カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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ま、待ちましたか?(震え声)


羽ばたく翼とその生き様

二つの金属と金属がぶつかり合い甲高い音が響き、一拍遅れて片方の金属が砕け散る。

砕けたのは奏が手にするガングニールのアームドギア。刃こぼれ一つなく健在なのはファラのソードブレイカー。

 

「言ったはずです、私のソードブレイカーは剣殺し(つるぎごろし)の──」

「うるせぇっ!!」

「がはっ!?」

 

自身が持つ哲学兵装『剣殺し(ソードブレイカー)』について自慢気に語るファラ。しかし言葉を遮るようにその顔面に拳がめり込む。奏はアームドギアを破壊されたことに一切怯まず、むしろそれがどうしたとばかりに気にした様子もなく、穂先が砕けて消滅したガングニールの柄を握ったまま右ストレートを放ったのだ。

吹っ飛び転がりつつも体勢を整えたファラに翼が大剣に変じたアームドギアで袈裟懸けに斬りかかる。

 

「はああああ!」

 

咄嗟にファラは剣を盾とした。

インパクトの刹那、火花が散る。

次いでやはり剣殺し(ソードブレイカー)の能力によりアームドギアが砕かれるが、

 

「ふん!」

 

気合いの声と共にファラの鳩尾に翼の踵──喧嘩キックが綺麗に入り、人形はもんどり打って倒れた。

 

「確かにお前の武器は厄介だよ。相性で見たら斬撃系アームドギアのアタシと翼じゃまともにやってちゃ勝負にならない」

「だが、貴様は一つ思い違いをしている」

 

アームドギアを改めて顕現し直してから奏と翼は油断なく構えた。

 

「相性が良いとか悪いとか」

「その程度のことで私達に勝った気になって」

「「見下してんじゃねぇぇ!!」」

 

かつてカズヤが未来に放った言葉を、そっくりそのまま雄叫びのように口にしながら二人は前へと踏み込んだ。

 

「......ロンドンでの印象のせいで、どうやら少し侮っていたようですわ」

 

アームドギアが破壊されることに全く動揺しない、むしろアームドギアが破壊されることを前提にしたステゴロの戦い方に、ファラは僅かに眉を不快そうに歪め、左右から挟み込むような攻撃に二刀流で迎え撃つ。

槍と刀をソードブレイカーで受け止め、粉砕した瞬間、

 

「食らえ!」

「せい!」

 

奏のローキックが右の脛を、翼のハイキックが後頭部を叩く。

更なる追撃として奏の左ストレート、翼の右の掌底を順に左右から一発ずつ顔をもらってから、タイミングを合わせた二人の後ろ回し蹴りが同時に腹部へ入る。

 

(これはなかなか、厄介です)

 

二対一という数的不利に加え、アームドギアを破壊したその一瞬後には拳や蹴りが飛んでくる。おまけに武器持ちから徒手空拳への切り替えが異様に早い。

バックステップを踏んで距離を取ってファラを質問は飛ばす。

 

「......随分と素手での戦いが板についてますが、特訓でもしていたのかしら?」

「私達の仲間には徒手空拳で戦う者がいる。彼らを間近に見て、共に訓練していれば嫌でも慣れる」

「"シェルブリットのカズヤ"と立花響......」

「模擬戦やってて懐に入り込まれたらアームドギアなんか捨てて戦った方が良いんだよ」

 

応答する翼に奏が補足した。

更に付け加えるなら、ファラが挙げた二名の上位互換と言っても過言ではない弦十郎という存在がS.O.N.Gにはいるのだ。ギアを纏った装者どころか完全聖遺物すら凌駕し、アルター能力者をも圧倒してしまう戦闘能力の持ち主が、近接戦闘の訓練について口出ししない訳がない。

間合いを離したまま互いに睨み合うファラと装者二人。

 

「......」

「......」

「......ふ」

 

数秒の沈黙の後、やや呆れたようにファラが苦笑。

 

「悪くはない戦法ですが、良くもないのはお気づきで? 痛くも痒くもないですわ、お二人の拳や蹴りは」

「さっき『がはっ!?』って言ってただろ」

 

半眼になって指摘する奏をファラは当然の如く無視した。

 

「殴るのならもっと強く、もっと血の滾った拳でお願いいたします。シェルブリットのような、殴られた瞬間全身が燃えてしまうような熱い拳を」

「へぇ、敵の癖に分かってんじゃん」

「カズヤの拳の味が分かるとは、なかなかできるな」

 

意味不明なことに意気投合する一体と二人のやり取りに、八絋は困惑しながら緒川に問う。

 

「何を言っているんだ翼達は?」

「気にしたら負けです」

「慎次......」

「負けです」

「そ、そうか」

 

有無を言わせない強い語調で言い切る緒川の対応に、これ以上深く突っ込むのは無理だと察して八絋は額に汗を流しつつ頷く。

 

「ならばテンポを上げましょう。お二人はついてこられるかしら!?」

 

全身から迸っていた"向こう側"の力が輝きを増し、自身の周囲に翠色の魔力を孕んだ風が吹き荒れ、やがてそれはいくつもの竜巻へと変わる。どうやらファラが本気を出したようだ。

 

「舐めんな......!」

 

槍の穂先を高速回転させ、竜巻を生みながら奏が突撃。

ファラの風と奏の風がぶつかり合う。

爆音と共に互いを食らい合う力と力の衝突は、拮抗していたように見えたのは一瞬だけだった。

 

「舐めているのはそちらの方では?」

「っ!」

 

突然巨大化し威力が急激に上昇したファラの竜巻が、一方的に奏のそれを押し潰し、更には彼女を巻き込んで吹き飛ばす。

悲鳴すら上げられず母屋の壁をぶち破って姿が見えなくなる奏。

 

「奏っ!!」

「仲間思いなのはとても美しいですが、あなたはあなたで他人の心配をし過ぎです」

 

続いてフラメンコを踊るような動作で踵を打ち付けカカッと鳴らせば、それを合図に地面からアルカ・ノイズが三体出現し、要石に取り付いた。

 

「アルカ・ノイズ!?」

 

恐らく襲撃前に敷地外から土中を潜行させ、要石付近で待機させていたようだ。アルカ・ノイズの分解能力ならその程度は容易いだろう。海に行った時にカズヤや未来がアルターの分解能力で穴を掘っていた光景が、翼の脳裏に過る。

 

「隙だらけよ、(つるぎ)ちゃん」

「なっ!」

 

"向こう側"の力で身体能力が強化されたファラの踏み込みは既に縮地の域を超えており、指摘の通り隙を晒していた翼は不十分な構えで剣殺し(ソードブレイカー)を刀で受け止めることしかできない。

そして、当たり前であるが翼の刀は打ち砕かれ、袈裟懸けに斬り裂かれた。

 

「翼!!」

「翼さん!!」

 

八絋と緒川の悲痛な声が戦場となった風鳴家の広い庭園に虚しく響く。

同時に、翼の刀とギアの装甲が粉々に砕かれて飛散し、要石がアルカ・ノイズによって分解され赤い塵と化して爆散した。

 

「てんめぇ......!!」

 

母屋から這い出てきた奏が苦痛と怒りに顔を歪めながらファラを睨むが、ファラは冷笑しながらうつ伏せに倒れた翼の後頭部を右足で踏みつけた。

 

「ぐあっ!」

(ぬる)いんですよ。何故シェルブリットのように私を見た瞬間に最大出力で攻撃して来ないのですか? イグナイトはもう使いこなせるのでしょう? それとも私には使うまでもないと? だとしたら舐め過ぎにも程があります。"向こう側"の力がどれ程強力か忘れた訳ではないでしょう、に!!」

 

言葉の最後にファラは翼の頭を踏みつけていた足で、サッカーボールを蹴るようにキック。

蹴り飛ばされた翼が放物線を描いて八絋と緒川の前に転がる。

 

「この野郎!!」

「だから、イグナイトを使えと言ってるんですよ」

 

頭に血が昇った奏が考えなしに斬りかかり、容易く防がれ槍を砕かれて、逆に払い斬りという手痛い反撃を受けて膝を突く。

 

「がっ...」

「どうしましたシンフォギア? 愛しい男が見てくれていないと、この程度なのですか!」

 

ついでとばかりに奏も翼同様、蹴り飛ばされて母屋の壁に叩きつけられそのままめり込む。

痛む体に鞭打って立ち上がろうとしていた翼は、四つん這いの体勢でその光景を目にし歯を食い縛る。

そのすぐそばで、そんな彼女の名を八絋が静かに呼んだ。

 

「...翼...」

「申し訳、ありません。この身は剣と鍛えてきたにも関わらず、このような醜態を......要石も満足に守れず──」

「先程カズヤくんが言っていた件だがな」

「え?」

 

謝罪を遮るように、唐突に話を切り出す八絋の顔を呆けた顔で翼は見上げた。

 

「まず最初にお前に話すべきことでありながら、これまでカズヤくんにしか話していないことだ」

「何を、突然」

「お前に『翼』という自由を意味する名を、風鳴家の因習から外れた名を付けた理由は、風鳴家の呪縛にお前が囚われないようにする為だ」

「!!」

 

大きく目を見開く翼に視線を合わせるように、八絋は服が汚れるのを厭わず膝を突き、両手を彼女の両肩に載せる。

 

「これまで散々カズヤくんから早く伝えろと急かされて、娘の窮地というこの土壇場で漸く動き出すとは......私は自分で思っていた以上に意気地無しだったようだ。だが、私は覚悟を決めたぞ......!!」

 

自嘲するように笑うと彼は立ち上がり、鼓舞するように叫んだ。

 

「立て翼! 俯かずに前を見ろ! お前は(つるぎ)でもなければ、ましてや風鳴の道具でもない!! お前は『翼』! 空を自由に羽ばたき、未来と夢をその手で掴み取る『翼』だ! この世界の何処にも、お前を縛る鎖など無ければ閉じ込める籠も存在しない! お前の目の前にあるのは、お前が選んだお前の道だけだ!!」

 

そこまで言い切った後、八絋は目を逸らしてから恥ずかしそうに小さな声で「まさかこの年でカズヤくんの影響を受けるとは、私もまだまだ若かったか......」と漏らす。

 

「お、お父様」

 

告げられた内容に心が震えた。ドクンッと胸が高鳴り、熱くなる。

万感の想いが込められた言葉を聞いて、傷ついていた体に力が漲っていく。

 

(奏の言っていたことは本当だった。お父様は、私を風鳴家から遠ざけようとしていただけ)

 

思わず嬉し涙が零れそうになるのを必死に堪え、四肢を動かし立ち上がった。

たとえ実の娘でないとしても、娘として扱ってくれていたことを漸く自覚できたのだ。

これで立ち上がれなければ、『風鳴翼』を名乗る資格などない。

 

「行けるか? 翼」

「行けます! お父様!」

 

問いに即答すれば、八絋は大きく満足気に頷く。

 

「ならば行け、お前の道を。そしてその生き様を私に見せてみろ」

「はい!!」

 

しっかりと頷き返し、相棒の名を呼んだ。

 

「奏!!」

「お父さんの言う通りだよ、翼。アタシ達はツヴァイウィング」

 

壁にめり込んでいた奏がそこから抜け出ると、胸元に手を伸ばす。

同時に翼も胸元へと手を伸ばし、ギアペンダントを掴む。

 

 

──私は風鳴翼であり、ツヴァイウィング。

 

 

「アタシと翼、両翼が揃ったツヴァイウィングは!!」

「何処までも遠くへ飛んでいけるっ!!!」

 

 

──恐れるものなど、何も無い!!

 

 

「イグナイトモジュール!」

「抜剣!」

 

二人同時にペンダントのスイッチを押し空中へと放り投げれば、それは光の剣を形成し、そのまま二人の胸の中心に突き刺さる。

シンフォギアが呪いの力を纏い、その姿を漆黒へと変えた。

 

 

──だから聴いてください、私達の歌を!!

 

 

シェルブリットォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

次いで翼は左の拳を、奏は右の拳を、二人はそれぞれ強く握り締めて高く掲げる。

黒く輝く光の塊が二人の腕を覆い、エネルギーが固着されてシェルブリットの形と成す。

 

 

──そしてありがとう、カズヤ。

 

 

左腕と右腕──対となった二つの黒いシェルブリットは、全く同じ動作で手首の拘束具が外れ、装甲のスリットが開いて手の甲に穴が開き、台風のように莫大な力を渦巻かせる。

 

 

 

 

 

【羽ばたく翼とその生き様】

 

 

 

 

 

サンと名乗った女に連れられて到着したのは、繁華街から少し外れた住宅街。その中にあるそこそこの広さを持つ公園だった。幼児向けの遊具や砂場、ボール遊びやかけっこなどが可能な広さがあるだけの、何の変哲もないただの公園。

夜の帳が降りたこと、加えて公園内の電灯は故障しているらしく点いていないものや、点いていても古くて光量が弱く、そのせいで薄暗い。故に人気はない。

 

「ここだ」

 

そう言って公園の中心に立ち止まるサンの前には、闇の中で翠色に淡く輝く錬成陣。

微かにファラと相対した際に感じた気配、及び力の波動をカズヤは覚える。間違いなくあの人形の手によるものと確信し、拳を握り直す。

 

「よし、こいつをぶっ壊せばいいんだな」

「ああ」

 

確認すれば相槌が返ってくるので、早速カズヤは大きく振りかぶってから拳を地面に描かれた錬成陣に振り下ろす。

が。

 

「何っ!?」

 

キィィィィン! という高い音は、錬成陣の前に張られた防御壁がカズヤの拳を受け止めた音だ。

 

「結界? 召喚陣を守ってんのかよ」

「そのようだ」

 

しかもカズヤのシェルブリット第二形態の拳を受けて何事もなく存在を保持しているのなら、それは相当な魔力が込められている。

 

「シェルブリットバーストを使え。それなら問題なく結界ごと召喚陣を粉砕できる」

「......わーった」

 

サンの促しに対して異論はないのだが、何故か期待を込められたキラキラとした視線の理由が分からない。

 

(ま、いっか)

 

時間もないので深くは考えず、サンに左手でこの場を離れるように合図してから、拳を顔の高さまで掲げて叫ぶ。

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

右手首の拘束具が独りでに外れ、手の甲から肘まで伸びる装甲のスリットが展開し、それにより開いた手の甲の穴に光が収束していく。

 

「輝け」

 

"向こう側"の力を引き出す。右腕全体が輝き、目映い虹色の光が腕全体から放たれ、すぐにそれは全身から放たれるようになる。

 

「もっとだ!」

「もっと!!」

 

やがて虹色の光は金の光へと変わり、右肩甲骨部分の回転翼が高速回転を開始。ふわりと足が地を離れ体が浮く。

この時、あれ? とカズヤは思う。なんでサンも一緒に叫んでんの? と。しかも声の張りとテンションが自分より彼女の方が高くね? 気のせい?

 

「「もっと輝けええええええええええ!!」」

 

二人の雄叫びが綺麗にハモる。

勢い良く空高く飛翔し、眼下に広がる住宅街を見下ろしつつ、自由落下に合わせて回転翼の軸から銀色のエネルギーが噴出。とてつもない速度で急降下を敢行。

 

「シェルブリットバースト......!!」

 

心の中で一言、この公園を利用している近所の人々に謝りつつ右腕を振りかぶり、

 

「どぅおおおおおおおおおおおりゃっ!!!」

 

召喚陣が描かれた公園の中心の地面、及びそれを守る結界を思いっ切り殴り付けた。

 

 

 

眼前で金に輝く光の柱が天を貫く。

 

(素晴らしい!)

 

サンジェルマンは目の前で太陽が爆発したかのような光に眩しそうに目を細め、内包された凄まじいエネルギーに恍惚とした表情になる。

 

(この力があれば、我らの革命は......!!)

 

確信する。やはりカズヤの力は、神の力に匹敵すると。

 

「これでアルカ・ノイズはもう沸いてこねーな!」

 

光の柱が消え去り今しがた空けた大穴の上でホバリングしている彼の声に反応し、サンジェルマンは仲間に確認を取る為ケータイを操作。

 

「こちらは召喚陣は破壊した。そちらはどうだ?」

 

数秒後、カリオストロの声が電話越しに返ってくる。

 

『ダメみた~い! でも新しく召喚されるアルカ・ノイズの数が今までよりちょっと減ったわ。これきっと複数の術式使って展開してる可能性があるわよ』

「分かった。では継続して召喚陣を捜索して叩く。そちらはもう暫く任せる」

『はいは~い』

 

通話を切れば、こちらに飛びながら近寄ってきたカズヤがまるで巣を守ろうとする蜂のようにブーン、ブーンとサンジェルマンの周囲を旋回しながら聞いてきた。

 

「何だって?」

「まだ終わっていない。どうやら召喚陣は複数あるらしい」

「ちっ」

 

忌々しそうに舌打ちする彼を横目に手を前に翳し、錬成陣を展開して召喚陣の気配を探る。

サンジェルマンの目の前に広がる錬成陣には、簡易的な街の地図が表示され、地図中央の現在地からソナーのように波紋を打ち、一定間隔で繰り返し輪が広がっていく。

 

「それにしても錬金術ってスゲーな。それで気配を辿ってんだろ?」

 

周囲を旋回するのをやめて、サンジェルマンの背後にホバリング状態となったカズヤが彼女の肩越しに錬成陣を覗き込む。

 

「ああ。錬金術を行使する際に発生する特殊な波長パターンやエネルギーなどを探り、場所を特定する」

「魚群探知機とかソナーみてーだな」

「イメージとしてはそれが近い」

「......俺一人だったらどうしようもなかったぞこれ」

 

突っ込んで殴ることしかできねーからな、と唸っている彼の様子に苦笑しつつ、サンジェルマンは本格的に意識を集中した。

ついさっき破壊したものを発見した時よりも深く探ること十秒経過。

 

「よし」

「おっ!」

 

捉えたものが地図に光点として表示される。その数、五つ。

 

「多いな!」

「やはり陣の数は今のを含めて計六つ。六つの陣が六芒星を描きその中心に効果を発揮する典型的な転移の術式ね。厄介なのは複数の同じ陣を同時に展開、運用、重ね掛けをしている為、全てを破壊しないと効果が完全に失われないこと」

 

先程カリオストロが召喚されるアルカ・ノイズの数が減ったという発言から、まず読み通りで間違いないだろう。

顎に手を当てて一人言を呟くようにしながら解説するサンジェルマンの肩に、カズヤの左手が載る。

 

「錬金術のお勉強は今はいい。場所が特定できたんなら飛ぶぜ!」

「え? きゃっ!?」

 

自分の口から年端のいかない乙女のような可愛らしい悲鳴が漏れた事実を、サンジェルマンは信じられなかった。

言うが早いかカズヤは何の断りもなくサンジェルマンを横抱きにしていたのだ。左手はそのまま彼女の左肩を掴み、右腕は両足の膝裏に潜らせ、お姫様抱っこで空高く舞い上がる。

 

「ちょっと──」

「ワリーけどこっちは急いでんだよ、だから文句は聞かねぇ! あと口閉じてろ、舌噛むぞ!!」

 

突然の密着状態に戸惑う間もなく、猛スピードで飛行が開始された。

咄嗟に彼の襟首にしがみつく。

体を襲う常軌を逸した加速と重圧。高速で流れる風景。肌に叩きつけられる暴風という表現が生温いと言わざるを得ない風。

まるで肉体が弾丸になったかのような錯覚に陥る。

それはまさに"シェルブリット"。二つ名に恥じない、生身で弾丸になるという非常に珍しい非常識な体験。

 

「ぐぼぉ......」

 

そして、思わず口から零れた汚い呻き声──まるでトラックに轢き潰されたガマガエルの断末魔みたいな声が自分の口から出たことに、サンジェルマンは信じられなかった。

 

 

 

サンジェルマンを抱えて飛行中のカズヤの右目は、ここ最近ですっかり馴染みとなった感覚に刺激され、血涙が流れ始める。

 

(翼と奏がイグナイト使ったか......しかもほぼ同じタイミングでクリス達までギア纏ってるな)

 

誰がどんな状況なのか──厳密には誰のギアがどのような稼働状況なのか──なんとなくだが分かる。アルター化したことで右目の瞳は金色になってから二度と戻らないが、その代わり装者達のことを感じ取れるのはありがたかった。

 

(今のあいつらなら俺が手を貸さなくても問題ねぇ! だからこっちはこっちで目の前のことに集中だ!!)

 

仲間を信じてカズヤは更に速度を上げる。右肩甲骨の回転翼の回転数が増し、軸部分から噴出する銀色のエネルギーも更に大きくなっていく。

 

「ぶきゅ」

 

それに伴い、腕の中で低反発枕を勢いよく叩き潰した時のような声が聞こえてきたが、錬金術師だしまあ平気だろと無視した。

 

 

 

 

 

「待ち焦がれていました」

 

人形でいながら人間のように口角を上げてほくそ笑むファラを前に、翼と奏は手にしたアームドギアを強く握り締めて構え直す。

すると、それぞれの黒い刀身が炎に包まれた。

翼の刀は快晴時の透き通った空を連想させる蒼の炎。

奏の槍は翼と対となるような、彼女の激情を表すかのような紅蓮の炎。

二人の装者は歌う。

歌が響き奏でられるのに呼応して、刀身の炎はより激しさを増し、燃え盛ることで周囲一帯を明るくしていく。

 

「ふふっ」

 

先に動いたのはファラだ。笑みを零しつつ一歩大きく踏み込み、体を横に一回転させつつ二刀の剣を横薙ぎに振り払う。それにより発生したいくつもの鎌鼬が地面を抉りながら、空間を斬り裂きながら二人の装者を両断せんと襲いかかる。

威力も速度も先とは段違いであるそれに対し、奏と翼は炎を纏った己のアームドギアを高く掲げるように構えてから、同時に振り下ろす。

二つの刃から繰り出されるは、炎の斬撃。さながら巨大な毒蛇が獲物に食らいつくが如く、地を這い焦がし進む二つの炎がファラの鎌鼬と正面衝突。

すぐそばで落雷が発生したかのような轟音の後、鎌鼬は瞬く間に二匹の炎蛇に食らい尽くされ、掻き消えた。

自身に迫る炎を跳躍して難なく躱し、要石があった場所──赤い塵の山の上に着地した人形は特に驚いた様子も見せずに歓喜の声を上げる。

 

「そうです。そうでなくては面白くありません!!」

 

爆足で踏み込み剣を振りかざす。狙いは翼だ。

 

「疾っ!」

 

臆することなく応じた彼女は、ファラに劣らぬ速度で踏み込みアームドギアを逆袈裟に振るう。

翼とファラが交差するその刹那、甲高い音と共に剣殺し(ソードブレイカー)が真っ二つに折られて宙を舞い、折れた切っ先が地面に突き刺さった。

 

「......え?」

 

あまりにもあっさりと武器が破壊され、何が起きたのか分からないファラが思わず背後を振り返り翼の背中を注視すれば、

 

「お前も隙だらけだよ。ま、誰だって武器を壊されりゃそういう反応だろうけど、なぁっ!!」

 

正面から奏が槍をバットのように振り回していた。

慌ててもう片方の折れていない剣殺し(ソードブレイカー)で受け止めようとするが、翼の時と同じように容易くへし折られ、防ぎ切れずに吹き飛ばされる。

奏の一撃により火達磨になりながら地面を二回バウンドし、三回目で池に落ちて漸く止まる。

 

「馬鹿な、何故!? あり得ない!! 剣殺し(ソードブレイカー)が何故こうも一方的、に......」

 

池のお陰で火達磨からずぶ濡れになり、喚くファラの言葉が尻すぼみになった。ならざるを得なかった。

人形はその目でしかと見たのだ。二人の装者が手にするアームドギアが、刀身が目映い炎に包まれることで()()()()()()()をしていることに。

燃え盛る炎の翼。まるで不死鳥の片翼をそれぞれ武器としている様に、ファラは臍を噛む。確かにこれでは哲学兵装としての剣殺し(ソードブレイカー)が効かないのも納得だ。

あれは剣や槍といった刃の類いではなく、まさしく翼なのだから。

 

「言ったろ。アタシ達はツヴァイウィング」

「自由に空を駆け、夢を羽ばたく者の名だ」

 

誇るように言い放つ二人の腕、奏の右腕と翼の左腕──二つのシェルブリットが黒く光輝き、それが直ぐ様全身を覆い、膨大なエネルギーを放出する。

続いて刀身の炎がこれまで以上に激しく、より強く、より大きく燃え上がった。

 

「これで終わりにしてやるからしっかり刻んでおきな!」

「両翼揃った私達の、渾身の一撃を!」

 

宣言し、同時にファラ目掛けて飛び込む。

掲げられたアームドギアから迸る巨大な蒼い炎の翼と紅蓮の炎の翼。一対の翼が夜空を眩しく照らすそれは、不死鳥が翼を大きく広げて今まさに飛び立つ瞬間を連想させるほどに幻想的な光景。

 

 

 

シェルブリットォォォォ──

 

 

 

そしてファラは、折れた剣殺し(ソードブレイカー)を放り捨て、

 

「アハハハハハ! アハハハハハハハハハ!!」

 

受け入れるように腕を広げ、狂ったように笑い出す。

 

 

 

──バァァストォォォォッ!!!

 

 

 

次の瞬間、振り下ろされた一対の炎の翼が内包していた力を爆裂させ、巨大な一羽の不死鳥が飛び立つかのような火柱が天を焦がし、周囲一帯を蒼と紅蓮に彩った。

 

 

 

 

 

「ん? 何だあれ?」

「人?」

「こ、こっちに来るぞ!」

「先生! 空から人が!!」

「はあ? 何を言って......ファァァァァァァァァ!!??」

「......え、嘘、何?」

「あれって、もしかして」

「"シェルブリットのカズヤ"じゃない?」

「嘘嘘! マジ!? ヤバいヤバい!!」

 

 

白目を剥いて息も絶え絶えなサンジェルマンを抱えたカズヤが降り立ったのは、夜の帳が下りても部活動に励む水泳部員が泳ぐ高校のプールである。プールの水面が照明の光を反射する中で、熱心な生徒達が一所懸命に泳いでいたのをやめて、カズヤに注目した。

プールサイドに着地後、近くにあったベンチに抱えていたサンジェルマンをこれ幸いと優しく下ろす。

カズヤはヒィヒィゼェゼェ言っている彼女をそのままに、事態についていけず固まっている顧問の先生にツカツカ歩み寄るとメガホンを乱暴に奪い取り、プール内の生徒達に告げた。

 

「諸事情により説明は省くが、今からこのプールを破壊する! 死にたくない奴はとっとと失せろ!!」

 

いきなりこれである。ただでさえカズヤという世界を救った英雄、超が付く有名人の出現(しかも空から飛んできた)に訳が分からないのに、プールを破壊するとか言われても、突然過ぎて誰も動けないのは至極当然だった。

......だったが、彼らに気を遣ってあげられるほど現在のカズヤに余裕がある訳でもないので、当たり前のように実力行使という脅しに出る。

 

「早くしろ!! こうなりたくなかったらなぁ!!」

 

そばにあるスタート台をぶん殴り、粉々に粉砕。

破片がボチャボチャと水音を立ててから数秒後、カズヤから放たれる不穏な雰囲気を肌で感じ、パニック状態に陥った生徒達と教師が蜘蛛の子散らすように逃げ惑う。プールから慌てて這い出て、転びそうになりながらも出口に向かって走っていく。

 

「サン!」

「......分かって、いる」

 

促されたというより急かされたサンジェルマンが手を前に翳し、錬成陣を展開。ほどなくして、プール内の中心、底部分に翠色の錬成陣──アルカ・ノイズの召喚陣が現れる。

 

「よし、これでラストだ」

 

それから間もなくして、金色の閃光を伴う大爆発が発生しプールは粉微塵に吹っ飛ばされた。

 

 

 

(奏と翼の方は、もう終わったみてーだな。やっぱ心配するだけ無駄だったか)

 

アルカ・ノイズが無限に湧き出ていた繁華街に向かって飛行しながら、カズヤは安堵の溜め息を吐く。

それから腕の中で指一本動かさない女性を一瞥。最後の召喚陣を破壊したら気が抜けたのか意識を失ってしまったので、こうして友人二人の元へ送り届けている最中だ。

それにしてもと思う。今回ばかりは自分一人の力ではどうにもならなかった。

 

(まあ、事態収拾の為に公共の場を破壊しまくったが......これも全部あのクソガキとクソ人形共のせいだ!)

 

クソがっ! と心の中で毒づいた。

致し方ないとはいえ、公園から始まり、図書館の駐車場、駅前のバスターミナル、小学校のグラウンド、小さな雑居ビル、最後に高校のプールと合計六ヶ所もシェルブリットバーストでぶっ飛ばしてしまったのだ。

場所によっては当然目撃されまくったし、時間がないので偶々居合わせた人々にろくな説明もできないまま、無理矢理退避させてから施設や建物、その周囲を纏めて破壊したものがあった。

勿論、人的被害が出ないよう気を配ったが、その為に力を振るい脅すような形を取った。破壊行為に及ぶカズヤに恐怖を覚えなかった人がいない訳ではない。

 

(うわー、これじゃホーリーの情報操作で危険なアルター能力者として報道されたカズマと同じだな)

 

唯一の救いは、アウトローであるが故に味方らしい味方が身内にしかいないカズマと異なり、国連直轄の組織の人間であるカズヤには権力者などの味方が多いこと。

たが、流石に今回の件について世間がどんな反応を示すか分からない。なので、情報操作なり印象操作なりその辺りは国連やS.O.N.G、政府やそれらの言いなりのマスコミに期待しておこう。

 

「う......あ......」

 

と、その時。腕の中のサンジェルマンが小さく呻く。

 

「............お、お母さん......」

 

意識はまだ戻っていないのでどうやら寝言らしい。

 

「誰がお母さんだ」

 

苦笑して軽い突っ込みを入れる。

 

「......お母、さん」

 

また母を呼ぶ声。きっと母親の夢でも見ているのだ。

穏やかな寝顔なので、このまま寝かせてあげよう。世話になったし、移動(飛行)の際は無理をさせてしまった。状況的にもう急ぐ必要はない為、もっとゆっくり、常識的な速さで飛ぶことに。

 

「だからお母さんじゃねーって」

 

結局、お母さん、ちゃうねん、というこのやり取りは繁華街に到着するまで続いた。

 

 

 

 

 

今の今まで懐かしい温かさに包まれていたのに、それがいつの間にか失われてしまったことに気づいたサンジェルマンは、目が覚めると同時に飛び起きて叫ぶ。

 

「お母さん!!」

 

慌てて母の姿を探すが、視界に映ったのは鳩が豆鉄砲を食らったかのような唖然とした表情でこちらを見てくるカリオストロとプレラーティの二人。

自分が今どんな状況か把握しないまま、要するに寝ボケたまま、更に言い募る。

 

「お母さんは!? お母さんは何処!!」

 

しかも同士である二人にしてみれば意味不明な内容を口走っていた。

時間が止まったかのように動かない、というか動けない二人の態度を目の当たりにして、漸くサンジェルマンの頭が寝ボケた状態からまともな状態へと移行してくる。

まず、これは先程まで見ていた夢──自身が幼い頃に母に抱き締めてもらっていた過去の世界ではない。

場所は見慣れたホテルの一室。日本に滞在するようになってからずっと使い続けているホテルのもの。その部屋のベットの上。

ホテルにいるということは、事態は自分達の手を離れたのだろうと推測。あれから恐らく数時間は経過していると思う。

お母さん......じゃなくて"シェルブリットのカズヤ"は当然ながらいない。

と、ここまで思考してから、カズヤを母と勘違いしていた事実に愕然とし、先の発言を同士の二人に言ってしまったことに戦慄し、死にたくなるほど恥ずかしくなってきて顔を真っ赤にした。

 

「......いや、これは、その、違う、違うんだ......昔の夢を見ただけで」

 

上手く舌が回らないが必死に弁明しようとすれば、カリオストロとプレラーティはそそくさと部屋の隅に移動すると、こちらをチラチラ見ながらヒソヒソ話し始める。

 

「ねぇプレラーティ? もしかしなくても、『お母さん』ってカズヤくんのことよね」

「カリオストロもそう思うワケダな。まあサンジェルマンのことだから何か拗らせて帰ってくるだろうとは想定していたが、まさかあの男のことを母と呼ぶようになって帰ってくるとは想定外にも程があるワケダ」

「一体何があったのかしらねぇ」

「分からん。だがこれについては我々だけの秘密にしておくワケダ」

「そーねー。パヴァリア光明結社の幹部、サンジェルマンともあろう者がまさかマザコン拗らせて"シェルブリットのカズヤ"にバブみを感じてお母さんと呼ぶようになったって知れ渡ったら、ウチを抜けるどころか皆錬金術師辞めちゃうわよ」

「パヴァリアのトップシークレットなワケダ」

「二人共ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

全身をワナワナと震わせて絶叫すれば、振り向いた二人が生温かい視線と妙に優しい笑顔と気遣うような口調で言ってきた。

 

「でもあーし達はそんな痛々しいサンジェルマンであっても今後も変わらずついてくわよ、安心して」

「右に同じワケダ。私達はサンジェルマンがどんなにおかしい方向へ拗らせても見捨てることはないから気にする必要はないワケダ」

「安心できないし気にしない訳ないでしょ!!」

「いいのよサンジェルマン、無理なんてしなくていいし、あーし達はちゃんと受け入れるから」

「そういうワケダ」

「......お願いだから二人共私の話を聞いて......これは誤解だから」

 

頭を抱えて項垂れるそのすぐ近くで、リリリリリリン、と高い音を立てつつアンティークなデザインの電話機が突如顕現される。上司であるアダム・ヴァイスハウプト統制局長からの念話だ。

同士の二人に変な勘違いをされていることに加え、上司としてあまり尊敬できない人物とこれから会話をしなくてはいけないというダブルパンチに、憂鬱な気分の中で力無く受話器を取って耳に当てた。

 

「......局長」

『やってくれたね、君達。派手に動いたじゃないか、随分と』

「は?」

 

いきなりの切り出し方に何のことを言われているのか分からない。しかも、声の主のアダムは苛立っているのを隠そうともしない。訳が分からず首を傾げてしまう。

 

『そうだね、見るといいよニュースを。それで理解するさ、自分達の行いを』

 

アダムはそう言うとガチャ切りしたのか、役目を終えた電話機と受話器が消え失せる。

 

「局長、何だったの?」

「いや、分からない。ただかなり怒っている様子だった。あと、ニュースを見ろと」

「ニュース? どういうワケダ?」

 

疑問を投げてくるカリオストロに首を横に振り、ニュースと聞いて訝しむプレラーティが部屋に備え付けられたテレビを点けて、

 

「「「!!!」」」

 

三人は揃って絶句した。

 

 

 

『本日夕方頃、○○区の繁華街にてノイズが出現しました。避難はすぐに完了したので幸いにも犠牲者は出ていません。またノイズは既に殲滅済みの為、近隣にお住まいの方々はご安心ください。なお、先程ありました国連の緊急記者会見によりますと今回出現したノイズは通常のノイズと異なり、何者かがノイズを模して人工的に作成したノイズであり、アルカ・ノイズと呼ばれる兵器ということが正式に発表されました』

 

『更に、アルカ・ノイズの出現と同時刻に"シェルブリットのカズヤ"が街で破壊行為をしていたことについても説明がありました。こちらにつきましては、記者会見に加えて彼の活動記録が動画で公開されています』

 

『英雄が突然取った謎の破壊行為、その理由と彼の真意とは? 全世界で初公開となる彼の視点、彼が見ている世界をご覧いただきましょう』

 

 

 

アナウンサーやらリポーターやらコメンテーターやらがコメントを終えると、今回の戦いにおけるカズヤの視点と思われる動画が映し出された。

完全なる一人称視点の映像であるそれは、VRゲームやFPSゲームをやる人達にとっては馴染み深い感覚を覚えるものであっただろう。

高い場所──空から街を見下ろす視点から始まり、猛スピードで繁華街に降り立つと、アルカ・ノイズが映った瞬間虹の粒子となって消え失せる。

こんなものをいつの間に撮っていたのか、とサンジェルマンが思ったところで一つの回答が浮上する。それは彼が戦う際に必ず左耳に装着していたインカムだ。あれは通信機であると同時に記録用のカメラも兼ねていたのだ、と。

映像内のアルカ・ノイズは、殲滅しても十秒経たない内に再召喚されてしまう。なので再度虹の粒子と化して消滅させる。だがまた召喚される、そんなイタチゴッコを何度も繰り返していると、やがて何処からともなく光の弾の群れが飛んできてアルカ・ノイズの群れを赤い塵へと帰す。

振り向いたそこには、プライバシーの保護の為顔にモザイクをかけられた自分達の姿が。いくら顔にモザイクをかけられ、声も加工されているとはいえ、パヴァリアの錬金術師や関係者からは誰が誰かなど一目瞭然だ。

 

「あーし達顔以外ガッツリ映ってるじゃない!!」

「これは局長じゃなくてもキレるワケダ。姿どころか秘匿するべき錬金術も全世界に配信されたワケダしな」

「......」

 

テレビに齧りつくカリオストロ、乾いた笑いを浮かべるプレラーティ、最早言葉が出てこないサンジェルマン。

三者三様のリアクションをしている間も映像は止まらない。三人と会話したカズヤは、アルカ・ノイズの召喚を阻止すべくモザイクがかかったサンジェルマンの後についていく。

と、ここで画面が二つに分割された。左半分はカズヤ視点のままだが、残り右半分は繁華街の防犯カメラの映像らしく、顔にモザイクをかけられたカリオストロとプレラーティがアルカ・ノイズと戦う様子が映し出される。

 

「やめてえぇぇぇ!! あーし達アルカ・ノイズにこれでもかってくらいに錬金術使ったのぉぉぉぉぉ!!!」

 

ハートの形をしたエネルギー弾を投げキッスの動作で飛ばしてアルカ・ノイズを殲滅する己の姿を見てカリオストロはムンクの叫びみたいになる。

 

「戦う自分を客観的に見る良い機会なワケダ」

 

抱いていたカエルのぬいぐるみを頭上に掲げる動きに合わせて、自身の周囲に生み出した氷の柱をアルカ・ノイズにぶつける己の様子に、プレラーティは震えた声で強がった。

 

「.........」

 

そしてさっきから黙り込んだまま顔を青くするサンジェルマン。

三人にとって地獄のような時間は続く。

サンジェルマンに連れられたカズヤはまず公園を破壊、近隣住民の憩いの場に底が見えないほどバカみたいに大きな穴を空けたその後、すぐに彼女を抱えて図書館の駐車場に移動。

なお、画面右半分の繁華街では召喚されるアルカ・ノイズの数が少し減った。

二番目の図書館に到着。閉館時間が近い為、駐車場の車は少ない。サンジェルマンが錬金術を行使して召喚陣を出現させると、カズヤはその付近に駐車された車三台を右腕のみで掴み一台ずつ乱暴に投げ飛ばす。放物線を描いた三台の車はくるくる回転しながら駐車場の出入口前に、奇跡的に綺麗に三列に並ぶようにタイヤから着地。そして召喚陣に即シェルブリットバースト。もう二度と駐車場としては利用できないくらいに巨大な大穴を空けたら次へ。

三番目の場所は人がごった返す駅前のバスターミナル。バス停留所にて、たまたまタイミング良く(悪く)客を全員降ろした一台のバスにカズヤは躊躇なく乗り込む。まるで本物のバスジャック犯のように手慣れた様子でバス運転手の襟首を掴んで無理矢理車外に引き摺り降ろしてから、バスの横っ腹をぶん殴る。非常に大きな音を立てつつ横に二回転半を決めて引っ繰り返ったバスは、一拍置いて金色の閃光を放ち爆発炎上。それを目撃し周囲の人々が我先にと逃げ出す光景に、

 

『ハハッ、やっぱ邪魔な一般人を避難させるにゃ何かを爆発させるに限るぜ』

 

皮肉げでありながら、はかとなく楽しそうな声音でカズヤが笑う。

次いで、人がいなくなったバスターミナルの中央でお約束のシェルブリットバースト。庶民の足であるバス複数台を巻き込みバスターミナルが綺麗に消し飛ぶ。

 

『ヨシッ!! 次行くぜ次ぃぃ!!』

『ぐえあ』

 

カズヤがサンジェルマンを抱えて飛び立つと、プライバシー保護の為音声が加工された──ヘリウムガスを吸って喋った時のような声の悲鳴が妙に響いた。

 

「動きに全く迷いがない。英雄というよりまるで本物のテロリストにしか見えないワケダが」

「手際いい~。S.O.N.Gで破壊工作の訓練でもしてるのかしら?」

 

もう呆れるやら感心するやら。プレラーティとカリオストロは純粋な感想を漏らす。

四番目は小学校のグラウンド。人がいないし広い場所なので、サンジェルマンに召喚陣を露出させたらすぐにシェルブリットバースト。生徒達にとっては授業の場であり遊び場であるそこにこれまた巨大な穴が空く。

 

『次だ!』

『グフ』

 

五番目はいくつもの企業の事務所が入居している雑居ビル。カズヤは建物の前に降り立つとサンジェルマンを降ろし、建物に突撃してエレベーター付近にある火災報知器を一切迷うことなく押す。

 

『火事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

ジリリリリリリリリリ!! という警報音をBGMに、何度も叫びながら各階を走り回り各部屋のドアを殴り破って避難を促す。彼の切羽詰まった様子に火事が嘘であることを疑わず、当然のように慌てて逃げ出すサラリーマンやOL達。

雑居ビルに誰も残っていないことを確認し、パッと見気分が悪そうでなんだか動きが鈍いサンジェルマンを引っ張り回して屋上に上がり、屋上の床にて召喚陣を見つけ、早速とかばりにシェルブリットバースト。目映い金の光の柱が発生し、多くの人々にとっての職場は跡形も残らず消え去った。

最後は高校のプール。やはり戸惑う人達に対してお構いなし、一方的に失せろと告げてスタート台をぶん殴る。暫し待ってから逃げ残った人がいないか確認しシェルブリットバーストだ。派手な花火となって青春の一ページを過ごす場所が消滅する。

錬成陣を全て破壊したことで、画面右半分の繁華街ではアルカ・ノイズの召喚が止む。それにより画面二分割が終わった。

これで動画も終わりか、と安心したのも束の間。手を貸してくれたサンジェルマンを仲間の元に届けるまで続くらしく、気を失った彼女がカズヤの腕の中でお母さん、お母さんと寝言を繰り返し、それに彼が違うっつーのと返答する映像が何故かノーカットで垂れ流されている。

それはサンジェルマンにとってはまさに拷問に等しい所業であった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「ぶほ、ぶは、ぶはははは!!」

「くひ、くく、くひひ、くはははは......!!」

 

ついに我慢できなくなり頭を抱えたまま天を仰いで絶叫するサンジェルマン、彼女の拗らせ具合に堪え切れずカリオストロとプレラーティは必死に腹を抱えてのた打ち回る。

やがてサンジェルマンが二人の元に届けられたことで映像は終わり、アナウンサーやコメンテーター共が『こういう事情があったんですね』やら『やむを得ずの破壊行為でしたが、人的被害は出ないように細心の注意が払われていたようです』やら『今回のことについては国連や政府が補償するとのことです』と宣っているが既にどうでもよかった。

サンジェルマンの絶叫と二人の爆笑は、暫くの間続いた。

 

 

 

 

 

なお、今回の騒動における世間の反応は、カズヤに対して概ね肯定的だった。

最初は理由が不明な破壊行為に疑念や戸惑いが多かったし、英雄がテロリストに身を堕としたと喚く連中も少なからずいた。

しかし、国連の緊急記者会見と同時に全世界へ同時配信された動画を見て、カズヤを批判していた者達はあっさりと掌をギガドリルブレイク。

破壊行為がアルカ・ノイズの無限沸きを阻止する為のものであり、物損は酷いが人的被害は皆無。その物損も政府や国連が補償してくれるという内容。

結果良ければ全て良し。

そもそも古来よりノイズという人類の天敵である特異災害──遭遇すれば死を意味する恐怖の具現に悩まされてきたこの世界の人類は、ノイズにとっての天敵であるカズヤの行動をあまり非難する気にはなれないのだ。命あっての物種の言葉通り、人的被害さえなければ今回のことについて否定的になる要素もない。

というか、カズヤがS.O.N.Gにおける活動にて、何かを破壊しない方が珍しい。何かを吹き飛ばす、消滅させる、崩壊させるなどは今まで散々やってきた。訓練され過ぎたカズヤのファンなどは『まだ(破壊されたものの)規模が小さい』『月の欠片粉砕と比べたら大したことない』『これから毎日街を焼こうぜ』『もっと破壊して☆』と勝手なことをほざく始末。

繁華街近辺を生活拠点にしている人々からは、特に何もなく普通に感謝されることに。

むしろアルカ・ノイズが人工的に作られた兵器であるという情報が大きな波紋を呼び、ヘイトや非難は作成者(情報規制の関係でキャロルのことは流れていない)を含めたそちらに集中。

唯一カズヤに対して苦言やクレーム、文句があるとするなら、動画を見たことで『酔った』という多くの声が該当するだろう。

カズヤはよく回転する。殴りかかる時に遠心力を拳に乗せる為に、パンチを繰り出す直前で回転するのである。地面と平行に真っ直ぐ突っ込む場合は反時計回りに、空中で高い所から低い所へ打ち下ろす場合は前方宙返りを行う。

また、それ以外にもよく回る。攻撃を回避する為や、体の勢いや慣性を緩和する為に横回転したり、地面を殴って跳躍した際に体勢を整えたりする為に前方宙返りをしたり。

つまり事ある毎によく回るのだ。そしてシェルブリットバーストを撃つ際は全ての動作が超高速である。

で、そんな彼の視点──左耳に装着されたインカムの記録用カメラの動画を大して編集や加工もせずに視聴すれば、一般人なら気分が悪くなるのは仕方のないこと。フィギュアスケーターなどの普段から回転に慣れているアスリートであれば違うだろう。

続いてはその存在が白日の下に晒された錬金術と錬金術師について。

これについては好評、というかアルカ・ノイズの殲滅に貢献したサンジェルマン達に賛辞の声が上がる......その一方で長い人類史において異端技術を秘匿、独占していた錬金術師に批判的な意見も僅かにあったが。

実は彼女達はある意味でカズヤよりも人々の興味を引いた。

カズヤの助けとなった、という事実とそれを可能とする錬金術に強い関心が寄せられたのだ。

謎の錬金術師『サン』とその仲間達とは、一体誰なのか。

インターネット上では、フロンティア事変以来のお祭り騒ぎになっていた。

 

 

『魔法みたいでカッコいい!』

『小柄な子が持ってるカエルのぬいぐるみが可愛い! しかも錬金術使う度に目が光る!』

『きっとあのカエルのぬいぐるみも錬金術で作られたものに違いない!』

『もう錬金術とかどうでもいいからあのカエルのぬいぐるみが欲スィ』

『誰か作ってクレメンス』

『誰か、お客様の中に錬金術でぬいぐるみを作れる方はいらっしゃいませんか!?』

『ハートのエネルギー弾とか女の子向けアニメの魔女っ娘かよ......だがそれがいい!!』

『ハート弾の威力えげつないやろ。アルカ・ノイズに拳大の穴空いてから爆散してるやん』

『ハートでぶち抜く!!(コンクリに穴が空く)』

『これぞハートブレイクショット』

『サンさん......敬称付けるとパンダみたいだぁ』

『サンさんって最初は凛々しい感じなのに、移動する度に元気なくなってくの草』

『何百キロ出てるか知らんが、飛んでるKさんの腕の中が辛いというのは分かった』

『仕事柄速度に詳しいワイ、映像が無編集の場合、飛行速度は軽く四百キロ出てると見る』

『速度に詳しいニキ!!』

『速過ぎワロエナイ』

『新幹線かよwww』

『生身でそれは洒落にならん』

『でもKさんの腕の中......すごくあったかそうなりぃ~』

『俺もKさんの腕の中でバブみを感じてオギャりたい』

『Kさん、まさかのお母さん説』

『だが男だ』

『それの一体何が問題か?』

『Kさんが男だろうが女だろうが俺達のお母さんなんだよぉぉぉぉぉぉ!!』

『KさんのKは母ちゃんのK!』

『K(母)さん!!』

『詳しく......説明して...... 私は今冷静さを欠こうとしているわ』(マリア公式SNSアカウント)

『マリアさんきtらああああああ!!』

『あっ(察し)』

『ヒエッ』

 

 

 

とにもかくにも話題となり、お祭り騒ぎは数日続いた。

 

 

 

 

 

なお、後になって調の肉体に住まうフィーネが動画(モザイクなしのオリジナルデータ)を見て「パヴァリアの三幹部じゃないの!! 何してんのこいつら!?」と荒ぶることとなり、彼女達が"吸収(アブソープション)"の作成者かもしれないと聞いたカズヤは、次もし会ったらとりあえずあいつら全員一発ずつぶん殴ろうと固く決意した。




翼と奏がシリアスやってる裏でサンジェルマン達がギャグやってんのなんでだろ? 作者()は訝しんだ。
というか、文章量的にサンジェルマン側が多くてタイトル詐欺っぽくない? ま、ええやろ(諦め)。



国連の偉い人達
「このままでは『我々の英雄』が世界中から非難を集めてしまうので、それを回避する為にも世界に向けて詳細を説明する必要があります」

弦十郎
「とのことだ。どうするカズヤくん?」

カズヤ
「渡りに船だな。それにこういう時の為にインカムにカメラ仕込んでんだろ。ってことで動画データほいよ。あっ、でも協力してくれた連中にはプライバシー保護よろしくな」(まだ三人がパヴァリアって知らない時)


カズヤの評判を下げない為だけに、上記の経緯があってサンジェルマン達は晒されました。
やったね三幹部、これで『カズヤの協力者』として有名人だ!
なおもし再会したら殴られることが確定した模様。
で、全裸局長は錬金術を全世界へ公開されてブチギレ。



原作アニメの『スクライド』でカズマはシェルブリット第二形態の時点で本気出すと大気圏突破が可能なんですが、ロケットがそれやるのに必要な速度を調べてみたらざっとマッハ2(時速28,440km)。月に行くにはマッハ3(時速40,320km)。あくまでもロケットに必要な速度であって、人体程度の質量で必要な速度とは異なるでしょうし実際のことは知りませんが、マッハですよマッハ。
.........やべぇ。新幹線なんて目じゃなかったわ。でもカズマができるってことはカズヤもできることになるんですよね、この作品の設定的に。
そんな速度を地表でやったら腕の中のサンジェルマンが燃え尽きるし周辺被害も洒落にならんね。新幹線程度が限界だわ。
でもクーガー兄貴の最終形態『フォトンブリッツ』は更にこの上の速さなんだよな......そしてそんな兄貴のことを、心が読めるからというハンデを手にしていたとしても攻撃を余裕綽々で避けた上で捕まえる無常もやべぇ。
だというのに、シンフォギアもエクスドライブモードになると大気圏突破できるから、そこら辺妙なところでパワーバランスが取れてるという不思議。
速度もそうだけど、大気圏突破時の熱と衝撃に平然と耐えられるアルターとシンフォギアの防御力も相当ヤバいよね。



以下、他のメンバーについて。

◆セレナ、クリス、切歌、調
同時刻に深淵の竜宮突入中。次回はこっちがメインになる予定。

◆響、未来、マリア
都内で待機組。待機中に風鳴家にファラ襲来(二回目)、深淵の竜宮にもキャロルとレイア襲来したので援護に向かおうとしたら、弦十郎から念の為待機継続せよとのことで大人しくしてた。
数時間経過してどっちも片がついたと連絡を受けて、良かった良かったさあ寝よう、と風呂入って歯磨いて三人仲良く布団並べて入ってスマホ弄ってたら動画公開を知る。
マリアのSNSでの発言は響と未来を含んだ何も知らなかった三人分の想いが込められている。
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