギア装者として覚醒した原因らしい。二年前に響が大怪我した瞬間と、昨日の覚醒の瞬間を目にしてないので、俺としては何とも言えない微妙な気分になるくらいなのだが、二課の連中はそうでもないらしい。
特に当時実際にガングニールを振るっていた奏などは、響の覚醒に何か思うところがあったのか、響に謝罪した。
「あの時、ちゃんと守ってあげられなくてゴメンよ響。アタシがもっと強ければ響はこんなことになってなかった」
しかし響は微笑んで元気いっぱいに感謝を述べる。
「へいき、へっちゃらです。だって奏さんは私の命を助けてくれたんですよ。それに体内にその、聖遺物でしたっけ? それがあるお陰で昨日もなんとかなりましたし。あっ、昨日も含めれば実は二回も助けられてます。だから感謝はしてますけど恨んだりなんかしないので安心してください」
「...アンタって子は、なんて良い子なんだ!!」
奏がぎゅっと響を抱き締める光景に皆苦笑していた。
その後、シンフォギアについての詳細なメカニズムも説明されたが、俺には難しい話だった。まあ、俺が歌ってシンフォギアを纏う訳ではないので、半分聞き流していたのも原因だが。
響がシンフォギアの力を手にしたことについて、弦十郎のおっさんから他言無用と、改めてノイズ対策について協力のお願いをされたので、俺も響も首肯する。
「私の力が誰かの助けになるのなら、是非」
「衣食住を用意してもらってるんだ、その分は働くぜ」
言い終わるタイミングを計っていたかのように、耳障りな警報音が鳴り響く。
ノイズ発生のお知らせだった。
二課本部施設内の司令部に場所を移す。
ノイズの出現場所をオペレーターの二人が割り出すのを横目に、弦十郎はカズヤの顔を盗み見る。
飢えた獣のような獰猛さを秘めていながら、新しいオモチャを与えられるのを待つ子どものような期待をした表情。
「出現地特定、 座標出ます。リディアンより距離二百!」
その声を聞きカズヤがニヤリと唇を吊り上げる。
「さあ、おっ始めるか!!」
心の底から楽しそうに叫ぶと走り出す。
反応が遅れた奏と翼が一瞬呆然としてから二人で顔を見合せ、慌ててカズヤを追いかけた。
「お、置いてかないでくださいよ!? 皆ちょっと待って!!」
そして一人出遅れる響。
大人達が何か言い出す前に、四人は司令部を飛び出してしまった。
「...まるで戦うことを至上の喜びとしているような顔をしていたな、カズヤくんは」
弦十郎の言葉に了子が頷く。
「彼の世界のアルター能力者は、皆あんな感じなのかしら」
それは誰にも分からない。他の世界の話だし、カズヤ本人は記憶がないと言っていた。考えても答えの出ない話である。
「カズヤくんは、明らかに我々と毛色が違う。誰もが戦いを避けるような場面でも、彼は一切の躊躇なく、いや、むしろ喜び勇んで戦場に身を投じるだろう。まるでそれこそが自分の生き方だとでも言うように。たとえそこで死んでしまっても、きっと彼にとっては本望かもしれん。だが...」
「酷く歪よね、私達とは形が違うだけ。こういうのを類は友を呼ぶって言えばいいのかしら」
了子の発言に弦十郎は腕を組んで眼前のモニターを睨む。
「戦う彼の姿から一番影響を受けるのは、彼と共に戦う装者達のはず。しかしまた、彼に影響を与えるのも装者達だ。この互いへの影響が良きものであればいいのだが...」
厳かな口調で紡がれる言葉に司令部の誰もが無言で同意した。
私達の中でいの一番にノイズと戦闘を開始したのは、やはりカズヤさんだった。
走りながらアルター能力を発動させ、前髪が逆立つ。
一瞬だけ全身から淡い虹色を放つと、周囲のコンクリートやアスファルトが見えない何かに突然大きく抉られたような痕を残す。それは彼によって分解、変換された証だ。
分解、変換された物質は再構成され、カズヤさんのアルター能力『シェルブリット』として形成された。
右腕と顔の右半分が橙色の装甲で覆われ、右肩甲骨部分には回転翼。
私と奏さんと翼さん、三人がシンフォギアを纏うのを待つ気など皆無のようで、右の拳を地面に叩きつけ、その反動で大きく跳躍する。
そして右肩甲骨部分の回転翼が高速回転し、その軸部分から迸る銀色のエネルギーを推進力にプラスした状態でノイズの群れに突っ込んだ。
「おおおらあああっ!!」
光輝く右拳を一際大きな体をしたノイズにぶち込み、殴られたノイズのみならず、周囲一帯を吹き飛ばした。
「カズヤの奴、二年前から戦い方が何一つ変わってないね」
何処か懐かしむように目を細める奏さん。きっと二年前のあの時を思い出しているのだろう。
「響、あいつの戦い方は絶対参考にするんじゃないよ。あんな特攻かまして無事なのアイツだけなんだから」
「...し、しませんよ。あんな敵陣のど真ん中に考えなしに突っ込むなんて真似できっこないです」
こちらに話が振られたけれど、ド素人の私では絶対にできない。もしやったら囲まれてボコボコにされるのがオチだ。
「でもちょっと格好いいと思ってるだろ?」
「...ちょ、ちょっとだけ。奏さんは?」
「響と一緒だよ」
お互いに素直に答え、笑い合う。
雄叫びを上げながら敵に向かって真っ正面から突っ込んでやっつけちゃうカズヤさんの姿は、力強くて頼もしい。
確かに考えなしに突撃してるようにも見えるそれは、銃口から飛び出した弾丸のように真っ直ぐ敵に突き進む。
まさに『
だけどその姿は見ていて凄く気持ちいい。
「二人共、この際カズヤの戦い方云々は置いといて、カズヤが取り零したノイズを片付けよう」
翼さんの指摘に頷き、私は胸元に手を当て、溢れてくる想いをそのまま歌として声に出す。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」
「Imyuteus amenohabakiri tron」
三人揃ってシンフォギアを纏うと奏さんが即座に指示を飛ばしてくる。
「翼はカズヤの進行方向とは逆側を頼む。響はカズヤを追うように残った奴を倒して、でもフォローはアタシがするから無理しないように」
「「了解」」
指示に従い、私は翼さんとは逆方向──カズヤさんを追うように駆け出した。
「響はまだアームドギアがないんだから、本当に無理だけはしないでよ」
「アームドギア?」
槍を振り回す奏さんの言葉に、近くにいたノイズにパンチを繰り出しながら聞き返す。
「アタシの槍とか翼の剣みたいな固有武器のこと! 詳しい理屈はアタシもよく分かってないけど、ノイズを倒すって気持ちが武器として具現化した感じ!!」
「分かり易い説明ありがとうございます!!」
続いてキック、飛びかかってパンチを振り下ろし、私は奏さんに後ろを守られながらノイズを少しずつだけど減らしていく。
と、そんな時だ。
「いいねぇ! かっちょいい曲を聞きながら戦うとかテンション上がるぜっ!!」
離れた場所で大暴れをしていたカズヤさんの声が戦場に響き渡る。
そして、
「シェェェルブリットオオオオォ!!」
言った通りテンションが上がっているのだろう。右拳を顔の高さまで掲げた構えの状態で、全身から黄金の光を放ち始めた。
──ドクンッ。
刹那、胸が高鳴る。
胸の奥底から沸き上がる昂揚感を抑えられない。
「あ、熱い...!」
体の奥が、拳が、頭が、聖遺物の破片が突き刺さったことで未だに残る胸の傷痕が、どうしようもなく熱くなってきた。
だけどこの熱さが不思議と心地好い。
昨日のシンフォギア覚醒の時とは決定的に違う。
まるでカズヤさんの高まりに同調するように、全身を熱が駆け回り、力が漲っていく。
なんで? どうして? そう疑問に思った瞬間に脳裏を過るのは、虹色の粒子となって消えそうになっていたカズヤさん──彼のシェルブリットに覆われた手を掴んだ光景。
「おい響! どうした!?」
様子のおかしい私を心配した奏さんが横で叫ぶがそれどころではない。申し訳ないが反応することすらできない。
「響!? もしかして胸の傷が...」
言われてなんとか視線を胸元に向けると、二年前の傷痕部分が纏ったシンフォギア越しに虹色に光輝いていた。
「カズ、ヤさ、んの、ア、ルター...?」
傷痕が一際熱くなる。
体内でバラバラに砕け散っていたガングニールの破片の一つ一つが、まるで一ヶ所に集まっていくのを感じる。
もしかして私の体内で手術では除去できなかった破片が、カズヤさんのアルター能力で分解されて、再構成されてる!?
じゃあ、破片は体内で何に再構成されるの?
「あああああああああっ!!!」
「おおおおおおおおおっ!!!」
不思議な胸の熱さに我慢できなくなり叫び出すと同時にカズヤさんの雄叫びが重なった。
遠くにいたカズヤさんと視線が交錯する。
私は自然とカズヤさんと同じように、右拳を顔の高さに掲げる構えを取ると、武骨なグローブと肘付近まで覆っていた装甲が変形を開始する。ガチャガチャと音を立ててパイルバンカーが付属したガントレットへと形を変えた。
すると、視線の先でカズヤさんがニッと笑う。
ただそれだけで彼と心が繋がっているというか、心が一つになっているかのような一体感を得て、堪らなく嬉しくなる。
「輝け」
「...輝け」
不意に聞こえたその声に私は続く。
そして、当たり前のように、私の全身をカズヤさんと同じ黄金の光が包み込む。
「「もっとだ...もっと!」」
今度は同時に声を張り上げる。
光がより強く輝きを増していく。膨大なエネルギーが私とカズヤさんを中心に渦巻いていく。
「「もっと輝けえええええええええ!!!」」
気持ちと熱さと輝きが最高潮に達した瞬間、私とカズヤさんは同時に真っ直ぐ突っ込んだ。
彼の右肩甲骨の回転翼が高速回転しながらエネルギーを噴出して推進力とするように、私の腰部分のスラスターも火を吹いた。
打ち合わせなどしていないのに最初から分かっていたかのように、高速で進む中一瞬でカズヤさんと擦れ違う。
狙うはそれぞれの背後にいたノイズの群れ。
最短で、最速で、真っ直ぐに、一直線に──
そして全身全霊で!
私の...違う! 私達の全てをぶつければいい!!
「「シェルブリット、バァァストッ!!!」」
それぞれの目の前まで迫ったノイズに対して、私とカズヤさんは右の拳でぶん殴った。
「...ノイズの反応、消失。じょ、状況終了...ノイズの殲滅、完了しました」
オペレーターのあおいがなんとか自身の職務を思い出し、静まり返った司令部に報告の声を上げるが聞いているものなど皆無であった。
無理もない。今しがたモニター越しに見た光景に皆が絶句している。
「今のは、一体何だったんだ?」
漸く、弦十郎が我に返ったように疑問符を上げた。
「詳しくは分からないわ。今の現象を説明するには情報が少なくてまともな判断すらできない」
応じる了子も理解の範疇を超えた物事に目を丸くするしかない。
「ただ一つ分かるとすれば、カズヤくんが金色に光り始めたら響ちゃんもそれに同調して、最終的に二人は全く同じように攻撃したから、彼のアルター能力には彼の知らない力が秘められている、ということね」
「それがもし、響くん以外の装者とも同調することが可能となれば──」
「カズヤくんはその単体での戦闘能力のみならず、装者達にとって最強の切り札となり得る。さしずめ、シンフォギアとアルターの融合、ユニゾンアタックといったところかしら」
ごくりと、誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。
「アルター能力...精神感応性物質変換能力。カズヤくんは、一体どんな意思を以て、何を分解し、どんなものを再構成したんだ?」
暴れまくったせいで滅茶苦茶になった周囲を見回して、これの修復作業にどれだけの時間と金がかかるんだろ、一部壊したの俺だけどびた一文も払わねーぞ、と呑気なことを考えながらアルター能力を解除する。
三人娘も既にシンフォギアを解除しているが、一人呆然と自身の手の平を見つめる様子の響を確認したので、その額にデコピンした。
「あたーっ!?」
「何ボーッとしてんだ。終わったんならラーメン食いに行くぞ、ラーメン」
「え...?」
俺のラーメン発言に響だけでなく、奏と翼、車で迎えにきた緒川まで鳩が豆鉄砲食らったような顔をする。
「動いたから腹ペコなんだよ。だから美味い豚骨ラーメンでも食いに行こうぜ、今日はお疲れ様ってことで五人で」
「ちなみにお代は?」
「緒川に決まってんだろ」
「えぇ...」
「経費で落とせやラーメン五人分くらい!」
何か言おうとする緒川を運転席に押し込み、俺は反対の助手席に座りシートベルトを締め、窓を開けて顔を出し、なかなか動こうとしない三人娘に文句を言う。
「早く車乗れ! それともラーメンよりイタリアンの方がいいのか!?」
すると奏がまず盛大に溜め息を吐き、
「さっきの力について色々聞きたいこととか考えることとかあったんだけど、なんかもう今はいっか。カズヤの頭の中ラーメンでいっぱいみたいだし。そんなカズヤ見て気が抜けちまった。ほら行くよ二人共」
諦めたようにそう言って、翼と響の背中を押し、後部座席に座らせる。
半ば強引だが奏グッジョブだ。
「おら飛ばせ緒川、この街で一番こってり濃厚な豚骨ラーメン屋に向かえ!!」
「...了解しました」
黒塗りの高級車はラーメン屋に向けて夜の街を発進した。
たらふくラーメンを食べて幸せな気分で寮に帰ってきた私を、未来が笑顔で迎えてくれた。
「お帰り響。夕飯は...要らないみたいだね。この匂い、豚骨だよね? ラーメンでも食べてきた? 一人で? 違うよね? カズヤさんとだよね?」
と思ったら、すぅーっと目を細めて冷たい雰囲気を纏う未来。
全身の汗腺からぶわっと汗が吹き出し、寒気が走る。ついさっきまでラーメン食べて幸せだった気分が何処かへ行ってしまった。
「ら、ラーメンは、カズヤさんとふ、ふた、二人っきりじゃないよ、奏さんと翼さんと、二人のマネージャーの緒川さんの五人で」
思わず震えた声で言い訳がましいことを口にするが、未来から溢れるプレッシャーは増すばかり。
「へー、みんなで楽しく食べてきたんだ...私は寂しくぼっち飯だったよ」
これはマズイ!
かつてないほどマズイ事態かもしれない!?
未来の全身から黒いオーラが立ち昇っていると錯覚するほど不機嫌でいらっしゃる!
何か、何か言ってなんとかしなければ...!!
しかし現実は非情であり、私は脳ミソを掻き毟りたくなるほど働かせてみても名案が浮かばず──
「...すいませんでした」
結局その場で土下座した。
そのままの態勢で一分ほどいると、未来は溜め息を吐いて告げた。
「もういいよ響、顔上げて」
「許してくれるの?」
「カズヤさんが言ってたでしょ。響のことは俺が拐いにくるから諦めろって。あの人の言葉に納得するのは癪だけど、響はあの人に振り回されてるだけで悪い訳じゃないし、許してあげる」
「ゴメンね未来、本当にゴメンね」
「もういいってば。それよりバイトでどんなことしてるのか話せる範囲で教えて」
やっといつもの──笑顔の未来に戻ってくれたのが嬉しくて、私はその日話せる範囲で教えてあげた。
といっても、奏さんと翼さんがどんな人達なのかがメインで、他のことは喋るとボロが出そうなのであえて避けた。
しかし、私はこの後調子に乗って今日あった出来事の中で一番言ってはいけないことを教えてしまうのだった!!
「響。バイトってなんとかなりそう? カズヤさんが無理に連れ出してる感じがして心配なんだけど」
「カズヤさんってああ見えて結構気遣いできる人だと思うよ...たぶん」
「本当に? なんかガサツでデリカシーなくて強引で、ゴーイングマイウェイな人って印象しかないからなぁ」
「確かにそういう一面あるけど、意外と優しいし──」
一緒に戦った瞬間が脳裏に浮かぶ。
あの時は間違いなく、私とカズヤさんの心は一つになっていた。
思い出すだけで胸が熱くなる。
「それに今日は心を一つにしたからね」
言った。
言ってしまった。
しかも自慢気に。
我に返ってから本当に『しまった!』と思った。
「.......................................は?」
未来の機嫌が一気に急降下する。
「どういうこと?」
ガシッと未来の両手が私の肩を掴まえて放さない。
黒い未来に逆戻りしてしまった!!
「響、まさかとは思うけど、あの男に純潔を捧げたの? シャワー浴びてもあの男の匂いが取れないから、それを誤魔化す為に豚骨ラーメンなんて匂いがキツイもの食べてきたの?」
「ちちち違います! わたわた私とカズヤさんはまだ清い関係で──」
真っ赤になって反論するも、
「"まだ"? "まだ"ならその辺り、詳しく聞かせて」
...これ完全に墓穴掘ったよ。
一時間は達するであろう未来の追及をどうにかこうにか凌ぎ、やっとこさシャワーを浴びようと風呂場に向かう。
今日も色々あって疲れたから、さっと汗を流してすぐに寝よう。
手早く服を脱ぎ捨て裸になって、浴室に入り姿見を見て、違和感を覚えた。
「かさぶた、かな?」
胸元に見覚えのない物体が付着しているので、とりあえず引っ掻いてみると、
「あっ」
ポロリと剥がれ落ちたそれは床に落ちて乾いた音を浴室に響かせた。
屈んで拾い上げたそれを観察してみるが、どういう物質か分析なんてできないし変な石くらいだなくらいしか思わない。
今日の戦闘前から戦闘後までの間に服に紛れ込んだりでもしたのかな?
そう考え、石を一旦何処か適当な場所に置いておこうとして、それに気づく。
「...なんで、消えてる?」
二年前の傷痕。
胸元にガングニールの破片が突き刺さり刻まれたはずのそこには、まるで傷痕など最初からなかったとばかりに消えていた。
一時的とはいえ、ランキング3位に入っててビビった。
皆さん、ありがとうございます!、