カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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赤ちゃんがついに『嫌々期』に入って更に多忙な毎日になってしまった。
とりあえず私があと三人欲しい。家事をする私、赤ちゃんの面倒を見る私、仕事に行く私、って感じで。その三人の私に全てを任せている間にバイクツーリング行きたい。


激情に呼応する腕

「閻魔様に土下座して甦ったのか?」

 

深淵の竜宮に侵入者、ということで監視カメラを確認してみれば、死亡した筈のキャロルと恐らくその護衛だろうレイアがモニターに映し出され、クリスが眉を顰めて呻く。

そんなリアクションをする彼女に対して隣のセレナが微笑んだ。

 

「閻魔様に土下座、それで生き返れるなら何度でも頭下げてやるぜ、ってカズヤさんなら言いそうですね」

 

言われて確かにな、と納得したクリスは思わず苦笑し大きく頷いてから、あることに思い至ったのか背後に控えていた調に向き直る。

 

「フィーネも閻魔様に土下座したのか?」

 

調、ではなく調の肉体に宿るフィーネの魂への問いかけ。

 

『残念ながら閻魔様に会ったことはないわねぇ。私って死んだら次の転生先で目覚めるって感じだし』

「残念ながら閻魔様に会ったことはない、私って死んだら次の転生先で目覚めるって感じだしって言ってます」

 

調が聞いた内容をそのまま皆に伝える。

フィーネの代弁を聞き、

 

「ないのか」

「ないんですか」

「ないんデスねー」

 

何故かちょっと残念そうにするクリスとセレナ、調の隣の切歌。あの世がどんな所なのか、閻魔様がどんな人物なのか聞きたかったらしい。

 

「......まあ、閻魔様云々は置いといて、あの時は死を偽装する何らかのトリックだったんでしょうね」

 

続いて考え込むセレナの横顔を眺めてから、クリスは「何だかよく分からんがとにかく!」と右拳を左掌に打ち付けた。

 

「敵が出てきたんならとりあえずぶっ飛ばしに行かなきゃな」

「勿論です。ぶっ飛ばしに行きましょう」

 

気合い十分なクリスとセレナはペキポキと拳及び指の関節を鳴らしながら、弦十郎の指示を待たずして発令所を後にしようとする。

 

「待つデス二人共! アタシもぶっ飛ばしたいデス!」

「皆で敵をぶっ飛ばそう!」

 

シュッシュッ、とシャドウボクシングをしながら切歌と調が二人に追従。

 

「奴らを見逃す訳にはいくまい。装者四名で叩き潰してこい!」

 

そして四人の背中に弦十郎が司令として正式に命令を下す。

四人は振り向かず、しかし任せろと言わんばかりに片手をヒラヒラさせて応じ、発令所を後にするのであった。

一連のやり取りを黙して見つめていたエルフナインが「深淵の竜宮、沈まないですよね?」と心配そうにぼやき、それに対して朔也とあおいは「誰もが不安で口にしなかったことを!!」と心中で叫ぶが声に出すことはなかった。

 

 

 

本部から深淵の竜宮へと移動を果たした装者四名は、内部が想像以上に広い空間である場所に驚きつつ歩を進めていく。

その際、キャロルが『ヤントラ・サルヴァスパ』という完全聖遺物を狙っていると考えられるので、それが保管されている区域に急ぐよう本部から指示が出る。

 

「ナンタラサラダスパ?」

「違うよ切ちゃん、ニャンタラサラパスタだよ」

「サラダとパスタを食べるならスープとピザも欲しいですね」

「三人揃ってこんな時にボケ倒すなバカ! 『ヤントラ・サルヴァスパ』っつってたろ! そんでセレナ、腹減るからそういう話は今やめろ!」

『もうこの際どうでもいいから早くギア纏いなさいよ』

 

ボケる切歌と調とセレナの三人にクリスが怒鳴り、フィーネが冷静に突っ込む。が、フィーネの声は宿主である調以外には聞こえていないし、調も改めて言われるまでもないことをわざわざ口にはしない。

シンフォギアを纏い四人が現着して目にしたのは、筆箱よりは少し大きい程度の薄い長方形のような物体を片手に持つキャロルと、彼女を守るように立ちはだかるレイアだった。

 

「海の藻屑にしてやらぁっ!!」

 

キャロルを視認して開口一番、クリスがいきなりアームドギアをガトリング砲に変形させ撃ちまくり、大量の小型ミサイルと大型ミサイルを二本発射。

跳躍し攻撃を回避しながらアルカ・ノイズが封じ込められた黒い石をバラ撒き、そのままコインを投擲&弾きながら応戦するレイア。

弾丸とミサイルの嵐をキャロルは障壁を張ることで防ぐ。

が、

 

「せぇーの!!」

 

左腕の装甲を砲へと変え、そこから白い光をレーザービームのように放つセレナにより、障壁に皹が入る。

 

「マスター!!」

「ご主人様の心配より自分の心配をした方がいいよ」

「クタバリやがれデース!!」

「くっ、地味に窮地!」

 

それぞれ鋸と鎌を振りかざした調と切歌がレイアに肉薄。多量のコインを連ねてトンファーのような形状にし、回避と防御に重点を置いた動きと立ち回りで迫る凶刃を凌ぐが、キャロルの援護には向かえない。

爆発音と砲撃音と銃声が響き、召喚された端から塵へと返るアルカ・ノイズ。

 

「ぐ......!」

 

徐々に障壁に広がる皹にキャロルが歯噛みした瞬間、「出力アップです!」というセレナの声に合わせて光の奔流が大きくなり、障壁の皹が一気にクモの巣状となり粉々寸前になる。

咄嗟にキャロルは体を横に投げ出した。

一瞬後、砕け散って霧散する障壁を白い光が飲み込んだ。

間一髪で避けたものの手にしていたヤントラ・サルヴァスパには僅かに当たっていたらしく、手から弾かれ後方に吹き飛ばされていく。

 

「ヤントラ・サルヴァスパがっ!?」

「お前に悪用されるくらいならぶっ壊してやる!」

「クリスさんの言う通り!」

 

焦るキャロルの反応を見て凶悪な笑みを浮かべたクリスとセレナがそれぞれ、ガトリング砲で撃ち抜き粉々にしてからレーザービームで消し炭にした。

 

「そんでもってこいつで終わりだぁぁ!!!」

 

続いて、これまでよりも一際巨大なミサイルをぶっ放し、クリスがキャロルにトドメを差そうとする。

 

「マスタァァァァァァァァァッ!!」

 

悲痛の声を上げるレイアの声が、爆音に掻き消された。

 

 

 

 

 

【激情に呼応する腕】

 

 

 

 

 

「やったか?」

「それフラグですよクリスさん」

「うっせぇ。だったらこういう時何て言やいいんだ?」

「『死亡確認!』とかですかね?」

「それもフラグじゃねぇか!! つーかさ、爆発する瞬間になんか一瞬オレンジ色の変なのが出てこなかったか?」

「見えましたね、オレンジ色の変なのが」

 

爆煙を前にして何やら言い合う二人の後ろに、切歌と調が駆け寄ってきた。

 

「オートスコアラーを仕留め損ねたデース」

「逃げに徹されると撃破が難しい......ごめんなさい」

 

二人の言う通りレイアは健在でダメージらしいものは負っておらず、離れた場所から装者達を警戒しながらも爆煙の向こう──主の安否を気にしている様子で油断なく構えていた。

 

「ウェヘヘヘヘヘ」

「「「「!?」」」」

 

その時、爆煙の中から第三者の笑い声が聞こえてきて四人は驚愕する。しかも薄気味悪い男の笑い声には聞き覚えがあり、凄く凄く嫌な人物の顔が脳裏に浮かんできたので心底うんざりした気分になってきた。

 

「......嘘......」

「嘘デスよ」

 

調と切歌が思わず零す。

爆煙が晴れたそこには異様なものがあった。全体的に橙色の金属のような硬さと光沢を放っていながら、生物的な赤い血管のようなものが全体に走っていて、時折脈打っている。大きさも異様で、大人を二、三人くらいなら隠れてしまうほどに巨大だ。

観察し続けることでそれが()()()()()()であり、その表面の()()でクリスの攻撃を防いだというのを理解する。

 

「嘘なものか。僕こそが真実の人」

 

肥大化していた腕が一瞬で元の大きさに戻ると同時に、色が金属のような橙色から生物の体表のような土色に変化していく。

 

「ドクタァァァ!! ウェルゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

そしてポーズを決めながらこちらを指差し名乗りを上げた。

ウェルの背後では地面にペタンと女の子座りし呆気に取られたようにポカンとしているキャロルがいる。

マスターの無事な姿にレイアが安堵する。

 

「「「「............」」」」

 

口を閉ざし酷く疲弊したような表情で固まる装者四人。

 

『......あー、そういえばネフィリムってカズヤくんのシェルブリットの装甲の欠片を餌にしてたのよね。だからネフィリムの因子を取り込んだウェルがクリスの攻撃をあの腕で防げたのね。ハイハイ分かった分かった』

 

とりあえず場を取り成すようにフィーネが解説するが、当然のように調以外には聞こえていないし、そんなことなど橙色になっていた体表を見た時点で装者なら分かっていた。

 

「「「「......」」」」

 

装者四人は黙したままそれぞれがそれぞれに視線を巡らし顔を見合わせてから、カズヤならこういう時どうするのかと考えて、二秒も経たずに全員が同じ答えを出したのでこくりと同時に頷き合い、アームドギアを構え直す。

 

「地獄の底で閻魔様に土下座してこい」

「お久しぶりですドクター、そしてさよならです」

「その前にその腕、気持ち悪いから斬り落としてあげる」

「その上で永遠にお別れDEATH!!」

 

ガトリング砲が火を吹き、白銀の短剣の群れと桃色の丸鋸と碧の鎌がウェルを滅殺せんと飛ぶ。

 

「ちょちょちょちょちょちょあり得ない! マジですかこのシンフォギア共!? 躊躇もなく秒で(タマ)獲りに来ましたよ信じられない!!」

 

情けない声を上げるウェルではあったが、その左腕が瞬く間に変形、肥大化し先と同様の橙色に変化すると、破壊の嵐をことごとく寸断する。装甲のように硬質化した皮膚が銃弾と刃の雨霰を弾く度に火花が散って甲高い音が辺りに鳴り響く。

 

「ちっ、やっぱりシェルブリットと同等の硬度持ってやがる! あたし達の攻撃が全部防がれちまう!」

「忌々しいですね。ドクターみたいな最も低い人が、ほんの少しとはいえカズヤさんの力を行使するだなんて......許しがたいです」

「ごっこ遊び拗らせてる(笑)(かっこわらい)の癖に」

「こうなったら接近戦で直にもぎ取るしかないデスが、気色悪いから近づきたくないデス」

 

異形の腕が高い防御力を誇ることに、忌々しいという思いを隠さずに各々が口にする。だが、不幸中の幸いと言うべきか、ネフィリム本来の聖遺物を食らう能力は発揮されない。どうやらシェルブリットの欠片をネフィリムの餌にしていたら聖遺物を餌と認識しなくなったのが、ウェルの腕にも影響を及ぼしているらしい。

 

「このおっちょこちょい共! 僕に何かあったら、LiNKERは永遠に失われてしまうぞ!!」

「今更要るかよそんなもん」

 

喚くウェルの発言に呆れて吐き捨てたクリスが引き金を引く。

それに残りの三人が倣うように攻撃を再開。鉛弾の大バーゲンに刃の土砂降りが追加セットになって抹殺しにきた。

 

「はぁぁぁぁぉぁ!? って撃つな! 会話の最中に撃ってくるな! 防げてるけど怖いんだからなこれ! やめろ! 四人での波状攻撃をやめろ! LiNKERが要らないってどういうことだぁぁぁ!!」

「言葉通りの意味だよ、自称英雄(笑)(かっこわらい)様よぉ」

「残念ながら現在装者でLiNKERを必要としている人はいません」

「カズヤとの同調のお陰。LiNKERと違って薬害も無いし」

「つまり、既にLiNKERを必要としてないアタシ達にとってドクターは本当に要らない子デス! というか、フロンティア事変の時にアタシ達のことを亡き者にしようしてたんデスから......死ぬ覚悟はできてるはずデスよね?」

「......!!」

 

何も知らない道化を侮蔑し、これまでのやらかしから嫌悪し、明確な殺意と憎悪を向けてくる四人の眼光に怯んだウェルが息を呑む。

 

「マスター、お怪我は?」

「問題ない、案ずるな」

 

装者四人を大きく迂回するようにしつつ素早い動きでキャロルのそばに辿り着いたレイアが問い掛け、鷹揚に頷く。

蛇に睨まれた蛙のように固まっているウェルを一瞥してから、レイアは更に指示を仰ぐ。

 

「その男は識別不能。マスター、指示をお願いします」

「敵でも味方でもない、英雄だ!!」

「自称な」

「いい年した大人が英雄願望拗らせてるだけですよ」

「恥ずかしい」

「自称英雄(笑)(かっこわらい)様デース! プークスクス」

「罵るならせめて攻撃の手を止めてからにしろぉぉぉ!!」

 

主が応答する前に当の本人が意味不明なことを即答し、弾丸と刃の雨霰を伴って冷笑が飛んできて自称英雄(笑)(かっこわらい)様が叫び返す。

埒が明かない、そう判断したキャロルがレイアに命令。

 

「......レイア、この埒を明けてみせろ」

「即時遂行」

 

返答と共にアルカ・ノイズが封じられた黒い石を振り撒いてから、数枚のコインを上空に放り投げた。

装者の猛攻を防ぐウェルを盾にし、召喚されたアルカ・ノイズが床に離脱する為の穴を開ける。

上空に放り投げられた複数のコインは重力に引かれて降下するのに合わせて巨大化。床に着く頃には大きな壁となって装者の攻撃と視界を塞ぐ。

その隙にさっさと逃げようとしているキャロルとレイアを、ウェルが左腕を元のサイズに戻してから慌てて追う。

 

「英雄を置いてくなぁぁ!!」

「随分と恨まれているようだな」

「待ちやがれぇぇぇ! 逃げてんじゃねぇぞこのクソッタレ共が!!」

 

巨大化したコイン越しに怒号と爆音が轟く。無理矢理破壊しようと大火力攻撃を仕掛けているのが容易に想像できた。

 

「急ぎましょうマスター。私の錬金術が派手に破壊されるのは時間の問題です」

 

若干焦ったように促してくるレイアに首肯してから、

 

「この際だ。ついてこい、ドクターウェル」

 

一言静かにそう告げてからキャロルは穴に身を踊らせた。

 

 

 

 

 

「逃ぃぃげぇぇらぁぁれぇぇたぁぁデェェェス!!」

 

アルカ・ノイズにより大きく穿たれた穴を前にして切歌が怨嗟の声を上げながら地団駄を踏む。

 

「ちっ、とっととイグナイトかシェルブリットのどっちか使うべきだったか」

「クリス先輩、どちらかでも使えばたぶんここ沈むと思います」

「いっそのこと両方使ってドクター諸共海の藻屑にしましょうか」

「......セレナ、笑顔が怖いデス」

 

舌打ちするクリスに調が困ったように進言すれば、こめかみにビキビキと青筋を立てた笑顔のセレナの低い声に、切歌が少しビビる。

 

『......』

 

溢れ出す殺意を隠そうともしないセレナと暴れたくて仕方ないと言わんばかりに鼻息荒いクリスが率いる形で、キャロル達を追いかけ始めた装者達の様子に、フィーネは宿主の調に悟られないように溜め息を吐く。

どうも最近、装者達の思考がカズヤに著しく寄ってきている気がする。

 

『シンフォギアって全部カズヤくんが再構成したのよねぇ』

 

あの突撃して殴ることしか考えていない、そこらのチンピラやゴロツキよりもチンピラなゴロツキの喧嘩屋みたいな男の意思が反映されている代物を身に纏っていると考えるのであれば、あのアグレッシブさと凶暴性も納得するしかないが。

 

 

 

 

 

「......カズヤくん、こっちのチームじゃなくてよかったですね」

「ええ。彼がこっちだったら、きっとウェル博士を見た瞬間にシェルブリットバーストね」

「うむ。今頃は深淵の竜宮が海の藻屑となっていたかもしれん」

「でも、今の装者の皆さんの様子を見る限りでは遅かれ早かれそうなってしまうのでは?」

「......」

「......」

「......エルフナインくん」

「はい?」

「合格だ」

「何がですか!?」

「おめでとう、エルフナインちゃん!」

「エルフナインちゃんに拍手!」

「藤尭さんに友里さんまで!? 一体何なんですか!?」 

 

 

 

 

 

ギアを解除した奏と翼、その少し後ろに控えた緒川は、装者二人の攻撃により破壊され胸元から上だけとなって転がるファラを見下ろしている。

 

「所々焦げてるけどちゃんと形残ってるね......コイツって持って帰った方がいいの?」

「はい。何か重要な情報を得られるかもしれません」

 

上から覗き込むように前屈みになっていた体勢から背後に振り返り緒川に問う奏に、緒川は頷きながら返答。

その時、白目を剥いて微動だにしなかったファラがギョロリと眼球を動かし、翡翠色の瞳でこちらを見つめ返してきた。

咄嗟に奏と翼はバックステップを踏んで距離を取る。

 

「二人の歌、実に素晴らしかったですわ。そして二人のシェルブリットバーストも......体がバラバラになってしまうくらいの、本当に素晴らしい呪われた旋律と一撃!  アハハハハハハハ!!」

 

既にバラバラになってるのに何言ってんだコイツ、と思った二人の装者は顔を見合わせてからファラに向き直り、訝しげに眉を顰めた。

 

「呪われた旋律、確かキャロルも以前言っていた」

「どういう意味なのか教えくれるんだろうね?」

 

哄笑していた人形はピタリと止まってから、得意気に語り出す。

呪われた旋律の意味を。

キャロルの計画を。

自分達オートスコアラーの存在意義と使命を。

そしてエルフナインがS.O.N.Gに打ち込まれた毒──無自覚な内通者であるという事実を。

 

「何だって......じゃあ、エルフナインをいの一番に疑ったカズヤの勘は当たってたのかよ!」

「あれには私達もヒヤリとしましたが、どんなに鋭くとも勘は所詮勘に過ぎません。"シェルブリットのカズヤ"もそこまでエルフナインのことを疑えなかったのでしょうね」

 

話を聞いて拳を強く握る奏に、「こちらは助かりましたが」とファラが続ける。

翼も奏同様に悔しそうに唇を噛む。

 

「全てが最初から仕組まれていたのか......!!」

「ええ、そうです。想定外だったのは小日向未来のアルター能力の覚醒、及びその力の厄介さです。あの時点でガリィとミカが完全に破壊され、計画が潰えるかと思いましたから」

「「......」」

「ですが、概ね全て計画通り。呪われた旋律の回収は無事完了。加えて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で凄まじいエネルギーを回収できたことは、マスターですら予測できなかった嬉しい誤算でした。そして、お釣りが出るほどの成果を上げた私の役目はこれで終わりです」

「なっ!?」

「どういうことだよそれ!!」

 

ファラは言い終わるや否や、動揺する二人に答えることなくその瞳を妖しく輝かせる。

 

「!」

 

そのことに危険を察知した緒川が二人の前に飛び出たと同時に、ファラは爆発した。

 

 

 

爆風が収まったのを見計らい、緒川が二人を守る為に広げていた忍具の一つである風呂敷(至近距離からの銃撃や爆撃に耐えられる)をバサリと音を立ててから仕舞う。

夜空にはキラキラと月明かりを反射する粉塵のようなものが舞っていた。間違いなくファラが自爆した時に散布されたものだ。

 

「アイツ、最期にとんでもないこと言ってなかった!?」

「確かイグナイトモジュールを稼働させた状態でシェルブリットバーストを撃たせること、と言っていました。まさかオートスコアラー達が"吸収(アブソープション)"とは違う形であのエネルギーを回収していたとしたら......」

 

怒鳴るような態度の奏に緒川が戦慄したように応じる。

あの莫大なエネルギーを敵がまた投入してくる? やっとイグナイトモジュールという新たな力を手にしたのにまたそれも利用されてしまうのか!?

嫌な想像をした翼が顔を青くして叫ぶ。

 

「緒川さん、本部に連絡を! イグナイトとシェルブリットの使用を控えさせなければ!」

「ダメです、恐らくこの粉塵が......」

「抜け目ないな畜生!」

 

緒川が手にした通信機から漏れるノイズ音に奏が歯軋りしてから、ハッと我に返って辺りを見回す。

 

「そうだカズヤは! まだ戻ってこないの!? カズヤなら通信妨害の範囲外まで一っ飛びじゃないか!!」

「アルカ・ノイズの殲滅に繁華街の方に行ったけど、そう言えばまだ帰ってきてない」

 

いくらなんでも遅い。ノイズやアルカ・ノイズの類いならアルター能力の物質分解で文字通り一瞬で殲滅可能なはず。その彼が未だに戻ってこないということは、向こうで何らかのトラブルが発生しているとしか考えられない。

 

「僕はこの事をカズヤさんに伝える為繁華街に急ぎます。カズヤさんの飛行速度なら、まだ間に合うかもしれません!」

 

一方的にそう告げると、緒川の姿が一瞬で消え失せる。忍として本気の疾走で繁華街に向かったようだ。

 

「......完全にしてやられた」

「クソッ!!」

 

残された二人は、相手の狡猾さに悔しさを滲ませながらそう吐き捨てることしかできなかった。

 

 

 

 

 

風鳴邸にてファラがキャロルの計画の概要を語ったのとほぼ同時刻。S.O.N.G本部の発令所でもエルフナインに関する驚愕の事実(同内容)が語られていた。

彼女の肉体から半透明の、精神体と呼ぶべきキャロルが姿を現し、聞いてもいないのにペラペラと勝手に喋り続ける。

自身が内通者であるという事実にエルフナインは酷い罪悪感と絶望を覚え、涙目になりながら己を拘束した上で隔離して欲しいと懇願した。

が、弦十郎はその大きな掌をエルフナインの頭の上に載せ、気にするなとばかりに優しく微笑む。

その眼差しは安心感を与えるものだった。責めたり、怒ったり、嫌悪したりといった感情の類いは一切ない。守るべき子どもを見つめる大人の目をしている。

それはあおいと朔也の視線も同様だ。むしろ、エルフナインが本当に裏切った訳ではないことに安堵を覚えていた。

 

「エルフナインくんの意思で行われていたことでないのなら、それでいいさ」

「......弦十郎さん」

「それにエルフナインくんはまだマシだ。今まさに、深淵の竜宮を海の藻屑に変えようと拳を振りかぶっている大馬鹿者と比べたらな」

『「え?」』

 

エルフナインとキャロルが異口同音の声を上げる。瓜二つの二人は左右対称な動きで背後の巨大モニターに振り返り、映し出されたものを見て全く同じように大きく目を見開いた。

それはセレナだ。彼女は、その左腕をシェルブリットに変じさせた状態で右足を一歩前に大きく踏み込むと、腰を落としつつ前方に背を向けるように捻り、左拳を握り締めてからその体勢で動きを止める。

明らかに渾身の左ストレートを繰り出す直前の()()の姿にしか見えないことに、キャロルは知らず「......正気か!?」と口走っていた。

この施設は、深淵の竜宮は深海に存在している。つまり、そんな場所でシェルブリットバーストのような貫通力と爆発力を有する大火力を放てば、冗談でもなんでもなく施設の壁をぶち抜いて巨大な穴が空き浸水、水圧によってあっという間に圧壊、ぺしゃんこになって沈む。この場にいるキャロル達や装者達は勿論、潜水艦であるS.O.N.G本部も無事では済まない。キャロルではなくても正気を疑うのは無理もなかった。

 

「距離良し、角度良し、射線上の障害物関係なし、始末書のテンプレの用意良し。総員、耐ショックの準備をお願いします」

「セレナさん、チャージをどうぞ」

 

まるで当たり前のことのように淡々と告げる朔也とあおいの様子に、キャロルはS.O.N.Gの面々への認識の甘さを今更ながらに痛感する。

 

(そうだった! こいつらはあの"シェルブリットのカズヤ"の仲間なんだ! 何事においても全て力ずくで強引にやる頭がイカれた脳筋連中だったのを失念していた!!)

 

胸の内で迂闊だったと嘆くその視線の先で、

 

『輝け』

 

紡がれた言葉に呼応した左腕全体が白銀の光を生み、輝き出す。

乾いた金属音に合わせて手首から拘束具が外れ、手首から肘まで続く装甲のスリットが展開することで手の甲に穴が開き、セレナを中心に周囲の大気中から幾筋もの光が渦を描きながら収束していく。

 

『もっとだ、もっと!』

 

白銀の光はより強く、より大きくなり、やがて彼女の全身を覆い尽くし、

 

『もっと輝けえええええええええええっ!!』

 

目を灼くほどの目映い白銀の光が発令所を満たす。

 

 

 

 

 

これまで生きてきた中で、これほど怒りを覚えたことがかつてあっただろうかとセレナは自問した。

今思い出しても腸が煮え繰り返る。ウェルによって切歌と調と共に殺されかけたフロンティア事変での出来事。

だが、それだけではない。それだけなら、ここまで頭に来なかった。

ウェルの顔をしこたま殴ってやりたいとマグマのようにグツグツと煮え滾る心境に加えて、キャロル達の位置を把握できているにも関わらずこちらの追跡を巧妙に躱されてイライラも蓄積していた時、聞かされたエルフナインの真実。

涙を零し、自身を責める彼女の悲痛な声を聞いて、頭の中で何かがブツリと音を立てて切れた。

人のことを一体何だと思っているのか!?

復讐を遂げる為だけにここまでするのか!?

キャロルは最初からそうだった。街で、住宅街で大規模な火災を起こし多くの悲しみを産み出した。

幸いにも自分達の尽力により死者こそ出なかったが、たくさんの人々が住む家を突然奪われ辛い思いをしているのをよく知っている。

紛争によって故郷を失い、姉以外の家族を失い難民生活を強いられたセレナには、あの大火事で家を失った人達の気持ちが痛いほど分かった。分かってしまう。

父親が理不尽に殺されて世界に復讐したいキャロルの気持ちも分からない訳ではない。自分達だって理不尽に家族を奪われたし、奏やクリスもそうだ。いきなりやって来た世界の不条理に大切な人達を奪われた経験がある。

だが、多くの無関係な人々を巻き込むキャロルのやり方が非常に気に入らないし認められないし許せない。

絶対に、絶対に一発デカイのをお見舞いしてやらなければ腹の虫が収まらない。

そんな彼女の強いに想いに呼応したのか、左腕が白銀に瞬き次の瞬間にはシェルブリットへと変貌していた。

 

 

──やっちまえ、セレナ。

 

 

まるで最愛の人からそう声を掛けてもらえた気がする。力強く背を押してくれたように感じる。

もうそれだけで彼女の覚悟が決まった。後先を考えるのを忘れ、ただ一発デカイのをぶち込むことだけに全て費やす決断を下す。

 

「イグナイトモジュール、抜剣!!」

 

左拳を構えたまま右手でペンダントに触れ、イグナイトを稼働させる。

ペンダントから溢れ出す漆黒の力がシェルブリットに吸収された後、そのエネルギーがギアに反映されシェルブリットは当然としてギアインナーやプロテクターが闇を纏ったかのように染められた。

全身から放たれていた閃光が白銀から黒に変わる。

 

(やっぱり......シェルブリットは使用者の闘争心を原動力にしている節がありますね)

 

頭の片隅の冷静な部分での思考。これまでの傾向からシェルブリットを発動させるにあたって見えてきたものがある。

それは怒りであったり、覚悟や決意だったりなどは勿論そうだが最も重要なのは戦意と敵意。戦う意思、敵を倒す、何がなんでも殴ってやるという激情。そういった感情を抱いているとクリスの時のように、今の自分のようにシェルブリットが勝手に発動する......らしい。

その辺りはなかなかファジーな感覚なので断言できないのが悔やまれるものの、ここぞというタイミングで発動してくれるので問題はない。

 

(目標は正面。真っ直ぐに拳を突き出すだけでいい)

 

目の前にあるのは通路の壁。ここからキャロル達の元に向かうには、本来であれば何度も通路を曲がったり迂回したりを繰り返す必要がある。しかし、もうそんな面倒なことに付き合ってやる気はない。

最短で最速で真っ直ぐに一直線に、真ん前から打ち砕く為にこのまま全力のパンチをくれてやればいいだけ。

最後に一度だけ、横に控えるクリスに視線を送る。

 

(後は任せます)

(応よ!)

 

頷いてくれたのを確認し満足気な笑みを浮かべたセレナは、改めて前を睨むように見据えると溜めに溜めた力を解き放つ。

 

「シェルブリットォォォォォ──」

 

爪先から足首、膝、股関節、腰、肩、腕、肘、左拳までの全身の動きを連動させた渾身の左ストレートに、集約させた全ての力と想いを載せて撃ち抜く。

 

「──バァァァァストォォォォォォ!!!」

 

放たれた莫大なエネルギーは闇よりも黒い弾丸となって、壁だろうが何だろうが一切合財関係なく、片っ端から叩き潰し、吹き飛ばし、抉るように貫く。

 

 

 

 

 

「マスター!!」

 

叫ぶレイアに飛びかかられ、キャロルとウェルは無理矢理押し倒された。

二人が背中を強かに打ち付け痛みに顔を顰めたその刹那、眼前を闇色の暴虐が通過していく。

 

「ヒィッ!!!」

「っ!!」

 

顔面蒼白で情けない悲鳴を上げるウェルと息を呑むキャロル。

顔から僅か十数センチ。それがレイアのお陰で辛うじて避けることのできたシェルブリットバーストとの距離である。

 

(ほ、本当にやりやがった......!!)

 

黒い弾丸は当然止まることなどなく、射線上に存在するものを粉砕しながら突き進み、そのままこの施設──深淵の竜宮をぶち抜き海中に進入しても勢い止まらず、最終的に地球の丸みで海中から海上、海上から空、空から宇宙まで到達して地球から遠ざかっていった。

 

(連中は後先を考えないのか!?)

 

地震のような震動を全身で感じて心中で文句を吐き捨てる。早くも浸水と圧壊が始まったようだ。この場に長居していたら確実に死ぬ。一刻の猶予もない。

 

「マスター、派手に次が来ます!!」

 

思考を遮るレイアの声。人形は主の守護の為に直ぐ様立ち上がり障壁を張り、そこにクリスを乗せたミサイルが突撃してきて爆発が起きる。

レイアは爆風を完全に遮断できなかったらしく、余波を受けたウェルとキャロルはもつれるようにして転がった。

視界が何度も回転する。咄嗟に一緒に転がるウェルの体で自身を庇うようにしがみつくが、背中に強い衝撃を受けて回転が唐突に止まる。

息が詰まり呼吸ができず困惑するキャロルがのた打ち回り、仰向けになったと思えば視界にこちらを覗き込むクリスがいた。

こいつが乗ってきたミサイルで突撃の瞬間に跳躍し、レイアの背後に回り込み、転がるこちらの背中に蹴りを入れたのか、と理解すると同時に首を鷲掴みにされて宙吊りとなる。

 

「よう、また会ったな」

「があっ!?」

 

言い終わるや否やクリスが大きく仰け反って頭突きをかます。キャロルの鼻っ面に額の装甲が叩きつけられ、グギッ、と鼻骨が折れたような音と激痛が走り、鼻血が吹き出た。

 

「よくもマスターを!!」

「ちっ」

 

主を傷つけられ怒り心頭のレイアがコインを連ねてできたトンファーを振り回しながら殴りかかってきて、クリスは舌打ちしながら手にしていたキャロルの首を放し数歩退いて距離を取る。

鼻血を流し痛みに悶えるキャロルを背後に庇うようにするレイアを見て、クリスは「あ、いっけね。盾にしてから人質にすれば良かった」と呟く。

 

「この外道が!」

「うるせぇな、カズヤだったらそうすると思っただけだ。つーか、とっととクタバレよ」

 

激怒しているレイアを一蹴し、アームドギアを中折れ式の水平二連のショットガンに変形させ発砲。

両手のトンファーで防ごうとするがあまりの威力に防ぎ切れずもんどり打つレイアの体が、背後のキャロルと更にその背後で立ち上がろうとしていたウェルを巻き込み揉みくちゃになった。

 

(このままではマスターを派手に逃がすのは不可能。ならば──)

 

覚悟を決めたレイアの全身から金色の光が迸り、追撃をしようとしていたクリスはそれを中断して警戒に入る。

 

「もう出し惜しみはしない。ここからはこちらも派手にいく!!」

「そいつはこっちの台詞だ! もう容赦しねぇししてる暇もねぇ!! お前にあたし様の自慢の髪を、カズヤが綺麗だっつってくれた髪を、ママから受け継いだ大切な髪を傷つけられたこと、忘れてねぇんだよ!!!」

 

立ち上がって構えたレイアが纏う"向こう側"の力に対抗する為、クリスは首元のペンダントに手を伸ばす。

 

「イグナイトモジュール、抜剣! シェルブリットォォォォ!!」

 

イグナイトとシェルブリットを同時発動。それにより装甲とインナーが黒く染まり、左手にショットガンを携え、右腕がシェルブリットと化した状態で拳を握る。

 

「れ、レイア......」

「マスターは脱出を。私はオートスコアラーの使命を派手に果たしてみせましょう」

 

そう言って、キャロルに振り向くことなくレイアはクリスに飛びかかった。

 

「派手に散れ!!」

「お前が砕け散れ!!」

 

金の光を纏い振り下ろしたトンファーが暗黒の拳とぶつかる。

高エネルギー同士の衝突が稲光のようなものを生み、薄暗い視界を激しく明滅させた。

 

「逃げるなら今しかないのでは?」

「......ああ」

 

後ろからウェルに声を掛けられて我に返ったキャロルは、左手でボタボタと血が流れる鼻を押さえながら右手で懐からテレポートジェムを取り出し、地面に落とす。

背後の気配からキャロルがウェルと共に離脱したことを察し、内心で安堵の溜め息を吐くレイアの耳に目の前からクリスの皮肉が届く。

 

「錬金術師ってのは尻尾巻いて逃げるのだけは誰よりも上手いな」

「マスターを愚弄するか」

「褒めたつもりなんだが、そう聞こえたんなら悪かったな!」

「ぐっ!」

 

力比べはクリスに軍配が上がり、レイアは弾き飛ばされた。

なんとか空中で姿勢を整えつつ着地、と同時にトンファー状のコインを全て空中でバラバラにし、一枚残らず弾丸のように射出。

金の弾幕がクリスに迫るが、

 

「そんなのはなぁ、効かねぇんだよぉぉ!!」

 

右の拳を大きく振りかぶってから突き出す。拳から黒い衝撃波が生まれ、レイアのコインを纏めて呑み込み押し潰す。

 

(最早牽制にすらならん......!)

 

衝撃波を躱し前へと踏み込むレイアに対してクリスも駆け出す。

再度コインでトンファーを形成し殴り付けようとした時、急停止したクリスが左手に持っていたショットガンの引き金を引く。

 

「ぐあっ!!」

 

至近距離からショットガンの一撃を受け、足が止まる。両手のトンファーは砕けてコインは空中でバラバラとなって舞い散る。

隙だらけとなったその一瞬、ショットガン状のアームドギアを左手から右手に持ち変え、素早い動作でリロードが行われる。中折れ式の水平二連のショットガンである為、銃が勢いよくバカッと折れるように開き排莢。左手を胸の谷間に突っ込み人差し指と中指の間と中指と薬指の間に挟んだ弾二発分を押し込むように装填し、折れるように開いていた銃を右の手首の動きだけでガシャンと戻す。

リロードが完了し構え直したクリスが小さく言葉を零す。

 

「持ってけダブルだ、シェルブリットバースト」

 

銃声は二回。

数えるのもバカらしいほど多量の黒い弾丸が銃口から二回も放たれ、それらが自身の体を穿ち粉々にするのを認識し、レイアはニヤリと唇を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

【セキュリティ扉のお話】

 

 

ある日、カズヤが一人で本部に行く際、IDカードと通信機を忘れてしまった時があった。

 

「あ、いっけね。中入れねーじゃん。どうしよ?」

 

S.O.N.G本部──潜水艦の出入口である扉は、部外者の進入を防ぐ為のセキュリティ扉である。出入りする際には必ず、扉付近のセンサー部分にIDカードか通信機を翳す必要があり、それが目の前に立ちはだかる。今ではどの企業の建物であっても当然となったそれを前に彼は困っていた。

これがいつものように誰かと一緒であれば、その誰かのIDカードもしくは通信機で扉を解錠して共連れ(セキュリティ上は本来ダメ)させてもらい、後でゲスト用のカードを借りて一日過ごせばいいのだが、生憎と現在は一人である。

さて困ったぞ、と腕を組んで首を傾げて考えるカズヤの思考に閃くものが。

 

(アルター能力の物質分解で扉を分解してから元に戻せばよくね?)

 

それはとても名案に思えた。思えたからには即実行。俺って冴えてる~、とか自画自賛しながら淡い虹色の光を全身から放ち、扉をそっくりそのまま分解し、急いで中に進入してから分解した扉を元に戻す。

 

「これでヨシッ!」

 

当然ながら全然よろしくない。一人満足気なカズヤであったが、扉に異常が発生したことを感知した警備システムによって発令所内はけたたましい警報が鳴っていた。

 

 

 

「IDカードも通信機も忘れて入れないならまず連絡しろこの馬鹿者っ!!」

「うわらばっ!」

 

巨大な岩をも容易く真っ二つにできる威力が込められた弦十郎の空手チョップを脳天に食らい、カズヤは発令所の床にうつ伏せの状態でめり込み、だくだくと血を流し床を赤く汚していく。

 

「そういう時の為に備え付けの内線が扉のすぐそばにあるのが見えなかったのか!?」

「そういやあったな」

「カズヤさん、扉を分解する前に内線使ってくださいよ」

 

叱りつけてくる弦十郎と半眼で睨んでくる緒川に「すまんすまん」と謝罪した。

あの後、侵入者かと身構えた本部の面々であったが、直ぐ様監視カメラを確認した瞬間全員が揃ってズッコケた。

で、のほほんとした雰囲気で発令所にやって来たカズヤに問い詰めたところ、

 

『いやー、実はIDカードと通信機忘れてさ、扉分解したんだわ。あ! でもちゃんと元通りにしたから安心してくれ。壊れてないと思う』

 

と、これっぽっちも悪びれることなくカラカラと笑うので弦十郎の奥義が炸裂して今に至る。

 

「バカなのかな?」

「バカなのよ」

 

本部内のシステムを警戒態勢から平常時のものに戻し、肩の力を抜いて溜め息を吐く朔也とあおい。

 

「非常時ならともかく、平常時では無闇矢鱈とアルターを使わないように!」

「分かった分かった、分かってるって」

 

頭上で拳を振り回して脅しをかけつつ厳重注意をしてくる弦十郎に対して、軽い調子で手をヒラヒラさせながら応じるカズヤを見て、誰もが信用ならんと思った。

 

 

 

 

 

「ということが以前あってな。未来も同じ轍を踏まないように気を付けろよ」

「バカなんですか?」

 

未来はこちらの両肩に優しく両手を添えて注意を促してくるカズヤをジト目で見つめる。

 

「私がそんなことをするとでも?」

「するしないじゃねー、できるだろ!」

「......バカなんですね」

 

する訳ないでしょそんなこと、カズヤさんじゃないんだし、と未来は呆れてそれ以上何も言わずに溜め息を吐くに留めた。

しかし──

 

 

 

「あ、いけない! 中に入れない! どうしよう!?」

 

注意をされてから数日後、未来は困った事態になって焦ることになる。

寮の部屋の鍵がない。部屋の前の玄関にて、何度鞄を引っ繰り返してもスカートのポケットを探っても見当たらない。

朝、出掛ける前に施錠したのは響だ。だから鍵を忘れてしまったことに気がつかなかった。そのままリディアンに向かい、補習で居残りをする羽目になった響より一足先に帰宅したかと思えば鍵がないことが発覚、という現状に彼女は歯噛みする。

 

(どうしよう? 今からリディアンに戻って響から鍵を借りる? でもそれだと手間だし、かといって響が帰ってくるのを待つのもいつになるか分からないし)

 

少し悩んでから、先日カズヤから聞かされたアホな話を思い出す。

アルターの分解能力を使えば、こんな施錠されたドアなど意味がない。分解して入室したら元通りに戻せばいい。

 

「......っ」

 

ごくり、と生唾を飲み込む。

今、この場には自分しかいない。

未来の脳内でカズヤの顔をした悪魔が囁く。

 

『別に扉を丸々分解する必要はねーって。サムターンの付近を少しだけ、手を入れられる程度の穴を空ければいいだけだ。そうすれば部屋に入れる。それに響を待ってたら夕飯の準備が遅れるぜ? ホラやっちまえ、やっちまえ』

 

(くっ、ダメだよ! こんな誘惑に負けたら! 響、私を正しく導いて!!)

 

脳内に、響の顔をした天使が舞い降りてきてこう言った。

 

『いいよ未来、ここは素直になるべきだよ。私達の中で唯一アルターに目覚めたんだから、有効活用したら? 私だったら迷わずやっちゃうけどなー。エゴイストであるからこそアルター能力者なんでしょ?』

 

(響ぃぃぃぃぃ!?)

 

天使の言うことに気を良くした悪魔が天使に近寄る。

 

『気が合うなお前、これから俺と一緒に飯でもどうだ?』

『わわっ! ナンパだ! 生まれて初めてだよ!』

『生まれて初めて? お前みたいな可愛い子を放置してるとかお前の周囲の男は見る目ねーな』

『トゥンク!』

『さあお姫様、悪魔に拐われる覚悟はできたか?』

『素敵! 抱いて!』

 

そんなやり取りの後、天使と悪魔は恋人繋ぎで手を繋ぐと脳内から仲良く去っていった。

 

(...............いや、今の何!?)

 

変な電波でも受信したのだろうかと自身の頭を疑う。

 

「...............................................................」

 

そして結局、悩みに悩んだ末、未来は悪魔の甘言に乗ってしまうのであった。

 

 

 

「響」

「どうしたの未来?」

「私は、今後絶対に忘れ物をしない」

「へ? ああうん、そうだね。忘れ物なんてしないに越したことないけど、急にどうしたの?」

「私は、今後、絶対に、忘れ物を、しない!!」

「......未来? えっと、何かあったの?」

「全部カズヤさんが悪いの!!」

(何かあったねこりゃ)

 

様子がおかしい未来を見て、とりあえず詳しく話を聞くことにする響。

が、響に話してしまったということは当然S.O.N.Gの面々にも知れ渡ることと同義であり、カズヤのみならず未来までやらかしたという事実から『アルター能力者ってのはこんなんばっかか』という認識を持たれることになるのであった。




もしカズヤが深淵の竜宮チームだった場合

ウ「僕こそが真実の人、ドクt
カ「シェルブリットブワァァァストォォォ!!」
ウ「ギエピィィィィィ!!」
キ「馬鹿な! こんな所で、パパの命題が!!」

勝った、第三部完!! 終わり、閉廷、以上、皆解散!!
この判断の早さには某ビンタ天狗面さんもニッコリ。



呪われた旋律を回収するだけのつもりだったのに、装者達がどいつもこいつもイグナイトの状態でシェルブリットバーストを使うから、回収した呪われた旋律そのものが既にもうやべー感じになってて、それが蓄積されてるチフォージュ・シャトーは今ギンギン! ビンビン! 状態でなんかヤバいことになっててヤバいです。最終決戦でキャロルによってもうらめぇ~されます。
キャロル陣営はガリィが死亡確認! した時点で想定外だっただけに「何がなんだか分からんがとにかくヨシッ!」と現場猫してますが、そもそも呪われてるもんがシェルブリットによってブースト掛かって更にヤバくなってるので、「マスターに丸投げだゾ」ということでオートスコアラー達は回収できたもんについてはノータッチ。「やられるならシェルブリットバーストで派手に散る!」を待ってたら案の定やってくれたのでファラじゃなくても狂ったように笑いますよ。狂ったように笑ってたのファラだけですが。



フィーネさんの考察の通り、カズヤの意思が反映されたもんを爪先から頭の天辺まで全身に纏ってりゃ、考え方とか引きずられますよね。そもそもシンフォギアって使用者の心理状態にもろ影響受けるパワードスーツだから。カズヤのアルターで再構成されたからこそ、彼の意思が装者達の心理に強い影響を与えてます。



カズヤや装者達(主にカズヤ)が何かしら動く度に大規模な破壊行為に及ぶことが多いので、S.O.N.Gの大人達や日本政府や国連のお偉いさんはそこら辺をほとんど諦めてます。
むしろ破壊されたものが少なかったり規模が小さいと「体調悪かったの?」と心配される始末。皆良くも悪くもカズヤのハチャメチャに慣れており、毒されているとも言う。



オマケについては、司令に岩山両斬波を使わせたかっただけ。
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